ラスボスの子に転生したのでNO.1ヒーローを曇らせたいと思う   作:タメガイ連盟員

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路徳様、佐藤東沙様、ヴァイト様、satake様、カッター・コンナ・ハズジャナ 様、ジャック・オー・ランタン様、ラプラス様、みやとも様、佐伯 裕一様

誤字報告ありがとうございます。

なんとか年内に出せました。

タグに愉悦部追加しました。


13.それは底なしの

 9月に修学旅行があります。

 

 しかも海外だ。前世含めても海外旅行は初めてなので正直わくわくしている。さすがお金持ち学校は違うね。パスポートは修学旅行先が海外だってわかった時点で用意してもらっている。旅行を楽しむためにも、今抱えてる案件はそれまでに片付けてしまいたい。そのために高度な分身を作って対応しているわけだ。

 

 現在活動している分身は

 

 出久くん強化担当

 

 八斎會工作担当×3

 

 政治工作担当

 

 秘密の工作担当

 

 と主に6人がいる。場合によっては増やすこともあるけど、基本はこれ。八斎會担当が3人いるのは「こんなん1人でできるか」って担当がごねたので増やしたため。まあ、全国の裏社会を網羅して工作しないといけないんだからしょうがない。ちなみにこいつ、癒やしが欲しいとかぬかして壊理ちゃんと遊んでいる。しかも“自分と会っているときだけ自分を認識できる”という七面倒くさい認識操作を行っている。治崎にバレないためかと思ったんだけど、治崎をはじめ八斎會構成員には認識阻害をかけてるんだからあんま意味ない、なにがやりたいんだ。自分の分身なのに何考えてるかわからん。たぶんミステリアスな雰囲気演出とかだと思うんだけど、マジでやってる本人が楽しい以上の意味がねえわ。

 

 こうやって本格的分身を作ってわかったんだけど、私の元に戻したとき記憶だけじゃなくて独自活動していたうちに育んだ嗜好も私本体に影響があるのだ。つまり、私本体は壊理ちゃん本人と会ったことはないんだけど、分身を戻すと壊理ちゃんへの好感度が爆上げされるということだ。うん、まあ、壊理ちゃんを好きになるのはいいんだけどさ、問題は出久くん担当だ。

 

 なにしろこいつ、出久くんが学校行ってる間とオールマイトが近くにいるとき以外は彼のことを見つめ続けているのだ。離れたところに個性の効果を発揮させるときは対象を見ている方がやりやすいから、なんだけど、案の定好感度が上がっている。見てるだけなのに? チョロくね? いや、チョロい原因は私だけどね? 元々ヒロアカのキャラの中ではまあまあ好きだけどさ、あくまで主人公として成長していって、ヒーローらしい活躍をするところが好きなのであって、トレーニングしてるの見てるだけでなるかぁ? なってるじゃねえか! 私やっぱり対人に関してはものすごくチョロいのでは・・・? 百のときなんか一目見ただけで一発KOよ? まあ、ともかくこのまま合流すると出久くんへの好感度も上がってしまうわけだ。でも精神的BLをする気はないんだよ私は。友情の範囲内であって欲しいものである。

 

 政治工作は国会議員や各省庁にあれこれする担当だ。おかげさまでスキャンダルもすっごいゲットできてしまった。わーお。雄英の入試枠を増やしたのもこいつの仕事である。正直怪しまれるだろうなぁ、とは思ってたんだけど意外とあっさり受け入れられた。国が変なこと言い出すのってよくあるんだろうか。大変だね、現場の人は。A組にしてもらうつもりだから、頑張ってね、イレイザーヘッド先生。

 

 で、最後の秘密の工作担当は秘密だ。だって秘密なんだから。他はともかく、こればっかりは他にバレないようにすっごい気をつかっている。いや、出久くん担当もパパに露見すると不味い気がするけど。あんまり早く彼がオールマイトの後継者だって知られちゃうのはね。

 

 さて私の分身事情はともかくとして、八斎會担当から連絡があった。とうとう個性消失弾の完成品ができあがったようだ。今7月ですよ。八斎會案件は原作から早まってるからこっちもペースあがっててよかった。

 

