転生先が百合キャンセラーのバケモンとかどうにかならなかったんですか!?   作:サク&いずみーる

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シンフォギアの方でもアサルトリリィコラボが実現したと聞いて、4000個(11連で200個)の石を一気に溶かしてやりましたっ!!! 全員無事に完凸なのです!!
シンフォギアはどいつもこいつも両想いカップリング済みなので、楓さんのSAN値が心配です。


ガラスは急激な温度差で簡単に砕ける

 ──大丈夫。

 

 これは必要なことだ。

 これがないと、結梨ちゃんの未来は確実にない。

 多分痛いと思う、苦しいと思う。

 おそらく、何度も繰り返さないといけないだろう。

 しかも正直、成功するかも分からない博打だ。

 

 でも、やるしかない。

 

 『特典』のおかげで死にはしないと思う。

 ……もちろん、怖くて仕方ないけど。

 マジで死ぬよりは全然いい。

 

 

 

 じゃ、腹割ってやりますか……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ──競技会の翌朝。

 

「梨璃、おそ〜い!」

「あはは……寝癖がなかなか直らなくて」

「全く、梨璃はしょうがないなぁー」

 

 頬を膨らませる結梨に、梨璃は困った笑みを返した。

 その光景はまるで、遊びに連れて行ってもらうのを待っている娘だ。

 

「ごめんね。お詫びに今日は、結梨ちゃんと一日中ずーっと一緒にいるから!」

「ほんと?」

「うん、今日は講義も訓練もないし」

「わかった、それで許してあげる」

「ふふっ、ありがとう」

 

 心底嬉しそうな結梨。

 それは、純然たる子どものそれで。

 花が開くように咲いた笑顔が眩しい。

 

「ねぇ、梨璃。わたしね、毎日がすごく楽しいんだ!」

 

 毎日が、多くの発見に満ちていて。

 様々な色が見えて。

 様々な想いの匂いがする。

 結梨にとっての日常は、全てが新鮮だった。

 本当に楽しそうな結梨を見ていると、なんだか嬉しい気持ちを分けてもらったような気がして。

 

「でもね、楽しいのはまだまだたくさんあるんだよ」

「まだまだたくさん!?」

 

 当然ながら世界とは、百合ヶ丘が全てではない。

 結梨が知らないだけで、もっと広くて。

 そして、もっと多くの新しいものがある。

 きっと、梨璃たちですら知らないこともあるだろう。

 

「今はまだ難しいけど、もう少ししたら街に遊びに行こう! 一柳隊のみんなも誘って……あ、そしたら私、結梨ちゃんに似合うお洋服やアクセサリー選んであげる!」

「なんだか楽しそう! 結梨も、梨璃の服選んであげる!」

「それじゃ、どっちがかわいくできるか勝負しよっか?」

「うん、しよう!」

 

 少女と少女の、何でもない約束。

 それは、紛れもなく「日常の断片」と呼べるものだ。

 

「あのね、梨璃──」

「ん? どうかした?」

 

 ふわり、と結梨が梨璃に抱きつく。

 抱きとめた腕の中、少女は瞳を輝かせていた。

 前に教わった「感謝の大切さ」を胸に、言葉を紡ぐ。

 

「梨璃、わたしを見つけてくれて、ありがとう。わたし、梨璃のこと大好き!」

「結梨ちゃん……」

「梨璃だけじゃない。夢結も楓も、二水も梅も、鶴紗も、神琳も雨嘉も、ミリアムも、アルンも──みーんな大好き!」

 

 感謝だけではない。

 結梨を取り巻く仲間たちが大好き、という想いも一緒に込めて。

 

「私だって同じだよ。ううん、きっとみんなも同じ気持ち」

「みんな、結梨のこと好き?」

「うん!」

「そっか、嬉しいなぁ」

 

 なんだかちょっぴり照れくさくなってきて。

 でも、やっぱり胸が温かくなる想いもあって。

 結梨は目を細めて微笑む。

 そんな結梨の頭を、梨璃は優しい手で撫でた。

 

