転生先が百合キャンセラーのバケモンとかどうにかならなかったんですか!? 作:サク&いずみーる
「そりゃまだ終わらんよな……」
「どうかしたかね?」
「いや何でもないっす」
いわゆる『もうちょっとだけ続くんじゃ』ですよ。
アニメもまさかAパートで決戦が片づくと思わなんだ。
まあ最後に一仕事あるわけなんだけど……
え? 今の俺が何してるかって?
そらあれよ、半壊した理事長室にいますけど?
散らかった窓ガラスとか片づけてる。
……だって冷静に考えてもみろよ。
身体が女の子(確定)とはいえ、中身は野郎なんだぜ?
生で女の子の入浴シーン拝んだら、網膜焼き切れるって。
で、その後オタクに殺されかねない。
奴らの念は世界を越えると思ってるから。
あと、前世でこのシーン見た時。
リアルに気持ち悪い声が出て、年の離れた妹がドン引きしてたのは結構覚えてる。
しぇんゆーの背中合わせが見られんのは非常に惜しまれるけど!
非ッ常〜に惜しまれるけど!!(2回目)
それに夢結様のポニテも好きなんだよなあ!!(血涙)
「アルン君は、皆と入らなくてよかったのか?」
「……一応、やめておこうかと。見た目はともかく、肉体そのものはヒュージなんで。体液に含まれるヒュージ由来のサムシングが何か影響を及ぼさないとも限らないじゃないですか」
「ほう……」
「だから、百由様辺りが解析終わって許可出るまではパスです」
「そうか」
嘘は言ってない。
だってさっきガラス拾って切っちゃった時。
傷から出た血が青かったし、『やっぱ人間じゃないんだなぁ』って思ったもん。
その辺の心配もちゃんとしてる。
誘われた時もそんな感じの言い訳で乗り切った。
……結梨ちゃん以外は。
「結梨ちゃんがごねた時は焦りましたねー」
「なるほど、だから駆け込んできたと」
「そうなんすよ! もう言っても言っても聞かなくて……切り札を切られる前に逃げてきました」
「切り札?」
「泣かれるか『結梨のこと嫌い?』って言われる前に」
「ああ……」
納得したように代行が頷く。
マジで大変だったんだよ、これが。
もうユーバーザインすら使って逃げ出したからな。
『混浴』っつったって「学年を越えた混浴」であって、「性別(中身)を越えた混浴」じゃねんだわ。
というか普通にほぼ裸みたいな女の子に囲まれるとか童貞にはキツいって。
水着とかならまだしも、ねえ?
百合ヶ丘なんて揃いも揃って美少女なんだしよォ……
──なーんて一悶着はあったけど。
まあ、諸々片づけたり準備したりしてりゃ時間なんて、あっという間になくなるもので。
気づいたら夜になってたってわけ。
持ち運べるタイプの灯りが置かれ、ヒーターが置かれ。
いろんな意味であったかい光が理事長室を照らしている。
せっかく片づけた部屋はもはや別のものでごっちゃごちゃ。
それはいいんだけどね?
でも「タコ足禁止!」って書いてあるのにタコ足なのは心配。
……いや、非常事態だって分かってはいるんだけどさ。
これ百由様の研究室で見たことあるけど、タコってないの見たことない気がする……
タコ足って結構危ないんだぜ?
前世の春休みに、母方の実家でタコ足火事起こしかけた経験から言うけど。
「これが、私たち百合ヶ丘女学院の管轄する──7号・由比ヶ浜ネストの現在の様子よ」
「はぁ……」
百由様が示す画面を見て。
梨璃ちゃんはピンと来てなさそうな返事。
映ってるのがネストの主たるアルトラ級ヒュージなんだと。
改めて見るとそんな格好しとるんかお前……
膝抱えて丸くなってる人か、心臓みてーに見える。
どっちにしろキモい。
「えと、あの……もしかしてこれ、海の底ですか?」
「そうそうそうそう! ちなみにアルトラ級ヒュージの全長は、400mとも1kmとも言われているのよ」
「デカすぎません?」
「よく分からないけど、すごいですね……」
400m〜1kmって怪獣か何かかな?