 月産5発とはいえ、年なら60発。最大で60人の個性を奪うことができる。そして血清を使えば元に戻せる。パパのやり方をブラッシュアップするって言ってたけど、パパが相手に直接触れないと個性を取れないことを考えると、銃と弾さえあれば誰でもどこでも使えるってのは驚異だ。銃刀法は現在でもあるけど、拳銃だから携帯・隠蔽しやすいし。私やパパだって個性がなくなったら、これまでのようなことはできなくなってしまう。なので潰しておこうというわけだ。ただここで潰すのはあくまで個性消失弾であって八斎會そのものではない。最初は潰そうかと思ってたんだけど、あれこれ工作しているうちに残しておいた方がいろいろ便利なことに気づいたのだ。というかもう組長派の人なんかほとんど私の魅了や洗脳の影響下にあるし、治崎だって有能な人物だ、是非とも“なかよく”しておきたい。はは、前に腕もいだろかとか言ってたのが懐かしいなぁ。私、有能な人が好みっぽいね。百への好意とはまた別方向だけど。

 

 ただ治崎は野心家だ。パパ亡き後(死んでないけど)の裏社会を牛耳ろうと目論んでいたぐらいだし、組長さんへの忠義も篤いから容易く人の下にはつかないだろう。なので、最低限正面切って打ち倒す必要があると思う。自分より弱いと思っている相手の言うことなんて聞く耳持たないだろうし、今後便利に使うためには徹底的にやらないといけないかもしれない。しかも原作では逮捕されて両腕失った=個性が使えない状態なのにも関わらず、壊理ちゃんの名前聞いた途端目を輝かせるし、諦めるってことを知らないのか? うん、最低限のハードル高いな? どうしよう。ん、忠義が篤いか。利用できるなこれ。

 

 一口に有能と言ってもいろいろあるけど、治崎の有能ポイントは多い。個性消失弾の開発、開発に必要な機材を官憲に悟られることなく調達する、弾丸の開発・生産や組の維持に必要な資金の調達、八斎衆の勧誘など人材確保と多才である。なんであなたヤクザやってるのってレベルだ? 組長さんに拾われたからか。

 

 個性消失弾なんて医療や個性に関する知識がないと製作は不可能だし、材料に人体を使っているとは言え、個性の効果を人体から離して維持できるようにするなんてどういう原理で成り立っているのかわからない。というかなんで『巻き戻し』で個性が消せるんだろうか。んー、未完成品だと個性因子が傷つくけど自然回復してたわけだから、完成品は自然回復しないわけだよな。しかしどうやって完成品の効果を確認したんだろうか? 個性因子ってなんらかの方法で見ることができるっぽいから、個性因子の損傷状態から判断できるのか? 例えば、個性因子には核のようなものがあって、完成品はそれを壊すことができるとか。いや、なんで『巻き戻し』でそういう効果になるのかはわからないんだけど。個性の専門家であるドクターに聞けばわかるんだろうけど、私がなにしてるかバレたくないからなぁ。いや、バレてるかもしれないんだけど。秘密の工作さえバレてなければいいか、他の工作も良い隠れ蓑になっている、はずだ。

 

 機材の方は闇マーケットを利用したんだろう。この手の機材って正規購入するのにいろいろ申請とかしないといけないから、治崎みたいな人間に正規ルートはNGだろう。ただ用途が特殊だから、部品のみ購入して一部ハンドメイドという可能性もある。なんでもできるなこいつ。ここまで来ると何が苦手なのか聞きたくなるくらいだ。学生時代は全教科満点でしたとか言ってきそう。あり得るから困るんだよなぁ・・・

 

 資金調達に関しては言わずもがな。八斎會の本邸の維持費だって馬鹿にならないだろうし、あそこ以外にも拠点もってるわけだし、フロント企業の運営もあるわけだから、結構な資産なのでは・・・? 零細とはいったい・・・? これでも全盛期にははるかに及ばないってことなんだろうけど、いやあ、小市民には理解できない世界だな。銀行の預金通帳残高とか7桁までしか見たことないし。というか、治崎の才覚なら非合法な薬物に手を出さなくても、フロント企業のアガリで結構稼げる気がするんだけど、まあ、維持じゃなくて革命が目的だからそっちは人任せなのかもね。

 

 八斎衆のスカウトもなんというか手慣れた感じだ。社会に行き場のない人間を見いだし、そして自ら鉄砲玉であることを受け入れさせている。組織のトップとしてきちんと未来のビジョンを示しているわけだし、すぐ組員を殺すのはどうかと思うけど、例え外道でもついていくしかないと思わせていることからカリスマだってあるだろう。ヤクザやマフィアって社会の爪弾き者の受け皿でもあるんだよね。まあ、国にとっては受け皿になったら困るから取り締まるわけだが。所詮は犯罪組織だしね。なんだけど、ヴィランの社会復帰ってやっぱ難しいんだよね。一度自由に個性を使うことを覚えちゃうとそう簡単には忘れられるものじゃないから再犯に及んじゃうし。そりゃ刑期終えたら犯罪者ではないけどさ、ぶっちゃけ凶器を内蔵しててそれを使ったことある人を隣人として受け入れられるか、というと難しい。キリストさんなんかは汝隣人を愛せよとか言ったそうだけど、こっちが愛してもあっちが愛してくれるとは限らないし。そしてまた愛も様々だ。嗚呼、文化の衝突。

