ラスボスの子に転生したのでNO.1ヒーローを曇らせたいと思う 作:タメガイ連盟員
誤字報告ありがとうございます。
退院の日がやってきた。今日まで根津校長が作ったスケジュール通りに過ごしてきたおかげで予定通りの日程で退院できる。
それまでの間にA組のみんなが夕方になるとお見舞いに来てくれた。1度に全員、ではなく日を分けて5人ぐらいで。百は毎日来てたけど。あと案の定爆豪くんは来なかった。1人だけ好感度上がってないからね、仕方ないね。
荷物をまとめ、着替えも済ませている。ちなみに着ているのは制服。自室から外出着を持ってきてもらうこともできたけど、そこまでしてもらうつもりはなかった。
病室から出てロビーに向かうと相澤先生が待っていた。諸々の手続きは既に終えているようだ。本来なら私の保護者後見人がこういうことをするのだけど、残念ながら海外への長期出張のため不在なので代理として相澤先生にお鉢が回ってきたと言うわけだ。後見人はパパの部下なので、この長期出張自体は嘘じゃないにしても別目的があることは明らかだ。例えば蛇腔病院から動けないパパに代わって世界各地のマフィアやシンジケートとの折衝とか、パパの海外資産の確認とか。
治療費は学校側が出すことになっているから、相澤先生が来ているのはそれも兼ねてのことだろう。実は治療費以外にも、根津校長が病院にそこそこの額を寄付していたりする。食事とかいろいろ無理言っているからね。
「相澤先生、お待たせしました」
「先にこれを渡しておく」
相澤先生が差し出したのは眼帯だ。ああ、そういやこのタイミングで新しいスーツが出来上がるんだった。スーツ本体は学校の方に送られているはずだ。今は頭に巻いていた包帯は取れて医療用の眼帯が右目に当てられている。一応治ってはいるんだけど、中身がなくてへこんで見えるのでつけているわけだ。
眼帯は黒のゆるい三角形。デザイン要望になかったあのジャケットをつけてきたサポート会社のことだから変なものが出てくるんじゃないかとちょっと不安だったんだけど、シンプルなものでよかった。
早速医療用のものを外して、新しい眼帯を装着。手鏡で着けた感じを確認する。うん、なかなかいいんじゃないだろうか。
「このまま家まで送ってやってもいいんだが」
言いながら相澤先生が正面玄関を示すようにそちらを向く。そこにはこちらに手を振る百と透ちゃんの姿があった。わざわざ出迎えに来てくれたのか。百は必ず来ると思ってたけど、透ちゃんまで来るとは。にしてもなんで制服姿なんだろうか。一応校則には外出時には制服を着用すること、とあるけど守っている人はいないし先生も気にしていないのだけど。
玄関から出ると、出迎えに来ていたのは百と透ちゃんだけではなかった。お茶子ちゃん、梅雨ちゃん、三奈ちゃん、響香ちゃんとA組女子全員が揃っている。
「みんな、わざわざ来てくれたんですか?」
「実はそれだけってわけじゃないんだけど……あっ、他の人の邪魔になっちゃうから移動しよう移動しよう」
「はい。それでは相澤先生、ありがとうございました。また明日」
私がお辞儀をすると相澤先生は軽く頷いて駐車場へ向かっていた。それを見送ってから病院の敷地外にぞろぞろと歩いて行くみんなと合流する。
「それで、出迎え以外の用事ってなんですか?」
「ケロ。午後から学校の運動場が使えることになったのよ」
「だから時間はちょっと早いけど、志村さんを迎えに行こうってなったの」
よく使用予約取れたな。学校のシステムを把握している上級生で埋まってるものだと思ったけど。
「この時期は1クラスに1度は使えるようになっているんです」
私の考えを先取りしたのか、百が教えてくれた。まあ、経営科とサポート科は利用しないだろうから、ヒーロー科と普通科の1学年5クラス、計15クラス分の枠と言うことになる。いや、3年の普通科はもう進学なり就職なりの方向で決まっているから除外されるか。
「全員が参加するってわけじゃないんだけどね。男子は何人か来ないし」
雄英体育祭に向けての特訓が目的だけど、運動場なら個性使用の制限がないと言ってもまだ手の内を見せたくないと言う人もいるのだろう。轟くんと飯田くんはわざわざ学校まで来なくても使える施設があるだろうし。まあ、教師の監督がつくはずでアドバイスをもらえるかもしれないから来た方がお得だと思うけど。
「常夜さんはどうされますか?」
「ごめん、お医者さんから今日明日は激しい運動はまだ駄目って言われてるから」
「志村さん、参加しないの?」
ひょい、と透ちゃんが私の顔を覗き込む……けど、ちょっと顔を逸らしたっぽい?
