ラスボスの子に転生したのでNO.1ヒーローを曇らせたいと思う 作:タメガイ連盟員
誤字報告ありがとうございます。
3月1日、なんで日間ランキング15位にいたんだ……?
ランキングのシステムがわからない……
「わーたーしーがー!!」
雄英高校入学から2日目の午後、ヒーロー基礎学の時間がやってきた。ヒーローの素地をつくる為の様々な訓練を行う課目とされており、単位数もどの課目より多い。
「普通にドアから来た!!!」
そしてそれを担当するのが誰あろうNo.1ヒーロー・オールマイトである。カリキュラムには既に書かれていたことだが、実際に教壇に立つ姿を見ると皆興奮を抑えられないようだ。それにしても、本当に画風が違うのね、この人。アメリカ留学中にああなったって話だけど、なにがあったらそういうことになるのか? やっぱこの人『ワン・フォー・オール』以外にもなんかあるんじゃないか。それとも、アメリカのヒーローはみんなああなの?
そして今日のヒーロー基礎学の内容は戦闘訓練。それに伴って、各自の個性届と要望に沿ってあつらえたコスチュームが配布されることになる。スーツケースに収まった状態で、なぜか壁からせり出す形で。いや、毎回こうやって受け取るの? 流石にそれはないか。ないよね。
「着替えたら順次グラウンドβに集まるんだ!!」
スーツケースを受け取ると皆我先にと更衣室へ向かっていく。というかオールマイトが一番最初に教室から出て行っている。活動時間節約のためになるべく人目につかないようにしてるんだろうか。私のコスチュームが入ったケースは“12”。高所にあるため、下の方に配置された人が受け取って、機械が下ろしてくれるのを待つ。
このコスチュームには被服控除があって、学校専属のサポート会社が用意してくれるというシステムがある。費用は学校持ち、つまり、国、税金だ。これ、ヒーロー免許取れなかった場合、請求来たりしないよね? まあ、学生なんだから甘えられるところは甘えるべきだと思うけど。プロヒーローはコスチュームも自弁みたいだからね。
ようやくスーツケースを受け取って更衣室に入ると、それぞれ昨日と同じロッカーを使って着替えを始めている。なんかあるよね、1度使ったところが定位置になるの。さてさて、制服を脱いでインナーだけになってからスーツケースを開く。
私のコスチュームは事前の要望通り、黒のボディスーツに白のグローブとブーツ、そして白いサイバーパンク風のジャケットだ。
うん?
しろいさいばーぱんくふうのじゃけっと?
誰だお前!?
こんなもの要望にいれた覚えないぞ……それにできるだけ要望通りにって書いておいたのに。いやまあ? ボディスーツとグローブ、ブーツは要望そのままだし、それ以外にオプションをつけるなとも書かなかったけどさ。担当したコスチュームデザイナーにとって『念動力』を使うヒーローのイメージがサイバーパンクなんだろう、きっと。でも今回は封印。さすがにこれは恥ずかしい、襟とか袖口が光るっぽいし。
「おっ、なにそのジャケット、格好いいじゃん」
昨日と同じく、隣で着替えていた響香ちゃんが食いついてくる。ちなみに彼女のコスチュームはロックミュージシャン風だ。
「いや、これ、要望に書いた覚えがないものなんですけど」
「なにそれ怖い話?」
「私の要望がシンプルすぎたから付け足したのかもしれませんけど……とりあえず、今日はしまっておきます」
ジャケットはハンガーにかけてロッカーに入れてしまう。コスチュームを着る前に制汗スプレーを体の各所に吹き付けておく。それから、ボディースーツに足を通してから足の付け根まで引き上げる。おっ、ミッドナイト先生が言っていたようにサポーターが入っている。続いてアームホールに両腕を通して、正面のファスナーを首元まで閉める。そしてグローブをつけて、ブーツを履けば完成だ。というか、試着なしで本番ぶっつけ着用ってどうなんだ? 良い素材を使っているため、着心地はかなり良いし、びっくりするぐらいベストフィットしてるけどさ。そして、わかっちゃいたけど、体のラインがはっきり出すぎ。うーん、あのジャケット、丈が長いわけじゃないから下半身はそのままだし。ママみたいにマントにすべきだったか?
