ラスボスの子に転生したのでNO.1ヒーローを曇らせたいと思う 作:タメガイ連盟員
誤字報告ありがとうございます。
間が空いてしまい申し訳ありません。
さて、雄英高校の校門前には人だかりができています。マスコミのみなさんですね。オールマイトの雄英高校教員就任を聞きつけて集まってきているんですね。他紙の報道を受けて取材に来るなんて情報収集能力低いんじゃないの。メディア慣れしてる雄英とオールマイトは当然対策しているわけだからそう簡単に情報が漏れるわけもないんだけど。
んー、でもまあ、仕事ができる勘の良い記者ならオールマイトの活動時間が減っていたり、雄英周辺地域での目撃例が増加していることに気づいてもよさそうな気もするけど。そういう人は口止めとかされてたのかね。オールマイトって非公開情報多いし、その辺掴めれば特ダネ……あっ、ヒーロー公安がやっちゃってる? うわぁ、自分の秘密を守るために知らないところで無辜の民が犠牲になってるかもしれないとか、オールマイトかわいそー。平和の象徴も楽じゃないねぇ。
私もマイクとカメラを向けられそうになるが、近くにいた飯田くんを盾にして逃れた。しかしまあ、淀みなく答えるね、飯田くん。家族がヒーローだし、こういうメディア対応も見ているからだろうか。他にもマスコミに声をかけられている生徒が何人もいたが、この状況を見かねてやってきたらしい相澤先生がオールマイトは非番であり、授業の妨げになるのでお引き取り願う。が、マスコミとはそれに従うような人々ではない。アナウンサーらしき女性が相澤先生に追いすがろうとすると門扉が固く閉ざされてしまう。
「なにあれ……」
「俗に雄英バリアーと呼ばれているものだ。学生証や通行IDを身につけていない者が門をくぐろうとするとセキュリティが起動する。さすがは最高峰の警備体制、こうして俺たちは安心して勉学に励むことができるわけだ」
それフラグだよ、飯田くん。
このセキュリティの存在はともかく、中には何人も現役ヒーローがいるんだから常識的に考えれば雄英にちょっかいを出すのは自殺行為でしかない。だが常識とは、とかく破られるものである。
ホームルームでは、まず昨日の戦闘訓練について相澤先生から爆豪くんへのちょっとした説教があった。まあ、あれは怒られるよね。さすがの爆豪くんもしおらしくしている。
そして、今日は学級委員長を決めるんだとか。なぜ皆そんなテンション上げてるのかわからない。学級委員長なんて体の良い雑用係じゃないの。誰も彼も自分がやりたいと言って収拾がつかない。そこで飯田くんが投票で決めようと発案する。学級委員長とは多を牽引する責任重大な仕事であり、周囲からの信頼あってこそ務まる責務、よって民主主義に則るべきであると。その本人が立候補の意思表明として挙手してるんだから締まらない。
当然これには、日も浅いから信頼もクソもない、そんなん自分にいれるだろうという意見が出るが、飯田くんはだからこそ複数票を獲得した者こそが真に相応しい人間ではないか、と返し相澤先生に許可を求める。相澤先生は時間内に決まれば何でもいいとのことなので、投票で決めることになった。
結果、百と私に3票、他は軒並み1票と言う形になった。発案者の飯田くんは0票。自分で言い出しておいて人にいれたのか、なにがしたかったんだろう、彼は。すごい悔しがってるし。自分に投票しなかったのはおそらく、出久くん、お茶子ちゃん、轟くん、そして私だ。と言うか、誰だよ私に投票したのは。この中で一番やる気がないと思うんだけど。立候補すらしてないし。
もちろん私は百に投票していて、百も自分にいれているはずだから、私にいれたのは、出久くん、お茶子ちゃん、飯田くんだろう。轟くんは今のところほぼ接触がないからたぶん違う。うーん、ちょうど戦闘訓練で一緒だった面子だ。高く買ってくれるのはいいんだけど、こういう役職は好きじゃないんだよね。中学のときも百から生徒会に誘われたけど断ってるし。
