ラスボスの子に転生したのでNO.1ヒーローを曇らせたいと思う 作:タメガイ連盟員
誤字報告ありがとうございます。
12月11日UA20万突破しました。ありがとうございます。
年末ということもありますが、遅れ気味で申し訳ない。
サー・ナイトアイ。
『予知』の個性を持ち、かつてはNO.1ヒーロー・オールマイトのサイドキックを務めていたベテランヒーローである。その鋭い眼光は画面越しであっても威圧感が伝わるほどであり、
現在、ナイトアイが関わっている案件の1つが
それがここ最近市中に出回り出しているため、ナイトアイもファットガムをはじめとする薬物対応に実績のあるヒーローからの協力要請で調査を進めているのだが、ここで浮上してきたのが彼の管轄地域にある指定ヴィラン団体・死穢八斎會だ。組長である布薩長四朗が病に倒れたために若頭である治崎廻が実権を握っていると推測されている。昔気質で仁義を重視する布薩組長は薬物取引を禁じていたが、資金源として利用し始めている疑いがある。加えて全国の裏社会の組織・個人との接触の増加が認められていることも活発化の証と言える。
・・・違和感がある。なぜこうも死穢八斎會が怪しいという情報が集まっている? 実際に怪しげな動きをしているのは確かだが、それは死穢八斎會に限った話ではない。まるでこちらの耳目を死穢八斎會に向けさせたがっているように思えてならない。背後になにかがある、と考えるべきだが、死穢八斎會にはかつて存在した上部組織は解散、海外組織との繋がりも薄く、実質独立組織と言って良い。あるとすれば旧来の極道組織同士だが、組長同士の個人的友誼によっている面が大きい。
5年前のオール・フォー・ワン打倒までにオールマイトは巨悪に属する組織を徹底的に潰していった。これにはオールマイトの活躍にかこつけてヴィラン組織取締強化を図る国によって、かつての指定暴力団が締め上げられたことも小さくない。死穢八斎會は彼の巨悪の傘下ではなかったが、その煽りを受け衰退していっている。かつて極道、侠客と呼ばれていた彼らが社会において必要悪とされていた部分はヴィジランテ、そしてヒーローの活動として取り込まれている。その活動の暴力的な面が多分にある極道と、民衆に支持され、かつ国に認められた存在であるヒーローとではどちらが生き残るかは明白だ。
現在裏社会で活動している組織は大雑把に言って、巨悪傘下組織の残党、死穢八斎會のようにこれに与しなかったもの、海外組織との繋がり或いはその傘下であったものに分かれる。大規模なものは残っておらず、中小・零細規模のものが乱立している。オール・フォー・ワンの不在を察し、これらを糾合しようと考える者が現れてもおかしくない時期だ。一連の背後にあるのはそれだろうか? いや捜査は未だ途上なのだ、断定すべきではない。真に賢しい悪は闇に潜む。必ずやそれを暴き出し、白日の下にさらしてみせよう。
もう1つの案件である個性を消す弾丸の捜査状況は芳しくない。使用された件数がわずか4件、いずれもチンピラやチーマーグループによるものだが、発生場所が関東、関西、東海、九州とばらけているため、組織間の繋がりを追うのに苦労させられている。だが、この4件とは4人のヒーローが一時的とは言え個性が使用不能になっているということでもある。無論、プロヒーローたるもの個性頼みではないが、突如個性が使えなくなれば隙が生じ、ヒーロー自身や市民の被害に繋がる。もし効果が一時的なものではなく恒常的なものであったとしたら、そのヒーローは廃業せざるを得ないだろう。薬物と同様、強力な効果を持ったものが出回る可能性は非常に高い。ヒーロー社会にとってはまさに脅威、早急な対処が必要なのだが、情報が不足している現状はいかんともしがたい。
わかっているのは銃で撃たれた、というだけで弾丸の実物は確認されておらず、また撃たれた者の体内からなにも発見されていないことから、人体に溶けるような素材が使われていると推定されている程度だ。特殊な素材ゆえか、銃も専用のものであることはわかっているが、どちらも依然出所はわかっていない。逮捕された使用者をたどると、中間組織に死穢八斎會の名もあったが、安易に結びつけることはできない。弾丸の実物が確保できれば進展するのだが、当面は焦燥と共に待つしかない。
