ラスボスの子に転生したのでNO.1ヒーローを曇らせたいと思う   作:タメガイ連盟員

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MAXIM様、路徳様、河幹フ様、x+i様、北上洋様、ユーグレナ様、佐藤東沙様、ヴァイト様、けさ様

誤字報告ありがとうございます。


10.体育祭1

 雄英体育祭本番当日。

 

 当然と言えば当然だけど、学校の敷地内外問わず人がごった返している。会場の席はチケット制でも入場検査が例年よりも入念に行われているため時間がかかってしまっているようだ。チケット販売の時点で身分証照会までやっててこれだ。開会に間に合うのかね?

 

 例年注目されるのは3年生のステージなのだが、先月の襲撃事件の影響で珍しく1年生ステージに人気が集中している。そして事件があったにも関わらず開催を強行したことへの批判的な意見も上がるなど物議を醸しているけど、同時にこれは例年以上に注目されていると言うことでもある。特にA組はオールマイトが副担についていること、襲撃したヴィランを撃退したことで特にそうだ。

 

 オリンピックに代わるビッグイベントとされているが、オリンピックとの大きな違いは経済効果だろう。私の前世で知っているオリンピックだと、兆単位の経済効果があったけど、こちらはずいぶんと控えめだ。そりゃグッズ販売があるわけでもないし、チケット代も高価でもなく、日程も1日だけだから人の移動も限定される。まあ、この辺は学校の1イベントでしかない、と言うことなのだろう。

 

 実際に興業的な効果を望むのならプロヒーローによる競技会や格闘大会でもやればいいのだが、これはさすがに法的にもヒーロー的にもよろしくないのでNG。ただ地下闘技場が盛況であることを考えると、やっぱりそういうのを見たいと言う需要は根強いようだ。まあ、これから行われる決勝トーナメントもそう言う要素がだいぶあるわけだけど。

 

 出場する生徒は普段より早めに登校、ホームルームでの諸注意の後体操服に着替え控え室で待機となっている。コスチュームは公平を期すため、着用不可となっている。まあ、ヒーロー科しか持ってないから当然の措置だと言える。

 

「んでさ、調子どうよ」

 

 各々用意された椅子やテーブルについて雑談をしたりして時間を潰している。響香ちゃんに聞かれた調子とは、右目が使えなくなったことで個性使用に少々難ができてしまったことについてだ。

 

「以前のように、とまではいきませんけど、実戦に使える程度には取り戻せたと思います。それから」

 

 軽く左脚を叩いてみせる。

 

「足の方は多少違和感はありますが、問題はありません」

 

「ふぅん、本番までに仕上げてくるのはさすがだね」

 

 そう言いながらもこちらを警戒している様子だ。これは響香ちゃんに限ったことではない。私は入院していたこともあって演習に参加した回数が少なく、それゆえ手の内が明かされていない、と見られている模様。実際、個性把握テストのときに見せた以上のことはしてないからね。私のことをよく知っている百は例外として、それ以外にも実技試験1位であるとか警戒される原因はあるけど、要するに私が優勝候補であると言う点に集約できる。クラスのみんなとは基本的に仲良しだけど、体育祭が始まればライバルだ。うん、なかなか心地よい感覚だ。

 

 さて、もう1人の優勝候補である轟くんは出久くんに自分の方が上だ、などとマウントを取っている。実際轟くんとまともに戦えるのってプロヒーローでも上位の人たちぐらいじゃないだろうか。父であるエンデヴァーが最高傑作と呼ぶほどの強個性に、幼少からの虐待同然のスパルタ教育を受けてきたのだ、ある意味でスタートラインから他の人とは異なっている。

 

 じゃあなぜ出久くんにわざわざそんなことを言うのか。それは彼がオールマイトに目をかけられているから、だそうだ。そういや轟くんは出久くんがオールマイトの隠し子じゃないかと疑ってるんだったね。似たような個性があれば血縁関係があるんじゃないかと思われても仕方ない。突然変異型はかなりレアだしね。

 

 そしてお前には勝つ、と宣戦布告だ。

 

「ねぇ、あの2人なにかあったの?」

 

 事情は察しているけど、知らぬ顔で隣に座っている百に小声で訪ねる。

 