同票だったけど、私はさっさと委員長に百を推薦して、相澤先生からそれでいいよと許可してもらったので委員長・百、副委員長・私で決まった。まあ、百のサポート役ならいいかなぁ。
「ここの席、いいですか」
昼休み、食堂で昼食中の出久・お茶子・飯田の3人組のところへ足を運ぶ。
「志村さん。うん、どうぞ」
出久くんがOKしてくれたので彼の隣に座る。正面は飯田くんで、その隣がお茶子ちゃんだ。
「あれ、八百万さんと一緒じゃないん?」
「いつも一緒というわけではないので。それにしても、すごい人ですね」
「サポート科や経営科、普通科の生徒も利用するからな。それはともかく、志村くん、副委員長就任おめでとう」
「ありがとうございます。いや、そんなにめでたくはないんですが」
「むっ、君に投票した身としては頑張って欲しいのだが」
「飯田くんも志村さんに投票したの?」
「えっ、2人も?」
うん、やっぱり君らか。
「うむ。志村くんの判断力や作戦立案能力は多を牽引するに値するものだ」
「ああ、その、私はあんまり人前に立つような役職は得意ではないのですが。それに、学級委員長ってそんなに意気込んでやるものでもないのでは」
「でもヒーロー科の学級委員長は集団を導くっていうヒーローの素地を鍛えられるものだと思うんだけど」
えっ、そういうものなの? うーんまあ、確かにサイドキックを何人も持つようになるなら必要かもしれないけど、今の段階で鍛える項目ではないような。
「でも、飯田くんも委員長やりたかったんじゃないの? メガネだし!」
切り込むねぇ、お茶子ちゃん。あとメガネ関係あるの?
「やりたい、と相応しいか否かは別の話だ。僕は、僕の正しいと思う判断をしたまでだ」
「『僕』……!」
飯田くんの1人称に出久くんとお茶子ちゃんが食いつく。そういや、初めて会ったときも言い直してたね。
「ちょっと思ってたけど、飯田くんって坊ちゃん!?」
遠慮しないね、この子。あと口の周りにお米ついてるからとろうね。2人からガン見された飯田くんは、そういう風に言われるのが嫌で1人称を俺にしていた様子。そして実家が代々ヒーローを輩出した家であり、その次男であることを明かす。そういや、中学の時も1人称が僕の男子の割合は結構高かった気がする。裕福な家庭だとそういう風に教育されるものなんだろうか。
飯田くんのターボヒーロー・インゲニウムを知っているか、と言う問いにヒーローオタクの出久くんが反応する。曰く、東京の事務所に65人ものサイドキックを雇っている大人気ヒーローだそうな。
「それが俺の兄さ」
自慢気にメガネをクイッとする飯田くん。規律を重んじ、人に愛されるヒーロー。そんな兄に憧れてヒーローを志したのだと言う。
「以前に中継でかなりの人数での大捕物になっているのを見たことがありますが、あれはインゲニウムによるものでしたか。あれだけ多くのサイドキックやサポート要員を率いることができるというのはさすがとしか言い様がありませんね」
「ああ。だが兄のように人を導く立場はまだ俺には早いのだと思う。だからこそ上手の志村くんが委員長に相応しいと考えたんだ」
「そう言われるとインゲニウムと比べられているようでなんとも……私だって未熟も未熟、未だ孵化すらしていない卵なんですし、上手と言っても紙一重ではないでしょうか。それに学級委員長はやりたい人がやれば良いと思いますし。まあ、百がやることになった以上、きっちりサポートするつもりですが」
「なんか、志村さんって目立つの好きじゃない感じ?」
んー、どうだろう。周りから賞賛を浴びるのは嫌いじゃないけど、目立ちすぎるのは好きじゃない、と言う感じだ。ただ“志村常夜”は後々のために目立っておいた方がいいわけで。さじ加減が難しいな。
「個人として目立つのはまあいいんですけど、なんというか役職がつくことで目立つのが苦手というか。肩書きで評価されたくないみたいな? いや、今のところただの学生でしかないので肩書きもなにもないんですけど」
