ラスボスの子に転生したのでNO.1ヒーローを曇らせたいと思う   作:タメガイ連盟員

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x+i様、ユーグレナ様、ヴァイト様、マグネット様、河幹フ様

誤字報告ありがとうございます。

あけましておめでとうございます(遅い)
今年もよろしくお願いします

体育祭の続きじゃなくて1年ぶりのイヨちゃんのターン。


11.体育祭の裏で

「ヒミコちゃん、朝ご飯用意できたよー」

 

「はーい」

 

 髪をセットしながらヒミコちゃんが答える。わたしはショートヘアだからあまり時間がかからないけど、ヒミコちゃんはシニヨンにしているからどうしても時間がかかってしまう。時間に追われているわけじゃないけど、見ていて大変そうだな、とは思う。

 

 ダイニングのローテーブルに朝食を並べる。

 

 トースト、インスタントのスープ、コンビニのサラダ、そしてドリンクというメニューだ。

 

 今滞在している場所は首都圏のアパートで、間取りは1DK。以前に誰か使っていたのか家具や家電がそのまま置いてあった。元々長い間使うわけじゃないから、ありがたいと言えばありがたいのだけど。

 

 この部屋は私の、何と言うか、スポンサーとでも言うべき人から提供された場所だ。

 

 わたしとヒミコちゃんは根無し草。衣食住を確保するのは本当に大変。おまけに指名手配までされているからさらに大変。

 

 どうにかするにはとにかくお金が必要になる。

 

 お金、お金、お金!

 

 ホントに嫌になる。

 

 家を出るときに現金はできるだけ持ち出したけど、この1年ぐらいで底をつきかけている。人から奪うにも現金をたくさん持ち歩いている人はそんなに多くないし、電子マネーも足がつくかもしれないからあまり使えない。

 

 まともな身分じゃないからまともな仕事で稼ぐこともできないから、スポンサーからの援助がなかったらどうなっていただろう。

 

 ……考えただけでも吐き気がする。あんなことを平然とできる人はどういう神経をしているんだろう?

 

「いただきまーす」

 

 2人仲良く手を合わせて唱和する。

 

「今日は保須市に行くんでしたっけ?」

 

「うん。保須市の北保須駅周辺」

 

 スポンサーは別に善意からわたしを援助してくれているわけじゃないので、何の見返りも求めない、なんてことはない。

 

 ときどきわたしに“お願い”をしてくる。スポンサーは別に強制じゃない、と言っているけど断ったら何をされるかわかったものじゃない。だったら最初から何をするかわかっていることをした方がマシだ。

 

 けど今回に限ってはヒミコちゃんと行くように、と言う指示がついている。

 

 スポンサーとの関係はわたしだけのものだから、あんまりヒミコちゃんを巻き込みたくない。ヒミコちゃんは嫌とは言わないと思うけど、わたしが嫌。

 

 嫌だけど行くしかないから何事もないことを願いたい。

 

「駅周辺をお散歩するだなんて、変なお仕事です」

 

「お仕事、なのかなぁ」

 

 ドリンクのオレンジジュースを飲みながら首を傾げる。

 

「お金をもらっているんですから、お仕事ですよ」

 

「そう、かな」

 

 実際に働いた経験がないからよくわからない。ヒミコちゃんはどうなんだろう。

 

「嫌なら断ってもいいんですよね?」

 

「断ったら断ったで今度は無理難題押しつけてきそう」

 

「嫌な人ですね、スポンサーさん」

 

 この点は間違いない。

 

 あんなタイミングで契約を迫ってくるのだから、間違いなく性格が悪い。

 

 こっちが断らない、断れない、それの正誤すら考えられない状況なんだから詐欺の類いだ。

 

 でもあの契約に乗らなければこうしてヒミコちゃんと朝食を食べるなんてことはなかった。

 

 だから今から見て、事の正誤を考えるとなんとも言えないところだ。

 

 契約。

 

