転生先が百合キャンセラーのバケモンとかどうにかならなかったんですか!? 作:サク&いずみーる
いつもの俺なら『イマジナリーセイバーだ!!!』とかほざいて一人で軽くハイになってたと思うんだけど。
生憎今の俺にそんな余裕はないし、そんな場面でもないわけで。
「何のつもりだい?」
ともすれば挑発しているようにも見える琥珀の瞳が俺を射抜く。
そうだよ、咄嗟に腕掴んじゃったけどどうするつもりだよ。
バカ正直に『オメーが夢結様の前に化けて出るからだよ』って言うのも違うだろうし……
『Eランクの直感が俺に囁いたので』ってか? 却下だボケ。
そういう場面じゃないんだってば。
……ああ、ダメだこりゃ。
自分で思ってた以上にパニクってやがる。
クソッ、何に動揺してんだ俺は!?
……って、まあ。
強いて言えば全部に動揺してたわ。
──いや、なんか急いでるなと思ったので。なんでかなーと
伝わるのか一瞬不安になったけど。
鋭い目つきが少し柔らかくなった様子からして、一応なんとかなってるっぽい。
「君のことは知っているよ。ヒュージの肉体を有しながら、リリィの心を持って人類に味方する異端の竜」
まあ、そのくらい『見てたよー』とか言われても驚かんけどな。
イマジナリーお姉様ならやりかねない。
そう、思った矢先に。
「──そして、
続いた言葉はさすがに度肝を抜かれた。
そこまで見透かされてんのかよ……
無意識に身構える。
ワンチャン敵対する線も浮上してきやがった。
正直勝てる気がしないから避けたいルートだったんだけど。
「そこまで警戒しなくてもいいさ。僕に敵対の意思はないよ」
君が敵にならない限りはね、と付け加えて。
美鈴様はひらひらと手を振る。
「それに君に前世があると分かっただけであって、前世の内容そのものに触れたわけでもない」
──……それだけでも充分情報漏洩だと思いますけど。
「セキュリティーが甘いんじゃないかな」
プライバシーはどこに行ったのか。
その言葉は呑み込んでおく。
おかげで気が紛れたし。
──それはさておき、何をそんなに急いでるんですか?
「急いでいるように見えたかい?」
──そりゃもう。
「そんなつもりはなかったんだが……」
なんというか、掴みどころのなさそうな微笑み。
顔も整ってるから『落とそう』と思えば落としてそうだよな……
……じゃなくて。
──なら、あまり下手に動かないでもらえます?
「どういうことかな」
──直接関わってるのか分からないですけど、あなたのシルトが美鈴様の幻影を見て苦しんでるんです。
血迷ったとか、うっかりというわけではない。
考えた上で言ったことだ。
やっぱり変に嘘ついて、時間稼ぎみたいに引き止めても。
それは単に問題を後回しにしてるだけ。
ならいっそ、正直に言って解決や対策に繋げるべきだ。
もちろん、目の前の美鈴様をどうにかしたからって。
夢結様が幻を見なくなる確証はどこにもない。
でも、どうにかできるヒントくらいは得られるかもしれない。
それに……それ以上に。
『アサルトリリィ』という
せめて、そのことを訊かないと気が済まない。
「そうか……夢結が」
小さく呟いた美鈴様は空を仰ぐ。
どこまでも青い、澄んだ空を。
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「また徹夜?」
「ええまぁ、気にしないでー。好きでやってるから」
百由に呼び出され、夢結は彼女の工房を訪れていた。
CHARMのメンテナンスがある度に来てはいるのだが。
来る度に、ここ一帯の汚さが更新されている気がする。
以前それとなく聞いた時は「ぐろっぴに手伝ってもらってるのよー」と言っていたが。
最早それも追いついていないように見える。
「毎日ご苦労様ね」
「えっ? あんた今私に気ぃ遣った?」
「いえ、別に……」
「うそうそうそ! 孤高の一匹狼としてリリィからも一歩引かれたあの白井夢結がよ!?」
……一体夢結を何だと思っているのか。
それとも今までの行いのせいなのか。
心底驚いた様子の百由に、ジトっと視線を向ける。
まあ、照れを含んだその目では大した圧にならないのだが。
それでも、視界の端に映った青白い光に。
『世間話がしたくて呼ばれたわけではない』ということを理解する。
「あー、回りくどい前置きは後回しにして……後回しにしたら後ろ置き? 違うか、ごめんね」
私もちょっと覚悟がいるのよ、と付け加えて。
自分の頭に置いていた手を下ろす。
ふー……と呼吸を整えて、真剣な表情で百由は本題へと切り込む。
「聞きたいのは、美鈴様のこと」
「CHARMのことではないの?」
淡く光を放つ大剣──ダインスレイフが置かれていることから。
てっきりCHARM絡みの話だと思っていた夢結には寝耳に水だった。
そもそも、このCHARMは夢結が契約していたものだ。
しかし2年前の甲州撤退戦で、最後に使ったのは美鈴である。
とはいえ百由はその場にいたわけではないから、それを知っているはずがない。
なら、何故知っているのか?
