ラスボスの子に転生したのでNO.1ヒーローを曇らせたいと思う   作:タメガイ連盟員

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ジャック・オー・ランタン様、SKP様、244様、ヒオン様、御影鈴様、宵闇堂様、たぬき様、佐藤東沙様、パルチザン様、ヴァイト様、ユーグレナ様、あとりえ様、路徳様

誤字報告ありがとうございます。

あけおめです(遅い)

連合にオリキャラ増やすよ(唐突)


14.夏と血と

 私は今、沖縄にいます。

 

 青い空、白い雲、広い海、眩しい太陽……

 

 なんでよ。

 

 さすがに修学旅行先でテロ事件が起きてそっちに行くのがキャンセルになってしまうとは思わないだろ。やっぱ治安悪いな。そういえば、前世でもでかいテロ事件のせいで海外への修学旅行がキャンセルされまくったということがあった気がする。個性時代でもテロが起きてるってのはなんともなぁ。個性によっては爆弾なしで実行できるしね。テロ対策の難易度上がりすぎ。

 

 で、代替地として沖縄に変更。元々、プランBとして用意してあったらしいけどね。とはいえ、修学旅行であることには変わりないからテンションはあがる。宿も高級リゾートホテルと至れり尽くせりと言った感じだ。しかしこの時期に沖縄って攻めてるよね、本州の暑さとはまた違った感じだけど。

 

 それで、だ。ヒロアカはタイトル通り学園ものだ。基本、イベントは学内ということになる。雄英体育祭がその代表だろう。あとは学園祭や林間学校か。通常スケジュールなら冬休みにもこういう強化合宿があったんだろうけど、全寮制移行とヒーローインターンのおかげでなくなっているようだ。雄英って修学旅行あるのかね。あるとしたら2年次だと思うんだけど、ヒーロー科は6月に仮免、それからインターンやれるようになって忙しくなるからないのかもしれない。ヒーロー科以外はあるかもしれない。ヒーロー科って、本当にヒーローになるための学科なんだね。

 

 そしてだいたい学校の外に出るとトラブルが起きる。職場体験然り、林間学校然り。あと劇場版もそう。全部出久くん絡みだけど、主人公だからトラブルに引き寄せられちゃうんだろう。そして自分からも突っ込んでいくタイプだし。そういう意味ではヴィラン側から攻め込んできたUSJ事件は例外的な出来事だ。なにが言いたいかと言うと修学旅行にもトラブルがついてくる恐れがあるということだ!

 

 なので私は頑張った。8月中空いてる時間は沖縄周辺のトラブル排除に奔走した。“黒外套”として動くと公安とかが動く恐れがあるので地元のヒーローや警察が頑張ったことになるようにした。ヒーローも評価あがるし、警察は犯罪組織が壊滅するからWin-Winだろう。あとは突発的なヴィラン犯罪と台風のような自然災害だが、前者はともかく後者はさすがにどうにもならない。局所的に天候変えるぐらいはできるけど。とりあえず、『未来予知』で確認したところ、旅行期間中に台風は来ないようなので一安心である。まあ、台風直撃されてホテルに缶詰、というのもそれはそれで乙かもしれないけど。

 

 日程は粛々と消化されていく。3泊4日のスケジュールなのだが、テロ事件で予定が変更されたためか自由行動が3日目だけと少ない。他は定番の史跡巡りだ。うーん、黎明期の混乱で散逸してしまった文化財や破壊された史跡が少なくない、というのがなんとも悲しい。当時の状況を考えると、文化財保護が二の次になっちゃうのは仕方ないとは思うんだけど。これまでも細々と文化財保護事業は継続してきたけど、オールマイト時代になってようやく本格的な予算がつくようになったおかげで、史跡の復元や文化財の収集などが行われるようになった。あれだ、戦国時代に神社仏閣が焼かれまくったけど、江戸時代になって再建されました的な。やっぱり平和じゃないといろいろ蔑ろにされてしまうんだな。

 

 ちなみにパパも文化財保護には熱心だったらしい。

 

 文化財保護(それ略奪って言わない?)

