ラスボスの子に転生したのでNO.1ヒーローを曇らせたいと思う 作:タメガイ連盟員
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原作、完結しましたね。こちらの方がまだまだ先なので気長にお付き合いいただければ幸いです。
それはそれとしてなんだこのサブタイ。
その日の深夜。
ステインは保須総合病院で拘束されている。できれば都内の警察病院に移送したいところだが、折れた肋骨が肺に刺さると言う重傷であってはそうもいかなかった。動かせるようになってから警察病院へ、治療が終わり次第、
ベッドの上にいるが拘束着を着せられ、余計な事を口走らないように口枷までされている様はとても患者には見えないが、相手が大量殺人犯とあっては油断できない。室外では警察とヒーロー、警備ロボが監視にあたっている。ステインの個性は生物にしか効かないのだから、警察・ヒーローより警備ロボの方が対処に当たるのが適切だと言える。警察もそれを考慮して、本庁の警備ロボを臨時に派遣しているほどだ。
ステインは既に意識を回復している。だがここで脱走しようとは考えていない。負傷していることもあるが、自力で拘束着を外すこともできないとあっては当然なのだが。だからと言って、彼の信念の炎がかげることはない。この先、タルタロスへ収監され、残りの生涯をそこで過ごすことになったとしてもその炎が消えることはない。
「ぐーっどいぶにーんぐ!」
室内に場違いな少女らしき声が響く。ステインは声がした方に視線を向ける。ちょうど彼が拘束されているベッドの右側だ。そこには白黒のツートンカラーの髪に黒いセーラー服、そして右目に眼帯を着けた少女の姿があった。
誰だ、いや見覚えがある。あのとき連合に攫われかけていた子供だ。
「どうもどうも、昨晩は危ないところを助けていただいてありがとうございました? ツバサくんを呼んだのは私なので自作自演なんですけどね! あ、でもあなたとしてはクズを殺せたから良かったんですかね?」
いつ、どうやって入ってきた。
この部屋に厳重な警備体制がしかれていることはステイン自身も理解している。しかし、扉や窓が開いた気配はなく、何の前触れもなく少女は現れた。
いや、そもそもあの子供とこれは同一人物なのか。
姿形は同じはずだが、その中身はまるで違っているとしか思えない。
それよりも、あれを呼んだ、だと? ならばこれもヴィラン連合、死柄木弔の仲間と言うことか。
「んー、お兄様は私のことは知っているけど知らないんですよねー。なので私はヴィラン連合の味方ってわけでもないんですけど、陣営としては一緒みたいな? うん? んーと、まあ、一応別ってことでお願いします」
少女はベッドの周りをぐるぐると歩きながら喋り続ける。
「あ、自己紹介がまだでしたね。私は死柄木常夜と言います。あるいは“黒外套”と言えばわかりますかね? 何人かあなたが狙っていたヒーローやヴィランを通報してたんで空振りになったことが何度かあったと思うんですけど、それ私が通報してたからなんですね。えへへ」
“黒外套”。直接遭遇したことはないが、その存在は認知している。当然ながらステインにとっては粛清対象である。
そして、常夜の言う通り、ステインが標的と定めた贋者が襲撃に先んじて官憲に逮捕されると言うことが度々あった。逮捕されたものを粛正することはできない、そのことに多少の苛立ちを覚えはしたが、粛正すべき対象はまだまだいると即座に切り替えていた。
「私が通報していたヒーローって実際に不正を行っていた人なんで、そういうのを標的にしていたってことは、嗅覚とかそういうのは意外と鋭いんですね。でも、そうじゃない人を贋者扱いして殺傷するのはどうかと思いますけどね。ご両親に人を傷つけたり殺したりしちゃいけないって教わらなかったんですか? ヒーロー界の腐敗に憤る前に法律と常識を弁えたらどうなんです? あ、ヴィランにこんなこと言っても仕方ありませんか。法律や常識を無視するのが我々ヴィランってものですし!
