ラスボスの子に転生したのでNO.1ヒーローを曇らせたいと思う   作:タメガイ連盟員

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路徳様、佐藤東沙様、あとりえ様、244様

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23.職場体験3

 翌朝。ナイトアイとグラントリノと合流して保須総合病院へ向かう。病院のロビーには飯田くんの職場体験先であるマニュアル(自己紹介してもらった)と頭部が犬の人が待っていた。犬の人は面構犬嗣、保須警察署署長である。

 

 うーん、未だにこう言う異形系の人には慣れないな。顔には出さないけど、見かける度にちょっとギョッとしちゃうし。異形系でも梅雨ちゃんや障子くんぐらいなら平気なんだけど。他のみんなは生まれたときからいるのが当たり前だから気にならないんだろうけど。

 

 それはともかく、みんなで出久くん達の病室へ向かう。用件を考えると、私とナイトアイはいなくても良いと思うんだけど、私も話を聞いておいた方が良いってことなんだろう。

 

「みなさん、おはようございます」

 

「起きてるな、怪我人共」

 

 それぞれ入室して朝の挨拶を済ませたら本命の面構署長の出番である。

 

 まずヒーロー殺しの容態。火傷に骨折、おまけに肺に骨が刺さって、とかなりの重傷で現在治療中とのこと。火傷は轟くん、骨折は飯田くんと出久くんだろう。肺に骨が刺さったのはツバサ君を攻撃したとき動き回ったのが原因だろう。そこそこの高さから着地したし、その衝撃かもね。

 

 しかし、資格未取得者である雄英生がヒーロー殺しを仕留めたのには問題がある。ヒーロー個人による武力行使が公に認められているのは先人がモラルとルールを遵守してきたことにある。それが保護管理者の指示なく危害を加えた、それがヒーロー殺しのようなヴィランであっても立派な規則違反だ。となれば当事者である雄英生3名、それに保護管理者であるプロヒーロー、エンデヴァー、グラントリノ、マニュアルには厳正な処分が下されなければならない。

 

 これに轟くんがかみつく。その規則違反がなければ死者が出ていた、規則を守って見殺しにすべきだったのか、と。人を救けるのがヒーローの仕事ではないか、と。

 

 うーん、この辺、覚醒した轟くんは熱いよね。ヒーロー適性が高いと言うか。目を閉じてるときに出会っちゃった風属性の熱血くんはご愁傷様だけど。

 

 さて、処分云々はあくまで公表すれば、の話だ。今回の件を公表すれば世間は3人を褒め称えるだろうけど、処分は免れない。一方で公表しなければ火傷もあることからエンデヴァーの功績にすることができる。目撃者も少ないため、この違反はここで握りつぶすことができる。しかし当然、3人の英断と功績も知られなくなる。面構署長個人としては前途ある若者に傷をつけたくはない。だからどうか受け入れて欲しい。そう言われては頷かないわけにもいかない。3人ともよろしくお願いします、と頭を下げる。

 

「政治ですね」

 

 思わず呟いてしまう。まあ、どうせヒーロー公安の方からそう言うことにしろって言われてるんだろうけどね。これぐらいの介入なら私も文句はないんだけど。

 

「まあ、そう言わないで欲しいワン。こちらも大人のズルで彼らが受けるはずの称賛の声をなくしてしまうのは心苦しい。だからせめて、共に街の平和を守る者として……」

 

 面構署長が男子3人に向き直って頭を下げる。

 

「ありがとう!」

 

 この礼を受けた3人の表情は、少々微妙な感じだ。轟くんはそれを先に言ってくれ、って感じだし、出久くんと飯田くんも自身の行動が少なくない人に迷惑をかけ、規則違反であることに思うことがある。実際問題、プロヒーロー3人は監督不行き届きで責任を取らなければいけないわけだしね。

 

「……志村は問題ないのか?」

 

「彼女はサー・ナイトアイから個性使用と戦闘許可があったワン。それに大通りにいて目撃者も多いから誤魔化しようがない。メディアや大衆の耳目は彼女に集中することになるワン。こう言っては何だが、君たちにとって格好のカモフラージュだワン」

