転生先が百合キャンセラーのバケモンとかどうにかならなかったんですか!? 作:サク&いずみーる
夜は明け、日の光が部屋を照らす。
気持ちの良い朝である。
「ふぁ……あぁ〜っ……!」
「昨夜のお腹の虫に負けず劣らず、大きな欠伸ですわね。ほら、しゃんとなさって? 制服のリボンタイが歪んでますわよ」
起きたばかりの結梨の身だしなみを、楓が整えていく。
寝ぼけ眼を擦って、なんとか起きる努力はする。
ふと、彷徨った目線の先。
既に畳まれたボロボロの寝具を見つけて。
「アルンは……?」
「もうとっくに出ていきましたわ。寄り道をするとかなんとか」
わざわざ楓が起きるのを待って、直接伝えてから行くという。
書き置きができないなりの、なんともご丁寧な方法だった。
「もう朝ごはんの時間……?」
「朝食には少々早いですが、そろそろ部屋を出ないといけませんわ。講義の前にミーティングと訓練がありますから」
「みーてぃんぐ……?」
「梨璃さんたちと、大事なお話し合いをするのですわ。昨日もみんなで集まっていたでしょう?」
梨璃、と聞いただけで眠たい目がパチっと開く。
表情の変化は、朝日を浴びた蕾がきらめくようで。
「梨璃も来るの!?」
「あら、ちょっと背筋が伸びましたわね。ふふっ、分かりやすい子」
「わたしも行く。がんばって起きるね!」
純粋そのものな笑顔の花を咲かせた。
「ええ、そうしてください。貴女も一柳隊の一員なのですから」
「ひとつやなぎ……梨璃たちの……?」
「ちゃんと一人前のリリィとして振る舞えるようになれば、お優しい梨璃さんのことですから、きっと褒めてくれますわ」
対して、楓はというと。
「そして、そのように結梨さんを導いたこのわたくしにも……ふふ、ふふふっ!」
何ぞ、魂胆が見えそうな笑顔。
もしも、竜の少女が居合わせていれば『2人って真逆ですよね』くらいは零したことだろう。
それほどに、結梨との対比が際立った。
「よ〜し……!」
「そうそう。そうやって伸びをして、眠気を飛ばして……」
しかし、張り切ってもどうしようもないということは。
往々にしてあるもので。
「ふあ……ん〜……」
「あぁもう……やっぱり目が覚めていないじゃありませんか」
あわや再び夢の中。
こくりこくりと揺れる頭と、大きな欠伸は。
幼い子どものそれだ。
「ほら、フラフラしていないで、しっかりお立ちなさい。待ち合わせのラウンジまで急ぎますわよ」
それでも、ほったらかしにしないのは。
「梨璃に任された」というだけではない、彼女の優しさもあるわけで。
「あら、制服の肩が汚れてますわね。これは……ラムネ菓子の粉? もう、本当にこの子ったら……」
もしも、竜の少女が居合わせていれば『もはや母性が見えますね』くらいは零したことだろう。
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──百合ヶ丘女学院の中庭にて。
「あれ……? 楓がいなくなっちゃった。ここ、どこだろう?」
楓がいなくなったというのに、特に慌てるでもない結梨がいた。
……厳密に言うなら、結梨の方がいなくなった側なのだが。
迷子というのは得てして、『自分が迷っている』という自覚がないものだ。
そんな結梨の前を、小さい『黒』が通りかかる。
「にゃぁ」
ごく普通の黒猫だ。
だが、結梨にとっては初めて見る生き物だった。
「あなたは誰? お名前はなんていうの? わたしは結梨」
好奇心のままに近づき、話しかける。
だが、猫が言葉を話すなんてあるはずがなく。
さらには、その常識に気がついているかどうかも怪しい。
「お前、あまり校舎には近づいちゃダメだぞ。渡り廊下を汚したら、掃除が大変──って、結梨?」
「えーっと……梨璃といっしょにいた……」
現れた金髪の少女、しかし結梨は名前が思い出せない。
あまり、ちゃんと話したことがないのだ。
「安藤鶴紗。こんなところで何してる? 楓は?」
「そう、楓。楓といっしょに歩いてきて……それで……」
「あ、大丈夫? なんかフラフラしてるみたいだけど……」
「みーてぃんぐ……梨璃とお話……」
「……なんとなく事情は分かった」
大方、眠たいだけだろうと見当をつけた。