答えはダインスレイフに隠されていた。
「このCHARMね、術式が書き換えられているの」
「えっ?」
「知らないか。じゃあカリスマのことは?」
「カリスマ? お姉様が?」
百由は夢結の目を見て頷く。
カリスマは本来、リリィ同士で使うレアスキルだ。
仲間の士気を高め、結果としてレギオン全体の能力を向上させる。
その性質から『支配のスキル』と称されることもある。
だというのに、だ。
「美鈴様はリリィではなくヒュージに対してそれを使った形跡があるの」
マギとはヒュージを使って、古い秩序を破壊し。
新しい世界を生み出す意志だとする説もある。
それが一体何者による意志なのかは謎だが、この際そこは問題ではない。
最近百合ヶ丘の管轄で出現したヒュージの行動には、今までになかったパターンが現れるようになった。
まるで何かがヒュージを狂わせ、闇雲な凶暴性が増しているようなそれは。
ダインスレイフを回収した戦いの前後と一致する時期に起こった変化である。
ここから導き出される答えは。
『2年前に仕込まれていた何かに、そこでスイッチが入った』ということだった。
「心当たり、ある?」
説明を終えて問いかける百由は。
心なしか気遣うような優しい声をしていた。
しかし、夢結は静かに首を振る。
「……お姉様は強くて優しくて、立派なリリィだった。それしか分からないわ。ごめんなさい」
「いいから。気にしないで」
不自然なくらいに美鈴に関わる
『品行方正で、その立ち振る舞いには一点の曇りもない優秀なリリィ』
それが皆の共通認識だった。
何かちょっとした欠点くらいあってもいいはずなのに、そういった話が一切存在しない。
加えて、公式の記録と想定されるレアスキルの齟齬。
あれほど一緒にいた夢結ですら、『姉』のことを知らない。
よく考えてみれば、おかしい話ではないか。
小さかった違和感は、気づいてしまえば根拠を拾って大きく膨らんでいく。
その変化は夢結も感じ取っていた。
「私ももう少し考えてみる。何か思い出せたら、また顔を出すわ」
「ええ、ありがとね」
そして夢結は工房を後にする。
確かに、この一件に関して成果はなかった。
それなのに、百由の口元は緩やかな曲線を描いていた。
「そんな簡単に昔に戻れるわけない、って思ってたけど……」
2人の間には甲州撤退戦から続く問題が残っている。
ささくれ立ったそれのせいで穏やかに話す機会どころか、メンテナンス以外ではまともに取り合ってもらえないとすら思っていた。
でも、こうして気を遣ってくれるくらいには関係が戻ってきている。
それに『本来』ならば。
白井夢結は『姉』の幻覚によって苦しめられ、不安と懐疑に精神を揺さぶられていたことだろう。
しかし、ここにいる彼女は違う。
確かに彼女の心は今も決して強くない。
それでも仲間が支えてくれていることを知っている。
前を向いて真っすぐ立っている。
もちろん、人知れず動いている竜の少女のサポートもある。
だが、最も彼女が『原作』以上に安定している理由としては。
だから、前を向いていられる。
蜘蛛の糸を掴むような弱く淡い希望な上に。
推測でしかないから、誰にも伝えないけれど。
「思ってたより何とかなりそうね」
そんな夢結の心情は分からないが。
百由は嬉しい変化に頬を緩める。
そして一人になった工房で、『弱く淡い希望』を確実なものに変えるために。
彼女もまた動き出すのだ。
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「ヒュージとリリィの違いは何だと思う?」
空から俺へと視線を下ろした美鈴様は、第一にそう言った。
ヒュージと人間の間を行ったり来たりしてる俺にそれ訊くか。
──リリィには心があります。大切な人を守りたい、故郷を守りたいっていう意志の力が彼女たちを強くするんです。
美鈴様は興味深そうに微笑みを深めた。
「リリィは迷いや弱さを抱えたまま戦う。人を超える力を持つことへの恐れや、それが命を懸けて守る価値のあるものだろうかという問いを抱えたまま……この違いは何だろうね?」
……内容が難しいったらない。
勘弁してくれよ、俺も頭良いわけじゃないし。
そもそも俺は哲学をしに来たわけじゃないんだ。
夢結様なら『正しい答え』を返しただろうけど、俺は俺の答えを返させてもらおう。
──そんなの分かりませんよ。それが『心を持つ』ってことなんじゃないですか。
俺にも聞きたいことがあります、と前置きして。
了承も得ずに勝手に質問を投げかける。
──どうして夢結様に何も伝えなかったんですか?