 

 ちなみに。プロヒーローが個性使用の許可ができるのは、民間人の協力を得るためだそうだ。昔はヒーローも少なかったし、ヴィジランテもそれなりにいたから、彼らを合法的にヒーロー活動に組み込むためと言うわけだ。現在はヒーロー飽和なんて言われているだけあって、この制度が利用されることは稀なんだけど。

 

「今からあんまり注目されたくないんですけどね」

 

「いや、君、雄英祭でかなり目立ってるからね?」

 

 本当は注目された方が良いんだけどね、いろいろと。それはさておき。

 

「面構署長、お伺いしたいことがあるのですが」

 

「私も署に戻らないといけないから、手短にお願いするワン」

 

「この件は雄英高校に報告されるのでしょうか」

 

 握りつぶすと言っても、公にしないだけで関係各所へ話を通しているはずだ。ヒーロー公安に、雄英高校。特に雄英は学校行事中の出来事だから知らせないわけにはいかないはずだ。

 

「概要については既に根津校長先生に伝えてあるワン。正式な――公にはしないから非公式な報告書はまた後日になる」

 

「ヒーロー事務所からも職場体験の報告書にも、この件について記載する予定だ」

 

 これはナイトアイ。ああ、やっぱりそういう書類出すのね。新人教育でも担当者は上司に評価を書いたものを提出するもんね。今回の事、公にはしないけど学校としてはどういう対応を取るのか。ヴィラン連合のことがあるから、除籍はないにしても叱責程度はあってしかるべきだろう。そう思いながら意味ありげに笑顔を3人に向けると、その意味を察したらしくばつが悪そうにしている。相澤先生にこってり絞られるといいぞ。

 

「もう1つ。ヴィラン連合については、なにかわかったのでしょうか」

 

「そちらは捜査中、としか言えないワン」

 

 これは予想通り。脳無はだんまりだから新しい情報を得ることはできないし、仮になにかわかったとしても学生相手に公開はできないだろう。そろそろ雄英で捕まった脳無の調査が終わる頃だったかな? これでオールマイトらがパパの生存を察知することになるわけだ。

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

「では、私はこれで失礼させてもらうワン。君たち、くれぐれも正規の活動をお願いするワン」

 

 釘刺されてやんの。さすが警察署長、あの3人が何かやらかしそうだと直感したんだろうね。考えるより先に体が動いた、と言うのはヒーローとしてはあるべき資質の発露だろうけど現状では問題行為に繋がってしまう。そしてこの先彼らがそれを上手く制御できるかと言うと。お察しである。

 

 何というか、出久くん達がそう言う行動をしてしまう要因として、ヒーローというものに対する認識と職業としてのヒーローに対する認識の断絶があるように思う。ヒーロー科に入るまでヒーロー関連の法律を学んでいる者は数少ない。まあ、受験科目にあるわけじゃないからしょうがないんだけど。それより一般教養やトレーニングに時間を当てた方が良いしね。

 

 で、轟くんが言ったようにヒーローは人を救けるもの、と言うのがまさに前者の認識だ。ある意味ヴィジランテ時代から続く認識だと言える。しかしプロヒーローは法律で定められた存在だ。それになるためには法律を学び、遵守しなくてはならない。ヒーロー科と言うのは、その生徒をヒーロー免許試験に合格させることが主目的ではあるけど、素人をプロに仕立て上げる場所でもある。その意味で私達はまだまだアマチュアと言うわけだ。

 

 対峙する事態がアマチュアが対処すべきレベルじゃない、と言う点はさておくとして。

 

 で、話も済んだので私達もお暇しようとしたら、グラントリノがナイトアイと話があると言って連れ出してしまった。その間同級生でおしゃべりでもしていろ、と残して。ちなみにマニュアルは署長と一緒に帰った。

 

「そうなんじゃないかとは思っていましたけど、やっぱり3人とも無許可で行動してたんですね……そこはともかく、怪我の方は大丈夫ですか?」

 

