ラスボスの子に転生したのでNO.1ヒーローを曇らせたいと思う   作:タメガイ連盟員

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佐藤東沙様、ヴァイト様、えるかぷもにおじ様

誤字報告ありがとうございます。


02.個性把握テスト

「個性把握テストォ!?」

 

 いきなりグラウンドに出て何をするかと思いきや、聞いたことのないテストをやるというのだからクラス一同が驚きと困惑の声を上げる。お茶子ちゃんなんかは入学式やガイダンスはないのか、と尋ねるが相澤先生は、ヒーロー科に悠長な行事をやる暇などない、雄英の自由な校風とは先生側にとっても同じ、とけんもほろろである。

 

 で、何をするかというと体力テスト8種目――ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈をこれまで個性禁止で行われていたのを、ここでは個性ありでやるというわけだ。

 

「入試の実技トップは志村だったな。中学の時のソフトボール投げの記録は?」

 

 あれ、爆豪くんじゃないの。デモンストレーションも兼ねてるから彼みたいにわかりやすい人を選んでたのかと思ったけど、実技の成績で選んでいたのか。

 

「確か……65mだったかと」

 

 爆豪くんがこちらを向いて睨んできた。やめて、別に私が悪いんじゃないでしょ。まあ、私がいなければ爆豪くんがトップだったけどさ。

 

「じゃあ、個性を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい」

 

「先生、このボールの強度はどのぐらいでしょうか」

 

 内部に距離測定できる機能が入ってるようだし、個性の使用前提なら相応に頑丈に作られているとは思うけど、こういうのをきちんと確認するのは大事。

 

「オールマイトに思い切り殴られでもしない限り壊れないから安心しろ。早よ」

 

 オールマイトなら壊せるのね。

 

「では」

 

 頭上にボールを軽く放り投げ、いったん『念動力』で掴んで静止させる。普通に“不可視の手(インビジブル・ハンズ)”を当てても、エネルギーが一部しか接触せずにロスが大きいし、衝撃波で殴りつけているようなものなのでちゃんと飛ぶか怪しい。なので、砲身をイメージしたエネルギーの路を形成、えーと、45度だったかな、よく飛ぶ角度は。

 

「“不可視の手・一点集中(インビジブル・ハンズ・ピンポイント)”ッ!」

 

 “不可視の手(インビジブル・ハンズ)”で発揮できる最大威力の衝撃波を発生させる。衝撃波を叩きつけられたボールが砲身状の路を通って射出される。そのまま放物線を描きながら飛んでいく。ほどなくして、相澤先生のスマホに計測距離が表示される。562.3m。うーん、こんなものか。うまいこと途中で再射出できれば記録を伸ばせるんだけど、まあいいか。みんなの輪の中、百の隣に戻る。

 

 自身の最大限を知る、それこそがヒーローの素地を形成する合理的手段であると語る相澤先生。まあ、その方法として体力テストなのが合理的かどうかは正直怪しいところだけど。個性の応用が利かない人が何人もいるし。

 

 響香ちゃん、透ちゃん、三奈ちゃん、上鳴くん、口田くん、切島くん、瀬呂くんあたりか。状況がマッチすればみんな強力な個性だと言えるんだけど、今回はフィジカルのみで挑まなきゃならないんだから大変だ。

 

 梅雨ちゃんと障子くん、尾白くんは異形系に類するからこういうテストでは比較的有利だろうし、そもそも強個性の百、轟くん、爆豪くん、常闇くんらはどれだけ記録をのばせるか見物だ。飯田くん、お茶子ちゃん、峰田くん、青山くんは原作でもピックアップされたから心配ないけど、砂藤くんはどうなんだ? 増強系だけど、時間制限があったはずだからこういう状況ではかえって不利なんじゃないか? 個性が使えない組だったか。

 

