転生先が百合キャンセラーのバケモンとかどうにかならなかったんですか!? 作:サク&いずみーる
ところで、みんなこの作品なんて呼んでるんです? 個人的にはずっと『転生ヒュージの話』って呼んでんですけど、Twitterでは『百合キャンセラー』って呼ばれてるっぽいんですよね。
「ヒュージがノインヴェルトを無効化するとはな……損害は?」
「人的な損失はありません。ただ、CHARMが半壊6に全損1。これだけでも甚大な損害です。アールヴヘイムは当面、戦力外となるでしょう」
──百合ヶ丘女学院理事長室にて。
戦場のリリィたちを見下ろすのは、このガーデン唯一の男性であり。
理事長代行を務める御老公『
百合ヶ丘の全レギオンを統括する『ブリュンヒルデ』の役割を担う3年生『
「リリィは兵器だ」と考えている人間も、少なからず存在するが。
咬月の考え方は少女たちを第一としたもので、極めて良心的と言えた。
「リリィが無事なら何より。バックアップは?」
「非公式に戦闘に居合わせていた一柳隊が、一時的に引き継いでいます」
「一柳隊……結成されたばかりじゃな」
「はい。実力者は多いものの、何せ個性派揃いなので、レギオンとして機能するのはまだ先かと……あ」
端末に送られてきた情報に、思わず史房の声が漏れる。
「どうした」と問いかけられ、報告を続ける。
「バックアップに追加戦力、例の特型ヒュージです」
「確か、ピラトゥスと呼ばれている個体だったか……」
ヒュージでありながら人を守る、異端の怪物。
最近の調査では、人間と同レベルの知能を有するとされる竜。
その特殊さ故に、咬月は存在こそ上層部に報告したが。
今では、居場所や目撃したという報告はしていない。
「──史房君は、ピラトゥスをどう考えている?」
「そう、ですね」
咬月──理事長代行の言葉の意味を考える。
実際に会った時のことを思い出しながら。
じっくり、自分の中で意見を組み立てていく。
「とても、ヒュージとは思えませんでした」
それこそ「あれは着ぐるみで、中身に人間が入っている」と言われても信じてしまえるくらいには。
「最初はCHARMを向けて警戒しながら近づいたんです。普通は武器を向けられたら、向けられた方も警戒しますよね」
しかし、小さな竜は違った。
「もちろん、多少怯えたりはしていました。でも、敵意が全くなかったんです。しばらく後になって、どうしてあの時何もしてこなかったのか尋ねてみたら……なんて返ってきたと思いますか?」
「……何と返ってきたのかな?」
「『だって悪い人じゃないから』ですって」
ヒュージに感情を表す機能はないはずなのに。
その時の『当然でしょ?』と言わんばかりに、きょとんした反応を思い出して。
史房は小さく微笑んだ。
「ほう……」
「ヒュージが『人類の敵』で、リリィが『人々を守る存在』だということを理解しているみたいなんです」
だからこそ、自分は
そう証明するために、同族を屠っている。
リリィと積極的にコミュニケーションを取っている。
何か楽しい話を聞かせれば、面白そうに頷くし。
何か愚痴を聞かせれば、励ましてくれるし。
何か悲しい出来事を聞かせれば、一緒に悲しむ。
「そんな『心』を持ったピラトゥスに、もしCHARMを向けろと言われたら……」
──どうしても躊躇してしまう。
もちろん、万が一ピラトゥスが人を襲ったとなれば。
最終的に、仕留めることはできると思う。
しかし、すぐにできるかというと難しいのだろう。
「……そうか」
「リリィとしては、正しくない考えだということは分かっています。ですが……」
「いや、その判断は間違っていないと思っている」
その一言と共に、咬月が引き出しから取り出したのは。
少し分厚い1冊の紙束。
表紙には「特型ヒュージ『ピラトゥス』の研究結果と考察について」とある。
「それ、百由さんの……」
「このレポートの内容を簡単に言うとじゃな──」
それは、未だ仮説段階にいる着想の一つ。
しかし、最も辻褄が合う仮説である。
だが、いずれにしても。
「特型ヒュージ『ピラトゥス』は元人間だったかもしれんということらしい」
彼女を驚かせるには、十分過ぎる代物だった。
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──ビュッ、と風を切る音。
「キュイー!」
一番槍を務めたのはピラトゥス。
素早くヒュージの前に出たかと思うと。
「キュイッ!!」
「■■■!?」
以前と同じ、『目』を狙った一撃を食らわせた。
しかも、角を利用した頭突きときた。
小さき竜の狙いは、やはり囮。
「■■■■■!」
「キュッキュイ!」
翼を打って高度を稼ぐ。
自分のものとよく似た鎖の触手が追ってくる。
やはり、同族からの攻撃は動揺するものなのか。
完全に注意はピラトゥスに向いた。
「練習通りにタイミングを合わせて!」
「は、はいっ!」
その間に夢結と梨璃が接近する。
着地と跳躍を繰り返して、小さな竜が作った隙に合わせるように。
眼前の巨体を捉え、夢結は気づく。
(古い傷のあるヒュージ? これもレストア?)
