どうぞ。
つい先程まで、食事中ということもあり、和やかな雰囲気に包まれていた衛宮邸の居間。
しかし、今は少しばかりの緊張感に包まれていた。
その発生源は主に2人。遠坂凛と、衛宮士郎である。
「…それで、ちゃんと説明してくれるんだろうな、兄さん」
「もちろん。だが、俺の話は多少長くなるからな。各々先に話すこと、まぁ自己紹介とかしてくれ」
「そうやって煙に巻くつもりじゃないでしょうね?」
「そんなことはしないさ。ただ、どうせお前らは同盟を組むんだろ?」
「ええ」
「ああ」
「ならお互いのことを知っておいて損は無いだろ?遠坂と士郎はともかく、相手のサーヴァントとは初対面だし」
宗次のその一言で、隠していたこともある程度含め、各々が自己紹介をすることとなった。説明パートとも言う。
「ならまずは私から。遠坂家6代目当主、遠坂凛よ。得意な魔術は宝石魔術。遠坂でも凛でも好きに呼ぶといいわ」
「凛のサーヴァント、アーチャーだ。当たり前だが、真名は伏せさせてもらう。私に弱点といった弱点はないが、バレないに越したことはない」
「衛宮士郎だ。えーと、得意な魔術は一応強化。魔術師見習いだ。よろしく」
「…」
士郎の自己紹介に、黙り込むセイバー。その眉間には僅かながらシワが寄っている。
「どうしたセイバー?」
「いえ、大丈夫です。しかし先程から気になっていましたが、やはり衛宮…まぁいいでしょう。ではマスター、あなたのことはシロウ、と呼ばせていただきます。私としてはこの発音の方が好ましい。」
「ああ、わかった。っていうか、呼び方とか今更な気が…」
「コホン。では改めて。シロウのサーヴァント、セイバーです。私も真名は伏せさせていただきます。アーチャー、リン、…えーと」
「宗次だ」
「ソウジ。よろしくお願いします」
セイバー陣営の自己紹介も終わり、残されたのはこの場で唯一マスターでもサーヴァントでもない宗次のみとなった。
「さぁ、もう逃げられないわよ!隠してたこと全部履吐いてもらおうじゃないの!」
「そうだそうだ!」
「はいはい。ていうか士郎は俺に魔術の練習してたこと黙ってたくせによく言うぜ」
そうして宗次は、10年もの間誰にも話さなかった、己の素性を話し始める。
「俺は衛宮宗次。今代の衛宮家当主。…そして、影の国の女王スカサハの弟子にして、波濤の獣クリードを打ち倒し、魔槍ゲイ・ボルクを授かった者だ」
「はぁ!?」
声に出して驚いたのは凛のみであったが、見ればセイバーもかなり驚いている。士郎は影の国やスカサハと言われてもピンと来ないので困惑している。なんの反応も示さないのは、既に全て知っているアーチャーのみだ。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!あなた現代の人間よね!?」
「そうだが」
「じゃあどうやって影の国なんて行けたのよ!?」
「俺にも分からん。物心ついた時には既に影の国にいた。おそらく捨て子だった俺をお師匠…スカサハが拾ったんだろう。なぜ影の国に流れ着いたかは知らん」
その言葉に凛は、しばし百面相をした後、へなへなと倒れ込んだ。
「大丈夫かね?」
この反応をすることを知っていたアーチャーは、凛に声を掛けるが、凛はうーんと唸るばかり。
「えっと…つまりどういうことだ?」
「ソウジは、かの女王の弟子であったか…シロウ。影の国の女王スカサハというのは、不老不死の女傑で、先程のランサー、クー・フーリンなどの師です。ソウジの話からして、今も尚生き続けているのでしょう」
「あのランサーの!?…ってか、クー・フーリンって…どっかで…」
そういった知識に疎い士郎にセイバーが補足説明をする。士郎はクー・フーリンの名に聞き覚えがあったのか、何とかして思い出そうとしている。
「兄貴は日本じゃ知名度は低いからな…でもほら、必中の槍ゲイ・ボルクは聞いた事あるんじゃないか?ほら、これ」
そう言って宗次が再びゲイ・ボルクを実体化させると、再起動した凜が士郎よりも早く手に取り、まじまじと眺める。
「これ本物?よく出来た偽物じゃなくて?」
「疑っているところ申し訳ないが、凛。間違いなくそれはゲイ・ボルクだ。投影魔術で作り出した贋作でもない。少々形等がランサーの持っていたものとは異なっているが、材質は全く同じ…おそらく、波涛の獣クリードの外骨格だろう」
ダメ押しのアーチャーの証言に、凛は額に手を当ててため息をつく。
「とんでもないわね…衛宮君、あんたのお兄さん、すごい人よ。なんてったってスカサハがゲイ・ボルクを授けたのは、彼以外ではクー・フーリンしかいないもの」
「へぇ…でも、なんでそのことを黙ってたんだ?」
士郎の質問に、宗次は凛の方を向きながら答えた。
「その辺のことは遠坂ならわかりやすいはずだ。俺がお師匠から教わったのは、なにも戦闘技能だけじゃない。ケルトの戦士たちが好んで使った、現代では失われてしまった…」