 

 前にも言ったけど、治崎はヒロアカのヴィランの中でもかなり強い部類に入る。強個性に加え常軌を逸した鍛錬、地下闘技場に出入りしていたことから実戦経験も積んでいる。冷酷無比な性格ゆえか、他人を害することにも躊躇が一切ない。こいつ屈服させないといけないのか・・・治崎に限らず基本強ヴィランって殺人への忌避感ないし、こんなのを非殺で倒さないといけないなんてヒーローって理不尽な仕事だよね。実際、原作のサー・ナイトアイは治崎と戦って死ぬことになるし。だからってヒーローに殺しのライセンス持たせるってのもまた問題だ。市民への生殺与奪の権を特定の誰かに持たせるとかまともな国のやることじゃない。いや、そのまともじゃないことをやってたなそういえば。やっぱ腐ってるわ。一度やり直さないといけないって強く思う。

 

 うーん、前世の平成の世は底なし沼にズブズブはまっていく感じだったけど、今世は足下に無数の不発弾が埋まってる感じだ。来年一気に爆発するんだけども。やだねぇ。

 

 私としては個性消失弾計画をお釈迦にする代わりになんらかの利益を提示しようと思っている。友好関係っていうのは互いに利益を享受し合うことで生まれるものだからね。ま、利益が一方的になったら破談するけど。金の切れ目が縁の切れ目とはよく言ったものだ。私から提供できるものといえば、情報だろう。なにしろ『ハッキング』でどんな情報でも手に入れられるし、操作もできる。なんの漫画かは覚えてないけど、情報と流通を押さえれば大抵のことはできるって言うしね。八斎會のフロント企業に輸送業ってあったっけかなぁ。

 

 で、対八斎會なんだけど、私は最初組織を相手取るにはこっちも数がいるんじゃないか、と考えていた。だけど反省会を通じて組織の力を削ぐことで対処してしまえばいいという結論に至った。八斎會自体が弱体化するのは望むところじゃないから、私が壊理ちゃんを奪取するときに八斎會邸ががら空きになっていればいい。組長派の人たちにはあれこれ理由をつけて当日近づかないようにお願いしておく。若頭派、というか八斎衆とかは残ってるんだけど、別に戦わないといけないわけではない。というか、あらゆる場面で真面目に戦う必要ないんだよね、本当は。この辺原作イメージ引きずってる気がするんだよね。マスキュラーのときはいろいろ試したかったから正面切って戦ったけど、私はなんでもできるし、倫理良心道徳を守る必要もない。卑怯は負け犬の遠吠え、勝てば良かろうなのだ。まあ、あとのことも考えておかないといけないから過程を無視するわけじゃないけど。

 

 この点考えると、ヒロアカのヴィランってすっごい真面目に戦ってるよね。治崎の言う英雄症候群がマジで世に満ちてるんじゃないかってぐらいだ。特にパパ、魔王ムーブの一環なんだろうけど、神野でのオールマイト戦とか物理で殴るしかやってねえの。それで物理で殴る特化のオールマイトに負けてんだから世話はない。まあ、パパはともかく、ステインなんかは相手を動けなくしたところをザクザクやるから卑怯っちゃ卑怯なんだけど、原作だと1対3だったせいで卑怯に感じにくい。あ、孤立したところを襲撃したりしてるから連合はきちんと卑怯だね。よかったよかった。

 

 さて、ここでご紹介したいやつがいます。

 

 『個性結晶化』

 

 私が開発したオリジナル個性だ。これは文字通り個性因子を石という形に変えてしまうものだ。石にした個性は体外に取り出すことができる。つまり私版オール・フォー・ワンだ。個性を与えるには別にそれ用の個性がいるんだけど。ワンタッチで奪う与えるができるパパと違って結晶にするまで数秒かかるし、与える方も相手の体内で結晶化を解除、個性因子の定着化という神経使う工程がいる。なので、私版というか劣化版だな。あと獲った個性を私が使うことはできないし、体外にあるうちに石を壊してしまえばその個性は失われる。パパとの違いは獲った個性を捨てられるぐらいかな。捨てる意味あんのかね、パパも要らない・興味のない個性は獲ってないようだし。