あ、でも特撮モノの大怪獣もそこまで大きくないか。
……って、それはともかく。
ここ最近のヒュージは、このアルトラ級から大量のマギを半ば奪ってく形で供給されていたらしい。
そうやって過剰な負荷をかけられ続けたせいで。
今やネスト全体が事実上の活動停止状態になっているのでは、と推測されている。
要は『マギが減って力が出ない……』ってとこだな。
パン工場のジジイは来ないけど。
「殲滅するにはまたとない機会よ」
「せ、殲滅?」
んー、せやな!(悪い笑顔)
ニチアサ系の
相手がヒュージならその心配もなし。
というか、いつもそうされてるし仕返ししたってバチ当たらんやろ。
むしろ拍手喝采の推奨モンっしょ。
「そこで、一柳君にその任務を頼みたいのだ」
「っ!」
「はい……えっ、私!?」
……夢結様、ちょっと『ぐぬ……』みたいな顔しないでくださいって。
確かに危険な仕事とはいえ、過保護気味じゃないですかね?
一体どうやってアルトラ級を倒すのか、という梨璃ちゃんの質問に。
生徒会長の一人である眞悠理様が、一振りのCHARMを示す。
「お前たちの方が馴染み深いだろうな。ダインスレイフ──いわば、この事態の元凶となったCHARMだ」
美鈴様の書き換えた術式が。
巡り巡って、由比ヶ浜に巣食うヒュージを狂わせてしまった。
それをヒントに、アルトラ級を倒すための術式を仕込んだのが、今のダインスレイフ。
バグをぶち込んで自滅してもらおうって話だ。
百由様曰く「間に合わせの急ごしらえ」だってことだけども。
ヒュージからすりゃ猛毒もいいところのえげつない劇薬だ。
どれくらいなのか、興味本位で聞いてみたら。
俺がうっかり触ったりしようもんなら即死らしい。
おかげで今一番ダインスレイフから離れた位置にいる。
だって触れただけで全身ドロドロに溶けるとか、どんなバイオ兵器さ?
そんなショッキング映像、JKに見せたかねえよ。
どこのアメリカ系ホラー映画だ。
「急ぐ必要があるということね」
「昼間の戦いを経て、私たちにはもうわずかなCHARMしか残されていないの。アルンさんは戦えるけれど、最低限の防衛が限界でしょうね」
「面目ない……」
「いや、仕方ないことだ。一人でカバーできる範囲には限りがある。だからもし今、ヒュージが現れてもほとんどのリリィには為す術がない」
現状使えるCHARMはこのダインスレイフ。
原作と違って折られなかった、梨璃ちゃんのグングニル。
あと、夢結様がいつも使ってるブリューナクも何気に無事っぽい。
確かに、あれってメンタルボロった夢結様が梨璃ちゃんにやられた奴だもんね。
そこまで弱らなかった夢結様なら、そのイベントは回避しててもおかしくない。
以上、少なくとも3つはまともに機能することが分かってる。
でも結局、それだけで今後乗り切れるとは断言できない。
俺も、攻撃特化のチートか転生特典でももらってたらよかったんだけどな。
生き残るための『特典』なら結構あるっぽいけど。
元々、殲滅戦より持久・防衛戦タイプなので。
悔しいけど、バスタードを使ったとしても限界はある。
「これを扱うことができるのは、カリスマ以上のレアスキルを持つリリィだけ……そうでなければバグを送り込むどころか、自身が汚染される恐れすらあるわ」
まあ、敵に毒を盛るのに自分がやられてちゃ本末転倒だよな。
改めて、リリィすら壊しかねないとかヤバすぎだろこのバグ……
そんでもって、それを制するカリスマも
「えっと、あの……カリスマって結局、何なんでしょう?」
俺が思ってたことを梨璃ちゃんもポロっと零す。
──今日の梨璃ちゃんの戦い方は、通常のカリスマの域を超えているという。
普通のカリスマを知らないから、俺は何とも言えないんだけど。
そもそもカリスマくらいだと、全リリィにまで及ぶレベルの強いバフは難しいらしい。
「私たちもつい参加しといて何だけど、全校生徒でマギスフィアを繋ぐノインヴェルト戦術なんて……常識じゃあり得ないもの。仮説だけど、より上位のスキルを発現した可能性すら……」
「……『ラプラス』、ねぇ」
「待って、なんでアルンさんがそれを……」
っべ、声に出ちった。
「噂程度に聞いたり、暇つぶしに資料漁ってポロっと知っただけです」
「ふーん」
ラプラス、って聞いて思い浮かべるのはやっぱり『ラプラスの悪魔』か。
それかポ〇モン。
悪魔とか言ってる割に、意味合いとしては「全知全能の存在」「未来は既に決まっている」とか。
むしろ神様みたいな存在的な扱いだったはず。
ラプラス……悪魔……支配、全知全能……
……いや、まさかね?
