ラスボスの子に転生したのでNO.1ヒーローを曇らせたいと思う   作:タメガイ連盟員

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噛み砕かれた乳酸菌様、ジャック・オー・ランタン様、佐藤東沙様、梛沙紀様。
誤字報告ありがとうございます。

11月25日、お気に入り数5000突破しました。ありがとうございます。

ようやく原作に入ります。


11.物語が始まる日

「君はヒーローになれる」

 

 物語の始まりを告げ、ヒロアカを象徴する、まさに名言だ。

 

 第一話のラストのところですね。あ、もちろんヘドロヴィランのところとか爆豪くんのワンチャン発言も見ている。いや、なんか爆豪くん、あれはちょっとね。

 

 雄英って面接試験ないんだよね、受験者が膨大だからできないってのが実情なんだろうけど。彼みたいなのを下手に落としてヴィランにでもなったら困るし(後に勧誘されてしまうぐらいだし)、優秀だけど性格に難ありな子供を矯正したいというのもあるのだろう。でもさ、雄英のヒーロー科って国内偏差値のトップなわけで、受験者だって全国でもトップの中学生たちのはずだ。そこに基本的に禁じられてきた個性の使用がものをいう実技試験によるふるいがかかる。そこで落ちても普通科からヒーロー科への年次編入がありえるとはいえ、心理的には納得しづらいし、そこから歪みやすくなるよなぁ。そこ考えると心操くんってよくグレなかったと感心する。前から個性がヴィラン向きと言われていたことを考えるとなかなかの人格者ではなかろうか。A組に嫌味言っちゃうのは若さ故、ご愛敬だ。

 

 うーん、雄英も個性時代の変化に対応し切れていないところあるよね。根津校長もオールマイトの学生時代知っているあたり教職歴長いんだろうけど、思考が硬直化しちゃってるところがあるように思う。そりゃあ、組織の長としてヴィランに負けない強い雄英というイメージを維持しないといけないのはわかるけど、その結果が夏合宿の襲撃なんだから。というか夏合宿の状況ってUSJのときと同じだよね、雄英本体の施設から離れていて、少数のヒーローしかいなくて、援軍がすぐには来られないっていう。ついでに肝試しなんてレクリエーションを行うことで生徒の分散を自主的に行っているし。まあ、なんで夏合宿の場所が割れたのかはわかってないけど、最終回まで判明しなさそうな気がする。内通者の存在が疑われてるけど、誰かわからないならいっそ私がその役をやってしまうか。スマホ持ち込み禁止されても分身使って黒霧かドクターに接触できるだろうし。いやまて、たしか出久くんが携帯持ち歩いてたよな? おい、場所特定できるものを持ち込み可にしてんじゃねえよ雄英。電波が入らなくてもGPSで場所わかるんだぞ。うん、これ、襲撃されて当然なんじゃないの。もうちょっとさあ、危機管理意識ってものをさあ! 

 

 ハァ。うん、ステインが教育現場から腐敗を感じて即中退したのがわかった気がする。教育現場は社会の縮図って聞くけど、トップ校の雄英がこの調子だと、他は……社会のあらゆる場所で変革が必要になってるんよ。ヒロアカ世界いろいろ問題あるよねって話を何度もしてるけどさぁ、もうパパの存在以前の話だよ。蓄積した問題があふれ出てくるタイミングとはいえ、私の平穏な生活はどこにあるのだろう? 

 

 ヴィラン連合の影響力を甘く見積もりすぎていたというのもあるんだろうけど。デビューから三ヶ月でチンピラ集団からネームドヴィラン集団への急成長だからね。で、最終的には10万戦力の異能解放軍と合体して超常解放戦線だもの。一年足らずでこれって。いやまあ、異能解放軍は何十年と時間かけてあそこまで成長した組織ではあるけど。パパのヴィランプロデュース力やばいね。あの人自分が直接なにかするより、こういうプロデュース業の方が愉しそうな感じがする。

 

 それはともかくだ。

 

