転生先が百合キャンセラーのバケモンとかどうにかならなかったんですか!?   作:サク&いずみーる

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試験やラスバレメモリアで死にかけたり、『先生』になったり『豆腐』になったり、陰キャ系ギターっ娘のssを書いてたりしてたらすっかり書けなくなってました。


番外編 バレンタインは喜べない

 ──2月14日。

 

 かつては、ある聖人を祭る日とされ。

 今では人々が様々な想いを遂げる日とされる。

 あるいは乙女の聖戦が各地で起こる日と言えよう。

 

 その日を、人はバレンタインと呼ぶ。

 

 百合ヶ丘女学院のリリィも例外ではなく、チョコを片手に恋を実らせるべく奔走する生徒もいれば。

 既に絆を結んだ相手に、改めて想いを伝える少女もいる。

 

「うーん……」

「……」

 

 さて、その中で微妙な面持ちの少女が1組。

 もらってしまったチョコレートの小山を前に唸る少女──天野天葉。

 その小山を見てむすむすとささやかな不機嫌オーラを放つ少女──江川樟美。

 2人はシュッツエンゲルの契りを結んだ仲であり、周囲もそれを知っているはずだ。

 それでも止まらぬ乙女はいるもので、その結果がこれである。

 

 アールヴヘイム主将に相応しい実力の持ち主。

 その実力で掴み取ってきた輝かしい戦歴。

 そして明るく陽気な性格で、年上も年下も惹きつける魅力がある。

 その振る舞いから、ハートを射抜かれる少女も少なくない。

 ……まぁ、何が言いたいかというと。

 

「…………」

「あはは、そんな拗ねないでよ樟美。それもかわいいけどさ」

「……むぅ」

 

 天葉に撫でられながらも、やはりむすむすしている樟美。

 正直、気が気ではないのだ。

 『姉』が自分一筋なのは分かっているし、疑ってもいない。

 だが、それはそれとして面白くないのだ。

 それに、恋する乙女たちの中に某問題児ばりに強引な性格の少女がいないとも限らない。

 天葉は優しいから断り切れるか分からない。

 そういった不安と嫉妬手前のヤキモチでむすくれていた。

 

「それに、普通に日頃の感謝の気持ちとか、友達としてのプレゼントもあるから無下にはできないよ」

「それは、そうですけど……」

 

 そもそもの話、何はどうあれ一生懸命想いを込めて作られたものを。

 樟美の個人的感情で気安く捨てるのは、流石に悪い。

 ならどうするか、と考えたところで。

 

「……うわ」

「……?」

「お、アルンさんじゃない」

 

 軽く引いたような声を出したのは、通りすがりの竜の子。

 その表情がどことなく疲れ気味なのが珍しい。

 

「天葉様、あの……それ、全部もらったやつですよね。え、全部食べる気です?」

「そりゃそうだけど。これでも食べる量は多い方だから心配しないで」

「そうじゃなくて……いや、これ制覇できるのも中々なんだけどそうじゃなくて……」

「?」

 

 アルンは普段から物事ははっきり言うタイプだ。

 立場や関係に関わらず、思ったことは真っ直ぐ口にする。

 しかし、今のアルンは口を濁している。

 ふと、樟美の勘が囁いた。

 ──これ、何かあるよ、と。

 

「アルンさん、何かあるなら教えてくれませんか……?」

「樟美?」

「あー……そうやんなぁ、樟美ちゃんにとっては大問題だもんなぁ」

 

 いやそうじゃなくても問題だわこれ、と零し。

 何度か視線を泳がせて「う゛ー」と唸り。

 頭を掻いて、いよいよ決めたのか。

 苦い顔をしたまま、やっと口を開く。

 

「マギってさ、リリィならみんな持ってるのが常識ですよね」

「え? まぁ、うん」

 

 突然関係なさそうな話が飛んできて戸惑うも。

 一応、肯定する。

 