 

 取りだした個性は特に鍛えていない一般人だと2cm未満、ヒーローならその倍くらいだ。石にした個性って綺麗なんだよね、どれも宝石みたいで。百と出会ってからかな、前世じゃまったく興味がなかったと思うんだけど、宝石の写真集や図鑑を買って部屋においていて、暇があれば眺めてたりする。肉体的な性別が変わってからもうすぐ3年ってところだけど、精神的にもちょっとずつ女の子に近づいてるのかね。精神は肉体に引っ張られるって言うし。そりゃ男にだって宝石が好きな奴はいるだろうけど、宝石ってそれ自体が権力や財力の象徴だから、男が持ってるとそういう方向のイメージ強いのよね。うん、本物はねー、一度くすねてきたことあったんだけど、うっかり粉々にしちゃってから手元にはおかないことにしている。

 

 まあ、個性を形あるものとして体外に取り出す、という技術はドクターが既に確立しているからそう目新しいものではない。というかこれを実現したドクターマジやばいな。そりゃパパから資金や検体の援助を湯水の如く提供してもらって、『摂生』の個性のおかげで人より長生きできるから研究もそれだけ長くできるにしてもね。いくらドクターがすごいからって、研究って1人だと思考の限界があるし、専門外のこととなるとからっきしということがあるから共同研究者いたと思うんだけどね。なんかやらかしてパパに消されちゃったのかね。

 

 個性は身体機能の延長、というのは原作でも繰り返されていることだが、そうであるがゆえに個性研究は人体研究にならざるを得ない。超常黎明期は人間の定義が崩れたなんて言われているけど、既に人権意識が発達した後の時代であっても、異能への差別・迫害から非倫理的な人体実験へ至るまでにそう時間はかからなかったはずだ。人間、同胞以外にはトコトン冷たくなれるもんだ、それが人間以外と決めつけたものならなおさらだろう。かつて蛮行とされた行為が繰り返されることになったであろうことは想像に難くない。個性の有無を足の小指の関節の数で判断する、というのは確か超常黎明期の研究成果ではなかったか? そりゃあ調べに調べまくったはずだ、個性を持つ人間と持たない人間の違いを。まあ、当初は死体を調べるだけだったのかもしれないけど、生体解剖の誘惑に抗えた研究者はどれほどいたのか。やがて異能が個性とされるようになり、世の中も安定してくれば検体の確保も難しくなり、闇へと消えていった、数多の研究成果を残して。

 

 パパも自分の個性が個性だから、この手の研究には注目していただろうし、なんなら協力だってしていたはずだ。そこで目をつけたのが異能特異点論を唱えて学界から追われたドクターだ。学会じゃなくて学界ね。学会って追放されるようなもんじゃないし、会費を払えば割と簡単に入れる。住むところまで失ったとか言ってるから、大学なり研究所から解雇されちゃったんだろうね。いやひでえわ、裁判やったらたぶん勝てたぞ。つーかパパ、ドクターがドン底になるまで待ってただろ絶対。ドクターもパパのこと仏の笑みだの現人神だの言ってるから、甘言ってのは心が折れてるときに最も効果を発揮するってのがよくわかる。こういうところは勉強になるんだけどね、パパのやり口って。

 

 そしてパパの下でドクターは自身の理論に基づき個性と肉体強化の研究に勤しむようになったわけだ。その研究施設の隠れ蓑として蛇腔総合病院を創設、その理事長にもなっている。いやいやいや、改めてパパの資金力どうなってんの。あんな設備まである総合病院となりゃ100億とか余裕で超えるぞたぶん。そんな額をポンと出せるんだからわけわかんねえ。そしてそんなものを誰にも気づかれないように建設できてるんだから、各界への影響力も半端ない。マジで裏の支配者だわ。それはともかく、表と裏で多忙を極めてただろうけど、ドクターにとっては充実した時間だったろうな。尊敬してる人の役に立つって承認欲求が最高に満ちるもんだろうし、パパも謝辞と賞賛を惜しまないから楽しくて仕方ないだろう。人の使い方うまいねほんと。で、そんな研究の最終目標がマスターピースってわけだ。脳無もその副産物だったわけだけど、それでもアレだもんな。んー、でも脳無関係の研究って黒霧の存在を見る限り、私が作られた頃には作るのに手間と時間がかかるけど、技術的には概ね完成してたっぽいんだよね。私の製造理由は弔のスペア用+オールマイト嫌がらせという結論を出してるけど、もうちょっとそれらしい理由があったと思えてならない。まあ、パパのことだから『別にうまくいかなくてもそれはそれで』みたいなノリだったのかもしれないけど。寿命と金がある人はこれだから・・・

