ラスボスの子に転生したのでNO.1ヒーローを曇らせたいと思う   作:タメガイ連盟員

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佐藤東沙様、しまうまさん様、百合お兄さん様、ヴァイト様

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15.魔王襲来

 なんでこんなところにパパがいるんだ!?

 

 いやいやいや。ちょっと待て。よし、落ち着け。

 

 確か原作では弔と一緒にモニター観戦してたはずだよな。直接こちらに来る必要はないはずだ。用があるなら呼び出せば済むことだし。聞けば答えてくれるだろうけど、聞かれた以上のことは言わないから真意のほどは推測するしかないし。だから嫌なんだよこの人に会うの。怖いし。

 

 それよりも、なんか自分の体に靄みたいなのがかかっててよく見えない。声だって自分のものなのかはっきりわからないし、何なんだ一体。んー、出久くんもこういう空間に入ったときは体に靄がかかってたな。ついでに口まで塞がっていたからきちんと発声できなかったし。パパや弔、初代とママは喋れたから、なんだろうな、個性の熟練度とかか影響しているのか? わからん。

 

 まあ、とりあえず、だ。居住まいを正して、まずは挨拶だ。大事なことだからね。

 

「はい、お久しぶりです、お父様」

 

「君が重傷を負ったと聞いてね、本当ならお見舞いに行ってあげるところなんだが、あいにく僕は自由に動き回ることができないんだ」

 

 じゃあ、今そこにいるあなたは何なの。それに重傷になった原因はあなたの後継者なんですけど? お互い存在を知らされていないからそこのところは突っ込めないんだけど。

 

「だからこうして、間接的なやり方ではあるけど様子を見に来たというわけさ」

 

「ご配慮、感謝いたします」

 

 間接的ってことは、本人じゃないってことか。と言うことは、あれは個性因子の意思か。おい待て、『オール・フォー・ワン』のコピーいくつあるんだ!? あれコピー作るのに半年ぐらいかかるはずだろ? 1つはパパ本体、もう1つがあの少女に移植されたもの。この2つだけしかないってことは、たぶん他はない。

 

「それにせっかくの娘の晴れ舞台なんだ、応援するのは当然だろう?」

 

「ありがとうございます」

 

 その言葉に嘘はないんだろうけど、絶対それだけじゃないだろ。誰がオールマイトの後継者か確認するため、目ぼしい個性がないか調べるため、そんなところだろう。

 

「さて、君も僕にいろいろと聞きたいことがあるだろうけど、立ち話もなんだから、まずは座ると良い」

 

 座ると言っても、この空間で立つ座るの概念あんの……? とりあえず、座るイメージを思い浮かべる。あ、いけた。でもなんで座布団に正座……? 普段から部屋では椅子は使わないし、座布団だけどさ。

 

「まずは紹介しておこう。この子はみこと、命と書いてみことだ。君にとっては姉と言うべきかな。今は僕の友人に預けているんだ」

 

 パパが隣で虚ろな目をしている少女を指す。姉、ってことは私より先に造られたってことか。当然パパの遺伝子を元にしているはずだ。んー、命って名前からして生命力とかそういうのに関わる個性、あるいは治癒系か? パパもオールマイトと戦ったときは『超再生』のような自己回復個性は持ってなかったからあんな見た目になっちゃったわけだから、その点を反省して治癒が使える者を用意したってところか。それでもパパを完治させることはできなかったみたいだ。パパはもう『巻き戻し』じゃないと治せないと思うけど、本体を治すことにはあまり固執してないっぽいからなぁ。

 

「はい、よろしくお願いします、命お姉様」

 

 しばらく待ってみたけど反応なし。そりゃ意識の主導権はパパが握っているんだもの。弔は反抗してたけど、私と同じように造られてたなら自意識なんてまともに育っていないうちに支配下に置かれてしまったのだろう。

 

 ……下手したら俺もやられてたかもしれないと考えると恐ろしい。

 

「……あの、お父様」

 

「ふむ」

 

 パパが命の肩を軽く叩くと、パパの動きが止まって命がスッと顔を上げる。動きが人形みたいで軽くホラーなんですけど。と言うか、意識は交代制なんです?

