アタッカーウィッチーズ:Pokryshkin's Report of 301JGAS 作:下竹くみん
一九四五年三月一日 オラーシャ帝国ノヴゴロド県 ルーガ上空五〇〇メートル 一〇〇〇
ウラル山脈から地をなめ、雪を跳ね飛ばして吹きすさぶ風がやみ、真冬に垂れ込めていた鼠色の雲が晴れて遥か天界まで続くかと思える蒼空をようやく望めるようになったこの日、ノヴゴロドにはこの春初めてのヨーロッパチュウヒの群れが飛来した。このタカに似た鳥は、オラーシャや北欧で夏を過ごすとともに子孫を残し、中東で越冬する。そして、三月から四月にかけて再び、大きく育った子どもたちとともに、群れをなして戻ってくるのだ。
いつもの年は雪がさらに溶け、春の息吹もより強く感じられるようになった三月の後半ごろに初めて見られるのだが、これだけ早くにこの鳥が見られるというのは、いつもに増して珍しい。風に乗って舞う鳥の群れを、人々が避難するとともに野生化した馬たちが地上から追いかける。そしてまた、イリューヒンIl-2地上攻撃脚を足に履いて飛ぶ、アレクサンドラ『サーシャ』・ポクルイーシキンとアンジェリーカ『ジェーリャ』・イェゴロフの二人も、微笑みを浮かべて、動物たちを眺めながら風を切って進む。
サーシャはすっかり、Il-2というストライカーのとりこになった。彼女は右に、左にバンクし、いつも使っている戦闘脚並みに優れている扱いやすさと、操縦性の良さを堪能している。最初、飛び立つ前はその空力性能に疑問を感じていたにもかかわらず。文句を言いたくなっていた爆弾や機関砲も、飛んでしまえばかばんを肩にかけて、晴れた日の河畔を散歩しているのと大して変わらない気分だ。彼女の足元でピッチの高い唸り声を上げるAM-38Fミクーリン・エンジンは急に回転数を上げてもまったく咳き込むことなく、エンジンはエンジンなりのやり方でこの日の空を称える。よっぽど腕のいい整備兵がいるのかしら、だとしたらその人に会ってみたい――彼女はそう考えた。
「あんまり、はしゃぎすぎるなよ」
Il-2の性能に酔いしれる彼女を満足そうに見つめながら、ジェーリャがそうインカムに向かってささやいた。
「大丈夫です! だけどこれ予想以上に飛びやすいですね! 重武装でも、操縦性がこれだけいいとは思いませんでした」
サーシャは叫ぶように、その感動を語った。そして、難なくバレル・ロールをやってのけた。
「だろ? 慣れればもっと複雑な機動も取れるようになる。いいストライカーじゃないか?」
「はい! 反応が機敏ないいストライカーですね! ちょっとどんな機動ができるのか、見せてもらえますか?」
「いいだろう」
そう言ってジェーリャは一転口角を引き締めると、仰向けになりながら雪原に向かってゆっくりと降下していく。このまま落ちていくのではないだろうか、とサーシャは心臓の高鳴りを隠しきれずに、それをじっと見守る。ジェーリャの表情は到底伺えようもない。そして高度五〇メートルまで、ずっとその姿勢で降りていったあと、彼女は体を反転させ、今度はIl-2を急上昇させる。とてつもない負荷が体にも、エンジンにもかかっているはずなのだが、それを全くものともしない機動だ。そして、一気に五〇〇メートルまで駆け上がり、そして軽やかに一回転したあと、ジェーリャはサーシャの右隣へと戻ってきた。
「びっくりしました……つい、途中でエンジンが止まるかと、ハラハラしてしまいました」
「褒められるほどのものでもない……それに、サーシャ大尉がいつもやっている戦闘機動ほど複雑じゃないとは思うが」
そう言って、彼女は苦笑いを浮かべた。
「ところで、いつもの戦闘高度はどれくらいなんですか? 確か最大高度は六千メートルだったはず――」
「六千か、そんなに高く登ったことはないな、その必要もないし」
Il-2に積み込まれているAM-38Fエンジンは、一層の軽量化を図り、少しでも多くの装甲と武装を備えるために高高度で必要とする
「普通の飛行だからこれだけ高く飛んでいるわけだが、これでも全然高いほうだ。最低で高度十……いや、五メートルまで下げる」
「そんな高度でいつも飛んでるんですか!? 墜落しますよ!?」
サーシャは驚きのあまり、目を丸くしてジェーリャに向かって叫んだ。そんな高度で空中戦をやったことがないかといえば、確かにあるのだが*2、それにしたって一回や二回ほどだ。いつもそんな高度で飛んでいたら、気を抜いた拍子に木立か丘に衝突してしまうに違いない、と訝しみたくなるほどである。今、彼女とジェーリャの速度は時速約三〇〇キロメートル――そんな速度で、地形に合わせてかつ障害物を避けながら飛ぶとなったら、かなりの、もしかして空中戦以上の反射神経がないと勤まらないのではないだろうか?