「リリィのマギって本当、隅々まで行き届いてるものなんですよ。つま先から髪一本に至るまで」

「はぁ」

 

 そう語りながら、アルンは小山の中ならいくつかのチョコの包みを手に取っていく。

 無作為に見えて、何かを狙っているような取り方にも見えた。

 天葉は不思議そうに眺めているが、樟美は少し予感があった。

 

「ところで『メンヘラ』って単語知ってます?」

「何それ? 樟美は?」

「うーん……聞いたことあるような……? でも、意味までは……」

「でも、それがどうしたの?」

「あーうん、いえ、確認のためなんで」

 

 手にしたチョコをコトン、コトンと並べていくと。

 アルンは手袋に覆われた指でそのチョコたちを指す。

 

「樟美ちゃん。ファンタズム使ってみ」

「は、はい……」

 

 ファンタズム──未来予知のレアスキルを言われた通りに行使する。

 視えるのは件のチョコレート。

 持っている手が黒いことから、アルンの手袋だと分かった。

 包みを解き、箱を開き。

 現れたのはかわいらしいハート型。

 

 ──それだけなら、樟美もむすむすが増すくらいで済んだ。

 パキッ、と。

 幻想の竜の手がチョコを割る。

 中から出たのは、ナッツでもフルーツでもない。

 不自然な()()()()()()()()()()

 しかも、1本だけではなく何本か。

 1本だけなら偶然かと(それでも料理を特技とする樟美からすれば言語道断なのだが)思えたかもしれない。

 しかし、これはもう確信犯だろう。

 

 ──リリィのマギって本当、隅々まで行き届いてるものなんですよ。

 

 脈絡がないと思っていたアルンの言葉が、ここで1つの繋がりを露わにする。

 現実に戻ってくるなり、バッ!! という勢いで樟美はアルンを見る。

 ファンタズムによるテレパスで共有していた天葉も、軽く驚いた様子で目を向けた。

 

「亜種だと爪とかもあるよ?」

「そうじゃなくて……! 何これ……!?」

「女の子って恋心拗らせると、好きな人に自分の一部を摂取してほしくなるみたいなんだよね。オレには一生……いや死んでも理解できなさそうだけど」

「あはは……」

 

 笑ってる場合じゃないです、と言おうとして。

 樟美はアルンがまたチョコを引き抜いていることに気づく。

 まだ何かあるのかと再びファンタズムを使うも。

 今度の未来に不自然な異物混入はなかった。

 とはいえ、アルンが目をつけたということは何かある。

 竜の少女は死んだミルキーグリーンの瞳で、乾いた笑みを浮かべた。

 

「……リリィのマギは体液にも紛れてる、って言ったらもう察しがつくのでは?」

 

 マジでいるんだね、そんなヤンデレ染みた女の子……と呟くアルンを傍目に。

 今度こそ天葉も固まった。

 

「体液、って……」

「汗とか唾液ならかわいいもんで、血液とか混ぜてる子もいるでしょうねぇ……」

 

 アルン曰く、自身の体液に含まれるヒュージ細胞の濃度と同じで。

 リリィの体液にもマギ濃度の割合があるという。

 濃いのはやはり血液で、薄いのは汗らしい。

 その濃度もアルンには筒抜けだ。

 

「さすがに()()()()()()()()()()()なのかは分かんないですけどね」

「どこからって……?」

「えーっと、腕切ったのか月一回のやつから採ったのかとか」

「ひっ……!」

「いやもうそれ以前の問題でしょこれ」

「ちなみにどれが血液チョコか聞きます?」

「遠慮しとく」

「天葉姉さま、今後は私がチェックしたもの以外は食べないでください……!」

「血が入ったチョコはちょっとあたしもなぁ……」

 

 青ざめて怯えたシルトに縋られては、肝の座った天葉も真剣に考えねばならない。

 その後、アルンの手を借りてチョコの仕分けをしていくと。

 実に3割ほど問題のチョコが出てきたわけである。

 