確かに梨璃ちゃんが小悪魔だったら、それはそれで良いと思うけどね?
いかん……思考がいろんな意味で危なくなりそう。
脳内議会はこれにて閉廷! 解散ッ!
「それでも、危険な任務には変わりないわ」
「……ええ」
カップを置く音が、やけに大きく聞こえた。
実質、梨璃ちゃんにしかできないこととはいえ。
彼女一人に背負わせるには、大きすぎるリスクだってことは。
みんな理解してるんだろう。
夢結様としては、不安で仕方ないだろうし。
梨璃ちゃんだって、拒否する権利はある。
その時はまた頭ひねくり回して、別の方法を考えりゃいいんだから。
「あの……理事長代行、先生?」
「うん?」
……理事長代行先生、って呼び方すげえね。
なんか渋滞を感じる。
「ありがとうございました」
「はて、儂が?」
「結梨ちゃんのこと……結梨ちゃんをずっと庇ってくれたって、百由様から聞きました」
理事長代行は、わずかに目を見開いた。
……あの場所にいた大人たちの中で。
結梨ちゃんを唯一、人間として見てくれていたのは彼だ。
それどころか、日頃からヒュージだと自己申告している俺のことですら、人間として扱ってくれている。
リリィと違って明確な対抗手段を持たないというのに。
一切臆することもなく接している。
「じゃが……助けたのはアルン君だ。儂の手では、救うことは叶わなかった」
「──違う」
ほぼ反射的に否定の言葉が零れた。
確かに、結果として結梨ちゃんの命を守ったのは俺だけど。
でも、
「俺と結梨ちゃんをリリィで──人間でいさせてくれたのはあんただよ」
少なくとも、俺にとってはどれだけ救いになったことか。
「だから、誇っていいと思いますよ」
代行はゆっくりと目を閉じる。
まるで、赦されたことを噛みしめるように頷いて。
「ありがとう」
低く、一言呟いた。
滲む雫には、気づいてないフリをしておくことにした。
ちょっと驚きはしたけど。
「──私、やります」
梨璃ちゃんの声には強い意志があった。
「あの日、結梨ちゃんとアルンさんがいなくなって、心が冷たくなった気がしました。『なんで2人が』って、『こう動いていたらもっと違う結果になってたんじゃないかな』って……私は2人を失わなくて済んだけど、他の人も同じ結果になったとは限らないはずなんです」
この世界の梨璃ちゃんは『原作』と違う未来を掴めたけど。
何かを違えていれば、やっぱり原作通りになっていたかもしれない。
歯車を理想の形に並べることができたのは、多分俺のおかげなんかじゃなくて。
この子が掴んだ奇跡なんだと思う。
だって、頑張る女の子は報われるべきだろ?
「仲間がいなくなって、悲しい思いをするリリィはもう……いてほしくないから」
会ったばかりの頃とは違う、覚悟の色を宿した瞳。
それは尊いものだけど、同時に危険も孕んでいるものだ。
──自己犠牲という名の、忌むべき美しさを。
「んなぁもー! 成長したなぁ梨璃ちゃんなぁー!」
「ぴゃっ!?」
「おじさんも嬉しいよ梨璃ちゃんが立派になってくれて〜!」
「あわわわ……!」
完全に人間な左手で頭をわしゃもしゃする。
さすがに抱きつくのはやめとく。
某至宝さんみたいな変態扱いは心外極まるので。
それにしても、梨璃ちゃん髪ふわさらやんね?
ちょっとクセになりそう。
でも梨璃ちゃんの髪に
……これで多少は緊張和らぐんじゃない?
「その作戦、私も同行します」
「お姉さま……」
「梨璃、ちょっといらっしゃい」
「はいっ」
夢結様は俺が乱した梨璃ちゃんの髪を手で梳かしながら話を進める。
「今の梨璃の言葉は、私の願いでもあります。私が梨璃を想い、梨璃が私を想う限り、私たちは必ず戻ります」
……すげえだろ?