 これから検査があるそうだけど、見た目ほど重傷ではないらしい。なので今日1日は大事を取ってお休み、残る職場体験期間はそれぞれと言った感じだ。たぶんだけど、私も今日は休養日になりそうだ。元々どっか1日はそうなる予定だし。

 

「俺たちより、お前は大丈夫なのか。また連合のヴィランと出くわしたんだろ」

 

「ご心配ありがとうございます。いくらか緊張しましたが、なんとか。それと、警察には既に伝えているんですけど、昨夜戦った連合の構成員、見た目は似ていましたけど、USJにいたものと比べるとパワーはそれほどでもなかったです」

 

 実際問題改造強度が違うから、あのオールマイト並のパワーと言う触れ込みの奴とは段違いなんだよね。だから問題なく対処できたわけで。

 

「そこじゃねえ。お前、連合のヴィランに攫われそうになってただろ。それに、先月の襲撃でも、あの死柄木って奴に狙われていた。だよな、緑谷」

 

 首肯する出久くん。当時のことを振り返ると、あのときは衝撃的な状況だったせいでそこまで思い至らなかったそうだけど、よくよく考えてみると、オールマイトが狙いだったのに、あそこで私に狙いを変えたのは不自然に思える。そして、昨晩のことを合わせて考えると。

 

「志村さん、もしかして、連合に狙われているんじゃ?」

 

 そう言う考えにたどり着くよね、そりゃ。でもまあ。

 

「そう言われても心当たりがないんですけど……」

 

 出久くんが知り得ている情報は先述のもの以外では、私が“オールマイトの師匠の孫(かもしれない)”と言うものだけだ。これだけでは考えを先に進めることはできず、そこで止まってしまう。しかし、ここにパパと言う存在を付け足すことであら不思議、点と点が繋がるではありませんか。

 

 つまりだ。私が狙われているのはオールマイトの師匠の孫だからで、なぜそうなるかと言うとパパがかつてオールマイトに瀕死の重傷を負わされたからで、パパは根に持つタイプなのでオールマイトへの嫌がらせとして、指導下にあるヴィラン連合に実行させた、と言う筋書きになる。

 

 ちょっとくどいな。私自体がオールマイトへの嫌がらせな上、“志村常夜”は私がでっち上げた存在だから少々ややこしいことになるのは仕方ない、と思う。

 

 週明けには私の体のことが学校にも知られるだろうし、これで行動が制限されたりしたら困るんだけどな。そうならないために『魅了』を使ってるんだけど。『魅了』の便利なところは誰もが私に好意的になると言うところにある。誰だって自分が好意を持つ相手の言葉は否定しにくいものだし、出力を上げれば私の言うことはほぼ鵜呑みにさせてしまえる。最初から私に敵意を持ってる爆豪や弔は例外だけど。

 

「連合が逮捕されない限り、安心できないな」

 

「でも、そもそもなんで連合まで現れたんだろう。ヒーロー殺しと手を組んでるとも思えないし」

 

「確かに。手を組んでいるならあのヴィランをヒーロー殺しが殺害するのは不自然だ」

 

 んー、あ、そうか、ステインに関する情報が拡散されるのはこれからだけど、ツバサくんを殺したことは広まらないのかも。と言うか、脳無を倒したのもエンデヴァーの功績ってことになってるわけだし。じゃなきゃヒーロー殺しとヴィラン連合が組んでるなんて話が広まるわけがない。

 

「面構署長の言う通り、連合については捜査中だそうですから、私達にはできることは何もありません。もどかしくはありますが」

 

 ま、所詮は学生の身だ。続報だって連合が捕まるでもなければ何も知らされることはないだろう。

 

「そうでした、クラスのみんなに昨夜のSOS発信の詳細を伝えないといけませんね」

 

「それなら、僕からするよ」

 

「あれやったの緑谷だしな」

 

「はい、お願いします。あ、ヒーロー殺しの件はさっき言われたように……」

 

「うん、わかってる」

 