さて、私がお伝えしたいのはそこじゃないんです。あなたを逮捕したのはエンデヴァーの功績と言うことになるそうですよ。緑谷くん達――名前呼びあってたから誰のことかはわかりますね? 彼らはあなたと交戦したけど、倒してはいないってことになります。まあ、職場体験中で資格を持っていない子供が相手が誰であれ傷つけるなんて大問題ですからね、まことに政治的な判断ではありますが、そこは前途ある若者の未来のためってことで。
ところで、あなたの言うヒーローは偉業を成した者だけが許される称号、でしたっけ? それならオールマイト時代最多の殺人者であるあなたの逮捕は紛うことなき偉業と言えますね。いやあ、流石エンデヴァー、次代のNo.1に相応しい活躍です! ああっ!? 私はなんて勘違いをしていたんでしょう! あなたが身を挺して真のヒーローを生み出そうとしていたなんて! 弔の言う通り、ヒーローブリーダーだったわけですね! いやあ、すごいすごい。
あー、エンデヴァーは贋者なのにそんなのおかしい! って思ってますね? まあ、贋者かどうかはおいといて、確かに彼はNo.1に、いやヒーローに相応しくない人物であることは間違いありません。では、なぜエンデヴァーがヒーローに相応しくないのか! ご説明しましょう!」
そこから常夜によりエンデヴァーの悪行が語られる。
まず金にものを言わせて氷結系個性の女性を妻とする個性婚を行ったこと。
それによってオールマイトを超える個性を持つ子供を産ませ、第4子である焦凍でようやく成功例ができたものの、それ以前の3人は失敗作扱いであること。
長子の燈矢は火力こそエンデヴァーを上回るだけの素質を持っていたものの、熱に対する耐性がなかったため失敗作の烙印を押され、それまで火力の上げ方ばかりで制御方法を教わらなかったために体の一部を残して焼死したこと。
焦凍も強いヒーローにすべく虐待同然の鍛錬を強要し続けていること。
妻である冷もそんな家庭環境によって精神を病み、10年に渡り入院していること。
しかし燈矢は死んでおらず、現在は荼毘と名乗りステインに迫る数の殺人を繰り返すヴィランとなっていること。
その内容はステインでも呆れ果てるものだった。やはり奴は奴で贋者、粛清しなければならない者だ。
「これが明るみに出たらもうヒーローは続けられないでしょうね。特に燈矢くんのところ。まあ、あなたがその瞬間を見ることはないんですが」
ぐるぐる歩きを止め、ステインの枕元に常夜が立つ。その口元は三日月のように、赤く開かれている。
「あなたの主張や思想は、これからあらゆるメディアが報じるでしょう。『英雄回帰』。これから象徴不在の時代が来ると考えると、なかなか刺激的な考え方です。この思想が広まるなら、あなたの活動にも意味があったと言えるでしょう」
常夜が自身の顔をステインの眼前に寄せ、死刑宣告に等しいそれを、どこまでも愉しげに、薄ら寒い笑顔で告げる。
「だから、あなたはもう用済みです」
常夜にしてみれば、ステインの価値は『英雄回帰』思想を広めること以外に何もない。あとは勝手に世間がそれを広めていく。だから本人が何を考えているかなんてどうでもいいし、それどころかこれ以上余計なことを言われる方が困るぐらいだ。となればやることは一つ。
「口封じってわけです。いや、別に私にとって不利になるようなことをあなたが知っているわけじゃありませんが、あなた自身の口で何かを語らせる意味もないんです。でもただそれをするのはもったいないと思うんですよ。なので、あなたには私の実験に付き合ってもらいます」
常夜がどこからともなく、5つの貴石を取り出す。それは色も形も大きさも異なっているが、何か言い知れない圧、力のようなものが感じられる。
「ご存じかどうか、個性にはその保有者の意思が宿るそうです。まあ、生まれ持った個性がその人から離れるなんてことはそうそうないんですけど、もしそうなったらどうなるでしょう? そしてそれが他人に宿ったときいったいどうなるのか?」
意思が宿ると言っても、それが顕在化することは稀だ。常夜の父である悪の魔王も数多の個性を奪ってきたが、そうした事例は数えるほどしかない。もっとも、条件さえわかれば再現可能な事象なのだが。
