転生先が百合キャンセラーのバケモンとかどうにかならなかったんですか!?   作:サク&いずみーる

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人生初のファンアートをいただいて大歓喜した作者です。すごいね、ファンアートって本当にもらえるもんなんだね……!


足りないもの

「昨日の失敗を踏まえ、今日は新しい組み合わせで行こうと思います」

 

 髪飾りの捜索、2日目。

 神琳の第一声はそれだった。

 昨日はテスタメント(神琳のレアスキル)で強化された鷹の目(二水のレアスキル)に。

 フェイズトランセンデンス(ミリアムのレアスキル)でマギを一気に注ぎ込んで探すことを試みた。

 しかし、本人曰く「見えすぎる」とのことで結果は失敗。

 負担がかかり過ぎた二水に加え、反動によってミリアムもダウンしたのだ。

 

「まず二水さん」

「また私〜!?」

「安心して。今度は二水さんの鷹の目のスキルを、皆さんに分担してもらいます」

 

 一点集中がダメなら、分散でやってみる。

 何事もトライ&エラーだ。

 

「さあ、いきますよ」

「ファイト一発!」

 

 構えた2人のCHARMがぶつかる。

 フェイズトランセンデンスによって、一時的に膨れ上がったマギが弾け。

 テスタメントで、一柳隊メンバーも鷹の目が使えるようになる。

 レアスキルの強化から、使用者範囲の拡大へと用途を仕向けたのだ。

 なお、ミリアムは反動で既にダウン済みである。

 

「おおっ! 何か鳥になったみたいだ~」

「これが鷹の目か」

 

 鷹の目を行使できている証に、皆の瞳が煌々とした赤に変わった。

 二水がいつも見ている景色に感心しつつ、本来の目的へ。

 首をきょろきょろ動かすだけで、いつもより辺りの光景が鮮明に見渡せる。

 曇り空を反射して暗い色の海。

 遥か遠くに位置するヒュージネスト。

 ひたすらにまっさらな砂浜。

 しかし探す範囲を広げても、それらしいものはどこにも見つからない。

 見ている範囲に対して、探しているものが小さいから。

 当然といえば当然ではある。

 

「とはいえ、まだまだ焼け石に水ではなくて?」

 

 しばらく探している内に、効果が切れた楓はため息を零す。

 「これなら、わたくしのスキルの方が……」と進言しかけて。

 ふと、足元に目を落とす。

 

(ん? これは……)

 

 見覚えのある『それ』を。

 楓はこっそりと拾い上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 真島百由は天才である。

 生活がだらしないとか、ちょっとマッドな節があるとか問題は多々あるものの。

 ことCHARMやマギの知識や技術に関しては紛れもなく『本物』だ。

 さらに戦うアーセナルとしての評価は、普通科に進めない者の受け皿とみられる面もあった工廠科の地位向上に寄与した。

 その実力から得た『聖学工房の魔術師』の二つ名は伊達ではない。

 

「……」

 

 そんな彼女さえ唸らせる代物が、眼前の竜の頭蓋──『ピトス』と名づけられた物体である。

 表向きには死亡したとされる『高松アルン』の身体の一部にして。

 同じく命を落としたとされる『一柳結梨』を内包したものだ。

 マギの不足によって、ほぼ仮死状態のピトスに。

 リリィがマギを注入すれば、ピトスが開いて2人が戻ってくる。

 ……そのはずだった。

 少なくとも、理論や推測ではそうだった。

 

「んー……?」

「百由様……」

 

 しかし、依然としてピトスは沈黙したままだ。

 開くどころか動く気配すらない。

 

「やはり、手当たり次第にマギを注入したのが良くなかったのでしょうか……?」

「いえ、そういう問題じゃないと思う」

 

 この場における『手当たり次第』とは「不特定多数のリリィからのマギ」という意味ではない。

 

 例えば、これがリリィ同士で行う『マギ交感』──体内に蓄積した負のマギを中和する行為だったなら。

 不要なマギが混じらないように、相手を一人に固定して行うのが最適解だろう。

 だが、これはマギ交感ではなく単純な()()()()()だ。

 重要なのは量であり、必要になる量は一人では補いきれない。

 故に不特定多数でも大した問題はない。

 では、彼女の言う『手当たり次第』とは何を指しているのか。

 それはマギの種類だ。

 