そして、振り回されている楓に密かな同情の念を送る。
振り回している張本人は、猫をじっと見つめていた。
「ねぇ、この子は何?」
「猫だよ」
「猫……猫……」とオウム返しで呟く結梨。
カーネーションピンクの瞳とゴールドの瞳が目線を交差する。
「にゃおん」
「にゃおん?」
「にゃー」
「にゃー……?」
……なんだこのほのぼの空間。
「……珍しい。この子が自分から初対面の人に近づくなんて」
「じ〜っ……」
例外はアルンくらいだと思っていたが。
そんなことはないのだろうか。
何にしろ、鶴紗ではこうもいかないので羨ましいものだ。
「ねぇ、この子、触ってもいいかな?」
「うん、触るなら優しくな。でも、その子──」
「しゃーッ!」
「あっ!?」
鶴紗が忠告を終える前に、黒猫は威嚇して宙返り。
あっという間に走って逃げてしまった。
「やっぱり。いきなり触るのは無理だったか……」
「猫〜、待って〜っ!」
逃げた猫を追って、走り出す結梨。
本来の目的を忘れているのではないか。
「あ、ちょっと待って! これからミーティングに行くんでしょ!」
「うん、この子もいっしょに連れてく〜」
どうやら、忘れているわけではないらしい。
猫がミーティングに参加する、というちょっと魅力的な提案に。
一瞬だけ、いいかもなんて考えて。
「っいや、ダメだからそれは!」
──そんなことされたら、多分内容に集中できなくなる。
致命的なミスに繋がりかねない誘惑に、なんとか抗って。
結梨を追いかけた。
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『いやぁ、付き合ってくれてありがとうございます』
「気にすんな。梅とアルンの仲だろ?」
外に出て、いっちょ中庭走り回ってみようかと思っていたら。
偶然にも梅様とエンカしたので、寝ぐらにしてた山に行ってきた。
「1人はリリィが同伴してないとダメ」だもんな。
言いつけは守ったよ。
「にしても、あいつら驚いてたな。アルンがまともに話せるようになったの」
『おーやさんは首輪見て「そういう趣味か」って引いてましたね』
「あの大きい縞猫か。なんでそう呼んでるんだ?」
『オレが来る前からあそこに住んでいたらしいので。あの辺の猫をまとめたり、面倒見てくれているのもあいつなんですよ』
ちなみに、俺が来る前までエサとかやりくりしてたのもおーやさん。
すごい賢いし、そこいらの猫の中では最強なんだって。
それもあって、この辺の猫はみんなおーやさんに頭が上がらない。
まあ、飢えてたのを助けてもらった奴も多いらしいから。
割と慕われてるんだろうな。
義理人情に厚いヤクザみたいな感じ。
とか思ってたところで、金色お目々の黒猫が走ってきた。
んー……? 足に力入れてー……?
『ぶわっ』
「ふはっ!」
跳んできた。
いやもうこれ『飛んできた』って言ってもいいだろ。
顔にベシャッとくっついてきた。
こいつ、ジャンプ力えげつないんだよなあ……じゃなくて。
『ちょ、離れてくれませんかね? オレの視界がモフいことになっているんだけれど』
「しゃー!!」
『しゃーじゃねぇよ降りろよ』
「にゃあ!!」
『鳴き方変えればいいわけじゃねぇんだよ降りろったら』
「ふへ、あっはははははははは!」
梅様、笑ってないで剥がしてくださいよ!
つーかこいつマジで腹がモフい……
ヤバい、この腹に籠絡されるわけにはいかんのよ!
そうやって、しばらくもたついてたら。
「さっきの子、確かこっちのほうに……」
聞こえた声の方向を向く。
多分、結梨ちゃんの声。
「はーっ、結梨じゃないか」
『……もしかして、こやつと追いかけっこでもしていた感じ?』
……今の俺、普通の人なら二度見するような格好だと思う。
でも、結梨ちゃんはそこには触れてこない。
見たことない猫が気になる結梨ちゃんにとっては些事か。
「にゃあ」
「あっ、その子! わたしにも触らせてほしいの!」
「いいけど、結梨に上手くできるかな?」
『ていうか普通に剥がしてほしいくらいなんですが』
「結梨さーんっ!」
遠くの方から結梨ちゃんを呼ぶ声。
続いて、こちらに向かって走ってくる音2つ。
一人は楓さんで……あと、誰だ?
