転生先が百合キャンセラーのバケモンとかどうにかならなかったんですか!?   作:サク&いずみーる

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今回は結構難産でした。いや、流れは決まってたけど細かいところとか擦り合わせみたいなところが難しかったっていうか、ねぇ?


パンドラの箱

 ──連中から預かったはいいけど、これどうするんすか?

 

 ──新入りが連れてくるのを待てばいい。俺たちの役目は待つだけだ。

 

 ──にしても、あいつも無茶してくれるなー……こんな姿になってまで。

 

 ──仕方ない。それが奴の生き方ってもんさ。

 

 ──あ、来たんじゃね?

 

 ──新入りが連れてきやした!

 

 ──よし、お前ら! 次に繋ぐぞ!

 

 ──おうッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「髪飾り……? あの四つ葉のクローバーのですか?」

 

 一柳隊の控え室でティーセットやお茶菓子を広げて。

 夢結が皆に持ちかけた相談に、楓は確認のために問う。

 

「そういえばなくなってたかも」

「夢結様、それを探すつもりか?」

「ええ」

 

 あの日、襲撃に来たギガント級ヒュージの迎撃によって。

 梨璃のトレードマークとも言える髪飾りはなくなっていた。

 シュッツエンゲルの特権で、梨璃に面会した時も。

 彼女は髪を下ろしたままだった。

 

「とはいえ、1人じゃ無理じゃろうな」

「まさか浜辺でなくした髪飾りを探す話とは、思いもよりませんでしたわ〜……」

「頼れと言ったのは、楓さんでしょう……」

 

 不満げに夢結が小さく頬を膨らませる。

 大方、海岸に流れ着いてはいるだろうが。

 それだって相当な面積がある。

 もし一人で探すのなら、1ヶ月あったって足りやしない。

 故に仲間を頼ったのは正解なのだが、それはそれとして難易度がすごかった。

 何せ、これから行おうとしていることは。

 砂漠で針を探すのと対して変わらないのだから。

 

「今の梨璃は、心に固い殻を作ってしまっているわ」

 

 後悔や悲しみをその内側に押し込め続ければ。

 いつかは自分で自分を呪うようになる。

 その苦しみを夢結は知っている。

 かつての自分が、そうだったから。

 周囲には手を差し伸べようとしてくれていた人もいたのに。

 見向きもしないで、ただ自分の世界に閉じこもってしまった。

 

 そうして溜め込んだ負の感情たちは、やがて自責の念へと変わり。

 自責の念は、呪いとなって我が身を刺す。

 経験者の話は重くのしかかった。

 

「まるで誰かさんのようですわね〜」

「梨璃にはそんな風になってもらいたくないの……」

 

 面会に行った時、梨璃からは感情という感情が抜け落ちているように見えた。

 以前は、ころころと表情を変える明るい少女だったというのに。

 

 ──えっ? あぁ、そうですね……なくなっちゃったんですね。

 

 自分の体調や髪飾りの存在にも気がつかないほど、梨璃は虚ろな目をしていて。

 その様子が過去の自分と重なって見えた。

 夢結はそれが堪らなく嫌だった。

 過去に囚われたままだった自分を解き放ってくれた梨璃が。

 自分と同じ結末を辿ろうとしているなんて。

 

「髪飾りを見つければ、梨璃さんが立ち直ると」

 

 断言は、できなかった。

 もしかしたら、そんなに上手く事は運ばないかもしれない。

 そもそも髪飾りそのものが見つからないかもしれない。

 

「……ああっもう! 分かりましたわ! やりゃあいいんでしょう!」

 

 迷いに揺れる沈黙をヤケクソじみた言葉で楓が吹き飛ばす。

 可能性があるなら、少しでも努力はしてみるべきだ。

 

「奇跡は自らの手で起こすものです。普通の人なら無理だとしても、わたくしたちにはレアスキルがあります」

「探し物に便利なレアスキルなんてあったか?」

 

 ドーナツを両手に、もしゃもしゃと頬張る鶴紗に。

 神琳は作戦を告げる。

 リリィは単一よりも、協力によって真価を発揮するものだ。

 それと同じでレアスキルもまた、組み合わせることで無限の可能性を引き出すことができる。

 