「アルンさんって中身()はともかく、身体の方は紛れもなくヒュージそのものでね。ヒュージは正のマギだけじゃなくて、負のマギもエネルギーの一つとして扱ってるでしょ?」

「だから問題ない、と?」

「そうそう」

「でも、中にいる結梨さんに影響は?」

「私も最初はそれを危惧してたんだけど、杞憂だったわ」

「え?」

 

 百由の言うところによると、こういうことだ。

 先日補給に来たロスヴァイセのメンバーの一人が、誰にも内緒で負のマギを溜め込んでいたらしい。

 それでもマギの補給だけはしないと、とでも考えたのだろう。

 上手くコントロールして、正のマギだけを注ごうとしたら。

 なんとそのリリィの制御を振り切って、どちらのマギも吸われてしまった。

 それが分かったのは、負のマギによる体調不良が一気になくなったからだという。

 しかし、吸われた負のマギでアルンや結梨に何か影響が出てしまってはマズい。

 その後こっそり百由に事情を話して、確認してもらうと驚くことが発覚した。

 

「ピトスの中で、負のマギと正のマギが明確に分離されてたのよ。文字通り水と油……? みたいな感じに」

「じゃあ、結梨さんには何も影響がないと?」

「びっくりするくらいにね」

 

 それどころか、与えられた正のマギは結梨にも分けられている。

 そもそもからして、ヒュージにマギを直接分けること自体がリスクを伴うと考えられていたのだ。

 実際にはリリィに悪影響が出るどころか、負のマギを吸い取って調子を良くしてくれた。

 こうして良い誤算だらけな現状は大変喜ばしい限りである。

 

「負のマギは結梨ちゃんに影響が出ないところに隔離して、正のマギでコーティングする。そうやって封じ込めることで結梨ちゃんはもちろん、接触するリリィへの被害も極力抑えられるってわけ」

 

 しかも、集めた負のマギもちゃっかりエネルギーにしているときた。

 無意識でやってるんだろうから大したもんよ、と百由はカラカラ笑う。

 だが、そんな笑みも次第になりを潜める。

 

「つまり、エネルギー的な問題で目覚めないって線は消えた。もっと別の問題があるかもしれない」

「もっと別の問題……」

 

 中身を満たしたからといって、箱が開くとは限らない。

 根本的に開くためには、必要になるものがある。

 例えばそう──

 

「──『箱』を開くためには『鍵』がいる、とかね」

「その、鍵とは?」

「そーれが分かったら苦労してないわよー」

 

 再度頭を抱え出した百由。

 謎も課題も山積みで、思わずため息が出る。

 けれども、ここで折れてはいられない。

 楓はアルン関連の問題以外に、最近何やら他にもやることができたらしいし。

 一応上級生として、一人の科学者として。

 命を任された者として。

 できることは全て尽くさなくては。

 

「……よし、ちょっと休憩しようかな。30分くらい経ったら起こしてちょうだい」

「分かりました」

 

 さしあたっては、連日の徹夜で疲弊した頭を休めることにしよう。

 竜の少女だって、それくらいは許してくれるだろう。

 そんな結論を弾き出した百由は、夢の世界へと早急に旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ──捜索から一週間、梨璃の謹慎処分が解除される日。

 今まさに、梨璃は部屋から出てくるところである。

 

「ごきげんよう、梨璃」

「夢結様、皆さん……?」

 

 俯く少女を出迎えたのは夢結や一柳隊だけではない。

 百合ヶ丘に在籍する多くの仲間(リリィ)たちが、廊下一帯を埋めつくさんばかりに集まっていた。

 皆が見守る中、差し出されたのは四つ葉の髪飾り。

 彼女たちは髪飾り探しに難航していた一柳隊に手を差し伸べ。

 百合ヶ丘の生徒全員でのレアスキルを用いた捜索によって。

 この髪飾りをついに見つけたのだ。

 

「梨璃さん。さ、これを」

「これ……」

「さぁさぁ。いつまでもご覧になってないで、さっさとお着けになって?」

 

 朝露を浴びた若葉の如く、明かりを照り返す髪飾り。

 梨璃はずっと見つめている。

 まるで、()()()()()()それを。

 

「これ……()()()()()()()()()()()?」

「えっ!?」

「私のなくしたのとそっくり」

「そっくり!?」

「同じものじゃ……?」

 

