ラスボスの子に転生したのでNO.1ヒーローを曇らせたいと思う 作:タメガイ連盟員
誤字報告ありがとうございます。
バーが赤くなりました。
雄英体育祭には多くのプロヒーローが警備にあたっている。その規模は先日の襲撃事件の影響により、例年の5倍となっており、雄英高校の敷地がいかに広大とは言え、この日に限ってはヒーロー密度が最も高い場所と言っても過言ではないだろう。これほどの規模でヒーローを各地から引き抜いて治安上の問題はないのか、と思われるがそこはヒーロー飽和時代、これぐらいで揺らぎはしない。無論、警備依頼を行う雄英側もその点を考慮している。
レディ・ナガンもそうした依頼を受けたヒーローの1人だ。年度替わりの4月に3年以上に及んだ休業から復帰している。
休業の間、彼女は海外で静養していた。実際にそれが必要な状態であったのだから、この時間は彼女にとって貴重なものと言えた。海外を選んだのは国内では顔が知られているため気が休まらないから、と言うのが大きい。海外ならば同業者ならともかく一般人からしてみれば、日本のヒーロー=オールマイトと言う認識であるため、いち旅行者としてしか扱われないからだ。
北米の人里離れたロッジを借りて大自然の中で過ごす、と言う生活を送っていた。精神が荒みきっていた彼女には、一度文明から離れる必要があった。思えば、こんな穏やかな時間を最後に過ごしたのはいつぐらいだっただろうか? 両親の庇護の下、幸福な幼少期を過ごした頃? まだ無邪気にヒーローを目指していた頃? あるいはそんなものは一度もなかったのかもしれない。
ヒーロー科卒業後、ヒーロー公安でのトレーニングを経てプロデビュー。それと同時に“仕事”も始まった。以来10年以上に渡ってヒーロー社会の表と裏で、心を削りながら働き続けてきた。ではそのリターンは? 社会は本当に良くなったのか? 良くなったのなら、自分の仕事は減っていくはずだ。なのに減らない。なくならない。むしろ増えているのではないか、と言う疑念すら抱いたほどだ。自分が手を汚してきたのは一体何だったのか。だからあの夜――
そして、アレが現れた。
死柄木常夜。
ヒーロー社会の外科手術を、などと嘯きナガンに協力を求めた謎の少女。
後に協力の見返り、と言う理由で情報を開示してきたが、よくもまあこんなやつがいたものだと、驚くより先に呆れたほどだ。
そして公安委員長は常夜の工作により病気療養のため現職を辞任、後任者は委員長のやり口に不満を抱いていたため、ナガンの休業を受け入れ……いや情報漏洩の懸念があるからそう簡単に認めるはずがない。ここでも常夜が何かしたと考えるのが妥当だろう。
今にしてみると、公安委員長を殺害しようとしたのはあまりにも短絡的だった。精神的な安定がよみがえったことで、当時の状況を冷静に振り返ることができるようになっていた。あのまま委員長を殺害していたらどうなっていたか。拘束されることはまず確実、その後は消されるか、あるいはタルタロスで幽閉か。いずれにせよ、ろくな結末ではない。もっとも、あの委員長を排除しないことには公安の殺し屋から降りることはできなかったのだが。
そして半年ほど前に常夜からの要請を受け帰国。復帰のための準備、それと。
「格闘訓練?」
「はい。私も2年ちょっとの間に空手を習ったり実戦的な訓練はしたつもりなんですが、何というか、そう、実戦を経験した方からの指導が必要ではないかと思いまして。ああ、もちろん、それについての見返りは用意します」
常夜からこうした申し出が来るとは正直なところ意外だった。常夜がナガンに求めていたのはヒーロー公安の秘匿任務の暴露についてで、それ以外にはナガンの伝手を利用するぐらいで自分に何かをして欲しいと言うのは今までになかった申し出だ。
「別に構わないが、見返りってのはなんだ。金銭的には何の不自由もない」
ナガンは表向きのプロヒーローとしての収入にグッズ関係のロイヤリティやCM出演の出演料に加えて、裏向きの仕事の口止め料込みの報酬を得ているため、残りの人生を遊んで暮らせる程度の資産を有している。2年以上続いた海外生活でいくらか減っているが、大した痛手ではない。