こんなかっけえこと言ってるのに、手は梨璃ちゃんの髪の中なんだぜ?
俺が原因だし、俺は好きっつーか『むしろもっとやれ(切実)』だから。
全っ然いいんだけどさ。
これ代行とかどういう気持ちで見てんだろうね。
目の前でめっちゃイチャつかれて。
マジで『イノチ〜』じゃん。
「梨璃は、私が守ります」
そしてさらっと誓いの言葉出すやん。
「じゃあ、お姉さまは私が守りますね!」
そしてこっちもさらっとイチャつくやん。
もしかして我々が見えてらっしゃらない??
もう結婚した方がいいんじゃないか(野次)
「夢結……梨璃さん……」
「ごめんなさい。貴女たちには大変な思いばかりさせて」
「いえ、みんな自分のすべきことをしたのよ」
あ、もしや百合ヶ丘では日常茶飯事すかそっすか……(尊死)
みんな何事もなかったように話すじゃん。
……いや、そうでもなかった。
理事長代行の眉がちょっと寄ってる。
急に目の前でイチャつかれるから気まずいんか。
唯一の完全な男性だもんなあ。
なんかもう面白いと思ってる俺がいる。
それから、代行が改めて作戦の参加を要請、そして了承を得たことで解散になった。
決行は翌朝。
今日はもう一柳隊のメンバーに伝えたら寝るだけ。
大仕事に備えて、できるだけ休んでもらいたいからね。
『伝えてきまーす』って先に出てった2人や、まだやること尽くしの百由様を見送って。
俺は代行や生徒会の人たちに向き直る。
「何かな?」
「明日の作戦、オレも参加しようかなって」
「お前、ダインスレイフに触れたらどうなるか知らないはずがないだろう……!」
「あー……そうじゃなくて、そっちじゃなくて」
一柳隊に伝えてくるってことは、『原作』にはいなかったあの子にも伝わるってことだ。
つまり。
「結梨ちゃんがこのこと聞いて『はーいじゃあ良い子でお留守番してまーす』なんて想像できます?」
「「「…………」」」
全会一致の
一柳隊や俺ほどじゃないにしろ、生徒会は結梨ちゃんといる時間がそれなりにあった。
だから、心当たりもあったみたいで。
「それならもういっそのこと、結梨ちゃんについてく形で……うん? 俺についてくる形……? どっちでもいいか、とにかく俺も行った方が早いと思うんですよ」
「でも、何をするつもり?」
「お迎え、ですかね」
『原作』では、ダインスレイフごとバグをブチ込んだ後。
2人は制服を救難ポッドだかコクーンだかに変えて、漂流覚悟でネストの崩壊から抜け出していた。
にしても、あの制服マジでどうなってんだろ……
物理法則ガン無視してそうな形状なんだけど。
めっちゃぷるぷるしてたっぽいのも訳わからん。
素材何でできてんの???
……じゃなくて。
描写こそなかったけど、一体発見までにどれだけ時間がかかるのか分からない。
というかうら若き乙女が下着姿でほっぽり出されるのは現実的にいかがなものかと思うんだよな!!
いやもうえっち通り越して綺麗なシーンだったし!
見つかった時なんて「事後……?」みたいな雰囲気で床転がるくらいには狂ったよ!
あんな聖画みてーな美しいもんが存在するのかって思うくらいには大好きなシーンっすよ!!
でもおまいらの目に晒すわけにはいかんねん、俺も含めて……!(血涙)
そんな個人的なオタクの考えは程々に抑えて説明すると『まぁそれなら……』と許可が降りた。
俺なら防御特化だし、2人をネストの崩壊から守ってあげられる。
殲滅戦よかよっぽど得意分野だ。
『じゃあやっぱり結梨ちゃん連れてかなくてよくない?』みたいなことは言われたけど。
あの子はあの子で大事なお役目があるので。
あーどうしよ。
なんか俺までちょっとドキドキしてきた……!
