転生先が百合キャンセラーのバケモンとかどうにかならなかったんですか!?   作:サク&いずみーる

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7月10日に人生初の同人イベに参加してきたわけですが、これがすーごい楽しかった……! またいつか行きたいですね!
それはそれとして、本作のオリ主を作るにあたって「シンフォギアの曲が似合う、身代わりサンドバッグ系主人公」というのをコンセプトにしています。


キミだけに捧ぐ、イノチの旋律

「いつまでここにいる? 梨璃」

「分かんない。勢いで出てきちゃったけど……」

 

 ガラスのなくなった窓の外。

 夜は明け、窓から直に柔らかい朝日が差し込む。

 結梨は、()()()()()()()に手を振り。

 梨璃は薄汚れた廃墟の床を見つめて『姉』の言葉を思い出す。

 

 ──逃げなさい、梨璃。西に無人になった街があるわ。今は時間を稼いで。

 

 ──私が必ず迎えに行くから。

 

 だから、あまり怖くはなかった。

 もちろん、不安がないと言ったら嘘になる。

 でも、梨璃が憧れた守護天使(シュッツエンゲル)は。

 約束を違えたりしないことを、(シルト)である梨璃は知っている。

 それに、今は夢結だけではない。

 一柳隊のメンバーだっているのだ。

 なんとかなる、どうにかしてくれると信じていれば、きっと。

 

「大丈夫。ここにいれば、お姉さまやみんながきっと来てくれるから」

「……ヒュージって、わたしに似てるのかな」

「えっ!? そんな、全然違うよ!」

 

 結梨がぽつりと呟いた疑問を、弾かれたように否定する。

 

「でもわたしヒュージなんでしょ?」

「……違うよ。結梨ちゃんは結梨ちゃんだし、普通の女の子だよ」

 

 見た目のことだけではない。

 話が通じるし、心がある。

 花が咲くように笑うし、怒った時は頬を膨らませるのがかわいらしい。

 ちょっと手はかかるけれど、周りの人を思わず笑顔にするような。

 そういう、普通の女の子だと梨璃は言う。

 

「……じゃあ、もしわたしがヒュージのところに行っても、そこにも居場所はないんだね」

 

 梨璃は何も言えない。

 百合ヶ丘を追われた今、ヒュージネストに行ったとて歓迎されない。

 生まれた場所も、育った場所も。

 今やほとんどが敵になってしまった。

 拠り所をなくした少女は、ふと空を見上げて。

 

「わたし、なりたくてこんな風に生まれたわけじゃないんだけどな」

 

 ……生まれてくる子どもが、親を選べないように。

 新たな命は、生まれ方も選べない。

 結梨の呟きは、今は行方不明の竜の子にも言えることだ。

 アルンとて、望んでヒュージに生まれ変わったわけではない。

 人間の悪意によって弄ばれ、歪んでしまっただけなのだ。

 

「梨璃もそんな風に思うことある?」

「そんなの……いつもだよ。お姉さまみたいにさらさらの綺麗な黒髪だったらなとか、いつも優しくてかっこよくなれたらいいなぁとか……」

「ふーん……じゃあきっと夢結は、()()()()()()()()()()()

「あ……」

 

 言われて気がつく。

 今の自分が、どれほど浅はかな考えを口にしたのか。

 夢結だって、ずっと悲しい想いを抱えてきた。

 

 ──これが私よ……憎しみに呑まれた、醜く浅ましいただのバケモノ……っ!

 

 ──ルナティックトランサーは、とてもレアスキルなんて呼べるものじゃない……こんなもの、ただの呪いよ

 

 大抵のレアスキルは選べるものではない。

 彼女が「呪い」と呼ぶルナティックトランサーも、夢結が望んで手にした力ではない。

 二度にわたって引き起こされた暴走。

 どちらも、夢結は泣いていた。

 大切なものを傷つけたくなくて。

 自分の力なのに、自分で制御できないことが悔しくて。

 弱音を叫んでしまうほどに、心がボロボロになっていた。

 少なくともそれは、梨璃も目の前で見ていたから知っている。

 

 他にも、梨璃が知らない苦しみや葛藤だって多く経験してきただろう。

 それを、上っ面だけ見て「羨ましい」だなんて思ってしまった。

 彼女が悲しい過去を背負っている、と知っていたのに。

 