 

 さて、長々考え込んでたけど、襲撃準備をしていこう。タイミングとしては治崎が八斎會邸にいるとき。まあ、基本邸宅から離れないんだけど、あいつ。組員のほとんどはいない状態にするし、八斎衆も適当にダウンさせておこう。乱波とか相手したくないし。うん、やっぱ真面目に戦うのはやめよう。反省会のときに分身にも言われたけど、原作を意識しすぎているってのはこういうところもなんだろうな。相手の嫌がることを進んでやろうじゃないか。

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 死穢八斎會若頭・治崎廻は上機嫌、とまでは言わないまでも気分が良かった。かねてから進めていた計画の要である個性消失弾が完成に至ったのだ。あとは血清と併せて増産を行い闇市場へ流す。増産ペースは亀の歩みだが、資金が潤沢になれば設備を拡張することもできる。材料を独占している以上市場支配することは容易い。そうすれば組をでかくできる、裏社会を再び極道が、八斎會が牛耳るのも夢ではない。拾ってくれた組長への恩も返すことができる。

 

 地下施設の一室、組長の孫である布薩壊理の個室に到着する。壊理という存在に巡り会えたことは治崎にとって二度目の幸運と言ってよかった。『巻き戻し』という理を覆す力。研究と抽出を重ね、個性の極限へ到達させた。個性という変異が起こるそれ以前、人間を正常な形に戻すことすら可能だろう。

 

 室内に入ると、ベッドの上に壊理。と黒いセーラー服の少女がその隣に立っていた。覚えがない人間だ。

 

「どうもー、囚われのお姫様をいただきに、っておお?」

 

 治崎は一息で少女に近づくと、右手を掴む。一瞬の間をおいて、“黒外套”の体がバツンと弾け飛ぶ。治崎の個性『オーバーホール』による分解だ。

 

「ふん・・・どこから入り込んできた、世話役の奴はなにをしていた。壊理、また罪を重ねたな。何度も言ったはずだぞ、俺が手を汚さないといけなくなる。お前は罪人だ、呪われた存在だ」

 

「おねえ・・・ちゃん・・・」

 

 壊理はカタカタと震えながら、少女の血痕を見つめている。そこに若頭補佐のクロノスタシスがやってきた。

 

「すみやせん、オーバーホール。準備に手間取りまして」

 

「玄野、遅いぞ。まあいい。今日の分の採取を始めるぞ。壊理を連れてこい」

 

「かしこまりやした」

 

 治崎が玄野の脇を通り抜け、背を向け歩き出すと、背後から銃声が響く。いったいなにをされたのか、一瞬理解できなかった。撃たれたのか。だが痛みはあまりない。

 

 振り返る。見慣れているはずの白いコートの男が治崎に銃口を向けている。ただの銃ではない、個性消失弾発射用のものだ。

 

「玄野・・・?」

 

 マスクとコートを外した中から現れたのはさきほど殺したはずの少女。

 

「残念、玄野さんじゃなくて私です。本物の玄野さんはお休み中です。では、初めまして、私は“黒外套”。噂ぐらいは聞いたことありますよね? 今日はマントつけてませんけど」

 

「黒・・・!? うぐっ」

 

 “黒外套”に視線を向けられた途端、全身に強い痺れが走り身動きが取れなくなる。たまらず床に倒れ込む。噂は無論知っている、社会の裏表問わず騒がせた謎の怪人。それがなぜここに、いや、なぜ壊理の存在を知っているのか。

 

「ああ、あれで死んだと思いました? あれただのフレッシュなお人形ですよ、豚肉丸々一頭分って思ったより安いんですね。あなたの個性を知っていて何もしないわけないじゃないですか。さて、今なにを撃たれたかわかりますよね? そう、個性消失弾の完成品です。おめでとうございます、これであなたは無個性です。ああもちろん、血清も押さえてありますからどうにもなりません。いやはやご愁傷様です」

 

 “黒外套”が嘲り笑う。自身が圧倒的優位にあるという傲慢と余裕を持った人間特有の嗤い方だ。

 