「いえ、お2人の間になにかあった様子はなかったと思います」

 

「あー、もしかしてあれじゃない? 麗日が言ってたんだけど、緑谷、オールマイトとランチ一緒してたって」

 

 おい、おっさん、なにやってんだ。もうちょい関わりを隠す努力をしろよ。

 

「それで目をかけられている、と?」

 

「でもそこから宣戦布告、はちょっと穏やかじゃないと言うか、繋がりが見えないですね」

 

 対する出久くんも言われっぱなしじゃない。実力では轟くんに敵わないと認めた上で、それでも自分も遅れを取るわけにはいかない。本気で勝ちを取りに行くと宣言する。入場まであと僅か、良いタイミングだ。

 

「さあみなさん、入場時刻です。参りましょう」

 

 百の音頭でみんなが控え室から出て会場へと向かう。すでに会場は歓声が満ち溢れ、出場する生徒の入場を今か今かと待ち構えている。そんな中から、プレゼントマイクの声が混じって聞こえてくる。

 

『――年に1度の大バトル! どうせてめーらアレだろ、こいつらだろ!? ヴィランの襲撃を受けたにもかかわらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!! ヒーロー科! 1年! A組だろぉぉ!?』

 

 煽るなぁ、あの人。実況やるんだから公正さと言うものを持って貰いたい。そんなマイクの声と共に入場だ。

 

 スタジアムの観客席はまさに千客万来・満員御礼と言った感じで、とにかく人・人・人だ。ヒーローらしき人の姿も少なからず見られ、スカウト目的でもあることがよくわかる。いや、飽和時代だからってこんなに観戦してていいんだろうか? 壁には企業の広告が展開されていて、開会資金はこういうところからも集めていると言うことだろう。

 

「わあああ……人がすんごい……」

 

 一部を除き大観衆に慣れていないためかそわそわした様子だ。出久くんなどはさっきの覇気はどこへやら、人の大群に圧倒されガチガチになっている。飯田くんは動揺することなく、観衆に見られるなかで最大のパフォーマンスを発揮できるか、これもまたヒーローの素養を身につける一環だと分析する。君、なんでもそれに繋げてない? 別に間違ってはいないと思うけど。

 

 生徒がスタジアム内に揃うとお立ち台……じゃなくて朝礼台にミッドナイトが鞭をしならせながら立つ。彼女が1年生ステージの主審を務めるようだ。ちなみに校長は例年3年生ステージの主審をしている模様。

 

「選手宣誓! 選手代表! 1-A、志村常夜!」

 

 百から、いってらっしゃいませ、と言う言葉を背に朝礼台に向かう。まあ、実のところ相澤先生から事前に私が宣誓をするからそのつもりでいろ、と言われていたのだけど。私が入試の実技試験1位と言う選出理由はあるんだけど、これ以外にも先月の襲撃事件での重傷者、つまり私の情報が流出してしまっている。その私が無事な姿を見せることでヴィランに屈しない、と言う雄英の姿勢を強調しようと言うわけだ。まあ、情報を流したのは私なんだけど。

 

 ミッドナイトと入れ替わって朝礼台に立ち、右手を掲げながら大きく息を吸う。

 

「宣誓! 私たちはヒーロー精神に則り、正々堂々と力の限り戦うことを誓います!」

 

 観客席から盛大に、生徒たちからはA組を除けばまばらな拍手を受けながら朝礼台から下りる。

 

「さーてそれじゃあ、早速第1種目行きましょう!」

 

 巨大ディスプレイに“障害物競走”と表示される。

 

 第1種目はいわば予選で11クラスでの総当たりレース、上位入着の42名が第2種目へ進出することになる。なお、この時点では何位までなら進出になるかは明かされていない。コースはスタジアムの外周約4km。コースアウトさえしなければ何でもありという末法ルールだ。経営科はレースに参加する意欲がないので実質8クラスだけど、それでもここで全体の5分の1まで人数が減らされることになる。レースの模様は各所に設置されたカメラロボによって撮影、スタジアムのディスプレイに表示される。

 

 飯田くん風に考えれば、4kmの距離を走りきる基礎身体能力、障害物に対応するための分析力・判断力と言ったヒーローとしての素養を計る、と言ったところか。

 