「ごめん。何にもならなくていいよ……結梨ちゃんは結梨ちゃんのままでいい……!」

 

 結梨を強く抱きしめる。

 誰かになるんじゃダメだ。

 自分らしく、前に進まなければいけない。

 だって、他人の真似をしたって。

 結局、その『誰か』にはどうやってもなれないから。

 

「でもね」

 

 包み込んでくれる梨璃の腕ごと、抱きしめるように。

 結梨は自分の手を、そっと胸に当てる。

 

「梨璃が結梨って名付けてくれたから、わたしは『結梨』になったんだよ。それは、わたしとってもうれしい」

 

 想いを込めるように、思い出を噛みしめるように。

 そっと呟く。

 『誰か』になる以前に、まず『自分』すら曖昧だった少女に。

 『結梨』という定義(自分)をくれたのは、間違いなく梨璃だ。

 それは、結梨にとって最初で最高の贈り物だった。

 

「……大丈夫。帰る場所はきっとあるよ。みんなが作ってくれるから……」

 

 

 

 

「──ええ、一緒に帰りましょう」

 

 ──凛と響くも、優しい声。

 振り返ると夢結が、二水が、楓が、梅が、鶴紗が、神琳が、雨嘉が、ミリアムが──一柳隊のみんながいた。

 誰もが優しい表情で、梨璃と結梨を見ていて。

 

「お姉さま……みんな……!」

「理事長代行と百由が、政府を説得してくれたわ。結梨は人間で、リリィと認められた。もう大丈夫よ」

 

 その吉報に、じわりと目頭が熱を帯びる。

 嬉しくて、泣きそうになるけれど、もう少しだけ耐える。

 

「梨璃さんとの逃亡劇を少しは期待していたのに、もうおしまいですわ」

「梨璃の逮捕命令も撤回されたゾ。よかったな!」

「た、逮捕!? そんなことになってたんですか!? あれ、でもどうしてここが……?」

「あー……すごく、分かりやすかったです……」

 

 二水は答えにくそうに苦笑いした。

 2人が逃げ込んだ廃墟の周りには、防衛軍の戦車と兵士が取り囲み。

 百合ヶ丘のリリィも追いついて、包囲網を巡らせていた。

 まさに、一触即発。

 本当に、あと一歩のところだったのだ。

 ほんのわずかでも通達が遅れていたら、梨璃も結梨も捕らえられていたかもしれない。

 あとは、防衛軍が立ち去った後にアルンを見つけ出せば。

 全ては解決、今まで通りの日常だ。

 

 誰もがそう信じて疑わなかった。

 

 

 そういうハッピーエンドだと思っていた。

 

 

 

 

 

 でもそれは、物語の話で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現実は、もっと残酷で苦いものだということを思い知ることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ええ。交戦は行われることなく……え?」

 

 ──異変の始まりは、戻っていく防衛軍。

 ただ撤収するにしては、やけに慌ただしく戻っていく。

 今しがた届いた情報に、史房が見たのは。

 水平線に見えるヒュージネストがきらめきを放つところ。

 灯台に導かれる船の如く、姿を現したのは巨大なヒュージ。

 推定でもギガント以上はある、山のような体躯。

 そいつが海上を陣取っていた。

 それも、通常兵器やCHARMの攻撃が届かないような沖合を、だ。

 

 やがて、周囲を浮遊する小型のドローンにも似た個体が集う。

 その数、9体。

 1体1体が円状の魔法陣を展開し、円を描くように並ぶ。

 全てが光を帯び始めた瞬間。

 旧鎌倉市街地に待機していたレギオン『レギンレイヴ』──通称『水夕会』のリリィたちの脳内に本能的な警鐘が鳴り響く。

 

「っ、退避!!」

 

 水夕会副隊長たる六角汐里の絶叫と。

 鏡で日光を集めるように、一点に集中した光が発射されたのは。

 ほぼ同じタイミングだった。

 青白い砲撃は海を割り、地を焼く。

 結果として、少女たちへの直撃は免れた。

 砲撃精度自体は高くないらしく、衝撃波で吹き飛ばされるだけに留まった。

 