 で、出久くんだけど、5%の出力調整が可能になっているらしい。できる、というだけで集中しないといけないからいつでも問題なく使えるわけではない。まあ、こういう環境なら落ち着いて使えるはずだから、飛び抜けた記録は出せないまでも、最下位になることは免れるはずだ。身体能力も向上しているしね。

 

 クラスメイトたちが面白そうだとか、個性を使っても良い事への興奮を口にしている。まあ、これまで禁止されていたものを思い切り使えるんだから無理もない。

 

 だがこの反応は相澤先生の癪に障ったご様子。トータル成績最下位の者を見込み無しとして除籍処分とすると宣言してきた。不和先輩の話からすると去年も似たようなことがあったんだろうね。入学したてで浮かれている学生に対する脅し文句としては十分だと言える。

 

「ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」

 

 嫌な歓迎だなー。というか、なにその顔。もしかして愉悦趣味あるの? さすがに理不尽だと抗議の声が上がるも、あらゆる理不尽を覆すのがヒーローであり、そのヒーローになるための3年間全力で苦難を与える、即ち“Plus Ultra(更に 向こうへ)”、全力で乗り越えて来い、と言われてしまっては反論のしようがない。

 

「どう思う?」

 

 隣にいる百に問いかける。逆隣では透ちゃんがやばいやばいと言っているが今は無視する。

 

「私たちに発破をかけるための虚偽。ですが順位付けが為される以上、全力で取り組まねばなりませんわ」

 

「うん。と言っても私の個性だと使える場面が限られるから、ちょっと厳しいかも」

 

 『念動力』を使えるのは今のボール投げ、握力、立ち幅跳びぐらいだから私が総合トップを取るのはまず無理。ただの体力テストならともかく、個性ありだとさっきのボール投げみたいに常軌を逸した記録が出ちゃうし、実際に1位になるのは百だったような。んー、原作知識も最初の方のエピソードは細かいところとなるとうろ覚えだなぁ。ナガンのエピソードはガッツリ覚えてるのにね。ああいう話が好きだってのもあるけど。

 

「ね、ねぇ、志村、さん? だったよね。さっきのって嘘なの?」

 

 私たちのやりとりを聞きつけた透ちゃんがおずおずと話しかけてくる。まあ、実際最下位候補最有力だから気が気でないのだろう。顔の位置がなんとなくでしかわからないから目線合わせにくいね。見ようと思えば見られるけど。

 

「競争意識を刺激して全力を出させるための方便、だと思うんですけど、完全に嘘ってわけでもない気がするんですよね」

 

「えぇ……? ど、どっちなの? 私の個性ってこの通り透明になるだけだから体力テストには使えないし、実技の方もギリギリの順位だったし、それでもせっかく雄英に入れたのにいきなり除籍とか!」

 

「月並みですが、全力を尽くすしかないかと。それに、相澤先生は合理性を重視する方のようですから、今回のテストだけで判断するということはない、と思います」 

 

「葉隠さん、さきほど先生がおっしゃったように“Plus Ultra(更に 向こうへ)”ですわ」

 

「ううっ……が、頑張る」

 

 悲壮な表情(見えないので雰囲気でだけど)で決意を固める透ちゃん。実際には百が看破した通り合理的虚偽だから取り越し苦労と言わざるを得ない。真実を知っているからと言って、それを口に出すほど私は無粋ではない。あと、あわあわしてる透ちゃんかわいいし。

 

『3秒04!』

 

 50m走の計測をするロボットの機械音声が聞こえてきた。開始早々飯田くんが好記録を出している。彼の個性を考えれば走力を競う種目は得意中の得意だろう。かつての世界記録を遙か彼方へすっ飛ばしているのだから、オリンピックが形骸化したのも納得するしかない。さて、後続では轟くん、常闇くん、爆豪くん、私、百、切島くんの順で4秒台を記録している。ちなみに最下位は砂藤くん。うーん、鍛えてはいるようだけど、パワー重視のせいでスピードが犠牲になってしまっているようだ。減量しようね。

 

