ラスボスの子に転生したのでNO.1ヒーローを曇らせたいと思う 作:タメガイ連盟員
誤字報告ありがとうございます。
のんびり着替えていた私も悪いのでさっさと新しいブラと体操服を着る。
それにしても、轟くん、裸の私を見てしまってから、すぐに視線を顔だけに集中していたな。あれだとちゃんと私の胸が見えたかどうか。やらしい意味ではない。私の胸にはこの間の手術の跡が残っている。なぜかはわからないけど、私は傷の治りが遅いらしく、手術跡もばっちりあるわけだ。これで百みたいに乳房が大きければ隠れて見えないところだけど、遮るものがないので見逃す心配はあまりない。はず。
でも彼が女慣れしてるとも思えないんだよなぁ。お姉さんがいるとは言え、生活空間も分けられていたはずだし。だからこういう場面で適切な対処ができるのは、天然だけど常識はわきまえていると言うことかな。
でも、ちゃんと見てくれていたらいいなぁ。
そりゃ右目の眼帯だってそれなりに効果はあるけど、死にかけた証が体に刻まれているのを見た方がより印象深いはずだ。
轟くんは小さい頃からエンデヴァーに鍛えられてきたし、模擬戦だって重ねているだろう。でもあのときのような修羅場の経験はない。いや、普通はないんだよ、学生には。ヴィラン犯罪に巻き込まれたとかならともかく。ん? あれもヴィラン犯罪ではあるのか? そこはともかく、私が1度死にかけているのを思い出してくれたらいいな、って思う。まあ、それで試合のときに加減されちゃ困るんだけど。彼はしないと思うけども。うーん、今日の半日で轟くんから私への評価は目まぐるしく変わっているからどうだろうなぁ。
とりあえず控え室を出ると、轟くんが壁に寄りかかって待っていた。
「すみません、お待たせしました」
「一応、ノックはした」
「あー……そちらもすみません、気づかなかったようでして。それに見苦しいものまで見せてしまったかも」
「いや」
轟くんの視線が私の胸あたりをうろついてから、明後日へと向かう。気になってはいるようだ。長居しても仕方がないので席に戻るとしよう。
「順調にいけば当たるのは準決勝ですね」
「……」
返事はない。直接戦うことに関してはこれ以上言葉を重ねる必要はないってことか。
「ただいま戻りました」
「おかえりー」
試合前とは席の配置が少し変わっている。響香ちゃんや透ちゃんが気を利かせて百の隣を空けておいてくれたようだ。
「2回戦進出おめでとうございます」
「ありがと。百は残念だったけど」
やはりいくらか落ち込んでいるらしく、声に力がない。百にとってはいまいちな成績だったから無理もない。こればっかりはなぁ、私がどれだけ良い結果を出しても百にはプラスにならない、それどころか余計気分を沈めることになるだけだし。いや、こういう表情を見る機会って少ないからもうちょっと、うん。落ち着け。
「お茶子も残念でしたね」
「うん」
気丈に振る舞っているけど、こちらも目の周りが腫れぼったくなっているから、悔し涙を流したのだろうことが窺える。相手が悪かった、と言えばそこまでだけど、勝ち筋がなかったわけでもない。それだってあまりにも細い細い道で、結局お茶子ちゃんは転落してしまったわけだけど。爆豪くんは戦闘の才能に関して言えばピカイチだ。長じれば──己の才能に慢心することなく弛まぬ鍛錬と実戦経験を積み上げれば全盛期のオールマイトとも正面切って戦えるぐらいにはなれると思う。勝てはしないけど。
そんな爆豪くんに警戒させただけお茶子ちゃんは大したものだと思うよ。何の慰めにもならないから言わないけど。
「お茶子の場合、相手に直接触れないといけない、と言うのがネックですね。なら解決方法は地道に格闘技なりを修めて、相手に近づけるようになるしかないですね」
「……だよね」
「ただコンクリートブロックを浮かせて相手にぶつける攻撃は良いアイデアだと思いますので、あれも発展させれば強力な武器になるはずです」
繰り返しになるけど、結局は体が資本、極論すれば拳で相手を殴り倒すのがヒーローと言う仕事だ。その究極がオールマイトなわけだけど。ちなみに三奈ちゃんからもコメントを求められたけど、こちらも勝てなかったわけじゃないので実戦経験を積もうね、と言う結論になる。