 出久くんは文面を考えているのかスマホの画面とにらめっこを始める。

 

「一応、私達が無事とは伝えましたけど、よく考えたら言葉足らずでしたね」

 

「文字だけ見ると何のことだかわからねえしな、これだけだと」

 

 昨晩はあれで意外と疲れてたのかね。

 

「それにしても、これからしばらく新聞にテレビ、ネット、雑誌でもヒーロー殺しのことで持ちきりでしょうね」

 

 なにしろオールマイト以降の時代では単独最多の殺人数、となれば犯罪史上に名を残すことは確実だ。これまで不明だったその素性や動機、背景、思想、主張が解明されるのだから民衆は興味津々だろう。善くも悪くも抑圧されたこの時代、それに感化される者だって出てくる。平成の時代だって異常犯罪が起きればメディアはこぞって飛びついたものだけど、個性時代になっても性質は変わらないね。当然、被害者遺族・家族に対する配慮なんてなさそうだし。被害者がヒーローだから尚更そうした傾向になりそうだ。

 

「あまり良い気分で見られそうには、ないな」

 

「飯田くん……」

 

 被害者家族としては当然だ。しかも、ヒーロー殺しの英雄回帰と言う思想が明らかになったら、被害ヒーローは、商業主義への反感から拝金主義者扱いされてしまうかもしれない。ヒーローである前に、1人の人間だって言うのにね。ひどい話だ。

 

「……飯田くん、悪とはなんでしょう」

 

「え? うむ、そうだな。殺人、窃盗、詐欺と言った犯罪行為、道徳に悖る行い、だろうか」

 

「そうですね。でも私はこう考えます」

 

 パパの存在を意識しながら言葉を編む。パパは何になろうとしているのか。パパの言う魔王とは何か。

 

「悪とは、未来を阻むこと」

 

「未来……」

 

「はい。今回のヒーロー殺し、正しい世界がどうのと言ってましたが、被害に遭ったヒーローにも家族や応援している人たちがいたはずです。多くの人々が、彼らに未来と希望を託していたはずです。ヒーロー殺しはそれを踏みにじった。人を殺す正しさなんてあるはずない……!」

 

 右手を握りしめて震わせてみせる。これで私がヒーロー殺しに強い憤りを感じている、と思ってくれるはずだ。

 

 実のところ、パパが支配する世界が人類にとって完全にマイナスとは言い切れない部分がある。個性終末論、これを阻止することができる。提唱者であるドクターと組んでいることからも、この論にパパが賛同していることは間違いない。だからこそ、終末論の対抗策であるマスターピースを獲得しようとしているのだ。全ての個性をマスターピースとなったパパとその分体が管理するようになれば、個性終末論によって予期される破滅は回避できる。もっとも、人類はそれ以上進歩しなくなるんだけど、破滅と停滞、どっちがマシかと言う話だ。私は最終的に滅びるとしても、人類が進歩を続ける社会の方がいい。じゃないと面白いコンテンツが生まれなくなっちゃうし。

 

 少しばかりシリアスな雰囲気になったけど、私の見解にはみんな同意してくれるだろう。

 

「ならヒーローは」

 

 口を開いたのは出久くん。どうやらみんなに詳細を送り終えたらしい。

 

「みんなを救うヒーローは、未来を繋ぐ存在、ってことかな」

 

「そうですね。ふふっ、良いこと言いますね、緑谷くん」

 

「そ、そうかな」

 

 おー、照れてる照れてる。

 

「未来を繋ぐ、か……」

 

 飯田くんが左腕を見つめながら呟く。インゲニウムの名前を継いだのに、あの体たらくじゃねえ。まあ、こういう失敗は若い内にしておいた方が良いって言うしね。

 

「ヒーロー殺しに何を言われたは知りませんけど、あまり真に受けない方が良いですよ。思うところがあるなら、相談すべき先達がいるんですから」

 

 あんな目が曇りきっている奴より、オールマイトや相澤先生の言葉を聞いた方がよっぽど良い。真っ当なヒーローを目指すなら真っ当なヒーローからアドバイスを受ければ良いのだから。