 ついで第2種目の握力では百が万力を造って、私が念動力で計測器をカンストさせた。どの辺りが握力なのか我ながら悩むところだが、あくまで握力計の数値が全てなのだから仕方ない。

 

「あれ、アリなの?」

 

「先生は何も言わないからアリなんじゃね」

 

 3本腕を駆使して570kgという記録を出した障子くんには悪いけど、これで個性を使えばなんでもあり、というのが皆に共有されたのではないだろうか。

 

 第3種目の立ち幅跳び、私は『念動力』を応用した“空を歩く者(エア・ウォーカー)”で、ゲームっぽく言えば連続空中2段ジャンプを駆使して50mを記録してこれはトップ。その気になればいくらでも記録をのばせるんだけど、扱いが難しいんだよね。空中での着地点をきちんと予測しないといけないし、衝撃波で跳ぶから足痛いし靴も傷むしで多用はしたくない。あと移動速度も大して早くないから、技としては微妙なところだ。まあ、元々ママの『浮遊』っぽさを出すための演出だから実用性は重要じゃないんだけど。

 

 第4種目・反復横跳び、第6種目・長座体前屈、第7種目・上体起こしはそれぞれ峰田くん、梅雨ちゃん、尾白くんがトップ。いずれも個性を反映させにくい種目のため、逆に使える人たちがトップを取っていた形になった。私の方はこれらの種目でトップを取れるとは最初から思ってないけど、一応上位を確保。

 

 第5種目・ボール投げは既に1度やっているけど2投して記録を取るので、今度は再射出を試みるも外してしまい、空中に無意味に衝撃波を起こしただけで550m程度に終わる。『千里眼』を使えれば4桁記録もいけるのに。なお、1位はお茶子ちゃんの∞。どこまで飛んでいったか定かではないけど、ボールを回収するのが大変そうだ。まあ、無茶苦茶な記録が連発されているからGPS機能がついてるかもしれないけど。2位は意外にも口田くん。鳥にボールを運んでもらうことで10km近い記録を出している。3位は百で、カノン砲を創造して5000mオーバーを記録したのだが、このとき、ちょっとしたアクシデントが発生している。

 

 私が2投目を終えて戻ると、百が自分もそろそろ準備をしませんと、と言いながら上着をはだけようとしているではないか!

 

「ちょ!?」

 

 私は慌てて百を止める。他の人もぎょっとしてるし。そして峰田、見るな。潰すぞ。

 

「今人目あるから! 特に男子の! せめて物陰に入って! というか何造ろうとしてるの!?」

 

「カノン砲を造ろうと思っていますわ」

 

 ああうん、カノン砲って長距離砲だっけ? まあ、ボール投げとは一体なんなのかもうわかんないけど、最適なアイテムだろう。そして大物なんだからそりゃ服脱ごうとするよね、脂質を消費して無機物ならなんでも造れるっていう百の個性なら! とりあえず、相澤先生に許可を取って、グラウンドから見えない校舎の陰まで百を引っ張っていく。ああもう、百の羞恥心が薄いのはわかってるんだから最初から気をつけておくべきだったよ! ここまでは比較的小さいものばっかり造ってたから気づくのが遅れた。そりゃまあ? 大抵の男子は目を逸らしてくれるだろうけど? 性欲の権化・峰田がいる以上ダメなんだよ! いや、そもそも人前で脱がないで……なんで普段は聡明なのにたまにポンコツになるのか。

 

「他になにか造る予定は?」

 

「持久走用にバイクを」

 

「……そっちも今のうちに造っておきなよ。大砲は私が運んでおくから」

 

 大砲(車輪付き)を押しながらグラウンドに戻ると、なにやら騒がしい。好記録を出した出久くんに爆豪くんが襲いかかろうとしたのを相澤先生が『抹消』と捕縛布で止めたらしい。なにやってんだ。好記録と言っても上位には入るけど、トップ勢には及ばないんだけどね。さすがの『ワン・フォー・オール』も5%出力ではそんなものか。爆豪くんがキレてる理由は知ってるけど、他の人には出久くんがちょっと前まで無個性だったなんて信じられないよね、常識的に考えれば。