「特にわたくしのテスタメントは増幅系のレアスキルですから、それで知覚系のレアスキルを強化して──」

「そっか! 私の鷹の目を強化して貰えばいいんですね」

「あら、わたくしのレジスタだって知覚系ですわよ」

「ならばわしは、フェイズトランセンデンスでマギの供給か。雨嘉と鶴紗は……何じゃったっけ?」

「私のは天の秤目。ナノレベルで対象の位置を把握できる」

「ファンタズム。未来予知みたいなもん」

 

 仲間がいれば、可能性はどんどん広がる。

 抽象的だった作戦内容が鮮明に見えてくる。

 砂漠の中の針を探すことだって、先の見えない困難ではなくなってくる。

 思っていた以上に幸先が良さそうだ。

 

「知覚系が多いのは幸いね。ええと夢結様は……あっ!」

「私のルナティックトランサーなんてどうせ馬鹿みたいに暴れるだけで……」

 

 はっきり言って、神琳は油断していた。

 レアスキル関連で、ある種の地雷を抱えた夢結のことをすっかり忘れていたのだ。

 その結果が、これだ。

 (人のことは言えないが)少々厄介で面倒くさい夢結の爆誕である。

 どんよりした雰囲気を漂わせながら俯く上級生の姿に、神琳は己の失態を悟る。

 

「あー気にすんな! 私の縮地だって、ここじゃ役に立たないから!」

 

 慌てて立ち上がった梅のフォローがトドメになったのか。

 より一層落ち込み始めた夢結の心が7割ほど折れてしまい。

 なんとか立ち直らせる方が苦労したかもしれない、とは後の誰かの談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ──さて、あんな風に言っておいて無責任な話かもしれないが。

 楓が今いるのは海岸ではなかった。

 適当に上手い理由を取りつけて、今日だけ探索から外してもらったのだ。

 いくらレアスキルを使ったからとて、1日で見つかるとは思えない。

 大方、今日は試行錯誤で終わりだろう。

 ミリアムのレアスキルの反動からして、神琳もそう判断すると考えてのことだった。

 

「百由様はいらっしゃいますか?」

「いるわよー……あーでもあんまり奥まで来ないでね、危ないから」

 

 楓が訪れたのは百由の工房である。

 何故ここに来たのか、と問われれば答えは一つ。

 

「お気遣いはありがたいのですが、わたくし危険に怯えるほどヤワじゃありませんのよ」

「あ、ちょ……!? って、楓さん?」

「ええ。一柳隊所属、楓・J・ヌーベルですわ」

「なぁんだ……ならいいや。入って」

 

 無遠慮にずかずかと入ってきた人物の正体が分かった途端。

 百由は遠回しな制止の声をかけることをやめた。

 彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だから。

 

 工房のさらに奥──厳重に閉ざされた重厚な扉。

 頻繁に来るミリアムにすら入らせないような空間が、この先にある。

 普段はそこそこ口の軽い百由だが。

 本物の機密事項たる案件は、この中で作業を進めるようにしている。

 鍵を開け、カードキーで解除し……となんというか彼女らしくない(しっかりした)セキュリティー。

 それを超えた先に見えたのは──

 

「ごきげんよう、()()()()()()の皆さん」

「なっ……楓さん!?」

「大丈夫、彼女は訳知りだから」

 

 百合ヶ丘の特務レギオン『ロスヴァイセ』のメンバーが数人。

 驚く少女たちに百由はひらひらと手を振る。

 ロスヴァイセはメンバー全員が強化リリィ、という特殊なレギオンだ。

 ガーデンを親とし、基本的にガーデンの直命でしか出撃はせず。

 上層部の命令に応じて、秘匿性の高いミッションをこなすことを主任務としている。

 その中でも、強化リリィ救出作戦は特に重要な任務である。

 

 そんな彼女たちが取り囲んでいたものは、一言で表すなら「()()()()」だ。

 墨をぶちまけたように黒焦げで。

 体を縮めれば、人が1人収まってしまいそうな大きさ。

 そして、一対の角。

 こんな無残な姿になってしまっても、見間違えるはずがない。

 これがピラトゥス──高松アルンの成れの果てだ。

 しかし、楓は決して絶望しなかった。

 

「あいにく、お茶を出す暇もないんだけど──」

「それより、現時点での状況を教えていただけますか?」

「良い報告ができるわ」

 

 ふっ、と口元を綻ばせて。

 百由はタブレット端末を操作し、画面を見せる。

 

「これ、何だか分かる?」

「断面図……いえ、レントゲン写真でしょうか」

「そ。この物体のX線検査の結果ね」

 