PCから顔を上げ、眼鏡を外してから眉間を揉む。このところ激務続きで疲れがたまっているのだろうか、思考がモヤモヤとしてはっきりしないときがある。よくない兆候だ、クリアな思考は重要なもので、これを阻害する疲労はまさに大敵である。こうしたとき、ナイトアイがすることは決まっている。オールマイトの動画視聴である。手慣れた動作で動画配信サイトのブックマークから目当ての動画を開く。特に彼が好んでいるのはオールマイトのデビュー戦、大災害の救助活動の様子を捉えたものだ。わずか7分31秒の動画であるが、世界でもっとも再生数の多い動画としても知られている。その再生数のうち数万がナイトアイによるものだ。
世間にオールマイトファンは数限りなくいるが、ファンがこうじてサイドキックの座を勝ち取ったのは空前絶後であろう。サイドキックを持たない方針のオールマイトを根負けさせたというのだから凄まじい。今でこそコンビを解消し独立した事務所を構えているが、ファンであることは変わりがない。彼の自宅や事務所にはオールマイトグッズが所狭しと飾られているほどだ。
癒やしを得られると同時に、ナイトアイの脳裏に懊悩が浮かび上がる。オールマイトとナイトアイがコンビを解消したのは価値観の相違からだ。5年前、重傷を負ったオールマイトにナイトアイは引退と後継者探しを勧めた。だがオールマイトは象徴として立ち続けることを主張し、その言葉を受け入れない。ナイトアイはこのままヒーロー活動を続けるならばもうサポートはできない、そしてなにより自身の個性によって見たオールマイトの死という未来を告げるもその主張を翻させることはできなかった。結局、両者の溝が埋まることはなく、オールマイトが無個性の中学生をワン・フォー・オールの後継者として選んだことでさらに深まってしまった。
ナイトアイは雄英高校の根津校長がオールマイトの後継者として推薦していた通形ミリオの育成に着手した。ミリオは次代の象徴に相応しい資質を持った少年で、彼を育て上げることは有意義なことだ。しかし、こんな当てつけのような行為に何の意味があるのか。未来を変えようともせずに、ただ漫然と日々を過ごしているのと何が違うと言うのだ。
ジリジリと炙られるような頭痛に襲われる。霞む思考と共にここしばらく続いている症状だ。果たして疲労によるものだけなのか。春先に受けた健康診断では何の異常もなかったはずだが。
と、スマホが鳴った。死穢八斎會の監視に当たっているサイドキックのセンチピーダーからだ。
『死穢八斎會から直接接触がありました。組長から話がしたいと。できれば今日中に。こちらの人数についてはなにも』
一体何のつもりだ。こちらが監視していることを知っているのは驚かないが、なぜ接触してきた。しかも病に伏しているはずの組長がだ。いや、ここは虎穴に入らずんば虎児を得ず、と考えるべきか。
「センチピーダー、お前は事務所に戻れ。私が1人で行く」
『わかりました』
センチピーダーと入れ替わり死穢八斎會の邸宅へ向かう。今でこそ零細となったが、かつての隆盛を思わせる豪勢な造りだ。塀が高く窓が少ないため、内部がどのようになっているか窺うのは困難、監視も人の出入りを見るためでそれ以上のことは難しい。呼び鈴を鳴らし、来訪を告げる。
通されたのは応接室だ。対面に置かれたソファの一方は空いており、応接机を挟んだもう片側のソファには組長である布薩長四朗と黒のセーラー服を着た少女が座っている。布薩は点滴をしており、隣にはスタンドが備えられている。その後ろにはマスクをした僧形の男と大柄な男性が立っている。僧形の男は構成員のリストにはいなかったはず、おそらく新参だろう。ヒーローを呼び出した場にいることを考えると、捕縛か防御に長けた個性持ちだと思われる。大柄な男性は本部長の入中だ。若頭である治崎を除く幹部2人が揃っているが、それだけに少女の存在はあまりに不釣り合いであり、異様であった。周囲に注意を払いつつ、ナイトアイは空いているソファに座る。
「お呼び立てして申し訳ない。死穢八斎會組長、布薩長四朗です」
「ナイトアイ事務所代表のサー・ナイトアイです。早速で申し訳ないが、どのような用件でしょうか」
布薩が頭を下げる。
「まずはうちの者がご禁制の薬を取り扱っておりました。本来ならば組長である私が抑えねばならないところでしたが、ご覧の通りの有様でして。勝手働きをした者は後日警察に出頭させます」