 

 あれかな、魔王なんだから宝物を持っているべきだ、とかそういう。魔王のおかげで散逸を免れた美術品・文化財が多数あるってどうなのよ。うん、まあ、結果的に保護されてるんだからいいんじゃないかな。パパのものならおいそれと手出しできないだろうし。

 

 自由行動、とは言うが教員による監督があるため、行ける場所は限られている。離島観光、市内観光、海水浴と言った具合に分かれている。私は海水浴だ。

 

 海水浴組、意外と多い。みんながみんないいとこのお坊ちゃん・お嬢さんばかりというわけではないから、海水浴経験ない人がいてもおかしくないんだけど、やっぱり沖縄の海ってのは特別感あるのかね。事前に学校側が依頼していたのか、水難救助ヒーローも何人かがライフセーバーとして配置されている。あ、そういやウォーターホース夫妻元気かね。

 

 私は別に海は初めてではない。百の別荘に行ったときに経験している。別荘には遊び目的で行ったわけではなく、ヒーロー科受験に向けての合宿だ。他の学校のヒーロー科志望のクラスメイトも参加してのものだ。女子限定だけど。実技試験があるのは一緒だからね。ただ技術的なことを身につけるのは入学後にすべきことなので、とにかく体力作りに励んでもらった。まあ、1週間ぐらいでつく体力なんてたかが知れてるのでトレーニング方法の教授とかがメインである。私は既に十分過ぎる体力があるから基本みんなの補助だ。ヒーローになるにせよならないにせよ、体力はいくらあっても困るものではない。

 

 学内で雄英のヒーロー科を受けるのは、私と百だけだったりする。普通科や経営科を受ける人が記念で、というのを除いてだけど。まあ、成績2トップが雄英ヒーロー科受験を公言してるんだから回避するのはおかしな話ではない。ヒーローを目指すのに必ず雄英でなくてはならない、ということはないのだ。実際、トップヒーローでもミルコなんかは雄英出身ではないようだし。一口にヒーロー科と言っても質はピンキリ、できるだけレベルの高い学校に入った方が適切な指導を受けることができて、ヒーロー免許も取りやすくなる。他の上位校も倍率結構えぐいから、自分の実力にあったところを志望するのは大事だ。

 

 そういえば、そろそろ推薦入試の話が持ち上がる頃かな。雄英のヒーロー科への学校推薦は各校1枠と定められている。これでも全国の中学校から推薦が行われた場合、受験者は一般入試と同じ約1万人に達することになる。なので、中学校側からの推薦はある程度控えるものらしい。爆豪くんが推薦受けてなかったらしいのはこの辺が理由かもね、公立校だし。決して彼の普段の態度が悪いからではないのだ、たぶん。

 

 うちは毎年推薦出しているそうなのだが、ここ数年合格者が出ていない。なので推薦候補の百と私はかなり期待されているようだが、実際に推薦されるのは百の方だ。彼女は生徒会長もやっているし、個性もレアかつ強力だ。私の表向きの個性である『念動力』はありふれているものだし、部活動も文化部の幽霊部員とまあ学業成績以外は目立たない。自分の時間を確保したいからそうしているんだが、百の方が忙しくなってしまっているので放課後会う時間が減ってしまっている。

 

 さて、話を海水浴場に戻そう。私はビーチバレーをしている。いやほら、私だって百にべったりというわけではない。ちゃんとクラスメイトとも交流を持っている。だからこうしてビーチバレーなんてやってるわけだし。昔から外面取り繕うのは得意なんだよね、なので友達はたくさんいたと思う。今も結構いるけどね?