 

 ちなみに、口田くんの記録は、鳥が運んでいるだけに測定が終わるまで時間がかかりすぎるので、百の測定が終わった時点で、2位が確定した時の距離が最終記録とされている。渡り鳥ってノンストップで数千kmとか飛べるからいつまで経っても記録が確定しないなんてことになりかねないから、残念ながら当然の処置と言える。

 

 第8種目・持久走は男女別で行われた(男子・1500m、女子1000m)が、女子の方は案の定バイクを創造した百がぶっちぎった。2位は私だ。ただ男子の方もなかなかひどかった。轟くんが氷を重ねることで加速して、その氷のせいでトラックが狭まるわ、それにキレた爆豪くんが氷を破壊しまくりながら爆走するわで見てる分には面白いけど参加はしたくない有様だった。

 

「んじゃ、パパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する」

 

 全種目が終わり、全員が相澤先生の前に集合する。一部生徒はお通夜みたいな雰囲気である。先生のスマホから立体映像で順位が表示される。

 

 1位百、2位轟くん、3位私、4位爆豪くん、5位飯田くんという結果だ。出久くんは12位で、特に怪我もしてないのでまあまあの結果と言える。最下位は峰田くんだけど、背が低いからこういうのだとすごい不利だよね。どんまい。あと爆豪くん、私を睨むな。

 

「ちなみに除籍はウソな」

 

 うん、知ってた。私たちの最大限を引き出すための合理的虚偽であることが暴露される。それにしても、なにその顔。そりゃまあ、除籍になるかもと怯える少年少女の表情は面白いでしょうとも。出久くんをはじめ、何人かが絶叫しているが、それを見た百が呆れたように嘆息する。

 

「やはり嘘でしたわね。ちょっと考えればわかることですわ」

 

「見込みがないと思われたら本気で除籍しそうだったけどね」

 

 そんな私たちを尻目に相澤先生は個性把握テスト終了を告げ、教室にカリキュラム等の書類があるから目を通しておくよう言い残すと校舎へ向かっていった。あ、オールマイトがいる。なにしてんだあの人。そんなに出久くんが心配だったのか? なんか話してるので聞き耳を立ててみる。

 

「……澤くんのウソつき!」「……暇なんですか?」「……的虚偽て! 去年は1クラス全員除籍処分にしているじゃないか」「…込みがない者はいつでも切り捨てます」「……合わないんだよな」

 

 そりゃ合理主義者の相澤先生と感覚派のオールマイトとでは合わないだろうけど、担任と副担任なんだから教育方針ぐらいはきちんと話しあってもらいたいものだ。というか、多少合わなくても合わせるのが社会人ってもんだと思うけど。まあいいや、教室に戻ってカリキュラムを確認しよう。

 

「いやー、初日から大変だったなー」

 

「私は除籍されちゃうかもって気が気じゃなかったよ……」

 

「もっと鍛えないとダメだなぁ。志村さんなんか個性使わない種目でも上位だったし」

 

 その前に着替えだ。響香ちゃんと透ちゃんに続いて更衣室に入る。2人はそれぞれ19位と20位だったから、除籍がなくてよかったというより課題を感じた結果のようだ。実技試験を突破しているだけに、平均よりは上の記録ではあるんだけど、戦闘向きではない個性でもフィジカルがあった方が良いことに違いはない。

 

 で、驚いたのは三奈ちゃんだ。総合9位とかなりの健闘だ。個性がほぼ使えないというのにどの種目でも中位をキープしていたから、元来の身体能力が高いことがわかる。10位のお茶子ちゃんはボール投げが1位だったのが大きく、13位になってしまった梅雨ちゃんはちょっと予想外。動物系は身体能力が高いってイメージが強いし、寒さ以外弱点はあまりないって思ってたし。

