転生先が百合キャンセラーのバケモンとかどうにかならなかったんですか!? 作:サク&いずみーる
作者が書きたかったシーン ベスト3にランクインした話、はっじまっるよー!
……よし、できた。
いやはや、暗くても目が利くってホント便利よ。
あとの問題は、これをどこにやるかだよなあ。
即刻バレても困るし、見つからないまんまもダメだし……
あ、これ……ふーん……
これだ(確信)
これに隠しとけばゴタついてる間はそれどころじゃないだろうし。
ある程度落ち着いたら、どかすなりなんなりするっしょ。
あの人そんなズボラな性格してないし。
ちゃんとベストタイミングで見つかってくれよ?
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「言葉を話すヒュージ、だと……!?」
『信じられないってか? でも現に目の前にいるんだわ、現実を見な』
文字通り、この場を制圧した乱入者は首元をさする。
メカニカルなチョーカーは、百由が作ったもので間違いない。
『まぁ厳密にはオレが話してるわけじゃないんだけどね。あ、これに
「え……?」
『オレの手綱を握ろうなんて思わないことだ。今のこれはただの便利な発声機だよ』
悪い笑みを浮かべて百由を見やる。
周囲には、彼女が仕組んだ罠が看破されたことに驚いているように映っただろう。
しかし、百由は人工声帯に爆弾を取りつけた記憶などない。
アルンの人工声帯の製作も、携わったのは彼女だけだ。
つまり、これは
おそらく『百合ヶ丘がヒュージを保護していた』という事実に理由を持たせるためのもの。
そして一瞬、どこか虚ろな右眼がぶつかる。
──合わせて。
光を宿さないシトリンは、そう語っている気がした。
……正直、天才的頭脳を持つ百由にも今後の展開が読めない。
ならば、ここは任せるしかない。
そう判断して、それ以上の発言を控えることにする。
咬月も早々に状況を理解し、目を伏せるに留めていた。
じゃあ無駄話もアレなんで、と前置きして『人類の敵』を自称する者は机に腰掛けた。
その表情は、今の張り詰めた雰囲気に反して、どこまでも楽しげだ。
それが余計に連中の不安を掻き立てる。
相手はヒュージだ、何が目的なのか分からない。
取引しようにも、対価に何を要求されるかも分からない。
狂った対価なら熟考は必須……いや、しかし。
応じなかった場合、どうなる?
報復と称してこの国を滅ぼされることだってあり得る話ではないか!
それ以前に、果たして無事に生還できるのか!?
そうやって、勝手にパニックに陥る政府の人間たちに。
意識を向けさせる意味も込めて。
『オレの身体を売り込もうと思ってね』
思いがけない提案に、その場の人間が固まった。
そんなことにはお構いなく、『そいつ』は続ける。
『
暗に『ずっといた』というのも驚きだが。
要は、自分を実験体として差し出せと言いたいわけだ。
だが、『そいつ』がそんな行動に出たところで自身に何のメリットがあるのか。
そこが分からない。
いや、今重要なのはそこではない。
ヒュージの考えなんて、人間に理解できるものではない。
内心の恐怖を押し殺しながら、汗を滑らせて。
官僚の一人が口を開く。
「……貴様の要求は、なんだ?」
『──アンタらが大揉めしてる人造リリィをヒトとして認め、今後一切手を出さないこと』
「……は?」
思わず呆けた声が出る。
どうしてヒュージが百合ヶ丘に与するような要求を……?
