ラスボスの子に転生したのでNO.1ヒーローを曇らせたいと思う   作:タメガイ連盟員

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ユーグレナ様、低体温28度様、ヴァイト様、佐藤東沙様、常磐4b'様

誤字報告ありがとうございます。

新しい称号
・サイコパスロリ

お待たせしました。


05.襲撃、のその前に

 入学から1週間ほど経った水曜日の朝。今日の午後にヒーロー基礎学のレスキュー訓練が行われる。

 

 つまりヴィラン連合による襲撃があるってことだ。

 

 一応今日の授業にレスキュー訓練があり、担当教員オールマイトの名前で施設使用予約がされていることは私も事前に確認しているけど、なにせ自由が売りの雄英だ、担当教師のきまぐれで授業内容が変更されることはいくらでもありえる。まあ、実際には担当のはずのオールマイトが授業に出てこないという事態が起きるわけだが。そら校長に説教されるわ。

 

 ちなみに施設の使用予約は学内の者なら誰でも確認できる。教師に聞いてもいいし、学内専用アプリでもわかるし、職員室にもプリントアウトされたものが置いてあったりもする。ヒーロー科の生徒でもこの予定を確認している者は少なくない。ヒーロー基礎学の中で個性の使用が前提である実践演習、最もヒーロー科らしい授業だからそれがいつ行われるか気になるのは当然と言える。なので、今日の予定は誰が知っていてもおかしくないし、黒霧が先日のマスコミ侵入騒ぎに乗じて予定表をくすねることも難しくない。

 

 弔の方の準備がどうなってるか確認しようと思ったんだけど、彼とは接触しないようにしてきたせいでどこでなにやってるかさっぱりわからないことに気づく。弔は原作通りに動いてもらわないと困るからってあまりにも関わらなさすぎたか。『千里眼』で神野のバーからなんとか居場所を特定したけど、さすがにこの時間だとまだ襲撃準備はしていないようだ。準備と言っても、黒霧が連れて行ってくれるわけだから、弔が何をするわけでもないんだけど。至れり尽くせりだねぇ。脳無だってパパとドクターの提供だし、なんだろうね、ヴィランとしての覚悟と言うか、そういうものがないんだよね、このときの弔って。ここから敗北を経験して立派な悪のカリスマになってもらいたいものである。

 

 それにしても、私がそれなりの数のチンピラをムショ送りにしてきたと思ってたけど、襲撃に参加する奴がいるってのはなぁ。それだけ不満を溜め込んでいる奴が多いってことか。いや、私の“黒外套”としての活動で社会不安を煽っているから、そのせいで増えてるのか? それにしたって、雄英を襲撃してオールマイトを抹殺する、なんて話に乗ったりするものだろうか。まず正気を疑われるだろうし、真面目に受け取られないんじゃないかな。でも、脳無や『ワープゲート』、弔の『崩壊』を見せればやれそうな感じにはなる、と思う。オールマイトの抹殺は自分たちがやるってチンピラに説明していたはずだし。

 

 改めて考えてみると、黒霧の『ワープゲート』と脳無の存在ってホント大きいな。一番でかいのはもちろんパパとドクターなんだけど、どちらも表には出てこないので数に入らない。『ワープゲート』のような転移系個性はかなりレアで、私も『転移』をよく使うからその利便性はよく知っている。誰でも“テレポーテーションが使えたら”と1度は考えたことがあるはずだ。しかも『ワープゲート』は複数人を転移させられるのだから便利だし、個人戦闘でも複数箇所にゲートを繋げることで物理的な干渉を避けたり、ゲートに通している途中で閉じることで対象を切断することもできたりと応用幅が広い。さすがパパとドクターがコネコネしただけのことはある。まあ、爆豪くんに弱点見抜かれてるから完璧ではないんだけど。あとでグラントリノやエッジショットにも倒されてるから身体能力はそれほどでもなさそう。

 

 黒霧も脳無の1種だけど、他の脳無のような肉体強化や複数個性所持ではなく、素体である白雲朧の『雲』に転移系個性を合成させているところが大きな差異だろう。個性の合成自体はそう珍しいものではない。例としてまずあがるのがあの『ワン・フォー・オール』だから特殊な事例に思えるけど、交配によっても合成は起きる。世代を経るごとに個性が混ざり合う、というのがまさにそれだ。爆豪くんの『爆破』や轟くんの『半冷半燃』がその良い例だ。『ワン・フォー・オール』が特殊に見えるのは『オール・フォー・ワン』を介しているからだろう。黒霧の高い知性を見るに、複数個性の所持は思考力の低下と言ったデメリットがあるけど、個性合成によって1つにすることでそれが軽減できている可能性が高い。個性合成が発生する条件の調査・検討は長年やってるだろうし、ハイエンド脳無なんかもこれを応用することで知性を維持しているのだろう。