 

「よろしくね、常夜。でも表ではあなたが年上なのだから、場に応じてうまく合わせてね」

 

「もちろんです」

 

 そう応えると命の首ががくっと下がる。いや、何なのその挙動……

 

「挨拶は済んだようだね? せっかくの姉妹なんだ、仲良くしなさい」

 

「はい。お父様、伺ってもよろしいでしょうか?」

 

「何かな」

 

「ここは一体どこなのでしょうか? 場所を特定しようとしましたが、個性自体が無効でした」

 

「そうだね。実のところ、僕もこの空間について詳しくないんだ」

 

 知らないのかよ。いや、まあ、この空間が発生したのは『個性創造』が『オール・フォー・ワン』の個性略奪に抵抗したからだろうから経験がないのは当然か。

 

「だが推測は可能だ。ここは君の個性の中だ」

 

「私の?」

 

「僕の個性が君の個性に入り込んでいる状態、もしくは僕と君の個性がぶつかり合ったことで生じた狭間かもしれない。なにしろ僕もあまり経験がないからね、詳しいことが知りたければ今度ドクターに尋ねてみなさい」

 

 ドクターも詳しく知っているわけじゃないんだろうけど、個性研究に関してはパパが一目置くぐらいだからなんらかの仮説を立てているのかもしれない。にしてもパパって自分で動かないで周りを動かすタイプだよな。本人的には周囲の友人が自分のことを思ってやってくれている、と言うことになっているようだけど。支配者としては正しい姿勢ではある。

 

「はい。しかし、なぜ個性が、その、接触していることがこのような空間で会話できることに繋がるのでしょうか?」

 

 まあ、これもドクターに聞いた方が良い案件なんだろうけど。

 

「記憶転移と言う言葉を聞いたことはあるかな?」

 

 えーと、なんだっけ、臓器移植に伴って提供者の記憶の一部が相手に移る現象だっけか。とりあえず黙って頷いておく。

 

「それと同じことが個性にも起きるんだ。臓器や細胞に記憶が宿ると言われるように、個性因子には意識、まさしく個性(その人)そのものが宿ることがある。僕は個性に直接干渉する力のおかげでその意識に触れられる特別な人間と言うわけだ」

 

「つまり、お父様の個性だからこそ、個性に宿る意思同士が意思疎通ができる状態にある、と言うことですか?」

 

「その通りだ。もっとも、大抵の個性は意思ごと奪ってしまうからこの現象が起きることは希だ」

 

 と言うことは、だ。『ワン・フォー・オール』を5代目・6代目から奪い損ねたときにもこの空間ができたのかね? 歴代継承者の意思が宿っているのは把握しているっぽいし、『オール・フォー・ワン』の力だけでは奪えないと悟ったのもそのためだろう。ついでに罵倒と啖呵もたっぷり浴びせられたに違いない。パパって根に持つタイプだからあの2人はかなり責めさいなまれて殺されたんだろうなぁ。南無南無。

 

「もう1つ、個性に干渉できる個性があるが、まあ、それはいいだろう」

 

 『ワン・フォー・オール』のことですね、わかります。とは言っても、あっちは継承が本質だから継承者間でしか意思疎通できないけど。

 

 私見だけど、個性因子には例外なく意思が宿るんじゃないかと思っている。じゃなかったら『ワン・フォー・オール』の継承者全員の意思が宿っているなんて起きないはずだ。ただその意識が顕在化するのは稀、と言うことだと思う。まあ、そもそも個性が肉体から引き離されるなんてこと自体があり得ないことだし。私の説が正しければパパの中には無数と言っていいほどの意思が眠っているわけで、その大半がパパに悪感情を持っているとしたら? しかし、オリジナルの『オール・フォー・ワン』では難しそうだからやるならパパ本体の方かな。面白そうなものが見られそうだけど、あくまで機会があったらってことで。

 

 さて、次の質問だ。

 

「ヴィラン連合、死柄木弔。彼は何者です?」

 

 これは聞かないと流石に不自然だ。黒霧や脳無のことは知っているわけだから、1人だけ知らない人のことを聞かないのはね。

 

「彼は僕の後継者だ」

 

「後継者?」

 

 訝しげに眉間を寄せてみせる。

 

「知っての通り、僕は機械の助けなしではいられない体になってしまっているからね。だから次の僕が必要なのさ」

 

 次の僕、ね。先に後継者って言えばそれと同じニュアンスだと思っちゃうだろうね。

 

「それにしては……」

 

「彼もまだ学んでいる最中なんだ。君と同じくね」

 

