ラスボスの子に転生したのでNO.1ヒーローを曇らせたいと思う   作:タメガイ連盟員

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佐藤東沙様、ヴァイト様

誤字報告ありがとうございます。

遅くなって申し訳ありません。別作品書いてました。よろしければそちらもどうぞ。

おわせかふたりたび


16.体育祭5

 土鈴院命(どれいいんみこと)は気怠げにステージを眺めていた。

 

 艶やかな黒髪の毛先を弄ぶように、人差し指に絡めては解くと言う動作を繰り返している。整った顔立ちは一流の職人の手による人形の様でありながら少女らしい柔らかさ、瑞々しさを保っていて人工と自然の調和すら感じさせる。頭頂からつま先まで、骨格、内臓、筋肉、皮膚と一切の無駄なく完璧な均整が取れている。まさしく絶世の美少女と呼ぶに相応しい。事実、ステージそっちのけで彼女に注目している観客は数多いが、彼女はその全てを無視している。

 

 現在ステージで行われているのはレクリエーション、さきほどまでの障害物走、騎馬戦とは比較にならないほど牧歌的だ。実際、レクリエーションの時間は観客にとっては昼休憩の延長時間と見られているから、観客席も空きが目立つ。とは言え、最終種目の始まりが近づいてきているから、戻ってくる者も増えてきている。

 

「退屈そうですね」

 

 命の隣に座っている壮年の男性が中国語で話しかけてきた。そう言った彼もステージには注目しておらず、手元のタブレットを操作しながらだ。

 

「目の前のテーブルにお菓子がところ狭しと並んでいるのに、どれも手に取れないようなものだもの」

 

「それは、難儀なことです」

 

 彼の名は劉。神農公司日本支社社長と言う立場にある。神農公司はこの雄英体育祭のスポンサー企業でもあるため、スポンサーの招待枠の席に陣取っているわけだ。

 

 神農公司は中国大陸・上海に本社を置く製薬企業である。その傘下には医療、金融、重工、農業、流通、情報と言った企業を持ち、また大学経営も行っているため、人材面でも上海において強い影響力を持っている。その伸長は凄まじく、ここ10数年で中国全土は言うに及ばず、世界各地に支社を展開、勢力を驚異的なペースで伸ばしている。またその拡張には背後にいる中国マフィア・黒幣の存在がある。言うまでもないがこの黒幣はオール・フォー・ワンの“友人”であり、彼の中国大陸における足がかりでもある。つまり、神農公司は中国大陸の裏面のみならず表面すら実質的に支配しつつある勢力だと言って良い。

 

 また、そのような企業が日本に支社を置いているのはオールマイトによって1度は排除された日本国内の市場確保と魔王との関係強化が目的である。黒幣のようなマフィアにとって魔王との友好関係を深めることはメリットが多くデリメットが少ないと言う大変旨味のある話だ。魔王は自身に忠実な者には大変寛容であるし、こうして命を預けられているのは長年に渡る努力の成果であった。無論、邪魔者と見なされればあっさりと粛正されてしまうので常に彼への貢献を怠らないことが肝要だ。

 

 命をはじめとする『オール・フォー・ワン』のコピー、およびそれに内包される魔王の意思を宿す子供達。マスターピースに至るための最終実験の成功体ではあるが、ただそれだけに留まらず、本体のバックアップ、各地の統治者として利用されていた。

 

 魔王がいかに強大な力を持っていると言っても世界を支配するには物理的な限界がある。魔王の体は1つしか存在しないのだから。

 

 ならば彼の意思を代行する魔王の藩屏を各地に置けば良い。だが人間の欲望、野心は制御しがたいものだ。どれだけ優れた者にその役を任せたところで万全とは言えない。

 

 ではどうするか。魔王を増やせば良い。魔王の分身ならば、その意思に乖離が生じることはない。

 

「こちらをどうぞ」

 

 劉がタブレットを命に手渡す。その画面に表示されているのは体育祭の入場者とその個性の一覧だ。その中でも有用と思われるものがピックアップされている。

 

 命も『オール・フォー・ワン・コピー』を持つため、マスターピースのための個性集めを行っていたが、今年に入ってからはその作業を中止、個性蒐集はほどほどに、自分用として行うように本体から指示があった。これは弔が活動を開始した影響だ。ドクターもこの1年でマスターピースの最終調整、魔王の兵士となる脳無の製造とかなりの多忙となる。奪った個性をマスターピース用に調整するのもドクターの手が必要なので、流石に彼の負担を減らそうと言うことらしい。