「はい。すみません。それにまだ本調子と言うわけでもないので」
「そっかー」
ちょっとしょんぼりな透ちゃん。と言うか、みんな眼帯には触れないのね。私は気にしてないけど、みんなの方はそうもいかないのかな。
「ああ、でも、退院したわけですからやっぱり一度顔を見せた方がいいでしょうか」
「そだねー。練習が手につかないってわけじゃないけど、元気になったとこ見せたらみんな安心すると思うな」
「はい。午後からなら、まだ時間には早いですよね?」
「だからさ、ファミレスかどっかで時間つぶしがてらランチでもしようよ」
今は10時ちょっと前。ファミレスの開店時間にはまだ少し早いがここから歩いて到着する頃には丁度良い時間になっているはずだ。病院から雄英までに適当なお店はあったかな? などと考えていたけど、行き先は既に決まっているらしい。
「食事は普通ので大丈夫なんだよね?」
「はい。そちらの制限は特にないです」
体力回復のために結構ガッツリなメニューが続いてたんだよね。それでも病院食ではあるから味付けが薄めだったのがなぁ。なので今は濃いめの味付けのものが食べたい気分だ。
雑談しながら歩いているうちに目的のファミレスに到着。まずは全員分の注文を済ませてからドリンクバーで各自飲み物を用意する。
「それでは常夜さんの退院を祝して、乾杯」
百の音頭に全員がかんぱーい、と唱和する。開店から間もなくて他のお客さんはまだいないけど、大きな声を出すのはよろしくないのでボリュームは抑えめで。
「いやでもホント良かったよ。何度も言っちゃってるけど」
「あの日の夜は全然眠れなくって、でもいつの間にか寝ちゃってて。昼過ぎに目が覚めて、ああ、滅茶苦茶疲れてんだなぁって」
これはみんな同じだったらしく、翌日が臨時休校じゃなかったら全員遅刻してしまっていたことだろう。
「それは……ご心配をおかけしました。って、これも何度も言ってますね」
「お見舞いのときもめっちゃ言ってたもんね。てか、荷物多いね」
「課題のテキストとか、あとみんなから貰ったお花もですね。あ、ねぇ、百、この花ってどれぐらい保つの?」
どうやらちょっと脆いようなのでケースに入れてある。今はそれをさらにエコバッグに入れて持ち歩けるようにしてあるので嵩張っている印象が強い。
「1、2年程度保つそうです。ですが、衝撃には弱いので気をつけてください」
「そんなに保つんだ。ありがとう、大事にするよ。これって水やりいらないんだよね?」
百が頷いて肯定する。ケースにいれたままでいいんじゃ部屋に飾っておくだけになりそうだけど、うーん、なんというか、あんまり好きじゃないかもしれない、こういう花って。生花だったらそれはそれで面倒だけど、観賞用に加工された自然物ってのはなんだかなぁ。うーん。
「……志村さん、こういうのあんまり好きじゃない?」
お茶子ちゃん、なんか鋭いな。そうだね、なんかね。
「え? いや、どうでしょう。こういうものいただくのは初めてですし、贈り物を粗末にしたりはしないですけど。それに私や病院見舞いの品であることを配慮してこうしたものを選んでくれたわけですし」
好き嫌いとは関係ないか。うん、ああ、そうか、これだと散らないから気に食わないのか。壊すことはできるけど、なんとなく違う感じがするし。