「うーん、言いたいことはわからなくもない、かな」
「リーダーになることばかりがヒーローのあり方でもありませんし。飯田くんはインゲニウムを範としているからヒーローにリーダーという要素を求めているのだと思いますが、ソロで活動している方もいればあえてサイドキックとしてメインのヒーローを支える道を選んだ方もいます。私は、そうですね、オールマイトを支えたサー・ナイトアイのようなヒーローを目指したいと思っているので」
「サー・ナイトアイって」
「サー・ナイトアイと言えば自他共に厳しくストイックな仕事で知られていて、モニター越しでもあの鋭いまなざしにはゾワッとしたよ。そして志村さんが言った通りオールマイトのサイドキックとして彼の活動を支えていたんだ。だけど、6年前に急遽コンビを解消してしまって、その理由についてはオールマイトは『方針の違いで多少揉めたことはあったけど、彼もそろそろ私から離れて活動しても良い頃だと思っている』ってインタビューで答えていて、不仲説は否定されてるんだけど、結局のところ詳しい事情は……あっ」
おっ、気づいたか出久くん。そう、オールマイトが負傷したことが原因なんじゃないかって思うよね。でも怪我を押してオールマイトが活動を継続しようとしたことが決裂の原因とまで気づくかな? 気づかなくてもオールマイトに直接聞くって手が使えるのが出久くんのポジションなんだけど。
「どうかしたの?」
「え? あ、いや、なんでもないよ」
「それにしても緑谷くんは本当にヒーローに詳しいな!」
ちょっと引くぐらいだけどね。とは言え、それが出久くんの分析力の源でもあるんだからバカにはできない。トレーニングはオールマイトに後継者として指名されるまでろくにしてこなかったようだけど、ヒーロー研究はがっつりやってたからね。まあ、ある種の現実逃避だったんだろうけど、無駄になるどころか有益になるんだから人生ってのは面白いものだ。昨日の戦闘訓練で爆豪くんに対応できたのもその研究のおかげだしね。
「入学からまだ3日目だと言うのに気づかされることばかり。さすがは皆最高峰に集った者たちだ」
「百もよく言っていますけど、下学上達、日々精進、ですね」
話に花が咲いているけど、食事の方も済ませておく。このあとひと騒動あるからね。食事を残すのは好みじゃないし。
「志村さんはサー・ナイトアイみたいなヒーローを目指してるって言ってるけど、志村さんにとってのオールマイトって誰なの?」
「ああ、それはですね――」
言いかけたところで警報が鳴り響く。
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難してください』
セキュリティ3は校舎内に誰かが侵入したことを意味する。近くにいた先輩曰く、在校していて初めてのことらしく、滅多に起きることではない。
警報を受けて、生徒たちが我先にと食堂の出口へ殺到する。飯田くんは危機への対応が迅速だ、なんて言ってるけど、君雄英に関して肯定的過ぎない? 出久くんの言う通りパニックになってるだけだよ。これもうちゃんと避難訓練とかやってるのか疑わし、痛っ、足踏まれた。ええいもう、食堂ならキッチンにランチラッシュがいるだろうに何してんだろうか。それにヒーロー科の2・3年生もいるはずなのに群衆にのまれてるんじゃないよ。ちょっとさぁ、雄英高校さぁ、今後起きる事件は起きて当然だったとしか思えないよ。そしてこの感想何度目だよ。マジで1度評価を地の底に落とした方がいいんじゃないの。
食堂での騒ぎは、侵入者がマスコミであることに気づいた飯田くんが機転を利かせ体を張って鎮めてみせた。非常口のポーズである。今後、他の生徒に非常口って呼ばれるんだろうなぁ、飯田くん。マスコミはその後警察が到着したことで撤退していったけど、平成の頃と全然変わらないねぇ、ホント。
雄英バリアーを壊したのは弔だけど、何をしに来たのだろうか。混乱に乗じてカリキュラムを見るため? まあいいか、弔の、ヴィラン連合の行動については当面邪魔しないつもりだし。USJでの襲撃を止められちゃ困るしね、原作の流れ的にも、個人的にも。