「結梨ちゃんの髪、さらさらして触り心地いいね」

 

 髪に指を通せば、藤色の髪が絹糸のようにすり抜ける。

 

「えへへへ。梨璃に撫でられるの、気持ちいい」

「あ、結梨ちゃん、少し髪伸びたかも? 前、見えにくくない?」

「う〜ん……ちょっとだけ?」

 

 言われてみて、前髪をつまんでみる。

 手を離すと確かに、微妙に目が隠れるくらいには伸びていた。

 

「それじゃ、私が切ってあげようか」

「梨璃が?」

「かわいく整えて、みんなを驚かせてあげるとか!」

「……じゃあ、お願いしようかな」

 

 じゃあハサミとか持ってくる、と言い残して。

 梨璃は準備のために走っていった。

 

 

 

 

 

 

 程なくして、2人の少女は屋上へとやってきた。

 我ながら屋上で髪を切るってどうなんだろう、とは思ったが。

 天気も良いから別にいいか、と思考を切り替える。

 ……まあ、その後しっかり後悔した。

 

「……う、動かないでね結梨ちゃん」

 

 当然、外だから時折風が吹く。

 加えて、梨璃のハサミを持つ手もぎこちない……どころか震えている。

 提案しておいてなんだが、梨璃も上手くできるわけではないのだ。

 だったらなんで外でやろうと思ったの、と。

 自問自答したくなるのは、仕方ない話だった。

 

「動いちゃダメだからねー……」

「梨璃、落ち着け」

 

 散髪用ケープを羽織った結梨にも指摘される始末である。

 晴れた空の下、てるてる坊主のような格好をしているのは少しシュールだった。

 

「だ、だって前髪だよ〜?」

「ちゃちゃっと済ませて朝練するんでしょ?」

 

 前髪がくすぐったくて、思わず動いてしまう結梨。

 その様子に梨璃はますます不安になる。

 

 

 

 ──この平穏が崩れるまで、あと少し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ──理事長室に、百合ヶ丘の生徒会長たちが集まっていた。

 その用件は当然、一柳結梨について。

 

 ヒュージ研究の国際機関 G.E.H.E.N.Aに。

 フランスに拠点を置くCHARMメーカー グランギニョル。

 これら2つの企業は、捕獲したヒュージの体組織から幹細胞を生み出した。

 ヒュージのDNAには、過去に地球上に発生したあらゆる生物のDNAが重複保存されている、と言われる。

 彼らは人造リリィを作るため、その中からヒトの遺伝子を発現させようと試みたのだ。

 

 そして、今──

 

「──我々の保護しているのが、連中の言う実験体というわけだ」

 

 3人の生徒会長たち、その誰もが険しい面持ちだった。

 しかし、それは結梨に向けられたというよりは。

 非道な行為に手を染めた大人たちに対する憤りである。

 

「彼女がリリィでないとなれば、学院は彼女を匿う根拠と動機を失うことになる」

「我々に選択肢はない、というわけですね」

 

 ──本当に、やりきれない話だ。

 ガーデンのために、他のリリィのために。

 人間でなくなってなお、人々を守ろうとする者のために。

 

 たった一人の少女を、切り捨てなければならないとは。

 

 ──かくて、生徒会長たちは少女のもとへ向かう。

 依然として表情は険しいが、やらなければいけないことだ。

 

 だから。

 

「ごきげんよう」

「……ごきげんよう」

 

 すれ違った夢結が、胸騒ぎを覚えたのは。

 決して気のせいではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 カチャン、とハサミが床に落ちる。

 

「……そんな、嘘です、間違いです……そんなわけ、あるはずないじゃないですか」

 

 一柳梨璃の声は震えていた。

 目は大きく見開かれ、無意識のうちに3人から結梨を遮るように立つ。

 

「そこをおどきなさい、梨璃さん」

「……結梨ちゃんを、どうするんですか」

「……」

 