 予想外の発言に、その場が驚きと困惑に包まれる。

 小さく首を振って、梨璃はぽつりと零す。

 曰く、彼女が使っていた髪飾りには四つ葉の1枚にヒビがあったとのこと。

 しかし、渡された方にはそれがない。

 確かに言われてみれば、不自然な点が浮き彫りになってくる。

 梨璃が髪飾りをなくしてから、そこそこ日は経ったはずなのに。

 見つけた髪飾りは不自然なほど綺麗だ。

 しかもあの日、ヒュージからの攻撃が直撃したにも関わらず、である。

 本来なら、傷の1つや2つはあってもおかしくないというのに。

 

「ほほほほほ……それはリサーチ不足……」

「どういうことかしら? 楓さん」

「い……いやですわ夢結様。そんな怖い顔して……おほほほほ~……」

 

 場合によっては、CHARMかレアスキル(ルナトラ)が飛んできそうな雰囲気を放つ夢結。

 その剣幕に、楓は冷や汗が止まらない。

 発言次第では命が危ないだろう。

 かといって、事実を事実のまま伝える以外のことも思いつかなくて。

 諦めた楓はまず懐から何かを取り出した。

 

「これは?」

「これ……これ私のです!」

 

 あまりにも無残な姿に変わり果てた『それ』が。

 本来の梨璃の髪飾りだという。

 ボロボロに歪んでいるにも関わらず、判別がつく梨璃の目には驚くが。

 それ以上に謎なのは──

 

「──梨璃さんの髪飾りが2つ?」

「新しいのは、楓さんがご自分で作ったんです」

「汐里さん!?」

「どういうことだ?」

 

 頭をバリバリ掻いて、令嬢らしからぬ髪型になった楓は。

 髪を整えつつ、気まずそうに真実を語り出した。

 ……本物は2〜3日目に、浜辺で見つけていた。

 しかし、たとえ見つかってもこれでは梨璃を余計悲しませるだけだ。

 そう考えた末、汐里に相談。

 夜な夜な工作室に籠りきりで、同じような髪飾りを作っていたというわけである。

 

「では、今日の昼間見つけたのは……」

「あんな大がかりに捜されては、さすがに本物の在処がバレてしまいますから? 早起きして本物を仕込んでおいたんですの」

「わしらまで謀っとったとは……」

 

 次第に開き直るような、吹っ切れたような口振りに変わっていく。

 ここまで来たら最早ヤケクソだ。

 

「で、わたくしが最初にそれを手にして、昨夜できたばかりの偽物とすり替えたという寸法ですわ」

「楓が、そんな手の込んだことを……」

 

 だから、髪飾りを見つけた時に楓が真っ先に飛び出した。

 ……まさか上級生に飛び乗っていくとは思わなかったが。

 それもまた、他の部分でインパクトを強めておくことによって。

 本命を目立たなくすることを狙った作戦だったのだろう、多分。

 周囲の驚きの声が強くなる。

 楓はついにドカッと座り込んだ。

 

「ええ、ええ、ええ、ええ! 梨璃さんや皆さんを欺いたのは紛れもない事実ですわ! 煮るなり焼くなり好きになさってくださいまし! バレたらバレたで、わたくし一人が全ての責めを負えば済むことですもの!」

 

 いっそ清々しささえ感じる自供。

 正々堂々した性格の彼女らしいといえばらしい行動ではある。

 

「思いっきり汐里を巻き込んでるし」

「いえ、あたしは工作室をお貸ししただけで。何をなさっていたかはここで知りました」

 

 詳しい事情は教えることなく半ば強引に要求を通していた、と。

 要はそういうことで。

 言い方は悪いが、それなら汐里は利用されただけ。

 確かに責任を追及されることはないだろう。

 

「楓……」

「な……何ですの?」

 

 梅が少し低い声で見下ろす。

 その様子に、楓は一瞬身構えて。

 

「お前、いい奴だな!」

「うんうん」

「えっ?」

 

 本人からすれば予想外の反応に、思わず呆けた声が出る。

 そして、不意に飛び込んできた桃色が楓を包み込む。

 

「ありがとう、楓さん」

「ど……どういたしまして」

「それに皆さんも。楓さんの言うとおりかも。この髪飾りだけだったら私、つらいことしか思い出せないかもしれない」

 

 左手の中の歪んだ髪飾りは、確かに苦くて悲しい思い出になってしまった。

 だけど、と。

 その右手に握った新しい髪飾りは。

 

