転生先が百合キャンセラーのバケモンとかどうにかならなかったんですか!?   作:サク&いずみーる

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前回の書きたかったところ
「グングニルっつーか、『ガングニール』なんだよなあ」
「心の『司令』が叫び出しそうになっとる……!」
書き始めた時からずっと思ってたことなのでした。


「頑張れ」が支えてる

「なかなか派手に決まったじゃない」

 

 ミリアムが目覚めて聞いた第一声は。

 どこかハイな百由の声だった。

 顔にかけられたタオルを剥がすと、竜の少女が見つめている。

 

『ミーさん大丈夫そう?』

「なんとかのう……とにかく助かったわい。アルンこそ、生徒会から離れてよかったのか?」

『こ、校舎にいるから大丈夫だと思う……多分』

「……いざとなったら、わしも説明してやろう」

『ありがと……』

 

 気遣い、心配してくれているアルンとは対照的に。

 やっぱり百由は興奮気味で、状況とズレている。

 だがミリアムは『まぁそういう人だから』と飲み込む。

 大体、研究者なんて個性派揃いだ。

 百由なら人の心には疎いから、この程度で心配はしないだろう。

 

「さぁ! お次はぐろっぴのエキシビションのために、私手ずからの仕掛けを用意しといたからぁ、存分に踊ってちょうだいね!」

「百由様……わしのフェイズトランセンデンスを何と思っとるんじゃ?」

 

 世界有数の天才アーセナルが知らないはずないだろう、とばかりに。

 体を起こしたミリアムと、タオルを受け取ったアルンのジト目が向く。

 

「えっ? そりゃあもう、リリィの保有するマギを一瞬で放出する、ちょっとヤバげなレアスキルでしょ?」

 

 ちなみに、S級に至れば枯渇で倒れることはなくなる。

 レアスキルの連用は難しいが、通常戦闘くらいならなんとかなるのである。

 保持者の例として、アールヴヘイムの某問題児がいる。

 とはいえ、残念ながらミリアムはそこまで上級者ではない。

 

「ちゅーことで見ての通り、わしのマギはすっからかんなので、今日は店じまいじゃ」

「あれ……」

 

 

 ──沈黙が降りた。

 

 

 さすがにマギが空になった状態で戦うと。

 今度は倒れるだけでは済まなくなってしまう。

 だから、ミリアムが欠場するのは分かった。

 マッドと評される百由とて、そこまで人の心がないわけではない。

 3秒の時間を要したが、天才的な彼女の頭脳は状況を理解した。

 

 したのだが──

 

「どーすんのよ! 今日のために私がどんだけ準備したと思ってんの!」

「悪かったのう! ちと調子に乗っちまったのじゃ!」

 

 ──だからと言って、完全に納得するかは別問題だった。

 ギャンギャン吠え合う2人を『まぁまぁ……』とアルンが宥める。

 

「じゃがどうせ、他に適当なやつがおるじゃろ」

 

 はた、と今度はアルンが固まった。

 

「どうかした?」

「何かマズいこと言ったかの?」

 

 突然のフリーズに。

 何か地雷を踏み抜いたか、と2人が一瞬顔を見合わせる。

 「ッスゥー……」と息を吸う音が、たっぷり9秒聞こえた後。

 主に百由の方をじっと見て。

 

『百由様、現地に行ってきてください。今すぐ』

「え、なんで──」

『駆け足ぃ!!』

「は、はいっ!?」

 

 疑問も異論も吹き飛ばす、雄叫びじみた催促に。

 ミリアムはビクッと跳ね上がり。

 上級生なはずの百由も、慌てて部屋を飛び出していった。

 残っているアルンは頭を抱えて小さく唸っている。

 

『いや、大丈夫……だと思う、けどなぁ……』

「わ、わしも見に行くぞ!」

『……じゃあ、背負って運んでいこう。一応ミーさん疲れてるからね』

「うむ、任せたのじゃ!」

 

 器用にマントの上から、想像以上に軽いミリアムの体を背負うと。

 リズミカルな足音を響かせて、廊下を駆けていく。

 駆けていく、とは言っても。

 決められた速度ギリギリだから、『走っている』とは違うのだが。

 

(俺の記憶通りなら、次の対戦相手は──)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ──百合ヶ丘女学院の校庭、その中央にて。

 相対(そうたい)するもの、2つ。

 