 

 なお、命や常夜を製造するにあたっては、神農公司が人工子宮と言った機材やスタッフを派遣している。輸送には黒霧の『ワープゲート』を活用している。流石のこの個性でも上海から京都までを繋ぐことはできないので、神戸沖まで輸送船で運びそこから蛇腔総合病院の隠し施設へ転移させている。スタッフは通常手段で入国したのちに転移。現在では人工子宮設備は撤去、脳無用の設備に置き換わっている。

 

「そうね……これとこれ、それからこれにしようかしら」

 

「かしこまりました」

 

 会場に一般客として入場している護衛要員や会場外で待機しているスタッフ──実態は黒幣構成員たちに劉が指示を出す。この会場で直接奪うことはせず、帰路で拉致、奪取することになる。構成員の中には拉致やその証拠隠滅に適した個性、技能を持った者が選ばれているから警察やヒーローに察知される可能性は低い。それに個性が失われたとわざわざ人に伝えようとする者はごく僅かだ。いや、そもそも奪われた、と認識できる者がどれだけいるか。だからこそ、魔王の存在が表沙汰になることはなかったのだ。

 

 雄英生を対象にしたり、会場を避けるのはオールマイトに個性を奪ったことを気づかせないためだ。先月、脳無が捕縛されていて、その調査が進めば魔王との関連、そしてその生存の可能性に気づくだろうが、今わざわざそれを教える必要はない。まあ、気づいたところで何か手を打てるわけでもないのだが。せいぜいヒーロー公安に注意喚起をする程度だろう。つまり、イニシアティブはこちら側にあると言うことだ。命はヴィラン連合、死柄木弔を中心とした計画には関わらないが、妹の存在を含めてなかなかの見世物になるはずだ。少なくとも、この体育祭よりはずっと楽しめる。

 

 妹。そう、妹だ。

 

 その存在は以前から把握していたが直接会ったのは今日が初めてだ。当然、常夜以外の弟妹とも顔を合わせたことはない。本体との定期的な情報交換を行っていればそれで事足りるし、分体達に関わりがあることは伏せておく、と言うのが本体の方針であるためそれぞれに交流はない。

 

 だが禁じられているわけではない。命は普段、上海で生活しているが、先述の通り集めた個性を渡すために日本に渡ってきていた。本来ならば、そこで用は済んでいるのだから帰国すべきなのだが、そうはせずに日本に留まり続けている。こうして常夜に会いに来たのも、個性を奪おうとしたのも命の判断によるものだ。もちろん、事前に本体から許可を得てのことではあるが。

 

 命の人格は普段活動しているものと『オール・フォー・ワン・コピー』に宿る魔王の意思の2つが存在している。前者をA人格、後者をB人格としよう。

 

 本来ならば個性が発現する4歳程度まで人工子宮で育てられた命に『オール・フォー・ワン・コピー』が移植され、B人格が目覚めた時点でもう1つの人格が生まれるはずもなかった。当然だ、それまで眠り続けていた命には物心どころか精神と呼べるものがあったかどうかすら定かではなかった。だがB人格と言う巨大な幹から枝分かれするようにA人格は芽生えた。本来ならば摘み取ってしまえばいいのだが、魔王は女性体に移植された意識から芽生えたそれがどのように成長するのか、興味を覚えこのまま育てることにしたのだ。

 

 そうして8年の間にA人格はB人格をはじめ黒幣の幹部らから悪の英才教育を受け、魔王の代行を務められるだけの存在へ成長していた。ある意味、女性に生まれ変わった魔王その人なのだ、そうなってむしろ当然と言うべきか。そして、現代では些か奇妙な表現になってしまったが、A人格は“個性”と呼ぶべきものも得ていた。『生命力略奪』『オール・フォー・ワン・コピー』と言う“奪う”個性を2つ所持している影響か、あるいは元となったB人格の嗜好か、何かを奪うことに快楽を覚えるようになっていた。個性を奪い、生命を奪い、尊厳を奪い、愛する者を奪い、奪い、奪い、奪い続けた。その対象に不足することはなかった。なにしろ黒幣には競合者がいくらでもいたし、見せしめに使う裏切り者も掃いて捨てるほど存在していた。