 

「ふっ!」

 

 私のスパイクが相手コートの砂地に刺さる。これでマッチポイント、私のチームの勝利だ。

 

「志村さんすっごい跳ぶね」

 

「1mぐらい跳んでない?」

 

 跳んでるよ。じゃないと私の身長でネットを越えてスパイクやるなんて無理だし。チームを組んでいた子とハイタッチをしてコートを出て日陰に入る。既に何回かやっているが、遊びなのについ熱中してしまった。周囲から賞賛を浴びるのって意外と気持ちいい。前世だと人前に立つこと自体少なかったから新鮮な快感だ。

 

 ビーチバレー組、意外と多くコートも3つ用意されている。観戦している人も合わせて30人ぐらいはいるんじゃないだろうか。実際にゲームプレイしているのは運動部の人が多く、男女比も半々という感じか。流石にこの辺の人たちはスポーツ競技用の水着ばかりで、動き回っちゃまずい感じの水着は着ていない。

 

 私の水着はセパレートタイプで、タンクトップとスパッツを組み合わせた感じだ。学校で指定されているものとは別だが、実用性重視、色気の欠片もない。いやこういうの好きっていう数寄者もいるからなぁ、なんか写真撮られてたし。まあ、ヒーローコスチュームもピッチリしてるの多いから、先のことを考えると恥ずかしがってもいられない。どういう風にするかは決めてるけど、ああいうの着てて恥ずかしくなかったのかね、ママは。他の女性ヒーローのコスチュームもすごいの多いけど。ミッドナイトとかバブルガールとかマウントレディとか。いや、一番すごいのは百のコスチューム案か。体から何か出すタイプの個性だから露出度高い方がいいのはわかるけどさ、人の目は気にしようよ。

 

 で、そんな百の水着は赤いビキニだ。

 

 赤いビキニだ。

 

 大事なことなので二回言いました。

 

 いやあ、あの格好で水辺で同級生と戯れている絵、やばくない? PVか? ビーチの視線が集中している。というか、男子諸君、百目当てで来てない? 気持ちはわかるぞ、だが許さん。私は今のところビーチバレーに興じているので、あまりそっちを意識しないようにしているが、気になって仕方がない。

 

 百以外にもビキニ着てる子いるけど、比較対象が悪い。誰が言ったか(響香ちゃんだっけ?)発育の暴力とはよく言ったものである。

 

 ただまあ、うちの学校って何度も言うけどお金持ちも多い。個性婚はNGだけど、財界政界だと政略結婚ってのはまだあるのよ。なんでそれが嫌なら学生のうちに良い人を捕まえないといけないらしい。なんで女子にとってはこの場は良いアピールタイムであるらしい。大変だね、良いとこに産まれるってのも。言うまでもなく、百はそういう方向でも人気があるんだけど、本人にその気がないという難物件である。

 

 百と接していると自分の中身が男であることを思い出させられることが多々ある。あれほど美人でスタイル良しの女性を見て何も思わない男性は少数だろう。2年以上の付き合いがあるから慣れるかと思ってたけどそんなことはなかった。どんどん綺麗になってくんだもん、無理だろ。

 

 あと身長差も埋まらない。むむむ。20cm以上差があるから、話すときは椅子に座るなりしないと目線が合わないのが困りものだ。百はいつも目線が合うように配慮してくれてる。良い子だなぁ、本当に。こういう気遣いに育ちの良さを感じる。

 

 前に反省会で分身に言われた通り、部屋に連れ込めれば気楽なんだけどね。でもそれやっちゃうと、その、ね。百は拒まないから困るんだよね、いや、私の『魅了』のせいではあるんだけど。彼女の貞操観念なら婚前交渉に否定的なはずだし。まあ、拒まれたらそれはそれでおいしいんだけど。親友だと思っていた相手に迫られるってなかなか良いよね。うん、でもやるにしてもまだ時期じゃない。ステイステイ。

 

 こういうことを意識するようになったからか、最近は百と2人っきりになるのがなんだか恥ずかしくてね。思春期か? 公的年齢的にはそうなんだけど。

 

 あ、目が合った。手を振ってみる。笑顔で手を振り返してくれる。その笑顔が眩しいぜ。

 

「志村さんっ、もう1ゲームやろう!」

 

 ぼんやりと百を眺めていたら、これまた背の高い女子に話しかけられる。クラスメイトで、宿で同室の唐木香子(からきかおるこ)さん、バレー部である。ちなみに、私と日焼け止めを塗ったり塗られたりしたのは彼女である。百とは私の脳が死ぬのでやってない。去年死にかけたからね。

 

「さっきから連チャンなんですけど・・・?」

 