違法行為は認めるがあくまで下の者が勝手にやったこと、そして指を詰めさせて一応の収拾を図る。ヤクザ者がよく使う手である。しかし、今のところグレーである死穢八斎會から自首者が出る以上、組全体が関わっているという決定的な証拠がなければ摘発はできない。今後も監視を継続することには変わりないが、これ以上首を突っ込むこともできない。だがこんなことを告げるためにわざわざヒーローを呼び出すだろうか。
「用があるのは私ではなく、この者でして」
ナイトアイの疑問に答えるように布薩は隣に座る少女を指す。
肩あたりまで伸ばしている髪は黒を主として一部が白いツートンカラー、目立つ顔立ちではないが目には力強さを感じさせ、口元には微笑みを浮かべている。ヤクザの邸宅にいるというのに堂々としたものだ。布薩の娘だろうか。以前に見た資料によれば、布薩の娘は縁を切っているはずだが、それ以外にいてもおかしくはない。
「お初にお目にかかります、サー・ナイトアイ。私は死柄木常夜と申します。ああ、それとも“黒外套”と名乗った方がよろしいでしょうか?」
流れるような動作でお辞儀をした少女――――常夜の口からは驚くべき言葉が飛び出した。無論、サー・ナイトアイも“黒外套”は知っているが、それが死穢八斎會と繋がりがあるとは思っていなかった。いや、そう名乗ったからと言って、この少女が“黒外套”であるという根拠にはならない。
「まあ、私が“黒外套”の正体であるかどうかはあまり重要ではないので、脇に置いてください。それから、私と布薩組長や治崎さんとは友人なんです。と言っても、つい先日なったばかりなんですけど」
その言葉に布薩は困惑の表情を浮かべ、入中はあからさまに顔を歪める。どうやら友人というのは一方的なもので、彼らにとっては不本意なものであるらしい。つまり、実質的に死穢八斎會はこの少女の下に置かれていると考えていい。死穢八斎會の背後に潜んでいたのはこの少女だったのか? いや、だとしたらわざわざ呼び出して顔を合わせはしないはずだ。ならば、なぜだ。
「お預けしたいものがあるんです」
そう言って、常夜がどこからともなく小さな箱を取り出す。箱を開け、応接机の上に置いて中身をナイトアイに見せる。そこに収まっていたのはゴルフボールほどの赤い貴石。
「ああ、まず説明をするべきでしたね」
言いながら後ろに立つ入中に目配せをする。入中は嫌そうな素振りをしながらも、外に控えていたであろう者の名前を呼ぶ。呼ばれて入室した男は頭部が犬の姿をしている、異形系個性の持ち主で、犬崎というようだ。常夜が犬崎の正面に立ち、服をはだけるよう指示する。犬崎の胴体は頭部同様、体毛に覆われている。余談だが、異形型の悩みの1つとして、入浴後などに体毛を乾かすのが大変、というものがあるらしい。常夜が犬崎の腹あたりに手の平を当てると、その手が腹の中へと沈んでいく。犬崎の顔には困惑と恐怖が浮かんでいるが、痛みを感じている様子はない。数秒して、常夜がするりと手を引き抜く。その指先には2cmもない貴石が挟まれていた。そして。
「なに・・・?」
犬崎の姿が、普通の青年に変わっているのだ。異形型の個性は他のものと違い生まれつきのものだ、それが失われるなどということはあり得ないことだ。ただ1つ、ある個性を使用された場合を除いては。
犬崎は自分の手がつるつるとしたものに変わったことに狼狽えていたが、申し訳なさそうな顔つきで常夜に頭を下げる。
「すみやせん、元に戻していただきたい。こいつは死んだお袋との最後の絆なんで」
「えっ」
そう言われた常夜がポカンと口を開ける。よほど驚いているようだ。
「・・・ああ、そういう人もいるのか。個性絡みで人生つらい人ばっかり見てるから新鮮だなぁ。うん、まあ、これデモンストレーションだから元々戻すつもりだったから。安心して」
絆かー、思ってもみなかったなぁ、などと呟きながら常夜が貴石を手に犬崎の腹に再び手を入れていく。手を引き抜いたときには、犬崎は元通りの犬の特徴を持った姿に戻っていた。犬崎が一礼して退室していくのを見送りながら、ナイトアイの内部では驚愕と恐怖が渦巻いていた。
個性を“奪い”、“与える”個性。
それはオール・フォー・ワンの個性そのものではないか!
