転生先が百合キャンセラーのバケモンとかどうにかならなかったんですか!? 作:サク&いずみーる
「お待たせしましたぁ! リリィ新聞特別号、満を持して発行です!」
『ぱんぱかぱーん』
「おぉ〜!」
競技会もいよいよ明日に迫ってきて。
あーでもないこーでもない、と散々こだわり抜いた新聞が完成した。
いやー、これがホントすごかったんだって。
深夜テンションも相まって、二水ちゃんの目がギンギラだったもんよ。
なんつーか、『これはっ!! こうじゃなくてっっ!!!』って感じだった。
締め切りに追われる同人作家ってこんな感じなんだろうね。
「へぇー、夢結のインタビューが一番最初に載ってるんだな」
「『誰に注目してますか?』って質問で、最も多い回答を集めたのが夢結様でしたので」
『インタビューした人のうち、およそ3分の1くらいは夢結様って答えたみたいですよ』
ちなみに2番目に多かったのは、アールヴヘイムの天葉様だった。
やっぱ初代アールヴヘイムは強いわ(確信)
「新聞とは思えない、すごいボリュームですね」
「発行が当日だったら、とても終わるまでには読み切れなかったかも……」
「この完成度のものを用意できたのは、結梨ちゃんたちのおかげです! 改めて、ありがとうございます!」
「……あ」
結梨ちゃんは、どこか落ち着かなそうな挙動を見せた。
ちょっとそわそわしてる、というか。
うーん、それもまたかわいいんですが。
梨璃ちゃんはそんな結梨ちゃんに気がついて。
「結梨ちゃん、どうしたの?」
「お礼を言われるって、くすぐったくてうれしいね、梨璃」
「ふふっ」
そっかあ……(にっこり)
照れ顔もまたかわいいなあ。
「さぁ、あとはこの完成品を校内に掲示して、当日は受付で配布して……」
「こんな分厚い新聞、掲示できるのか……?」
『できるかどうかじゃない、やるんだよ』
「脳筋か」
だって、二水ちゃんがあんなになってまで完成させた新聞だぜ?
これで『掲示できませんでした』とかいうクソオチはあり得んて。
「完成品といえば」と、神琳さんが口を開く。
「梨璃さん。頼んでいたもの、今朝届きましたよ」
「頼んでいたもの……?」
一瞬、何のことか分からなそうにしていた梨璃ちゃんだけど。
途中で「……あっ!」と声を上げて思い出したっぽい。
「梨璃とわたしの服!?」
「っ……!」
なんで結梨ちゃんに次ぐレベルの反応を夢結様がしてんですかねえ……
「夢結、眉がピクッと動いたゾ」
「興味を隠し切れていませんわね」
『夢結様……』
「ミーティングに持ってこようかとも思ったんですけど……夢結様には本番まで、ご覧に入れない方がいいかと思いまして」
「ナイス判断じゃの」
まあ、話を聞いただけでもこれだもんな。
ワンチャン立ったまま気絶……なんてこともあり得る。
弁慶かなんかかな?
「ですが、ちゃんとサイズが合っているかなどは、事前にチェックが必要でしょう?」
『まぁ、そうですけれど』
なんだろう、嫌な予感がする。
「であれば、ここはわたくしにお任せください! さぁ梨璃さん、試着しに行きましょう!」
「え、楓さん……?」
そら見たことか!!
楓さんは立ち上がってやる気マックス。
ステイステイ、楓さん座ってください?
「やめろ楓! 魂胆が見え見えじゃ!」
「何も魂胆などございませんわ!」
『……ふーん』
「ちょっ……!?」
楓さんが持っていたバッグをするっと奪い取る。
寄ってきた鶴紗ちゃんと一緒に中身を確認すると。
いかにもスペックも値段も高そうなカメラとご対面。
ぜってーこれで梨璃ちゃん撮るつもりだったゾ。
『これでよく潔白だって言い張れましたね』
「説得力がゼロ」
「衣装の確認は、当人たちでしていただきましょう」
これには神琳さんも苦笑いだった。
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場所は変わって、神琳と雨嘉の部屋に訪れた結梨と梨璃。
ちなみに。
こういったことに首を突っ込みそうなアルンは来ていない。
衣装のお披露目を楽しみにしておきたいのと。
安易に推しカプの部屋に入れない、というのが理由である。
届いたという段ボールを開けてみれば。
中には本で見たままのチアガール衣装が2つ入っていた。
「梨璃! これ、かわいい!」
「うん、結梨ちゃんにはとっても似合いそう!」
「梨璃にもきっと似合うよ」
「そ、そうかなぁ? そうだといいな。お姉さまに変って笑われないように……」
他の一柳隊メンバーが聞けば『絶対に夢結なら喜ぶ』と即答されそうな台詞だ。
ふと、梨璃は部屋の隅に固まっている段ボールに目が留まる。
「神琳さん、そっちの段ボールは?」
「これは……雨嘉さんのために用意した、とっておきです」
「……いっぱいありますねぇ」
「はい。後ほど鶴紗さんやミーさん、アルンさんにも手伝っていただいて、いろいろと試させていただく予定です」
正直、意外だと思った。
この手に関してはノリが良いミリアムやアルンはともかく。
あまり興味を示さないだろう鶴紗まで巻き込むつもりとは。
だが、何かと一人になりがちな鶴紗も、楽しんでくれたのなら。
それは梨璃にとっても嬉しいことだ。
「いろいろ?」
「ええ、いろいろ。梨璃さんも楽しみにしていてください」