やけに最近は出くわすようになった、と考えたのは一瞬。
その辺りの考察は後回しだ。
「「はああぁぁぁっ!!」」
呼吸も合わせた2人が、ヒュージの身体を抜けた。
これで倒れるなんて、微塵も思っていないが。
ダメージくらいは与えられた。
その証拠に、ヒュージは金属が擦れ合うような耳障りな声を上げている。
しかし、異変はすぐ起こった。
ヒュージの巨体が、
しかし「倒したのか」と訊かれたら「違う」と言える。
触手はピラトゥスを追うことを中断したが。
依然としてうねっていて、『息の根を止めた』とはとても言えない。
「何ですの!?」
「キュイ……!」
「あっ……」
「あの光はっ……」
驚いたのはそれだけではない。
かっ開いたヒュージの間──つまり、ヒュージの中にあるものが光っている。
「……あっ?」
マギが巡る血管の如き模様。
それが剥き出しになった『肉』に突き刺さるのは。
「あれは……CHARM……!?」
青い光を放つ
しかも、その剣には梨璃ですら──否、
あれは2年前、初めて梨璃が出会った日に。
夢結が持っていたものと同じだから。
「あっ……」
そして、夢結も覚えていた。
忘れるわけがない。
だって、あの満月の悪夢の日まで使っていて。
『
「あれ……私のダインスレイフ……」
……いや、待て。
今、自分は何だと思った?
ダインスレイフで『姉』を貫いた?
そんなまさか、そんなの、まるで──
──自分が、美鈴様を『殺した』みたいじゃないか。
眠っていた記憶が目を覚ます。
『赤』が滴り落ちる。
大剣が貫いたのは『異形』ではなく、『人間』。
傷だらけの『お姉様』は、夢結に何かを伝えていた。
──分からない。
夢結は動けない。
目の前と過去が混ざり合って、分からなくなる。
足が縫いつけられてしまったように、動かなくなる。
「ぅっ……」
その隙にも、鎖の触手はじわじわと迫っていて。
戦場での油断は死に繋がることくらい、身を以て知っているのに。
「お姉さま!!」
「キュッキュイ!」
飛び出したのは梨璃。
夢結に代わって、銀を防ぐ。
遅れて飛んできたピラトゥスも応戦する。
剣で弾く、拳ではね返す。
剣でいなす、翼で滑らせる。
「お願い!」
「キュイッ!」
タイミングを合わせて、触手同士でぶつける。
梨璃目がけてきた触手の一つを、竜の手が掴んで払う。
まともに飛べる分、ピラトゥスの方が若干余裕はあるものの。
その分を梨璃のフォローに回していて、結局ギリギリだ。
「くうぅぅぅっ!?」
目まぐるしく世界が回る。
防いだ反動で、少女と小竜の距離が開く。
それが、マズかった。
「あっ──」
好機とばかりに、梨璃のもとへ触手が殺到する。
「キュイッ!!」
しつこい触手を振り切って、ピラトゥスが駆けつけるも手遅れ。
梨璃は、球体となった鎖の中に閉じ込められた。
「梨璃!?」
ようやく現状を理解した夢結に、津波の如く銀が迫り──
「キュイーッ!!」
直前に割り込んだ影が、夢結の体を掴んだ。
「ぁっ……」
間一髪だった。
もし咄嗟にピラトゥスが、夢結を掴んで跳んでいなければ。
相応の質量を持った触手が、叩き潰していたかもしれない。
だが、それは今の彼女にとって。
最も気がかりなことではない。
「梨璃……みんな……どこ?」
地面に転がった夢結が見たのは。
目の前に浮かぶ、淡く光る鎖の球体。
ジャラリ、と音がする。
「あぁっ……!?」
鎖の球体が解けると──中身は空っぽ。
守るべき、導くべきシルトの姿はどこにもなかった。
「はぁぅ……!?」
重なる──眼前の敵がもたらした現実が。
「……梨璃……美鈴様……っ!」
重なる──今とかつて、消えた2人が。
「ぁぅっ……」
重なる──あの満月の悪夢が。
胸を押さえていたって変わらない。
「ぅぅ……っ」
──同じだ。
また夢結は、大切な人に守られて。
でも、自分は何もできなくて。
その結果、また大切な人を失って。
そんなことを繰り返している。
「うぅぅぅぅ……」
過去と今が一つとなった瞬間、狂乱の炎が少女の瞳に燃え上がる。
「う……うわあああああああああああああああああああ!!!!!」
その咆哮は、どこまでも憎悪が込もっていて。