 ふとしたことで思い出してしまう。何度も何度もこれが頭の中で繰り返される。

 

 ヒミコちゃんとの生活に不満があるわけじゃない。でもいつか必ず終わる。わたしの都合なんてなにひとつ考えないで。

 

 思えば、ヒミコちゃん以外、わたしの都合を考えてくれた人なんていなかった。

 

 わたしの人生、わたしの思う通りにちっとも行っていない。

 

 わたしは。

 

 普通に、生きたいだけなのに。

 

「イヨちゃん」

 

「え、ああ、うん、ごめん」

 

 ヒミコちゃんに呼ばれて引き戻される。またやってしまった。よくないと思っていても、頭から離れない。

 

「ごちそうさまでした」

 

 朝食を食べ終わり、食器を片付ける。

 

 出かけるのは昼過ぎでいいから、それまで掃除や荷物をまとめたり、武器を整備したりして時間を潰す。映画かなにかを見てもいいけど、いまいち気が乗らない。

 

「イヨちゃん、イヨちゃん」

 

 やることが思いつかずぼんやり窓の外を眺めていると、ヒミコちゃんがスマホの画面を見せてきた。

 

 わたしとヒミコちゃんが持っているスマホは元々持っているものじゃなくて、裏のブローカー経由で手に入れたもの。例によってお値段は普通のものよりだいぶするけど、スマホ抜きで生活するのは厳しいのでしかたない。

 

 ヒミコちゃんのスマホにうつっているのはいわゆる裏サイト。会員制だったりパスワード制だったり、いろいろあるらしい。

 

 ヴィラン・ビルボードチャート。

 

 もちろんヒーロー・ビルボードチャートのように表だって語られるようなものじゃない。裏サイトでサイト管理人が独断と偏見でランク付けをしているだけのもの。

 

 端的に言って悪趣味だ。わたしならまず見ない。

 

 けれど、人間と言うのはこういう悪趣味なものに惹かれてしまう。悪徳と禁忌に触れたくなってしまうのが人の性だ。

 

 ヒミコちゃんもそういう趣味があるとは思わないけど、ヒミコちゃんは現在ご執心なヴィランがいる。

 

 ヒーロー殺し・ステイン。

 

 30人以上のヒーローを殺傷している殺人鬼だ。

 

 無茶苦茶やばいと思う。だってヒーローばかりを狙って殺すなんてどう考えてもイカレている。

 

 そしてわたしたちはそのヒーロー殺しに1度出会っている。

 

 あの夜、新月の下、血まみれの死体の上に起立した影は、人の形をした何かのようにしか見えなくて、例えようもなく不気味だった。

 

 犯行現場の目撃者であるわたしたちに一瞥もくれず、ステインはそのまま去って行った。できれば2度と出会いたくないと思った。

 

 思ったのだけど、ヒミコちゃんはそうでもなかったらしく、こうしてときどきステインについての情報を閲覧している。

 

 ヒミコちゃんの好みもよくわからないけど、それについては特に触れない。いくら友達でも触れてはいけない部分がある。親しき仲にも礼儀あり、だ。

 

「ステ様、どうしたらまた会えますかね?」

 

 相手もヴィランなんだから、そう簡単には見つからないと思う。

 

 そのヒーロー殺しは上位の人気があるらしく、少なからず目撃情報も寄せられているようだ。

 

 ヒーロー殺し以外だと、先月ヒーロー高校を襲撃した“ヴィラン連合”や“吸血鬼姉妹(ヴァンピレス・シスターズ)”、“黒外套”が上位にランクインしている。

 

 この“吸血鬼姉妹(ヴァンピレス・シスターズ)”と言うのは、どう考えてもわたしたちのことだ。ぼかしが入っているけど、顔写真まで掲載されている。いつの間にとられたんだろう。

 

 元々、警察やヒーローには顔や名前が公開されているけど、こうやって一般人の目に触れてしまうのはまずい気がする。もう手遅れだから、どうしようもない。

 