 

 そして魔王は弟に執着し続けていた。ならばA人格が妹に興味を持つのは当然と言える。1度興味を持ったものは奪いたくなるのが彼女の性分だ。それにB人格も『個性創造』を欲していた。B人格が欲していたと言うことは本体もまた手中に収めようとしていることになる。わざわざ自分の名字まで与えているぐらいだから、常夜を強く求めていることは明らかだ。

 

 無論、本体の計画は定期的な情報交換で把握しているから、今日以上のことは当面の間はできない。その計画が完遂されたとき、本体は“マスターピース”、『ワン・フォー・オール』、『個性創造』を手に入れ、魔王として完成している。となれば命が『個性創造』を奪うことはできないのだが、あくまで命は魔王のサブシステムなのだから我慢するよりほかない。だが、それ以外のものならば話は別だ。たまには熟成させるのも面白いだろう。

 

「あなたの大切なものはなにかしら、常夜?」

 

 クツクツと嗤う命。

 

 視線の先にはチアガール姿で踊る常夜の姿があった。

 

 今はそうして楽しんでいればいい。いずれ、あなたの何もかもを奪ってあげる。

 

 

 

 


 

 

 

 

『レクリエーションは十分エンジョイできたかぁ!? 最終種目の前にステージに設営よろしくセメントス!』

 

 レクリエーション終了と共に退出する生徒らと入れ替えにセメントスがでかいホースと共に現れ、ホースから大量の生コンクリートが吐き出される。これがステージになるわけだ。にしてもセメントスの個性もかなり強力だ。コンクリートは現在でも建築に多用されているから、都市部での活動では無類の強さを発揮するだろう。実際、超常解放戦線の幹部を撃破してたしね。まあ、コンクリートがない環境ではきついだろうけど、確か“戦闘は自分の得意を押しつけるもの”と唱えていたのはセメントスだったはず、戦場の構築も手慣れたものだろう。身近に存在するものを操る個性、と言う点で繊維を操るベストジーニストに近いタイプのヒーローなのかもしれない。

 

「恥ずかしがってた割にはノリノリで踊ってたよね、常夜」

 

 クラスの控え室へ戻って着替えを始める。まだステージが完成するまで時間がかかるけど、第1・2試合に出る三奈ちゃんと百は個別の選手控え室で着替えるためここにはいない。

 

「あれはヤケクソと言うものではないでしょうか」

 

 うん、まあ、せっかくのお祭りなんだから、と言う三奈ちゃんや透ちゃんの口車に乗せられたところはあるけど、本場のチアリーディングに負けないダンスをしたつもりだ。終わりあたりに観客席を見たら、命がニヤニヤしながらこちらに手を振っていたのであいつはいつか締めようと思う。

 

「でもウチはこれで結構緊張ほぐれたかも!」

 

 とお茶子ちゃんは言っているがそうは見えない。相手があの爆豪くんだから怖いよね。どう考えても女子相手に手加減するようには見えないし。手加減なしはこの体育祭じゃ当然ではあるけど。

 

「でも相手は爆豪ちゃんでしょ? なにか策はあるのかしら」

 

「うん、まあ、一応」

 

「お茶子が勝つには爆豪くんに直接触れないといけませんし、彼の反射神経、戦闘センスはかなりのものですからかなり厳しい戦いになるでしょうね」

 

「ちょっと、せっかくほぐれた緊張を戻さんといて!」

 

「すみません」

 

「常夜ちゃん、たまに意地悪だよね」

 

「でも、戦うとしたら確かに爆豪と轟はやだな」

 

「うっ、屋内訓練のトラウマがッ」

 

「私寒いの苦手だから轟ちゃんはつらいわね。できる限りはするつもりだけど」

 

 梅雨ちゃんじゃなくてもきついだろうけどね、轟くん。しかもエンデヴァー絡みでちょっと苛ついているし。私も煽ったし。

 

「でも1番嫌なのは常夜ちゃんだよね」

 

「私が?」

 

「あんだけ暴れておいて何言ってんの、遠距離攻撃最強が」

 

「それほどでも……あるんですけど」

 

「否定はしないのね」

 

「自分でも強いと思ってましたし、そんじょそこらのヒーローにも負けないと思ってました」

 