 実際にこの目で見るとトゥルーフォームやばいな。どうなってんの? 骨と皮ばかりのガッリガリ、私がオールマイトですなんて言っても誰も信じないよマジで。いやいや、手術の繰り返しで憔悴したとは言え、なるかそんな状態に? 飢餓線さまよってるか末期癌じゃないんだから。この状態からマッスルフォームになるのもよくわかんないし……『プールで腹筋力み続けている人みたいなもの』って言ってたけどその例えじゃ説明がつかないんだよなぁ。全盛期よりも弱っているけど、超パワーは健在だし、体重も250kgになるし、質量保存の法則ってご存じ? ファンタジーや超能力ものだとお亡くなりになりがちだけどさ。1・2話時点ではまだワン・フォー・オールを保持していて、その後は神野でのパパ戦までは残り火があったけど、あの人受け継いだ個性以外にもなんか持ってるんじゃないか、って疑わずにはいられない。

 

 物理法則無視してるとしか思えない個性って他にもあって、百の『創造』も結構おかしいんだよね、自分より大きいもの作れちゃうし。やっぱ脂肪を消費する以外にどっかからエネルギー取りだしてるんじゃないのか? うーん、やっぱり個性って世界というか、なにか巨大なエネルギーに繋がっているものなんじゃないか? ドクターの個性特異点論と合わせて考えると、代を重ねるごとにエネルギーに繋がる門とでも呼ぶべきものが広がり続けていて、それが人間の許容量を超過してしまう、ということではないだろうか。裏付けるものがないから私の妄想の域を出ることはないんだけど。

 

「私の個性は、聖火の如く引き継がれてきたものなんだ」

 

 オールマイトによるワン・フォー・オールの解説が行われている。彼自身も歴代継承者の意思と個性が宿ってるなんて思ってもみなかっただろうな。出久くんの代になって顕現したのは、初代の言う通り特異点を越えたためなのは間違いないだろう。ワン・フォー・オールは超パワーを発揮する個性だけど、本質は力の譲渡にこそある。ストックされた力自体は、8代目の段階で極限に到達していたと思う。なにせワン・フォー・オールが目的とするオール・フォー・ワンの撃破に至っているのだ。そして、9代目へ継承されたことで特異点という最後の扉を開くに至った、と考えられる。

 

「そう。そして次は君の番だということさ」

 

 ともあれここから先は出久くんの努力次第だ。彼はまだ継承どころかそれに必要な肉体すら整っていない状態だ。内面に狂的なものが潜んでいるとはいえ、彼はこれまでただの少年に過ぎなかったのだ。それを一年足らずでやろうって言うんだからオールマイトもかなり無茶振りである。あなただって継承当時はそれなりに体できてたでしょうに。ある意味雄英の校訓に忠実なんだろうけど。プルスウルトラ。

 

「お願い……します」

 

「即答。そう来てくれると思ったぜ」

 

 オールマイトがニッと笑う。うーん、オールマイトってこの頃から出久くんの憧れに甘えてない? 出久くんが頷くのわかりきってるわけじゃん、もはや誘導尋問だよ。ここからずるずる出久くんへの依存を深めていくんだろうなー。実はヒロインなの? 感情重い系の。詳しい話はまた今度、と言って今日のところは解散する流れのようだ。こんな住宅街の一角で立ち話するような内容でもないしね。2日後、朝6時に海浜公園の入り口に集合と言い残してオールマイトは去って行った。残された出久くんはほっぺたをつねったりして、夢ではなかったことを確認していた。

 

 さて、私もこうやって出久くんを観察しているばかりもいられないので、ここからはバトンタッチだ。

 

「それじゃよろしくね」

 

「お任せ」

 

 出久くん強化用スペシャル分身だ。いや、これ作るの本当に大変だったんだよ。1ヶ月ぐらいああでもないこうでもないと試行錯誤の末! メモリを私本体とほぼ同じぐらいにして戦闘系個性を除くことにした。大は小を兼ねるのです。実際これならいろいろ対応できるからね。なによりこの分身の任務は大変根気がいる。出久くんの雄英合格、いや、それ以後も彼に成長促進系の個性をかけ続けなければならないのだ……! 24時間365日、とまではいかないが(学校行ってる間とかはさすがに近づかないよ)出久くんの暮らしを見つめる分身。ちなみに緑谷宅の隣室がちょうど空きがあったので分身はそこに潜伏することになる。大丈夫、大家さんには事前に1年分相当の家賃を銀行口座に振り込んであるから。なんなら夢の中でもイメトレさせるから寝ても覚めてもトレーニング漬けだ。ノイローゼにならないかこれ。リラクゼーション的なのもやってもらうか。