「──何も、って」
──レアスキルのこと、美鈴様自身のこと……いや違うな、あなたが自分のシルトに抱いていた想いをなんで黙ってたんですか?
今度は美鈴様の表情が苦くなる番だった。
踏み込まれたくないデリケートな話だっていうのは簡単に察しがついた。
「君こそ、一体僕の何を知っている?」
──隠しごとを山ほど抱えて命を落としたことなら。
「ふーん……」
……怯むな。
例え目の前の
自分に言い聞かせる。
ここで退いたら何も進みやしない。
意地で恐怖心を黙らせる。
強く意志を灯せば、美鈴様がついに折れた。
「僕のレアスキルが何だか知っているかい?」
──カリスマ……いや、ラプラスですよね。
アニメ本編では周りの認識とは違って、カリスマだったとされて。
その後に上位スキルのラプラスじゃないかって言われてたはず。
しかし、美鈴様は首を
「僕のレアスキルはユーバーザインS級、君たちがラプラスだなんだって言っているものは
──人体実験って、それは……!?
「『エンハンスメント』──ブーステッドスキルの一つ、とでも言えば分かるかな」
言葉が出なくなった。
つまり、美鈴様は強化リリィだったわけで。
しかも本当のレアスキルは、俺と同じユーバーザイン。
アニメで語られなかった事実に頭を殴られた気分だ。
「ユーバーザインは普通、超感覚を主な効果としているんだけどね。でも、S級にまで至ると他者の記憶すら操作できてしまうんだ」
まぁ君が持っていたユーバーザインは普通のものだから安心してくれていいよ、なんてつけ加えてきたけど。
全然、それどころじゃなくて。
「そんなことがバレたら何をされるか分からない……そう思っていたら、皆の記憶を弄って誤魔化していた」
──え
「そうやって
──じゃあ、夢結様のことも……
「うん。僕を純粋に慕ってくれていただろう
──……っ!
自分のことがバレてしまうのが怖くて。
だから記憶を書き換えて誤魔化して。
それを続けているうちに、疑心暗鬼が深まって。
結果、他者の想いを信じられなくなってしまった。
同時に、そうやって壊してきたことが自己嫌悪を強めて。
自分のことを否定するようになったんだ。
──だから、自分と自分の世界が嫌になったんですか。
「そういうことさ」
でも、と続きの言葉を語る美鈴様は。
自嘲のそれから、眩しいものを見るような微笑みを浮かべて。
「夢結は──夢結だけは僕にとって特別な存在だ。あの子だけは僕が塗り潰してしまったこの世界に彩りを与えてくれる」
もう届かないものに手を伸ばして。
その手をだらりと下ろす。
美鈴様の表情は自嘲の笑みに戻っていた。
「僕はそんな夢結を傷つけることだけは絶対にしたくなかった。だから、もし僕が僕を抑えきれなくなった時には殺してくれと頼んだんだ」
でも、夢結様は『美鈴様を受け入れる』ことを選んだ。
今聞いた話からして、それが『自分で作り替えた気持ち』に思えてしまって。
純粋な好意として受け取れなくて、美鈴様は苦しんだんだろう。
……強化リリィであることやレアスキルを隠そうとした理由は分かった。
それ故に、孤独になってしまったつらさも分かった。
美鈴様が抱えてきた苦しみが理解できる、なんて言うつもりはないけど。
だとしても。
──夢結様を想う、美鈴様の気持ちは本物だったんじゃないですか?