 この間の襲撃事件は実戦演習みたいなもんだしね。あれでもパパが15年もかけて育てあげたんだから、成長幅はかなり大きい。

 

 なんでこちらに弔の存在が伝えられていなかったのかは、パパを避けていたからだな、うん。なんで、って聞いたらまずそう言われる。あとはまあ、一応血縁者と接触したらどうなるか見るため、かな。あれで弔の記憶が戻った様子はなかったけど、今後弔と接触する機会もあるだろうし、どういう設定で行くか考えておかないとね。

 

「今後も先月のような襲撃を行うつもりですか?」

 

「それは弔次第だ。僕は手助けはするが、何をどうするかは彼自身が考えなければいけないからね」

 

「できれば事前に教えて頂きたいのですが」

 

「それはどうかな」

 

「……それも、死柄木弔次第、と?」

 

 パパはいつも通り口元を歪めるだけで何も答えない。まあ、知らされなくても知っているんだけどさ。

 

「雄英高校も警戒を強めています。私から情報を提供する必要はありますか?」

 

「そうだね。そのときは伝えよう」

 

 情報提供の依頼があればそれが襲撃の準備段階になるからだけど、この様子じゃなさそうだな。

 

「ところで、ここの時間はどうなっているのでしょうか。このあとも予定があるのです」

 

「そうだったね。僕も時間経過は把握できなくてね、名残惜しいがそろそろ離れるとしよう」

 

「では最後に1つだけ」

 

 某刑事ドラマの主人公のように右手の人差し指を立てる。

 

「お父様。あなたは何者なんですか?」

 

 これはあえて、だ。実のところ、私自身はパパが具体的にどういう存在なのかは聞かされていない。知っているのは名前と個性、そして遺伝上の父親であることだけだ。

 

「こうして問われるなんて何年振りかな? 僕の存在は公然の秘密のように語られているからね。ああ、重ねて言葉にするのもときには必要か」

 

 パパが立ち上がり、両手を腰より低い位置で軽く広げる。

 

「僕は死柄木■■。オール・フォー・ワン。この世界の魔王となる者だ。なら、僕からも聞こう。君は何者だい?」

 

「……()は」

 

 瞬間、周囲の光景がスタジアムのものに切り替わる。どうやら特異点空間が終わったらしい。時間は……殆ど経過していない。

 

 いや、それにしても、私が何者かって。そんなのパパがよく知ってるはずじゃないか。いや、もしかして、私の前世について言っているのか? わからない。

 

「常夜、案内してくれないのかしら?」

 

 命が優雅に微笑みながらこちらを見つめている。さっきとは態度がまったく違うな。正体明かしたんだから当然か?

 

「……そうですね、行きましょう」

 

「呼び方だったら名前で呼んでくれればいいわ。そうそう、この体は基本的に私が動かしているわ。先生が表にいらっしゃるのは先生が求めたときだけよ」

 

 あ、この子パパの意思に服従させられているんじゃなくて、積極的に従ってるのか。いや、それどころか教祖みたいに崇拝までしてるなこれ。うへえ。いや、こうやって自分の意思を植え付けておくならこの方が都合が良いってのはわかるけど。いや、本当にそうか? パパが元々ある人格なんてわざわざ残したりするか? いや、表向きの活動をさせるために、命の言葉通りって可能性もある。いや。あるいは、もしかしたら。

 

「考え事? 莫迦の考え休むに似たりって言うわよ」

 

 ……確かに、ここで考えたって仕方がない。重要なのは目の前にパパの意思を宿した人間がいるってことだ。ここで何を話してもあとでパパに伝わるんだから気を抜けないことに変わりはない。

 

 それに、命以外にも意思を植え付けている子供が他にもいるはずだ。最終的に弔の体を乗っ取ろうとしているわけだから、そのための実験も兼ねているはずで、あのパパがぶっつけ本番で乗っ取りをやるわけないしね。個性因子と意思の関係、肉体と個性因子の関係、意思の覚醒条件、乗っ取りの条件などなど、念の入った研究をしているはずだ。脳無の製作と合わせるとさて、どれだけの犠牲者がいるのやら。脳無と平行することで個性と検体も共有できるんだから効率良いよな。

 