 

 脳無自体ドクターが目指す“マスターピース”の副産物だけど、脳無が兵隊なのに対して黒霧は参謀として造られているから丁寧な仕事振りが感じられるんだよね。ハイエンドも個々に名前を付けていたりと、ドクターもかなりこだわっている様子だから不完全な状態で戦闘に出すの、本気で不本意だっただろうな。それから体が霧になっているのも、発動型個性の人でも本来なら存在しない器官を持っているのと同じだろう。お茶子ちゃんの肉球とか、飯田くんのエンジンの排気筒、あとは透ちゃんもそうかもしれない。透ちゃん、青山くんのレーザーの軌道を変えるなんてこともできるようになるから、常時発動型みたいな感じだと思う。

 

 んー、黒霧とは目覚めた直後ぐらいに会ったきりだけど、私のことをどれぐらい把握しているんだろうか。パパの娘ってことぐらいは知っていると思うんだけど。変に忖度とかされたら困るんだけどな。例えば私だけ周りに誰もいないところに転移させられるとか。私としてはそうなったら事が済むまで大人しくしててもいいんだけど、“志村常夜”ならじっとしているなんてあり得ない。「脅威を目の前に逃げるヒーローなんていない」なんて上鳴くんに言っているわけだから、周囲には正義感が強く行動を起こすことを躊躇わない人間であることが想像できる。そんな“志村常夜”が、ヴィランの襲撃なんて状況に置かれた場合、確実に仲間の救援に向かう。それも最も危険な場所に。

 

 つまり、脳無や弔との対峙は不可避だ。

 

 黒霧はスルーしてくれることを祈るしかないけど、弔が私に対してどう反応するかがわからない。まずパパが私のことを教えているかどうか。これはたぶん教えていないと思う。パパは嘘をつかないけど全てを話すわけでもないから、弔とは別計画の産物で、スペアでもある私のことをわざわざ教える必要はない。一応、血縁と言うか、遺伝上の関わりはあるし、私自身ママに似ているけど、原作で弔の記憶が蘇ったのは相当追い詰められてようやくだったわけで、パパとしても自力で記憶の扉を開くことで覚醒させようと言う思惑だろうし、せいぜい、ヒーロー科に自分たち側の者が潜り込んでいる、と伝えるぐらいだろうか。伝えたところで別に気にしなくてもいい、って言ってそうだけど。変に刺激しちゃわないといいけど。

 

 脳無の方は『ショック吸収』と『超再生』を持った個体だ。これに加えてオールマイト並のパワーとスピードを持っている。対オールマイト抹殺用を謳っているだけあって非常に強力だ。と言うか、これに勝てるヒーローってかなり限られるよね。これより強力なハイエンドを倒したエンデヴァーやミルコぐらいだろうか。脳を破壊すれば機能停止するけど、人間扱いしちゃうせいで大苦戦することになる。脳無なんて死体を使ったロボットなんだから、ミルコみたいに気にせず破壊しちゃえばいいのにね。

 

 しかし、これと実際に戦うことを考えると気が滅入る。自分より強い相手と戦うってのはやっぱり嫌なものだ。これまで戦った相手で強かったのはマスキュラーだけど、彼は良くも悪くもわかりやすい性格だったからうまくいったようなものだし、非常に厄介かつ強力な治崎なんてまともに戦うことすら考えなかった。脳無も『個性創造』の方を使えれば敵じゃないんだけど、『念動力』しか使えない今の私に勝ち目はない。衝撃波は『ショック吸収』で無効、拘束もあのパワー相手では長続きしない。空中機動で逃げようにもスピードもあちらが上だからすぐ捕まってしまう。私も肉体強化されてるけど、生身である以上限りがある。直撃を受けた場合が怖いな。この辺の対策は考えているけど、大丈夫かなぁ、さすがに試すわけにもいかなかったし。

 

 まったく、なんで“志村常夜”はこういう性格なんだ。オールマイトに接近するために彼が気に入りそうな感じにするためだよ。ママの孫ってだけじゃ足りない気がするからだよ。あとの楽しみがなければあのおっさんの気を引くことなんてやらないぞ。

 