「大丈夫だ、実際にやってみるとわりあい簡単だぞ!」
ジェーリャはそのようにサーシャに呼びかけると、『ついてこい』とばかりに右手を挙げる。サーシャは本当に気が気でなく、手のひらに汗がにじみ始めていた。
数分後、二人はチェレメネツ湖の上空、氷面わずか五メートルを時速三〇〇キロメートルで飛んでいた――というより、『滑っていた』と形容したほうがより近いかもしれない。少なくとも、上空から眺めたら、きっとそのように見えたのではなかろうか。
「どうだ、思ったより簡単だろ!」
「はい! 空中戦よりは難しくないですね!」
彼女たちは紅潮した顔を見合わせ、そして静かに笑った。この湖は、水をたたえた時期にはその澄んだ色から『鏡の湖』として知られている。冬の間、氷に閉ざされて眠っていたが、今長い眠りから醒めようとしているばかりだ。その兆しはすでに、湖岸で太陽を浴び燦然と輝く湖水の姿からも見て取れる。さらに気温が上がれば、氷の白骨のような色が青く染まり、湖の生きた色が戻り始めるだろう。そうすると、氷が一瀉千里の勢いで岸から岸へと、中心から縁へと次々に、最初は大きく、やがて小さく細かく割れ始め、細かい氷は溶けるのも早い。
春は加速していく。そして、最後には湖岸に転がる寄せ氷として、冬はその姿を残すのみとなり、やがてその姿も消えていく。生き物たちも活動を始める――マガン*3やコブハクチョウが南の土地から戻ってきて、最も広く見られる淡水魚のヨーロッパブナ*4が産卵するために冬の眠りから目を覚ます。ノヴゴロド県とペテルブルグ県の間に広がる湖水地帯の春先には、こうした生命のドラマが輝いているのだ。
しかし、この美しい自然もまた、前線の一部なのである。緊急通信の音が、景色に見とれながら飛行を楽しむサーシャとジェーリャの耳に飛び込んできた。
「こちらリトーチュカ*5……ジェーリャ、聞こえる? プスコフ東側の友軍から支援要請よ。無線を直結するわ」
上空前線航空統制官のマルガリータ・イヴァノーヴナ・ドーリン少佐からの無線連絡だ。続いて、地上部隊に同行している、
「チョールヌイィ31、こちらフリードリヒ21。スラフコヴィチ上空に向かい高度一〇〇から三〇〇メートルの間で飛行せよ。そちらの編隊はこちらの管制下の唯一の航空機である。確認次第応答せよ――」
カールスラント空軍から派遣された*7前線航空統制官の声は至って落ち着いているように聞こえながらも、無線には着弾音や発砲音も飛び込み、生々しい陸戦の緊迫感がこちらにも伝わってくる。
同日 オラーシャ帝国 ルーガ~スラフコヴィチ間上空三〇〇メートル 一一〇〇
「チョールヌイィ31了解、こちらはイリューヒンIl-2二機編隊。現在スラフコヴィチの北東七〇キロメートルを飛行中、高度一〇〇から三〇〇メートルには方位一七〇から進入する。武装はチョールヌイィ31(ジェーリャ)がNS-37機関砲と、着発信管*8のFAB-50爆弾二発を装備。チョールヌイィ32(サーシャ)はVYa-23機関砲と、PTAB小型爆弾を装備。支援可能時間は20分」
湖の静寂を遮る無線の声に対しても、ジェーリャは至って冷静に反応し、伝達する内容も一切途切れたり、口ごもったりすることがない。
「えっ……本当にこれから実戦なんですか?」
一方のサーシャは、突然始まった状況に対して未だ戸惑いを隠せず、目を白黒させてまごついている。そもそも体験飛行のつもりだったのに、とジェーリャの方を向いて目をパチパチさせるが、彼女は一切表情を変えずに、こう言った。
「そうだが? 実弾を持って、戦闘装備で飛んでいるんだから、支援要請を受けないわけにもいかないだろう」