 しかし、驚くべきは繰り出された攻撃だ。

 

「……大気が、引き裂かれて……!?」

 

 威力そのものにも、確かに汐里は目を疑った。

 それ以上に、攻撃そのものがよく知っているものだったから。

 9体の小型ヒュージ、一点に集められたマギの光線。

 そうして生まれる、圧倒的な破壊力。

 

 ──その正体は、ノインヴェルト戦術。

 浮遊するヒュージが9体なのは、ノインヴェルト戦術に必要な正式人数をなぞっているからと考えれば納得がいく。

 だが、リリィの奥の手をヒュージが模倣してくるなんて誰が予想できるだろうか。

 

 

 

 

「なんだ、あのヒュージ……」

「マギを直接、攻撃に使ってる……!?」

「そんなことをしたら、あっという間にマギがなくなっちゃうのに……」

 

 その異常性に気がつき始めた一柳隊も、険しい表情になっていく。

 どうにかしようにも、彼我の距離が大きすぎる。

 まず、CHARMの通常攻撃は届かない。

 ノインヴェルト戦術も、パス回しの隙に砲撃が来たら終わりだ。

 本来はヒュージを牽制しながら、パスをするものなのに。

 これでは牽制もへったくれもありはしない。

 それに、もしパス回しを成功させてマギスフィアを育てたとしても。

 やはり距離の問題で、直撃は困難だろう。

 この超長距離の間に撃ち落とされるのがオチだ。

 

「あれが、ヒュージ?」

「うん……だと思うんだけど、何か……」

 

 まだまだリリィとしては未熟な梨璃ですら、海上のヒュージに違和感を覚えていた。

 

 ──ヒュージはマギに操られることはあっても、自ら操ることはない。

 ……そのはずだ。

 以前、ノインヴェルト戦術すら凌いだヒュージもそうだが。

 やはり何かがおかしい。

 今までになかった手を使ってくるようになってきている。

 

(どうして……)

 

 強いて心当たりがあるとすれば、取り込まれたCHARMが何かしら変化を与えたことくらいだが。

 そこまでは夢結とて分からない。

 だが、この状況がマズいことくらいは分かっている。

 何せあの砲撃が1発でも命中すれば、何人もの命や百合ヶ丘は地上から跡形もなく消える。

 しかも、こちらから攻撃を仕掛けることは困難ときた。

 これが絶体絶命でなければ何だというのか。

 

「あのヒュージ、やっつける?」

「うん。私たちも早く百合ヶ丘に──」

 

 戻ろう、という言葉を待たずに。

 結梨はCHARMを手に駆け出していた。

 砂浜と海の境界線を前に、少女はさらに()()()()

 

「あっ!」

「あれ縮地だ! 梅のレアスキル……!」

 

 纏ったマギのオーラ。

 残像を置き去りにするほどの速さ。

 その正体は梅もよく知っている。

 だが、使用者だからこそ「何かが違う」ということに気づく。

 

「結梨ちゃん、海の上を走ってます……!」

「見りゃ分かるけど、梅だってそんなのしたことないぞ!」

「フェイズトランセンデンス……わしの技を組み合わせたのじゃ……」

 

 違和感を看破したのはミリアム。

 フェイズトランセンデンスは彼女のレアスキルでもある。

 『縮地』で加速し、『フェイズトランセンデンス』で身体活性とマギの無限化。

 それはまるで「戦技競技会で見てきたレアスキルをコピーした」とでもいうような所業だ。

 しかし、レアスキルの併用は()()()()()()()であるはずだ。

 

「それってデュアルスキラー? それともエンハンスメント……?」

 

 神琳の唱えた可能性は、結梨の現状から最も連想されるもの。

 『デュアルスキラー』は1人のリリィが、何らかの方法で2つのレアスキルを使用することで。

 『エンハンスメント』は、使用者が持つ特定のサブスキルを数秒間だけレアスキルへと昇華させるスキルだ。

 ところが、後者は強化リリィの保有するブーステッドスキルで。

 前者に至っては机上の空論だ。

 「一応存在してはいる」くらいの扱いで、強化リリィですら成功例のない代物なのだ。

 だから結局、どちらも当てはまらないはずの可能性で──

 

