転生した彼に課せられたのは、数々の縛り。しかもそれを破れば死ぬ!?
理不尽で理不尽で理不尽な運命を背負わされた彼の物語が今始まる。
昔書いたものの供養です
ここは海馬ランド。海馬コーポレーションが経営する日本一のレジャーランドだ。
普段ならば子供たちの笑顔であふれるこの地も、今日に限っては中学生たちの喜びと悲鳴がこだまする。
その理由はデュエルアカデミア入学試験。デュエルアカデミアとはデュエルモンスターズを専門に勉強する学校であり、ここを目指して毎年万を超える受験生たちが挑戦する。
用意されたフィールドで受験生たちが試験官に自分の全力をぶつけていく。
そんな中、注目を一つに集める受験生がいた。その少年は赤いアシンメトリーで悠然と佇む姿は、他の凡百の受験生をかすませる。
千を超える人間が視線を注ぐ中、少年は我関せずにデッキのシャッフルをしている。緊張した様子は一切ない。
どちらかと言えば、対面している試験官の方が顔を強張らせているくらいだ。
『いやはや、すごい注目度ですな~』
少年の後ろに浮遊しているトラップマスターが言う。彼が注目される原因ではない。彼はいわゆる精霊と呼ばれるもので、この世界では限られた人間しかその存在を視認できない。そのため彼の言葉は少年にしか聞こえていない。
少年は精霊の今更な言葉に呆れながら。
(プロ選手が自分たちと同じ試験を受けてるんだぞ? 注目されて当り前だ)
『トララ、言われてみればそうですね~♪』
白々しくおどける精霊に少年の表情が曇る。
2人? の会話の通り少年はプロリーグに所属するプロデュエリストである。弱冠14歳でプロ試験に合格し、デビューから負けなしで、またそのオンリーワンのデュエルスタイルにより現在最も注目されているデュエリストなのだ。
そんな彼がデュエルアカデミアの入学試験にいる。この事実は多くの受験生たちにとって衝撃的なことだった。
試験開始の時刻になった。
「ワーナー=赤坂......まさか入学試験でプロデュエリストとデュエルする日が来るとは思ってもみなかったな」
試験官は呟いた。
ワーナー=赤坂とは、少年の名前だ。ハーフのような名前だがそれはリングネーム。スポンサーの意向でつけられた名前だ。
彼は純粋ではないが日本人の設定である。
「赤坂君! そろそろ試験を始めさせてもらうが準備はいいかな?」
「構わない」
「では行くぞ! ......」
「「デュエル!」」
先行は受験生からだ。
「俺のターン、ドロー。カードを五枚伏せてターンエンド」
ワーナーは手札を一枚残してすべて伏せた。普通のデュエリストならばモンスターカード出して、魔法&罠は一二枚しか伏せない。
しかし彼のデッキにはモンスターはほとんど入っておらず、ほぼ罠&魔法カードで形成されている。
噂通りの奇怪なデッキに試験官は警戒をしながら、カードを引く。
「私のターンドロー! 私は魔法カード二重召喚を発動、このターン私は召喚権を増やす! 私はゴブリン突撃部隊を攻撃表示で召喚!」
ゴブリン突撃部隊/2300
「さらにアックス・レイダーを攻撃表示で召喚!」
アックス・レイダー/1700
試験官のモンスターの攻撃力の合計がライフを超えた。
「行くぞ! 私は二体のモンスターでプレイヤーに直接攻撃!」
試験官が攻撃を宣言したがモンスターは動こうとしない。違和感だった試験官がワーナーの方を見ると、罠カードが表を上げていた。
「俺は罠カード威嚇する咆哮を発動。このターン相手は攻撃宣言できない」
「やはりそう簡単にはいかないか。私はカードを二枚伏せてターンエンドだ」
「エンドフェイズ前に俺はリバースカードを発動する。バージェストマ・マーレラ、バージェストマ・オレノイデスを発動。チェーン逆順処理でオレノイデスから効果処理する。オレノイデスはフィールドの魔法・罠カードを一枚破壊する。俺は試験官の右のカードを破壊する」
破壊されたのは突進。攻撃力を700上げるカードだ。おそらく相手が自分の攻撃力を上回るモンスターを出したら発動するつもりだったのだろう。しかし、表情にまだ余裕があるところから、本命のカードはもう一枚の方のようだ。
「さらにマーレラの効果でデッキから罠カードを墓地に送る。俺はバージェストマ・ピカイアを墓地に送る」
「罠カードを墓地に......? 何の意味があるんだ?」
基本的に罠はフィールドに伏せられて意味があるもの、墓地にある意味を有さない。という固定概念がある。
それは間違っていない。殆どの罠カードは墓地に送られればその役目を終える。
しかし、極偶に墓地に送られてから真価を発揮する罠カードが存在する。