 

「いやだから任せろって」

 

 あっ、はい。お願いします。ここからは出久くんの成長に合わせて細かい調整をしていく必要があるので私本体が口出ししない方がいいのだ。急成長させると歪な形になりかねないし、オールマイトに不審に思われても困る。なので段階に合わせて成長倍率を変えていくわけだ。ちなみに分身は出久くんに接触しても構わないことになっている。努力する少年を見守る謎の美少女ごっこだ。外見は本体と異なっているので後に私と出会っても出久くんが気づくことはない。はずだ。まあ、オールマイトとの接触は回避するけど。

 

 ん? そういや私が目覚めたときにドクターが成功したって言ってたの、何度か成長促進をしくじってたってことか? 自分の体を他人の都合でいじくられるのってやっぱり嫌ねぇ。

 

 頑張れ出久くん、目指せアメリカンドリーム! あるいは地獄の一丁目だ。

 

 

 

 ────────

 

 

 

 国立雄英高校。ヒーロー育成を目的として設立された国立校の1つであり、その最高峰とされる。トップヒーローの登竜門とも言われ、実際にヒーロービルボードチャートJPのトップには雄英高校出身者であるオールマイト、エンデヴァー、ベストジーニストらが名を連ねる。教育に携わる者も現役プロヒーローであり、広大な敷地には各種訓練施設が設置されており、最高峰に恥じない環境が整えられている。

 

 その会議室では定例の職員会議が行われていた。

 

「文部科学省とヒーロー公安委員会から要請が来たのさ」

 

 いくつかの議題が終わったところで、根津校長が切り出す。彼は個性『ハイスペック』により人間以上の知能を持ったネズミという世にも稀な存在だ。そのような人物が国内トップ校の校長職に据えられているのはひとえに彼の能力とそれによる信頼があってのものだろう。

 

 文科省とヒーロー公安、いずれも雄英高校とは切っても切れない関係にある公的機関だ。教師陣の前に配布されたペーパーには、あれこれと官僚的作文がなされているが、要約すれば

 

『今年度の一般入試の合格枠を一つ増やせ』

 

 ということが書かれている。

 

「なんなんです、これは」

 

 今年度の入試、つまり来年度の一年の枠を追加しろ、という話はその一年の担任となるイレイザーヘッドから見てもなんとも不可解であった。ヒーロー科の1クラス20名という人数は、法に定められた1クラス40名以下というものの半数であり、それだけに生徒1人に対してより丁寧な教育が行えることになり、担当する教師が過不足なく指導できる人数でもある。それを1人増やすということは決して不可能ではない。実際、他科からヒーロー科への編入が認められた場合、21名となる。とはいえ、ヒーロー科は授業内容の厳しさから退学する者も珍しくないため、2年次は1クラスの人数が20名を下回ることもあるが、それを最初から21名にするというのはこれまでに例がない。ヒーロー基礎学では、2名ペア、あるいは5名チームで演習が行われることが多い。そうした状況に対応したカリキュラムを立てることはできるが、21、というのは半端な数であり、変則的な演習編成が組まれることになる。いやもちろん変則的な状況はヒーローの現場では頻発することではあるが、イレイザーヘッド風に言うならば不合理さが拭えない。

 

 来年度からオールマイトが新任として1-Aの副担任に就くことが内定しているが、教師としては新人。担任である相澤の負担が軽減されるか、というと微妙なところである。なお、オールマイト自身は既に新居を雄英高校周辺に構えており、教師となるための研修を県内の大学で受けることになっている。

 

 しかもこの要請、ヒーロー科が設置されている全国の高校に対してではなく、雄英高校にのみ出されているのだ。不可解、不合理、文科省やヒーロー公安委員会の真意に疑念を抱かざるを得ない。

 

「“今後のヴィラン活性化、犯罪件数増加の可能性を鑑み……”まあ、オールマイトが教員となれば、ヒーロー活動を減らすことになりますから、それを好機とみるヴィランがいるであろうことはわかりますが。ふん、舐められたものですね」

 

 1-B担任のブラドキングが鼻を鳴らす。

 