まあ、今日はどうしようもないから諦めよう。昨日と同じくポニーテールにする。オールマイトが授業を見るんだからよりママっぽい感じにしないとね。
さて、みんなも着替え終わっている頃だと思うけ、ど。宙に浮かぶグローブが目に入る。透ちゃんのはずだが。
「えっと、葉隠さん?」
「志村さん、どうかしたの?」
「いえ、葉隠さんの個性って着ているものも透明にできるんですか」
「できないよ?」
思わず響香ちゃんと顔を見合わせる。
「それって」
「うん。何も着てないよ」
いや、知ってるんだけどさ。実際に見ると本当に、なんか、すごい。目の前にほぼ全裸の女の子がいて、そしてこのままの格好で人前に出る、という非現実さは筆舌に尽くしがたいぞ。
「本気のときはグローブと靴も脱ぐよ!」
そういう問題ではない。
そりゃ『透明化』の個性を最大限活かすなら服はむしろ邪魔だ、と言うのはわかるんだけど、例えば建材の破片なんかが飛んできた場合生身に直撃してしまうからかなり危ないと思うんだよね。当然冬場はきついどころじゃないし。それに裸足もまずいだろう。
んー、ルミリオンみたいに自身の髪から作れば個性の対象に含まれるかもしれないけど、まだ彼とは会ってすらいないのから、現時点でそれを私が指摘するのは不自然だ。と言っても原作でも彼の登場は仮免試験後の9月だし、ヒーロー科はどの学年も忙しいから、真綿先輩みたいに近所に住んでるでもなければ接触は難しい。んー、最短でいけそうなのが職場体験でサー・ナイトアイ事務所に行くことだけど、あの人指名なんて出すかね。ルミリオン以外のヒーローインターンの受け入れも乗り気じゃなかったっぽいし。
あとサー・ナイトアイは“死柄木常夜”としての私に色々含むところがあるはずだ。“志村常夜”としての私を見るのは雄英体育祭になるだろうけど、どう判断するかは未知数だ。私と直接会わないと“死柄木常夜”の存在を認識できないようにいじってはいるけど、先々会う可能性も考慮して、暗示を追加しておくか?
それはさておき、私と同じようにボディスーツタイプのコスチュームなのは梅雨ちゃんとお茶子ちゃんだ。梅雨ちゃんはカエルがモチーフなのか、緑を基調としていてシルエットもカエルそのもの。彼女の個性を考えれば、水中での行動も想定しているだろうから、ボディスーツと言うより、ウェットスーツと言った感じか。
お茶子ちゃんの方は、どうやらピッチリしたものなのが想定外だったのか、うひゃあとか言っている。でもそれを着るしかないのよ。んー、あ、そうか、無重力に引っかけて宇宙服のイメージなのかな、ヘルメットがそれっぽいし。宇宙服はピッチリしてないと思うけど。
三奈ちゃんは私のものと似ているけど、彼女の個性は体から酸を分泌すると言うもので、腕から出せば十分なのか露出はそれほどでもない。それでも、トップが胸元までしかなくて大胆な感じ。これにファーのついたベストを合わせている。よほど自分のスタイルに自信があるんだろうね。実際、百には譲るけど、なかなかのものをお持ちだ。身体能力も結構高いし、ちょっと気になる。
で、百のコスチュームなんだが。まあ、前々からデザイン案は見せてもらってて、あまりの露出にリテイクさせてたんだよね。そして今でも法規制ギリギリのところを攻めているんだけど。わかってる、わかってるんだよ、個性の関係上露出は避けられないし、服の損傷もあり得るって。本人は破れたら『創造』で新しく造ればいいと思っているようだけど。でもなんかこう、もやもやするんだよ、むむむ。15歳の女の子がする格好じゃないし、あのデザイン案を通しちゃうサポート会社もどうかと思うし、学校側もOK出してるってことだし、ああもう!