 連チャンどころかここに来てからずっとやってる気がする。あれぇ。そして引き留め続けたのも唐木さんだったのでは? それに全部応じる私も私だが。

 

「いやあ、いけるっしょ。てか、志村さんなんでそんなに動けるのに運動部入らないの?」

 

 人の話聞こうぜ。体育会系陽キャはこれだから困る。

 

「できるだけ受験に備えておきたいんです」

 

「倍率やばいって聞いてるけど、そんなに?」

 

「入ってからも大変なんです。月曜から土曜まで授業がビッチリ。しかも実技重視」

 

「うへぇ、遊ぶ暇もないじゃん。ヒーローになるって大変なんだね」

 

「なったところで飽和時代なんて言われてるぐらいですから、よっぽど人気が出ないと鳴かず飛ばずで副業なしじゃ食べていけないなんてこともあるそうですよ。あとずっとサイドキックとか」

 

「世知辛い……そんな沖縄の海に似合わない話は置いといて! コートが空いたら次のゲームやりましょう!」

 

「はぁ……わかりました」

 

 肉体的には疲れてないんだけど、なんか精神的に疲れるんだよね。やっぱり体育会系とは合わないな。ヒーロー科も体育会系だと思うけど。あー……そういやそういうところすっごいあるわ、1-A。あのノリについていけるのか私。うちの学校は大人しい方だからなぁ。まあ、なるようにしかならないか。

 

「で、志村さんはどうするの?」

 

「なにをどうと?」

 

「いやだから、ヒーローになったら。仕事ないかもしれないんでしょ」

 

「まったくないとまでは……百とは一緒に事務所開こうなんて話をしていますけど、プロになってすぐとなると、学生時代に知名度稼がないと難しいですね」

 

「ほほう、八百万さんのヒモか」

 

「いや、私も働きますからね? それに、見えないところでやらないといけない仕事がたくさんあるんですから。警察への手続きとか報告書の提出とか」

 

 ヒーロー事務所って目立つところ以外にも地味な事務作業が山ほどある。個人でやってる人は体を酷使した上でそういう仕事もしないといけないし、エンデヴァーやインゲニウムのようにサイドキックが多数いる事務所は専任の事務員がいないと仕事が回らないんじゃないだろうか。うーん、先々のことを考えると、ヒーロー科にいるうちに、経営科やサポート科とも交流持っておいた方がよさそうだよね。なんだかんだで人脈って強いし。普通科は……拗らせてる人が多いって話だからなぁ。

 

「志村さんって夢のない話ばっかりね」

 

 呆れた様子の唐木さん。彼女は大手レストランチェーンの社長令嬢で何不自由なく育ってきた人だから、私のこの辺の感覚はわかりにくいだろう。

 

「現実の足下見ないで生きていけるほど気楽な世の中でもありませんから。夢見て転んで、魔が差して、なんてのはごめんなんで」

 

「魔が差すって・・・あー、ヒーロー関係でいろいろ不正あったんだっけ? ああいうの、うちも無関係じゃないからなー。他の会社だけどさ、産地偽装あったときなんかさー」

 

「うわぁ」

 

 食品関係は食中毒なんか出したら営業停止だし、人死になんて出した日には店じまいまったなしだ。競争激しい業界だそうだからなぁ。そして唐木さんから出るわ出るわ業界裏話。でもそっちの話の方が沖縄の海に似つかわしくないよ? 面白いからつい聞いちゃうんだけど。

 

 ヒーローの不正問題だけど、私も全部が全部暴いているわけではない。ちゃんと公安に処理させている案件もいくつかある。で、それの実行者はホークスになるわけだ。彼のご活躍はきっちり撮ってるから、あとでみんなに見てもらおう。

 

「常夜さん」

 

 唐木さんによる暴露大会を聞いていると、いつの間にか百と数人、水辺組がこちらにやってきていた。近くで見るとやっぱりすごい。

 

「休憩?」

 

「ええ。水に入っていると意外と疲れてしまうものですから」

 

「意外と負荷かかるからね」

 

「常夜さんと唐木さんは、こちらの順番待ちですか?」

 

「そんなとこー」

 

「じゃあ、私も休憩が終わったら参加――――」

 

「やめとけ」

 

 その場にいる女性陣の声が重なる。その暴力的な体型で暴力的な水着を着て跳んだり跳ねたりしたらどうなると思っているんだ?