「こっちのもあれば……みんなの気持ちを感じて嬉しい気持ちになれるから。私には、どっちも本物です」

 

 百合ヶ丘の皆が、梨璃のために。

 元気になってほしい、励ましたいと。

 また笑顔を見せてほしい一心で頑張ってくれた。

 そんな温かい気持ちは、凍てつきかけていた梨璃の心を解かすのに事足りた。

 

「は……はあ。それはあれですわね、狙い通りってやつですわね。はは……」

 

 いつもはセクハラ紛いのスキンシップを仕掛ける側の楓だが。

 いざ梨璃から来られると弱いらしい。

 どこか照れたような表情は滅多に見ることがないものだ。

 その様子に夢結は柔らかい笑みを見せた。

 

「お立ちなさい。私からもお礼を言うわ。ありがとう楓さん」

「そんな! わたくしは梨璃さんのためにしたんです。夢結様にまでお礼を言われる筋合いはございませんわ」

「『シュッツエンゲル』として。姉として言っているの」

 

 夢結が素直に礼を言ったかと思えばこれだ。

 なんというか、マウントを取っているような発言。

 威勢を崩してやろうと楓は余裕の微笑を浮かべる。

 

「あーそれはあれですわね。『梨璃さんは私のものよ。渡さないわ』というわたくしへの牽制ですわね」

「ええ。その通りね」

「く~っ! 認めましたわね!」

「もうやめとけ。お前はよく戦った」

 

 鶴紗の辛辣な一言に、楓は「きぃ〜っ!!」と声を上げて。

 いつも通りとも呼べる光景が、少女たちの笑い声を誘った。

 

「ふふふ……あ、あれ?」

 

 梨璃の視界がじわりと滲み出す。

 瞳はやがて熱を溢して、それが涙だと理解するのに少し遅れる。

 周りも、突然涙を溢れさせる梨璃に困惑したが。

 それ以上に、一番驚いているのは本人で。

 

「どうしたんだろう……嬉しいのに、何で……っ」

 

 感情と反応が矛盾する。

 でも、一度自覚してしまえば止まらなくて。

 ついには声を上げて、拭いきれないほどの涙を流していた。

 

「お泣きなさい梨璃。今のあなたに必要なのは……何でもいい、自分の気持ちを表に表すことよ」

 

 泣いている姿は弱々しいけれど。

 それを咎める者なんていない。

 むしろ、それでいいのだと許されたことで。

 少女の中でずっと押し込められていたものが溢れていく。

 

「わたしっ……守れなかったんです! 結梨ちゃんを……私がっ、ちゃんとしなくちゃいけなかったのに……だからっ、アルンさんもいなくなってぇ……!」

 

 嗚咽混じりの本音を吐き出す。

 感情が決壊して、涙に変わっていく。

 ずっと悲しかった。

 悔しかった、情けなかった。

 レギオンの隊長なのに、世話役を任されたのに。

 大切な仲間を失ってしまった。

 自分が守らなければいけなかったのに。

 自分の代わりに、守ろうとしてくれた仲間まで失って。

 それが、今まで受け入れられなかった。

 

「うあああああああああああ……!!」

「貴女はできるだけのことをしたわ。あれは……誰にも防げなかった。アルンさんのことも、結梨のことも……決して貴女のせいじゃない」

 

 抱きしめてくれる姉の胸の中で、梨璃の泣き声が激しさを増す。

 その様子に、もらい泣きする者もいた。

 1週間も溜め込んでいた感情たちを吐き出し切るには、まだ時間がかかるだろう。

 でも、彼女は仲間を失ったことを受け入れた。

 ならば、たくさん泣いた後は前に進めるはずだ。

 つらいことは皆で支え合っていけばいいのだから。

 

 

 

(梨璃さん……)

 

 愛する人の悲痛な姿に、楓は心が締めつけられるのを感じていた。

 密かに爪が食い込むほど手を握りしめる。

 ……本当は、伝えてしまいたかった。

 2人はまだ生きている、と。

 だから、悲しむことはないと伝えたかった。

 でも、それでは竜の少女との約束を破ってしまう。

 

 そもそも、アルンが情報を伏せるように頼んだのは。

 ただでさえ仲間をなくして、心が不安定気味になった梨璃のためだ。

 確かに梨璃は強いが、念のためということだろう。

 正反対の情報を一気に流し込めば、混乱させてしまうかもしれない。

 いや、混乱するだけならまだいい。

 最悪の場合、壊れてしまうことも考えたのだろう。

 そういうアルンの考えも汲み取っているから、楓は何も話せない。

 そして楓なら約束を破れないと思ったから、アルンも彼女を選んだ。

 

(……全く、卑怯な方ですわね)

 

 戻ってきたら覚悟してくださいませ、と。

 楓は心の奥底で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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──……ここ、は?