ふぅ。
1人でやきもきしていても仕方ないし、みんな着替え終わったようなので揃ってグラウンドへ向かうことにする。道中、互いのコスチュームについて可愛いと言った感想に花が咲く。これは主に梅雨ちゃんやお茶子ちゃんだ。透ちゃんについては誰も言及しようとしない。困るよね、あれは流石に。私はそもそもの体型がごついので対象外だ。
「以前に拝見した図案通りですわね。お似合いです」
「ありがとう。どう? 少しはらしく見えるでしょ。百のは……個性、使いやすそうだね」
「ええ。まさかコスチュームのデザインに規制があるとは思わず、苦心させられましたわ」
その結果がフロントを開けるようにした、である。当然ブラはつけていない。サポーターがついているはずだから、……が浮き上がったりはしないんだけど、個性を使うときはガバッと開けることになるから、見えないようにするための対策をして欲しいものだ。
「昨日、先生に聞いたんだけど、コスチュームの変更はできるそうだから、今日みたいな訓練でわかった課題とかを踏まえた要望をサポート会社に出していって、最適なコスチュームにしていくことになりそうだね。ああ、サポート科との交流を持つ意味でも、そっちの学生と話すのもいいかもね」
「昨日の御用事と言うのはそのことだったんですね。確かにプロの方でもコスチュームの変更はよく見られますし」
今日のオールマイトも若いときのコスチュームらしいしね。あの人の場合、どういう基準でデザインチェンジしてるんだろう。破損したりしたときの新造とか?
話している内にグラウンドβに出る。校内マップアプリで見た記憶からすると、実技試験会場の1つと同じ場所のはずだ。そこではオールマイトが待ち構えていた。
「さあ!! 始めようか有精卵共!! 戦闘訓練のお時間だ!!!」
いちいち声がでかいなこの人。
「格好から入るってのも大切なことだぜ、少年少女!! 良いじゃないか皆、カッコイイぜ!!」
私たちをざっと見回したオールマイトがサムズアップしてみせる。私を見たとき一瞬動きが止まった気がしたが、出久くんの姿を目にした途端、口を押さえて笑いを堪え始めた。弟子が自分を意識した格好したら気分も上がるでしょうよ。
さて、戦闘訓練の内容は屋内での対人戦闘訓練である。統計上、凶悪ヴィランの出現率は屋外よりも屋内の方が高い。監禁・軟禁・闇取引と言った犯罪行為は屋内で行われることが多く、それに関わるヴィランとの遭遇もまた同様である。クラスをヴィラン組とヒーロー組に分け、2対2の屋内戦を行うというわけだ。基礎訓練もなしにやっていいのかという声も出たが、その基礎を知るための実践であるとオールマイトは熱弁する。
これに対して勝敗はどう決めるのか、除籍がまたあるのか、組分けはどうするのか、ぶっ飛ばしていいのかと言った質問が次々と上がる。オールマイトはとりあえずそれらを制して、カンペを取りだし説明を始める。ものすごく威厳に欠ける姿なんだけど、それでいいのかNo.1ヒーロー。
まず状況設定。ヴィランがアジトに核兵器を隠していて、ヒーローはそれを処理しようとしている、というものだ。核兵器というあたりがなんともアメリカンである。核兵器をカジュアルに使い過ぎる。ヒーロー組は15分の制限時間内にヴィランを捕まえるか核兵器を回収、ヴィラン組は制限時間まで核兵器を守るかヒーローを捕まえることがそれぞれの勝利条件となる。捕獲には確保テープを相手に巻き付けた時点でその証明となる。また、チーム内での連絡用に小型無線が配布される。そして、コンビと対戦相手はくじによって決定される。
「先生! 我々は21人いるので2人組では1人余ってしまうのではないでしょうか! それにくじとは適当なのでは!?」
早速飯田くんが挙手する。実技試験の説明のときに私に先を越されたからか、ずいぶんな勢いだ。
「1チームだけ3人組になってもらう! それに急造のチームアップは珍しいことじゃないからな!」
「それでは3人チームに当たった対戦相手が不利なのではありませんか!?」