琥珀の瞳が大きく見開く。
話を聞いていても、やっぱりずっと考えていた。
確かに、他人から寄せられた気持ちの真偽は分からない。
向けられていた好意はレアスキルで弄ったものかもしれない。
だからって、自分の中にある気持ちまでは嘘じゃないはずだ。
──好きだったんでしょ、大切なんでしょ。
「大切だからこそ抑えるべきなんだ。
その言葉を聞いた時、俺の中で何かが溢れた気がして。
──『好き』に邪な気持ちなんてないッ!!
空間が震える。
取り繕い気味の言葉遣いも振り切って、気づけば『叫んで』いた。
でも、そんなことはどうでもいい。
──誰かを大切にしたい気持ちに邪な気持ちなんてあるもんか! 妹を想うあんたの気持ちはどうしようもなく本物だったんだろ!
半ば掴みかかるように訴える。
「だから、伝えてしまえば夢結を苦しめる枷になってしまうと……!」
──違うッ!!
気持ちを伝えれば苦しめてしまう?
自分の感情を枷にしたくなかった?
そうじゃない、そうじゃないだろ……!
──伝えるのが怖かったんだろ!? 返ってくる気持ちが本物だって分からないから……!
この世界は、俺のいた世界とは違う。
元の世界以上に、死と隣り合わせなのが最早日常だ。
昨日まで仲良く話していた人が、明日には二度と会えなくなっているかもしれない──そういう世界だ。
だから、殊更に伝えるべきだったんだ。
だって──
──死んだら、本当の想いは伝えられないんだぞ!!
そして、伝えなかったからこそ。
夢結様も美鈴様も、苦しんできたんじゃないのか。
俺だって、伝えたいことはいっぱい伝えてきた。
それでも足りなかったのに、もう伝えることは叶わない。
大切な人と話せないのが、どれだけ悲しいことか。
大切な人と触れ合えないことが、どれだけ悔しいことか。
分からないはずないじゃないか……!
──それに『抑えられないから殺してくれ』って時点でおかしいだろ……! 『傷つけたくない』って言った口で一生モノの傷残そうとしてんじゃねーか!
「っぐ……」
そもそもの話。
『壊したくない』『傷つけたくない』なんて、まるで穢してしまうような言い方をして。
触れないようにすることを、
もっと方法があったはずだ。
そう、例えば──そのユーバーザインS級を以て、
知らなければ傷つけることもない。
傷つけなくて済むから、抑える必要もなくなる。
関係を『他人』に戻してしまえば、適切な距離が保てるだろう。
百合ヶ丘に誤魔化し続けることができたんだ、それくらいやろうと思えばできなくはないはずだ。
でも、結局しなかった。
楽になれるかもしれなかったのに、それを選ばなかった。
それは、つまり。
──夢結様の中から消えたくなかったんじゃないの?
「……っ!」
夢結様に殺してくれって頼んだのも。
『夢結様には自分のことを忘れてほしくない』って気持ちの表れなんじゃないのか。
この方法なら、良くも悪くも忘れはしないだろう。
女の子は拗らせると、そういう病んだ方法になるところあるから。
尤もその頼みは、ある意味想定されていなかった形で叶えられてしまったわけだけど。
──『大切な人には覚えていてほしい』、それは真っ直ぐな想いだ。
「真っ直ぐな、想い……」
──あんたが抱いた想いは何も間違っちゃいない。そりゃダダ漏れっぱなしはどうかと思うけどさ、伝えるくらいならよかったはずなんだよ。
歪んでいたのは、行程や行き着いた答えであって。
始まりは真っ当なものだったはずなんだ。
だから、さ。
──自分の想いに嘘なんてつくなよ。大切なその気持ちは隠すことないだろ。
「そうか……」
散々言い散らしておいて、結局言いたいことが言えたかは自信ない。
でも、美鈴様は穏やかな笑みを浮かべて。
胸に手を当てた。
もらった言葉を大切に込めるように、そっと。
大切な人がいるからこそ世界に価値を見出す、その考えは俺にも分かる。
……俺と美鈴様。
何かが違っていれば、互いに同じ道を通っていたかもしれない。
やっぱりどこか似てるのかもな、なんて思うのはおこがましいだろうか。
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「梨璃さん! よかった、探しましたのよ?」
少女たちは列を成して歩いていた。
決してピクニックのような明るいものでもなければ、多少大袈裟な外征でもない。