さて、第7試合。飯田くん対瀬呂くん。飯田くんは高速移動を得意とし、瀬呂くんも『テープ』を使った高速移動が得意、と言う異なる方向性の高速タイプの対決だ。ただ勝負としては7:3……いや、75:25ぐらいで飯田くんの方が有利だろう。まず身体能力、これは圧倒的に飯田くんが上。以前の個性把握テストでも飯田くんは上位だけど瀬呂くんは下位、それでも同年代の平均程度ではあるんだろうけど、個性抜きでも飯田くんが上なのは明らかだ。個性の方だけど、瀬呂くんも高速移動ができると言っても周囲に『テープ』をくっつけるものがある場合で、この試合会場のように何もない平坦な場所では使えない。まあ、テープの射出速度はかなり速いし、粘着性もあるから捕縛能力はかなり高いのでやりようはあるのが救いか。とは言え、捕縛できても場外に落とさないといけないから飯田くんが黙ってやられるわけもない。
それにしても、プレゼントマイクって失礼な人だよなぁ。瀬呂くんが地味顔なのは同感だけど、わざわざ言うことか? それに飯田くんは中堅呼ばわり。必ずしも悪い意味ではないんだけど、トップを目指している人間に言う言葉じゃない。デリカシーに欠けるってのはああ言う人に向けられる言葉なんだな。
そこはともかく、試合自体は飯田くんがうっちゃりで勝利した。瀬呂くんが開始速攻で飯田くんを捕縛したものの、飯田くんは構わず瀬呂くんに向けてバースト。テープを捕縛に使っているため動きが制限されてしまった瀬呂くんは対応できずにそのまま2人で場外に転落。飯田くんは瀬呂くんの上に乗って地面についていない、と言うことで勝利。試合展開はスピーディだけど、どちらも自分の個性を活かした内容だった。
続いて第8試合。轟くん対梅雨ちゃん。これは梅雨ちゃんが自分で相性が悪いと言っていた通り、非常に不利だ。そして特に波乱もなく轟くんの氷結で足と周囲を凍らされてしまった時点で梅雨ちゃんはギブアップ。これはもう本当に相手が悪かったとしか言い様がない。轟くんも梅雨ちゃんが寒さに弱いのを察していたようだし、派手に氷塊を作ったりしていない。私の体を見て少し頭が冷えたのか、それとも私と当たるまで温存するつもりなのか。
第2回戦は
第1試合:尾白VS常闇
第2試合:切島VS爆豪
第3試合:緑谷VS志村
第4試合:飯田VS轟
と言う組み合わせになった。
「女子は常夜以外脱落かぁ」
元々A組女子は戦闘向きの個性の人がいないからね。B組だと拳籐さんとポニーちゃんは戦闘向きと言えるかな。どんな個性であっても武器にしていくのがヒーローと言うものだけど、そもそもそれができるようになるためのヒーロー科なのだから、入学して1ヶ月程度じゃ戦闘向き個性持ちに勝てないのはしょうがないんだけどね。だからこそ例年なら1年生ステージはそこまで注目されないんだけど、今年はA組がヴィランを撃退した、と言う実績を作ってしまったため、大いに注目を集めているわけだ。で、そこで活躍すればその後の注目度は例年の比ではないって、わけだ。まあ、その分2・3年生がちょっと割を食うかもしれないけども、そこは我々1年生のせいではない。文句があるならパパと弔とオールマイトに言ってくれ。
「そうだよ、頑張ってね常夜ちゃん!」
「負けるつもりは毛頭ありませんが……」
ちらりと出久くんに視線だけを向けると、なにやらブツブツ言っている。いつものアレなわけだが、内容は主に私と轟くんの個性の考察と対応だ。
「大丈夫なんですか、彼」
「デクくん、たまにああなるけど、大丈夫だと思うよ」
本人的には緊張でいっぱいだろうね。オールマイトに活躍しろ、って言われているのに今のところパッとしていない、なのにこれから当たるのは強い人ばっかり、これじゃオールマイトとの約束を守れないぞ、と言ったところだろう。原作だと轟くんの事情に意識をだいぶ持って行かれていたけど、その辺は私が担っているので出久くんは目の前の試合に集中できるわけだ。できても勝ち筋が見えるわけではないけど。現状の出久くんじゃ私は当然、轟くんにも勝つのは厳しいからね。