「今後も筒美さんが私に協力してくれるかどうかの判断材料、ではどうでしょうか」
「私が降りると言った場合は?」
「別に何も。まあ、ヒーロー公安のあれこれは公表しますから、そのときはいろいろ面倒なことになるでしょうけど。協力してくださるなら、ほとぼりが冷めるまで雲隠れできるようにします」
この奇妙なほどのギブアンドテイクを重視する姿勢、それでいて自分本位。それが常夜の特徴だと言って良い。そしてこの物言いから、実のところナガンは既に必要ではないことが窺える。ではなぜ関係を維持しているのか。
「実際に証言してくれる人がいた方が信憑性は増しますから」
それに原作キャラでは結構好きだった方ですし、先々関係を続けられる人ってあんまりいませんし。などと意味不明なことを呟いていたが、要するに個人的な好みらしい。常夜に好かれることが果たして良いことなのか疑問である。何と言うべきか、好意に悪意が混じっているように思えるからだ。
「やだなぁ、筒美さんとは
「笑うな。胡散臭すぎる」
「えっ、ひどい」
結局格闘訓練については引き受けたのだが、見返りとして聞かされた情報が問題だった。
異能解放軍。かつて解放主義を掲げ政府と激しく対立したデストロの息子を指導者とする組織。その目標は現行体制の打破にある。その幹部には国政政党党首、IT企業取締役、出版社専務が名を連ね、また指導者である四ツ橋もサポート企業社長という地位にあり、既に政界・財界・情報分野に強い影響力を持ち、さらにはとある地方自治体をも実質的に支配下に置き、構成員は10万を越える。シンパを含めれば10倍以上に膨れ上がるのではないだろうか?
なにより問題なのが政府はこの存在をまったく把握していないことだ。彼らはいずれ行動を起こす。政府が情報を掴めないままその日を迎えれば、この決起、いや叛乱は成功するだろう。
ナガンはまず自分の迂闊さを呪った。何が降りても何もしないだ。奴がどういう存在か忘れたのか? あの悪の魔王の娘だぞ。降りようとするなら降りられないようにするに決まっている。休業以前なら放置していただろうが、精神が復調し、善意とでも呼ぶべきものも復活した今となってはそれもできない。つまるところ、あの小悪魔はナガンがこうした精神状態になるのを待って、その善意につけ込んだのだ。
確かにナガンは現行体制に失望しているし、それが打破されるのは望むところだ。だが異能解放軍はその構成員が戦闘員でもあることからわかるように武力革命を志向している。そうなればどれだけの人的・物的被害が出るのか。
ナガンとてまだヒーローとしての意識が廃れきってしまったわけではない。そんな被害は許容できない。
ならば政府に伝えるか? それもできない。当然ヒーロー公安を含めた政府は信用できないし、伝えたところで問題を秘密裏に解決しようとするだろう、これまでと同じように。確かに表面上は治まるだろう、しかしそれでは何も変わらない。
異能解放軍に協力するのも考え物だ。ナガンが持っている情報を彼らに渡せばいくらでも利用できるだろうし、武装蜂起などせずに政権を奪うことも可能だ。しかしそれが社会にとってプラスになるのか、これもまた疑問だった。結局のところ、彼らの根底にあるのは暴力主義だ。そんな連中に未来を託すわけにはいかない。
現行体制を壊したい。より良い社会にしたい。この2つがナガンの内で揺れ動いていた。長らく歯車として働き続け、すっかり摩耗してしまった彼女は自身の原点を見失っていた。それ故どちらとも選べずにいた。いや、それは両立できるはずだ。だが、それをどうすればいいのか皆目見当がつかない。
政府、異能解放軍、そして常夜。どれも信用できないとあってはなおさらだ。
結局彼女は、今後についての結論を出せぬまま新年度を迎えていた。
「それにしてもすごい子が出てきましたね」