「相手が自分より多いなんてことはザラにあるぜ! それに3人だから必ずしも有利ってわけでもない。みんなまだお互いの個性や人物を把握できていないんじゃないか? かえってまとまりが欠けてしまうことだってある」
「なるほど、失礼しました!」
「いいよ!! 早くやろ!!」
と言うわけでくじを引く。私はAチーム、つまり出久くんとお茶子ちゃんと組むことになるので、さっそく2人の下へ向かう。お茶子ちゃんは出久くんに縁があると言って嬉しそうにしているが、出久くんの方は女子2人と組むことに気後れしているようだ。
「そういえば、きちんと挨拶をしていませんでしたね。志村常夜と言います。昨日見ていたとは思いますが個性は『念動力』、指定座標に衝撃波を発生させるのと、触れずに物を掴むことができます」
この2人と自己紹介ができてなかったのは、私が百にべったりだったのとすぐ職員室に行ってしまったからだけど、挨拶は大事だからね、きちんとしよう。2人も自己紹介と個性を簡単に説明してくれる。出久くんは増強系ってだけで誤魔化してたけど。
1回戦は私たちAチームがヒーロー側、対するヴィラン側は爆豪・飯田組のDチームだ。
ここからはヴィランチームが先行してセッティングを行い、その後ヒーローチームが潜入して開始となる。どちらも猶予時間は5分。それまでに作戦をまとめたり、ターゲットの配置を変えたりすることになる。他のクラスメイトやオールマイトは地下のモニタールームで観戦することになる。
開始前にオールマイトからヴィランチームはヴィランの思考をよく学ぶように、またほぼ実戦であるからケガを恐れることなく思いっきりやるように言われる。ただし、度が過ぎたら中断するとも警告される。この対戦では爆豪くんと出久くんという攻撃力過剰な個性持ちがいるから当然の警告と言える。出久くんも実戦状況でうまく調整できるか怪しいし。
「見取り図を見ながらでいいので、聞いてもらえますか?」
2人が頷くのを確認してから続ける。
「まず、ヴィランチームの行動はオフェンスとディフェンスに分かれる、そして2人ともオフェンスとして速攻を狙う、の2つに絞られます。前者の場合、オフェンスが爆豪、ディフェンスが飯田になるはずです。よってこちらは1人がオフェンスを抑え、残る2人がディフェンスの排除とターゲットの確保を行います。後者の場合は2人がそれぞれオフェンスを抑え、残る1人がターゲットを確保します。昨日の様子から2人が連携を取る可能性は低いと考えられますので、個々に対応することになると思います」
私の作戦案に出久くんは、かっちゃんならきっとすぐ攻撃してくる、と同意してくれる。かっちゃん、と言う呼び方について聞くと、幼なじみだそうで、彼の行動は予想できるらしい。
残る飯田くんだけど、彼がどう動くかは意外と重要になってくる。守備に徹してくれれば簡単に2対1に持ち込めるけど、攻撃を選んできた場合、位置によっては出久くんが1対2の状態にされてしまう。連携が取れていなくても、出久くんの動揺は避けられないだろうから、そこが隙になって倒されてしまう。そうするとこちらの数的優位が失われることになってしまうことになる。なので、飯田くんをどう抑えるかが大事になる。まあ、出久くんが爆豪くんを抑え続けられることが大前提だけど。同時に来た場合は、乱戦になりかねないため、直接戦闘が得意なヴィランチームの方が優位になりやすいので、作戦通りにするのがやや難しい。
「それでしたら、緑谷くん、爆豪くんのことをお任せしてもよろしいですか? 爆豪くんの方も、あなたのことを、まあ、あまり良い意味ではなさそうですが、気にしているようですし」
「僕が、かっちゃんと……」
「自信がないなら、彼の抑えは私がやりますが」
「うん、あ、じゃなくて、その」
出久くんが爆豪くんとのことを語ってくれる。凄いけど、嫌な奴。目標、自信、体力、個性、どれも自分より何倍も凄い。でも、今は負けたくない。
「だから、僕にやらせて!」
おっ、良い感じに気合い出してきてるね。でもまだちょっと不安そうだけど。
「男のインネンってヤツだね!?」