 原作を知っていても、実際その状況になったときは出たとこ勝負なんだよなぁ、いつも。本番に有効な事前計画はないって言うけど、その場その場で自分にとって都合の良い展開になるように修整しなきゃいけない。ナガンのときは完全にアドリブだったし、八斎會は入念な事前準備のおかげで大凡思った通りにはできた、と思う。今のところうまくいっているようでもどこにどんな落とし穴があるかわかったものじゃない。その最大のセキュリティホールがパパなんだけど。今のところ干渉してきてこないけど、この先何をしてくるか予想がつかない。

 

 うーん、この体にしろ立場にしろ、色々便利だけどパパと繋がりがあるってのが最悪かつ最大の難点だ。これさえなきゃなぁ。これまで何不自由なく暮らして来られたのはパパのおかげではあるんだけど、それはそれだ。

 

 これまで八斎會を自分の影響下においたりしたのは治崎が企んでいた個性破壊弾の排除が主目的だったけど、彼らを支援することによって金銭面でパパから離れるためでもある。現在八斎會の資金状況は潤沢と言えるほどではないけど、かなり良好な状態になっている。それもフロント企業からの上がりが主だからヒーローや警察も手出しできない。このまま行けば遠からず非合法組織としての八斎會は消滅するかもしれないけど、構成員の衣食住を保証できる状態は維持できるわけだから問題はないだろう。まあ、社会のはぐれ者の受け皿としての機能がなくなるのはちょっと困るから完全に消えてもらうわけにもいかないけど。本来社会福祉として国がやるべきことなんだけど、はぐれ者は国とか役所が嫌いだからね。必要悪と言う奴だけど、こういうのが必要のない社会ってのもまた難しい問題ではある。

 

 うん、また思考が逸れているね。こうやっている間にも朝のルーチンは完了してしまっているのだった。我ながら慣れてきたものだ。

 

 自室でああだこうだ考えていても仕方ないので登校するとしよう。

 

「おはようさん」

 

「おはようございます」

 

 不和先輩と挨拶を交わす。別に示し合わせてるとかではないのだが、彼女とは一緒に登校することが多い。

 

「どう、慣れてきた?」

 

「1人暮らしなのは前からなので平気なんですけど、雄英の規模にはまだ全然……」

 

「あはは、やっぱり最初のうちはね。そのうち嫌でも慣れるから」

 

「いやまあ、後々の冗長性を考慮してあの規模で建設されたのはわかるんですけど。でもなんというか、呆れのようなものを感じてしまって」

 

「雄英新入生あるあるだ」

 

 うーん、A組のみんなはあんまり気にしてないようなんだけど、私が変なんだろうか。

 

「そういえば、どう、もうやられた?」

 

「やられたって、なにをでしょうか」

 

 不和先輩がにっと笑う。

 

「じょ・せ・き」

 

「あー……あれやっぱり本気で言ってたんですね……初日の個性把握テストだと合理的虚偽って言ってましたけど」

 

「よく言われたなぁ、合理的虚偽。あれもそのうち慣れるーちゅうか、あんまり使わんくなるね」

 

「何度も使われると、先生の言ってることが信じられなくなってしまいそうですしね」

 

「そうそう。嘘も方便なんて言うけど、使い処だからね」

 

「でも除籍は虚偽じゃないんですよね?」

 

「うん。私もやられた。ちゅうかクラス全員1度は除籍しゃれとーね」

 

「それはその、大丈夫、だったんですか?」

 

 除籍って通常なら在学中に死亡・行方不明になるか、退学処分に従わない者、授業料の納付の催促に従わない者がその対象になる。例えば白雲朧は在学中に死亡しているので除籍されていることになる。退学なら取得単位は有効だったりするけど、除籍となるとそれすら残らないのでより重い処分になる。処分としては停学<退学<除籍の順で重いと考えておけばいいだろう。相澤先生は除籍を死を与えるものとしているけど、まさしくその通りなわけだ。

 

「今こうして2年生になりよーけんね。ばってんやられたときはショックやった。注意感覚ぐらいでやってくるけん、志村ちゃんも気ばつけんしゃい」

 

 問題は相澤先生が除籍を行う基準がいまいちわからないことだ。彼が作中ではっきりと除籍の可能性を口にしたのは神野事件後、入寮のときにA組のみんなが集まったときだ。要約すれば先生からの信頼を裏切ったことがその理由になる。行った5人もまずいとわかっててやったわけだから、やむなしだ。それ以外で除籍が出なかったのは連合の襲撃の影響だろう。連合、と言うか弔に顔を覚えられた人もいるし、さすがに校長あたりに止められたのだろう。