 私は弔のスペアだと考えていたけど、命のような存在こそがその役割を担っているんじゃないか? 他にも何人かいて、かつそれらがパパの友人、各国裏社会の要人に預けられているならもしパパ本体と弔が倒れてもリカバリーが利くだろう。しかも命のような存在はヒーロー側は知らないわけだから、悪の魔王を打倒しましたハッピーエンド、とはならないわけだ。あれだ、モンスターパニック映画のラストで倒したはずのモンスターの生き残りがいました的な演出が入るやつだ。

 

 そしてこれは私にとっても非常に困る。どこにどれだけいるのかわからないものをどう排除すればいいのか。いやまあ、ドクターの研究施設を調べればどこにいるのかわかると思うけど、少なくともパパがタルタロスに入るまでは無理だし。どれだけ手間がかかるやら。とりあえずは、目の前の命の情報ぐらいは確保しておかないと。

 

「そういえば、お父様の友人に預けられているそうですけど、その友人とはどなたなんですか?」

 

「あら、気になるの? 別に隠すようなことじゃないものね。大陸の神農公司よ」

 

「しんのうこうし?」

 

「知らないの? もっと世界に目を向けなくてはいけないわ」

 

 鼻で笑われた。良い性格してるねこの子。さすがパパの遺伝子を継いでるだけのことはある。

 

 だけど、世界について知らないってのはその通りで、せいぜいニュース記事ぐらいしか見ないからなぁ。

 

「それに、なぜこちらに?」

 

「先生の話を聞いていなかったの? 思ったより頭の血の巡りが悪いのかしら」

 

「……お父様がただそれだけの理由で来られるとは思えないので。他にもなにかしらの目的があるのでは?」

 

「当然じゃない、先生は1つの行動に2つも3つも意味を持たせるのだから。あなた、先生の名字を与えられているのにそんなこともわからないの?」

 

 なんか口悪いなこの子。まあ、どっかのお嬢様として育てられてるようだから、悪役令嬢タイプになっているのかもしれない。

 

「お求めの個性でもあるんですか」

 

「その品定めね。雄英高校には優れた個性が集まるわ。ならそこに注目するのは合理的でしょう? 例えるなら三つ星レストランの料理を目立つことなく頂戴するようなものね。それに、わざわざどんな個性があるか見せてくれるのだもの、関係者には労いの言葉でもかけてあげたいぐらいだわ」

 

 と言っても原作じゃ現役生からは奪ってないんだよね。林間合宿襲撃に紛れてラグドールの個性を奪っていたぐらいか。今は自分が使うためじゃなくて弔の体になってから使う用の個性を集めているはずだから、ベストジーニストの『ファイバーマスター』のように合わないって判断してたのかもね。

 

「でもあんなお遊びだけじゃ有用無用の違いなんてわからないわ。そ・こ・で、常夜、あなたは間近で見ているはずよね? おすすめの個性はないのかしら」

 

「そうですね、轟くんの『半冷半燃』、爆豪くんの『爆破』、常闇くんの『黒影』あたりでしょうか」

 

 実際この3人がA組でも特に強い個性だ。百の『創造』もレアかつ有用なものだけど、扱いにくいところがあるからね。創るものの構造を把握してないといけないし、脂肪も消費するし。

 

「熱系の個性は間に合っているわ。常闇……あの鳥頭かしら? 自身の影を操る、かつ個別に意識も持っている、なかなか進んだ個性ね。異形と混合しているのも良いわね。あれ、飛べるのかしら?」

 

「飛んだところを見たことはありませんが、本人の今後の努力次第でしょうね」

 

 原作で飛んでたよね、彼。確かダークシャドウに自分を抱えさせて、だったかな。いやどういう原理だよダークシャドウ。うーん、結構パワーあるから羽ばたきで飛べる、のか? 命の言う通り、鳥の異形系が入っているからかもしれない。

 

「あ、そ。浮遊・飛行系もあるから別にいいけど、捧げるにはもう少し熟してからの方がいいわね」

 

 これは自分も実感しているところだけど、個性には本人の技量による熟練度と個性そのものの熟練度が別個に存在しているんだよね。個性は身体能力の延長なのだから、当然と言えば当然だ。個性は使えば使うほど強くなる、と言うのは原作でもよく言われていることだけど、パパとしては使い込まれていない未熟な個性より成長した個性の方が良いんだろう。個別に運用する技量なんて高めてられないしね、パパって。私もだけど。ただ、ベストジーニストみたいに技量がないと運用が難しいものもあるから、そこはうまく見極めないといけない。あとは組み合わせることで強力になるものもあるから、ぱっと見役に立たなさそうな個性であっても活躍の場はあると言うわけだ。パパが使う場合だから限定的過ぎるか。