午後は各委員決めなどがあったが何事もなく終わった。副委員長になったからと言ってもやることは議事進行の補助ぐらいだ。百がテキパキと話を進めるので相澤先生はほぼノータッチで寝袋に潜り込んで寝入っている。その割に議事の区切りの良いところで起き出してくるところを見ると、本当に寝ていたのか疑わしい。睡眠ってきっちりまとめて取らないと効果薄いし、空いた時間に寝るって却って体に悪くて健康寿命減らしちゃうそうだけど。作中でもよく負傷してる相澤先生だけど、ちょっと健康の方も心配になってくる。
教師はブラックって言われてたけど、この時代でも変わっていないらしい。オールマイトの存在は別として、ヒーロー科は副担任を全クラスに置いた方がいいんじゃないか? 1クラス20人は確か、学習指導要領とかだと最低基準の人数だと思うけど、ヒーローという専門職の育成を考えると全般指導に当たる担任の負担は大きいし。いや、大変な仕事だ。給料どんくらいなんだろう。平均的なヒーローの収入よりは多いとは思うんだけど。
そして、放課後。百と学級委員についての打ち合わせをしている。百としては昼休みにやりたかったそうなのだが、私が早々に行方をくらました為できなかったのだ。その、ごめんね?
「常夜さんはときどき行方がわからなくなるから困りますわ」
私は百にべったりである。それは事実だ。百が見せてくれる表情を見逃したくないからなるべく近くにいるようにしているんだけど、節度は守っているつもりだ。
元々百は社交的なので私以外との付き合いも多いから、そういうときは別行動してるんだけどね、実際は。なので私が急にいなくなったりしても、文句を言われたりはしないんだけど、今回は仕事が絡んでいたのでちょっとご機嫌斜めだ。
まあ、打ち合わせと言っても、カリキュラムから今後1年の行事予定を確認するぐらいなのだけど。これなら確かに昼休みを使うのが適切だったように思う。
百の机の上に広げたカリキュラムの年次予定表を見る。主立った行事は5月上旬の雄英体育祭、8月上旬の林間合宿、11月上旬の文化祭と言ったところか。体育祭のあとに職場体験もあるけど、学級委員のやることは特にないので割愛。それから冬休み中に合宿的なものはないけど、特別講習というものがあるようだ。いやホント、教師って長期休みも休まないね。
「大きな行事より、昨日みたいな教室外での授業の方が大事かもね。今のところ、みんな私たちのことは、推薦入学と実技試験トップというのもあって認めてくれてるようだけど、蛙吹さん、だったっけ、彼女が言う通り、お互い信頼も何もないんだから、小さいことから積み上げていかないと」
「そのためには皆の模範となるよう努めなければなりませんわ。学業は当然のことながら、普段の立ち居振る舞いにも気をつけましょう」
百は普段から完璧だけどね。たまにポンコツになるけど、そこがまた可愛いんだよね。
「それ、中学のときと変わらなくない?」
「いいえ、違います」
「どこが?」
「今回は常夜さんがサポートしてくださいますから」
……おう。まあ、中学の時は生徒会への誘いを袖にし続けてきたから、百にしたらようやくって感じか。
「あー……うん、先々の予行練習みたいなものだしね。頑張って支えさせて頂きます」
「はい、よろしくお願いします……あら?」
私は百の机の右隣に立っているのだけど、背後に誰か近づいてきていたようだ。振り返ってみると、そこにいたのはお茶子ちゃん。
「お邪魔だった?」
「そんなことはありませんわ。なにか相談事でしょうか?」
「昼休みに志村さんとお話してたんだけど、途中になっちゃったから気になっちゃって。だよね、デクくん!」
「え!? あ、うん」
出久くん、帰り支度をしてたのに見事に巻き込んだなこの子。なんか思ったよりぐいぐい来るな。呼ばれた出久くんもこちらにやってくる。飯田くんを探しているのか、キョロキョロしてたけど、残念、彼は既に帰宅している。他のクラスメイトも同様で、教室にのこっているのは私たちだけのようだ。