 1つは、異形の怪物。

 改造と改良を重ね、『オルビオ』と呼ばれる個体に似た姿となった機械である。

 角のようなドリルを回転させ、視覚器にあたるだろう3つの光が泳ぐ様子は。

 本物のヒュージと見紛う仕草だ。

 だが、丸っこい胴体の隅に付けられたハートマークは人工物の証で。

 なんなら、製作者の愛着すら窺えそうだった。

 

 もう1つは、無垢な少女──一柳結梨。

 契約を結んだグングニルを手に、ぼんやりと立っている。

 目の前の大物を「ほー……」と眺めている辺り、緊張感とは無縁だろう。

 それもそのはず、少女がまともに『戦闘』というものを行うのは。

 本当にこれが初めてなのだから。

 

「ちょ、ちょっとこれどういうことですか!?」

 

 引き合いに出されている本人以上に、動揺しているらしい梨璃が。

 指を差しているのは、そういう光景だった。

 

「見ての通り、午後のエキシビションマッチ」

「百由様が研究の一環で作成したヒュージロイドと、ミリアムさんの特別対戦のはずですが……」

「ああ、梅がみりりんの代わりに登録し直しといたゾ」

「そんなぁ……!?」

 

 さらっとカミングアウトした梅に。

 梨璃はなんてことを、とばかりに慌てていた。

 

「相手は百由の作ったなんかだろ? 大丈夫じゃないか?」

「百由様だから心配なのでは?」

 

 ……楓の指摘は尤もと言えた。

 梨璃たちの入学初日に、捕獲していたヒュージが脱走したり。

 まだ竜の少女が『ピラトゥス』と呼ばれていた頃、見るからにヤバそうな実験器具を持っていこうとしたり。

 他にも検査以外で呼び出されたアルンが、げんなりとした様子で帰ってきたり……と。

 『大丈夫』と言い切るには前科がありすぎた。

 

 不意に地面から、金属の帯のようなものが突き出る。

 いくつも出てきたそれらは、逆向きに伸びてきたものと交錯し。

 簡易的な柵を構築していく。

 やがて、柵はマギの跳躍でも届かないほどの高さに至り、1つの闘技場(コロシアム)を生み出した。

 

「あわわわわ……!」

「あらら、間に合わなかったか」

『あー……』

 

 一足遅く到着した百由と、ミリアムを背負ったアルンに。

 梨璃が飛びつくように打開策を求める。

 

「あぁっ、百由様! どうにかしてください!!」

「いやぁ、この檻、勝負がつくまで開かないのよ」

「じゃ、じゃあアルンさんが飛んでどうにか……」

『ごめん、生徒会に止められてるから無理だと思う……』

「えぇーっ!?」

 

 どこまでも現実は無慈悲である。

 しかも、何がタチ悪いって。

 申し訳なさそうに顔を歪めているアルンはともかく。

 百由の方は、ことの深刻さを理解していないときた。

 

「要は結梨が勝てばいいんだろ?」

「エキシビションだから、当然リリィが勝つようにセッティングして……ありますよね!?」

 

 何かに気がついた雨嘉の質問に。

 百由は元気に『否』を突きつける。

 

「その逆よっ! ゴリゴリにチューニングして、ぐろっぴもイチコロのはずだったのに……結梨ちゃんが危ないわ!!」

「百由様わしをどうする気だったんじゃ!? って慌てるのが遅いわ!!」

「名付けて『メカルンペルシュティルツヒェン』くんよっ!!」

「名前まであんのか! 余程お気に入りじゃの!!」

「初心者が無茶するのは、私の役目じゃなかったんですかぁー!?」

 

 漫才じみたやり取りの傍ら。

 梨璃はとうとう膝からがくりと崩れ落ちた。

 ミリアムを降ろしたアルンは『自覚あったんだ……』と半ば放心している。

 

「時代が変わったんでしょう」

「はい! 百合ヶ丘のゴシップは、今やすっかり謎の美少女──結梨ちゃんに取って代わられましたから!」

「二水ちゃんまで!?」

 

 あまりに慌てる梨璃を見ていて。

 なんかもう逆に冷静になってきたアルンは。

 元凶となったマッド(百由)へ近づいた。

 

『あれって何回目のやつなんです?』

「7の次だから……8回目ね」

『……ならいっか。結梨ちゃーん、やったれー!』

「アルンさんも!?」

 

 ついに本気で味方がいなくなったと嘆く梨璃。

 もう泣き出しそうですらあった。

 