 

「まあ、かなり鍛えてますから」

 

 実際鍛えてはいるけど、元から遺伝子操作と肉体強化処置があるから常人の数倍なんだよね。並のヒーロー以上だけど、トップほどではないと言った感じか。

 

「なにしたらそんな体になんの」

 

「トレーニングメニューを教えてもいいんですけど、ちゃんと専門の方の指導を受けた方が良いですよ。基礎体力の向上はもちろん大切ですけど、今後は個性との相性や兼ね合いも考えないといけませんし。幸い、ここはヒーロー科ですから、先生方に相談してはどうでしょう」

 

「思ったより的確なアドバイスありがとう? でもやっぱお堅い感じだ」

 

「そうでしょうか」

 

 今日会ったばっかりなんだからこんなものだと思うけど。

 

 むっ、百の髪が乱れている。短距離とは言え、バイクに乗っていたんだからしょうがない。ジャケットの内ポケットから櫛を取り出す。

 

「百」

 

 私が呼びかけると、百はすぐに察して髪をほどいて長椅子に腰掛けてくれる。その後ろに立って、櫛を百の綺麗な黒髪に通す。

 

「どうかしましたか?」

 

 なんか視線が集まっているので近くにいた響香ちゃんに尋ねてみる。そんな珍しい光景か?

 

「え? いや、なんか手慣れるなー、って」

 

「いつもやってますから」

 

「へぇ……」

 

 それにしても、いつものことだけど、百の髪って手触りすごい良いんだよねぇ。本人の日々の努力もあるけど、使っているシャンプーとかコンディショナーとかえっぐいの使ってるからね、値段が。けどそれだけに香りもいいんだよね。遠くから見ても近くで見ても綺麗だし、うん、その、食べたりはしてないよ、さすがに。試みたことはあったけど、寸前で我に返ったし。

 

「ところで百、『創造』で造ったバイクって公道走れるのかな。いや、さっきのテストは雄英の敷地内だから一応私有地扱いになると思うんだけど」

 

「……顧問弁護士に伺ってみますわ」

 

「うん。そうした方がいいね。場合によっては免許取らないと」

 

 百の『創造』ってかなりのレア個性だから、想定外の問題が発生しやすいと思う。さっきの大砲だっていろいろ問題ありそうだし、このまま行くともっとも多くの免許を取得したヒーローになってしまうかもしれない。いや、必要があってのことだし、悪いことでもないけどね。

 

「これで、よしっと」

 

 髪を梳き終えて、百の髪をいつもの髪型にまとめる。

 

「ありがとうございます、常夜さん……みなさんもう行ってしまわれたようですね」

 

「ちょっとのんびりしすぎたね」

 

 百の髪を触るのは楽しいんだけど、ついつい時間を忘れてしまうのが難点だ。急がなくてはならないわけではないのだけど、2人で取り残されるのもなんなのでパパッと着替えてしまう。教室に戻ると、当然と言うべきかみんなカリキュラムに集中しているようだ。

 

「おっす、おかえり」

 

 響香ちゃんが書類から顔を上げながら出迎えてくれる。

 

「ただいま、ってさっき別れたばかりでは。みなさん先に戻ってしまわれましたし」

 

「いや、なんか邪魔しちゃ悪いなー、なんて思ってさ」

 

「なにかありましたっけ?」

 

「……いつもやってるんだったね」

 

「? はい」 

 

 中学のときもそうだったけど、百と髪をいじっているとなんか遠巻きに見られてた。ここでも同じなのだろうか。理由は察しているけど、言いたいことがあるならはっきり言って欲しいものだ。

 

 自分の席に座って書類を確認していく。2日目から全日授業、しかも午後は実践演習もあるヒーロー基礎学だ。あれか、屋内戦闘演習だ。ということは、ヒーローコスチュームはすでに学校に届いているってことで。んー、ちょっと気になることがあるんだよね。でも、実物を見ないことにはちょっとわかんないし。