警備関係者用の休憩所で、ナガンの対面に座っている女性ヒーロー――Mt.レディが呟く。その視線の先にあるモニターには1年生ステージ第2種目の模様が映し出されている。
「エンデヴァーの三男坊がトップかと思ったが、噂の1年A組、想像以上に粒ぞろいだな」
それに応じたのはベテランのヒーロー、デステゴロ。こちらはナガンの隣でタバコをふかしている。そしてMt.レディの隣には新進気鋭のシンリンカムイ。この3人と警備にあたっていたわけではなく、たまたま休憩のタイミングが被っただけである。
「スカウトに勤しみたいところが、仕事が優先だからな」
「うちはサイドキックを置く余裕ないですからねー。ナガンはどうなんです、そのへん」
「デビューからこっちソロなんでね。こういうのを見ても参考程度だ」
タバコに火をつけながら答える。ヒーロー公安の秘匿任務があるため、単独の方が何かと都合が良かったからだ。このあたり、ナガンの後任であるホークスとはスタイルが異なっている。無論、そんな事情を口に出しはしないが。
「すみません、タバコやめてもらっていいですか」
「ああ、悪いね」
ほとんど吸っていないが、やめてくれと言われてはそうもいかない。かつてと比べて健康への影響は減じた物が流通しているが、喫煙者の肩身が狭いことは変わっていない。
「あんたもタバコを喫むんだな」
デステゴロは気にせず吸い続けている。Mt.レディは煙たそうに手を払っている。
「休業中に覚えてね。もっと早くに覚えれば良かった」
「苦労してんだな」
「まぁね」
モニターには眼帯をつけた少女がアップで映っている。ナガンからすると、ひどく胡散臭く得体の知れない常夜だが、こうしてみると年相応の幼さと爽やかさが感じられるのだから不思議だ。“志村常夜”でいるときは自己暗示をかけているそうだから、その影響だろうか。
「ていうか、この子、こないだの事件のときに重傷って報じられてた子ですよね? よく出場できたもんです」
「そりゃリカバリーガールがいるからだろうな」
治癒系個性持ちはかなり希少であるため、個性登録で判明した時点でヒーロー公安から個性免許を取得するように強く勧められるらしい。リカバリーガールも高齢だ、彼女の後継者を用意する必要もあるし、治癒系個性持ちの協力がなければ負傷したヒーローの復帰期間がまったく違うのだから、当然の対応と言える。
そのヒーロー公安だが、ここしばらく
このため、先の襲撃事件への対応にもいくらか遅れが生じている。その影響は早々なくなるものではないだろう。あるいは、こうした混乱を起こすことも常夜の目論みに含まれているのかもしれない。
それにしても、常夜は一体何を目的としているのか?
いや、もちろん本人から聞かされているが、自由と平和のため、と言う抽象的なものとあっては何も言っていないも同然だ。常夜は嘘はつかないが肝心なことを話さないので、ここから真意を探るしかない。
現在のヒーロー社会を厭いそれを変えようとしていることは間違いない。だからこそ、その点では協調できている。問題は過程とその先だ。常夜が雄英高校にいるのはオールマイトに接近するためであり、そこには彼女の父親の意思が影響している。即ち、平和の象徴の抹殺だ。いや、もちろん現行体制をも象徴している彼の排除は必須であり、それに続くエンデヴァー、ホークスらも最終的にはヒーロー社会から姿を消すことになる。
そして、社会の叛乱分子である異能解放軍や先の襲撃事件を起こしたヴィラン連合、悪の魔王も排除する。当然それと対峙するヒーローにも多くの死傷者を出すことになるだろうし、一般市民への影響も無視できない。その後も黎明期ほどではないにしろ混乱した状態になる。そのタイミングでヒーロー公安の秘匿任務についての情報を暴露する。そうなればヒーローへの信頼は大きく減ずることになる。必然、社会はこれまで通りとはいかなくなる。
つまり、常夜にとっての邪魔者を完全排除しようと言う、なんとも都合の良い計画だ。