寝よ(思考放棄)
寝て明日に備えよ!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーー
オスプレイから、ふわりと零れる白が一つ。
広大な雲海の中心を穿つように開いた『穴』へ、ゆっくりと降下していく。
「静かです……」
「ここはもう、海の中のはずよ」
特注のパラソルとCHARMを手に。
少女が2人、身を寄せ合っていた。
見下ろす先には、相模湾に根付いた由比ヶ浜7号ヒュージネスト。
狙うは、その主──アルトラ級ヒュージだ。
「結梨ちゃん、すごく行きたがってましたね」
「そうね。でも連れてくるわけにはいかないもの」
「アルンさんが何か話してましたけど、なんとかなったんでしょうか?」
「そこはかとなく嫌な予感がするのだけれど……気にしていても仕方ないわ。私たちはこれからのことに集中しましょう」
「はい……」
手の中のCHARMを握りしめる。
思えば、このダインスレイフこそが全ての始まりだった。
甲州撤退戦にて、美鈴が夢結から取り上げ。
マギコアクリスタルの書き換えという不可能を成して、ヒュージに変化をもたらし。
奪われたCHARMは、また夢結の元へ戻ってきた。
──原典となる伝承において、ダインスレイフは『呪いの魔剣』と称されている。
その名の如く、多くの呪いを刻んだとも言えるかもしれない。
だが、残したのは呪いだけではない。
この一振りがあったから、あの日梨璃を助けることができた。
この一振りがあったから、あの赤いヒュージと戦えた。
そして、この一振りで今。
連綿と続いてきた呪いの鎖を断ち切ろうとしている。
呪いを断ち、繋がりを紡いでいく。
全ては一周し、どこまでも紙一重なのだ。
「怖い?」
「ちょっぴり、ですけど」
「……本当は私も少し、ね」
不安も恐怖も確かに存在している。
無事に帰ることができるか分からない。
ダインスレイフのバグに呑まれてしまうかもしれない。
そもそも、このバグ自体がアルトラ級に効くか分からない。
だけど、少女たちが逃げ出したいと思うことだけはなかった。
「でも、私には梨璃がいる。だから大丈夫。貴女のことは、私が守るわ」
「っ、私も! お姉さまのこと、守りますから!」
「ふふっ、任せたわよ」
「はい!」
迷いと共に、パラソルを手放す。
雪のようなマギの中、白い傘も舞い上がっていく。
構える黄金の切っ先を、眼下の敵に向ける。
少女たちの手が重なり合った。
淡い光がCHARMから溢れてくる。
「CHARMから……美鈴様を感じます」
「そう……」
誓いを立てた今、2人に恐怖はなかった。
眠りについてなお、威圧感を纏うアルトラ級を前にしたとて。
絆によって心を繋げた少女たちが恐れることはない。
「行くわよ、梨璃」
「はいっ、お姉さま!」
「「はぁぁああああああっ!!」」
ザグン、と大剣が突き刺さる。
青の血飛沫を上げ、光を放ちながらダインスレイフが沈んでいく。
ようやく取り戻したCHARMが、再びヒュージに呑まれたのだ。
「■■■■■■■■■■■■■■?」
しかし、今度は逃さない。
ダインスレイフに込められた
──その成果は、アルトラ級の自壊。
体の至るところから青白い光を溢し、崩壊を始めた。
苦しむ様子はあれど、暴れることも怒りの声を上げることもない。
ただ、機械がプログラム通りにシャットダウンしていくのと同じだ。
それが当然であるかの如く、プロセスに従って滅びの道を辿っている。
「梨璃!」
「お姉さまっ!」
──その代償は、今いるネストの崩壊。
マギの力で押さえ込まれていた大量の海水が流れ込んでくる。
もたもたしていると、梨璃たちも海の藻屑となってしまう。
だが、この結果は想定の範囲内だ。
故に、焦るほどではない。
「早く見つけてもらえるといいわね」
「みんななら、きっと大丈夫ですよ。それに、その間はお姉さまと二人っきりっていうのも悪くないです!」
「もう……貴女って子は」
予定通りに、互いのリボンに指をかけようとして。
ふと、降りてきた空を見上げる。
「────!」
「あの、お姉さま? 何か見えません?」
「……奇遇ね、私は声が聞こえたわ」
少々悟り気味に固まった夢結の反応に、梨璃も幻覚でないことを察する。
なら、何なのか?