 そんな、尋常じゃない不安を抱えた梨璃に。

 

「梨璃!」

 

 呼びかけたのは、他でもない檻の中の結梨で。

 

「わたし、やるよ!」

 

 その声には、不安も怯えも一切ない。

 ただ、これから為すことへの期待と。

 今までやりたかったことが、ようやくできるという喜びを抱いている。

 

「結梨ちゃん……!」

「わたしもリリィになりたいの! リリィになって、みんなのこともっとよく知りたいの! だから見てて!!」

 

 純粋に、好奇心のままに。

 梨璃の胸の内など知るはずもなく、掲げたCHARMごと手を振る。

 

「──信じなさい、梨璃。あの子はちゃんと見ているわ。貴女もちゃんとご覧なさい」

 

 夢結の言葉に、前を見ると。

 足を引き、腰を落とし。

 その手に握るグングニルを、地面と水平に構える少女の姿。

 

「あれは……」

「夢結様の型……」

 

 ──そう、それは先程と全く同じ動き。

 違うのは扱うCHARMくらいで、向きや構えた角度も夢結のそれだ。

 されど、宿す想いは模倣に非ず。

 瞳には、勇気を。

 剣には、覚悟を。

 新星は輝き始め、一輪の華が開こうとしている。

 

 一柳隊や竜の子はもちろんのこと。

 生徒会が、アールヴヘイムが、ローエングリンが。

 百合ヶ丘の誰もが結梨を見守っている。

 吹いた風が、相対(あいたい)する者たちを撫でていく。

 

「■■■」

「はっ!」

 

 先攻を仕掛けたのはヒュージロイド。

 腕を振るって繰り出す攻撃は単純そのもの。

 しかし、単純だからこそ効果があった。

 すかさず連撃が来る。

 弾いて、受け止めて、防御に徹する。

 

「うっ、ほわっ」

 

 巨体の一薙ぎは転がって避ける。

 初陣であるが故に、結梨は戦いの最適解が分からない。

 本能で避け、直感で動いているのだ。

 

「圧された時は間合いを取りなさい!」

「そう、相手のペースは崩すためにあるのよ!」

「止まらず動いて! 相手に隙を作らせれば、勝機はある」

 

 ──そこに、歴戦の戦士たちによる助言が加わったならば。

 少女は、さらに強くなる。

 

「ふっ!」

 

 防戦一方だった結梨が、ついに攻勢へ。

 振り下ろされた腕を駆け上がる。

 砂煙に隠れ、ヒュージロイドの捕捉が数瞬遅れた隙に。

 ダンッ!! と踏みつける音。

 

「えいっ!」

 

 跳躍した少女が迫る攻撃を打ち返す。

 着地の瞬間、結梨の動きはさらに加速した。

 まだできる、と本能が吠えている。

 もっといける、と心が訴えている。

 やってみせろ、とあの日の憧れが叫んでいる。

 少女の内に眠る「熱」たちが目覚め、燃えていた。

 

 目の前にはヒュージロイド──減速はしない、構わず疾走。

 

「ふっ、やぁっ!」

 

 地面すら抉る一撃をすり抜ける。

 大振りな攻撃の代償となった隙を狙えば。

 機械は後方へよろめいた。

 結梨が一撃を与える度、声援が強くなる。

 歓声が大きくなる。

 それらに紛れた、先達のアドバイスを的確に拾い。

 強さの炉にくべて、さらなる糧と為す。

 今や百合ヶ丘の全てのリリィが、結梨を応援していた。

 その言葉たちが、何者でもなかった少女を一人のリリィにする。

 

「みんな……」

 

 そんな光景を見回す梨璃。

 結梨が戦えている、ということにも驚いたが。

 それ以上に、これほど応援してくれる人たちがいると思っていなくて。

 不意に、夢結が梨璃へと問いかける。

 

「梨璃。私が最初に手ほどきした時のこと、覚えているでしょう? 最初に教えたのは?」

 

 忘れるわけがない。

 身体に刻み込まれた、その答えを口にする。

 

「はい。あえて受けて、流して、斬る……」

「そう。ほら──」

 

 促されて再び前を向く。

 飛び込んできた光景は、やけにゆっくりと見えた。

 空気を切り裂くように向かってきた腕。

 強力で、でも隙も大きい一撃をグングニルで受ける。

 火花が散る、押し潰されそう、でも負けない。

 