やっぱり神琳は楽しそうに微笑むばかりだ。
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単刀直入に言って、今の結梨は暇を持て余していた。
衣装の確認も終え、手伝うようなこともなくなり。
ほとんどの一柳隊のメンバーは用事があるから、と。
あちこちに散らばっていった。
唯一、暇な可能性がありそうなアルンも、どこに行ったか分からない。
(わたし、神琳や二水のお手伝いを始める前は、何をしてたんだっけ)
そうやって、ぼんやりしていると。
「すぅ……すぅ……」
聞こえた呼吸に視線を下ろせば。
木漏れ日に包まれて梅が眠っていた。
「あっ、梅──」
「しーっ」
口元に指を立てて、結梨を止めたのは鶴紗。
止められた結梨は、こてんと首を傾げて問いかける。
「鶴紗? そんなところにしゃがんで、どうしたの?」
鶴紗は黙ったまま指を差す。
示した先にいるのは梅……ではなく。
彼女の腹の上を陣取って眠る黒猫。
以前、結梨も会ったことがある猫だった。
「大きな声は出さないようにして」
「うん、分かった」
気配を研ぎ澄ますように、鶴紗は意識を集中させる。
まあ、すぐにふぅ……と息を吐いて。
「よし……ほら、今なら触れると思う」
「え?」
「猫だよ。触りたいんでしょ?」
「……あ、そっか」
結梨にそんなつもりはなかったが。
だからとて、またとないチャンスを無駄にする理由もない。
「手を伸ばすなら、静かに、そっとだぞ」
「そーっと……そーっと……」
「……」
鶴紗のアドバイスを受け、ゆっくり手を伸ばす。
……思っていることが口から出ている辺り、少々静かとは言い難いかもしれないが。
そしてついに、伸ばした少女の手が黒い毛並みに触れた。
「……あ」
「どうだ?」
「ふわふわしてる」
「結構触り心地、いいでしょ」
「うん。ふふふっ」
思わず結梨の顔に、鮮やかな笑顔の花が咲く。
小さな命の温もりが心地いい。
そんな優しい手に反応してか、うっすらと月のような瞳が開いていく。
「にゃぁ……」
「あ……この子、起きちゃった?」
「しまった。油断してた」
「でも逃げないよ。ずっと触らせてくれてる」
以前は触ろうとすると一目散に逃げられてしまったが。
今はそんな素振りもなく、撫でられるがままの状態だった。
「今日はたまたま虫の居所がいいのかもね」
「虫の……?」
『──機嫌がいいってことだよ。多分、いいエサにでもありつけたんじゃないかな?』
「アルン!」
いつの間にか現れたアルンは、名前を呼ばれて『いぇーい』なんて言って。
黒くて大きな爪でピースサインを作った。
「どこに行ってた?」
『行ってたというか、今からだな。ちょっと百由様に呼ばれているんだ。あと、鶴紗ちゃんにお届けものですよー』
「にゃあ」
「お前……!」
アルンの背中から飛び出したのは、耳の欠けた尻尾半分の黒猫。
いつかアルンと鶴紗が助けた猫である。
耳や尻尾はどうにもならなかったが、それ以外はすっかり治っていた。
『ウィザがね、鶴紗ちゃんに構ってほしくてきたんだよなー』
「うぃざ……?」
『こいつの名前だよ。思った以上に賢いし、オスだから「ウィザード」から取ってウィザ』
「へぇー……」
ウィザと呼ばれた猫は喉をゴロゴロ鳴らして、鶴紗に近づいてくる。
怪我の手当てや世話をしたこともあってか。
ウィザはアルンよりも鶴紗によく懐いていた。
彼女にとっては珍しいことであり、嬉しい例外でもあった。
「二人ともよかったなー。いっぱい触れて」
「あ、梅も起きてたんだね」
「そんなに耳元でたくさん話されたら、猫じゃなくたって起きるゾ」
「それもそうだね。ふふふっ」
『すいません。起こしちゃいましたか?』
「いーや、こんな楽しそうなの見逃す方が損だからな! ちょうどよかったゾ!」
アルンの申し訳なさそうな顔に。
梅は、にぱっと明るい笑顔を返す。
仰向けの体を起こすと、黒猫はしなやかに降りた。
しかし、立ち去ることはせずに結梨のそばでもうひと眠りするようだ。
ウィザも鶴紗に甘えるようにすり寄ってきた。
「なぁなぁ、そんな楽しそうなことしてるなら梅も混ぜてくれよー」
「わ、私は別に……」
猫に甘えられて緩みっぱなしの鶴紗の表情が一気に引き締まるが。
ちょっと赤くなった頬が隠しきれない。
おかげで梅もアルンも、からかったりニヤついたりしてくる。
(優しい匂い……楽しい匂い……いろんな匂いが混ざってる)
穏やかで心地良い光景に、結梨は思う。
この温もりは、とても大切なものだ。
なくしたくない、失いたくない。
できるなら、ずっとこの幸せな匂いの中にいたい。
(……みんな、同じ気持ちなのかな)
そんな、ささやかな願いが。
梨璃たちの抱く想いと同じだったのなら。
課題がつらいので、もしかしたら更新速度が落ちるかもしれません。
いよいよ次回から戦技競技会編です……!
【キャラ設定】その27
結構手癖が悪い。ゴツい腕をしている今でも、その実力は何故か健在。
前世ではこの特技を駆使して、よく人のものを掠め取っていた。しかし、仕掛ける相手は大抵仲の良い知り合いで、手品のような感じで見せびらかしていただけ。ちょっとした冗談として、ほとんどはすぐ返した。