 タブレットの中に映った『頭』は、どうやら中が空洞になっているらしい。

 一応、生物のカテゴリーには含まれていたため。

 口内に該当する箇所として、空洞なのは分かる。

 だが、特筆すべきはそこではない。

 

「何ですの? この白い影」

 

 ()()()()()()()()()()()()が問題なのだ。

 何も答えない百由に、楓はわずかな思考を連ねる。

 ──可能性に辿りつくのに、さして時間はいらなかった。

 

「……結梨さん?」

「大正解」

 

 頷く百由はそのまま説明を続ける。

 

 回収された竜の頭蓋をX線にかけたところ。

 中に人が入っていることが判明した。

 その状況に、今の楓と同じく『まさか』を思ってマギを判別する特殊な機械にもかけてみた。

 予想は──的中。

 膝を抱えるような形の白い影の中に、結梨のルーンが見えた。

 だが、得られた結果はそれ以上だった。

 

「しかも、アルンさんもまだ生きてる」

「そりゃそうでしょうね」

「やっぱり驚かないかー」

「というか、どちらも既にその『確証』はありましたので」

 

 自信と信頼に満ちた目を見て。

 百由は全てを理解した日に想いを馳せる。

 

 ──傷持ちの黒猫(ウィザ)に導かれた日のことだ。

 わざわざ百由を探しにきたらしい猫に連れられて見つけたのが、この『頭』だった。

 さらに、ウィザが咥えていたメモを読んだことで。

 それが多くに知られるべき代物ではないことを悟った。

 そして、その秘匿性の高さからロスヴァイセに依頼した。

 本来ならガーデンの命令でしか動かないレギオンだが、彼女たちは快く了承してくれた。

 アルンの境遇に対する同情、ということもあったが。

 それ以上に、今まで強化リリィたちが苦しんでいる時に助けになってきた──その恩返しもあったのだろう。

 『頭』の運搬を夜間に行い、今も()()している。

 

 こっそり戻ってきた百由をとっ捕まえたのが、楓である。

 諸々の言い訳を述べようとする百由に。

 『それはどうでもいい』とばかりに、楓が差し出したのは畳まれた紙切れ。

 その確証とやらを開いてみて、百由は全てを理解した。

 

 

『楓さんへ 頼みたいことがあります』

 

 その一言から始まった文章は、拙く歪んだ文字で綴られていた。

 ()()()()戸籍や身分証を用意しておいてほしいこと。

 あまり、このことを他の人に知られたくないこと。

 特に、今大変であろう一柳隊には黙っておいてほしいこと。

 これらを楓に任せきりになってしまったことへの謝罪。

 そして、楓に対する信頼の言葉。

 あの手で書くには苦労しただろうに、必死になって残そうとしてあって。

 端々に震えていたような跡があるのは、きっと書きにくいだけが理由ではないはずで。

 

『必ず戻ってきます。それまで信じて待っていてください』

 

 最後の言葉は切実さが滲んでいた。

 アルンは仲間に嘘を吐かない。

 できない約束は絶対にしない。

 だから、楓は動いている。

 アルンが『帰ってくる』と言ったなら、必ず帰ってくる。

 なら、それを信じるのが仲間の役目というものだろう。

 

 

「そうだったわね」

 

 過去を思い返していた百由は、そっと目を開いた。

 

「わたくしには、わたくしに託された役目がありますもの」

「じゃ、そっちはお願いするわ」

「ところで、百合ヶ丘の特務レギオンがまだここにいる理由くらいはお聞かせ願えますの?」

「あぁ、うん。それも必要なことだし、活路の一つなのよ」

 

 タブレットを再び操作すると、今度はサーモグラフィーのような図が液晶に映し出される。

 どの部分も寒色系で彩られた『頭』だが。

 ロスヴァイセのリリィが触れるところだけが、温かい色に変わっている。

 

「これはマギの量や密度をリアルタイムで測定しているんだけど、全体的に少ないのは分かるかしら?」

「ええ」

 

 百由曰く、今の状態を維持するのがギリギリな量である。

 なんなら、本人の生にしがみつくような潜在意識からして。

 本能的に中にいる結梨から、少しずつ奪っていることも考えられる。

 お互いがお互いを生かし合っている状態だ。

 とはいえリリィはマギが枯渇しても、多少ふらついたり戦えなくなったりするが。

 それは一時的な状態だ。

 マギの枯渇そのものが死に直結するわけではない。

 ところが、ヒュージとなれば話は別だ。

 奴らは体がマギの力によって成り立っているのだ。

 そしてそれは、肉体が完全なヒュージであるアルンも例外ではない。

 