「「『あえて受けて──』」」

 

 弾いて、一瞬距離が開く。

 ヒュージロイドの体勢が崩れた。

 大きな隙を、リリィは見逃さない。

 踏み抜いた地面が、わずかに削れて舞い上がり。

 開いた距離を一気に詰める。

 加速をやめなかった少女が、衝撃波すら纏う勢いを味方にする。

 

「「『流して──』」」

 

 振りかぶったCHARMに。

 力も技術も想いも、全て込めて。

 その刃はより鋭く、重くなる。

 

「やあっ!」

「「『──斬る』!」」

 

 まず一閃。

 機械の胴体を横一文字に真っ二つ。

 しかし、まだ止まらない。

 

『ぶちかませぇーっ!』

「はあっ!!」

 

 声援に重ねて、さらに一閃。

 間髪入れずに放った剣撃が、ヒュージロイドに十字を刻みつける。

 内臓の代わりに内部のチューブを、体液の代わりに火花と電流を吐き出して。

 ガラクタになったヒュージロイドは沈黙。

 結梨が勝利を掴み取ったのは、誰の目にも明らかだった。

 

 今日一番の歓声が空気を揺らす。

 それは、今ここに見事に咲き誇ったリリィへの称賛と祝福だ。

 

「やったぁ! ……っと、失礼」

 

 立場も一瞬忘れて、史房が年相応の喜びを見せ。

 さっと何事もなかったように取り繕ったが、わずかに上がった口角は誤魔化しきれない。

 じっと見て表情一つ動かない咬月たちも。

 その心中にて、少女を称える拍手を送っていた。

 尤も、それは本人たちにしか知り得ないことだが。

 

「梨璃、みんな! 見てた?」

 

 舞い上がった細かな残骸の雨と。

 結梨が振りまいたマギの残滓が織りなす、ダイヤモンドダストにも似た光景の中。

 

「わたし、できたよー!」

 

 初めて手にした勝利と成功体験に浮かべる笑顔は。

 何よりも輝いていた。

 

「うわーん! 結梨ちゃんえらいよぉ〜!」

「うんうん。泣くな梨璃!」

 

 梨璃が泣きつき、結梨が頭を撫でていて。

 もはや、どちらが保護者か分からない。

 傍目に見ていたアルンは『そりゃ世代交代とか言われるかもなぁ……』と呟いた。

 

 だがまぁ、本当に泣きそうなのがもう一人いて。

 

「あぁぁ……私のメカルンペルシュティルツヒェンくんがぁ……」

「もうええじゃろ」

 

 時間と労力を散々費やした代物が。

 短時間で見るも無残なスクラップに変えられたのだ。

 いくらエキシビションだったとしても、結梨が無事だったといっても。

 製作者としては、心にくるものがあるのだろう。

 

「あ……」

 

 そんな傷心気味の彼女に届いた、解析科からの1通の着信。

 

 

 

 ──それが、残酷な真実への片道切符であることを知るのは。

 そう遠くない未来の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ……冷静に考えたらさ。

 俺、一柳隊に紛れて最前列で見てる場合じゃねえな。

 とっとと生徒会が待機してるテントに戻れよって話やんけ。

 だから結梨ちゃんのエキシビションの後に慌てて戻ったんだけど。

 『ここ人数減っちゃうから、むしろあっち(一柳隊)にいて(意訳)』と言われまして。

 とりあえずとんぼ返りした次第でーす。

 表向きには監視的な意味で。

 本音は俺に気を遣ってくれたのかな、とか思ったりして。

 マントだけじゃなく、ほんのりレアスキルも使ってるから。

 まぁ普通の人間には見つからないんじゃね?

 ……慢心はしてないよ、常に警戒マシマシだゾ。

 

「──さぁ、そろそろ時間ね。行くわよ」

「おう! いよいよ梅たちの出番だな!」

 

 CHARMを引っ提げて、上級生組が動き出す。

 二水ちゃん大興奮っすね。

 確か2年生のタスキ集めって、早い段階で発表されてたやつだよな。

 騎馬戦っぽいのを想定してたんだけど、CHARM持ってたら邪魔そうだし違うか。

 第一、あんな格好じゃできねえよ。

 中が見えちゃうじゃん。

 ……いや、それ言ったらさっきの、マギでジャンプする競技とか全否定か。

 

「おぉー……! 前に夢結に叱られた梨璃が遊んでたやつ!」

「あれは遊んでたわけじゃなくて……」

 

 上空には大量のドローンが徘徊中。

 どいつもこいつもタスキがかかっていて、めっちゃパタパタしてる。

 要はドローンたちからタスキをかっさらえって話ね、よっしゃ理解した。

 

「夢結様と梅様の戦い……」

「き、緊張してきました……!」

『なんで梨璃ちゃんが緊張してんの……』

「だってだってぇ……」

 

 すごいソワソワするじゃん。

 かわいいから別にいいけどね!