 

 と、通路の向こうから巨大な人影が現れる。

 

「おやっ、志村少女じゃないか! お昼ご飯を食べなくてもいいのかい!」

 

 うわっ、出たよオールマイト。マッスルフォームでなにやってんだ、こんなところで。あ、そうか、エンデヴァーと会ってたのか。振られてたけど。

 

「迷子の案内をしているんです」

 

「ほう! それは感心だな!」

 

 HAAHAHA! と胸を張りながらサムズアップするオールマイト。間近で見るとなんか違和感あるよね、この人。作画が違うとはうまいこと言ったもんだ。

 

「あ、あの、本物のオールマイトですか!?」

 

 命が喜びと興奮でいっぱいな感じで前に出る。この子も猫被るの得意ね。

 

「もちろんさ!」

 

 上腕二頭筋と胸筋を見せびらかすようなポーズを取るオールマイト。ファンサお疲れ様です。正直暑苦しいです。

 

「あ、握手してもらえませんか!?」

 

 握手好きだね……命が差し出した手をオールマイトがギュッと握り返す。端から見れば微笑ましい光景だけど、実態は平和の象徴と悪の魔王、の分体なんだから笑いをこらえるのが大変。

 

 わざわざ握手を求めた、と言うことは直接触れることでオールマイトが持っているはずの『ワン・フォー・オール』の状態を確認しようとしているんだろう。パパは『ワン・フォー・オール』の残り火とは何度か接触しているからそれでわかるわけだ。そしてオールマイトが残り火しか保有していなければ、当然継承者がいるわけだから、パパをそれを探し出そうとする。まあ、あっさり見つけたようだけど。

 

 それにしても、あの残り火ってのは何なんだろうか。『ワン・フォー・オール』が特異な個性なのはわかっているけど、誰かに渡したはずのものが残存するってのは奇妙だ。あー、もしかしたら継承時に渡しきれなかった力が残り火ってことなのかな。そもそもキャパオーバーで寿命を縮めてしまうぐらいだ、完全に継承できなくてもおかしくはない。となると無個性だったオールマイトはママからほとんど継承することができていたのかもね。結果、ママがパパにクソ雑魚呼ばわりされてしまうことになるのだけど。じゃあ、同じく無個性の出久くんは全ての力を継承しなかったのか、と言えばおそらくオールマイトが培ったものが膨大すぎたんだと思う。やっぱおかしいわ、このおっさん。

 

「やはりか」

 

「んっ? なんか言ったかい??」

 

「いいえなにも。ありがとうございました、オールマイト」

 

「ではオールマイト、また後で」

 

「最終種目も頑張れよ!」

 

 オールマイトの横を会釈しながらすり抜ける。ちらっと後を見ると“STAFF ONLY”と書かれた扉へ消えていった。

 

「それで、やはりと言うのは」

 

「予想通り弱っているってことよ。体も個性もね」

 

「個性が弱る?」

 

「あなたにはまだ実感がないでしょうけど、個性は病むし老いるし傷つくものよ。個性を別にしても、人間の能力には全盛期が存在する。未熟な個性も、老衰した個性も価値が低い。だからそうなる前に先生のものになるべきなのよ」

 

 しかしこの理屈、パパには適用されないんだろうか? オールマイトとの戦いで所有している個性を少なからず失っているって話だし、身体へのダメージが大きければ個性因子にもダメージがあるはずだし。あれ、オールマイトと戦ったときのパパって『オール・フォー・ワン』のオリジナルをドクターに預けてたんだっけ? パパのことだから、そのへんは怠りないだろうけど。

 

「弱っていてあれですか」

 

 呆れたように呟く。実際呆れているんだけど。自分と同レベルのパワーを持った脳無に競り勝つってどう考えてもおかしい。あの人、『ワン・フォー・オール』以外に何かあるとしか思えない。

 

「力を削り取れていることは間違いないから、あとは舞台を整えるだけね」

 

 一般客用の通路に出る。昼休憩の時間だけあってかなり混み合っている。ここから命の席に向かうのはなかなか面倒そうだ。

 