 オールマイトの活躍が報じられるのはもはや日常の一部ではあるが、仮にそんな彼がヒーロー活動を辞めたとしても、治安上致命的な問題だとは考えられない。検挙数で言えばNO.2のエンデヴァーの方が多いし、彼以外のヒーローの活躍もめざましい。なにより今はヒーロー飽和の時代。そのような状況でヒーローの卵を一人増やす必要があるとは思えない。仮に増やすならばヒーロー資格の合格枠のはずだ。

 

「もしや、“黒外套”絡みですか」

 

 何人かが呻く。いずれも自身の事務所がある地域に“黒外套”が現れた者だ。雄英高校の教職である以上、事務所から離れなければならないのだから対処できなかったとしてもそれは仕方のないことなのだが、地元で好き勝手されることには忸怩たる思いを抱いてしまう。“黒外套”は昨年ウォーターホースを救った事件以来ほとんど姿を現さなくなっている。そのとき交戦していた血狂いのマスキュラーも消息を掴めていない。約1年以上に及ぶ“黒外套”の跋扈は少なからぬ模倣犯が現れたものの、その模倣犯を“黒外套”本人が捕らえるという奇妙な状況にあったため、治安上の影響は最低限に止まっていた。

 

 しかし、一部専門家はこの事件をもって「社会への不満が滲み出たものであり、対処を誤れば蟻の一穴になりかねない」と評するなど、社会不安を煽るものであったことは間違いない。加えて、多くのヒーローがヴィラン逮捕を先に越されてしまっていること、ヒーローの不正告発が数件起きており──―これも“黒外套”によるものではないかと噂されていることと合わせて、ヒーローへの不信感が拡がりつつあった。無論のこと、ヒーローへの不信はヴィランにとっての好機であるから、ヴィラン活性化云々はそれなりに理があると言えた。

 

 だがそれが今回の要請に繋がるかというと、首をひねらざるを得ない。

 

「それとの関連ははっきりしていないね。公安の方も相変わらずのようなのさ」

 

 話題に出した教師も、公安がなにか掴んでいないか確かめるためだったらしくそれ以上は何も言わない。加えて、校長が既にこの件についての問い合わせを行い、書面以上の返答がなかったことも察せられた。

 

「褒められた話ではありませんが、うちのクラスでもあれを格好いいなどと言う生徒がいますな」

 

 入学から間もないとは言え、ヒーロー科1年には浮ついた雰囲気がある。国内トップ校に合格したのだから無理もないことだが、ヒーロー科の授業は実践を伴うものが多くそうした気分は容易に事故に繋がる。演習中の事故が元でヒーロー科を去ることになった例もある以上、まず新入生には喝を入れるべきだ、というヒーロー科教師は少なくない。些か時代錯誤にも思われるが、生徒自身の将来や人命に関わるのだから否とは言いにくい。

 

「コミックのダークヒーローのように見えるんだろう。少しばかり厳しめにやった方がいいんじゃないか、イレイザーヘッドみたいに」

 

 イレイザーヘッドは雄英高校の教職に就くにあたって、校長から受け持ち生徒の“除籍”と“復籍”の権限を得ている。いくら自由な校風とはいえ、法的に眺めた場合グレーなもので取り扱いを誤れば許可を出した根津校長の責任が問われかねない。無論のこと、イレイザーヘッドも生徒のためを思ってのことであるから認められているのだが、校長も度量が大きいというべきか、ともかく度胸のいる判断ではある。そしてそれを認めさせたイレイザーヘッドもまた豪胆であった。

 

「俺は最も合理的だと思うからやっているだけです。それを他の方に押しつけるつもりはありません」

 

 イレイザーヘッドは昨年だけで数十回の除籍処分を行っており、この方針には他の教師陣からも賛否両論であったが、否の意見も感情面、そこまでやる必要があるのか? というものでイレイザーヘッドの教育者・ヒーローとしての能力を疑うものではなかった。実際、2-A担任も「今まで受け持ってきた生徒とは面構えが違う」と高く買っているほどだ。

 

「むぅ。だが一度釘を刺した方が良いのは確かだ。彼らが目指すものはあくまでプロヒーローであることを自覚させねば」

 

「まあ、その辺は担任の2人に任せるとして、だ。校長、今回の要請どう答えます?」

 