 実際『念動力』だけでもかなりやれるからね。でもオールマイトは当然として、トップヒーロー相手は流石にきついかな。と言うか、あの辺になってくると個性抜きでも強いからなぁ。やはりフィジカルが最強か。マスターピースもオールマイト並のフィジカルを獲得することがポイントの1つだし。んー、私もそれなりに肉体強化してもらってるけど、成人体じゃないと大幅な強化は望めないんだよね。これ、脳無も同様で、素体はみんな成人者で、弔も成人するまで待ってたのかね、もしかして。

 

「でもあのとき、私の力は何も通じなかった。もし緑谷くんが体を張っていなかったら、もしオールマイトが来なかったら。私はまるで足りていないと思い知らされました」

 

 体操着の上着をつける。

 

 まあ、実際問題のあの脳無に勝てるヒーローなんて数えるほどしかいないだろうからね。勝てないのはしょうがない。エンデヴァーやミルコはギリ押し切れるだろうけど、やっぱり『ショック吸収』と『超再生』の組み合わせは凶悪だ。

 

「そういうわけですので、最終種目は遠慮会釈なく行かせてもらいますので、よろしくお願いします」

 

「全力で叩き潰します宣言してきたよ……」

 

「ははは……頑張れ、麗日、蛙吹」

 

「まず当たるまで大変やけどね」

 

 全員着替え終えたので指定の観客席に向かう。試合が近い選手以外は皆そちらにいるはずだ。こちらに気づいた飯田くんが大きく手を振っている。

 

「開始はまだみたいですね」

 

 さすがにステージを作るだけのコンクリートを流し込むには時間がかかるようだ。いくらセメントスがコンクリートを操れるからと言って、流し込むホースの強度まではいじれないからね。百がいないので透ちゃんと響香ちゃんの間に座る。ふと前の席を見ると、上鳴くんがなにやらスマホで動画を見ているようだ。これは……さっきの私じゃん! 

 

「録画してたんですか……?」

 

「えっ!? いや俺じゃねえよ! 配信の切り抜きだよ」

 

「切り抜き?」

 

 前世は言うに及ばず、この時代でも動画配信は人気コンテンツの1つだ。ヒーローにも動画チャンネルを持っていて、活動の様子を配信している者は数多い。それで収益を得られるようなヒーローは当然ビルボードチャート上位ばっかりだけど。配信業でも弱肉強食の世界とは。ホークスやミルコみたいに確実に人気が出そうなヒーローがやってなかったりする。移動能力が高いヒーローの活動配信はそれだけでウケるんだけど。そういう意味では瀬呂くんなんかはそっち方面でもやってけそうではある。

 

 それはともかく。

 

「あー、いるよね、個人で配信してる人」

 

「え、ありなんですかそれ」

 

「別に撮影が禁止されてるわけじゃないしね。それに公式の中継だとあんまり注目されないところも個人配信なら拾ってくれることあるしね」

 

 あー、なるほどね。中継は満遍なく映す方針だけど、個人なら自分が推す選手を集中して追えるってわけか。しかも今年は1ーAが注目されてるから個人配信勢が盛り上がっていると言うことか。

 

「注目されてるのは志村と轟だけどなー」

 

 そりゃまあ、午前の競技でトップ争いしてたんだから、私達が注目されるのは当然だろうけど、それでなんでチアの動画が切り抜かれてるんだ? と言うかついさっきなのに早くない? 

 

「あれだけ暴れてた奴があんな可愛い衣装着てるんだぜ? 注目されるに決まってるじゃん」

 

「うわー、いろんな角度で撮られてるよ! あ、私も映ってる!」

 

「えぇ……」

 

 透ちゃんは一緒にいたんだから映り込んでるだろうけど……邪な視線を感じると思っていたけど、そういうことか! こんなことなら乗らなきゃ良かった。

 

「もしかして、常夜ってこういう方向で注目されるの苦手?」

 

「まあ、そうですね。競技の方で注目されるのは構いませんけど……と言うかいつまで見てるんですか、上鳴くん」

 

 慌てて動画を閉じる上鳴くん。そういやこいつ、あの衣装を着る原因の片割れじゃん。許さん。

 

「試合のときは覚悟してくださいね?」

 

「ウェエエ!?」

 

「ごしゅーそーさま、上鳴」

 

 合掌。ま、私も鬼じゃないから見せ場ぐらいは作ってあげよう。

 

『ヘイガイズ! アァユゥレディ!?』

 