「あ、いや、ゴメン、2人には関係ないことなのに」
「私たちはチームなんですから、関係ないなんてことはありませんよ」
「そうだよ、頑張ろう!」
「――!!」
なんか感極まってるけど、大丈夫か。
「さて、そろそろ時間です。行きましょう」
『それじゃあ、第1回戦、Aチーム対Dチーム、屋内対人戦闘訓練、開始!!』
ビルへの潜入は何事もなく成功。ヴィランチームの2人は探知能力がないからこちらがどこから侵入するかはわからないはずだけど、こちらもターゲットの位置がわからないから、どちらかが一方的に不利、と言うことはない。
出久くんの提案で彼を先頭に立てて慎重に進んでいく。その後ろをお茶子ちゃん、私の順で続く。これは出久くんが私やお茶子ちゃんが近接戦闘向きではないから、接近戦が得意な爆豪くんや飯田くんの奇襲に対応するのが難しいのではないか、と考えたからだ。私でも対応できるけど、ここでそんなことを言っても無粋なので乗ることにした。
しばらく進んでいると、私たちのものとは別の足音が耳に入ってきた。出久くんとお茶子ちゃんは気づいていない。
「緑谷くん、前方右通路から来ます!」
言い終わるや否や爆豪くんが出久くんに向かって飛びかかってきた。
私は後ろに飛んで距離を取り、出久くんはお茶子ちゃんをかばって覆い被さるように回避するが、完全には回避できなかったのかフードの一部が破損してしまう。
「警告されたのに、かすった……麗日さん、大丈夫!?」
お茶子ちゃんが頷いて応じる。しかし、こちらが慎重に進んでいたとは言え、このタイミングで接敵したとなるとスタート前からこっちに来てたってことじゃないか? 予想通り相談すらしてないと考えてよさそうだ。
「思ったより早く来ましたね」
「避けてんじゃねえぞ」
爆豪くんがギラリと出久くんを睨みつける。だけどこうして爆豪くんが出久くんを狙ってくるのは予想通り、だから私の警告を含めて対応できたわけだ。
無論、1度避けられた程度で爆豪くんは止まらない。中断されない程度にぶっ飛ばす、などと物騒なことを言いながら右腕を大きく振りかぶる。が、出久くんはその腕を掴みそのまま背負い投げを決める! 爆豪くんは背中から床に叩きつけられるが、すぐに起き上がろうとしている。タフだね。
「やるぅ」
「すごい、達人みたい!」
思わず感嘆が漏れてしまった。腕で投げるって難しいんだけど、いったいそんな技術をいつ学んだのやら。
「いつまでも“雑魚で出来損ないのデク”じゃないぞ。かっちゃん、僕は……“頑張れ!!”って感じの“デク”だ!!」
出久くんが吼える。彼にとって爆豪くんの存在は簡単には言い表せないものだけど、こうして面と向かって言えるのは大きな進歩なのだろう。
「ビビりながらよぉ……そういうところが、ムカツクなあ!!」
再び爆豪くんがしかける。私とお茶子ちゃんは完全に眼中にないようだ。ナイスヘイト。
「麗日さん! 志村さん!」
「了解、作戦通りに!」
麗日さんと一緒に上階に向かって駆ける。ここからはスピードが重要になってくる。いくら出久くんが原作より強化されていても、爆豪くんが強敵であることに変わりはない。なので、彼が粘っているうちに私たちがターゲットを確保できるかどうかが勝敗を分けることになる。ただし、私の方が速く走れるからと言ってお茶子ちゃんを置いていくわけにはいかない。飯田くんに2対1を強いることが肝心だからだ。
最上階に到着したが、ここまでにターゲットの有無を確認するために各階の捜索も行っていたため時間をくってしまった。むぅ、スピード勝負のつもりだったんだけど。ここまでに飯田くんに遭遇していないということは、彼が守備に徹しているということだから、こちらとしては好都合だ。
……なんか、俺はぁ至極悪いぞぉお、などという笑い声が聞こえてくる。なりきってるね、飯田くん、君のヴィラン像それなの? お茶子ちゃんと顔を近づけて小声で話す。
(真ん中のフロアだね)
(私が飯田くんの動きを押さえるので、その隙にターゲットを確保してください)
(了解!)