 

 他には保須でステインと戦った出久・飯田・轟の3人組の行動は個性の不正使用にあたるから、相澤先生の除籍抜きでも停学処分になっていたかもしれない。ステインに殺されそうになっていたヒーローがいたから、人命救助と言うことにできたかもしれないけど飯田くんは私怨で行動してたからやられてたかもね。まあ、警察の方が表向きは何もしなかったことにしたから相澤先生もそこに従うことにしたんだろう。除籍・復籍の権限があるとは言え、大人の政治的判断が入ってくるとそちらの方が優先されてしまうわけで、なんともはや。

 

「あれ、1度は、って何度もやられたんですか?」

 

 確か合計で200回近く除籍やってたよね、相澤先生。

 

「人によってはね」

 

「うわぁ」

 

 2年生の在学人数は確認してないけど、除籍されたままフェードアウトした人もいるんじゃないか? 国内トップ校に合格したとは言え、まだ15歳では強烈な挫折なんて味わったことがない人がほとんどだろう。心が折れてしまう人が出てもおかしくない。まあ、これぐらいで折れるぐらいならヒーロー目指さない方が適切だとは思うけど。もう1つ、復籍があるからと高をくくっていたら、と言うパターン。うん、いるなこれは、プロヒーローにイキっちゃう人。この辺爆豪くんは目上や格上には大人し……くはないな、滅茶苦茶挑戦的だったわ。でも案外越えたらまずい線は守ってるから、除籍を食らわずに済むかもね。

 

「やっぱり意識変わるけん1度やられてみるんもよかて思うばい」

 

「いや、そんな気軽に受けるようなものじゃないのでは」

 

 さっき気をつけろって言いませんでしたか、不和先輩。

 

「やられんに越したことはなかばってん、そんときは慰めちゃるけんしゃ。ねっ」

 

 満面の笑みを浮かべてらっしゃいますが、私がショックを受けているところを見たいだけではないだろうか。初日に部屋に帰ってきたときも、個性把握テストのことを困惑気味に話したらケラケラ笑ってたし。結構良い性格してるな、この人。

 

「慰めよりもまず除籍にならないための心構えとかは」

 

「うーん、そこはイレ先生のみぞ知るってところやけんなー。とりあえず、凄か形相のときは要注意? みたいな」

 

 いつも凄い顔してるよね、相澤先生って。参考にならないなぁ。させる気がないからだろうけど。

 

「ところで、志村ちゃんは早朝の学校で予習するタイプ?」

 

「予習復習は前日に済ませますけど、やるときもありますね。あとは個性の精密動作訓練とかですね」

 

「『念動力』だっけ? 自分の部屋でもしきるばってん、学校ん中ん方が間違いなかもんね」

 

 雄英校内でも個性を使用して良いのは、授業中や各種トレーニング設備に限られるけど、教室内なら個性訓練の内と言うことにできる。まあ、教室で個性訓練できる人がそんなにいるわけではないんだけど。

 

「不和先輩はトレーニングですか?」

 

 当たり前と言えば当たり前の話だけど、雄英はトレーニング設備も最上級のものが整えられている。もちろん、個性使用を前提としたものだ。校内案内アプリで確認しているから、存在しているのは知っているんだけど、現状目の前の授業をこなすのに忙しいので利用しようと言う発想には至らないのであった。

 

「うん。志村ちゃんはまだばいね。ばってんこん時期、1年生がトレーニング施設ん予約ば取るのもう難しかて思うね」

 

「2・3年の先輩方が取っているからですか?」

 

「そうそう。来月は体育祭、そん次ん月は仮免試験やけんみんなピリピリしとーね」

 

「3年生はヒーロー資格の本試験だからさらに、と言うわけですか」

 

「そこが終わればインターン出るごとなるけん、少しは取りやすうなるて思う」

 

 平常ならこうやって2年生の6月に仮免、それからインターンに行ったり行かなかったりするわけだ。インターンの受け入れはいろいろ条件があったり、学業との両立もさせないといけないから誰もがすぐ行くわけではないけど、将来のことを考えれば行った方が良いのだろう。6月の仮免試験に落ちてしまうと、次は9月だからここで受かることができたとしても同級生と3ヶ月の差がついてしまうことになるからピリピリするのもしかたがないところだ。不和先輩はピリピリした感じではなく、名前の通りふわっとしている。平常心を維持するのも大事だからね。