 

 あれこれと考えているうちに相澤先生がやってきて、本日はここまで、明日から本格的に授業が始まるので備えるように、とだけ告げてすぐに出て行ってしまった。黒板に何時になったら下校して良い、って書き残しておくだけでも良いだろうに、律儀な人だな。

 

 クラスメイトらが帰り支度を始めるが、私は個人的に職員室へ用があるので百からの一緒に帰ろうという誘いも断る。また明日ね。

 

「失礼します」

 

 ノックをしてから職員室の扉を開く。何人かの視線が私に向けられるが、とりあえず無視して相澤先生の姿を探し出しそちらへ向かう。しかし、雄英の教師はみんなヒーローだから当然コスチューム姿なんだけど、これだけのヒーローが集まっているとなかなか壮観だ。

 

「志村か。どうした」

 

「先生、女性の先生はいらっしゃいますか? 相談したいことがあるんです」

 

 雄英の教師で女性は限られている。そして女子生徒がその女性教師に相談事、となればどのようなものかは察しがつく。相澤先生はすぐにミッドナイト先生を呼んでくれた。ミッドナイト先生と一緒に職員室の隣にある生徒指導室に場所を移す。

 

「それで、相談したいことって?」

 

 部屋に備え付けられているソファに座り、足を組むミッドナイト先生。なんすかそのポーズ。いちいちセクシーポーズ取らないといけないみたいな制約でもあるんだろうか?

 

「ヒーローコスチュームについてなんですけど、その、インナーってどうすればいいんでしょうか」

 

 私のコスチュームは既にサポートアイテム会社に申請を出しているけど、ぶっちゃけママのものとほぼ同じ、ノースリーブの黒いボディスーツに白のグローブとブーツだけというかなりシンプルなものだ。マントと腰の飾り布はオミットしてある。そのまんまだとちょっとね。で、ここで問題になるのがボディースーツである、と言う点だ。物を直接見たわけじゃないけど、生地も厚いんだろうけどインナーのラインが浮いてしまわないかちょっと心配になってきたのだ。“黒外套”として活動していたときはインナーなしでそのままボディースーツを着てたけど、今更それはどうなのか、と思ってきたわけで。あと着けてないとちょっと気持ち悪かったし。

 

「ああ、そういうこと。大抵のコスチュームにはサポーターが入っているから心配はご無用よ」

 

「あ、そうなんですか」

 

「ちなみに普段はどんなインナーを着ているのかしら?」

 

「ええっと、スポーツタイプのものを」

 

「あら、飾り気がないわね」

 

「別に誰かに見せたいわけでもないので……」

 

 慣れはしたけど見られるのは好きじゃないんだよね、相変わらず。

 

「ちなみに私はなにも着けていないわ」

 

 そうでしょうね。肌からなにか出す系の個性の人って露出度高いもんね。まあ、この人のせいで規制がかかったそうだけど。うん、百の極端な露出を阻止できた点は感謝します、ミッドナイト先生。

 

「女性のヒーローって結構すごい格好している人もいるんで、ちょっと心配だったんです」

 

 目の前のミッドナイトとか、ミルコとかバブルガールとかね。ヒーロー科に入るという方針を決めたとき、私もああいう格好をしなければならないのか、と戦慄したものだ。

 

「毎年恥ずかしがる子はいるのよねぇ。でも、ヒーローにとっての象徴でもあるし、自覚ができれば慣れるものよ。それにコスチュームは変更がきくし。でも変えられないものもあるのよね」

 

「なんのことですか?」

 

「んー、そのときになったら教えるわ。楽しみはとっておいた方がいいでしょ?」

 

 いや、楽しいのはあなたであって私ではなくないですか、それ。良い性格してるよね、この人も相澤先生も。

 

 このあとはコスチュームに関連して暑さ寒さ対策や汗対策についても聞いてみた。マスキュラーと戦ったときは夏の盛りってわけでもなかったけど、終わってみたらべちゃべちゃだったのよ。で、汗は制汗スプレーとかでなんとかするしかないそうな。暑さ対策、耐えろ。寒さ対策はコスチュームの特徴が消えないように着込む、あとは耐えろ。

 

 耐えてばっかだなぁ!