“黒外套”の個性がどのようなものであるか様々な推測が行われていたが、あまりにも多岐に渡るため複数人説まで唱えられたものの確定には至っていなかった。しかし、彼の巨悪と同質のものであれば全て説明がつく。
かつてオールマイトと袂を分かったとき、彼は『巨悪がいなくなってもすぐ次の巨悪が現れる』と言った。それが、この少女ではないのか。そして、あのときははっきりと見えなかったが、オールマイトと対峙していたヴィランが彼女ではないのか。未来を見るべき、なのだろうか。だが、見てしまえばその未来は確定する。しかし、しかしだ、彼女が加害者であることがわかれば、死の要因を取り除くことができるのではないか、予知のその日の前に、排除してしまえばいいのではないか。
「お加減が優れないようですが、どうかなさいましたか?」
「いや・・・なんでもない」
ナイトアイは軽く頭を振り雑念を振り払う。いったいなにを考えていた? 仮にもヒーローたる者が例え相手が何者であろうと、それを害することを考えるなどあってはならないことだ。いや、ナイトアイとて人間だ、思わず殺したくなるような、このまま死んだ方が良いと思えてならないヴィランに出会うことは珍しいことではない。ヒーローの権限は捕縛までで、対象の殺害は私刑以外のなにものでもない。過失致死であったとしてもその責を追及されることもある。当然殺人は重罪であるが、それ以上にヒーローにとっての禁忌と言って良い。
「とまあ、こんな感じで個性を石にして取りだしたものなんです。この赤い石の持ち主はこの個性のせいでとーってもつらい思いをしてきました。なので私がこうして取り除いたわけです」
だがそれを考えてしまうほどに目の前の少女の存在は危険だ。一見善意の行いに思えるが、これは巨悪の行いをなぞるものだ。今でこそ個性と呼ばれ多数派となっているが、超常黎明期においては異能は少数派であり、差別や迫害に晒されていた。日常生活に支障をきたす者、異能による暴力を受け自衛のためと異能を求めるものに巨悪は手を差し伸べていった。多くの者がその手にすがっていった、それが引き返すことのできない道だとしても。オールマイト以前の時代は悪が力を持ち、巨悪の甘言に多くの人々が容易く乗ってしまうほど荒んでいたのだ。
「布薩さん、席を外してもらっていいですか?」
布薩は頷くと、入中に支えられながら僧形の男を伴い部屋から出て行く。その表情にはどこか安堵したものが感じられた。そして外で控えていた者たちも立ち去ったらしく、応接室とその周辺にはナイトアイと常夜だけが残された。
「さて、ここから先はあなたにとってもあまり周囲に知られたくないことだと思いますので人払いしたわけですが」
常夜は再び机の上の貴石を指し示す。
「この個性は『巻き戻し』。ちまたで話題・・・にはそんなになってないと思いますが、個性を消す弾丸の素となったものです」
ナイトアイの片眉がピクリと動き、眉間の谷をさらに険しくする。なぜわざわざそんなことを告げるのか。
「死穢八斎會が製造したという証拠は残っていない、というわけか」
「はい。材料も製造設備もすべて残っていません。邸内をいくら捜索しても何も出てこない、というわけです。正直なところ、私にとっても個性を消すなんてものは厄介でしたので」
どうやったかは不明だが、未だ調査途上の案件をプロヒーローに先んじて押さえ、あまつさえその組織を自身の影響下に置いている。これだけでも十分に脅威ではあるが、だからといってこの場で彼女をヴィランとして摘発することもできない。現行犯でなければ難しいし、彼女がやったことはせいぜい個性の無断使用程度、はっきり言って微罪にしかならない。
「『巻き戻し』の効果は対象となった生物の時間を文字通り巻き戻してしまうことです。そうですね、例えば事故で手指を失った人にこれを使って事故が起きる前の状態まで巻き戻せば、元通りになる、というわけです。まあ、厳密な意味で元通りと言えるかどうかはわかりませんが。ちなみに無機物には効きません」
医療方面へ応用できれば極めて有用な個性だ。治癒系の個性は、俗にレア個性と呼ばれるものに含まれる。雄英高校の看護教諭、リカバリーガールはそうした稀な個性の持ち主だ。彼女の個性の場合、対象者の治癒力を活性化させるため、対象者自身の体力を消費することになる。『巻き戻し』にはそうした制約がないように思えるが。
「この個性は突然変異型だったんです。元の持ち主もうまく制御ができないという状態でして。思った通りに戻せればいいんですが、やりすぎてしまうと」
つまり、下手をすると胎児以前にまで戻ってしまう危険があるということだ。そんな個性を一体どうやって弾丸という形にしていたのか・・・嫌な想像がナイトアイの脳裏をよぎる。個性は身体と密接に繋がっているものだ。そしてその個性の効果を発揮させられる物質の材料とはなにか、考えるまでもない。彼女が言っていた『つらい思い』とはそういうことなのだろう。いや、その個性が取り除かれているということは、その人物も解放されているのではないか。