「むっ、みんな、始まるようだぞ」

 

『色々やってきましたが! 結局はこれだぜガチンコ勝負! 頼れるのは己のみ! 心・技・体に知恵知識! 総動員して駆け上がれ!』

 

 完成したステージ上に三奈ちゃんと尾白くんが現れる。主審は引き続きミッドナイトが担当、ステージを作ったセメントスはそのまま副審になるらしく、ステージ脇に椅子を作ってそこに座っている。コンクリートだから固くないですかそれ。

 

 ルールは至ってシンプル。相手を場外に落とすか行動不能にする、“まいった”など敗北を宣言させることで勝利になる。負傷してもリカバリーガールが治してくれるので加減なしで戦うことができる。もちろん命に関わるような攻撃をした場合は失格。ヒーローはヴィランを捕まえることが目的だからだ。

 

『じゃあさっそく第1回戦行ってみよう! レディイイイ! ゴオオオオ!!』

 

 個別の試合はさくっと流していこう。

 

 まず第1試合は三奈ちゃん対尾白くんだ。どちらもフィジカルに優れているが、武術を習得している分、尾白くんが優勢を保ち続け場外へ押し切った。三奈ちゃんの個性も応用幅が広いけど、地力がものを言うタイマン勝負だと不利になりやすい。個性が物を言う世の中だけど、だからと言って個性だけじゃダメってことだね。

 

 続いて第2試合、常闇くん対百。百は常闇くんの弱点に気づいていて、それをつけるものを『創造』で作ろうとするが、常闇くんも弱点が露見していることは気づいているので速攻をしかける。結果、百は作ったものを使う暇もなく場外に。うーん、百も私と空手とかやってるからそれなりに格闘戦はできるはずなんだけど、どうも個性に頼る傾向が強いんだよね。そりゃ小さい頃から訓練し続けてるから使用に自信があるのはわかる。けど、『創造』は作り慣れているものは別として、発動から完成までタイムラグがある。今回のように常闇くんの弱点である光を発する物となると構造が複雑なものになるから、攻撃をされる隙ができてしまう。やり方次第では勝ち目のある試合だったんだけどなぁ。

 

 第3試合。切島くん対青山くん。青山くんの『ネビルレーザー』はなかなかの威力なんだけど、直進しかしないし、正面にしか撃てないから意外と回避しやすかったりする。でも切島くんは避けない、正面から受けた。暑苦しい少年だ。でもそういうところ嫌いじゃないよ。それはともかく、レーザーを『硬化』で受けきった切島くんは青山くんとの距離を詰めていく。しかし、青山くんも接近戦に持ち込まれては勝ち目がないのでレーザーの反動を利用して距離を取る。詰める、離れるを何度か繰り返していたが、最終的に逃げ場がなくなった青山くんが場外へ転落して敗北。

 

 第4試合。お茶子ちゃん対爆豪くん。こちらはほぼ原作通り、爆豪くんの攻撃を利用して破壊させたステージ片を『ゼログラビティ』で浮かせ、それを降り注がせると言う捨て身の戦法は爆豪くんには通じず、お茶子ちゃんはそれまでの消耗で行動不能になってしまい敗北。自他の個性をうまく使った戦いだったけど、実力差を埋めることはできなかった。

 

 さて、私も控え室に移動しますか。第5回戦を直接見られないけど、『千里眼』でどうとでもなる。

 

 で、その第5試合は出久くん対心操くんだ。原作と違い心操くんの個性を知らない出久くんはあっさり『洗脳』にかかってしまうが、『ワン・フォー・オール』の謎の指爆破で復帰。心操くんを場外へ投げ飛ばしての勝利だ。いやしかしあの爆破はホントなんだったんだろうね。『ワン・フォー・オール』の中の人たちは出久くんへの直接干渉はまだできないはずだから、やっぱりオールマイトとの共振みたいなもんだろうか? あの人確か『ワン・フォー・オール』に直接精神を宿しているようだし。類似した現象がこれ以降起きてないから謎のままなんだよなぁ、結局。

 