「そうですね、生きているお花の方が好きかもしれません」
「それでしたら、お誕生日には生花をお贈りしますわ」
それは楽しみ、と返したけど、百のことだからごっついブーケとか用意しそうなんだよなぁ。ついでの流れで誕生日はいつのなのか聞かれたので10月5日であると答える。公的機関にもこの日が出生として登録しているけど、実際のところはいつが誕生日になるのやら。一応目覚めたあの日ってことにしているけど、人工子宮から出た日か? そこからいろいろいじくられてるっぽいから何日経過したかなんてわからないしなぁ。うん、まあいいか。そこまで誕生日に拘りがあるわけじゃないし。
ちなみに今から誕生日が1番近いのは6月16日の透ちゃん、7月30日の三奈ちゃん、8月1日に響香ちゃん、9月23日の百、飛んで12月27日のお茶子ちゃん、そして2月12日に梅雨ちゃんだ。
「蛙吹さん、2月なんですね。なんとなく4月か5月だと思ってたんですけど」
「そうかしら? それと、梅雨ちゃんと呼んで欲しいわ」
おっ、出たな。これぞ梅雨ちゃんって台詞でとても良い。これ、友達になりたい相手に対するものだから相応に好感度も上がっているようだ。順調順調。で、梅雨ちゃんっていつも落ち着いている印象だから、クラスのお姉さん的なイメージなのよね。背は私の次に低い上に姿勢が前屈みだから余計に低く見えるけど。3人だったか4人兄弟の長姉だからそんな風に感じるのかも。
「はい、梅雨ちゃん」
梅雨ちゃんも満足げである。
「じゃあ私も名前で呼んで欲しい」
2人で微笑み合っていると透ちゃんが声を上げてきた。
「ならウチも」
「私もー」
響香ちゃんと三奈ちゃんもこれに続く。お茶子ちゃんは声を上げずに挙手だけしている。残る百は……ああ、温かく苦笑しておられるではありませんか。えっ、『魅了』を使っているとは言え、早くない? 百だって下の名前で呼び合うようになったの、1年の夏休み明けだぞ。うーん、陽気な子が多いからかなぁ。『魅了』の効果が向上しているのもあるかもしれない。
「よろしいのではありませんか? 常夜さん」
「おっ、ヤオモモからもお許しが出たぞ」
むっ、いつの間にあだ名で呼ぶようになったのだ。まあ、原作でもあだ名で呼んでたはずだからおかしくはないんだけど。ないんだけどー。
「えーと、コホン。では、透。三奈。響香。お茶子」
それぞれに顔を向けながら名前を呼んでいく。その度にはーい、と返事をしてくれるのは良いんだけど、なんか恥ずかしい。新手の羞恥プレイかなにかですかこれ。
「ならウチらも名前で呼んで良い?」
「……好きにしてください」
「常夜ちゃん」
まずお茶子ちゃんから。公開処刑か。
「……」
「返事してあげたら?」
「……はい」
こんな具合で名前呼びされるたびに返事をすることに。はっずッ。最後の三奈ちゃんまで終わったら思わず両手で顔を覆って俯いてしまっていた。衝動的な動作ではあるんだけど、口元が歪んでいるのを隠すのには丁度良い。
もうなんなんだろうなぁ。楽しくて仕方がない。こうやってみんなと仲良くなって、それから、台無しにしてしまうのを想像するのが。
壊してしまいたい、今すぐにでも!