もっと大規模で、もっと深刻なものである。
──ヒュージネストから、3つの物体が射出された。
弾道軌道の最高到達点は3800kmほど。
予想される目的地は、地球を一回りした後に百合ヶ丘へ。
要するに、ネストはヒュージをミサイルに見立てて攻撃を仕掛けてきたのだ。
ネストにだって相当な負荷がかかるだろう。
しかしそれ以上に、相応の質量を速度と距離を以て叩きつければ。
辺り一帯を壊滅させ得る、絶大な破壊力となる。
しかも、それが3発。
負荷に釣り合う、壮絶な被害をもたらすことは想像に難くない。
故に、咬月は百合ヶ丘の全生徒に退避命令を発令した。
若き頃の己が経験した衝撃を、現在と重ねて。
……建物は壊れたら、また直せばいい。
だが、人命は失われたら戻らない。
そう考えての判断だった。
「楓さん! お姉さまはどこか知りませんか?」
「夢結様ですか? さぁ……わたくしたちより先に避難……なさる方でもありませんね」
そういえば見かけないな、くらいの軽い気持ちで。
合流した楓に投げかけてみると、彼女も知らないようだった。
「あの夢結様がかわいいシルトを置いて先に避難するような聞き分けのいいシュッツエンゲルなわけありませんもの」と語る通り。
梨璃としても、先に避難した線は薄いと考えていた。
しかし、どこにいるのかという心当たりもなかった。
『原作』の夢結と違って、特に幻覚に悩まされてもいないため。
梨璃も引っかかるものがないのだ。
一体どこへ、考えかけたところで。
「あ──」
薄暗い空を引き裂く3つの光。
それらは光の爆発を伴って、大地を大きくくり抜いた。
驚く少女たちの注目をかっさらったミサイルから浮上する黒い球体。
それもまた3つ。
互いに共鳴し合うかの如く黒い波動を発しだす。
空を埋め尽くすほど、避難するリリィたちに届くほど。
不吉な何かが漂っている。
……胸騒ぎがした。
心当たりはないとはいえ、もしかすると校舎に残って逃げ遅れたリリィや職員を誘導しているのかもしれない。
「私、戻って見てきます!」
グングニルのコアにルーンが浮かび。
地面に円を描いて、跳躍の構えを取る。
「なら、わたくしもお供しますわ!」
続いて、楓もCHARMで円を描く。
ところが。
「あ……!」
ジョワユーズは土埃を立てただけ。
光の陣は浮かぶことなく、楓の体が勢い余ってよろけた。
咄嗟に梨璃が支えていなければ転んでいたことだろう。
「マギが、入らない……!?」
「大丈夫ですか?」
「え、ええ……どうして……」
「……先、行ってますね!」
再び梨璃が円を描けば、ちゃんと光が形になる。
今度こそ跳び立つと、校舎の方を目指していった。
梨璃が去った後、楓は辺りを見回す。
2人のやり取りを見ていた他のリリィたちが試しにCHARMを起動させてみるも。
どうやらどのCHARMも反応しないらしい。
最初こそCHARMの不具合を疑っていたが、周囲の状況を鑑みて確信に変わる。
原因はおそらく空を覆っている黒いオーラだろう。
なら、何故梨璃のCHARMだけが起動したのか?
自分たちと梨璃との違いは何なのか?
……分からない。
今は分からない、けれど。
「梨璃さん……どうかご無事で」
確かなのは、現時点でほとんどのリリィが無力化されたこと。
そして、まだ梨璃の力にはなれないということだ。
悔しさに噛みしめた誰かの歯が、ギリッと音を立てる。
そんなタイミングで、何かが目覚めようとしていた。
オリ主は舞台版のことは何も知りません。美鈴様が抱いていた「邪な気持ち」も本当はどういうものかあやふやです。
ただ、視聴当時それを聞いて「激重だ、(意味深)のやつだ……!」とオタク特有の妄想に浸った後、冷静になって「本当は夢結様に恋愛感情を向けていたけど、それが良くないものだと思ってた……みたいな?」と考えていました。
作者の表現力が足りなくて上手く書けないのがもどかしいところ……
【キャラ設定】その40
感情的になると、言いたいことはあるのにまとまらなくなって支離滅裂になる(厳密には話の前後が繋がらなくなる)タイプ。
というか今回は謎の空間に飛ばされるわ、イマジナリーお姉様とエンカウントするわ、何ぞ経歴見透かされてるわで動揺しまくってたから殊更にぐっちゃぐちゃ。精神状態にデバフかかってる。
文面的には冷静に見えるが、転生者であることを見透かされた辺りから『声』が震えていた。