 

「えっ……」

 

 一斉に止められたものだから、困惑しながら周囲を見回す百。

 

「疲れてるんだから休みなよ」

 

「そうそう」

 

 水辺組が百のビーチバレー参加を阻止すべく強引にビーチバレーコートから引き離そうとする。百が助けを求めるようにこちらを見るが、私と唐木さんは仲良く視線を逸らす。

 

「???」

 

 わけがわからないという表情で連行される百。ごめんね、でも君も悪いんだよ。もう少し自分の魅力への理解と羞恥心を持って欲しい。男子が舌打ちしてるが自重しろ。

 

「いやあ、危機一髪だ」

 

「ピュアというか、なんというか……」

 

 世間知らず、というわけではないんだけど、たまにちょっとずれてるところあるのよね。

 

「雄英に入れたらさらに3年付き合い延びるんでしょ? 頑張ってね」

 

「さすがにそこまでではないです。自分の面倒ぐらいは自分で見てもらいますから」

 

 まあ、同じクラスにするつもりだし、付き合いが延びるのは事実だ。“志村常夜”としてなら、既に話している通り、卒業後も一緒に仕事をするつもりだから長い付き合いになるはずだ。

 

 だが“死柄木常夜”としては違う。

 

 雄英のヒーロー科を目指しているのはオールマイトに近づくためと、1-Aのみんなと仲良くするため。そこから先は求めていない。

 

 そもそも私はヒーローになる気がない。信念のしの字もないし、誰かを救いたいとかまったくないし、勝ちへの拘りもない。最終的においしいところだけ欲しい。

 

 職業としてのヒーローも正直御免蒙るし、できれば人口の少ない地方自治体の役所勤めとかがいい。一番いいのは不労所得だけど、まったく働かないというのも落ち着かない。社畜ってほどじゃなかったと思うんだけど、なんかね。働いたり、学校行ってなかったりするのがどうにも社会通念としていかんという感覚が染みついてるのだろうか。

 

 あと目立ちたくもない。“黒外套”で散々目立っているがあれは顔を隠してるようなものだし、私が目立っているわけでもない。“志村常夜”は学校内だけではあるけど、目立っているし、今後も目立つ必要があるけどね。いくら志村ママ似だからと言っても、それだけではオールマイトに注目されないだろう。出久くんに夢中だし。ひいきよくない。しっかりアピールしていこう。

 

 しかしこうなるのはわかっていたけど、“死柄木常夜”と“志村常夜”の乖離が激しくなる一方だ。

 

 片や悪の魔王の娘でヒーロー社会の転覆を目論み、片やヒーロー志願の孤児の少女。真逆だけど、所詮は仮面、必要に応じて使い分けてるものだから違うものでも問題ない。

 

「明日は那覇市内少し見てあとは帰りの飛行機だっけ。あっという間だね。あ、お土産買ってかないと」

 

 お土産ねぇ。んー、まあ、眠木さんにはなにか買おうかな。それなりに世話になっているし。ドクターやパパはノーカン。ドクターの方も自分の所在バレを避けるために連絡しないように言われてるし。初潮のときに思わず電話しちゃったけど。あのときはだいぶ錯乱してたな私。

 

「帰ったらレポート提出ありますけどね」

 

「言わないでよそういうの」

 

「学業の一環ですからね、これ。きちんとやりましょう」

 

「ぅへーい。おっ、コート空くみたい、行こう行こう」

 

 この人、成績は悪くないんだけど、スポーツ以外のことはやる気ないんだよね。彼女は内部進学だから、中学出ちゃったら直接の付き合いなくなるんだろうな。メールとかスマホアプリでのやりとりぐらいはするだろうけど、それも遠からずフェードアウトだ。

 

 唐木さんに続いてコートに入る。こうしてのんびり遊んでいられるのも今のうちだ。とは言え、来年に向けての下準備は概ね終わっているから、そのときが来るまで学生生活を満喫させてもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『このまま終わりでいいの?』

 

 いやだ

 

『人生をやり直せる、とまでは言わないけど、せめて幸せな思い出ぐらいは欲しくない?』

 

 しあわせ?