 

 華やかに見えて、裏では根性論が横行しているとは、理不尽な仕事だな、ヒーローって。まあ、屋外の仕事はみんなそうなんだろうけど。

 

「お忙しいのに、時間をとっていただいてありがとうございました」

 

 聞いておきたいことは聞いたので、お礼を言って退出しようとする。

 

「いいのいいの、いつでも相談に来てちょうだい。あっ、そうそう」

 

「はい?」

 

「恋愛相談も受け付けているからね」

 

 いや、それ、あなたが恋バナ聞きたいだけでは? そういえば青春的なものお好きだったね。

 

「……機会がありましたら、そうします。失礼しました」

 

 待ってるからねー、というミッドナイト先生の声を聞きながら、今度こそ生徒指導室を出る。

 

 恋愛、ねぇ。私には縁遠い話だな。

 

 恋は盲目なんて言葉があるぐらいだ、感情的なものの中でも最たるものじゃないか。

 

 私は感情というものを信用していない。優れた、あるいは素晴らしいと思える人ですら、感情に呑まれてしまえばあっさり痴れてしまう。そしてそれが信じがたいトラブルへと発展していくことなんてあまりにもありふれている。

 

 だいたい、百からの好意だって信じられていない。いや、私が『魅了』を使っている影響が大きすぎるというのもあるんだけど、彼女だって自分の感情がどこからどこまでが本来のもので、どこからどこまでが『魅了』によるものか、わかりはしないだろう。こんなもので容易く左右されるものなんて、うまく利用する以外どうしろって言うんだ。

 

 そりゃ娯楽としてなら面白いよ、恋愛もの。でも自分がやるのは、なにか違和感がある。

 

 本来なら、私みたいな人間が、他人との繋がりなんて求めるべきじゃない。私が他人に抱く好意なんて、刹那的で破壊的な欲求に繋がってしまう。そしてその次、その次と消費していって、最後にはなにもありはしないんだ。それが楽しくて仕方がないんだけど。

 

 とはいえ。

 

 私もバカになれたら気楽なんだけどな。

 

 

 


 

 

 

 職員室の自分の机に戻った相澤消太は、さきほどまで行っていた個性把握テストの結果を改めて精査していた。これ以前にA組生徒の実技試験の記録映像も一通り確認しており、明日以降行われるヒーロー基礎学での各種演習の結果を踏まえて、個々の指導内容を決定していくことになる。個性という千差万別のものを扱う職業を養成するため、ヒーロー科では必然的に個別指導の割合が多くなる。そして指導にあたる教員も生徒1人1人の得手不得手を把握しなければ仕事にならない。入学式を飛ばして行った個性把握テストもそうした作業を円滑にするためのものである。

 

 個性把握テストの結果は、実技試験での総合順位におおむね順ずる結果となった。八百万百、轟焦凍の推薦組は試験内容が異なっているが、一般入試より過酷なものであるから、まず順当と言って良い。これに続く志村常夜、爆豪勝己は実技試験でも特に注目を集めていた2人だ。そしてもう1人、今回のテストでの順位はさほどでもなかったが緑谷出久もまた注目されていた。

 

 爆豪勝己は高い戦闘能力とそれを維持し続けられるタフネスさからヴィランポイントトップだが、逆にレスキューポイントは0と、周囲に目もくれない協調性の低さが目立つ形となった。飯田天哉、 泡瀬洋雪など、ヴィランポイントが高得点の者はレスキューポイントが低い傾向にあるが、爆豪の場合あまりに極端で精神性に些か難があるように思える。