 

「梨璃さん、結梨さん。お二人も出番ですよ。一柳応援団、出陣です」

「あっ! そ、そうでした!」

 

 思わずバッ!! と振り返った。

 そういや俺も見てないのよ。

 やべーな、俺もワクワクしてきたぜ!

 衣装は更衣室に準備してある、と神琳さんが促すと。

 

「梨璃、行こっ!」

 

 結梨ちゃんが手を引いて、2人は行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──それから程なくして。

 

「お、お姉さまっ! 梅様っ! 頑張ってくださーいっ!」

 

 2人は装いを新たに戻ってきた。

 やっぱり本で見た時より全っ然かわいいな(断言)

 梨璃ちゃんは水色を、結梨ちゃんは白を主体にした衣装。

 さらには、本には載ってなかったポンポンのおまけ付きです。

 かわいいにかわいいを足したら最強なんやなって。

 これはクソデカため息が出そう。

 やはり、伝統的なチア衣装は正義だな……!

 

「おぉ……あれが図録に伝え聞く……!?」

「梨璃さ〜んっ! その衣装、とってもお似合いですわ〜っ!」

 

 これには楓さんもハイテンション。

 ブンブン手を振って梨璃ちゃんに声援を送っている。

 

「楓さーん、ありがとうございまーす! でも今はお姉さまたちを応援してあげてくださーい!」

 

 梨璃ちゃんからは笑顔で、お礼とド正論が返ってくる。

 思った以上に容赦なくてちょっと笑った。

 

「応援団の梨璃より、楓の方が弾けてる……」

「結梨の世話でぐったりしておった時とは完全に別人じゃの」

「生き返ったのか……」

『死んでないよ』

 

 楓さん、梨璃ちゃんに関することは全力だからね。

 仕方ないね。

 隙あらば狙ってくる辺り、油断ならないけど。

 この前は下着漁ろうとしてて目を疑ったね。

 

「そういえば、今回はアルンさんなんともないですね?」

『外だから自重して耐えてる、常識は弁えてるから』

「まるでわたくしが非常識みたいな言い分ですわね!?」

「……そろそろ来るぞ」

 

 鶴紗ちゃんがボソッと呟いた直後。

 

「2年生対抗競技、出場リリィ、入場──っ!」

「き、来たっ……!」

 

 校庭に響き渡るアナウンス。

 それを合図に、2年生がいっぱいやってくる。

 こういう時、目が合うとちょっと嬉しいよな。

 ちょいちょい知ってる人たちを見かける中に、夢結様の姿もあって。

 梨璃ちゃんたちを見た途端、一瞬目を見開いた。

 

「梨璃……その格好は……!?」

「お姉さまっ! 私、精一杯応援しますから! ですから、どうか……!」

「ええ、言われるまでもないわ。シルトの前で、恥ずかしい戦いはできないもの」

「くぅぅーっ……! 早速二人だけの世界を作っていらっしゃいますわね……!」

 

 ……あれだ、こういうシーンどっかで見たなと思ったら。

 中世を題材にした作品で、戦いに赴く騎士に恋人とかそういう人が見送りに来るみたいなやつだ。

 それか、も○のけ姫の冒頭。

 主人公が村から旅立つ直前で、女の子から首飾りをもらうシーン。

 ……でもあれ、途中で他の女の子にあげちゃうんだよね。

 元カノからのプレゼントを今の彼女さんに渡してるみたいで、いつも複雑なんだよなあ。

 

 閑話休題。

 

 

「出場リリィ各位、スタート位置に!」

「──行ってくるわね」

「行ってらっしゃいませ、お姉さま!」

 

 やっぱり騎士の方が似合いそう。

 なんて考えたところで、再び響くアナウンス。

 

「それでは──競技開始!」

 

 

 

 

 

 

 