「これ、全部実弾だったんですか!?」
サーシャが肩から下げたケースの中に入っている小型爆弾を見てみると、確かに全て濃いプラム色の実弾で、青色の演習用ではなかった。彼女はますます、その顕になった額に冷や汗が流れるのを感じる。たしかに、ウィッチとしての訓練の中で、爆撃も何回かやったことはある。それに五〇二での戦闘の中でも、地上のネウロイを攻撃した経験はいくつかある。だが、大口径機関砲も爆弾も、実戦で使うのは本当に初めてだ。しかも一切の試射や訓練もなしに!
そうしている間にも、近接航空支援の手続きは着々と進んでいく。前線航空統制官の声が、二人の無線に再度響く。
「敵はオストロフ北方、一〇キロメートルの前線を南方向へ移動中。友軍は大隊規模の歩兵でフリードリヒ21と同行している。目標エリアの天候は良好。攻撃発止点進入までスラフコヴィチの東で待機せよ。ヤークトプラン*9の受信準備でき次第応答のこと」
「チョールヌイィ31、ヤークトプランの受信準備よし」
「チョールヌイィ31、目標攻撃にはFAB-50及びPTABを使用」
「フリードリヒ21、地上掃射の必要性は?」
「チョールヌイィ31、爆弾投下後のフライパス時に機関砲使用を許可。ノイン・リーネン*10受信用意でき次第応答のこと」
「フリードリヒ21、こちらチョールヌイィ31、受信用意よし」
「スラフコヴィチより進入、
目標方位一一〇、
距離三十三キロメートル、
目標高度海抜六メートル、
目標は中型装甲ネウロイ四体、
目標座標CM 575 283、
赤色発煙弾によりマーキング、
友軍展開位置東九〇〇メートル、
退避は左旋回のちスラフコヴィチへ、高度一〇〇メートルから三〇〇メートルへ復帰」
サーシャには何を言っているのかよくわからず、ただ呆然として聞いているだけだった。
「あの……」
「なんだ?」
近接航空支援の要とも言えるノイン・リーネンを終えて、涼しい顔で長い髪を振るジェーリャに、サーシャは上目遣いで遠慮がちに話しかける。
「こんなにいろいろ頭の中で把握しているなんて、ごちゃごちゃになりませんか? 何か固有魔法をお持ちなんですか?」
「固有魔法?」
そう聞きかえすと、ジェーリャはケラケラと笑った。
「私はノーセンスだよ、むしろシュトゥルモヴィーク使いならそっちのほうが普通かもな」
サーシャは、自分がやったらどうなるだろう、とふと考えた。慣れてもきっと、ぎこちないに違いない。まして戦闘をこなしながら、こんな複雑な手続きをするのは考えるだけで頭が痛くなりそうだ。
「それに、方位とか高度とか、どうやって見てるんですか……? 普段から、感覚でなんとなくは分かってますけれど」
「機関砲の手元を見てみろ!」
ジェーリャに促され、サーシャは背中から手元へ、機関砲を持ってくる。なるほど、そこにはふるふると震えている計器の針がしっかりと確認できる。さっきからジェーリャ少佐が機関砲の手元をしきりと眺めていたのは、そういうことだったのか、とサーシャは合点がいった。しかし、それにしても目標座標は? 頭の中に地図が入っているとなれば、彼女の固有魔法『映像記憶』並かもしれない。あらためて、彼女の能力には驚かざるを得ない。
スラフコヴィチが近付くにつれて、雪の上にいくつもの黒い爆発痕が目立ち、硝煙と生臭い匂いが鼻を突くようになってきた。地面には前線に急ぐ小隊、砲弾を積み込み再武装を急ぐ戦車、一方で前線から戦友の肩を借りて脱出した負傷兵が見られる。頭や腕に包帯を巻いた兵士が、カーキ色の
「ひどい……大変な損害が出ているみたいですね」