まさか、と思った矢先。
その『まさか』は答えとなって現れた。
「キュッキュイーッ!」
「梨璃ーっ! 夢結ーっ!」
「え!? 2人とも──わっ!?」
「ちょっ……!?」
なんでここに、という言葉を文字通り遮って。
急降下してきた小さな竜は。
「とにかく話は後」とばかりに、梨璃と夢結の体を潰さない程度に引っ掴む。
そのまま崩れかけたアルトラ級の頭蓋を蹴って、急激に方向転換すると。
迫る海水から逃れるべく、一気に空気を突き破った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーー
──結論からして、梨璃も夢結も助かった。
ネストの崩壊に巻き込まれることはなく、無事で生きている。
……ただ『大丈夫』かというと、そうでもなかった。
「う……」
「……」
「梨璃と夢結、だいじょぶ?」
「ちょっと、休ませてほしい……かも……」
「キュイー……」
「アルンが『ごめんなさい』だって」
「大丈夫よ……早急に脱出しなければいけなかったのは事実だから……」
乗せられた背中の上で梨璃と夢結が伸びていた。
海底から一気に上空へと打ち上がったのだ。
気圧やら加速度の問題で、一時的に体調を崩すのも無理はない。
故に、2人がある程度回復するまでの間。
本来の姿──しかし、以前より心なしか小さくなった体躯のアルンは滞空するに留めていた。
「結梨ちゃんはなんで平気なの……」
「なんでだろ?」
「キュイキュッキュイ?」
「『事情が事情だから、身体が丈夫なんじゃない?』だって」
「というか、アルンさん……人工声帯は……?」
「この身体じゃ使えなかったよ。あ、夢結。水飲む?」
「……いただこうかしら」
「お姉さま、私にもくださぁい……」
結梨が背負っていた薄めのリュックから、水筒のような容器を取り出す。
シュッツエンゲルの意地か、梨璃を優先して飲ませて。
後から水筒を受け取る。
……事が事なので、飲み方のはしたなさは気にしないことにした。
そうして、しばらく休んでいればある程度は落ち着いたようで。
「キューイ?」
「もう大丈夫よ。百合ヶ丘に帰りましょう」
「キュイ!」
夢結の指示に、いよいよアルンは翼を打って帰路へつく。
当たる風が心地良いくらいの速度で進んでいるのは、2人を気遣っているからか。
それとも、2人を見つけたから気が抜けているのか。
加えて結梨は結梨で『2人を迎えに行く』という目的を達成していたため。
すっかり満足して、梨璃の膝を枕に微睡んでいた。
もはや緊張感とは無縁になった空間で、到着を待つばかりだ。
「──美鈴様は、お姉さまのことが本当に大好きだったんですね」
風と翼の音以外は何も聞こえないような中、梨璃の呟きが混ざる。
その声を、夢結はしっかりと聞いていて。
「美鈴様はあの時、何が何でもお姉さまを守ろうとしたんです。その思いがあのダインスレイフに強く、強く刻まれていて……私にも伝わってきました」
「……ヒュージを狂わせたのは、美鈴様の意図したことではないというの?」
「はい」
それは、言うなれば想いの暴走。
夢結に生きていてほしくて、死なせたくない一心で。
自らの命すら懸けて、シルトを守ったのだ。
そして、その強すぎる想いのひと欠片を汲んでしまったヒュージが。
生き残るために、今までになかった手段を取ってきた。
防御で、あるいは模倣で、あるいは略奪で。
己を死の運命から遠ざけようとしたのだ。
美鈴が夢結に向けた想いを、ヒュージもまた受け取っていただけなのだ。
「でも、私どうしても分からないんです」
「えっ?」
「だって……お姉さまのこと、好きなら好きでそれでいいと思うんですよね」
「キュイキュイ」
本当に不思議そうに言う梨璃に、強く同意を示すアルン。
首を後ろに回してまで頷く小竜の鼻先──になるだろう部分を撫でながら。
桃の髪を靡かせる少女は「ねー?」と呟いて。
「でも、美鈴様はそういう自分を受け入れられなくて。だからって、自分を呪ったりすることないと思うんです」
梨璃は、美鈴のことをよく知らない。
アルンと違って、直接想いを聞き出したわけでもない。
それでも、限りなく正解に近い答えに辿り着けた。