「何故そんなことを……?」
『いや、百合ヶ丘にはお世話になったからさぁ。人間の常識的な文化に「恩返し」ってあるじゃん? そういうの大事かなと思って』
当然のことを話すような返答。
まるで人間のような考えを語る『そいつ』が、あまりにも気の抜けた態度だったものだから。
「そっ、そんな取引、認められるものかッ!」
『えー……より上質なモルモットが手に入って先方もハッピー、そっちも面子が保ててハッピー、オレもお願いが叶ってハッピー! こんな平和でハッピーな取引、滅多にないと思うんだけど?』
「ふざけるな!」
『大真面目なんだけどなぁ』
連中の中でも比較的若い男が吠えた。
まだ白くない髪を逆立てて、批判の声を上げる。
あとは先程の焼き増しだ。
「ヒュージの分際で」やら「ヒュージの指示など受けない」やら文句不満をぶつけていく。
調子に乗ったか、嘲笑の声が増えていく。
大半を聞き流している『そいつ』には微塵も伝わらない。
「やはり、怪物は怪物を庇い合うものだな。なんとも悍ましい」
だが、結梨のことと思わしき罵倒が上がった途端。
ぴきり、と良くない気配が蠢いた。
……なるほど、これは驚いた。
どうにも奴さんは『状況』というものを理解してくれていなかったらしい。
優しく対応していたのが悪かったか、分かりにくい言い方が悪かったか。
それとも連中の頭が悪いのか。
一体どれが悪かったのか、はたまた全部が悪かったのか。
皆目見当もつかないが──それなら、もっと明白に行こうか。
ギイ、ガチャと不穏な音が批判を切り裂く。
『オッケーオッケー、納得できないなら他の提案もある』
不穏な音の正体は、拘束している『尾』の一つ。
先端の大振りナイフが大砲に変わる。
その標的は、拘束された政府の連中。
やけに重たく見える銃口がギラリと睨んでいる。
『「お前らの命と引き換えにオレの要求だけを通す」って平和じゃない方法とかどうよ?』
誰かの喉がヒュッ、と鳴る。
要は見せしめだ。
人質なら正直、咬月と百由で事足りる。
特に百由を失うのは避けたいだろう。
なんせ彼女はトップレベルのアーセナルにして、実に優れたリリィでもある。
世界からしてみれば、様々な意味で戦力になる少女と、ある程度替えが利く政府の役人が数名。
天秤にかけるには、あまりにも釣り合っていないのは明白だ。
『要求を呑んでくれなければ、時間が経つごとに1人ずつっていう感じで』
「こんなことをして許されると思っているのか!?」
『許す? 誰が?』
「り、リリィが来れば貴様など敵では──」
『来るの?
小馬鹿にした指摘。
リリィが駆けつけるのと、この場で殺されるのと。
どちらが早いかなんて、火を見るより明らかだ。
わずかに尾が締め上げる強さを増す。
それに焦った官僚が声を上げた。
「ま、待て! 冷静になれ!」
『「待て」? あはは、「待ってください」の間違いじゃないの? オレは極めて冷静だよ』
「ひッ……!?」
忘れてはいけない。
ここにいる者は例外なく、文字通り「生殺与奪の権利を握られている」状態なのだ。
『そいつ』がその気にさえなれば、拘束している尾で一斉に絞め殺せる。
先端に付いた刃で斬り殺すも、大砲で消し飛ばすも自由だ。
なんなら、すぐに殺すも嬲って殺すも思いのまま。
その証拠に、軽薄な笑みと口調の一方で。
右眼のシトリンは全く笑っていない。
光も映さぬ瞳は、まるでゴミを見るかのように思える。
ここまで直に命の危険に晒されたことがないであろう官僚どもは。
ようやく事態を理解できたらしい。
『まぁ、オレ堅苦しいの好きじゃないから。話し方自体は別にそのままでもいいけど、内容には気をつけた方がいいよ?』
これが、枷なき竜の蹂躙。
ヒュージは法や規律に縛られない。
それ故に、上層部の思惑やしがらみも関係ない。
ヒュージは罪を犯そうとも、その罪を裁く者はいない。
それ故に、主導権を完全に掌握できる。
混乱と恐怖で思考が止まる頭を、必死に回しながら。
哀れな役人どもはどうにか生き延びる方法を考える。
「……脅迫の、つもりか?」
震えた声、精一杯の強がりを込めた虚勢。
それが分かるから『そいつ』はクスクス笑うだけ。
『まさか、これは
──誰だって、死ぬのは怖いもんねぇ?
引き寄せられて、耳元で囁く『声』が聞こえる。
虚勢が、思考が。
もうそれだけで一気に砕けた。
身を引いた『そいつ』が、ぼんやり光る左眼で見ただけで。
反射的に体が震える。
いつの間にか刃に戻っていた先端が、剣の腹で頬を撫でれば。
嫌な汗がブワッと吹き出る。
『じゃ、そろそろ答えを聞かせてくれよ。自分たちのわがままを貫くか、オレの要求を通してくれるのか』
「わ、分かった! したがっ、従うからッ!」
「何でも聞くから、こ、殺さないで……!?」
『うん。話が通じるようになったのはいいことだ』
恐怖で口が回らなくなった官僚を見て。
すっかりいい気分の『狩人』は笑う。
さて、ほとんどの官僚は完全に心が折れたのだが。
まだ一人、しぶとい者がいた。
ここで切り抜けることができれば、『こいつ』や百合ヶ丘に制裁を与えられる。
怪物との取引? 冗談じゃない。
所詮は証拠も残らない口約束だ。
従ってやる義務もない。
大方、人類への反逆として。
百合ヶ丘が、多少知恵のあるヒュージと手を組んだに違いない。
だから、生き延びさえすれば外部に伝えて……!