確かに、サーシャには激しい地上戦の上空を飛んだ経験もある。だが、これだけ近くで目にするのは初めてだ。これだけ低空を飛んでいると、まさに目前でカオスの世界が繰り広げられているといってもいい。いわば、現代風に言えば「解像度の高い」戦闘が繰り広げられているのだ。ジューコフ元帥が一週間前、『前線は決して秩序立ってなどいない』と語っていたが、改めて目にしてみると、感情や同情を抜きにしても身震いがしてくる。
「この地域の前線では、よくあることだ」
一方のジェーリャは、この光景を見ても全く怖じ気付くこともなく、自信に満ちた微笑を浮かべながらただ前を向き続ける。ストライカーの後ろで回る魔導符が流れてくる黒煙を切り裂き、後ろにいくつもの渦を残して飛び去っていく。彼女に言わせれば、これはこれまでに一〇〇、いや二〇〇と行ってきたミッションのうちのひとつであり、特に感慨や畏怖を生じさせるものではないというわけだ。
空から眺めたスラフコヴィチは、モミなどの針葉樹が生えている中にいくつかの
同日 オラーシャ帝国 スラフコヴィチ~チェルスカヤ間上空一〇〇メートル 一二〇〇
この村の上空でいよいよ、サーシャとジェーリャの二人が加わる地上支援の最終段階が始まろうとしている。無線から、前線航空統制官の先程よりも少し緊迫した声が再び響く。
「最終攻撃方位は一一〇から一二五。高度一〇〇メートル以下を保持せよ。攻撃発止点進入コールを要求する。目標到達時間は分時十分」
「チョールヌイィ31、目標高度六メートル、目標座標CM 575 283、最終攻撃方位一一〇から一二五、高度一〇〇メートル以下を保持、目標到達時間は分時十分」
「復唱よし。チョールヌイィ32、復唱せよ」
ここで問題が生じた。サーシャは一体、何を言えばいいのかわからずに目を白黒させている。そもそも、『チョールヌイィ32』などというコールサインが自分についているということも、この状況になって初めて知ったのだから。
「チョールヌイィ32、どうした?」
まごつくサーシャに対して、ジェーリャは同じことを言えばいい、と落ち着いてアドバイスした。サーシャは少しうなずくと、大きく一度深呼吸してから、無線に応答する。
「……チョールヌイィ32、目標高度六メートル、目標座標CM 575 283、最終攻撃方位一一〇から一二五、高度一〇〇メートル以下を保持、目標到達時間は分時十分」
「復唱よし」
サーシャは緊張から解放され、ようやく大きなため息をついた。突然コールサインをつけられて、まったく迷惑というか、それとも困惑千万というか……だがこの地上の悲惨な状況を見るにつけ、やるべきことはひとつ、課された任務を果たすことだ。不慣れな機材と、不慣れな武器を持っているにせよ、文句は言っていられない。そのようにサーシャは考えたに違いない。彼女の顔からは、徐々に戸惑いが消えていった。
スラフコヴィチを離れてまもなく、西の街道沿いに赤い発煙弾が打ち上がった。前線航空統制官が、攻撃目標を示すために迫撃砲を使って発射したものだ。更に飛んでいくと、近接航空支援が来るまでの間戦線を保って戦っている部隊の姿が見える。高度も下げていることから、どんな兵士たちがいるのかまで手にとるようにわかる。彼らは連隊旗を掲げ、自分の位置を示し誤爆を防ごうとしている。
「まったく、分かりにくい旗を掲げてるな、こういう時には国旗を使えと通達が出ていたのに……ん?」
その連隊旗を目にした瞬間、ジェーリャは軽口を止めた。その顔からは微笑が消え、頬骨が引き締まるとともにほっそりとした一文字の唇がキュっと締まる。濃灰色の瞳がキラリと光り、幾多の戦いを経験しているとは思えないほどつややかな眉間に、シワが寄る。