私は中央フロアにいる飯田くんの前に姿を見せる。お茶子ちゃんは物陰に隠れて、合図で動くことになっている。
「むっ、来たな、志村くん!」
「“
両手を前に突き出し、『念動力』で飯田くんの体の各所を掴む。飯田くんも足のエンジンを吹かして対抗しようとするが、残念、パワーはこちらの方が上だ。
「くっ……! 動けないとは……!」
「麗日さん、今のうちです」
私の合図でお茶子ちゃんが走り出そうとした瞬間、無線からオールマイトの声が響く。
『爆豪少年、ストップだ! 殺す気か!』
同時に下の階から轟音と振動。爆豪くんが大技を使ったらしい。出久くん大丈夫かな。
「あたた……」
「これ、爆豪くんの仕業ですね」
「授業だぞ、なにをしているんだ彼は!」
お茶子ちゃんは踏み出したタイミングで爆発が起きたために転んでしまったようだ。しかし、私の拘束は継続しているから飯田くんは動けない。
「麗日さん、大丈夫ですか」
「うん、大丈夫」
お茶子ちゃんは立ち上がり、身動きのとれない飯田くんの脇を通り抜けターゲットにタッチする。
「回収!」
『愚策だそれは! 大幅減点だから、って、あ! ひ、ヒーローチーム、WIN!!』
お茶子ちゃんがターゲット確保を宣言し、なにやら爆豪くんに説教していたらしいオールマイトがヒーローチームの勝利を告げる。
「作戦通り行きましたね」
お茶子ちゃんと勝利のハイタッチでもしようかと思って近づくが、彼女はなんとなく浮かない表情だ。
「ねぇ、これ、ウチいなくても勝てたんじゃ……」
ああ、まあ、最後のターゲット確保以外なにもしてないもんね。
「あの拘束技を使っている間は私もほとんど動けないので、麗日さんがいなかったらどうにもなりませんでした。それに、戦闘訓練はこれから何度も行われるはずですから、そのときどうするか考えた方が建設的だと思いますよ」
「いや、何もできなかったのは僕も同じだ」
私が拘束を解いたことで動けるようになった飯田くんが話に入ってくる。
「何もできなかったと言うより、何もさせてもらえなかった。やったことと言えば麗日くん対策で周囲の物品を片付けたことだけだ。完敗だ、志村くん」
「飯田くんに自由に動かれていたら危なかったと思います。正直、チームメイトとのコミュニケーション不足が敗因かと」
「確かに彼はいきなり飛び出して行ったきり、こちらとろくに連絡も取らなかったし、呼びかけても無視されてしまっていた」
うん、敗因はほぼ爆豪くんにあるわけだ。勝利条件を満たすことをせずに私情に走ったのが良くない。簡単な打ち合わせをするだけで随分違うのにね。
『最上階にいる3人! 講評を行うから地下のモニタールームに来るんだ!』
「むっ、皆を待たせるわけにはいかない。急いで行こう」
「さっきの爆発すごかったけど、この建物大丈夫なのかな」
「階段の方は被害がないようですから、まあ、大丈夫なんじゃないでしょうか」
モニタールームに着くと、早速講評が始まる。
「勝ち負けにかかわらず、振り返ってこそ経験ってのは活きるんだ。まあ、つっても、今戦のベストは志村少女だけどな!」
おや。私も飯田くんの動きを止めただけで大したことしてないんだけど。
「じゃあこれが何故かわかる人!?」
オールマイトの問いかけに、百が即座に挙手する。
曰く、私がベストとされたのは状況設定に対して的確かつ無駄のない行動を取っていたから。特に飯田くんに何もさせなかった点が大きい。爆豪くんは私情に走った戦闘行為に、屋内での大規模攻撃と愚策としか言いようがない行動と正直良いところがない。お茶子ちゃんと飯田くんはさきほど2人が自覚した通り、目立って悪くもないが良くもない。出久くんは作戦通りに行動していたが、個性を活用できていないため次点である。