 それにしても、露骨なものだ。スタート時には予選突破できる人数は明かされていないけど、42人と言うのはヒーロー科41人に申し訳程度に他科の生徒が潜り込むことができる数でしかない。私がヒーロー科の人数を増やしたから今年はその枠がさらに少なくなっているけど、まあそこはどうでもいい。どうせ上がってくるのは心操くんだろうし。

 

 これは雄英体育祭がヒーロー科のためのものだと言っているも同然で、学校側もヒーロー達も一般市民もそれに疑問を持っている様子がない。さすがに普通科の生徒は不満ぐらいは持っているけど、成績優秀者はヒーロー科への転科が可能性がある、と言う餌に釣られてしまう。そして実際に転科できた前例があるため空手形でもないのがまた厄介だ。哀れ普通科は蜘蛛の糸に縋るが如く、だ。と言うかヒーロー目指すなら他校のヒーロー科併願した方が可能性あるんだよね。普通科に入ってまで雄英に拘るのは、さすがにどうなんだ?

 

 こうした環境が普通科生徒の精神衛生によろしくないのはわかりきっているだろうに。根津校長って個性道徳教育とやらの権威だよね? こういうの放置してるのってどうなの? 個性『ハイスペック』って飾りなの?

 

 いや、1世代前ぐらいの頃ならそれでも良かったのだろう。1人でも多くのヒーローが求められていた時代なら。だが今はヒーロー飽和時代となったことで、ヒーローのあり方も変わってきている。学校側も変わるべきなのかもしれない。

 

 ……ん? いやいや、私はそういう状況を変えようとしているんだから別にいいのか。いや、ううん?

 

「さあさあ、位置につきまくりなさい」

 

 おっと、悪い癖で考え込んでたらスタートがすぐそこまで迫ってしまっている。切り替え切り替えっと。

 

「スタート!!」

 

 全生徒が一斉に走り出すが、スタートゲートは全員が通り抜けるには狭すぎていきなり押し合いへし合いの渋滞が起きている。そして先頭グループもいち早く飛び出した轟くんの氷結によって足下が凍り身動きが取れなくなっている。当然後続も地面が凍っていてはうまく走ることが困難になる。流石、と言いたくなるぐらい鮮やかな妨害だ。

 

『さーて実況して行くぜ! お送りするのはプレゼントマイク、解説はイレイザーヘッドだ! アーユーレディ?』

 

『無理矢理呼んだんだろうが』

 

 もっとも彼の開幕氷結は、A組の面々にとっては予想通り。各々のやり方で回避、続いていく。私は“空を歩く者(エア・ウォーカー)”による空中機動ができるので問題なし。氷結地帯を抜けたことで着地する。そしてその先にあるのは。

 

『さぁ、いきなり障害物だ! まずは手始め、第1関門ロボ・インフェルノ!!』

 

 入試のときの0ポイントヴィランをはじめとする仮想ヴィランがわんさか配置されている。0ポイントの奴は、数からすると試験のときと同数っぽいかな? あの巨体が勢揃いしているのはなかなか壮観だ。まあ、試験のときと同様お邪魔虫なわけだが。

 

 さっそく轟くんがそのうちの2体を氷結させ、その間を走り抜けていく。それに続こうとした切島くんと……えーとB組の誰かが不安定な体勢で凍りついたために倒れた0ポイントヴィランの下敷きになる。いいね、私も真似しちゃおう。

 

 手近な0ポイントヴィランの関節に照準、“巨人の拳(ギガント・フィスト)”で手足を吹き飛ばす。こうすれば、ばらまかれたパーツが障害物になるわけだ。撃破した0ポイントヴィランの頭上を“空を歩く者(エア・ウォーカー)”で通過し、先行する轟くんに続く。

 

『1-A、轟に、志村! 攻略と妨害を同時に! 早くも一抜けだ!』

 

 轟くんの左斜め後ろに1mほど距離を空けてつける。轟くんは左の炎の使用を禁じているから、この位置なら妨害を受けにくいはずだ。轟くんもこちらをちらりと見てくるけど、妨害をしてくる様子はない。ここから先の障害物で引き離すつもりか、あるいはさきほどの私の対応を見て下手な妨害はしない方がいいと考えているのか。