「打撃師団!? 急ぐぞ、サーシャ大尉!」
「は……はいっ!」
二人は緩い角度で地面に向かって降下していく。その目は発煙弾の周りで、さらなる餌食を探して野犬のようにうろついているネウロイを探す――。
「チョールヌイィ31、攻撃を許可」
最初に中型装甲ネウロイに対して、攻撃を仕掛けたのはジェーリャだ。彼女はその上を二十五メートルの高度で舐めるように飛び去り、その間に二発のFAB-50爆弾を、2秒の間隔で投下する。
「チョールヌイィ31、
それは、まさに一瞬の出来事であった。これだけの低高度であるから、爆弾の軌道や着弾の瞬間を目視で確認することは、ほとんど不可能といえる。ただ、火薬の煙が晴れたあとに、二体のネウロイは巨大なクレーターを地面に残し、何の物質からできているかもよくわからない白い破片を飛び散らせて砕け散っていた。地上攻撃ウィッチには、飛行機と違って爆弾の照準器はない。この正確な爆撃は、すべて感覚と訓練の成果から成り立っているのだ。
チョールヌイィ32……つまり、サーシャはこの、帝室バレエの如く華麗な爆撃に見とれて、つい自分の任務を忘れそうになる。
「サーシャ大尉、攻撃進入はまだか?」
無線からジェーリャの呼びかける声が聞こえてきて、彼女はやっと我に返った。大慌てで、ジェーリャに続いて爆撃侵入経路に入る。爆撃はウィッチの訓練生時代に何回も経験がある。オラーシャの戦闘ウィッチは、皆訓練時に戦闘と爆撃の両方をこなせるように訓練されるのだ。それをなんとか思い出して、彼女も装甲ネウロイへの爆撃を仕掛けようとする。だが、ひとつ不安がある――。
「これ、ハンドルを引いて落とすのはわかるんですけれど……うまく当たるか心配で」
「大丈夫だ、そいつは成形炸薬弾*12だ。ネウロイの少し前で一気にばら撒けば十分倒せる」
「了解しました……やってみます!!」
そして、サーシャもジェーリャをまねて、低い高度でまだ地上に展開している味方の地上部隊にしきりとビームを浴びせかけている中型装甲ネウロイに向けて軌道を合わせる。いつ、ビームがこちらに向かないか?それが心配だが、やるしかない。手が震えているのが、自分自身でもわかる。それでも歯を食いしばり、体全体の力が抜けそうになる感覚に抵抗する。彼女の藍色の目は潤み、なぜか涙が流れ出す。顔も歪む。まるで、初めて戦闘を経験したときのよう。
「え……えいっ!!」
そんな声とともに、彼女は力を振り絞ってPTAB小型爆弾を全弾、中型装甲ネウロイに向けてバラバラと放った。風に吹かれてそれは散らばるものの、何発かがネウロイの、不気味な紅色に染まった平らな上面へと当たり、続いて金属噴流が相手のビームを放つ音と大して変わらないような、装甲に突き刺さる音を響かせる。それは爆発というより、炎の中で空気を入れすぎた風船が中から破裂するようだった。初めての感覚に、彼女は目を閉じてしまうが、開けた瞬間、その中型装甲ネウロイもまた、その姿を消していた。彼女にとって実戦最初の、そしてIl-2による最初の近接航空支援は、まさしく成功裏に終わったのである。
「初めてにしては上出来だな!」
無線の向こうで、ジェーリャもサーシャのことを称賛する。だが、戦いはこれだけでは終わらない。地上では装甲ネウロイの周りに展開していた小型ネウロイがまだ、しきりと砲火を打ち上げている。今度は機関砲で、これらを掃討しなければならない。二人は一旦離脱経路に入り、機関砲に砲弾を装填して再進入をはかる。