「元の持ち主は現在無個性になっています。他の個性を渡してもいいんですが、持ち合わせがありませんので。今後どう生きていくかはその人次第ですし、これまでよりはまあ、マシと思えればそれでいいんじゃないでしょうか」
なんとも無責任な物言いであるが、安易に他人の人生を背負うようなことを言う方がよほど無責任だろう。当該人物はまだ死穢八斎會と関わっているようだが、少なくとも悍ましい状況からは脱しているようだ。もっとも、彼女がそう言っているだけであるから、安堵すべきかどうかは怪しいところだ。しかしここまでは前置き、彼女は未だ貴石をナイトアイに預ける真意を明かしていない。
常夜は何も言わず、ただナイトアイを見つめている。ナイトアイも無言、なにか語るべきは彼女だからだ。しばらくそうしていると、少女の口角が持ち上がっていき、そこに三日月が現れる。赤い三日月が。
「『私はあなたの為になりたくてここにいるんだ、オールマイト』」
「・・・!?」
息が詰まる。それは、5年前に他ならぬナイトアイ自身がオールマイトへ向けた言葉だ。
「『このままいけば、ヴィランと対峙し言い表せないほど・・・凄惨な死を迎える』」
なぜ、彼女がそれを知っている。まるでその光景を見ていたかのように言葉を紡ぐ。
「あなたの予知によれば、オールマイトは今より1年から2年の後に死に至る。そうですね? あなたの予知が外れたことはない。むしろ未来を確定してしまう。それゆえ、あなたは苦悩し続けている。巨悪は討たれどもその悪意の種は芽吹き時を待っている。芽は人々の恐怖を、不安を糧に大きく大きく成長していき、その枝葉は社会を暗い闇へと、混沌へと引きずり込む。だけどそこに平和の象徴はいない。血に濡れ、大地に伏しているのだから。そして、再び悪が嗤う時代が訪れる」
灯りがついているはずなのに、部屋がひどく暗く感じられた。頭にジリジリとした痛みが這いずり、思考と視界が狭まっている。
「『巻き戻し』には理を覆す力がある。失われたものを取り返す力がある。使うかどうかはあなた次第です。未来に至る前提を覆したとき、未来は変わるのか変わらないのか?」
常夜が机に手をついて身を乗り出してくる。赤い月が眼前に踊る。
「ですがサー・ナイトアイ。これは悪魔の取引です、どうか熟慮なさいますよう」
死穢八斎會の邸宅を出たナイトアイは空を仰ぎ見る。既に日没を迎えているが、曇天であるため灯火で普段から目にすることが難しい星どころか月すら見えない。
「月、か」
月は狂気の象徴だと言う。自分も赤い三日月に狂わされてしまっているのだろうか。
スーツの内ポケットにはあの赤い貴石が収まった小箱がある。なぜ受け取ったのだ。あの少女の言う通りこれは悪魔の誘いに他ならない。だが。
「オールマイト・・・」
避けられぬ未来を変えられる。あまりにも甘い言葉だ。あの少女に嘘はない、悪魔は嘘はつかない。ただ説明が足りないことが多いだけだ。頭が痛む。
『ああ、無用でしたら砕いてしまってください。そうすれば個性としての機能は失われます。ですが、ご利用の際は、こちらにご連絡を』
小箱と共に携帯端末のアドレスが書かれたメモ紙を押しつけられている。
死柄木常夜。
あまりにも謎が多い。その言葉には嘘がないとしても、情報があまりに不足している。他人に話せるような状態では・・・いや、せめて根津校長やグラントリノには相談すべきか? 駄目だ、オールマイトに知られることになる。彼に知られるわけにはいかない。やはりこの一件は胸にしまっておくべきだ。ああ、それよりも仕事の優先順位を変えなければ。死穢八斎會から出頭者が出るからには薬物の流れも掴めるはずだ。であるならば監視の優先度は下げるべき。となればローテーションも組み直さなければならない。ああ、それから――――
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「さーて、仕込みは上々。あとは転がすだけ。うんうん、やっぱりサッドとビターを挟みつつみんなハッピーがいいよね!」
他のヒロアカ二次作を読んだ常夜ちゃん「うーん、二次作同士のクロスオーバーって憧れるよね!」
ナガンさん「よそ様に迷惑かけようとしてんじゃねえよ」(PANG!)
常夜「(マトリックス風に避ける)それはつまりで近くでこっそり見るならいいってことですよね!?」
ナガンさん「よくねえよ」
治崎とおともだちになった話は次回です。
常夜のプロフィールいる?
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いる
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いらない