 

『タダで、とはいかないよ。代わりに君が差し出せるものをもらおう』

 

 わたしがわたせるのは■■■の■■■だけ

 

『ああ、それでいいよ。ただし、これは時間制限付き。君自身、それはわかっているよね?』

 

 ちょっとでいい しあわせがほしい

 

『ならよし、さあ、契約だ』

 

 あのときの夢だ。未だに現実の出来事だったとは思えないが、確かにあのとき、わたしはだれかと契約を結んだ。

 

「んっ……」

 

 意識が浮上する。カーテンの隙間から日の光が差している。もう昼間らしく、日差しの勢いは凄まじく感じられる。外に出ることを考えるだけで億劫になる。

 

 体を起こして、首に手を当てる。微妙な凹凸の感触がある。これだけじゃないけど、いつまで経っても消えやしない。いや、消えることなんて一生ないんだ。これはわたしが汚れ果てた人間であるという証なんだから。

 

 隣で眠っている女の子に目を向ける。

 

 トガヒミコちゃん。

 

 私とは違う、キレイなままの女の子だ。

 

 今でこそ共犯関係だけど、最初は私が被害者で、彼女が加害者だった。

 

 夜の街を当てもなくふらふらしていたとき、彼女に襲われた。

 

 その夜は満月で、月光に照らされた彼女はあまりにもキレイで。

 

 だけど、私の血を吸おうとするのはダメだ。私は汚れている。だからそんなものを吸ってはいけない。

 

 とっさに彼女に噛みついて、自分の個性を使って動きを止める。わたしの個性は相手の血に触れることで動きを奪うこと。人に使うのは初めてだったけど、使っているところは何度も見ている。

 

 わたしは自分が汚れているから血を飲むなんていけないと訴えた。彼女はしばらくわたしをみつめてからこういった。

 

「じゃあ、お友達になりましょう!」

 

 なんで? と思ったが血を吸うのをやめてくれるならそれでいい。

 

 それ以来、わたしはヒミコちゃんと一緒にいることが多くなった。いつもではない。ヒミコちゃんは傷害と殺人、わたしも殺人容疑がかかっている。未成年だから顔と名前は公開されていないけど、それでも追われている身であることに変わりはない。ヒミコちゃんは逃亡生活を1年以上続けているというのだから驚きだ。わたしがいては足手まといになりかねない。それに、別の理由もある。

 

 ヒミコちゃんが寝ているうちに着替えを済ませる。ヒミコちゃんのことだからわたしがなにを隠しているかは気づいてるかもしれないけど、それでもできるだけ見られたくない。

 

 鏡の前に立って寝癖を治す。このすっかり白くなってしまった髪も見慣れてきた気がする。

 

「んー……おはよう、イヨちゃん」

 

「おはよう、ヒミコちゃん。シャワー浴びてきなよ、昨日はあのまま寝ちゃってたし」

 

「んー」

 

 生返事をしながらヒミコちゃんがその場で着ていたものを脱いで浴室に向かっていく。わたしにそういう趣味はないので礼儀正しく目を逸らしておく。

 

 部屋の隅には青白い顔をした男の人が横たわっている。なんでもヒミコちゃんの初恋の人に似ているそうな。そのせいで昨夜はヒミコちゃんがやりすぎていたように思う。うーん、流石にもう死んでるんじゃないかな。ちょっと脈を取ってみる。うん、止まってるわ。それに冷たい。

 

 男の人の財布から現金を抜く。予めATMでおろさせたから結構入っている。なんというかまあ、男の人って単純というか、警戒心なさすぎ。JK2人に声かけられただけでホイホイついていくとか。だからこういうことになっちゃうわけだ。

 

 それにしても。ふーん。こういう感じの人が好みなんだー。それじゃわたしはどういう基準で選ばれたの? と聞いたら、

 