「フレーっ! フレーっ! ゆーゆ! フレーっ! フレーっ! まーい!」

「わぁっ! 結梨ちゃん、お上手!」

 

 こっちはこっちで応援という仕事を全うしている。

 いやはや、頑張ってんねー。

 ちゃんとそれっぽくなっていて、一柳隊からは大変高評価です。

 

「CHARMの扱いはともかく、ポンポンは誰に習った……? いや、そもそもポンポンなんて付いてたか……?」

『あぁ、ポンポンは自作だよ。チア衣装っていえば、やっぱりポンポンはマストだろ?』

「振り付けは私がリリィ新聞のお手伝いのお礼代わりに、調べて教えてあげたんです。1日しか練習できませんでしたけど……」

 

 え、マジで?

 1日であの完成度なん?

 

「こんな感じでいいのかなー?」

「バッチリですよ、結梨ちゃんっ!」

 

 俺も前世で小学生の頃、運動会の出し物でダンスとか覚えたりしたけど。

 あれだって何日もかかったぜ?

 それを1日……いや、正確にはたった数時間程度で覚えたのか。

 雨嘉さんもその事実には驚かされたようで。

 神琳さんは感心して頷いている。

 

「先程の戦いぶりといい、すごい学習能力と吸収速度ですね」

「結梨ちゃんは日々成長してますから!」

「梨璃さんの仰る通りですわ」

 

 ちょっと自慢げな梨璃ちゃんと楓さん。

 今、すごい保護者っぽい感じがする。

 まあ、実際に保護者なんだけどさ。

 

「フレーっ! フレーっ! ゆーゆ! ガンバレガンバレ、まーいっ!」

「ねぇ見て、あの子。さっきのエキシビションの……」

「一柳隊にいる、新しく編入された子よね?」

 

 ポンポン持って応援してた結梨ちゃんに。

 外野の視線が集中しだす。

 中には2年生そっちのけで結梨ちゃんに注目してる人もいた。

 

「あれ、なんで……?」

「すごい、結梨ちゃん! 競技に参加してるお姉さまたちよりも目立ってますっ!」

『いいのかな、それで……』

「まぁ結梨さんにとっても、今日は大切な晴れ舞台ですものね」

「いい思い出になってくれるといいな……」

 

 梨璃ちゃんの言葉に、はっとなる自分がいた。

 思わず結梨ちゃんを見ると、キラキラした笑顔を振りまいていて。

 

「梨璃っ! 梨璃といっしょの格好で夢結を応援するの、すっごく楽しいね!」

 

 そんな笑顔を見ちまったら、まあいいかって思えてくるから。

 不思議だよなあ。

 

 ──その後も、なんやかんや(アクシデント)……は特になく。

 順調に前半戦は終了した。

 10分の休憩を挟んで再開だって。

 

「ふぅ……」

「お姉さま、お疲れ様です」

「梨璃……それは?」

 

 梨璃ちゃんが傍らの箱──クーラーボックスから2つの瓶を取り出す。

 1本は夢結様に差し出して、もう1本は梨璃ちゃんの柔らかそうなほっぺにぴとっ。

 絵面がめちゃくちゃ青春って感じで眩しいっす。

 

「ラムネです! 水分補給にどうぞ。冷たくて、とっても美味しいですよ!」

 

 ……これを嬉々として準備してるのを見た時。

 運動した後の水分補給にラムネってどうなんだろう、って思ったんだよ。

 スポドリとかの方がよくない? って正直思ったよ。

 でも、これはこれで梨璃ちゃんっぽいし。

 何より「これ、お姉さまたちに差し入れするんだぁ」ってルンルンなの見てたら。

 もう何も言えなくない?

 『そっかぁ』って答えるだろ、反射的に。

 

「ありがとう、1本いただくわ」

「なんだ、夢結だけずるいゾー」

『そんなこともあろうかと……結梨ちゃーん?』

「梅にもあるよー」

『塩分補給の飴もありますよー。噛み砕けるタイプなのでぜひどうぞ』

 

 運動したら塩分摂るのも大事だからね。

 汗が持っていっちゃうのは水分だけじゃないし。

 かといって、飴を舐めながらの運動も危ない。

 そういうのを考慮して選んできました!