 生徒会長が一人、ブリュンヒルデ──出江史房は口を噤んだ。

 本来の彼女であれば『答える必要はない』とでも告げて突っぱねたはずだ。

 しかし、その一言が不思議と出てこなかった。

 理由を話せば、目の前の少女は要求を呑んでくれるのか。

 

 ──否、そんなはずはないだろう。

 さっきまで驚きと困惑に満ちていた梨璃の瞳には。

 既に覚悟の光が宿っていた。

 この光を浮かべた人間は、簡単には折れないことを史房は知っている。

 

「理由を、お聞かせ願えますか」

 

 見据えた先、振り返った先に夢結はいた。

 決して明るいとは言えない顔だが。

 その表情の割に、声は穏やかだった。

 

「……!」

「結梨は、私たちのレギオンの一員です。訳を知る権利はあるかと」

 

 ……何か、事情を察しているのか。

 思った以上に、咎めるような視線は強くなかった。

 その気遣いに応えるように、史房は口を開く。

 

「……残念だけど、G.E.H.E.N.Aとグランギニョルが開示した資料で、結梨さん──いえ、その個体はヒュージだと確認されたわ」

「ヒュージ……?」

 

 予想を上回る答えに、梨璃と夢結の表情が固まる。

 結梨を人間と見做さない呼称に心を痛める史房の説明を。

 生徒会長 ジークグルーネ『内田眞悠理(まゆり)』が引き継ぐ。

 

 ──結梨が見つかる直前の時期と、G.E.H.E.N.Aの実験船がヒュージネストに異常接近していた時期は一致していた。

 大方、ネストから発せられるマギを利用しようとしたのだろう。

 しかし、船はヒュージの襲撃で沈没。

 ほとんどの実験体は、発現することなく失われた。

 ……ただ一つの例外を除いて。

 それが、あの日の海岸に流れ着いたのだ。

 

「だ、だけど……皆さんだって知ってるはずです。結梨ちゃんは私たちと何も……なんにも変わらないって……!!」

 

 梨璃の声は震えていた。

 理不尽に対する、怒りを抱いていた。

 じゃあ、昨日までの声援たちは嘘だったというのか。

 みんなであれほど応援したじゃないか。

 仲間だと、受け入れてくれたじゃないか……!

 少女が握った拳に、ぐっと力が入る。

 

「それは、アルンさんが失踪したことにも関係があることですか」

「え……」

 

 今度は結梨の表情が驚愕に染め上げられた。

 ──夢結が楓から聞いた話によれば。

 楓が目を覚ました頃には、もう姿を消していたらしい。

 普段はどれだけ早く起きても、楓が完全に目を覚ますまで待っているというのに、だ。

 妙に思って、学院を探し回るも見当たらず。

 途中で会った梅にも協力してもらったが、それでも見つからない。

 果てには、前の住処にすらいないときた。

 

 生徒会長 オルトリンデ代行にして、夢結のルームメイトでもある秦 祀は「そう……」と小さく呟く。

 彼女は梨璃ともども、結梨とアルンの世話を任されていた身だ。

 特に結梨は梨璃に懐いていたから、自然と祀がアルンの面倒を見ていた。

 だから、なんとなく理由も察していて。

 

「あの子、野生の勘というか第六感……とでも言えばいいのかしら。そういうものがかなり優れているみたいだったから、ある程度察して行方をくらませたんでしょうね」

 

 今までの成果もあり、アルンが学院にいたという痕跡は一切残っていない。

 よって『高松アルンは最初から存在していない』ということにできる。

 ヒュージとリリィが共存していた、という事実(禁忌)をなかったことにできる。

 だが、結梨の存在は既に知られていた。

 それだけは、どうしようもなく手遅れだった。

 短く息を吸って、史房は告げる。

 

「──おどきなさい、梨璃さん」

「結梨ちゃんを、どうするんですか」

 

 先程と同じやり取り。

 しかし、両者共に先程より強い口調だ。

 