「んー、血の香りがして、ボロボロだったからです」

 

 ボロボロなのは間違いなかったけど、血の香り……お風呂入ってたはずなのに。こういう嗅覚の良さがこれまで逃げ続けて来られた理由なのかもしれない。

 

 男の人に刺しておいたナイフを抜く。血はわずかもこぼれない。死んじゃうぐらい血を吸われてたからかな。それとも死んだからかな。んー? まあいいや。

 

 このナイフは特別製で契約の特典、らしい。わたしの個性を発動させる媒介になる。おかげでこうやって刺しておくだけで動きを止められるから便利。ヒミコちゃん、身のこなしとか気配の消し方とかちょっと人間離れしてるところあるけど、腕の力なんかは年相応でしかないから大変だったらしい。なのでわたしが動けなくしてから、ヒミコちゃんが血を吸うのがお決まりの流れになっている。

 

 契約……

 

 この契約は有限だ。いつか必ず終わりが来る。嫌だな。そうでなくてもわたしたちは犯罪者だ。これまでうまく逃げおおせて来てるけど、いつ警察に捕まってしまうかわからない。

 

 わたしの人生はどうしてこうも思った通りにいかないのだろう。あるときまでは普通に生きていられた。そう、あのときまでは。

 

「うっ」

 

 思い出しただけで吐き気がする。普通が普通でなくなった。どうしてわたしがあんな目にあわなくてはならなかったんだろうか。わたし、なにか悪いことした? 

 

「イヨちゃんはなんにも悪くないですよ」

 

 バスローブを着たヒミコちゃんが頭を撫でてくれている。つい声に出してしまっていたらしい。

 

「ダメだよ」

 

 ヒミコちゃんと距離を取る。ダメだ、ダメなんだ。わたしみたいな汚い人間に、ヒミコちゃんみたいなキレイな人が触れるなんてダメだ。

 

 好きな人に触れたい、好きな人のものが欲しい、好きな人になりたい。彼女の考え方はごくごく当たり前のものだと思う。

 

 でもダメなんだ。私は汚れているから、触れちゃダメなんだ。

 

「大丈夫です。だって私たち友達じゃないですか。だからこれぐらいへっちゃらです」

 

「ヒミコちゃん……」

 

「こういうのを、友愛の情って言うんですかね?」

 

「……そう、だね。きっと、そう」

 

 友愛。愛。わたしがほしかったのは、きっとこれなんだろう。

 

「でも血を吸わせてくれたらもっとうれしいです」

 

「その、なんかごめん」

 

 友達だから許されてるところあるけど、やっぱり。うん、ホントゴメン。

 

「じゃ、ごはん食べにいきましょ」

 

「うん。1個隣の駅だけどさ、そこにあるカフェのバーガーとジェラートがおいしいんだって。そこ行こうよ」

 

 ヒミコちゃんが着替えている間に調べておいた場所に誘う。

 

「なんだか女子高生っぽいです」

 

「あはは」

 

 ヒミコちゃんが差し出してきた手を握り返す。

 

 こういうのを、しあわせっていうのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――■■県■■市内のホテルで男性が心肺停止の状態で発見されました。発見したのはホテルの従業員で、男性は市内の会社員■■■さん(28)で、病院に搬送されましたがまもなく死亡が確認されました。死因は失血死と見られ、警察では連続失血死事件との関連があるとみて捜査を進めています。では次のニュースです』




唐木香子(からき・かおるこ)
個性:『香辛料』
指先から香辛料を出せる。以上。
常夜のクラスメイト。大手レストランチェーンの社長令嬢。背が高い。

イヨ
個性:『凝血』
対象の血液に触れている間、対象の動きを奪える。血液が乾く、対象と3m以上離れると効果はなくなる。
トガヒミコと行動を共にしているが、常に一緒というわけではない。トガと共に連続失血死事件に関与しているが、それ以外にも殺人容疑がかかっている。

卑屈で面倒くさくて情緒不安定な子を書きたくなった。反省はしていない。彼女が誰とどんな契約を結んだのかは・・・さて。
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