 

「雄英の施設はざっと確認しているんですけど、卒業までに全部使うことってあるんでしょうか」

 

「難しかやなかかな? サポート科向けん施設はコスチュームとかサポートアイテムん相談に行くことはあるばってん、経営科や普通科ん方はあんまり行かんし」

 

「あ、それもそうですね」

 

「結局半分も行かんで終わるんやなか? 自分にとって何が必要かば考えて、それにあったところば利用していかなね」

 

「なるほど」

 

 不和先輩、私のことをからかってくるけど、こういう質問にはきちんと答えてくれるので先輩らしい振る舞いができることが楽しいのだろう。ヒーロー科だと部活はできないし、後輩の面倒を見る暇がないぐらい忙しいからこうした交流は貴重なものだと言える。学校だと昼食時に食堂で会うことがあるぐらいだし、学年を越えて行われる授業も確認した限りではない(もちろん雄英なので先生の思いつきで行われることはあるかもしれないが)。私も不和先輩と話しながら登校するのは楽しいので当面は続けていきたいところだ。

 

「私の課題はスタミナやね。個性伸ばしも大事ばってん、最後にもんば言うんなこれ。1時間は走り回るーごとならな話にならんって」

 

「うへぇ」

 

 まあ、その通りなんだろう。事件発生の報を受けて現場まで駆けつけて即戦闘、という状況で息切れしていては話にならない。とにかくヒーローに求められる能力は非常に高い。まあ、これは雄英だからでもあるんだろうけど。

 

「ほんなこつ冗談やなかけんね。おいそれとは鍛えらるーもんやなかけん毎日走り込みばしていくしかなかとよ」

 

「大変ですね」

 

「人ごとやなかばい。志村ちゃんも今からやっといた方がよかばい。こげな地道な努力が2年後ん違いになってくるけん」

 

「わかってはいたつもりですけど、忙しないですね。まさに」

 

『ヒーロー科に暇なし』

 

 声がハモったのでお互いになんとなく笑ってしまう。まあ、朝の登校時間ぐらいはこうしてゆっくりしてもいいのではないかと思う。

 

 

 

 学校に到着して不和先輩と別れて教室へ向かう。初日は飯田くんが待ち構えていたが、それ以降で最初に登校してきている様子はない。誰もいない教室っていいよね。自分の席に着いてヒーロー情報学のテキストを開く。春休み中に目を通してはいるけど、法律関係の記述が多くてなんともややこしい。法律ってのは柔軟性があってこそだけど、この回りくどい表現はなんとかならないのだろうか。回りくどいからこそ法解釈の余地があるわけだけど、専門でやっているわけでもない身としては面倒なことこの上ない。

 

 ヒーロー、と言うか個性関連の法律は所謂“ロードアイランド新州法”が元となっている。日本向けにローカライズされているが基本的には個性使用の公認制度だ。まあ、一部法学関係者からするとヒーローの公認よりもヴィランを定義するためのものであるらしいが。ヒーロー活動は個性関連法に基づいていて、これに違反した場合はペナルティが科せられることになる。最悪の場合免許剥奪が待っている。

 

 ちょっと繰り返しになるけど、原作でも保須市での出久くん、飯田くん、轟くんの行動が規則違反として処罰対象になることが告げられている。結局は公表しない、つまりなかったことにされたのでお咎めなしとなったがマニュアルとグラントリノは監督不行き届きとされている。それから神野で爆豪くんの救出を行った、さっきの3人に百と切島くんを加えた5人の行動も明らかな違反行為だ。実際後で相澤先生から除籍をするつもりだったと言われているわけだけど、オールマイトのことでうやむやにされている。いや、ちょっとぐらい処罰を加えても良かったんじゃないかと思ったものだけど。

 

 なにせ彼らは違法だとわかった上で行動しているのだ。梅雨ちゃんが言っていた通り、ヴィランも同然の行為なのだから、何らかの制裁はあって然るべきだろう。学校内で喧嘩したら謹慎処分なのに。どうも相澤先生は厳しいのか甘いのかわからないときがあるね。相澤先生のことはともかく、ロードアイランド新州法に見られるようにヒーローとヴィランの境界は国から認可されているかどうか、と言う点で法に規定された存在である、と言うことだ。いかにヒーローにとって想いが力になるとは言え、それで法を破るのはあってはならないことだろう。ばれなきゃいい、と言う面があるのは否定しないけど。

 