 

『A組の連中が先行してんなやっぱ!』

 

『立ち止まる時間が短い。迷いがない証拠だ』

 

 関門以外は何の変哲もない道路が続く。関門を突破することを考えればペース配分も重要になってくるけど、4kmなんてそう何度も走る距離ではないし、他の生徒からの妨害だってある。加えて、予選を通過できる人数が公表されていないから、今自分が何位で何位までならセーフなのか、と言う焦燥感に追い立てられることになる。こう考えるとなかなか過酷に思える。

 

『オイオイ、第1関門チョロイってよ! んじゃ第2関門はどうさ!? 落ちればアウト! それが嫌なら這いずりな! ザ・フォール!!』

 

 アクションゲームの地形よろしく、点在する足場にロープが張られている。大げさな綱渡りと言ったところか。底の方は……んー、安全対策としてクッションが置かれているのが見える。さっきのロボインフェルノもそうだけど、安全への配慮はキチンと行われているわけだ。

 

 走る速度を緩めることなく、轟くんとは別ルートで第2関門を駆け抜ける。これぐらいの太さのロープなら、問題なく着地できるし、しなりもあるから反動を加速に利用していく。あまり高く跳ぶと失速してしまうので低空で。ちなみに、着地も踏切も常に右脚で行っている。左脚は完調じゃないアピールだ。気づく人は少ないと思うけど。ついでに足場のいくつかを衝撃波で崩れやすくしておく。足場を壊しちゃいけないなんてルールはないしね。

 

『さあ先頭は難なくイチ抜けしてんぞ!』

 

 第2関門を抜けたところで、爆豪くんが追い上げてくるのが見えた。そういやスロースターターだったね、彼。まだ距離が離れているけど、追いつかれるのは時間の問題だろう。しかしまあ、個性を使いながらだとその分体力の消耗は激しくなるだろうに。いや、爆豪くんのはあくまで汗腺から爆発する液体が分泌されるだけだから体力の消費はそれほどでもないのか。口と態度以外は優秀だなホント。

 

 まあ、その爆豪くんが終盤まで追いつけなかった轟くんも大概だけど。

 

『そして早くも最終関門! かくしてその実態は一面地雷原! 怒りのアフガンだ!!』

 

 怒りのアフガンて。前世の私が生まれた頃ぐらいの映画のタイトルじゃなかったっけ? テレビ放送で見たことはあったと思うけど、今でも配信してるのかね。

 

 で、地雷の位置はよく見ればわかるから避けながら走るのはそれほど難しくなさそうだ。これも安全面から威力は大したものではないが、その分音と光が派手になっている。地雷原と言う性質上、先頭は地雷を踏みやすく、後続は既に起爆しているために進みやすくなるわけだ。これによって順位の変動も起こりやすくなるので、エンタメに寄せてる感じだ。

 

 さて、そろそろ爆豪くんが来る頃合いなので轟くんから少し離れる。体力がなくなって下がってしまったかのように装うため、呼吸も少し荒くして。爆豪くんはトップになることに拘っているから、トップの轟くんの方に意識が向かうはずだ。

 

「はっはぁ! 俺は関係ねー!!」

 

 そして、遂に爆豪くんが爆風と共に私達を追い抜いてきた。普段から爆発している彼にとって地雷なんてブーストアイテムでしかないだろう。

 

「宣戦布告する相手を間違えてるんじゃねえよ、半分野郎」

 

 追い抜いたからと言ってそれで終わりではない。当然爆豪くんは妨害行動を取るし、轟くんはそれに対応しつつ追い抜き返そうとする。

 

『ここで先頭が変わったー! 喜べマスメディア! お前ら好みの展開だぁ!! 後続もスパートをかけてきているが、先頭2人がリードかぁ!?』

 

 私のことなんて目もくれずって感じだけど、それ狙いなんだよね。

 

「“掴む(グラップ)”」

 

 『念動力』で2人の動きを止める。完全に動きを封じるのは1人が限界だけど、足を止めるだけなら複数人でも可能だ。

 

「んぐっ!?」

 

「何!?」

 

『おおっと、轟と爆豪の動きが止まったぞ!』

 