さて、第1試合、尾白くん対常闇くんだ。直接打撃しか攻撃手段のない尾白くんでは攻防共に優れるダークシャドウを破ることはできず、数分粘ったもののギブアップ。日光の下では弱体化すると言うのにこれだ。ダークシャドウさえどうにかしてしまえば本体の常闇くんはそんなでもないんだけど。
第2試合、切島くん対爆豪くん。開始早々から切島くんが積極的に攻め、爆豪くんも攻撃するが手数は控えめだ。これは切島くんの猛攻に手が出ないと言うよりは様子見と言ったところか。爆豪くん自慢の『爆破』も切島くんの『硬化』には有効打を与えられていないから弱点を探っているわけだ。こういうところは冷静だけど、それを性格の方にも反映してもらいたいものだ。『硬化』は防御力もさることながら、相手の攻撃を防げると言うことから安心して積極的な攻撃を行えるし、体が硬くなっているからその分攻撃力も上がるなど攻防に優れた個性だと言える。だけど発動型であるため意識して使用、つまり気を張り続けなければいけない。そして長時間そのような状態を維持するのは困難、どこかで必ず綻びが生じる。当然それを見逃す爆豪くんではない、『硬化』が崩れたところを一気に攻め立てノックアウト。
そして第3試合。
『ここまでの成績は悪くないがその自信のない顔はどうにからないのか! 緑谷出久! 対! こいつの快進撃はいつまで続く!? 志村常夜!』
ステージ上で出久くんと対峙する。そういえば、訓練を含めても彼と直接対決したことはなかったな。同じチームになることは度々あったけど。
左足を前に出し、右足は後ろに下げて半身の構えを取る。
さて、出久くんはどういう対策を考えてきただろうか。自分も言うのも何だけど、私の『念動力』はかなり対策がしづらい。見えない、匂わない、聞こえない、ついでに味もしない。一応発動地点は温度が上昇しているのだけど、ほんの一瞬だし感知できるのは熱が関わる個性持ちかつ使い慣れている人ぐらいだろう。『ワン・フォー・オール』はパワーに優れた個性だけど感知能力は継承者の地力だからオールマイトならともかく出久くんに避けることはできない。“
『START!!』
合図と共に出久くんがこちらへ駆け出してくる。接近しなければ何もできないんだからそうするしかない。じゃあ、どれぐらい成長したか見せてもらおうかな。
初撃、駆ける勢いと『ワン・フォー・オール』の……んー、5%ぐらいかな? を乗せた右ストレート。最初に右から来るの、爆豪くんの影響かな。軽く身を沈めて躱し出久くんの背後に回る。
出久くんは大振りが外れてたたらを踏むけど、すぐに私に向き直り今度は左でのミドルキック。これも後に下がって避ける。うん、『ワン・フォー・オール』の制御はうまくできているみたいだ。一撃ごとにきちんと乗せている。けどそのせいでこちらからはエネルギーの流れがわかるのでかえって回避がしやすい。
『緑谷が攻める攻める! が、当たらない! 掠りもしない!』
原作でも誰かに指摘されてたと思うけど、動きが直線的なんだよね、出久くん。格闘は素人同然だから仕方ないんだけど、攻撃の始点と終点である目標がまっすぐ一本線で結ばれているから容易に回避できる。パワーとスピードはあるから私ぐらいの動体視力がないとできないことではあるんだけど。
「避けてばかりでは芸がないので、少しやり方を変えます」
今度は足を止めて、出久くんの攻撃をカンフー映画よろしく流し、止める。これ、やってみたかったんだよね。その辺のチンピラだとすぐ武器と個性に頼るからなかなか機会がなくて困る。
んー、ふふふ、それにしてもいい顔するね出久くん。その焦燥に彩られた余裕のない表情! 別に男は好きじゃないけど、これはどれだけ見ても飽きが来ない。出久くんは特にこういう表情が似合うからそれを間近で楽しめるんだから雄英祭万々歳だ。とは言え、ずっと楽しんでいるわけにもいかないのが悲しいところだ。
「こんなものか」
ボソリと呟いてみせる。出久くんには微妙に聞こえないぐらいで。
「そろそろ、こちらからもいかせてもらいます」
出久くんの懐に潜り込み、両掌打を胸に打ち込む。身長差もあるので打ち上げる感じで。
「がぁ!?」
『ここでついに志村の攻撃がクリーンヒット! 緑谷が宙に舞う!』
背中からステージに落ちる出久くん。胸と背中を打ったことで息が詰まったのかすぐには起きられないようだ。それでも気合いか根性か、なんとか立ち上がってきた。