「国からの要請である以上、こちらが断ることはできない」

 

 雄英高校は国立校であるため、不可解であるというだけで簡単には断れない。

 

「けれどやるべきことは何も変わらない。1人でも多くの若者を導くことさ。相澤君や赤君には苦労をかけると思うけど、僕やみんなもできる限りのサポートはするつもりさ」

 

 

 

 布薩壊理(ふさつえり)の毎日は控えめに言っても地獄であった。

 

 地獄という場所は、現世において罪を犯したものが落とされる場所だ。6歳でしかない彼女にどうような罪があるのだろうか。いや、あるのだ。父親をこの世から消滅、殺してしまったのだ。五逆罪の一つに数えられる業。その罪による行き先は無間地獄である。であるならば日々受ける傷の数々は当然の仕打ち、鳥のようなマスクをした男にそう教わったのだ。

 

 あれだけ仲良しだった母親に散々罵られ、捨てられた。そして祖父であるという老人に引き取られ、その部下だという男の下にいる。男──―治崎廻、オーバーホールは恐ろしい存在、いや地獄の獄卒というべきか。幾度となく罪人である壊理に刑罰を与える。血を抜き、肉を削ぎ、骨を穿つ。取るものがなくなっても『分解』し、『修復』すれば元通り。同じことが何度も何度も繰り返される、まさに終わりなき責め苦、まさに無間地獄。

 

 一度、壊理は脱走を試みたことがある。世話役の目を盗んで、外に出ようとしたがすぐにオーバーホールに連れ戻されてしまった。そのときの世話役はそれ以来見ていない。殺されたんだ、自分のせいで。壊理は直感的にそう理解した。ああ、まただ、いつも自分のせいで、罪をまた重ねたから、誰かが死ぬんだ。自分がきちんと罰を受けていないから。そう考えるようになってから、壊理は脱走を考えることも、オーバーホールに逆らうこともなくなった。

 

 罰を受けていないときは、与えられた部屋のベッドの上で過ごす。壊理自身が灯りをつけることがないために暗い部屋には、絵本やおもちゃがいくつもあるが、壊理がそれに触れることはない。なぜ罪人である自分にこのようなものが与えられているのか、理解できなかった。

 

 ふと、ベッドの傍らに人の気配を感じて顔をあげると、そこには黒い服(セーラー服というらしい)を着た女性の姿があった。女性は、壊理が自分に気づくと優しく微笑む。

 

「こんにちは、壊理ちゃん」

 

「お姉ちゃん!」

 

 壊理が飛び跳ねるように女性に抱きつく。壊理はこうして時折現れるお姉ちゃんが大好きだ。彼女といるときは痛いこともされないし、自分が罪人であることも忘れられる。このときだけは、心穏やかでいられるのだ。

 

 抱きついてきた壊理を抱き返しながらお姉ちゃんは頭を撫でてくれる。壊理が好きなのはこの手だ、優しく触れてくる、誰もそうしてくれたことはなかったからなおさらだった。

 

 初めて会ったときは違った。壊理自身が過去の出来事と現状認識から拒絶したのだ。お姉ちゃんは一瞬だけ哀しそうな顔をして『痛いでしょう?』と、壊理の手を取りながら言ったのだ。違う、自分が痛みを受けるのは罪人だから、罰を受けなければならないから、そうでなくてはならないから。言葉にすることはできなかったが、お姉ちゃんはわかっているとでも言いたげに頭を横に振った。

 

『ならせめて、私といるときはみんな忘れて。ここはまだ地獄ですらない、現世にいるなら、せめてひとときだけでも』

 

 そのあとのことはよく覚えていない、ひどく泣いたように思う。それ以来、次にお姉ちゃんと会うのが楽しみでしかたがなかった。

 

「また髪が乱れている。ほら、こっちに座って、梳いてあげるから」

 

 これもお姉ちゃんがやってくる度行われることだ。お姉ちゃんが来る間に治崎によって『分解』・『修理』されてしまうため、乱れた状態になってしまうのだ。壊理はやり方がわからないし、道具もないためお姉ちゃん任せだ。

 

 世話役の男が部屋に入ってきた。壊理以外の人間がいるのはあり得ないことだ。だが世話役はお姉ちゃんの姿を見て愛想良く笑うのだった。

 