 

 緑谷出久は0ポイントヴィランに立ち向かい、撃破したことが高く評価され、レスキューポイントを60ポイント獲得した。プレゼントマイクなどは思わず叫んでしまった、というほど気に入っている。ただ、それまでの彼はヴィランポイントは0と典型的な不合格者で、自身の衝撃で甚大な傷を負うという個性の発現したての幼児のようで、肉体・精神ともにチグハグな印象が強い。

 

 2人に対して志村常夜はヴィランポイント、レスキューポイント共に高得点で、仮想ヴィラン撃破の手際の良さ、積極的な他の受験生の救助・支援、そして0ポイントヴィランを周辺の被害をほぼ出すことなく撃破するなど総合トップに相応しいと言える。試験概要の説明の際に、0ポイントヴィランを“倒しても構わないか”などと発言していることから、自身の能力にかなりの自信を持っており、それに見合った実力があることも間違いない。

 

 一方で、レスキューポイントの存在に気づいている節があることやあまりにも隙がないことが緑谷にレスキューポイントで及ばない結果になったのだが。どうにも審査制であるために、審査に当たるヒーローの好みが出てしまうところがある。志村のようになんでもそつなくこなせる者より、少年コミックの主人公のような緑谷の方が好まれるわけだ。

 

 もっとも、そうした話題に盛り上がる同僚達を相澤はいい歳した大人がわいわいと……と冷めた目で見ていたのだが。

 

 相澤はあの試験内容を不合理なものだと考えている。ロボットを使用しているのは安全性に対するクレーム対策という面があり、ヒーロー科の試験として妥当かと言えば首を傾げてしまう部分があることは否定できない。この内容では対人において絶大な効果がある個性持ちは、そうであるが故に対ロボは不得手となってしまい不合格となってしまう。相澤自身も過去に通過した経験があるから、合格者たちに適性がない、とは思わない。とはいえ、代案がそう簡単に出てくるわけもなく、現在まで継続して行われている。

 

 テストの結果はともかく、初日からやるべき仕事は山積みだ。ただでさえ今年は文科省とヒーロー公安委員会からのゴリ押しで担任生徒が1人増えているし、オールマイトが副担任になっているしと異例尽くめで仕事が増えないはずがない。オールマイトも教員としての能力はまったくの未知数、優れたヒーローが優れた教育指導者となるかはまったく別問題だ。折を見ながらフォローしなければならないだろう。相澤自身は雄英敷地内にある教員寮に部屋を持っているが、今年も合間を縫って寝袋で睡眠を取ることが多くなりそうだ。

 

 初日から除籍をちらつかせはしたが、本心としては皆無事に卒業できればいいと思っている。かつて、それができなかった友のことを思えばなおさらだ。この1年、何事もなく終わることができればいいのだが。

 

 

 


 

 

 

「そっちはどう?」

 

『今回は順調。治崎さんが言うには、問題がなければ半年で外に出せるようになるはずだって』

 

「問題があった場合は?」

 

『プラス3ヶ月』

 

「うーん、やっぱり8月には間に合わないか。しょうがない、このままプランBで進めよう」

 

『ここ自体、動かすまでに時間かかっちゃったからね』

 

「こういうのは素人だからねぇ。先に治崎を確保しておいてよかったよ」

 

『ヒロアカいちの便利キャラだよね。じゃなきゃ効果の薄いプランCで動かなきゃならなかったし』

 

「まーねー。相応の利益は提供してるんだから、これぐらいはしてもらわないとね」

 

『だねー。んじゃ、本体は頑張ってオールマイトやみんなを騙してね』

 

「騙すだなんて言い方しないでもらいたいね、心が痛むじゃない」




しばらくは“志村常夜”としてヒーロー科でやっていくことになります。まあ、この通り裏であれこれやってるんですが。

ちなみに。百ちゃんの髪を触っているとき、常夜ちゃんは超にっこにこです。
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