 

「そうだな……兄が回復したら、よく話してみよう」

 

「飯田くんがヒーローを目指したのは、確かお兄さんがきっかけでしたね。原点を振り返ると言う意味で良い考えだと思います」

 

「原点か。雄英祭のときも似たようなこと言ってたな」

 

「あなたの始まりを、でしたっけ……あー、思い出してみると恥ずかしいですね」

 

 あのときはテンション半端なかったからね。いや、言ってるときは気分良いのよ。あとで恥ずかしくなるだけで。ああいう台詞を臆面もなく言える人たちってちょっとやばいわ。

 

 と、スマホから通知音。

 

「ナイトアイ、お話終わったみたいですから、私も帰りますね」

 

「ああ。また月曜日にな」

 

「はい。ではみなさん、ごきげんよう」

 

 病室から出てロビーでナイトアイと合流する。思った通り、今日は一旦事務所に戻った私は帰宅してそのままお休みになる。と言うか、昨晩の事件を踏まえてこのまま職場体験を続行するかどうか学校と協議しないといけないから活動させられないんだとか。この辺、出久くんたちは入院しているからそのままで良いんだけど。

 

「通常の活動の範囲ならこのような協議は必要ないが、今回は事が事だ」

 

「なんと言いますか、ご迷惑をおかけします?」

 

 車で移動しながらお話する。まあ、保須行きの言い出しっぺは私だしね。

 

「この程度、オールマイトのサイドキック時代に比べれば大したものではない。社会とは、細々とした調整と協議の積み重ねで成り立っている。それはヒーローと言えど例外ではない」

 

「オールマイト、その辺飛ばして活動しているように見えますけど」

 

「……あの人もそういう仕事はできる。得意ではなかったが」

 

 まあ、そういう感じだよね、あの人。必要だとわかっているから頑張ってやってるみたいな。

 

「ところで、グラントリノ、でしたっけ? あの人とはどう言う関係なんですか? ヒーローのはずなのに、全然名前聞かないですし」

 

「オールマイトを挟んでの関係だ。学生時代のオールマイトの担当教員だったそうだ」

 

 そういやグラントリノ、ヒーローとしての実績ないはずなのにどうやって雄英の教員に潜り込んだんだろう。それまではヴィジランテとして活動していただろうし、当時の雄英の校長と旧知の仲だったとかかな。いくら当時がパパの勢力が全盛期だったとは言え、校長の人事権強すぎない?

 

「なるほど、言わばオールマイトの先生ってわけですか。その先生が緑谷くんを指名した、と。ふーん」

 

「何が言いたい」

 

「緑谷くんはともかく、周りはもうちょっとオールマイトとの関係と言うか、距離感? を考えた方がいいんじゃないかなーって思っただけです。相澤先生も贔屓気味だって感じてるみたいですし……さっき、グラントリノと話していたことって、ヴィラン連合の背後に、これらの絵図を描いた存在がいる、って話じゃないですか? 悪い意味で馴染みのある存在が」

 

 ナイトアイが車を路肩に止め、額を押さえる。

 

「オール・フォー・ワン……」

 

 ナイトアイはパパの存在を知っていても直に会ったことはない。オールマイトが彼の個性を奪われないように接触させないようにしていたんだろうね。『予知』なんていかにもパパが欲しがりそうだし、なにより研鑽がなくてもある程度の効果が期待できるから弔用にも最適だし。

 

「お父様もオールマイト同様瀕死の重傷を負った。だから死柄木弔と言う後継者を育てて来た。オールマイトも同様に後継者を育てるために教師になった。オールマイト自身雄英出身ですし、不自然さはありませんね。教師と言う体裁をとりながら、特定の誰かを育ててもバレない程度には」

 

 頭を振るナイトアイ。私が“死柄木常夜”としての態度で喋っているからだいぶ混乱しているようだ。“私は死柄木常夜ではない”、と言う暗示をかけてあるからわけわからんだろうね。

 

「ああっ! ちょうどオールマイトの先生がいましたよね! その人が指導しようとしたのって誰でしたっけ? オールマイトの後継者って誰なんです?」

 

 知ってるんだけどねー。何を隠そう緑谷出久くんこそがそれなんです!