それでいて、どこまでも悲痛な叫びだった。
狂気に満ちた闇の中、手探りで得物に触れると。
「あああぁぁっ!!」
白い獣と化した少女が、武器を手に駆ける。
傷を負うことも厭わない姿は。
まるで本物の獣のようだった。
「うっ……!!」
ヒュージに呑まれたダインスレイフが光を放つ。
夢結を、破滅へと
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「お姉さま!」
心配そうに、訴えるように叫ぶ梨璃ちゃんの声も届かない。
物理的な距離としても、今の心の距離としても。
「夢結様、なんて戦い方……」
「あれじゃ近寄れんぞ」
──結論からして、原作通り梨璃ちゃんは無事だった。
しっかり梅様に救出されていた。
びっくりだよな……本編でも残像が残ってんだって。
俺は何度見直しても見えなかった。
あの、動体視力的に、一時停止が追いつかねえの……!
「かわいいシルトを放って何やってんだ!」
「夢結様、ルナティックトランサーを……」
トラウマスイッチもとい、ダインスレイフの顕現と。
『梨璃ちゃんを殺された』という誤解をトリガーに。
完全に夢結様は暴走していた。
大切なものを守れなかった、と思い込んで。
死に急ぐみたいな、自棄っぱちの戦い方だ。
「私、行かなくちゃ……!」
梨璃ちゃんが再び激戦地に跳ぶ。
「梨璃さん! 今の夢結様は……」
「キュッキューイ!」
案ずるな、俺もお手伝いに行きますよっと!
ちゃんとした意味で夢結様をなんとかできるのは梨璃ちゃんだけだからな。
なんたって主人公だもの。
「ううっ!!」
「キュイッ!!」
「■■■■■■!?」
はいこら邪魔しなーい!!
あっちは忙しいんだから!
こっちはバケモン同士仲良くやろうや?
まー俺は仲良しする気は微塵もないがな!!
「お姉さまぁ!!」
「ううぅ……!!」
2人のCHARMがぶつかり合う音が。
俺が拳で捌く音とシンクロする。
梨璃ちゃんも俺も防戦一方。
つか、こいつも前のレストアくんより火力上がってない?
え、気のせい?
「あああぁぁっ!!」
「お姉さまっ、引いてください! 傷だらけじゃないですか!!」
「■■■■■■■■■■■」
「キュ──キュイキュイ!!」
鍔迫り合い中の2人を狙うなっつってんの!
体当たりで軌道を逸らす。
やっぱり攻撃力増してるし、相変わらず空気読まねえし……
ダインスレイフなんてもん使ってるからか?
だとしたらあの魔剣、どこの作品でもロクなことしねえな!
「梨璃さん! 普通なら今ので2、3回斬られていますわ……!」
「敵に集中、っせんか!」
ガラン、という音が響く。
少しだけヒビの入った、グングニルを梨璃ちゃんが手放したから。
少しずつ、少しずつ歩み寄って。
──包み込むように、夢結様を抱きしめた。
「っ……!」
「私なら大丈夫です……梅様やみんなが助けてくれたんです!」
「はぁ、はぁ、はぁ……っひゅ……」
呼吸がままならなくなる夢結様。
でも、その手にはしっかりブリューナクが握られていて。
「はぁ、は、は……ひゅ……ふっ……!」
梨璃ちゃんの背中にかざして、止まる。
苦しそうに息を整えながら。
大切な人を傷つけないように、踏みとどまっている。
「ここを離れましょう!!」
「ダメ……あのダインスレイフは、私と……お姉様の……」
嗚咽混じりの声は切実で。
「だから……!」
白かった髪は、元の黒に戻りつつあったけど。
頬を伝う血のような紅を宿した眼は、過去を見ていた。
「お姉さまっ!!」
「……!?」
弱々しく夢結様の肩が跳ねる。
抱きかかえて離脱しようとする梨璃ちゃん。
──そこに
「キュ────ッ!!」
「あ……!」
……どうして土壇場の判断が、いっつもこうなんだろう。
梨璃ちゃんの代わりに触手が貫いたのは、割り込んだ俺の胴体。
俺の血で青くなった触手は、梨璃ちゃんの前で止まった。
貫通したそれを、俺が掴んでるから。
「ヒュージに、貫かれて……」
「キュ……キュイーッ!!」
「っ!」
「構うな、早く行け」と。
必死に訴える。
人間と違うんだ、これくらいじゃ死なない。
梨璃ちゃんは、梨璃ちゃんにしかできないことがあるんだろ?