 こう言う裏サイトがあって、それなりのアクセス数があるってことはヴィランファンなんて正気を疑う人間もいるってこと。

 

 スポンサー曰く、個性が存在しなかった時代にも凶悪犯罪者のファンがいたそうだから、人間って言うのは本当にどうしようもない。フィクションコミックの世界なら魅力的な悪役がいないと人気が出ないらしいけど、現実に魅力的な悪役なんてろくなものじゃないに決まっている。

 

 “吸血鬼姉妹(ヴァンピレス・シスターズ)”についてのページは見ない。どうせろくなコメントがないからだ。気持ち悪い、みんな死んじゃえ。

 

 良い時間になったので身支度を調え、荷物を持って部屋を出る。こうした隠れ家やホテルを転々とする生活をしているから、荷物は最低限。と言っても2人分となると大きめのボストンバッグが必要になってしまうのだけど。

 

 部屋の鍵を部屋番号と同じポストに入れる。またこの部屋を使うかどうかわからないけど、こうしておけば定期的に見回りに来る本来の持ち主が回収してくれるらしい。

 

 電車に乗って北保須駅へと向かう。今いるところは保須市とは違う県だけど、3・40分ほどで到着した。ボストンバッグは駅のコインロッカーに預けておく。重いから。

 

 駅舎から出て思ったのは、人が少ない、と言う印象だった。

 

 ここが特別寂れている、と言うわけでもないし、今日は休日のはずだからもっと人通りがあってもいいはずだ。

 

 それでも誰もいないわけじゃなく、駅前で待ち合わせをしているらしい人が見ているスマホから漏れ聞こえた音声でその原因に気づく。

 

 雄英体育祭とか言うのがやっているんだった。

 

 小さい頃は、両親との関係が壊れるまでは見ていた覚えがある。でもここ数年は興味すらなかった。わたしにとって関係のない世界の出来事だから。

 

「みんなお家でテレビ見てるんですかね」

 

 ヒミコちゃんもあまり興味がないのか、小さく呟くだけ。

 

 人が少なければ外を歩いている警察やヒーローも少なくなる。わたしたちにとっては都合が良い。

 

 しばらく2人で歩いていると、ヒミコちゃんが足を止めて、路地裏に顔を向ける。わたしもそちらを見ると、いや、これは。

 

 慣れ親しんだ気配。重く、湿っていて、金属を噛んでしまったような不快さもある。

 

 血の臭いだ。

 

 表まで漂ってきているとなると、かなりの量になる。

 

 わたしたちは個性のせいか、血の臭いに敏感だ。

 

 じっと、路地裏を見つめるヒミコちゃんの瞳は、真剣でありながら蕩けたような色彩があった。

 

 ああ、これは。

 

 これは彼女が好きなものをみつけたときの色だ。

 

「ヒミコちゃん」

 

 呼びかけても曖昧な返事が漏れるだけ。何度も見てきているけど、このときの変化には慣れそうにないと思う。

 

 普段ならそのままヒミコちゃんについていくけど、今回の場合はまずい。

 

 血が流れている、と言うことはその原因を作った誰かがいるってことだ。

 

 わたしたちは強くない。

 

 ヒーローに遭遇したら逃げるしかないし、他のヴィランと戦うなんてできやしない。

 

 やるなら不意や隙をつくしかない。事実これまでずっとそうしてきた。

 

 だからこの先にいる誰かに遭遇するのは危険だ。止めないといけない。止めないと――

 

 けど、わたしのそんな考えは伝わったとしてもヒミコちゃんは止まらない。

 

 吸い寄せられるように、ヒミコちゃんは路地裏を進んでいく。

 

 わたしはただそれに付き従うことしかできない。

 

 止めないといけない。けどわたしはヒミコちゃんのそれを否定したくない。だから、何とかして何としても無事に切り抜けるように考えないといけない。

 