『シリアスなダメージみたいだがまだ闘志は消えてないみたいだな!』
『地力の差がもろに出ているな。本気であっても全力ではない』
指鉄砲を出久くんに向ける。強引に距離を取った、と言う形になったと言うことはこちらの一方的な攻撃のターン。“
「BANG!」
衝撃波を連続して各所に当てていく。その度に出久くんは倒れかけるけど堪え続けている。自分の体を壊すような真似を何度もするもんなぁ、ガンギマリすぎない? ちょっと引くわ。まあ、出久くんの根性アピールを手伝ってばかりでも仕方ないからそろそろ決めるかな。その前にひとつ確認。
「さて、このまま続けてもそちらに勝ち目があるとは思えませんし……ギブアップしますか?」
ダメージのせいで息を荒くしながらも、私の宣告を否定するようにファイティングポーズを取る出久くん。だよねー。
「そうですか。なら」
ステージの一部を『念動力』で石切のように一辺1mぐらいのサイズで切り出して、空中に持ち上げる。んー、3トンぐらいかな。お茶子ちゃんもコンクリ流星群やってたし、ステージを武器に変えちゃいけないってこともないでしょ。
『コンクリートの塊が宙に浮く! そいつでなにをする気だぁ!?』
『あぁ……あいつもお節介なことだ』
そう。出久くんを倒すためならわざわざこんなことをする必要はない。つまりこれは出久くんのアピールのためだ。これぐらいのコンクリート片なら『ワン・フォー・オール』ならワンパンでしょ? 審判役の先生達も出久くんのパワーは知っているから止めないはずだ。とは言え、このままコンクリート片に衝撃波をぶつけて飛ばそうとすると壊れてしまうのでちょっとズルして衝撃波を当てる部分だけ『遠隔硬化』で補強しておく。
「では、行きますよ? “
右腕で軽く投球するようなフォームを取ってコンクリート片を射出する。と言っても速度は軽くボールを投げた程度、時速100kmいかない程度だ。それでも到達時間に余裕はないので出久くんはすぐに避けるか迎え撃つかの判断をしなくてはならないわけだけど。その場に留まって右腕を大きく振りかぶっている。避けても迎撃してくれるまで続けるつもりだから手間が省ける。投げると同時に出久くんの背後に回り込むために私も駆け出す。
「SMASH!!」
出久くんの右ストレートでコンクリート片が粉砕される。どうやら50%ぐらいで対応したらしい。腕は……壊れはしてないけど、だんだん赤色から紫色になっているから内出血を起こしているようだ。
「お見事です」
「え?」
私は出久くんがコンクリート片に気を取られている内に背後を取っている。ついさっきまで前にいたはずなのに驚くよね。背中から抱きつくように出久くんの首に二の腕を回して、締め落とす。所謂
「お疲れ様でした」
「勝者、志村さん! 準決勝進出!」
1回戦のとき同様観客席に手を振ってから一礼。ロボットに搬送されていく出久くんを見送ってからステージから離れる。
『一方的な試合だったなー。お前のところの生徒どうなってんだよ』
『勝手に育ってるんだ。志村に関しちゃ、少しばかり意外だけどな』
『意外って何が』
『第1回戦も、この試合も自分の方が上だと示すような戦い方をしている。自己顕示をするような印象がなかったんでな』
『この体育祭は外部のヒーローも見てるし、アピール目的だろ?』
なんか言われてるけどアピール目的なのはその通り。ただし、ヒーローじゃなくて観戦している民衆、それからクラスメイトにもだ。これからのことを考えて私の名前が知られた方がいいからね。
席に戻っている間に第4試合、轟くん対飯田くんが始まる。例によって『千里眼』で観戦だ。開始早々の轟くんの氷結を立ち幅跳びの要領で回避した飯田くんは“レシプロバースト”で加速した蹴りをお見舞いする。これはかなり強力だ。元々体格の良い飯田くんが『エンジン』で加速した蹴りはそれだけで必殺技になる。飯田くんは倒れはしたけどまだ意識はある轟くんの襟首を掴んで、場外へ投げ出すために駆け出す。そのまま格闘戦でダウンを狙ってもよさそうなものだけど、“レシプロバースト”は持続時間が短く轟くんの氷結を避け続けるのは難しいとの判断だろう。しかし、その途中で飯田くんの足が止まってしまう。轟くんが蹴りへのカウンターで排気筒を凍り付かせていたのだ。足が止まってしまえば良い的でしかなく、飯田くんはあえなく凍り付かされてしまい行動不能に。