物事なんて、案外単純にできているものだ。
それを複雑にしているのは、大抵が自分自身か気難しい大人たち。
ただ単純に、真っ直ぐに世界を見る。
大人びてしまった人間ができなくなってしまうことができる、というのは。
無力を自称する彼女の取り柄なのだろう、とアルンは思う。
そういう存在が、きっと夢結たちには必要だったのだ。
(ほんっと、どこまで似たもん同士のシュッツエンゲルなんだか……)
「そんなことで?」
「キュッキューイ」
「うん、『そんなこと』じゃなくて、大事なことですよ。だから……私はそう思うんです」
ギュッ、と絡めた指から伝わる温もり。
この手から想いすらも伝えるように、強く握り合う。
指輪が淡く光を放つのを、2人の少女と小さき竜だけが見守っていた。
「──キュイ! キュッキュイ!」
「見えてきたって!」
──見下ろす先、捉えた海の終わりとポツポツ見える点。
どうやら百合ヶ丘女学院の生徒たちが出迎えてくれているらしい。
短い空の旅も終わりが近づき、起こされた結梨の声が弾む。
高度を下げていくと、その数が少なくなかったことが明らかになる。
「思った以上に賑やかなお出迎えね」
「キュイー」
「なんだか、ちょっと照れくさいかも……」
「いっぱいいるー! 嬉しいね、梨璃!」
それだけ多くの少女たちが彼女たちの帰還を待っていた、ということに。
4人は密かに、あるいは見て分かるほど喜びを噛みしめる。
「皆さ〜ん! 無事で良かったです〜!」
それは誰の声だったか。
もしくは出迎えた全員の心だったか。
やがて、ゆっくりと小さな竜が降り立つと少女たちも集まってきた。
アルンは鎖の触手を駆使して梨璃と結梨を降ろす。
また、夢結は黒い腕を伝って自ら降りる。
「ありがとう、アルンさん」
「キュイッ!」
「みんなもありがとう!」
帰りを待っていた少女たちは温かい目を向けて「おかえり」を口にした。
その言葉は3人だけではなく、アルンにも向けられた言葉で。
そっと自分の胸に触れて、実感する。
独りではない、という心の温もりを。
『ただいま(!)』
「キュイーッ!」
重なる3つの声、遅れて響く音。
居場所はここにある、と示すように。
小さき竜は翼を広げて、高らかに吼えてみせた。
【キャラ設定】その43
人型になったことで、マギをより正確かつ感覚的に察知する能力を獲得した。転生特典というよりは灯莉や辰姫のような、いわゆる第六感系の『異能』に近い。
リリィとヒュージのマギを判別することはもちろん、覚えれば誰のマギかも分かる。特に結梨ちゃんとはマギを分け合った関係上、離れた距離に関わらず正確な位置まで割り出すことが可能。これを活用すると、分割された部隊の位置情報や大まかな生存情報が把握できるため、大規模な戦略が広がる。(結梨ちゃんからもオリ主の居場所をほぼ正確に察知できるが、レアスキルまで使われると難しい)
この能力によって、オリ主への不意打ちはほぼ完全に無効化される。
これにて、ついに本編完結です! なんならハーメルンで小説書き出して初の完結でございます……!
書き逃げ前提の見切り発車で始まった本作がここまで辿り着けたのも、読者の皆様のおかげです。課題や深夜アニメに追われて更新頻度が下がっていく作者を見捨てず、温かく待ってくださった寛大な心に深い感謝を。
時にランキング入りしてひっくり返り、爆発的にお気に入りや読んでくれる人が増えて絶叫し……この作品を書いてよかった、と思えるような体験をさせていただきました。
幸せなことに投稿の度に毎回感想もいただけて、毎回面白く励ましてもらっている気持ちでした。ここすきとかも目を通して、自分が気に入っていたところに付いてたりするともう嬉しいのなんので……!
本当に皆様に支えられて駆け抜けた作品だということを実感しました。ありがとうございます!
さて本編は完結しましたが、今後は気が向いたらポツポツ番外編を投稿する予定です。あの話の裏であった出来事、その話ではこんなキャラと絡んでいた……など、いわば『ふるーつ』や『しないフォギア』の雰囲気です。
もう少しだけ、オリ主たちの物語にお付き合いいただければ幸いです。