 そして、路地裏の先には、血だまりに浮くロボットみたいな見た目のヒーローと。

 

「ハァ……」

 

 奇妙なまでに鋭いシルエットの男の姿があった。包帯のようなマスクで覆われた顔はなぜか平坦で、あるべき器官が削がれているのだろう。その手には果たして凶器としての役割が全うできるのか疑わしく思えるほど刃こぼれした刀、いやそれだけではない。全身に禍々しい鉄量を纏っているに違いない。

 

 ヒーロー殺し・ステイン。

 

 ヒミコちゃんが焦がれてやまないヴィランがそこにいた。

 

「あぁ、ステ様だ!」

 

 喜悦の声を上げるヒミコちゃん。それはまずい、絶対に。

 

 その声でこちらに気づいたステインが、ゆらりと首を巡らせて睨めつけてくる。

 

 肌が粟立つ、背に嫌な汗が滲み出し、足がすくむ。

 

 殺人者、と言う意味でステインとわたしたちは同じだ。けど、相手を殺すために殺しているステインと結果的に死なせているだけのわたしたちとでは、その次元がまるで違っている。

 

 すぐに、すぐに逃げないと。

 

 けれど、わたしの前を歩いていたヒミコちゃんの姿は既に視界から消えている。さらに先にいるステインにとっても同じことが起きているはずだ。

 

 気配を消す。そして死角に潜り込み、急所を突く。人に才と呼べるものがあるとするなら、ヒミコちゃんにとってはこれがそうだ。

 

 これまでヒーローの目を掻い潜り、凶行を重ねたことで磨き上げられた生存術にして殺人術。

 

 しかし、そんな術もそれ以上の修羅場を踏み続けたステインには通用しなかった。

 

 確実に急所の首を狙ったはずの分厚いナイフを彼は事もなげに刀で受け止めていた。

 

「うぐっ!?」

 

 ステインの右足がヒミコちゃんに突き刺さり、そのまま路地裏の壁に激突する。

 

「ヒミコちゃん!」

 

 その衝撃音で我に返る。

 

 ステインが追撃してくる様子はない。品定めをするかのようにヒミコちゃんを睨んでいる。

 

 ヒミコちゃんを助けようにも、当然わたしが彼に勝てるはずがない。

 

 上着の内側に身につけているホルスターから拳銃を引き抜く。

 

 これもスポンサーから渡されて撃つ練習までさせられているものだ。

 

 ただし、撃つのは実弾ではなく空包と言うものだ。だいたい、撃ったところでステインに当たる気がしない。

 

 拳銃の発砲音と言うのは、かなり大きい。こんな路地裏でも何度かすれば表にいる人に伝わる。

 

 安全装置を解除、銃口を上空に向け、空いている手で片耳を塞ぐ。

 