 2人の間をすり抜けてから、体ごと後ろを向いて後ろ歩きの姿勢になる。そして、挑発するように右手を鉄砲の形にして向ける。

 

「ではおふたりとも、ごきげんよう。BANG!」

 

 拳銃を撃つ仕草をしながら、“掴む(グラップ)”を解除、と同時に“巨人の拳(ギガント・フィスト)”で2人を吹き飛ばす。当然あちらもそれぞれの個性でブレーキをかけようとするけど、予測済み。さらに衝撃波をおかわりだ。体勢を前向きに直す。

 

『轟くん、爆豪くん吹っ飛ばされたー!! 怒りのアフガンの入り口まで戻されちまったぞ! こいつぁシヴィ!』

 

「クソがッ!」

 

「……ッ!」

 

 ついさっきまで先頭だったのに一気に順位を落としてしまった2人の表情は格別だ。

 

 あの2人ならある程度まで挽回できるだろうけど、1位の私にもう追いつくことはできない。それに。

 

 後方から閃光と爆音。そして爆風を利用してロボのパーツに乗った出久くんが私の横に現れる。

 

『A組緑谷猛追ー! ていうか抜いたー!!』

 

「やりますね、緑谷くん!」

 

「おいついたよ、志村さん……!」

 

「大変素晴らしい機転です。でも、これまでです」

 

 “不可視の手(インビジブル・ハンド)”で出久くんが持っているロボのパーツを彼の手から弾き飛ばす。当然出久くんはバランスを崩すけど、なんとか空中で体勢を整え着地。もう地雷地帯は終わりだから問題はないでしょ。けど勢いは削がれてるから後続に追いつかれずにゴールできるかな? その驚愕と焦燥の入り交じった表情を写真なりに収められないのが残念だ。

 

「では、おまけをどうぞ」

 

 通過時に照準をつけておいた地雷に衝撃波をあてて起爆させる。後続が爆風に巻かれ足止めをくらってしまう。ダメージがないとわかっていても、爆音・閃光・爆風の前では怯んでしまうものだ。

 

『志村がさらに抜き返して独走態勢だ! 後続妨害のおまけ付きと来たもんだ! イレイザーヘッドお前のクラスすげえな! どういう教育してんだ!?』

 

『俺は何もしてねえよ。奴らが勝手に火ィ付け合ってんだろう』

 

 そんな相澤先生の解説、解説か? を聞き流しながらゴールへ駆け抜ける。

 

『序盤から先頭を走り続け! 並み居るライバルを制し! トップでスタジアムに還ってきたのは1ーA、志村常夜だぁ!!』

 

 笑顔で右腕を高く掲げ、観客からの大歓声に応える。ひとしきり愛想を振りまいてから腕を下ろし、大きく息を吐く。実際には余裕なんだけど、意外と消耗してますアピールである。ほら、一応つい最近まで重傷者だったわけだしね?

 

 続々とゴールインしていくなか、百がヘロヘロな感じでやってきた。

 

「こんなハズじゃあ……!」

 

「百、お疲れ……って前! 閉めて、前!」

 

 体操服の前が全開になっている……! 慌てて駆け寄って服を閉じる、がなんか服が重い? 後ろを見ると、そこには百に張り付く淫獣(峰田)の姿が。

 

「一石二鳥よ。オイラ天才!」

 

 なんか自画自賛しているが最低である。まったくもって最低である。と言うか、百が順位落としたのこいつが原因だろ。いくら淫獣(峰田)が小柄でも余計な重量を背負ってしまっては実力を発揮できなくなってしまう。

 

「サイッテーですわ!」

 

 百も途中引き剥がそうとしていたのか、淫獣(峰田)の顔には殴打痕が見られるがそれでも離れなかったようだ。

 

「おい、いますぐ死ぬか離れるか、好きな方を選べ」

 

「ヒイィ!?」

 

 『威圧』を使いつつ脅しをかける。まあ、本当に殺したりはしないよ。離れなかったら手足ちぎるだけだし。

 

 半泣きになりながら峰田が百から離れ、近くにいた砂藤くんの後ろに隠れる。

 

「どうせへばりつくならそうやって砂藤くんにつけばよかったのに」

 

「いやいや、俺だって人をくっつけたまま走るのは嫌だぞ」

 