いやいや、予定ではもっと先なんだから我慢しろよ本当に。表情筋緩すぎない? もしかしてたまってるんだろうか。これはよくない、どこかで発散させないと。それはともかく、うーん、なにかみんなに心配されるようなことないもんかなぁ。とりあえず顔は戻しておこう。
「常夜って結構恥ずかしがり屋?」
「慣れてないんですよ、中学の時は百としか名前で呼び合ってないですし、小学校のときはそもそも人とあまり話さなかったですから」
と言うことにしておこう。実際には小学校時代なんて存在しないわけだけど。
「へぇー、なんか意外」
「えぇ、まあ、その、いろいろとあったので」
百とお茶子ちゃんの表情がわずかに緊張する。この中だと私の事情を知っているのはこの2人だけだからね。私もちょっと眉尻を下げてみたりしている。
「ところで常夜ちゃん、右目が見えなくて個性の使用には問題ないのかしら」
その微妙な変化を察した梅雨ちゃんがすかさず話題を変える。しかもちょっと聞きづらいものに。彼女の気になることはなんでも聞いちゃう、と言う性分もあってのことではあるけど、場をよく見ていると言うか、バランス感覚に優れていると言うか。先生からも冷静な優等生って評されていたけど、こういうところでも発揮されるわけだ。
「遠近感が掴みにくくなったせいで狙いが甘くなっていますね。“
ここから1週間でどれだけ感覚を掴めるかが勝負だ、と締めくくる。体育祭に関して言えば、みんなライバルでもあるから反応は小さめ。
そんな話をしているうちに料理が運ばれてきた。みんなこのあと運動をするためかガッツリめのメニューを選んでいる。特に百は個性発動のために脂質をため込む必要があるため人より多めだ。それでもすぐ消費しちゃうんだけど。私はナポリタンスパゲティをチョイス。タバスコを多めにかけて頂く……かけすぎたか?
「そういえば、お見舞いに来て貰ったときは聞きそびれていたんですけど」
食事が半分ぐらい進んだところでUSJのときのことを切り出す。あとで分身を回収すればいいんだけど、自己申告で全部は覚えていないって言ってしまっているので誰かに聞いておかないと不自然になってしまうかもしれないからだ。個性でどうにでもなるけど、なるべく使わない方が自然だからね。
「あのときは意識が朦朧としていて、はっきりとしないんですけど、誰かが私を守るようにヴィランに立ちはだかっていたと思うんです。サイズ感から、オールマイトではないと思うんですけど」
「緑谷ちゃんね」
現場で目撃していた梅雨ちゃんが答えてくれる。
「緑谷くんが? 確かにあそこにいた覚えがありますけど……」
「急に飛び出していったからびっくりしたわ。そのあと、あのヴィランを殴り飛ばしたのにはもっとびっくりしたけど」
相変わらず無謀と言うか、頭のネジが飛んでいると言うか。相澤先生と私がズタボロにされたのを見た上で脳無に向かってるんだもん。彼我の戦力差は歴然としているのだからその場で震えて何もできずにいたとしてもおかしくはない、と言うかそれが正常な反応だろう。私も意識が戻ったときについ出久くんの方見たけどさ。それが彼の背中を押すことになっちゃったみたいだ。ピンチになっている人を見ると考える前に動いちゃう性分だしね。まあ、そのおかげでオールマイトの後継者になれたわけだけど。
「デクくん、実技試験のときもあの巨大ヴィランを殴り飛ばしとったね」
お茶子ちゃんの言葉に一同驚きを見せる。百は実物を見ていないのであっさりめだけど。ちなみにこの話、案外知られていない。出久くんはこういうことを話して回るタイプじゃないし、現場にいたお茶子ちゃんと飯田くんも言い触らすタイプでもない。
「でも常夜もあれ倒してたよね。危険から逃げるヒーローはいない、みたいなこと言って」
「ちょっと響香!」
それ恥ずかしいから広めないで。いやまじで。
「あら、そんなこと仰ってたんですか?」
「へー、かっこいい」
「けどそういう決め台詞があるといいかもしれないわね」
いや、別に決め台詞ってわけじゃないんですけどね? テンション上がってぽろっと出ちゃっただけで。