「それに、ヒーローチームの作戦はとこ、志村さんの発案なのではありませんか? その点も踏まえて、志村さんがベストだと考えます」
「まあ……正解だよ! くぅ……」
すごい悔しそうに見えるけど、どんまい、オールマイト。この手の分析って得意だからね、百。
「……よし、気を取り直して、次の対戦に行こう!」
次は障子・轟チームと尾白・透ちゃんチームだ。あっ、これは覚えてる。轟くんがビル凍らせちゃうやつだ。うーん、さすがに私もあの開幕ぶっぱはちょっときついかな。んー、爆豪くんがさっきから表情がないけど、出久くんとの戦闘は勝ったとも負けたとも言えない中途半端な終わりだったから、鬱憤たまってそう。まあ、私が対処すべきことじゃないけど。
「お疲れさん! 大きな怪我もなし! しかし真摯に取り組んだ! 初めての訓練にしちゃ皆上出来だったぜ!」
無事、戦闘訓練が終わったわけだが、皆拍子抜けした顔をしている。まあ、相澤先生のあとじゃそう思うのも無理はない。オールマイトは私たちに着替えて教室に戻るように言うと、高速で校舎へ入っていった。ああ、制限時間ですね。大変だね、秘密が多い人って。私も大概だけど、隠蔽しやすいからね、こっちは。
これで今日の授業は終わりだけど、帰る前に担任である相澤先生からの諸連絡があるはずなので、のんびり着替えをしているわけにもいかない。つい手櫛で髪を整えちゃったけど、百にやってもらいたかったなぁ。
着替え終えたところで、透ちゃんを呼び止める。他のみんなが更衣室から出たのを確認して、尋問開始だ。
『真実吐き』、『認識阻害』を発動。
「それで、話って?」
「うん、オール・フォー・ワンからなにか聞いてない?」
彼女に内通者疑惑があるのでその真偽を確かめておこう。まあ、別にこれをやるなら他にも組み合わせはあるんだけど、『真実吐き』は本人が知らない本音まで引き出すこともできるので追加効果にも期待したい。『認識阻害』は質問の内容を後から理解できなくさせるため。透ちゃんには私から他愛ないことを聞かれたとしか認識できなくなる。
仮に彼女が内通者であったとしても告発をしようと言うわけではない。と言うか現状では意味がないし、証拠にもならない。だけど、どういう風に情報を流しているかわかれば、パパの動向を間接的に掴むことができるかもしれないし、この件をネタに私の仲間に引き入れてもいい。
「? 何のこと?」
が、透ちゃんは何も知らないようだ。ただの尋問ならともかく、『真実吐き』を使っているから誤魔化すことはできない。とりあえず、現状で彼女は白と見るしかなさそうだ。となるとだ、やはり内通者なんていなかったのか、或いは無自覚な情報漏洩をしてしまっている人がいるのか、現状では何の指示も受けていないのか。
「いや、何も知らないならいいんです。すみません、引き留めてしまって」
「いいよいいよ。あ、じゃあ、私からも聞いていいかな」
「どうぞ」
「八百万さんとはどういう関係なの」
ずいっと、透ちゃんが見えない顔をこちらの顔に近づけてくる。吐息がかかるぐらいだ。
「どう、と言われても、親友としか言い様がないのですが」
さすがに少しだけ体を引いて仰け反る。
「え~? あれで親友だけってことはないんじゃなーい?」
なにがご不満なんですか、透ちゃんや。くそう、内通者だったら散々弄ぶところだったのに。なーんで、透ちゃんを内通者に仕立て上げてくれなかったんですか、パパ。
「えー、と言われても。ああ、それより早く戻らないと相澤先生に睨まれちゃいますよ」
「あー、ごまかしてるー!」