 それにしても、負けた方のフィジカル不足が目立つ展開だった。まあ、お茶子ちゃんはフィジカル十分でも勝てたかどうか怪しいし、百だって別に不足していたわけじゃないからそれだけで勝敗が決まるわけではないんだけど。そして負けた人の中で注目すべきはやはりお茶子ちゃんか。強敵相手に怯むことなく挑んだ精神は賞賛に値す……いや、ガンギマリすぎない? そりゃ別のヒーロー漫画の名台詞にあるように、たとえ敵わなくても立ち向かわなきゃいけないときだってあるにしてもだよ? 出久くんとはある意味お似合いなんだけど、彼とはむしろブレーキ踏んでくれるタイプじゃないと危なくて仕方がない。

 

 ステージへ向かう途中、戻ってきた心操くんに出会う。次の試合で待っている、なんて私が言ったからか少しばつが悪そうだ。

 

「普通科で唯一の最終種目進出でしたし、来年のヒーロー科への転科へ向けたアピールにはなったんじゃないでしょうか」

 

「だと良いけどな。まさか破られるとは思わなかった。何なんだあいつは」

 

「そこは私にも何とも言えませんね……では次の試合がありますので」

 

「ああ……頑張れよ」

 

 手を振って心操くんのエールに応え、大歓声が待つステージへと出る。

 

『1位・1位とトップを独走! 誰か止められる奴はいないのか! ヒーロー科・志村常夜!!』

 

『対するはスパーキングキリングボーイ! ヒーロー科・上鳴電気!!』

 

 さっきは覚悟しろ、とは言ったけど開始早々ダウンを取ったりはしない。先手は譲るつもりだ。完勝を狙うなら相手の攻撃を完全にしのぐのがいいからね。

 

「志村が強いのはわかってるけどよ、俺の個性が通じないってわけじゃねえ。だから、この試合、一瞬で決めさせてもらうぜ」

 

「そうですか」

 

 戦意旺盛で大いに結構。

 

「どうぞ、やってみせてください」

 

 圧を込めつつ低音の声色で返す。

 

「……ッ! ああっ、やってやろうじゃねえか!」

 

『YEAH! 気合い十分だな! そんじゃSTART!!』

 

 さて。私の、“志村常夜”としての個性である『念動力』は手を触れずに物を動かしたり、衝撃波を起こすことができるけど、総体として見た場合はある種のエネルギーを操ると言うのが実態だ。私自身それに気づいたのは去年の話だったりする。どうも私が『念動力』として想像したものの最適な形態として『個性創造』が設定したらしい。我が個性ながらよくわからない挙動をしているけど、そこはいい。つまり何が言いたいか、と言うと電撃もエネルギーの一種であり、私はそれに干渉することが可能なのだ。もちろん、相手は雷なのだから雷速で放たれるそれを回避したり干渉したりすることはほぼ不可能だ。おそらく昼休憩中に蓄電したであろうそれの全てを放つだろうから、いかに私の肉体が強化されていると言っても無傷では済まない、気絶することはないにせよ。

 

 ではどうするか。

 

 『念動力』のエネルギー操作の応用で、エネルギーの通り道を作っておくことで電撃を体外に流してしまうのだ。これによりダメージを大幅に軽減することができる。まあ、着ている体操服はもろに食らうことになるからボロボロになっちゃいそうだけど。あとは火傷も少しはするかも。それぐらいの方がそれっぽいからいいか。うん、こんなものでいいか。初めての試みだから加減がいまいちわからない。

 

「行くぜぇ!!」

 

 上鳴くんがこちらとの距離を詰めてくる。一瞬で決めると宣言している通り、最大出力で攻撃してくるつもりのようだ。出力を絞ればある程度指向性をもたせられるようだが、全力の場合そうすることもできず周囲に放出することになる。多勢が相手の場合はともかく、1対1では無駄撃ちになってしまう部分が出てくる。それを少しでも減らすには接近するしかないわけだ。まあ、私が既にエネルギー路形成してるからそれに沿っちゃうんだけど。

 

 形だけ両腕を顔の前で交差させて防御姿勢を取る。と同時に閃光。想定通り電撃はエネルギー路を通っていったようだ。けど代わりに服はダメージを受けてしまっている。

 

『うおまぶしッ! 強烈なフラッシュだ! つーか大丈夫これ!』

 

 私は大丈夫だけど、これ観客は大変なんじゃないか? プレゼントマイクはサングラスつけてるからいいだろうけど。防御を解いて肩についた埃を払うような仕草をしてみる。うーん、上鳴くんは、あ、ウェイモードになってるね。

 

「ふぅ」

 

「ウ、ウェエ!?」

 