「オールマイトの“私が来た”みたいな? ピンチのときに聞くとさ、安心感すごいよ、あれ」
三奈ちゃんにうんうんと頷いて同意するお茶子ちゃんと梅雨ちゃん。ああ、3人はオールマイトの登場を見ていたわけか。オールマイトってあちこちに出現する割には生で見る機会少ないんだよね、意外と。いや、活動時間が少ないから意外でもないか。
にしても、USJか。施設自体はもう修復を終えて再稼働済み。他のみんなは改めてレスキュー訓練の授業を受けている。タイミング的に私は体育祭後までお預けのようだ。あそこでどんな訓練をするのかはちょっと楽しみではある。
でまあ、入院中に考えてたことなんだけど、黒霧が生徒を施設各所に散らしたのって、本人が言っていた通り多勢で嬲ることが目的だけど、内通者を教師から引き離すためでもあったんじゃないだろうか。教師はいずれもプロヒーロー、近くにいたら挙動から怪しまれる可能性はある。襲撃の時間・場所は自分が奪ったスケジュールを元にしている、的なことも言ってたし、ある意味内通者を守ろうとしていたとも取れる。この辺はパパの指示じゃなくて黒霧独自の判断なんじゃないかな、と思う。黒霧も今回の襲撃はうまくいかない可能性を示唆されていただろうし、次のことを考えて、と言うわけだ。パパがそう言う配慮するわけないし。
林間合宿の場所変更だって、弔と出久くんが接触したことが原因だ。襲撃を計画していたのにそれを乱すようなことするとか、行き当たりばったりだな、弔。
で、場所変更後の林間合宿を襲撃できたことからして、ヒーロー科にパパに通じている人間が私以外にもいることは間違いない。弔の方には繋がってないと思う。そういう人脈は持ってないだろうし。うーん、もうちょっと先の展開まで原作を読めていれば誰が内通者なのかわかったかもしれないんだけど。結局明かされたんだろうか? 気になる伏線だから未回収で完結ってことはない、はず。
それにパパのことだから、雄英に内通者がいるなら利用するはずだし。雄英側は内通者なし、って判断してたけどパパが投獄されたことで連絡がとれなかっただけじゃないかな。だとしたらパパが脱獄したときの絶望感は凄まじかったことだろう。うん、これは是非とも内通者を特定しないといけないね。
前に透ちゃんに聞いたときは聞き方が悪かった。そもそもパパが名乗られなければ知りようがないし。
「みんな、ちょっといいですか?」
『真実吐き』+『認識阻害』。んー、いい加減これもまとめちゃいたいんだけど良い感じの名前が思いつかないんだよね。
「襲撃があった授業について、事前に誰かに話しましたか」
「うーん、ウチの親にレスキュー訓練の授業があるって話したぐらいかな」
「私も中学のときの友達と話したけど、具体的な内容がわからないからそれ以上話せないよね」
私が奇妙な質問をしていることに誰も気づかずに答えが返ってくる。予想はしてたけど全員、家族か友達に話したけど詳しくは話していない、と言うものだった。
「襲撃してきたヴィランに見覚えは」
これは全員ノー。まあ、弔と黒霧は表には出てきてないから会ったことあるわけないか。
「誰かに脅迫されていることは?」
内通者がいるとしたら、それはパパのシンパかパパに弱みを握られているかのどちらかだろう。言うことを聞かなければ家族がどうなっても知らないぞ、みたいな感じで。A組は轟くんを除けば家族関係は良好っぽいから、十分有効な脅迫になる。
しかしこれもノー。
「個性を与えてくれる、という存在について聞いたことは」
百が以前に参加したパーティーでそう言う噂を聞いたことがあるけど、眉唾ものだと思ったそうだ。まあ、パパの存在自体都市伝説扱いされちゃってるからね。でも人が集まる場所でそう言う噂が流れている、いや流しているのは間違いない。例えば望まない個性を取って貰って、希望通りの個性を貰うなんてことだってできるわけだし。個性届けも出久くんの無個性から個性ありに変更が通ったりとガバガバだし、ドクターを通しての個性届け変更だってできるだろう。