「じゃが、すぐにマギを使い果たして終わりじゃぞ!」

「梨璃!」

「走ったって追いつけませんわ!」

 

 夢結や楓の制止を振り切って、梨璃も後を追う。

 言われなくても分かっている。

 普通のリリィはマギを足場にして海面に立ったり、跳躍して進むのが限界だ。

 それでは()()()()()()()()結梨には追いつけない。

 

 だが、それでも。

 梨璃は行かなければならなかった。

 

「まだ無理だよ、本当の戦いなんて……!」

 

 嫌な予感が、梨璃を突き動かす。

 次第に距離が開こうとも、追いかけ続けなければいけない。

 

 ──ここで諦めてしまったら、結梨が手の届かない遠くへ行ってしまう気がしたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 駆ける、駆ける。

 海の上を誰よりも、何よりも速く。

 自分にしか見えない道を進むかの如く、走り抜ける。

 

 ミリアムの危惧──フェイズトランセンデンスの反動による枯渇は、結論として杞憂だった。

 無限化したマギで足場を作り続ける、確かにそれだけでも相応のマギを要する。

 レアスキルによるマギの無限化は、あくまで瞬間的なものでしかないはず。

 それでも、青天井にマギを行使できているのは。

 ()()()()()()()()()()()があったからだ。

 

(あそこ、()()()()()……!)

 

 海上のヒュージとヒュージネストが、マギで結ばれているのが見えた。

 ヒュージのマギと、ネストのマギが呼び合っているのだ。

 まるで、ヒュージがネストのマギを吸い取っているような状況。

 ネストからマギを供給されているとすれば、無尽蔵にマギを使えるということに他ならない。

 

 ──それと同じようなことが、結梨にも起こっている。

 もちろん、本人にその自覚はない。

 無意識のうちに、ヒュージネストからマギを横取りしているのだ。

 当然ながら、普通のリリィや強化リリィくらいでは不可能だ。

 それを可能たらしめるのは、結梨がヒュージから生まれたリリィだからである。

 

 ヒュージが接近する邪魔者を撃ち落とそうと迎撃を仕掛けてくる。

 その全てが、結梨を捉えるには至らない。

 高速で疾走し、光の乱れ撃ちを避けていく。

 

 ──止まらず動いて! 相手に隙を作らせれば、勝機はある

 

 それは戦技競技会で、結梨にかけられた誰かのアドバイス。

 どれほど強大な力を有していようが、当たらなければ意味を成さない。

 生きてさえいれば、チャンスは巡ってくる。

 そしてチャンスを逃さなければ、勝利は掴めるのだ。

 いくつも上がる水柱、少女は一気に跳躍する。

 

「結梨ちゃ──!」

 

 開き続ける距離の中、必死に追いつこうとする梨璃。

 しかし、結梨ほど速くはないがために。

 

「ああっ……!?」

 

 結梨を狙っていたうちの流れ弾が、梨璃に直撃する。

 かろうじてCHARMで防いだものの、弾けた光弾が四つ葉の髪飾りを砕く。

 その衝撃で体勢を崩し、梨璃は海へと突っ込んだ。

 それでも結梨は振り向かない。

 もしかすると、梨璃が止められたことにも気づいていないかもしれない。

 

 ──いつか戦うべき時、戦わざるを得ない時が来るわ。貴女の意思に関わらず……

 

 前に夢結が言っていたことだ。

 今の結梨なら分かる。

 それは、この瞬間だ。

 

 だって、ヒュージは何を攻撃した?

 ──結梨の居場所である、百合ヶ丘を攻撃した。

 では、ヒュージとは何だ?

 ──人類を脅かす、リリィの敵だ。

 そして、リリィとは何だ?

 ──ヒュージを倒し、大切なものを守る存在だ。

 

 

 

 

 なら、一柳結梨は何だ?