 

 声に出してるつもりなのに、声が聞こえない。

 でも、自分がなんて言ったかは理解できる。

 ……何この変な感じ。

 

 ふと気がついたら、ここにいた。

 見上げれば雲一つない『青』が広がっていて。

 見下ろせば一面の『白』が咲いている。

 ……ああ、知ってる。

 この花のことを俺は知っている。

 あの子の誕生花だったから。

 あの子が大好きな花だったから。

 忘れない、忘れるわけがない。

 

──じゃあ、俺は死んだのか?

 

 答えてくれる奴はいない。

 必然的に、疑問は答えに変わった。

 俺は、死んだんだ。

 だって、俺の最後の記憶はこんな花畑じゃない。

 結梨ちゃんを守るために光に突っ込んで……

 

──っ、そうだ結梨ちゃんは!?

 

 辺りを見渡してみて、見えるのは花と空だけ。

 あの薄紫の髪は見当たらない。

 じゃあ、結梨ちゃんは大丈夫だったのか……?

 

──……なら、良かった。

 

 約束、1つは守れたみたいだし。

 危うく約束1つ守れない、とんだクズ野郎になるところだった。

 ()()()()()()()は……ずっと頑張って守ってきたんだけどな。

 年貢の納め時、ってやつか?

 生きてきた分の話で許してもらえるかな、なんて考えて。

 ……なんとなく『手』を見下ろす。

 『そこにある』って分かるはずなのに。

 輪郭がぼやけて、姿が認識できない。

 直接聞こえもしない声で乾いた笑いが出た。

 

 もう、疲れた。

 約束も守れないような奴で、ごめんな。

 そうやって、視界を閉ざそうとして。

 

「────」

 

──っ!

 

 青と白しかなかった空間に、()()()()()()()()を見つけて。

 思わず『駆け出して』、その腕を『掴んだ』。

 声はちゃんと聞き取れなかったけど、多分そうだ。

 相手はひどく驚いていたけど、その辺は許してほしい。

 

──そんな急いでないで、ちょっと俺とお話しましょうよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──()()()()()

 

 彼女だけは、今行かせちゃいけない気がしたから。

 




ここで伏線の解説を放り投げておきます。

37話最後のシーン、33話冒頭
→2話でじゃれてたイルカたち。「明らかな異変を感じたら、その場所に行って異変の痕跡っぽいものを海岸にいるはずの猫に渡してほしい」と頼まれた。
余談だが、本作ではここで父親デビューしたイルカの子どもが『真夏のエスコートナイト』に登場したイルイル。

38話冒頭、32話冒頭
→おーやさんを始めとした拠点の猫たち。「近いうちにイルカがなんか運んでくるから、それを隠しといて。で、隠し次第ウィザを百合ヶ丘に派遣しといて」と頼まれた。


【キャラ設定】その39(今回は自分用まとめ)

『ピトス』の仕組み仮説と現状

1-1 結梨ちゃんを守るので精一杯なマギの残量
→なんならそれでも足りないから、自然回復する結梨ちゃんから少しずつもらってる(身体を守られている結梨ちゃんとマギを受け取っているオリ主の生命線的な依存関係)
1-2 ロスヴァイセに頼んでマギを譲渡
→マギが十分集まればリジェネ発動で意識も戻る?
(オリ主の体は一応ヒュージだから、触ったら負のマギが入ってきたりしない……?)
→しない。

2-1 マギが集まっても開かないピトス
→「負のマギまで入れたのがマズかったんじゃね?」(そんなことない)
2-2 入れた負のマギによる結梨ちゃんへの影響
→「全然ないし、それどころか負のマギ入れたリリィが元気になっとるが?」(負のマギも自分でリサイクル)
2-3 開かないのは何故?
→「他になんかいるんちゃう? 知らんけど」(今ここ)



今回の話を書くにあたって本編10話を見返していたのですが、梨璃ちゃんが泣き出すシーンでぐずぐずにもらい泣きしました。危うく完成しなくなるところだった……
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