「俺のターンドロー。俺はリバースカード、強欲な瓶を発動。この効果でカードを一枚ドローする。そしてその時、墓地のバージェストマたちの効果を発動」
「墓地から効果だと!?」
「俺が罠カードを発動した時、墓地のバージェストマ・オレノイデス、マーレラ、ピカイアをモンスターカードとして特殊召喚する」
バージェストマ・オレノイデス/1200
バージェストマ・マーレラ/1200
バージェストマ・ピカイア/1200
「モンスターになる罠カードとは……それもいきなり三体も。しかし、いくらモンスターを並べようとも1200では私のモンスターを突破はできないぞ!」
「そう焦るな。まだ手札は残っている。俺はフィールド魔法湿地草原を発動。このカードは全ての水族・水属性・レベル2以下のモンスターの攻撃力を1200ポイントアップさせる。よって、バージェストマたちの攻撃力は2400だ」
「なんだと!?」
「さらに装備魔法団結の力を発動。このカードをオレノイデスに装備する。フィールド上のモンスター1体につき攻撃力を800アップさせる。フィールド上のモンスターは三体なので、2400アップ。攻撃力は4800だ」
「4800だと!?」
現在の最高攻撃力である5000に迫る攻撃力に試験官は目を剥いた。
「バトルだ。マーレラでゴブリン突撃部隊に攻撃」
「待て、その瞬間に罠カードを発動だ! 聖なるバリアー・ミラーフォース。このカードは相手の攻撃表示のモンスターをすべて破壊する!」
「その程度予想している。罠カード海竜神の加護発動。このターンバージェストマたちは効果で破壊されない。よって、ミラーフォースは不発だ」
「なんだと!?」
試験管なんだと言い過ぎ問題。
「バトル続行。マーレラでゴブリン突撃部隊に攻撃だ」
「ぐっ」
試験官4000→3900
「さらにピカイアでアックス・レイダーに攻撃」
「ぐぅぅ!」
試験官3900→3200
「とどめだ。オレノイデスで直接攻撃」
「ぐわあああ!?」
ワーナーの勝利を知らせるようにピーという音が鳴った。
デュエルを終えたワーナーはスタスタとフィールドから出ようとする。しかし、そこにはワーナーのことを見ていた受験生たちが集まっていた。
「ワーナーさん! サインくださいっす!」
「ワーナーさん! 何でデュエルアカデミアに入るんですか!?」
「きゃあああ、ワーナーさんよ!」
「邪魔だ。消えろ」
野次馬たちが群がろうとするが、ワーナーは冷たい言葉を投げかける。どかなければ殺されかねない雰囲気に、野次馬たちは怯えて道を割った。
ワーナーはファンサービスをしないで有名だ。ファンに媚ない姿勢がカッコいいという意見もある。
ただ、その冷たい態度に反感を覚える人間も多い。
「……何だよあれ」
「どうせ強いからって天狗になってんだろ」
カツカツと遠ざかって行くワーナーに聞こえるように言っていた。しかし、ワーナーは無視して会場の出口に向かって行く。
『トラララ。いいんですか? 好き勝手言われてますけど?」
(構わん。むしろ嫌われるためにやってるんだから好都合だ)
『おやおやおや、そんな冷たいことをおっしゃって』
(お前らのバカが考えたルールのせいだろうが)
『私たちの主をバカ呼ばわりしないでください。あまり不遜なことを言っていると、手が滑ってチョギンといってしまいますよ』
トラップ・マスターは手に持っている大きなハサミを広げて向けてくる。瞳孔の広がり具合が嘘ではないと言ってくる。もう慣れた光景だが、いまだに心臓がドキドキする。
トラップ・マスターはハサミを引いて、カララと瞳孔を開かせたまま笑う。
『冗談ですよー! 貴方様は最高の悪役を演じていただき、しっかりと死んでいただかなくてはなりませんからねぇ! こんなところで死なれては困りますよ!』
(……そのわりにはルールが厳しすぎないか? 明らかに俺を殺しに来ているようにしか思えないが?)
『当たり前じゃないですか! 死ぬために今を必死に生きている様が最高に滑稽なのですから! トラララララララ!』
壊れたパペット人形のように笑い狂うトラップ・マスターの姿は、まさに最悪の狂気だった。
(……悪魔め)
『違いますよー! 私たちの主人は悪魔ではなく神です! そして私は神の使い、いわば天使です!』
(そうかい)
悪魔のような天使に、今日もワーナーは死の時計を進められる。
彼はワーナー=赤坂。
彼に課されたルール、それは指定されたテーマ以外を使用すれば死ぬ。モンスターカードを使用すれば死ぬ。指示されたことをしなければ死ぬ。エクシーズを使用すれば死ぬ。
そして、デュエルに負けたら死ぬ。
彼は知っている。自分が自称神の遊び道具なことも、そして自分の役割も……
…………自分の最期も。