「あ、動くと邪魔なんで麻痺をかけてあります。あなたがどんなに強かろうが、どんなに強力な個性を持っていようが、全部封じてしまえばただの人です。もしくはまな板の鯉。あ、人じゃなくなっちゃいましたね。さて」

 

 “黒外套”が壊理に向き直る。壊理の方は状況が飲み込めず呆然としているようだった。

 

「おねえ、ちゃん・・・?」

 

「そうだよー。お姉ちゃんだよ。さて、壊理ちゃん、ちょっと我慢してね」

 

 “黒外套”が壊理の服を捲り上げ、腹に右手をするりと突き入れる。壊理はなにが起きているのか未だにわからず目を白黒させている。数秒して“黒外套”が壊理の腹から手を引き抜く。その手にはゴルフボール大の赤い宝石が握られている。

 

「うわっ、でっか。なによこれ。個性も成長するとここまで大きくなるのか・・・んっ、やっぱり角もなくなってるね。うーん、やっぱこのままは流石に可哀想かな。というわけで、ていっ」

 

 “黒外套”が壊理の額を軽くつつき、壊理の意識が途切れベッドに倒れるとそこにもう1人“黒外套”が現れる。

 

「んじゃよろしく」

 

「んー、やっぱり大丈夫なのかな。そりゃなにも覚えていない方がいいだろうけどさ、これ結局精神の総量が減るってことだし」

 

「若いからまだそんなに影響ないと思うけど。いや、先々どうなるかは何年もかけて見ないとわかんないし・・・んー、まあ、被検体1号ってことで」

 

「へーい」

 

 わけのわからないやりとりを終えた最初からいた方の“黒外套”が赤い宝石を治崎の目の前にかざす。

 

「さーて、オーバーホールさん、この石がなにかわかりますか? まあ、壊理ちゃんの角がなくなったから察しはつくと思いますが。そう、あの子の個性、『巻き戻し』そのものです。もうあの子からなにを採ろうがなーんにもできません。なにせ無個性なんですから。当然血清も作れません。ああ、もちろん製造設備も今頃灰になっているはずですから、スリーアウト、ゲームオーバー! 今どんな気持ちですか? ああ、実際になにもかも台無しになったところを見てみないと実感できないですか? だいたい、個性を世の中からなくすのに個性を利用しようなんて矛盾してません? あ、もしかしてワクチンでも作ってるつもりだったとか。ん、ワクチンってそういうのだっけ? もうないものについて考えてもしかたないか」

 

 個性を奪う。死んだとも噂される、闇の帝王の個性。なぜそれを使えるやつがこんなところに現れる。いや、そういう個性を持つからこそ個性消失弾を警戒し、潰しに来たのか。

 

「じゃあ組長さんに挨拶に行きましょう。もう起きているはずですし」

 

 “黒外套”が床を軽く蹴ると、そこが盛り上がり大柄な人型を形成する。人型――――ゴーレムと呼ぶべきか、のっそりとした動きで治崎を肩に担ぐ。“黒外套”とゴーレムが向かった先は、宣言通り組長が伏せっているはずの部屋だ。この部屋は治崎と若頭補佐であるクロノスタシス以外組員も知らないはずだ。部屋には植物人間状態になっている、治崎自身が組の方針に従えないなら出て行けと言われそのような状態にしたはずの組長がベッドの上で身を起こしている。そしてその隣にはまたもう1人の“黒外套”。

 

「治崎・・・」

 

 組長は計画が軌道に乗り、組がでかくなったら修復するつもりだった。だがその計画は寸前で破綻させられた。組長に合わせる顔がない。

 

 ゴーレムは治崎を“黒外套”が用意しておいたらしい椅子に座らせると、形が崩れ消え去った。

 

「さて、初めまして、死穢八斎會組長、布薩長四朗さん。私は死柄木常夜と申します。そちらの治崎さんや世間には別の名前で知られていますが、あなたはしばらく眠っていましたからご存じないでしょう。別に知らなくても支障はありませんが。さて、この度私はそちらの若頭さんの計画を潰しました。これでお孫さんの壊理ちゃんが傷つけられることはありません。無個性になってしまえば、個性で苦しむこともなくなります」

 

「無個性になった・・・? まさか、あんた」

 

「そこはご想像にお任せします。まあ、このご時世で無個性というのも苦労するかもしれませんが、そこは彼女本人の気の持ちようなので。ああ、あとここに来てからの記憶も消してあります。なのであなたと会ったことも忘れてると思うので、二度目の初対面をお楽しみください。では今後についてお話したいのですが」