職員室に戻ったオールマイトは、マッスルフォームを解除してトゥルーフォームへと姿を変える。その変わり振りの落差は凄まじく、同一人物であるとは誰も思わないだろう。既に事情を知らされている他の教師たちもその瞬間には未だ驚きを隠せずにいる。ここにいる教員、現役のヒーロー達の年齢は20代後半から40歳前後、オールマイトの活躍を見ながら育ちヒーローとなった者たちばかりだ。衝撃もひときわ大きかったことだろう。
自分の席に座ると、どっと疲労が押し寄せてくる。仕方のないことだ。教師と言う慣れない仕事に加え、6年前の負傷による後遺症、齢60を間近に控え、いやがうえにも自身の衰えを感じずにはいられない。
しかし、疲労した肉体とは裏腹に精神は高揚している。若きヒーローの卵たちの熱意に中てられたのもあるが、その中でも2人の存在が昂ぶらせていた。
1人は緑谷出久。己の後継者として見出した少年。この1年、彼には驚かされてばかりだ。精神性はともかく、肉体的には全くなってないとしか言い様がなかった。しかし彼は与えられた課題をオールマイトの予想を大きく上回る速度で達成してみせた。そして実技試験と今日の戦闘訓練、当然まだまだ未熟であるが、彼を選んだ自分の目は狂っていなかったと思わせるには十分だ。
もう1人は志村常夜。実技試験の映像や与信調査に添付されていた写真を見たときからもしやと思っていたが、実際にこの目にしたことでそれは確信に近いものに変わっていた。
亡き師を思わせる容姿、かつて師が纏っていたものを模しているかのようなコスチューム、師の個性である『浮遊』と関わりが見られる個性。そして、自身の直感。
血縁者、年齢を考えれば孫と考えるのが妥当だろう。
師にご子息がいることは知っていたが、彼女は彼を守るために親子の縁を切りオールマイトや盟友のグラントリノにも関わらないように言いつけた。当然、オールマイトにはご子息が母と別れたあとどのように生きていたか知るよしもない。だから、孫がいることも知らなかった。
そして、自分が教師になるタイミングで、その孫が雄英にやってくるとは! これは、奇跡だろうか?
だが、彼女の経歴を考えると、師のご子息は10年以上前に亡くなっていることになる。こんな形でその最期を知ることになるとは思わなかった。平和の象徴として長きに渡って立ち続けてきたが、世の不幸がなくなることはない。彼の死もまたそうしたものの1つだが、やはり忸怩たる思いは拭えない。なにかできることがあったのではないか、ついそう考えてしまう。救えたものと救えなかったものとを天秤にかければどちらに傾くかは明白だ。それでも、救いの手を、歩みを止めることなどできない。できなかった。
だが、今ここにその忘れ形見がいるのだ。過去よりもまず、未来に目を向けるべきだ。
後継者と師の孫を導ける、あまりに恵まれているように思える。いや、彼らだけではない。他の生徒たちも素晴らしいヒーローになる素質を持っている。ヒーロー人生最後の仕事として、これ以上は望むべくもあるまい。
かつてのサイドキック、サー・ナイトアイに告げられた己の未来という懸念材料はあるものの、今ならそれすら越えられるのではないかと思える。
明日も頑張ろう、と決意を新たにするオールマイト。
だが、彼は気づいていない。
既に悪意がその足元にまで迫っていることを。
透ちゃんが内通者だった場合、残りの人生を常夜ちゃんに振り回されるはめになるところだったので、その、なんだ、よかったね。
葉隠透は内通者だと思う?
-
思う
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思わない