「相応に鍛えている人は個性を1つ追加しても、原作のナガンみたいに支障がないどころか使いこなすこともできるんですよね。じゃあそれが2つ3つと増えたらどうなるでしょう?」
貴石の1つを指で挟みながら、それをステインの額に添える。いや、貴石と指がそのまま沈み込んでいく。
「今言った通り、あなただと1つだけだとあんまり影響がない感じですかね? じゃあ早速2つ目、行ってみましょう」
返事などできるはずもないステインの意思を完全に無視しながら、次々と結晶化させた個性を彼の体内に溶け込ませていく。それが1つ増えるごとに思考が覚束なくなっていく。ステインはそれに抵抗しようとするが、文字通り手足を縛られている上、この個性を追加されると言う現象は彼の体内の、それも直接触れようがない領域で起きているため、無意味な行為に過ぎなかった。
そして、それが5つ目となったとき、ステインの意識は途絶えた。
前触れもなくステインは自分が何もない空間にいることに気づく。
奇妙な空間だった。光源があるかもわからないのに自身の姿が影になることなく見えるし、足下には水平と思われる床、あるいは地面と呼ぶべきものも感じられる。
次に自身の姿。服装は拘束着ではなく、普段のヒーロー殺しとしてのもの。しかし寸鉄も帯びておらず、スパイク付きの靴すら身につけていない。
武器がないのはまあいい。当然没収されているものだ。しかしこの戦闘服を戻す意味などないはず。いや、それ以前に拘束されていないのはなぜだ。
なによりの異変はあらゆる負傷が消えていること。それが可能な個性が存在していることは知っているが、やはりわざわざ使用する理由がない。
この空間は一体何なのか。どれほど注意深く観察しても何もない、と言うことしかわからない。
と、強烈な殺意を察知したステインはその場から大きく飛び退く。直後、ステインのいた場所に、大柄な男の屈強な腕が振り下ろされていた。
覚えがある。半年前に粛清した贋者だ。なぜここに現れた? それに個性を使ってくる様子もない。
身を屈める。頭上を剛脚が掠めていく。さらに1人、いや、4人。合わせて5人。いずれも最初の男同様過去にステインが粛清した者ばかり。
それぞれの攻撃を避け、いなし、反撃する。その度に敵の行動を阻害するために手足を壊し、内臓へ痛撃を与える。そもそもの頭数を減らすために首をへし折りもした。
しかし止まらない。首を折った者ですら数秒もすれば再び動き出す。ステイン自身も攻撃を避けきれずに打撃を受けてもすぐに治ってしまう。
ならば肉体を傷つけることは無意味。摘むべきは意思。この贋者共を屈服させるまで殺し続けるまでのこと。
疲労もなく、傷も負わぬのならばそれ以外にはない。終わりの見えぬ戦いであったとしても、それに怯むことなどありはしなかった。
「うわぁ……」
その光景を見ていた常夜はドン引きしていた。
常夜がやろうとしていた実験とは、“意思が覚醒状態にある個性を個人に複数与えた場合どうなるか”、と言うものだ。
複数個性を与えた場合の影響については、魔王とドクターが散々実験を繰り返しているから調査の必要はない。覚醒状態で個性を与えた場合の影響、こちらも土鈴院命を始めとする魔王の分体達とマスターピースの存在から十分な蓄積があることがわかる。しかし、今常夜がしているように複数与えた場合の実験はしていない。そもそも魔王が新たな肉体を得るためなのだから、個性は1つで良いし、なにより時間と人手が足りない。殆どの作業をドクター1人がしなくてはならないし、現状魔王は脳無関連の技術を黒幣ら裏社会の組織に広めるつもりがないため、ドクター以外の人員を増やすこともできない。もっともこれはドクター自身が自分以外の人間を使うことを厭ったためでもあるのだが。脳無は彼と魔王の共同製作品、それに他人が触れるのが嫌なのだろう。
資金、資源に不安はないものの、人手が足りていないことはドクター自身がよくわかっている。何しろ表向きの身分である医療法人理事長と言うのはなかなかに多忙だ。実務の多くを他人に任せているが、それでも彼自ら携わらなければならない業務は少なくない。だからこそ常夜に分身を作らせようとしているわけだ。表向きの仕事をもう1人の自分に任せてしまえれば、本体は脳無開発に集中することができる。常夜の個性なら、1人のみならずもう2、3人は増やせるから脳無開発の予定はかなり早まることだろう。