「ここでいいわ。最終種目頑張ってね、しっかり見てるから」

 

「それは、ありがとうございます」

 

 まったくありがたくないけどね。

 

 命が軽く手を振りながら、人混みの中をするすると歩いて行く。そしてほんの数秒で姿が見えなくなってしまった。関係者用通路を引き返しながら分身に『念話』をする。神農公司について調べさせるためだ。パパと繋がっている以上、知らずにいるわけにはいかない。まあ、調べたところでパパにとっては何の痛痒にもならないにしても、だ。

 

「……ご飯食べにいこ」

 

 なんかどっと疲れた。どう考えてもパパと接触したからだけど。だから嫌なんだよなもう。けどこれでわかったこともある。

 

 ……まだまだ私は、パパの掌の上ってわけか。まあ、いい。今はまだ準備期間だ。できる限りを積み上げていくしかない。

 

 食堂で適当な定食を注文する。ちなみに私の食事量は普段は人並みだけど、個性を多用するときは3、4人前ぐらい食べている。ギガントマキアみたいに『エネルギー効率』を使えばそんなに食べる必要はなくなるけど、私は食事も楽しみたいから忙しいとき以外はなしだ。

 

 それにしても、原作にない行動するなよパパ。原作に存在しない私の言うことじゃないけどさ。

 

 パパの厄介なところは原作知識が通用しないことだ。なにしろパパの目的が魔王として君臨する、と言うスケールが大きすぎてかえってふわっとした感じのものだから対策がしにくいことこの上ない。まあ、マスターピースの性質を考えるに、あらゆる個性と圧倒的な力で世界を支配下におく、そんな感じだろう。だけど、いかにパパが強大な存在になろうと国家と言う暴力が相手ならどうなる? それでもパパが勝つかもしれないけど、その結果残るのは荒廃した世界では意味がない。

 

 ああ、そうか、だからパパは一度身を隠したのか。もちろんマスターピースの調整のための時間が必要だから、と言うのもあるけどタルタロスをはじめとした各地の刑務所から多数のヴィランを解放することで混乱状態を誘発し、日本と言う国家を機能不全に陥らせる。日本のように経済規模が世界でも上位にある国家がそうなった場合、世界経済にどれだけの影響が出るだろうか。さらにパパのお友達を動かすことで、各国からの増援を阻止すると共に世界各国へも混乱を拡大させる。

 

 混乱は混沌、混沌は更なる混沌へ。

 

 それはかつての超常黎明期のように。思うに、パパの原点はそうした混沌にあったんじゃないだろうか。もちろんコミックの魔王のようになりたい、と思ったことも原点には違いない。だけど、混沌がなければ本気で魔王になろうだなんて思わなかったんじゃないか? 例のコミックを読んだのがいつ頃か知らないけど、世の中の秩序が維持されていたら、裏社会のフィクサーぐらいだったんじゃないかな。いや、これでも十分大物だけどさ。

 

 ある意味、パパはチートを得たために中二病のまま100年以上生きてきたってことなんだろう。私も人の事はあまり言えないけど。

 

 そして混沌の中から秩序が芽生える。もっとも、それは悪の秩序だけど。そうして魔王の時代が始まるのだ。

 

 パパの目論み通りいけばそうなるのだけど、失敗したときの保険を用意するのもパパらしいと言うか。

 

 ……はぁ、考えるのは帰ってからにしよう。私の悪い癖だ。今はこのあとの最終種目に集中しないと。

 

「常夜さん、こちらにいらしたんですか」

 

 丁度食べ終わると、百がやってきた。あ、ごめんね、スマホ控え室のロッカーに入れっぱなしだったから連絡つかなくて。

 

「迷子の案内してたら、時間かかっちゃって。それで、どうかしたの?」

 

「はい。実は――」

 

 午後は女子全員がチアガールの衣装を着て応援合戦をすることになっているらしい。当然百も聞き覚えのない話なのだけど、相澤先生からの言伝だから、と信じているようだ。

 

「えと、その言伝って誰から?」

 

「上鳴さんと峰田さんからです」

 

 うん、それ騙されてるよ、百。

 

 相澤先生が何か指示を出すならまず学級委員である私たちにするでしょうに。大丈夫かなこの子本当に。すっかり忘れてたけど、あいつらこういうことしでかしたな、そういえば。どうしようもねえなぁ、ホント。でもまあ、セクハラとは言い難いし、女子のクラスメイトがチアガールみたいな扇情的なコスチュームを着ているところが見たい、と言うのもわからなくもない。私は見られたくないけど。

 

「常夜さんの分も用意してあります」

 

「そうなんだ……」

 

 他のみんなはもう着替えに行っているらしい。いや、疑ってよ。そりゃまあ、私だって百のチアガール姿は見たいけどさ、私だけが見たいって言うか。

 

 まあいいか。良い気分転換になるかもしれないし。パパに見られるけど。

 

 あれ、ダメじゃね?