「それで、どんなお話をされていたんですか?」
「どんなヒーローを目指すか……でしたよね」
うんうん、と頷くお茶子ちゃんと出久くん。百も興味津々と言った様子。
「まず前提としてなんですが、卒業してプロになったら百と一緒に事務所を立ち上げようと考えています」
雄英に入ってすぐに卒業後のことを考えているのは気が早いように思えるけど、先々の明確な目標を持っておくことは大事だ。うまく行くかは別として。
「そこで私は副所長として百のサポートにあたりたいと思っています」
卒業してすぐではなく、他のヒーロー事務所でサイドキックとして経験を積んでからになるだろう、と付け足しておく。ホークスの例を見るに、10代で事務所を立ち上げるのはかなり早いみたいなんだよね。事務所の開設資金と言う問題があるから、免許取得後すぐに、とはならないのが一般的だろう。ホークスはバックにヒーロー公安がいるからその辺は問題にならなかったんだろう。百の実家の財力なら事務所の1つや2つは容易に開けるだろうけど、私たちとしては自分たちの力でやろう、と自然となったので時間をおくことにしている。
「目指したいどころかはっきりとした目標設定してるね!?」
「もうそこまで考えているなんてすごいなぁ」
「百と、こうしたことを話す機会が多かったので自然と先々のことまで話題が進んでいっただけだと思います。2人とも、来年の今頃には、はっきりとした目標設計ができてるのではないでしょうか」
その来年を迎えるまで大変なんだけどね。つくづく最悪のタイミングで雄英入っちゃったもんだねぇ、みんな。1枚噛んでる私が言うことじゃないけどね。
「ところで、2人ともすっっっごい仲良しだけど、幼なじみとかだったり?」
「ええ、同じ中学に通っていましたわ」
「愛知の学校だったから、進学にあたってこっちに転居してます。麗日さんと緑谷くんはどちらから?」
「僕は電車で20分ぐらいのところからだから、引っ越しとかはしてないよ」
「ウチは三重から。今は1人暮らし」
1人暮らし仲間ということでどの辺のアパートを借りてるか聞いてみると、私が住んでいるところよりここから遠いようだ。駅とかから離れれば離れるほど家賃安くなるもんね。
「じゃあ、八百万さんも1人暮らし?」
「私はこちらに新しく屋敷を用意してありますので、家族と同居しております」
「屋敷……?」
「ああ、……って企業の名前、聞いた事ありませんか? 百の実家が経営してるんです」
「セレブやないかい!」
お茶子ちゃんが乙女がしちゃいけない顔になっている。これが麗かじゃないお茶子ちゃんか。うん、そうだよ、百はセレブだよ。本来なら住む世界が違う人間なんだよね、すっかり慣れちゃったから忘れがちだけど。でもまあ、試験さえパスできれば通うことができるんだから、雄英の平等性には感心すべきなのかな。百みたいに実家が裕福だったり、轟くんみたく強個性でかつ小さい頃から訓練をしている方が有利なのは確かだけど、そうでない人も合格してるわけだしね。でも面接で人格は確かめた方がいいと思う。
「あーっと、話を戻しましょうか。緑谷くん、なにか目標というか、目指しているヒーロー像を聞かせてください」
出久くんは自分に話が振られてたことに一瞬驚いた様子だったけど、憧れのヒーローはオールマイトで、ヒーローになりたいというきっかけもオールマイトで、オールマイトのような最高のヒーローになりたい、と語ってくれた。知ってはいたけど、オールマイト尽くしだ。でもオールマイトって全世代に人気だけど、ヒーロー科にいる人で彼を目標としている、というのは珍しいように思う。これはオールマイトのあまりの超人性ゆえに目標にしにくいというのと、目標にするなら自分に近い個性や理想像のヒーローにした方がいいのだろう。なので出久くんみたいな人は1周まわって新鮮だ。