 

 

 

「やああああっ!!」

 

 叫んで己を奮い立たせる。

 海だけではなく、空すら駆けて敵を捉える。

 新生の主に応えるように、マギクリスタルコアがさらなる輝きを放つ。

 

 まずは1つ、浮遊する端末が縦一文字に叩き斬られる。

 ガラスの如く砕けた魔法陣を確認もせずに、また1つ。

 横に真っ二つにすれば、煙が青空に咲いた。

 

「──わたしだって戦える! だって百合ヶ丘のリリィだもん!!」

 

 グングニルの刃が極光を纏う。

 ネストとマギクリスタルコアから溢れた光が、共鳴するように弾けていく。

 尽きることなき無限のマギが、少女の武器を無敵の必殺剣へと変えていく。

 ──このヒュージを倒せば、自分だってリリィになったと証明できる。

 梨璃たちと同じリリィになるのだ。

 そうすれば、ずっと梨璃たちと一緒にいられると信じて──!!

 

 3つ、4つ、5つ──一気に切り捨てる。

 結果を確かめずに、水上を滑るように動き回る。

 同じ場所に留まるな、常に動き続けろ。

 百合ヶ丘を、守るために!!

 

「はぁっ!!」

 

 大きく振りかぶったグングニルが、瞬く間に何倍もの長さに伸びる。

 結梨自身もマギの輝きを帯びて、さらに出力を強めていく。

 そして──

 

「やぁあああああああああああああ!!!」

 

 ──振り下ろす。

 鞭のようにしなるマギの長剣を、巨大な襲撃者目掛けて。

 圧倒的な力が、ヒュージの体を食い荒らしていく。

 あれほど厄介だった敵は、呆気なく斬り伏せられ。

 あまりにもあっさりと終わりを迎える。

 そう、これで終わりだ。

 

 

 初めての実戦とは思えないほどの成果を掴み取った──()()()

 

「──あ」

 

 パキン、と砕けたマギクリスタルコア。

 木っ端微塵になってしまったのは無理もない。

 限界以上のマギを流し込まれ続けて、ここまで持ち堪えたのは最早奇跡だ。

 マギを失ったCHARMは、単なる鉄塊へと成り下がる。

 結梨もまた、限界を超えて力を出し切った。

 故に、結梨はもう動けない。

 逃げることも抵抗することも、叶わない。

 ヒュージを焼いた七色の光は、少女すら呑み込もうとしていた。

 

(梨璃──)

 

 だが、結梨は晴れやかな笑みを浮かべていた。

 後悔なんてない。

 あまりにも短い時間だったけれど。

 多くの思い出ができた、多くの仲間ができた。

 大切なものをたくさんもらった。

 そして、その大切なものたちを守って散るのだ。

 それに何の不満がある?

 

(──わたし、できたよ)

 

 独りになってしまうのは寂しくなるけれど。

 こんなにも温かい思い出があるから。

 胸いっぱいに思い出を抱きしめて、光に身を任せる──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キュイ──────ッ!!」

 

「え……?」

 

 ──そんな結末を是としない小さき竜が、流星となって飛来する。

 見たことはないけれど、その声は結梨にも聞き覚えがあって。

 

「アル──」

 

 少女の呟いた名は、開いた竜の(あぎと)に呑まれて。

 その意識を、一度手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「キュイ──────ッ!!」

 

 熱い。

 痛い。

 苦しい。

 ヤバいマズい本当にヤバい。

 咄嗟の判断で飛び込んだけど本当にマズい。

 これはマジで死ぬやつだ。

 飛び込んだ瞬間、尻尾と足が消し飛んだ。

 感覚が急に消えた。

 

 怖い

 

 怖い怖い死ぬかもしれない死にたくない

 

 怖い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ──

 

「キュ────────ッ!!」

 

 死の恐怖に狂いそうな思考を叫んで叩き戻す。

 吹き飛びそうな意識を痛みで繋ぎ止める。

 人間で一番硬いのは頭蓋骨だったはずじゃあそっちにマギを回せ守り切るんだ

 消された部分に回復力いかせるな頭に回して結梨ちゃんを守りきれ

 思考を止めるな考えろ考え続けろ!!

 

 ああああチクショウダメだダメだ全然足りない防御力が足りないマギが足りない何が足りないチクショウチクショウ翼が吹き飛んだ腕が吹き飛んだ胴体も吹き飛んだ散ったマギを取りこぼすな無駄にするな!!

 死にたくない死なせるもんか助けるんだ死んでやるもんか生きてみんなのところに帰るんだ!!!

 

 

 守るって、決めたんだ

 

 ()()()()約束したんだ

 

 だから、だから……ッ!!