「そうだそうだ、なにが悲しくて男に抱きつかなきゃならないんだよ!」

 

「おい、わざと女子を狙ってたのかよお前」

 

 百にくっついていたことは許しがたいけど、実際問題誰かに寄生しないと彼は確実に着外になっていたわけだから、自分の個性を活用した頭脳プレイだと言えなくもない。

 

 峰田実。意外と頭も回るし、個性も非殺傷を前提とするヒーロー活動にも向いているんだけど、思考の大半がエロに向いてるのがなぁ。女視点としては最低としか言い様がないし、男としてみても距離を置きたいタイプだ。女子生徒に対する数々のセクハラや更衣室、浴場での覗き行為と言った性犯罪……相澤消太はなぜこいつを除籍しなかったのか?

 

「つーか自分で走れよ。何のための障害物競走だ?」

 

「騎馬戦みたいに人に乗ってた奴いたぞ!? ミッドナイト先生も駄目って言ってないし、何でもありなんだからこれもありだろ」

 

「それはまあ、そう、か?」

 

「確かに。これは峰田さんの接近に気づけなかった私の落ち度ですわね……」

 

「そこまで深刻に受け取らなくても良いと思うんだけど……ともかく、この順位なら百も砂藤くんも第2競技へ進めるだろうから、気持ち、切り替えていこう」

 

 話をしているうちに最後の生徒がゴール。これで第1種目終了だ。

 

「ようやく終了ね。それじゃあ結果をご覧なさい!」

 

 スタジアムのディスプレイに1位から順に生徒の顔と名前が表示される。

 

1位 :志村常夜

 

2位 :塩崎茨

 

3位 :緑谷出久

 

4位 :骨抜柔造

 

5位 :轟焦凍

 

6位 :爆豪勝己

 

7位 :飯田天哉

 

8位 :常闇踏陰

 

9位 :瀬呂範太

 

10位:切島鋭次郎

 

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 ・

 

 ・

 

41位:吹出漫我

 

42位:青山優雅

 

 ありゃ、出久くん抜かれちゃってたか。いや、ここはむしろ塩崎さんを賞賛すべきかな。そして、轟くんと爆豪くん、結構後退させたと思ったけど、追い上げたな。それにしても、爆豪くんのぐぬぬ顔めっちゃウケる。

 

 それと、どうやら唯一のサポート科突破者だった発目さんは脱落してしまったようだ。どうやら私が壊した足場に乗ってしまったのが原因らしい。ごめんね? 彼女以外にも落下した人はいるようだけど、さすがにヒーロー科は全員うまく回避している。

 

「予選通過は上位42名! 残念ながら落ちちゃった人もまだ見せ場は用意してあるから安心しなさい!」

 

 見せ場があると言っても、レクリエーションじゃねえ。プロの目にとまるようなものではないよね。

 

「そして次からいよいよ本選よ! ここからは取材陣も白熱してくるよ! キバリなさい! さーて、第2種目はコレよ!」

 

 順位が表示されていたディスプレイに“騎馬戦”の文字が浮かび上がる。

 

 個人種目の第1種目とは打って変わって集団競技だ。互いに妨害しあっていたのが今度は協力しあう必要があるわけだ。まあ、自分のチーム以外と妨害合戦なのは変わらないんだけど。

 

 普通の騎馬戦と違うのは、第1種目の順位ごとにポイントが割り振られることだ。

 

 そして、1位に割り振られるポイントはなんと1000万。なんだそのどっかのクイズ番組みたいな割り振りは。

 

「上位の奴ほど狙われちゃう、下剋上サバイバルよ!」

 

 みんなの視線が一斉に私に向けられる。どれもギラギラしていて、ひどく気分が良い。

 

「ははっ」

 

 思わず笑みがこぼれてしまう。周りには不敵に笑ったように見えていることだろう。

 

 さあて、どうしようかな。




常夜の秘密
自宅にいるときはダサT一枚で過ごしている
最近のお気に入りは「天元突破」
なお、お隣の不和先輩に見られたことがある。

「ねえ」

「はい」

「年頃の女の子としてその格好は終わっとるよ」

「いや、でも、楽だし」

「そういうとこやぞ」

チアガール着る?

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