 ヒーローをヒーローたらしめているのは国の認可ともう1つ、民衆からの支持がある。ヒーローは元々民衆から支持されていたヴィジランテを国が制度として取り込んだのだから当然なのだが、支持、信頼と言い換えてもいいがこれが失われた者はほぼ引退に追い込まれている。こうした信頼の喪失は個人の問題ではなくヒーローと言う存在、ひいては社会への不信へ繋がっていくことになる。だからヒーロー公安は著しい問題があるヒーローを処分していたわけだ。そのやり方にはまったく賛同できないけど。

 

 法を破る、と言うのはその信頼を損なう行為だ。まあ、ヒーローの卵と言う未熟な存在であるためそうした面が疎かになってしまうのは仕方がないのだけど、こうして課目としてあるのだからきちんと学んで欲しいものだ。

 

「おはよーっす」

 

「おはようございます、切島くん」

 

 テキストを読みながらあれこれ考えている間に何人か登校して来ていた。切島くん、熱い男ではあるんだけど、法と感情の関係で言うとちょっと危うい感じがする。一番危ういのは出久くんだけど。

 

「どした?」

 

 つい切島くんの顔を見つめてしまっていた。

 

「いえ、法律を守るのって大事だなぁ、と思いまして」

 

「は?」

 

 何のことかさっぱりわからない、と言う顔の切島くんにテキストの表紙を見せる。

 

「ああ、ヒーロー情報学か。法律関係って難しいよな」

 

「でもきちんと覚えないといけないことですから。特に私たちが目指すヒーローは多くの人から見られています。法の遵守は司法に関わる人々以上に気を遣わなければならないと思います」

 

「だな。今日のヒーロー基礎学って演習なんだよな。何か聞いてないか? 前回みたく戦闘訓練?」

 

「いえ、救助訓練用施設をオールマイトの名前で予約しているのでそちらだと思います」

 

「レスキューか! ヒーローの本分だな!」

 

 腕が鳴るぜ、と気勢を上げる切島くん。切島くんって体育会系熱血キャラだけど、自分の弱い部分を認めた上でああいうキャラ作りをしているわけだから、地に足がついている感じして好感が持てる。多少の危うさは若さ故だし、経験を積んでいけば彼が憧れる、えーと、クリムゾンライオットだっけ? みたいなヒーローになれるんじゃないだろうか。うーん、元々切島くんは好きなキャラクターだからちょっと贔屓した感想になっちゃうな。

 

 ふと、胸の奥が、心地よく痛んでいることに気づく。

 

 思うのだ、彼みたいな人間に割り切れない問題をぶつけたらどうなるんだろうかと。悩んで悩んで、ぐちゃぐちゃになるまで悩み続けてくれることだろう。もちろんヒーローになるならそんな問題にぶつかることは日常茶飯事だろうし、その都度答えをだしていかなければならない。けど今の彼にそうした判断ができるだろうか? きっとまだできない、そのはずだ。楽しみだなぁ。

 

 ついつい口角が上がりそうなのを右手で覆って隠す。おいおい、ここ学校だよ? みんないるんだよ? なにやってるんだか。ここしばらく真面目な学生としての生活しかしてなかったからたまってるかな。いくら先の楽しみがあると言っても物事には限界があるのだ。うん、登校する前は気が進まなかったけど、派手にやってしまおう。そうすればきっと。

 

 流石に変に思われたのか、切島くんが不審そうにこちらを見ているのでなんでもないと言って誤魔化す。

 

 努力して口元を戻してから教室を見回してみる。まだ登校してきていないクラスメイトもいるけど、1人1人に視線を合わせてじっくりと観察する。みんなキラキラ輝いて、まるで宝石のよう。教室は差し詰め宝石箱。

 

 なぜ今までそう見えなかったのだろうか。私も意外に緊張していたと言うことだろうか。まあいい。これからはきちんと品定めができるということだし。

 

「なぁ、俺なんか変なことした?」

 

 おっとまた笑ってしまっていた。楽しみがあるのはいいことだけど、隠すべきときは隠さないと。

 

「いえ、このクラスになって良かったな、と思いまして」

 

 本当に、そう思う。




透ちゃんは内通者ではありませんでした。でも弄びたい。弄びたいよね。

そして愉悦スイッチオン。同級生がこんなのとか大変だ

4月13日当作品の初投稿から半年になりました。正直長編の投稿は久しぶりなのと仕事が忙しくなってきたのとで執筆ペースがぐだぐだになってしまっていますが、今後もお付き合い頂ければ幸いです。エタリダケハシナイノデドウカ
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