「おっ。結梨が一人で歩いてるなんておかしいと思ったけど──」
『えっ、結梨ちゃん一人だったの?』
「はぁ、はぁ……やっと見つけましたわ。一体どこをほっつき歩いているのかと思えば……!」
「楓のお出ましだな。それに鶴紗も一緒か」
「さっきそこで会った」
「というか」と前置きした鶴紗ちゃんは。
これまで誰も指摘しなかったことについて、やっと追及する。
「アルンのそれ、何があった?」
『うん。そろそろツッコミが欲しいと思っていたから、とてもありがたい』
なんともシュールな光景だと思う。
感覚で、猫の足と尻尾がプラプラしているのが分かるもん。
事情を話したら、鶴紗ちゃんは「猫吸い放題か……!?」って羨ましがってた。
危ないおクスリみたいな言い方やめようね、結梨ちゃんがいるんだから。
「もう、この子ったら。昨日の今日で心配ばかりかけて……」
『母親みたいなこと言ってますね』
「あっははは、楓は結梨と上手くやってるみたいだな」
「そ〜っと、そ〜っと……」
結梨ちゃん、声出てるよー。
大方、もっぺん挑戦しようとしてるんかいな?
「その子は気難しいんだ。私だって、撫でさせてもらうまで大変だった」
『そうかな?』
「お前は懐かれすぎなんだよ」
大丈夫だと思うけどなあ。
この辺の猫、大半はデレたらこっちのもんよ?
それにみんな賢いし。
「ちゃんと人の話を聞きなさい、結梨さん」
「あ、楓だ」
「今気づきましたの!?」
『結構容赦ないね、結梨ちゃん』
楓さんにそんな無自覚パンチができるの、あとは梨璃ちゃんくらいだと思う。
「ほら、早くラウンジに行きますわよ。皆さんを待たせてしまいます」
「お、そうだな。梅たちもそろそろ行かないと遅刻だ」
「遅くなったら、梨璃に叱られるかもしれないよ」
「そうなの? じゃあ、すぐ行く! ──猫、また今度ね」
『そろそろ降りような』
「にゃあ」
ふいー……やっとこさ降りたな。
いざ離れるとモフモフが恋しいだなんて、思ってないんだからねっ!
……やべーな、野郎が言ったと思うときめェわ。
「さぁ、急ぎますわよ。今度は迷子にならないように、手を繋いで」
「うん!」
はぐれないように手を繋ぐって、とても良い文化だよな。
これが恋人同士のシチュエーションなら、尊さでダメージを食らってたけど。
今はどっちかっていうと、お姉さんとちっちゃい子のそれ。
よって回復効果が臨めます。
尊さには、癒してくれるタイプと攻撃してくるタイプがあるのだ。
オタクなら知ってるね!
「あ、待って。鶴紗とも……はい」
「私も、手を繋ぐの!?」
「おっ、楽しそうだな。じゃあ、鶴紗のもう一方の手は梅がもらうゾ!」
左から、楓さん、結梨ちゃん、鶴紗ちゃん、梅様……という。
なんか手繋ぎ鬼みたいな構図ができ上がった。
それか、4人家族が手繋いでるみたい。
微笑ましいなあ(にっこり)
「え、これ何……? 私たちは何をしているんだ……?」
「みんなー行くよー!」
「あ、待ってくれ。ほら、アルン」
『え』
ナチュラルに、梅様が少し日に焼けた手を差し出してくる。
いや……その、さ。
もちろんガチで嫌がってるわけじゃないんですよ?
「ほら、梅の手はガラ空きだゾ?」
『こんな空間にオレみたいな不純物が入っちゃマズいでしょ』
「アルンもいっしょー!」
「貴方も一柳隊の仲間でしょうに」
「こうなったら道連れだ、諦めろ」
『鶴紗ちゃんまで無慈悲……』
──結局、『通り道の邪魔になるから、広い道限定で』という妥協案になった。
くっ、俺は弱い……
戦技競技会に行く気配なくてごめんね……でもラスバレくんがあのストーリーばらまいた時点で「あ、入れなきゃ」ってなったんじゃ……
【キャラ設定】その22
実は転生して以来、まともに睡眠が取れたことがない。
ヒュージ期はそもそも睡眠がいらない身体だったが、「人の心を忘れないようにするため」として目を閉じてじっとするくらいはしていた。でも、ヒュージだったからこそ完全に寝られなかった(寝込みを襲われるかもしれないから)
半人体になってから、ようやく仮眠くらいは取れるようになったが、それも睡眠と呼ぶには程遠い。