もちろん、本人もそこまでうまくいくとは思っていない。だから自分以外の動きを徹底的に利用する。そのため、ナガン以外にも政府や魔王の息がかかっていない個人・組織とつなぎをつけているらしい。
協力と言っても、あくまでそれぞれの目的が達成されるまでの関係でしかなく、それぞれが敵対関係になることは想像に難くない。ナガンもその例外ではないが、既に述べたとおり自身の目的が達成されたからそれで終わり、とはいかなくなっている。社会の行く末を見届けなければいけないと思っている。
思考を打ちきり、休憩室内のヒーロー達を見回す。みな、まっとうなヒーローとして職務を果たしている。ヒーロー公安のスカウトに乗らずに、一介のヒーローであったならどうだっただろうか。現行体制に何の疑問も持たずにいたことだろう。ああ、なんて罪深い。今更そんな想像をして何になるのだ。散々この手を血で汚しておきながら。
まあいい。当面は静観より他はないのだ、この先変革が起きるのは確実なのだから、そのときを待とう。状況に流されるままと言うのは気に食わないが、結論は先送りにしよう。
だが。
死柄木常夜。お前が目指す未来と違えたときは。それが互いにとって不幸にならなければいいが。
轟くんを人がいない場所まで連れ出す。
念のために『人払い』で周囲から人を排除。別に誰かに聞かれても構わないんだけど、轟くんはあまり知られたくないかもしれないし。まあ、最終的に家庭事情は全国に暴露されることになるけど。
「単刀直入に聞きます」
轟くんも私の『魅了』を受けているからそこそこ好感度は上がっている、はずだった。しかし、彼は他人への関心が薄かったために効果はいまいち。自分で作った個性だけど、私に対する関心がなくても効果が下がると言うのは、まあ、道理だろう。薄く広く効果を及ぼすのがメインだし、期間もひと月もなかったからね。
「なぜ、左の炎を使わないんですか」
ここで『真実吐き』の弱ヴァージョン、『本音吐き』を発動。これで轟くんは私に包み隠さず答えてくれるようになる。『真実吐き』だと本人が知らないことまで喋っちゃうからね。
「さきほどの騎馬戦の最後の攻防、あなたは左腕の個性を使おうとして、引っ込めたように見えました。使えないわけではないはずですよね? あそこで使っていれば私の衝撃波をかき消してハチマキを奪うこともできた。なのにしなかった」
じろり、と轟くんを睨みつける。半分しか力を使わなかったことをひどく不満に感じているように見せて。みんなが全力を尽くしているのになぜあなたは出し惜しみをしているのか? 騎馬だった飯田くんは切り札を使ってまで勝とうとしていたのに? とでも言いたげに。これで最終種目のために温存していた、と言うなら話は別なのだけど、轟くんは1位になることを標榜しているからこれも通らない。
「……エンデヴァーは知っているだろ」
フレイムヒーロー・エンデヴァー。万年No.2ではあるけど、20歳のときにはNo.2になっていたと言うのだから凄まじい。で、エンデヴァーって確か40代半ばから後半ぐらいだったはずだから4半世紀もの間その地位を維持してきたのだからその実力は疑うべくもない。しかし、老若男女問わず幅広い支持を得ているオールマイトに対して主な支持層は3・40代男性が中心で、しかも“ヴィランっぽい見た目のヒーローランキング1位”なので一般受けしないタイプでもある。
そして、極めて上昇志向が強く、No.1であるオールマイトの存在は目障りだったことだろう。だけど実力で超えることは不可能であることも悟っていた。そこで彼が取ったのは次代、つまりオールマイトに勝てる子を作ることだった。ただし、そのためは相手を選別する必要があった。
所謂個性婚である。
第2世代から第3世代で問題になった、と言われているから第2世代で増加していたらしい。ただ、これには多少やむを得ない面もある。なにしろ当時はオールマイト時代以前の暗黒時代。さらにはデストロの“解放思想”もあって、強い個性が求められる土壌が揃っていた。まあ、その強い個性もパパにおいしく収穫されちゃっていたわけだけど。んー、パパもデストロに乗っかってたよな、たぶん。直接関与はしてないんだろうけど、うまくたきつけたりして利用はしていたと思う。まあ、息子のリ・デストロのことも把握していて、オールマイトに減らされた戦力を補充するために取り込もうと考えていたはずだしね。