 3連射。

 

 ~~~!! やっぱり慣れないなこの音!

 

「あー!!」

 

 ヒミコちゃんが抗議してきた。うん、そんな元気があるなら立って逃げられるよね?

 

 ヒミコちゃんに駆け寄って肩を貸して立ち上がる。

 

 ステインは……もう姿を消している。彼にしても人がここに集まるのはまずいと考えたのだろう、わたしが思った通りになってよかった。

 

 なるべく人目を避けてその場から離れ、まったく別の路地裏に入ってようやくヒミコちゃんから離れる。

 

 ヒミコちゃんがこちらに振り向く。眉根が寄っていて、口をへの字に曲げている。あ、怒っている。

 

「イヨちゃんのイケズ! せっかくまたステ様に会えたのに!」

 

「なにイケズって!? ステインの血を飲みたいなら大声出さずに忍び寄ればよかったんじゃん!」

 

「だってステ様に会えたんですよ!? 思わず声出ちゃっても仕方ない!」

 

「会うのが目的じゃないでしょ! あの人どういう人か知ってるよね!?」

 

「知ってまって、ててて……!」

 

 言い争っているとヒミコちゃんがお腹を押さえて蹲る。さっきステインに蹴られたところだ。

 

「え、ちょ、ヒミコちゃん大丈夫!?」

 

「ズキズキします……」

 

 傷の具合を見ようにも、こんな路地裏でも誰か来られたらまずいし、どっか人目のつかないところに入らないと……! ええと、ええと。

 

 と、鞄に入れてあるスマホから通知音が鳴る。

 

 ……マナーモードにしてあったはずなんだけど。

 

 期待と嫌な予感を覚えながら、スマホを確認する。メールの着信がある。アドレスはデタラメで、これっきりの使い捨てのものだとわかる。そこには住所と部屋番号のみが書かれている。

 

 差出人は誰かわかっている。次の隠れ家に使え、と言うことだ。気持ち悪い。どこかで見てるの?

 

 ともかく、落ち着ける場所が必要だから、使うことにする。ヒミコちゃんに肩を貸して、書かれている住所に向かう。

 

 そこにあったのは3階建ての雑居ビル。1階部分の店舗のようだけど、特に何かの店がやっているわけではないようだ。部屋番号のポストから鍵を取り出して、指定された部屋に向かう。ポストに鍵が入っているのはいつものやり方だ。出るときはポストに鍵を入れておく。

 

 鍵を開けて部屋に入る。前の部屋と同じ1DKらしい。家具が置かれているのも同じだ。ダイニングのテーブルには医療品まで置かれている。

 

 洋室においてあるベッドにヒミコちゃんを座らせて、医療品から使えそうなものを選び出す。

 

「ヒミコちゃん、服まくって」

 

 言われた通りにヒミコちゃんはカーディガンを脱いでからセーラー服をまくり上げる。うぇ、お腹の一部が紫に変色している。えっと、なんだっけ、打撲だっけ? どうすればいいんだ、これ。あっ、スマホで調べればいいんだ。えーと、患部を冷やして、安静にする? えっと、えっと。冷蔵庫の冷凍室に氷はなかったから、大きめの湿布を貼ってから包帯を巻く。これでいいんだよね?

 

「これで、えっと、1週間ぐらい安静にする、でいいのかな」

 

 安静にしておかないといけないんだから、服もゆったりしたものの方がいいよね。さすがにこれは買いに行かないといけないかな。

 

「イヨちゃん、あれ」

 

 ヒミコちゃんが指さしたところには量販店の紙袋。中を見ると、スウェットの上下と下着が入っていた。スウェットの方はともかく、下着のサイズが合っているっぽいのは……

 

「……ヒミコちゃん、これ、着る?」

 

 手はずが整いすぎていて気持ち悪い。好意、なんだろうけど、これは。

 

「うーん……他に、着替えないですし……」

 

 渋い顔をしながら受け入れるヒミコちゃん。

 

 もぞもぞとセーラー服を脱いで、わたしが渡したスウェットに着替えてベッドに横になった。

 

 念のためにお医者も呼んでおこう。当然、普通の医者を呼ぶわけにはいかないから、闇医者を呼ぶことになる。

 

 またこの闇医者の料金が高い。保険が使えないと信じられないぐらいの額になってしまう。これに口止め料も加わるから……あんまりかかりたくないんだけど、ちょっとした怪我ならともかく、内臓に影響があったりしたらお手上げだ。

 

 ちなみに闇医者はブローカー経由で知った人だ。信頼できるけど、その分高くつく。

 

 ……ちょっと待って、部屋の隅に金庫があるんだけど、これってもしかして。金庫に貼ってあったメモ用紙通りに解錠すると……うわ、やっぱり、現金が入ってる。本当に気持ち悪いな、ありがたいけど。

 