 

「そもそもどういう意味での後継者なんですかね? 平和の象徴として? それともNo.1ヒーローとして? どちらにしても1人の少年が背負うにはあまりにも重すぎやしませんか。そもそも個人が平和を象徴している状況自体かなり歪だと思ってますけどね、私。それはともかく、個性を継承できるなんて思いもよりませんよね。年寄りは若者に重たいものを背負わせたがるから困る」

 

 実際には『ワン・フォー・オール』共々平和の象徴としての後継なわけだけど。本人が乗り気だから良いようなものだけど、割と無茶なことやってない?

 

「既に1度、向こうの後継者に遭遇しているわけですし、彼の性格を考えると未熟なまま魔王と対峙する羽目になっちゃうかもしれませんね? オールマイトだってアメリカで武者修行した期間があるのにかわいそー」

 

 いや、これ何度も言ってるけど、ホントに出久くんを鍛える時間が短すぎる。オールマイトと出会ってから特訓を始めた期間を含めてもパパと対決するまでの時間はたったの2年! 他のジャンプ主人公だってもうちょっと修行期間あるぞ。その期間を短縮と言うか、アレするために私もいろいろやってるけどさ。

 

「あなたも意地を張ってないで、オールマイトの後継者育成に協力した方がいいんじゃないですか? オールマイトも活動時間がどんどん減ってますし、グラントリノもあの年じゃいつまでできるかわからないですし。正直あなたが最適だと思うんですけどね?」

 

「…………」

 

「まっ、考えておいてください。あなたに渡した『巻き戻し』のことも含めて」

 

「お前は、何が目的だ」

 

 こちらを睨みながらナイトアイが言葉を絞り出してくる。

 

 聞かれたなら答えましょう。人差し指を立てて、微笑んでみせながら。

 

「世界平和」

 

「は?」

 

 答えた途端ナイトアイの顔面が呆れに支配される。いや、ホントだって。とこよちゃんうそつかない。

 

「今の世の中では、誇大妄想としか言い様がない。オールマイトでもそこまでは言わない」

 

 日本は表面上落ち着いてるけど、パパを始め、異能解放軍などなど不安要素が地下で蠢動し続けている。国外に目を向ければ、紛争や内戦によって多数の難民が明日をも知れない日々を送っている。個性と言う存在が足されただけで、世界と言うのは早々には変わりようがない。

 

 ちなみに。国家間紛争における個性使用は条約で禁止されている。つまり、軍隊の個性に対するスタンスは警察に近いと言うわけだ。個性の軍事利用が始まったら、それはそれはひどいことになっていたことだろう。それに、批准していない国もあるし、禁止されているのはあくまで国家間なので内戦下の地域では“個性戦争”とでも呼ぶべき状況になっている。この辺、パパが裏で糸を引いてるっぽいんだよね。少年兵はわんさかいるし、世代が進むペースも早い。パパにとっては個性収穫に最適な環境と言えるだろう。そう言う地域を支配している勢力もパパのお友達だろうしね。

 

「その方が私にとって都合が良いんです。私は私利私欲のために世界平和を目指します」

 

 おい、大きくため息をつくな、ナイトアイ。

 

「どうとでも思ってください。さっ、早く事務所に戻りましょう。自宅の近くのお店、平日にしか出さないランチがあるんです」

 

「まったく……」

 

 つい楽しくなって煽っちゃったけど、ナイトアイがこのときのやりとりを思い出すのは全部が終わってからだ。

 

 全部が終わっている、と言うことはなにもかも手遅れってことで。

 

 さてさて、今日はまだやりたいことがあるんだよね。とりあえず、それは夜を待ってからだ。

 

 楽しい実験のお時間だ。




「世界平和を目指します」ってところの常夜ちゃん、超どや顔してます。
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