倫理的に問題があると言われているけど、かつての精子バンクでスーパーモデルやスポーツ選手、優秀な医者のそれが高値で取り扱われていたのと何が違うのだろうか。まあ、そう言った遺伝子を取り込んだところでその子供が成功者になるとは限らないわけだけど。それに子供だけが優秀ってのも家庭に不和が起きやすいそうだしね。
エンデヴァーが求めていたのはおそらく、自身の弱点である体温上昇による能力低下が起きない体質、つまり熱への耐性、そして自分以上の火力だ。長男の燈矢くんは後者は満たせたけど、前者がダメ、次男・長女はおそらくどちらも満たせなくて4人目の轟くんでようやく、と言うわけだ。
そうした意味で、轟くんの兄姉らは親から見て失敗作だった。いやいやなんともひどい話だ。そりゃ燈矢くんもグレてヴィランになる。
「“おまえの左側が醜い”と、母は俺に煮え湯を浴びせた」
轟くんの話が続いている。冷さんだっけ? 完全にノイローゼじゃんそれ。育児ノイローゼじゃなくて原因はエンデヴァーだからDV案件だけど。燈矢くんのことで心労もあったんだろうけど。
うーん、それにしても理想的な子供を作るために冷さんに拘ってたのもなんか不思議だな。他の女に産ませるなんてことをしててもおかしくなさそうだけど。まあ、No.2が不倫してるなんてスキャンダルどころじゃないから流石に自重したのかね。それ以外にも問題大ありだけど。
ヒーローとしてはともかく、家庭人としては最低だよね。そもそも家庭を築きたくて妻子持ったわけじゃないけど、少なくとも生まれた子供の衣食住の面倒は見ているし、ヒーロー以外の道へ進むことへの金銭的な支援はしてるんだよね。最低ではあるけど、最低限は満たしているわけだ。なんだ、俺の両親よりずっとマシじゃないか。ごめんね、エンデヴァー、ディスりまくっちゃって。
「俺が左を使わないのは見返すためだ。クソ親父の個性がなくなって……いや、使わずに1番になることで奴を完全否定する」
使わなかったせいでさっき1番になれなかったじゃないですか、と煽りたいところだけど我慢。
「事情はわかりました。競技前に緑谷くんにつっかかっていたのは、彼がNo.1であるオールマイトに目をかけられているから、だけではなさそうですね?」
「あいつとオールマイトには何か繋がりがある。オールマイトの隠し子かと思ったが……」
「確かに個性が似てますけど、それはさすがに飛躍しすぎでは? オールマイトに女性関係があるなんて話も聞いたことないですし」
あの人、女性関係については真っ白なのよね(同性もだけど)。ママのことがあってのことか、子供をもうけたりはしていない。もし家族がいたらパパに狙われるに決まってるしね。実際には隠し子じゃなくて後継者なんだけど、あまり変わりないかな。結局パパにも出久くんが後継者だってバレてたし、爆豪くんも気づいたわけだから、注意深く観察していれば何かあると気づいてもおかしくない。
「それと、緑谷だけじゃない。お前もなにかあるんじゃないのか? オールマイトがよくお前を目で追っているからな」
よく見てるなー。観察能力も高いし、全体的にスペック高いんだよね、彼。そしてバレバレすぎるぞオールマイト。
「私がですか? 私はオールマイトとは雄英に来てから初めて会いましたし、それに彼が私のことを気にしているとしたら先日の襲撃で私が重傷を負ったことでは?」
「いや、それ以前からだ」
うーん、と唸ってみせる。するとなんで私に宣戦布告しなかったんだろうか。
「悪いが、競技が始まるまでお前のことはそれほど注目していなかった」
それもそうか。轟くんとはあんまり接触なかったしね。個性把握テストでも轟くんの方が成績よかったし。