「でも個性を変えたりするなんてできるんかな。だって、個性ってその人と強く結びついているものでしょ? それって心臓を移し替えるようなものじゃないかな」
お茶子ちゃん、なかなか良い例えだ。それだけあり得ないことだ、と言うことでもあるんだけど、それを可能にするのが個性と言うものだ。まさかワンタッチでそれができるとは思うまい。
「そもそもその個性ってどこから持ってくるんだろう。お茶子ちゃんの言う通り内臓みたいなものでしょ? 内臓みたいって言っても、なんかこう、形のある感じじゃないし」
「そういう個性とか?」
「いやいや、いくら個性でも」
「ですが、相澤先生の『抹消』のように個性に干渉する個性がある以上、あり得るのではありませんか?」
みんなが盛り上がっているところをじっくり観察する。ついでに体温上昇や呼吸数も計っておくことでより精密に。んー、動揺している様子はないようだ。とりあえずこの6人は外れかなぁ。どうせなら女の子が良かったんだけど、別アプローチで楽しめばいいか。
食事を終え、時間もちょうどよくなったところで退店する。
雄英に着くとみんなは体操服に着替える必要があるため、一旦別れて私だけで運動場に向かう。運動場と言っても雄英には何個もあるんだけど、今回は屋内運動場のようだ。そこって例の危ない名前シリーズのところだったような。
運動場前に既に人がいて、遠目に見た感じかなり身長差があるように見える。あー、出久くんと砂藤くん、障子くんっぽいな。
「だからやっぱり、個性を使っている状態に慣れるってことが肝心だな。使っているときのパワーがどれぐらいか把握しておくのは俺らみたいな増強系にとっては基本だからな」
砂藤くんの言葉をしきりに頷きながらメモする出久くん。表向き増強系個性となっているけど、アドバイスをもらう相手としては適当だろう。オールマイトはあまりにも感覚的だし、いろいろと距離感も遠いし。
声をかけようと思ったら、先に障子くんに気づかれる。個性抜きにしても五感が鋭いんだろうか。
お決まりではあるが、3人からの退院おめでとう、に丁寧に返事をする。それから今日は特訓に参加しないことを告げる。それからちょうどよく出久くんがいて、周りに人がいないということで。
「緑谷くん、梅雨ちゃんから聞きました。襲撃事件のとき、あのヴィランから守ってくれたって」
「いや、でも、結局ほとんど効いてなかったし、オールマイトが来てくれなかったらどうしようもなかったし」
「いいえ。出久くんの行動がなかったら、オールマイトが来るより前に、私はこ……今こうして、ここにはいなかったと思います。だから、緑谷くん。助けてくれてありがとうございました」
頭は下げず、握手を求めるように右手を差し出す。助け、助けられたと言う関係ではなく、仲間としてこれからもよろしく、と言う意味を込めてのことだ。でもまだ出久くんは躊躇っているようだ。
「緑谷、礼は素直に受け取るものだ」
「そうそう。礼なんてヒーローになったら何度もされるもんだしな」
そこに障子くんと砂藤くんが助け船を出してくれる。それを受けて、ようやく出久くんが私の手を握り返してくれた。
「えっと、どういたしまして」
「はい」
ここでわざわざお礼を言ったのは、出久くんが洸汰くんからお礼の手紙をもらうイベントを私がスキップしてしまったからで、ようはその代わりだ。彼にとってあの手紙はヒーローを目指す支えのひとつになるけど、それが私からの礼にすり替わったら、今後どうなるかな?
出久くんから私への好感度が上がりすぎやしないかちょっと心配だけど。いや、それはそれで面白そうだからいいか。いっそのこともっと意識してもらうのはどうだろうか?
せっかく女になったんだから、そういう方向性で遊んでみるのもいいかもしれない。私が男を好きになることはないけど、特別な存在になってみたらどうなるだろう。
ああ、そうか。君にもオールマイトと同じ思いを味あわせてあげられるんだ。是非、堪能してもらいたいものだ。
本当に、楽しみだよ。
常夜の秘密
実はNTR、不倫、浮気展開が嫌い。
登場人物全員にいらいらする、とのこと。