 気を取り直して闇医者に連絡。明日の午後に来てくれるそうだ。

 

 えーっと、あとは駅からバッグを回収して、夕飯の用意もしないと。部屋に置いてある物も一通りチェックしないと。ヒミコちゃんが安静してないといけないから、普段なら手分けしてやっていることもわたし1人でやらないといけない。

 

 あれこれと用事を済ませた頃にはすっかり夜が更けてしまっていた。ヒミコちゃんが寝ているベッドの隣に布団を敷いて倒れ込む。

 

 疲れた。

 

 昼間、ステインに出会ったときの感覚がまだ残っているような気がする。

 

 あんな恐ろしいものがこの世にいることが信じられなかった。前に遭遇したときはこちらに意識を向けられなかったから平気だったけど、今回は確実に認識されていた。次に出会ったときは、きっとわたしたちも殺害の対象になっているのではないだろうか。

 

 嫌だ。

 

 嫌だ嫌だ嫌だ。

 

 殺されるなんて嫌だ。絶対に嫌だ。

 

 ステインは1度の犯行後、同じ地域にしばらく留まるらしい。

 

 そしてわたしたちもヒミコちゃんの怪我が治らないことには移動することはできない。

 

 あんな殺人鬼がいる街に何日もいないといけない?

 

 スポンサーがなぜわたしにここに行くように指示して、こんな場所まで用意して、そして、ステインに遭遇するようにしたのか。いや、それこそが目的だとしたら?

 

 わからない。出会ったときからわからないことだらけだけど、今回はもっとわからなかった。

 

 聞いたところでまともな答えは返ってこないだろうし、いっそのこと気にしない方がいいのだろうか。それができれば苦労はないんだけど。

 

 なんでこんなことになってしまったんだろう。

 

 もちろん、ヒミコちゃんと一緒にいることは嫌じゃない。嫌じゃないけど、もっと違う、普通の友達になりたかった。けどヒミコちゃんは普通であることに耐えられなかったから今こうしている。だからこうなるしかなかった。

 

 ……これも一体何度目だろう。堂々巡りだ。嫌になる。

 

「イヨちゃん」

 

「ヒミコちゃん……起きてたの?」

 

「お昼から寝てたので寝られないです」

 

「それもそっか。えっと、どうしよっか、温かいものでも飲む?」

 

 体を起こしてキッチンに向かおうとすると、ヒミコちゃんに手を掴まれる。

 

「こっちにおいで」

 

 既に部屋の電気を消してしまっていて、はっきりとは見えないけど、ヒミコちゃんはとても優しげに微笑んでいて。

 

 言われるままにベッドに入る。

 

「イヨちゃんは、自分の中ため込みすぎです。ちゃんと言葉にしないとぐるぐるぐるぐる出口が見つかりませんよ?」

 

「それは……うん、そうだね」

 

「だからまた眠たくなるまでおしゃべりしましょ?」

 

 言いながら頭を撫でてくれる。

 

「……うん」

 

 優しいな、ヒミコちゃんは。こんなにわたしにも。

 

 だから、こうして感じる幸せが。

 

 すこし、つらい。




 ザイジョウ イヨ(15)
個性:『凝結・改』
 対象の血に触れることで対象の動きを奪う。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 トガヒミコと行動を共にする少女。
 世間からは美少女ヴィランコンビ・吸血鬼姉妹(ヴァンピレス・シスターズ)として認知されつつある。
 スポンサーからいろいろと援助を受けているが、本人はとても嫌がっている。嫌がっているけどないと生活できないので本当に嫌で仕方がない模様。
 ヒミコとの出会いが彼女に襲われたことからわかるように、本当なら吸血したい相手なのだが、イヨの方が「友達が自分の1番嫌いなものの姿になるのが嫌」という理由で拒否していて、それに共感できるため我慢している。が、ちうちうはしたいのでその機会を虎視眈々と狙っている。
 これ以外にもイヨが協力してくれるおかげで吸血する機会が増えているため欲求不満を解消しやすいためもある。
 このため、原作よりも彼女(達)による被害者は数倍になっている


 イヨちゃんイメージ
【挿絵表示】


 モノクロよこがおメーカーで作成
 https://picrew.me/image_maker/277081
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