「……G.E.H.E.N.Aとグランギニョルは、引き渡しを求めています」

「引き渡されたら、結梨ちゃんはどうなるんです」

「……人間としては、扱われないでしょうね」

 

 夢結の言葉は、遠回しな──結梨に対する死の宣告だった。

 行き着く結末を、直感的に察したのだろう。

 だから、アルンはこのタイミングで姿を消したのかもしれない。

 

 ──誰よりも、死を恐れているから。

 

「……っ、なんで……なんで、そんなこと……」

 

 梨璃の白い肌に涙が伝う。

 方や、ヒュージから生み出されただけの、普通の少女。

 方や、異形に堕ちてなおリリィに寄り添う、優しき竜の少女。

 2人はただ、穏やかな日常を望んでいるだけなのに。

 自分たちの勝手な都合で歪めておいて、小さな幸せすら掴ませないというのか。

 

「梨璃……」

 

 不安そうに、結梨が手を握ってくる。

 手を覆う温もりに振り返って、涙を堪えて尋ねる。

 

「結梨ちゃん──結梨ちゃんは、どうしたい……?」

 

 それは、その後の命運を決定する問いであり。

 梨璃にとっては、最後の希望だった。

 

 もし、この手を取るなら──遠くへと逃げて、どこまでも抗うつもりだし。

 もし、諦めるというなら──本人の意思を尊重するつもりだった。

 ……でも、本当は結梨に生きていてほしくて。

 

「昨日は」

 

 ぽつり、と結梨が語る。

 

「梨璃や夢結やみんなと競技会できて、すごく楽しかった」

 

 まるで思い出に縋りつくように、手を握る力が強くなる。

 答えはもう、分かりきっていた。

 

「わたし、ずっとみんなと、いっしょにいたい……!」

 

 ──その言葉に、梨璃の為すべきことはもう決まっていた。

 何がなんでも、結梨を渡してなるものかと。

 人類への反逆なんて知ったことか。

 

 既に一度、似たようなこと──小さき竜を庇った経験もあってか。

 梨璃に躊躇なんてなかった。

 

「……ぁ」

 

 不意に、距離を詰めた夢結は梨璃を抱きしめた。

 

「──、──」

「っ!」

 

 何事かを囁いて、身を離す。

 離れていく梨璃は、完全に結梨を庇うように立っている。

 どこか、小竜を庇った時と似ているが。

 あの日とは違って、梨璃に迷いは一切なかった。

 

「梨璃、悲しい匂いがする」

「ごめんね。私、もう泣かないから!」

 

 涙を振り切る。

 制服から引きちぎったボタン──フラッシュバンが仕込まれた目眩しを地面に叩きつける。

 あまりの眩しさに、その場の全員が目を瞑る。

 次に目を開いた時、残っていたのは放られたケープのみ。

 2人はCHARMを持って逃亡したのだった。

 

「逃げた、か……」

 

 明確な命令違反だ。

 しかし、責めるような憎むような目をした者は一人もいなくて。

 

「でも、ある意味では正しい行動でしょうね」

「夢結さん、私たちは立場上──彼女を捕らえなければいけません」

 

 どれだけ気に食わないことでも、どれだけ腹が立つことでも。

 それが、立場に縛られる者の義務だから。

 そして、生徒会が捕まえた暁には。

 結梨を連中に引き渡さなければならない。

 

「あの子たちを捕らえるために、私たちは全力を尽くします」

「それが、生徒会としての役目ですものね」

 

 夢結に、それを咎めることはできないし。

 そんなことをする気もない。

 

「だから、私たちの代わりにお願いします」

 

 こんなこと、本来の史房なら言わなかっただろう。

 そうさせたのは、きっと竜の少女がいたからか。

 尤も、誰にとっても無自覚な変化なのだが。

 

「もちろんです。梨璃は私のシルトで、結梨は同じレギオンの仲間ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「結梨を学院で保護すべきです。結梨が危険な存在とは、私には思えません」

 

 厳かな空気の中、少女と御老公が向き合う。

 結梨の対応に、夢結は直談判に来た。

 咬月はただ、冷静な無表情で口を開く。

 