「や、いつもすみませんね。俺みたいなのにゃ、お嬢のような女の子とどう接したらいいかわからないもんでしてね」

 

「慣れないことはなんだって難しいものですよ」

 

「ははっ、ちげえねえや。あっ、飲み物置いておきますんで、ごゆっくりどうぞ」

 

「ええ、ありがとう」

 

 不思議なことに、世話役は彼女のことをずいぶん前からここに出入りしている友人であるかのように接していた。お姉ちゃんがここに来るようになったのは、まだ片手で数え終わったぐらいの回数しかないはずなのに。

 

 そしてなにより不思議なのは、彼女の存在に治崎がまったく気づいていないことだ。壊理の髪が整っているのを見ても、世話役がやったのだと思っているようだった。

 

「はい、できたよ。うんうん、可愛くなったね。それじゃあ、今日はなにをしよっか?」

 

 髪を梳き終えてお姉ちゃんがそう言うので、壊理は本の続きを読んで欲しいとお願いする。魔法の学校を舞台とした人気のファンタジー小説だ。壊理はひらがなは読めるのだが、漢字はあまり読めないのでお姉ちゃんに読んでもらうのが一番だ。この個性時代にファンタジーが人気というのも奇妙に思えるが、先天的に各々が異なる能力をもつ個性に対し、学校で習得できる技術である魔法というのが受けているらしい。

 

「“賢者の遺志”ね。どこまで読んだっけ?」

 

「ないつうしゃ? の人がわかったところ」

 

「内通者ね。内通者っていうのはね、壊理ちゃん、味方の振りをしていて実は敵にいろんな情報を教えたりしている人のことなんだよ。どう思う?」

 

「うーん、悪い人?」

 

「そうだね。仲間を裏切っているんだから。でもね、そういう人だって本心からそうしているとは限らないの。例えば家族を人質にとられて仕方なくそうしている人だっている。悪い人にだって、そうなってしまった理由がある。もちろん、なぜ良い人が良い人で居続けられるのか、もね。この作品が人気なのってそういうところもきちんと掘り下げてるからだと思うな」

 

「ふーん」

 

 内通者は賢者の遺産を常世の女王に捧げるべく暗躍していたのだった。遺産の力があれば女王は復活を果たし、世界は再び夜の時代が訪れる。そうはさせまいと主人公たちは立ち向かうが、内通者も魔法学校の師範となるほどの人物、苦戦を強いられ次々と倒される仲間たち。あわや絶体絶命! というところで魔法界の生きる伝説が駆けつけ、最終決戦へと……

 

「壊理、時間だ」

 

 その声に壊理はハッとして顔を上げる。部屋の入り口にはオーバーホールと白いコートを着た男がいた。壊理はわずかに身震いする。これからなにをされるか、なにを受けるべきなのかわかっているからだ。怖い。けど逃げてはならない、これは罰なのだから。壊理はベッドから降りて部屋の出口へ向かう。

 

 部屋を振り返る。誰もいるはずがないのに。




ちょっと気になっている点と捕捉を1つ、2つ、3つ、4つ・・・

・私が高校だったときは学年があがると担当教員も同じく次学年を担当していたのですが、原作の描写からするとイレイザーヘッドは前年も1-A担任だったようです。これは国立だからなのか、私の高校の地域だけがそうだったのか。学校のこういう制度って自治体や公立・私立で違うところがあるのでどうなんでしょうねこれ。

・ヒロアカって話の主軸が入学してからなのに、お話の開始がその1年前からなので「原作から○年前」って表現にややこしさがありますね・・・

・オールマイトがいきなり雄英教師になって教員免許とかどうなってんだって原作読んでて思っていたんですが、特別免許状って制度があるのでこれを利用してるっぽいですね。まあ、雄英の教師はみんなプロヒーローらしいですが、全員がこれってわけは・・・ないよね? ざっと100人近くいることになるはずなんだけど・・・

・A組は21人編制で行きます。これに関してT・S嬢は「私のせいで雄英に入れなくなる人出たら可哀想だから」などと供述しています。タグは入学編からつけます。

・壞理ちゃんの名字は仏教用語から取りました。八斎會の組長さんの名字も同じです。

・常夜ちゃんの原作知識は単行本で言えば32巻、318話までです。
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