『まぁ、こんな口約束だけでお偉いさん一同が真っ当に応じてくれるとか1ナノも思ってないし』
「もがッ!?」
密かに思考を続ける官僚の。
こじ開けられた口の中に何かが入れられる。
小さくてつるりとしたもの、それを一気に飲み込まされる。
呆気にとられていた官僚たちの口にも、素早くぶち込んでいく。
咳き込むも、すっかり喉を通ってしまった状態では意味がない。
意図的に吐き出そうにも、拘束された状態ではできやしない。
「ッ!?」
『無理くりにでも遵守してくれるようにした』
「あ゛あああああ゛あッッッ……!!」
「があああああ!?」
口の中が剣山を突き刺したような痛みに襲われる。
喉は火を飲み込んだように灼けそうで。
拘束されていなければ、床を転がっていた。
それに熱い。
まるで暖房の効いた部屋にいるみたいだ。
汗も止まらない。
それも、目に汗が入ってくるレベルで、だ。
これは本当に不安や恐怖によるものだけなのか……!?
もう一つの尾に拘束されている2人は多少汗ばんでいるが、こちらほどではない。
飲まされたものが影響しているのは、回らない頭でも分かった。
なら、一体何が……!?
『──発汗に発熱。効いてきたようで何よりだ』
ノコギリにも似た歯を覗かせて。
『異常の原因』が口角を吊り上げる。
何をした、と訊こうとして。
『今お前らの体内に送り込まれたのは細胞に溶け込むヒュージ、言うなれば「ヒュージウイルス」といったところかな』
「ぇあ……?」
質問する前に答えられる。
しかし判明したのは、更なる絶望。
『普段は普通の細胞の一つとして偽装しているが、オレの任意でお前らの体はヒュージに変わるって代物でね。遠隔覚醒もできる便利な生物兵器さ』
「そんな、ものが……!?」
『このじっちゃんがオレのこと報告しなかったの不思議だっただろ? こいつのおかげで、じっちゃんはオレについて黙っててくれるようになったってわけ』
「なッ……!」
嘘だと思いたくても、それを断ずることはできない。
だって、そうでもなければ咬月が黙っていた理由がつかない。
百由が何もしないのは、理事長代行が人質に取られているからだろう。
そもそも、ヒュージは未だに生態が解明されていない部分も多い。
ならば『そいつ』が、そんな機能を有している可能性は十分あった。
その証拠に、咬月と百由は目を伏せて黙したままで。
図星であることを容易に察した。
『別にこれがハッタリだと思うのも、オレとの約束を無視するのも大いに自由だ』
尤も、その後は自己責任だけどね、と付け加えて。
言外の強制力を理解させる。
ニタリ、と弧を描く口元が恐怖心を煽る。
『なんなら病院……ああ、お前らと仲良しなG.E.H.E.N.Aのところでオレの言葉が本当か確かめるのもいいね』
その場合、頭がおかしくなったと思われるならまだマシな方で。
知的好奇心と権威に飢えたマッドサイエンティストの餌食になることもあり得る。
もし後者なら、今の官僚どもは貴重なサンプルだろう。
人間ですら、実験体なら真っ当な扱いをしない連中が。
『まぁ、人類への貢献ってやつはできるんじゃない? よかったじゃん、お前らも人類のために命を捧げられるなら本望でしょ?』
──だって、下にそう教えてきたのは自分たちなんだし。
「い、嫌だああああああ!!」
「頼む! まだ死にたくない!!」
「たしゅっ、助けてくれ……」
ついには、なり振り構わず泣き叫んでの命乞い。
汗やら涙やら、顔から出る液体を全部振り撒くような光景に。
『あはは、随分わがままで自分勝手だよな。こういうヤツって』
『そいつ』が嘲笑っている。
満足したのか、足を組んで座っていた机から降りると。
拘束していた尾を緩めて、官僚や咬月と百由を解放する。
『じゃあ思考が老害な諸君、賢明な判断を頼むよ。オレは「ヒュージ」だが、できるだけ平和で穏和なやり取りをしたいんでね』
有無を言わさずに、実質的な隷属を取り付けた『死神』は。
最後に楽しそうな笑い声を残し、一度部屋を退出した。
その笑い声は、確かに政府関係者たちの魂にまで刻みつけられたのだった。
伏線がめちゃくちゃ回収されました。
伏線の答え合わせってしてもいいです? それとも自分たちで考えたいです?
【キャラ設定】その34
こういうタイプの逆転劇では力業でガン飛ばして脅して乗り切る、ヤの字スタイルが多いがオリ主は違う。
オリ主は状況を利用した恐怖による精神掌握からの、真綿をチラつかせて誘導していくスタンス。
要するに「怖がらせて正常な判断力を鈍らせ、その間に言質を取って退路も潰す」感じ。