()()、ヒュージを心通わす相手と見なすことは、人類にとっての禁忌だ」

 

 何も知らない人々からすれば。

 ヒュージと同じ力を──マギを操るリリィですら。

 何か1つ間違えば、脅威と捉えられかねない。

 現に、防衛軍の部隊が百合ヶ丘に迫っている。

 咬月は理事長代行として、最悪の事態──人とリリィが争うということだけは。

 絶対に避けたかったのだ。

 その気持ちは、リリィである夢結も分かっている。

 

「なら、何故アルンさんのことは受け入れたのですか」

「……彼女は、人間だったからだ」

 

 彼なりに、誠実に真っ直ぐ答える。

 それは、少なくとも『アルンのことは味方だと認めている』ということで。

 ……受け取り方によっては『結梨のこともまだ諦めていない』ということで。

 理事長代行は、まだ見限ったわけではなかった。

 

 ──わたし、ずっとみんなと、いっしょにいたい……!

 

 脳を横切ったのは、先程屋上で聞いた結梨の願い。

 ささやかで、誰もが手にできるはずの望み。

 ……リリィを恐れる人々も皆、怯えているのは分かっている。

 でも──

 

「──私たちが自由に生きることを願うのは、不遜なことでしょうか」

 

 当たり前を手にすることすら許されないのか、と目を伏せる夢結へ。

 今度は咬月も口を閉ざした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ──梨璃が結梨を連れて逃亡した。

 その知らせは、瞬く間に学院中に広まった。

 

 

 

 

 

 

「梨璃さんが結梨ちゃんを連れて脱走……!? た、逮捕命令って……!?」

 

 アルンが一足先に逃げた、ということは聞いていたが。

 さすがに、これは何か悪い冗談だと思った。

 だって、結梨たちと一緒にリリィ新聞を作るのは、とても楽しかった。

 アルンが補佐を担ってくれて、とても助かった。

 来月もまた一緒に作ろう、と約束だってしたのだ。

 

(梨璃さん、結梨ちゃん、アルンさん……私は……)

 

 ──二水は、迷いを抱きながら。

 

 

 

 

 

 

「ヒュージから作られたリリィ……やっぱり、G.E.H.E.N.Aの奴ら……!」

 

 アルンの事情を聞いた時も、思っていたことだが。

 どこまで人の道を外れた罪を重ねれば気が済むのか。

 

「しゃぁっ!」

「っと、悪い。驚かせたね……」

 

 感情の昂りに反応した黒猫──ウィザが跳ね上がる。

 軽く謝罪を口にして、頭を撫でてやれば。

 ウィザはどこか不安そうに、頭をぐりぐりと押しつけた。

 

「……構ってくれる人が減ったら、寂しいよね」

「にゃあっ」

「私もだよ……」

 

 自分やアルンの過去のこともあり。

 同じような目に遭わせたくない、という想いが強くなる。

 あの笑顔を曇らせるような真似だけは、絶対にさせたくない。

 

(結梨には、つらい思いはさせたくない。G.E.H.E.N.Aなんかに、渡すもんか!)

 

 ──鶴紗は、決意を抱いて。

 

 

 

 

 

 

「梨璃さん……! どうしてお一人で……わたくしにも知らせず……」

 

 そう口にした直後に違う、と自分で否定する。

 ……正直、結梨には何かある、とは思っていた。

 加えて、アルンもそれを察していて何か行動を起こすだろう、ということも薄々考えていた。

 尤も、後者に至っては極めて低い可能性だと睨んでいたが。

 

 ここまでの事態、梨璃が詳細を把握していたはずがない。

 大方、突然のことで止むにやまれず。

 限られた選択肢の結果が、あれだったのだろう。

 今からでも梨璃の力になれることは、と考えて。

 頭を振って思い直す。

 

「……いえ、梨璃さんだけじゃありませんわよね。わたくしには、わたくしのやるべきことがありますわ」

 