続いてお茶子ちゃんはと言うと。
「お金、ですか」
「究極的に言えば。なんかごめんね、不純だし、良くない気がするし……」
「生活の糧を得るためにヒーローという職業を選択するのはおかしなことではないと思いますけど。それに、ただお金が欲しいというわけでもないのでは?」
お茶子ちゃんの実家は建設会社なのだが、仕事が全然なく苦しい状態が続いているらしい。自分の個性なら許可が取れれば役に立てると思い、家の仕事を手伝うと親に伝えたこともあったが、それよりも自分の夢を叶えて欲しいと言われたんだそうな。だからヒーローになってお金を稼いで両親に楽をさせたいのだと。
いい話だねぇ。でだ、麗日家の経済的苦境の原因だけど、オールマイトのデビュー以来治安状況が改善されたことで経済も活性化していったことで、建設需要も伸びていた時期があるんだよね。ただ建築物ってそれなりに長い期間使うし、超常黎明期以来荒れてしまったインフラ整備も30年もあれば大方終わってしまうので、昔は好調だったのかもしれないが需要が減れば当然その煽りを受けてしまうわけだ。世知辛いね。そもそも仕事がないのが問題なんだから、お茶子ちゃんが手伝ってもあまり意味ないのがまた切ない。
ただ、お金のためにヒーローになりたい、というのには抵抗があるらしい。これは私がちょくちょく突っついてきたヒーローの不正暴きの影響だね。不正を働くのが問題なのであって、きちんとした労働の対価として金銭を得ることに引け目を感じることはないと思うよ。
「親孝行のためにだなんて……素晴らしいことですわ、麗日さん!」
百がなんか感動してお茶子ちゃんの手を取っている。そうそう、お茶子ちゃんは私腹を肥やすためじゃないし、夢を叶えることを応援してくれた両親のために頑張ります、ってデビューしたてのヒーローのつかみとしてはバッチリじゃなかろうか。
「みなさんは、ご両親が応援してくれていて、なんだかうらやましいです」
「志村さんは、その、反対されているの?」
「ええ、まあ、そういうわけでもないんですけど」
反対する人自体いないって設定だからね。百が心配そうにこちらを見ているけど、ちょっと言い方を失敗したかな。
「あー……その、すみません、あまり、人に話すようなことではないので、ちょっと……」
「あ……僕の方こそごめん」
出久くんも察してくれたようで、ちょっとしょんぼりしている。お茶子ちゃんもたくわんっぽい眉毛の眉尻を下げてて可愛い。
「ああ、いえいえ、変な事を言ったのは私ですし、それに応援してくれる人がいないと言うわけでもないので」
中学の時の同級生とかね。設定上なら養護施設の人たちとか。前者はともかく後者は実在しないんだけどね。私がいたってことになっている施設自体は存在しているんだけど、理事長であるドクターに頼んで全員ここ3年の間に入れ替えてもらっている。ドクターが運営している施設の中でも小さい方にしてあるから対象となっている人数も片手で数えられる程度だ。この人たちも足取りが追えないように細工してあるので、私の過去を探るのは困難になっているはずだ。なので施設に私について問い合わせたところで過去に在籍していた子供であるという以上の話は聞き出せないし、関係書類も手違いで破棄されたことになっている。
“死柄木常夜”は最初から存在しないからどうとでもなるんだけど、“志村常夜”は公的に存在していることにしないといけないからこういう工作が必要になるんだよね。まあ、やったのはパパやドクターの部下とかだけど。
「生活の方も施設の理事長からいくらか援助して頂いてますし、それ以外にも支援してくれた方は大勢します。そうした人たちに恩返しするためにも、ヒーローになりたいです」
ちなみに、“志村常夜”は理事長とは面識がないことになっている。堀須磨大付属中学に特待生として入学するので優秀な子を援助する、と言う格好にしている。なのでドクターに聞いても詳しいことは知らない、で白を切ることができるというわけだ。後々のためにもドクターと私は無関係ってことにしておかないと困るからね。