言葉は通じなくても。
俺の危機迫った雰囲気は、伝わったみたいで。
キュッと唇を結んで、跳んでいった。
「行って、梨璃!」
「すみません! すぐ戻りますから、ちょっと待ってもらえま……あいたっ!」
「大丈夫か梨璃!?」
「大丈夫です〜!」
「本当に大丈夫か……?」
フェードアウトでコケる梨璃ちゃん。
なんというか、締まらないなあ。
まあ、おかげでいい感じに気が紛れた。
「っ、ピラトゥスが!」
「お前っ!!」
「すぐに──」
砂塵の間から見えた、俺の現状を知った人たちが。
駆けつけようとするのを制する。
だから、死なないってば。
これはむしろ、好都合だ。
なんせ相手はこれで、逃げらんねえ……!
「キュ──!」
素早く身体を一周。
鎖を軽く巻きつける。
そして、全力で地面を蹴りつければッ!!
「──イイイイイイッ!!」
「■■■■■■■■!?」
いくらか抵抗を感じた後。
不意に軽くなる感覚に変わった。
やりィ、1本取れたぜ!
ずるりと腹から触手を抜く。
当然バチくそ痛いし、土手っ腹に風穴こさえた状態でスースーする。
正直、気持ち悪い。
でも、なんとか耐えられてるのは。
『転生特典』が少しずつ治してくれてるのと。
アドレナリン効果みたいなもんなのかなあって、思ったりして。
「ッキュイー……」
もぎ取った触手を掲げれば、みんなひと安心してくれた。
風穴は驚かれたけど。
心配おかけしましたー……
「待ってろって……?」
「持ちこたえろという意味でしょうね」
「人使いが荒いゾ、うちのリーダーは」
「どうする? わしらも他のレギオンと交代するか?」
言い方こそ前向きじゃないように聞こえるけど。
だからって、ここで引き下がるような一柳隊じゃなくて。
「ご冗談でしょ!? リーダーの死守命令は絶対ですわ!」
「そこまでは言ってないと思いますけど、楓さんに賛成です!」
楓さんも、背負われた二水ちゃんも。
『じっとしてなんていられない』という意思を持っている。
……待って? 『背負われた二水ちゃん』?
アニメ見た時から思ってたけど、なんで楓さん二水ちゃんを背負ってるです?
いや、経緯もなんとなく想像つくし、シチュ的にも全然いいんですけどね?
「かえふみ」も全然好きですけどね??
「あのヒュージはCHARMを扱い切れず、マギの炎で自らを焼いているわ」
え、あ、はい。
そうですね。
マギの炎ってあれか、周りのモワモワしたやつか。
そのままくたばってもらえると非常に助かるんだけど、そうもいかない。
「夢結様が復帰するなら、勝機はあります」
要するに時間稼ぎですね神琳さん。
任せてください、それ俺の得意分野ですんで!
「貴方はその傷が塞がってから復帰をお願いしますね?」
「キュイ……」
奪った触手を手に、ブンブンしてたら神琳さんに止められた。
んー、チャージモードしてろと。
逆らったら怖い気がして、素直に回復待ちしておく。
早く塞がらねえかなー……
前に百由様が徹夜して作った論文は、冒頭のレポートとは別物です。今回登場したレポートは結構前から作ってあって、理事長代行に渡してありました。
【キャラ設定】その14(質問箱から)
『ピラトゥスって一柳隊以外のキャラはどれ位知ってるのでしょうか?』
一応アニメとラスバレは通っているので、ヘルヴォルとグラン・エプレのメンバーに関する簡単なプロフィールや関係性は履修済み。
ただ、ラスバレ自体はプレイしていなかったため(想像以上に容量が重かったから)、イベントストーリーなどはほとんど知らない。「あ、そういうメモリアあったんだ」くらいの認知。自己紹介動画みたいなのは見た。
舞台版やゲームオリジナルのメンバーは全く知らないし、アールヴヘイムもアニメで結構喋ってたメンバー以外はあまり知らない。