 事の始まりはグランギニョル──彼女の父親が為したことだという。

 ならば、できることはある。

 

 ──楓は、使命を抱いて。

 

 

 

 

 

 

「神琳、緊急連絡見た……?」

「ええ、驚きはしましたが……事実、なのでしょうね……」

「アルンも、どこに逃げたのか分からないって。捕まってないといいんだけど……」

 

 逃げた2人の周辺に何かしら事情があるのは、分かっているつもりだった。

 だが、改めて突きつけられると重みが違った。

 そして、今にして思えば。

 妙に引っかかる発言たちが、頭を掠める。

 

 競技会で結梨が言っていた『リリィになりたい』という言葉。

 終わった後でアルンが、どこか思い詰めたような表情で口にした『必ず守りますから』という言葉。

 その言葉の真意も──

 

「──これからどう動くべきかも、夢結様たちとみんなで考えましょう」

「うん……!」

 

 ──神琳と雨嘉は、真実への追求心を抱いて。

 

 

 

 

 

「梅が一番乗りか。集まるのが早すぎたなー」

 

 まだ誰もいない控え室で、からりと零れた独り言。

 夢結のことは気になる。

 だが、今は梨璃のことで頭がいっぱいになっているはずだ。

 

 そして、何の前触れもなく姿を消したアルン。

 いくら同じようなことが前にもあったといえども。

 心配していないわけではない。

 動揺もした。

 けれども、アルンにも何か考えがあっての行動だったはずだ。

 なら、余計な心配はさせないように。

 任された仲間たちをどうにかするのが、自分の役割だ。

 リリィは助け合い、なのだから。

 

(二水たちのことは、梅が見ておいてやらないとな)

 

 ──梅は、上級生としての責任を抱いて。

 

 

 

 

 

 

「百由様おるか……? さっき来た緊急連絡じゃが……」

「ごめん、ぐろっぴ。ちょっと席を外すわ。急ぎでやることができたの」

 

 どことなく気の張った声で、工房の扉を開けば。

 部屋の主は、いつになく真剣な様子で何かの準備を進めていた。

 

「やること? 梨璃や結梨のことを放って──」

 

 何を、と言いかけたところで思い止まる。

 きっと、科学者として優れた彼女のことだ。

 この状況を切り開きうる『何か』を整えているのだろう。

 

「……ぐろっぴ、実はね──」

 

 不安がっていると解釈して。

 一旦手を止めて、説明しようとして口を閉ざす。

 ゲノム解析には、確かに人手がいる。

 しかし、まだ理事長代行の真意をどこにも悟られるわけにはいかないのも事実だ。

 何せ、自分たちがこれから為そうとしているのは。

 下手をすれば、人類への反逆とも捉えられかねない危険な行為だ。

 アルンが姿をくらませたことによって。

 最悪の事態に直行するリスクは避けられたものの。

 依然として、目の前の少女や梨璃のために奔走する夢結を巻き込むわけにはいかなかった。

 

「……のう、百由様」

 

 思考を巡らせる沈黙に、ぽつりと優しい声が落ちる。

 気になることはある。

 でも、言えないこともあるはずで。

 だから今は、何も聞かずに一言だけ。

 

「わしが見ておらんところで、体を壊さんようにの」

「精々気をつけるわ。ぐろっぴもね」

 

 深く尋ねてこない後輩に感謝して。

 止めていた手を動かす。

 

 ──ミリアムと百由は、お互いへの信頼を抱いて。

 

 

 

 

 

 

 誰もが想いを抱いて動き出す。

 一人ひとりが、誰かのためにできることを為す。

 

 全ては──罪なき少女たちを悪意から守るために。

 




【キャラ設定】その31

前世では炭酸が飲めなかった。コーラとかあの辺は完全にダメ。
サイダーならかろうじて飲めるけど、炭酸が抜けてないと苦手。
前回、強炭酸を飲んでたけど実は『ぐあぁ〜〜っ……!』って言いながら飲んでた。
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