 

 

 

『ん? アリャ?』

 

『なーにやってんだ……?』

 

 パパッと着替えて会場に戻る。戻ったのだが。

 

『どーしたA組!?』

 

 A組女子陣が仲良くチアガール姿で現れたら目立ちもする。悪い意味で。みんな、なんとも微妙な表情をしている。

 

「騙しましたわね!?」

 

 百が犯人である上鳴くんと峰田に抗議しているが、あっちは「ひょー」とか言いながらサムズアップをしあっている。アホか。アホだったな。

 

「アホだろアイツら……」

 

 そして峰田の策略にはまってしまい項垂れる百。一方、透ちゃんは乗り気である。本戦まで時間も空くし、その間気を張り続けるのがきついのはその通り。

 

 それにしても、チアガールの服の心許ないこと! 露出度なんか私の水着より高いしヒラヒラしているから落ち着かない。これで激しく動いたならインナーが見えるし、いや、見えても大丈夫なやつらしいけど、見るのはともかく見られるのは気持ち悪い。制服以外で女性服なんて着ないから余計に気になる。気分転換になるかも、と思った自分の浅はかさを恨むしかない。

 

 それはともかく、最終種目の前にレクリエーションが挟まることになる。あくまで体育祭、全員が参加できるものも用意されているわけだ。そしてそれが終われば進出4チーム総勢16名から成るトーナメント形式の1対1のガチバトルだ。去年はトーナメント形式なのは同じでも内容がスポーツチャンバラだったことを考えると、露骨と言うか、強い雄英アピールに余念が無いと言うか。なお、トーナメント進出者はレクリエーションへの参加は自由となっている。

 

「んじゃ、1位のチームから順にくじを引いて」

 

「志村さん、最初行きなよ」

 

「この格好で行くんですか……?」

 

「ふふふ、似合っているよ」

 

「自分で着たんだろ、諦めろ」

 

 前種目のチームメイトからの温かーい声を受けて朝礼台に上がる。なんかミッドナイトもちょっと笑ってるし。でもま、ちょっと操作させて貰おうかな。

 

「組み合わせはこうなりました!」

 

 第1試合:芦戸VS尾白

 

 第2試合:常闇VS八百万

 

 第3試合:切島VS青山

 

 第4試合:爆豪VS麗日

 

 第5試合:緑谷VS心操

 

 第6試合:志村VS上鳴

 

 第7試合:瀬呂VS飯田

 

 第8試合:轟VS蛙吹

 

 

「げげっ、いきなり志村かよ……」

 

 私と当たることになった上鳴くんが呻いている。そりゃねえ、勝ち目ないもんね。操作と言っても出久くんと轟くんに当たるように調整しただけなんだけどね。

 

「緑谷って言うと、あの前騎馬の奴か」

 

「瞬間的なパワーはこの中でもトップクラスでしょうね。まあ、制御の方はさほどでもないようですが」

 

 呟く心操くんにそう教える。どこまでやれるか期待する、みたいなことを言ったのは私だしね。

 

「真正面から戦っては勝ち目はないでしょうね」

 

「なら、真正面から戦わなければいい。こっちの個性が嵌まれば俺の勝ち、嵌められなければ負けだ」

 

「いいですね、シンプルです」

 

「そう言うあんたはどうなんだ」

 

「次の試合でお待ちしていますよ」




土鈴院命(どれいいん みこと)
個性:『生命力略奪』『オール・フォー・ワン(C)』
常夜の“姉”にあたる。AFOと治癒系個性持ちの遺伝子を元に製造。
AOFの友人である神農公司代表に友好の証として預けられている。
“個性因子に宿る意思”の移植・肉体強奪の実験最終段階被検体でありその成功体。

余談だが、ヒロアカ二次作の没主人公の流用。
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