「勝負を決めることに焦って轟くんの意識を奪わなかったのが敗因ですね」
「おかえりー。ってあれ焦ってたの?」
試合が終わったところで席に着いた。これでベスト4が出そろった。準決勝の組み合わせは
第1試合:常闇VS爆豪
第2試合:志村VS轟
となる。インターバルが挟まるとは言え、観客席に戻らなくてもよかったかも。常闇くんとはさっきすれ違ったし。と言うか、このインターバル、轟くんの氷を処分する時間も含まれてるんだよね。後処理の面倒な個性である。
「仕方がないとは言え、轟くんの氷結を警戒しすぎましたね。格闘戦に持ち込めるなら一気に意識を刈り取ってしまうべきでした」
「でもその轟くんが次の相手でしょ?」
「負ける気はさらさらありませんけどね。彼が左を使うのなら、話は変わってきますけど」
「左はこの体育祭では封じると仰っていましたわ。ですが、使わなければ常夜さんを破ることできるとは思えません」
轟くんもそこはもうわかってると思うんだけどね。実は氷結でも衝撃波の発動をキャンセルできないわけじゃないけど、よほど気温を低下させないといけないからあまり現実的ではない。むしろ冷気を操るタイプの個性ならいけたかもしれないけどね。異能解放軍の、なんだっけ、外伝みたいな名前の。あれぐらい個性を鍛えたらいけたかもね。それはともかく、そういうことなので、こっちは氷結でできた氷も衝撃波で問題なく壊せるし、逆にあっちは衝撃波を防ぐ手段がない。炎熱を使わない限りは。
原作だと出久くんが捨て身で本気を引き出していたけど、ここだと私がその役をしなくちゃいけない。自分で仕組んだことだけど、いざその場面が近づくとだんだん面倒くさくなってきた。でも“志村常夜”としては熱いヒーロー魂的なものをぶつけてあげないとなぁ。まあ、これで轟くんでも遊べると考えればちょっとした投資みたいなのか。
「うん。結局は彼次第だけど、手を抜いたままってのはいただけないからね」
「手抜き、ですか?」
「そうでしょ? 使えないならともかく、使わないなら手抜きだよ。彼の事情は理解してるけど、それ、私達には関係ない話だもの」
「右だけでも十分強いのに、わざわざ左も使わせるの?」
「ええ、その上で勝ちます」
話している間に第1試合が始まった。爆豪くんが攻め、常闇くんが防ぐ格好だ。個性の相性的に早く終わりそうだから控え室に行っておかないとダメか、流石に。
「じゃあ、私は控え室に行きますね」
席から立ち上がるとみんな激励の言葉を送ってくれる。当然、百もエールを送ってくれるのだけど。
うん、やっぱり、この表情、いいなって。
なんか、ムラムラする。
「常夜さん? どうかされましたか……わっ!?」
あっ、しまった、つい正面から抱きついてしまった。
どうしよ、誤魔化さないと。
「こ、こんな、皆さんの目がある場所で……!?」
「……誰もいなければいいの?」
ちょうど百の耳に私の口を近づけている状態なので百にだけ聞こえるような小声で。ちなみにお互い立っている状態でハグすると私は百の胸に顔を埋めることになる。
「そ、そういうことではありません!」
「ごめん。さっきはああ言ったけど、正直しんどいんだ、これでも。なるべく消耗は抑えたつもりだったけど、マックスが結構減っちゃてるから」
体力落ちてるのは事実だけど、1割減ぐらいなのでまだまだ余裕である。
「……」
「でも轟くんに全力を出させようって言うのは本気。でも、もしかしたら負けちゃうかもしれない。だから、その、ちょっとだけ勇気ちょうだい?」
「……はい」
百も抱き返してくれる。
1分ほど抱き合ってから離れる。周囲の注目がめっちゃ集まってるけど無視する。配信にも映されてしまった気もするけど、まあいいや。百分補給完了。
「じゃ、行ってくるね」
「はい、ご健闘をお祈りいたします」
「ねえ、葉隠、ウチらなにを見せられてんだろう」
「いいなー」
「いいな!?」
命ちゃん「へえ、その子がそうなの?」
当然見ている! こいつも!