「そっか、原初のルーン。そりゃ黙ってないとダメだわ」
「ああ。原初のルーンが全て使えるなんてなんかの拍子に魔術協会にバレたら封印指定待ったナシ。確かどこぞの冠位人形師がそれで封印指定食らってたはずだからな。それでも全部じゃあなかったんだぜ?もしそんなことになっちまえば士郎にも危険が及ぶからな。万が一に備えて黙っておいたのさ」
「ふーん。…封印指定って何?」
「衛宮君にわかりやすい例えをするなら…謎が多い、珍しい動物を見つけたらどうする?」
「捕まえる?」
「そう。保護しないのなら、捕まえて解剖して研究するでしょうね。要はそれを人間相手にしていいよっていう指定のことよ」
「そんな!」
人の命をなんとも思っていない所業に、士郎が憤慨する。正義の味方を志す士郎にとって、そのような行いは決して許せるものでは無い。これにはさしもの凛も賛同する。
「そうね、魔術師の私でもちょっとどうかと思うもの」
「ともかく、修行を受けながらある程度まで育てられた俺は、影の国から出られなくなる前に外に出されて…切嗣に拾われたっていうわけ。それからも毎日お師匠が夢に出てきて修行をつけてもらってる。俺の素性に関してはこんなもん。どう?納得した?」
宗次の締めくくりを受けて、凛は今日1番のため息をついて、首を降った。
「納得したくないけど、さすがに現物見せられちゃ信じるしかないか…」
「信じてくれたようで何より。さて、それじゃそろそろ行こうか」
そう言いながら立ち上がった宗次に士郎はどこへ行くのか、と問いかける。それに対する返答は、凛にとっては至極面倒臭いものであった。
「決まってんだろ。士郎が聖杯戦争に参加するなら、監督役に参加を表明しないと」
「へぇ…監督役って誰なんだ?」
「こいつの同類よ、同類」
「まぁ否定はしない。じゃあ行こうか。監督役の根城たる冬木教会…我が同士、遠坂曰くエセ神父こと、言峰綺礼の所へ」
「ついたぜ。教会の中はサーヴァント立ち入り禁止だから、ここで待ってろ…よぉ、邪魔するぜ言峰」
「これはこれは。良くぞ来たな我が同志よ…そういえば君は魔術師だったな。聖杯戦争に参加するのかね?」
「ちょっと!なんでこいつには話してんのよ!」
「そりゃこいつがある意味では1番信用できるからに決まってんだろ」
「はぁ!?このエセ神父のどこが信用できるって言うのよ!」
「失礼だな、凛。私ほど信用に足る人間はなかなかいないと思うが」
「どの口が言うのよこのエセ神父…!」
「まぁ落ち着け。こいつは誰かに話された秘密は最も効果的なタイミングでバラそうとするやつだからな。逆に言えばそれまでは絶対に秘密を守ってくれるって寸法さ。…それで、その話なんだが、聖杯戦争に参加するのは俺じゃなくて弟の方だ」
「どうも、見習い魔術師の衛宮士郎です」
「ほう?同志から聞いているよ。確か正義の味方を志しているのだったかな?」
「ああ、まぁ」
「ふむ…ところで君たち。10年前の大火災が聖杯戦争によるものだと知っていたかね?」
「なっ!?」
「嘘!?」
「やっぱりな。まぁそんな事だろうと思ってたぜ。魔術師同士の争いなんざ、ろくなことにならんのは明白だ」
「フッ、さすがは我が同志だ、そこらの凡骨とは訳が違うな」
「褒めても泰山のクーポンくらいしか出ねぇぜ?」
「それはそれは。後で頂いておこう。…それで少年。この話を聞いて、君はどうする?」
「…決まってる。あんなことはもう二度と起こしちゃいけない。そのためにも、俺は聖杯戦争に参加する」
「ふむ、なるほど、君はその道を往くか。それもいいだろう。」
「話は済んだわね?とっとと帰りましょ。作戦会議もしなくちゃいけないんだから、こんなエセ神父に構ってる暇はないわ」
「だそうだ。じゃあな言峰。また今度麻婆でもご馳走してくれ」
「了解だ。無論、聖杯戦争を終えて君が無事なら、の話だがね」
「抜かせ、お前も俺が死ぬなんざ思ってないクセに」
「おっと、それは確かにそうだな」
「…」
「…衛宮切嗣の志を継ぐ少年よ」
「…なんだ」
「喜べ、君の願いはようやく叶う。たとえそれが容認し得ぬものであっても、正義の味方には倒すべき悪が必要なのだから」
「ッ!お前!」
「どうどう、落ち着け士郎。こいつは少々短気でね。あまりからかわないでやってくれるか」
「それを聞いて私が素直に聞くとでも?」
「ハッ、思ってねぇよ。…またな」
「ああ、ではまた」
「此度の聖杯戦争、なかなかに愉しくなりそうだ…」
ちょっとオリ主と言峰を親密にさせすぎたかな?
今回は余り面白くなかったかも知れません、申し訳ない。
次回はVSバーサーカーです。お楽しみに。
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