「いずれにせよ、私にはなぜオールマイトがそうした目で見ていたのかはわかりかねます。もしかしたら両親や祖父母と関わりがあったのかもしれませんが、そちらも確認のしようがないので」
「ッ! ……そうか」
今ので私は両親がいない、と言うことを察してくれるので話が早くて助かる。
「お前達にオールマイトとの繋がりがあるならなおさら勝たなきゃならない。いや、相手が誰であろうとだ」
険しい表情だけど、そこには私にどう対処するのか、と言う問題への懊悩も含まれているように見える。だって左抜きじゃ私に勝てないのはもうわかっているけど、左を使うわけにはいかないんだから。でも今後のために使えるようになってもらわないと困るんだよなぁ。
「なら、全力で来てください。どんな事情があろうと、半端な力で勝とうなんて人に負けるつもりはありません」
「お前……」
「エンデヴァーもオールマイトも関係ない。あなたが戦うのは私達なのだから。ああ、なら私からも宣戦布告させてもらいましょう」
まっすぐに轟くんの目を見据える。おいおい、これぐらいで動揺しないでよ。
「勝つのは私だ」
轟くんと別れて食堂へ向かっていると、見覚えのないブレザー制服姿の女の子がキョロキョロとなにかを捜している様子でいるのを見つける。小学生ぐらいだろうか。
「ここ、関係者以外立ち入り禁止ですよ」
「ごめんなさい、迷ってしまって……」
迷子だったらしい。ここはヒーローの卵らしくしておきますか。
「席番号はわかりますか? 案内します」
「本当ですか? ありがとうございます」
席番号を確認してから、スマホで会場案内アプリを立ち上げる。こういうアプリも配信されているんだけど、この子が持っているスマホは機能が制限されているため入れられないようだ。えーと、うん、結構良い席だな。もしかして、スポンサー企業のお偉いさんの子供とか?
場所がわかったところで先導しようとすると、女の子に呼び止められる。
「あっ、あの、選手の方ですよね? さっきの試合、すごかったです! あ、握手してもらえませんか」
まあ、それぐらいならいいか。
「もちろんです」
握手をするために少しかがんで右手を差し伸べる。女の子もはにかみながら右手を伸ばしてくる。が、その手は私の手をすり抜けて、顔に押しつけられる。
「ぇ」
その瞬間、女の子の口元が、いつか見た誰かのように歪んでいたように見えた。
「ッ!」
次の瞬間、何もない空間にいることに気づく。天地があるかわからないのに立っていると言う感覚があるのは実に奇妙だし、光源があるように見えないのに暗く感じない。手足の感覚も朧気で、匂いも感じられない。
どこかに転移させられたのかと思い、現在位置の座標を確認しようとするが、なぜか個性自体が発動しない。
いや、待て待て、この空間原作で見た覚えがあるぞ。出久くんが『ワン・フォー・オール』の歴代継承者と接触したときと、パパに個性を奪われそうになったときだ。
個性空間……ちょっと締まりが悪いな。うーんと、そうだな、特異点空間とでも呼ぼうか。
「これは、驚いた」
耳からではなく頭の中に直接響くような声。聞こえているわけでもないのに聞き覚えがある。ああもう、五感がばかになったみたいだ!
「……ふむ。やはり、権力が弱いと言うべきか。期待していたわけではないが、うまくいかないものだね」
正面、と言っていいのかどうかわからないが、そこには豪奢な赤いソファーに座る2人の影。一方はさきほど出会った女の子だけど、俯いている上に生気も感じられない。
そしてその隣には仕立ての良いスーツを纏った男性。頭部は髪・目・鼻がなく、疵痕だらけののっぺらぼうだ。
「お父様……?」
「久しぶりだね、常夜。元気にしてたかい?」
そこには、できれば一生顔を合わせたくない相手。
パパことオール・フォー・ワンの姿があった。
パパ「来ちゃった」
常夜ちゃん「( ゚д゚ ) 」
パパ「常夜、こっちをみなさい」
常夜ちゃん「はい」
常夜ちゃんの秘密
エンデヴァーが“ヴィランっぽい見た目のヒーローランキング1位”だと知ったとき死ぬほど笑った。