 

「今後・・・?」

 

「私は別に八斎會を潰したいわけではなく、そちらの若頭さんの計画が邪魔だっただけです。それに、みなさんのような方ともなかよくしたいと思っていたところです。まあ、みなさんで話し合うこともあるでしょうから、そうですね、明日の18時にまた来ますのでよろしくお願いしますね?」

 

「お願いしまーす」

 

 2人の“黒外套”が姿を消し、部屋に組長と治崎だけが残される。組長はしばらく考え込んでから治崎の方を向く。

 

「治崎、あいつとの交渉は任せる・・・いや、交渉にもならん、向こうの言い分は全て飲め。でなきゃ潰される」

 

 未だ麻痺が続いてるため身動きが取れない治崎が布薩の目を見つめ返す。そこにはただ諦観だけがある。

 

「昔、闇の帝王と呼ばれている男に会ったことがある。会ったというより顔を少し見ただけだ。あれはあのときの奴と同じだ、見た目はまるで違うが中身に詰まってるもんが同じだ」

 

 悪意。底の見えない闇。

 

「極道は、八斎會は終いだ。何十年もこの世界で生きてれば自然と時勢には抗えないとわかっちまうもんだ。おめえみてえな若いのを巻き込んじまって悪いとは思っていた。だが、もっとおめえの思いも汲んでやるべきだったんだな。自分が侠客のまま死にたいもんだから、他のものが見えちゃいなかった」

 

 治崎も極道の衰退を理解していないわけではない。だが納得できなかった。組長に拾われる前、施設にいた頃に目にした『超常のウイルス伝播説』、それが治崎にとっての真実であった。病気が蔓延したこの世の中を憎悪した、その病気が組長(オヤジ)たちを隅に追いやったからだ。壊理の力があればそれを正すことができると確信し、そしてすべてを奪われた。

 

組、長(オヤ、ジ)

 

 うまく動かない口で治崎が呻く。

 

「これから先生きていくならあれの下につく以外の選択肢は残されていない。今まで以上の辛酸をなめさせられるかもしれねえ。俺としても、なにもかも水に流すってわけにはいかねえが、その前に流されちまったんじゃあな。だからまあ、あれとの交渉はおめえへの罰だ。いいな?」

 

「ぁぁ・・・」

 

 

 

 

 ――――――――

 

 

 

「若頭補佐、玄野針です」

 

「“黒外套”、死柄木常夜です」

 

 殺風景な地下応接室でクロノスタシスこと玄野さんと対面する。組長さんは病み上がり、治崎はまだ麻痺ってるらしい。あと私のことも嫌いだから同じ空間にいたくないのかもしれない。嫌われちゃったなー。まあ、自分の計画台無しにした相手と会いたくないのはわからないでもないけど。

 

「私としては、社会にとって脅威となりうる個性を消す銃弾の排除こそが目的で、そちらの利益を奪うことは本意ではないのです」

 

 わーお、玄野さんが『うわ絶対嘘だろ白々しいにもほどがある』って顔してる。嘘じゃないよー、これから便利使いする人たちの利益を奪うなんてことはしないよ。

 

「ですので、代わりとなるものを提供したいと思います」

 

「あれに代わるものがあるとは、思えませんが」

 

「ええ確かにあれは唯一無二のものでしょうね。ですが私が提供するのは情報です。唯一無二とは対極、世に溢れかえっている。ですがその重要性については私が今更くどくどと説明する必要はありませんね? そしてそれをどのように扱うかも」

 

 まあ、普通の交渉ならここで『ハッキング』を使って実演するところなんだけど、彼らには契約が成立してからじゃないと見せるつもりはない。というか、私の言葉を信じるかどうかはどうでもいいんだよね。そもそものところ八斎會側に選択肢なんてないのだ。起死回生の手であった個性消失弾が失われた以上、零細にまで落ちぶれた八斎會の逆転の目なんてない。私の話に乗るしかない。

 

 如何に治崎が有能であっても、あくまで私と手を組むことが大前提だ。そうでなければなんの価値もない。私にとって手を組む相手は絶対に八斎會でなければいけないということはない。私を拒むならそこまで、他の極道に情報を流して八斎會のシマを荒らさせてもいいし、薬物取引に関する真実を警察なりヒーローなりに伝えてしまってもいい。原作より派手な展開にはならないだろうけど、彼らはもう生き残れないし、生き残らせない。八斎會も数多の極道と同じ道を歩むことになるだけだ。

 

 是非とも大局を見てもらおうじゃないか。

 