「つまり、アルンさんのマギの枯渇は死を意味する……と」

「そう考えるのが妥当じゃないかな。それに、リジェネレーターで治るはずの身体が治ってない。そんなことする余裕もないくらいマギが足りてないってことでしょ」

「マギの補給のためにロスヴァイセがいる、ということですのね」

「そゆこと」

 

 いわば、この行為は輸血なのだ。

 幸い、というべきかは分からないが。

 強化リリィは総じて、マギの保有量やスキラー数値が高い傾向にある。

 彼女たちなら適任だろう。

 

「で、そっちの進捗はどうなの?」

「戸籍や身分証は正直わたくし一人でどうにかできる問題ではありませんので、お父様に相談してどうにかしてもらいますわ」

「グランギニョルさまさまねー」

 

 とはいえ、何も強引に押し切ったというわけではない。

 むしろ楓の父──グランギニョル総帥の方から快諾したのだ。

 結梨の件に関する贖罪、そして未だ知らぬ恩人のために。

 返せる恩を返したい、とのことだった。

 

「とにかく! 理論上はアルンさんをマギで満たせば、晴れて復活ってわけ」

「活路は、確かに見えてきましたわね」

 

 うんうんと頷いて、百由は傍らのドリンクを一気に飲み干す。

 勢いよく机に置き、スチール缶の音が響く。

 

「私はこの物体Xを『ピトス』と名付けることにした」

「確か、ギリシャ神話のパンドラに関連した名前では?」

「ええ。そのパンドラの箱がピトスなんだけど……ほら、外で『アルンさんの頭が〜』とか言えないじゃない?」

「なるほど、隠語ですね」

「そうそう」

 

 ──パンドラの箱。

 人類最初の女性であるとされるパンドラが、好奇心に駆られて箱を開けてしまったことで。

 世界にはありとあらゆる厄災が満ちてしまう。

 閉ざされた箱の中には『希望』が残された、そんな逸話だ。

 「パンドラの箱を開ける」という言葉が、現代では『災いのきっかけ』を意味することからも分かるように。

 あまり良いイメージのない命名に感じたことで、楓はいい顔をしなかった。

 

「まぁ、そんな顔するだろうなとは思ってたよ」

「でしたら何故……」

「『箱の中には希望が残され、世界には絶望が満ちていた』……これって今の状況に似てると思わない?」

「はい?」

 

 命を落としたことになっている結梨とアルン。

 それに対して、百合ヶ丘は悲しみに包まれている。

 特に、一柳隊のメンバーにはより大きな傷を残すこととなった。

 倒せど倒せど終わりなく現れるヒュージ。

 なるほど、言われてみればそう思えなくもない。

 

「箱の中に閉じ込められた希望──言い換えれば、箱さえ開けば希望が出てくるってことじゃない?」

 

 彼女なりの解釈に、楓の目が見開かれる。

 『希望』はなくなったのではなく、ただ隠れているだけ。

 存在はしているのだ。

 ならば、引きずり出せばいい。

 アルン()さえ目覚めれば、結梨(希望)もろとも出てくると。

 悲しみを喜びに。

 涙を笑顔に転じさせる存在。

 そんな願いが込められているのだ。

 

「絶望を振り払う、希望を秘めた箱……」

「そういう考え方なら素敵だと思わない?」

 

 それならば、その名前も悪くないように思えてくる。

 見えてきた未来に、百由の顔が輝いた。

 閉ざされた物語はまだ終わってなどいないのだ。

 




工房の奥の部屋は完全に捏造です。

【キャラ設定】その38

実はこうして原型を留めていられたのはマギリフレクターを用いたから。ただし本人も火事場の馬鹿力的なアレで無意識だったし、意識がちゃんとした状態では多分使えない。
本編にもいたリフレクター使いとネストからマギを使ってるヒュージからヒントを得た。
なおマギの繋がりが不完全だったため、身体を治す分までマギが奪えなかった。
もし、土壇場で存在を思い出せなければ2人揃って消滅していたし、どちらかが欠けていれば結梨ちゃんをギリギリ守れてオリ主だけが消滅していた。
さらにこのマギリフレクターが破壊された後、オリ主の表面に付着したことで中に空気が溜め込まれた状態に。これによって結梨ちゃんの生存率が引き上げられた。
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