 結梨ちゃんにも協力してもらって、食べやすいのを厳選したので。

 抜かりないんだな、これが。

 

「おー! ありがとなー」

『夢結様も1つどうです? あ、それとも「飴を噛み砕くのは行儀が悪い」ってタイプでしたか?』

「そうね……いつもはそうなのだけれど、今回はありがたくいただこうかしら」

 

 夢結様の綺麗な指が、個装の飴を摘んでいった。

 今回は寛容な辺り、夢結様も無意識のうちに気分が上がってるのかもしれない。

 

「……そういえば、梨璃。一つ言い忘れていたわ」

「はい、なんでしょう?」

 

 夢結様にしては珍しく、しっかり梨璃ちゃんと向き合って。

 真っ直ぐ目を見つめて。

 

 ……あ、耐え切れなくて目逸らしましたね。

 

「その服、とても似合っているわよ」

 

 でも、言うことはちゃんと言えた。

 その後、照れ隠しなのか飴を口にしてたけど。

 ずっと聴きたかっただろう言葉に。

 梨璃ちゃんは嬉しそうに、言葉を噛みしめる。

 

「お姉さま……あ、ありがとうございます!」

「──後半戦開始、1分前です」

 

 再開のアナウンスが聞こえた途端。

 飴を噛み砕く音が2つ。

 梅様は面白そうにバリバリ砕いて食ってるし。

 夢結様はちょっと味わってから飲み込んだ。

 2人とも顔が綻んでいたから、お気に召したらしい。

 

「それじゃ、行ってくるわね」

「お姉さま、頑張ってくださーいっ!」

「フレーっ! フレーっ! ゆーゆ! フレーっ! フレーっ! まーい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──後半もヒートアップは止まらない。

 安定してどんどんタスキの数を稼いでいくのは夢結様と天葉様。

 さすがは新旧アールヴヘイムのメンバーだ。

 成果は並んでトップときた。

 他のリリィも追いつこうとしてるけど、その背中には程遠い。

 

「予想通りとはいえ、さすがだなー!」

「梅も、あれだけ大見得を切っただけのことはあるわね」

 

 梅様は「まだ余裕がありそうだな!」とカラカラ笑った。

 獲得したタスキは結構あるみたいだけど、2人にはあと一歩及ばない。

 しかし、梅様は時間が迫ってきても全く焦っていない。

 

「でもそうやって暢気に構えていられるのも今のうちだゾ! 梅には──これがあるからな!」

 

 そんな台詞を皮切りとして、残像を置き去りに梅様の姿が消える。

 いや違うな、消えたと錯覚させるくらい加速したんだ。

 『風になったような速さ』なんて例えがあるけど。

 今の梅様はまさに、それを実現してみせている。

 

「さぁ、ラストスパートだ! 一気に巻き返していくゾ!」

 

 ギュン、ともう一段ギアが跳ね上がったんだろう。

 ついに影も残像も残さない本気の速さへと至る。

 

「あれは梅様のレアスキル『縮地』!」

「しゅくち……?」

 

 一瞬だけ、滞空している姿が見えたかと思うと。

 再び梅様が『風』になる。

 空に蔓延るドローンのうち。

 梅様が通ったと思わしきルート上のドローンは、タスキがごっそり奪われていった。

 次々と梅様の『道』ができあがっていく。

 吉村・Thi・梅ロード……ちょっと語呂良くない?

 

「やっぱり速い……! 全然目で追えない……!」

『もはや時間差で来る風でしか存在が分からないって……』

 

 そうこう言ってる間にも、あと一歩だった梅様が。

 トップを往く2人に追いつき、抜き返した。

 初代アールヴヘイムの接戦に、会場が今日トップクラスの盛り上がりを見せる。

 これが激アツじゃなければなんだっていうんだ!!

 

「やっぱり、速度勝負なら梅様か……」

「お姉さまぁ〜〜っ!!」

「がんばれぇ〜〜っ!!」

 

 追い抜き、追い越し。

 トップが目まぐるしく入れ替わる。

 初代アールヴヘイムの大接戦は、時間いっぱいまで続いた。

 

 

 

 ……結局、勝敗はどうなったかって?

 そこは想像に任せるよ。

 




『あれって何回目のやつなんです?』
→試作品の中にはミサイルやらなんやらが付いたものもあった。そのまま採用されてしまうと原作通りに結梨ちゃんが勝てなくなるので、オリ主が調整と説得を繰り返していた。

【キャラ設定】その29

実は最近、夜な夜な部屋を抜け出しているらしい。ユーバーザインを駆使しているため、悟られることがない。
行き先は主に前の拠点。
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