 驚くのはいいけど日本語喋ってくれないかな。アホになるのは知ってるけど、これはちょっとなぁ。下手すると役立たずになっちゃうわけだし。あ、人質に取られたことあったね、そういえば。

 

『おおっ! あれ直撃して無事なのかよ! タフだな!』

 

『……いや、直撃は避けてる』

 

『は!? 避けたってのか!?』

 

『避けたと言うより、電撃を逸らしているな。通常の雷撃とは異なる軌道をしていた』

 

『お前眼良いな!?』

 

 いや、見えてたの? 眼が資本の個性とは言え、そこまで見えるもんなの? 『抹消』の効果は視力に影響されるものだから、相澤先生も視力の維持にはかなり気を遣っていることだろう。ちなみにこれは私が自分で使って確認したことだ。どうやら相手が人間である、と認識できる程度には見えないと効果がないらしい。視力が良ければその分遠くの対象を『抹消』できるわけだしね。ドライアイのせいで長時間連続して使えないって難点はあるけど。

 

 さて、相澤先生のことはともかく、アホの子になっちゃった上鳴くんをさくっと負かしてあげよう。どうしよっかなぁ。

 

「確かにあなたの個性は強力ですが、次の手を用意していないのは考えものです。事実あなたはこうして何もできない状態に陥っています。試合だから負けるだけで済みますが、実戦では文字通り命取りです。それにあの規模での放電は無駄撃ちが多いので何らかの手段で指向性を持たせることをお勧めします……とまあ、こういうのは先生方の領分ですね。失礼しました」

 

 指鉄砲にした右手を上鳴くんに向け、“巨人の手”を発動させる。

 

「それでは、お疲れ様でした。BANG!」

 

 衝撃波で場外に吹き飛ばされていく上鳴くん。まあ、いくら思考力が落ちているとは受け身ぐらいは……できないんかい! いや、マジで危ないなあの状態。対策は本人と先生に考えてもらうにしても。

 

「志村さん、第2回戦進出!」

 

 観客席に一通り手を振ってからお辞儀をしてステージを降りる。相手がのびていても挨拶は大事。

 

 控え室に戻る前に服がボロボロになってしまったのでミッドナイト先生に替えの体操服がないか尋ねる。その控え室に着替えが用意してあるんだとか。

 

 控え室に着いたら部屋の隅に詰まれている段ボール箱から自分に合ったサイズの体操服を探し出す。上下共に脱いでしまう。これ、結構良い素材でできるからそうそう破損するようなものじゃないはずだけど、あの電撃には耐えきれなかったわけだ。そしてこの体操服が無事で済まなかったと言うことは、当然インナーもダメになってしまっていると言うことだ。こっちも用意してあるのはありがたいことだ。コスチュームの方なら耐えきれたんだろうけど。ちょっと焦げ臭いし、ブラも脱いでおこう。んー、私に合うサイズのは、っと。

 

 さて、次の相手は出久くんだ。どうしようかなぁ。原作より強くなってるけど、半年ぐらい先取りしているぐらい、だと思う。『ワン・フォー・オール』も20か30ぐらいまで。せめて『黒鞭』が解放されて欲しいところだけど、無い物ねだりか。現状じゃ『念動力』なしの私でも問題なく勝てちゃうからなぁ。身体能力は伸びているけど、他の部分が等閑だったから素人に毛が生えた程度なんだよね。気合いは人並み外れているからうまくカバーできているけど。んー、できるだけ実戦経験積ませた方がいいのかなぁ。学校でも模擬戦をやるけど、ヴィランとの実戦、悪意を持った相手との戦いに慣れてもらわないと。パパって威圧感やばいからね。原作でも強いヴィランと戦ってるけど、その度怪我してるし。

 

 うん、間接的にとは言え、パパも見てるし完勝狙いで行こうか。それに授業や訓練は別として、出久くんと直接戦える数少ない機会でもあるし、出久くんの足りないところを指摘するのはグラントリノの仕事だと思うけど、私が指摘しても問題あるまい。

 

 半裸であれこれ考えていると扉が開かれるのに気づく。

 

「んぇ?」

 

「お」

 

 扉を開けた轟くんと目が合う。

 

 しばしの沈黙。

 

「悪い」

 

 閉扉。

 

 ………………淡泊だな、轟くん。




常夜が「BANG!」ってやるのはチェンソーマンのマキマの真似である。
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