 

 

 ここで折れるな

 負けんな

 退くんじゃねえ

 死ぬんじゃねえ

 あんな結末にさせてたまっかよおッッッ!!!!

 この中にある命、守ってみせろよ『アルビオン』ッ!!!

 

「キュ──ッ!!」

 

 ──ふと、走馬灯が見えた。

 死を逃れようとする脳の悪あがきだっけ

 

 百合ヶ丘の思い出が、一柳隊と過ごした日々が。

 前世の思い出が、あの子の笑顔がよぎって。

 

 CHARMパクったヒュージが吹き飛んで、ダインスレイフのヒュージは何、を──!!

 

「イイイイイイ──────ッ!!!」

 

 閃いた

 

 手を伸ばせ

 奪い取れ

 何がなんでもやってみせろそうじゃないと俺どころか結梨ちゃんも死ぬんだぞ!!

 他のヒュージどもにもできたんだ俺だってできるだろ俺たちの明日を掴むために──!!!

 

 ──繋がった、でも完全じゃない

 上等だ、引き出せる分全部奪ってやるよ

 命以外の全てを賭けるつもりで、運命に抗ってやらァッッ!!!

 そして、生きてみんなのもとへ──!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 少女たちは見ていた。

 結梨が光に呑まれたのも、小さき竜が飛び込んだのも。

 

 そして『声』を、誰もが聞いた。

 

(──死なせるもんか)

 

「え?」

「何、この声……」

 

 力強く響く、決意の声。

 

(助けるんだ死んでやるもんか)

 

 誰も知らない声だけれど。

 ただ一人、聞き覚えがあって。

 

「──アルンだ」

「梅様……?」

「これっ、()()()()()()!!」

「待ちなさい、梅っ!」

 

 今にも飛び出そうとしていた梅の腕を、夢結がかろうじて掴んで止める。

 珍しく取り乱した仲間を取り押さえようと、異常を悟った楓や鶴紗も駆け寄ってきて。

 

「どうなさったんですの!?」

「梅が、この声を聞いた途端にっ、こうなって……!」

「離せ! 離してくれよ!!」

「しっかりしろ先輩!」

 

 エメラルドの瞳から、ポロポロと涙をこぼして。

 

「あいつ、いなくなるかもしれない……前にこの声、聞いた時もっ、そうだったから……!」

 

(生きてみんなのところに──)

 

 『声』はそこでぷつりと途絶えた。

 

 ……それから程なくして、光は爆発へと変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 夕焼けで真っ赤に染め上げられた海岸は、さぞかし美しい光景を生み出していることだろう。

 その景色は、誰もが見惚れて感嘆の声を漏らしたに違いない。

 

 

 ──こんなことにさえ、なっていなければ。

 

「朝は、結梨ちゃんの髪を切ってたんですよ。少し、伸びすぎてたから……」

 

 海岸は、波の音以外には何も聞こえない。

 

「昨日だって、アルンさんは楽しそうにお話ししてくれたじゃないですか……」

 

 故に、震えるような梨璃の声でもよく聞こえた。

 砂浜に突き立てられた、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それは2人の辿った結末を察するには充分すぎた。

 

「結梨ちゃんとアルンさん、笑ってて……私も……なのに……」

 

 主を見失ったグングニルは、まるで墓標のようで。

 帰ってこない持ち主を待ち続けている。

 その前に、梨璃は座り込む。

 ただ、CHARMに縋りついて。

 

「なんで……」

 

 ぱたっ、と砂に水が落ちる。

 少女の問いに、答えられる者はいない。

 つい先程まで側にいた結梨も、つい先程戻ってきたアルンも。

 もう、そこにはいなくて。

 梨璃はそれを、すぐには受け入れられなかった。

 ……梨璃だけではない。

 誰もが、現実を受け入れられなかった。

 




課題やらバイトやらがド修羅場なので、これが今月最後の投稿です。気になるところで止めておくスタンス。

【キャラ設定】その36

本人に自覚はないが、オリ主の転生特典として「本気で死が迫る危機を認識すると、深層意識がテレパシーになって周囲に伝わる」という能力がある。謂わば隠しステータス。
この声は異能やマギの有無に関わらず聞こえるため、リリィどころか一般人でも聞こえる。
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