「まあ、ただ恩返しをするだけならヒーローでなくてもいいんですけど、私にもヒーローに憧れる理由があります」
ジャケットの内ポケットからママが写っている写真を取り出す。一応焼けているのでラミネート加工で補強してある。こうしてあるとよりそれっぽく見えるし。
「祖母です。と言っても父が小さい頃に亡くなったそうなので、詳しいことは知らないんですけど、生前はヒーローだったそうです」
「志村さんに似てるね!」
「着ているコスチュームも志村さんのものに似ている?」
「ええ、写真の祖母のものを参考にしました。祖母のものにはマントがついているみたいですけど」
出久くんにママの写真を見せておくことは、オールマイトに私が志村菜奈の孫だという想像の補強材料になる。出久くんは後々『ワン・フォー・オール』の面影でママの姿を見ることになる。当然その姿と写真の人物は一致するから出久くんはそれをオールマイトに伝えるはずだ。そうすると出久くんも私のことを意識するようになるだろうけど、まあそれはいいか。
あとはママのことを知っている人と接触しておきたいよね。グラントリノと会うには、職場体験のときに保須市に行けばいいだろう。体験先によっては難しいかもしれないけど。それ以外だと根津校長とリカバリーガールぐらいか? 根津校長は私のことは既に知っているけど、会えるかどうかはわからない。リカバリーガールの方は体育祭なりで会えるはずだ。
念のためと言うか、駄目押しと言うか、オールマイトを騙すためにやることはそれなりにあるけど、そのときまで時間はあるんだからじっくりやっていこう。
「あ、そうだ、写真」
ママの写真をしげしげと見ていた出久くんとお茶子ちゃんは何事かとこちらを見るけど、百の方は得心したように頷く。
「そういえば、今年はまだでしたわね」
実は私、毎年クラスメイトとツーショットの写真を撮っていたりしていたのだ。こうした形あるものを残すと、心にも残りやすいからね。
「じゃ、早速百と撮ろうか。あ、麗日さん、お願いしていいですか?」
スマホをお茶子ちゃんに渡し、椅子から立ち上がった百と並ぶ。スマホを構えたお茶子ちゃんが少しずつ後ろに下がって行く。うん、ごめんね、私と百だと身長差があるから同じ枠に収めるには距離を取らないと行けないから。とりあえず、上半身だけ写ればいいと伝えておく。
撮ってもらったものを確認する。雄英の制服だからか、これまで撮ったものとはまた違った感じだ。そして縮まらない身長差は相変わらずだ。うーん、せめて160cmは欲しいんだけど。
続いてお茶子ちゃん、出久くんとも撮る。出久くんは女子慣れしてないせいか、だいぶ緊張してたけど。お茶子ちゃんの方はついでとばかりに百や出久くんとも撮っていた。攻めるね。
撮ったデータを送るために互いのアドレスを交換する。こうやってクラスメイト全員と撮りたいところだけど、爆豪くんが難関だ。こういうの絶対嫌がるだろうし。なんか条件つければいけるか?
「少々長居してしまいましたわね。皆様、下校致しましょう」
下校時刻はまだ先だけど、明日以降も授業があるから帰宅して体を休めた方が良い。もうみんな帰っちゃってるし。
みんなと別れて家路に就く。しかしまあ、まだ入学してから3日目だって言うのにイベント盛りだくさんだった。
んーと、このあとあるのは、ヴィラン連合によるUSJ襲撃か。もうちょっと先になるけど。
うーん、どうするかなぁ。放っておいてもオールマイトが来ればそれで解決しちゃうけど、試しておきたいことがあるんだよね。それに、これをやると楽しみもついてくるし。うん、そうだ、やっておこう。
さてさて、明日もがんばろー。
アンケートはあれです。透ちゃんを弄るかどうかです。
葉隠透は内通者だと思う?
-
思う
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思わない