「じゃ、この3割はオレが預かって処分するってことでいいですか?」

「それは助かるけど」

「何か言われたら……そうさな、オレにつまみ食いされたとでも言い訳してください」

「え、食べる気?」

「いや……いくら体質的に問題なくても、気持ちが受けつけませんって。もったいないけど、普通に焼却処分」

 

 上着のポケットから取り出した袋に、処分するチョコをザザーっと流し込む。

 体質としてはヒュージであるため、上質なマギ入りのチョコレートはむしろご馳走と言ってもいい。

 だが、心がどうしようもなく人間である以上。

 そういったものを口にするのは嫌だった。

 そんな一連の動作は、どこか手慣れているようにも見えて。

 

「なんか、慣れてるね」

「……別に」

 

 珍しく素っ気ない返事。

 もう少し聞いてみよう、と思ったところで。

 

「アルンさーーーーんっ!!」

 

 三つ編みを揺らす小さな記者──一柳隊の二川二水が駆け込んできた。

 

「あらま二水ちゃん」

「大ニュースですっ! 百由様の作った薬で雨嘉さんがマギ酔いして神琳さんに犬耳が生えましたぁ!!」

「うわ出た二次創作特有のご都合主義と性癖詰め合わせみてーなシチュエーション!!」

「しかも神琳さんが部屋に『お持ち帰り』しましたぁ!!」

「それ犬やないな狼なんじゃね!?」

「今なら生徒会の皆さんも手が空いてないみたいなのでチャンスですよ!」

「オレには推しカプを見届ける義務があるっ!!!」

 

 樟美も若干怯える魂の咆哮の後。

 難ありのチョコが入った袋を勢いよく背負う。

 背負った姿はサンタクロースのそれである。

 

「それじゃ樟美ちゃん、天葉様を守ってあげてね」

「は、はい……!」

「っしゃぁ行くぞ二水ちゃん! 推しカプは待ってはくれんっっっ!!」

「ではお二人とも失礼しまーす!」

「またねー」

 

 嵐のように去っていった竜の少女と暴走記者を見届けた後。

 静かになった空間で、ふと思う。

 

 ──高松アルンは、実は一定数の支持がある少女だ。

 普段は気さくで、面倒見のいい性格をしている。

 さりげなく気遣いができるその優しさは、ひとたび戦場に立てば不屈の覚悟となる。

 誰よりも守ることに特化したアルンに助けられたリリィは多い。

 特に「守ってもらった時の横顔がもうすごい」とは本人も知らない話である。

 本人は「経歴も今もこんなんだし警戒されるのは仕方ない」と言うが。

 実際のところは、それとは裏腹な結果なのである。

 そしてここまで人気があるのは、間違いなくアルンが親身になってリリィに寄り添ってきた成果だった。

 

 まぁ、つまり……あれだ。

 そんな一部界隈では『ある意味第二の天野天葉』とも呼ばれるアルンが。

 モテないわけないんだろうな、と。

 

 しかし、あまり嬉しくなさそうな表情だった。

 あの疲れたような、今にして思えばどこか苦しそうな表情は一体──

 

「……天葉姉さま?」

「ううん、ちょっと考えごと。それよりも樟美からのチョコはないの?」

「!」

「あたしとしては一番欲しいチョコなんだけどなぁ」

「あります……! 一生懸命作ったので……!」

 

 心底嬉しそうに目を輝かせるシルトに、天葉も笑みが零れる。

 アルンのことは後でもいいだろう。

 あんな表情をするくらいだ、簡単に話せるような内容ではないはず。

 それに、アルンには一柳隊がいる。

 彼女たちに任せるのが適任かもしれない。

 

 今は、愛しいシルトからのプレゼントを味わうとしよう。

 




モチベが完全に尽きたなぁ……とは思ってます。だって完結はしたんだもん。
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