「組長からはそちらの言い分はすべて飲むように言われています」

 

 ふーん、そりゃ話が早くていいや。ちょっと拍子抜けだけど。玄野さんが若頭の治崎じゃなくて組長から、と言っていることから治崎は大人しくしているってことでいいのかな。他の拠点に隠してあった分まで根こそぎやったし、市中にまいた未完成品はいくつか残ってるけど、完成品がなければ意味ないし。

 

「それは重畳。では私からは情報を、そちらからはこちらが求めたものを用意する、ということでよろしいですね?」

 

「ええ。で、なにをお求めで?」

 

「そうですね、さしあたって不動産ですかね。えーと、なんと言いますか、隠れ家というか、セーフハウスというか」

 

「誰の持ち物なのかよくわからないというような物件ですか。いくつか心当たりはありますが」

 

「できればネット環境があるといいんですが」

 

「・・・その点も含めて後日紹介します。今後は私がそちらとの繋ぎを担当しますので、連絡先を教えていただきたいのですが」

 

「それでしたら」

 

 元八斎會担当分身1号改を呼び出す。こいつは八斎會常駐用にカスタマイズしておいた分身だ。『ハッキング』をはじめとする情報収集系個性がメインとなっている。私の背後にスッと現れたので玄野さんが驚いている。

 

「連絡用にこれを置いていきます。あ、専用の生活スペースとスペック高めのPCもお願いしますね」

 

「よろしくー」

 

 玄野さんが諦めと呆れを籠めたため息をつく。私と手を組むんだから、これぐらいは飲み込んでもらいたい。

 

「・・・他になにかありますか」

 

「んー、ここってヒーローに監視されてますよね、薬物絡みで」

 

「ええ。外から見ているだけでは、なにかが露見することはありませんが」

 

「そちらがもう少し落ち着いてからでいいんで、呼び出してもらえませんか、上の屋敷の方でいいんで」

 

「は・・・なんのために」

 

 あ、この人『はぁ!?』 って言うの堪えたな。

 

「まず、そちらの薬物取引に関する幕引きですね。適当な構成員の方に自首してもらうことになりますけど。あ、これよくやる手口でしょうから詳細はお任せします。あと個人的にそのヒーローとお話しておきたいんです。私1人だと会うの難しいんで」

 

 玄野さんは手配しておくと言って、これ以上なにもないことを確認してから地上まで送ってくれた。分身の方はこのまま邸宅に滞在することになる。早速壊理ちゃんと遊んでくるとかぬかしおる。いや、いいんだけどさ、別に。

 

 さて、これであとは『巻き戻し』をサー・ナイトアイに預けてフィニッシュだ。くうつか。事前準備をガッツリやったおかげで実行自体は一方的すぎたぐらいだ。必要以上に治崎を煽っちゃった気もするけど、先に八斎會担当を戻した影響だろうたぶん。原作みたいに派手な戦闘やると後始末が大変だしね。いつもこうならいいんだけどね。今回は相手の種がわかってる状態だったからよかったけど、本来なら全然ないところから始めないといけないわけだし。うまくいかないときって大抵の場合、準備が足りてないときなんだよね、情報収集とか。

 

 そういう意味では私も結構危ないんだよね。なにしろ相手がパパだ。うかつに近づけないから収集しようがない。そもそも近づきたくないし。あてになるのは原作知識なんだけど、私に対して何を考えてるかは例外だからなぁ。わからない以上、出たとこ勝負になっちゃうんだよなぁ。まだ1年先のことだけど、うまく行くかどうか気が重くなってきた。いざ事が始まったあとに有効な事前計画なんてないっていうし、だいたい原作展開だってどっかで拗れてる可能性あるし。主に私のせいで。自業自得じゃねえか。はぁ。

 

 ああ、なにもかもパパが悪い。




時系列的には前回の方が後です。対治崎が前回書いてたときだと決まってなかったためです。結果このような悪意対応に。

アンケートご協力ありがとうございました。いるとの回答が多数だったので入試編に合わせてプロフィールをいれたいと思います。

多くの評価、お気に入り、感想ありがとうございます。遅筆ではありますが、来年もよろしくお願いします。

しかしまあ、書き始めた頃はこんなキャラになる予定じゃなかったのにどうしてこうなった。アンケート結果が響香ちゃん(2位)かお茶子ちゃん(3位)だったらここまではっきり自分の悪意を自覚しなかったんじゃないかな。それはそれで自覚のない悪意を振りまくことになるからアレですが。
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