それはともかく。常夜が実験用に用意した個性はいずれもステインによって再起不能にされたヒーローのものだ。常夜にステインに対する意趣返しと言った考えはない。もうヒーローとして活動できないなら個性は必要ないし、その方が面白そうだからだ。
で、実験としてはどうかと言うと。正直なところ失敗したなぁ、と常夜は思っている。
前例としてあげられる魔王と死柄木弔の場合、魔王の意思が強大な上、弔も精神的に魔王の支配下にあったことも大きくその意思は魔王に飲み込まれてしまっていた。それでも完全に消えたわけではないのだが、魔王が彼の意思の存続を認めるとは思えないので、いずれ完全消失させるつもりだろうと常夜は思っている。
今回の場合、狂的な精神を持つステインとそれに恨みを抱く元ヒーローと言う組み合わせがよくなかったように思える。ステインはある種の狂信者だ。教主・ステイン、信者・ステイン、経典・ステインと言うステインによるステインのための宗教の、だ。問題はそれを世間に広めようとしていることだが。ある意味で、精神的超人と言える彼が精神的に屈服することはないし、元ヒーロー達の方が根負けする可能性の方が高い。その対策としてゲーム風に言えば狂戦士化させているのだが、余計な処置だったかも知れない。このままだと、精神世界で彼らが永遠に戦い続けるだけになりかねない。
今更ながら、ステインはこうした実験にはもっとも向いていない人間だと認識すべきで、一般人を使った方がずいぶんマシだったのではないか、と思う。やはりその場のノリで決めるのはよくない。まあ、失敗も何かの糧になるさ、と前向きに切り替える。
しかし、だ。
「なんかもったいないよなぁ」
実験が失敗して、何の成果も得られませんでした、では何とももったいない。何か良い利用方法はないものだろうか。すぐに名案が浮かぶものでもない。だいたいステインはこのままタルタロス送りになるのだから、経過観察もしづらいと来ている。いや、その意味で言えば今回の実験も同じことが言えるのだが。実のところ、常夜にとってタルタロスのセキュリティを掻い潜ることはそう難しいことではない。しかし、あそこはやたらと広いし経過観察のためだけに出入りするのは面倒なのだ。
「うーん……」
常夜はまたぐるぐると床のみならず壁や天井までも歩き出す。何かの個性を使ってのことだろうが、本人は意識していない。
切り替えたつもりだが、実験が失敗したことが思ったより響いているらしい。もったいないと感じているだけで、別にステインを今すぐどうこうしなくてはならない、なんてことはない。以後、意識がないままタルタロスで放置、でもまったく問題ない。そのはずだ。しかし妙に苛つく。
ようするになにかをしなくてはならない、と言う感覚は常夜の八つ当たりに過ぎない。勝手に実験台にされたあげく八つ当たりまでされるのだからステインにとっては良い迷惑である。
「いっそドクターに提供して脳無にでもしてもらうか……?」
そう呟いた常夜が何かに気づいたのか、天井で足を止める。
「あ」
そのままの姿勢でステインを見下ろす。
「あああっ!?」
床に降り立った常夜が喜色満面と言った様子でステインにまくし立てる。
「そうだ、そうだよ、なんで思いつかなかったんだろう! あなた、脳無にしちゃえばいいじゃん! 私の専用の! ドクターだって分身作るんだからこっそりそれ用のを作っちゃえばいいんだし! ああ、でもそれ用の施設もいるから治崎に言って場所を確保しないと。それから設備もいるよね、こっちはまたドクターのところに行くからそのときにコピーを取っておくとして、いつタルタロスからそこに持っていくかだよね。施設自体もすぐにできるわけじゃないし、パパがいる時期は避けたいから夏休み前にはやらないと。タルタロス職員の全員……は必要ないか、出勤予定も押さえてから洗脳しておいて、セキュリティ解除させればいいか。それまでステインはタルタロスにこのまま置いておけばいい。出るときは『不可知化』の対象に含めて……車は治崎に用意させればいいか。それからそれから――」
仮に第三者がこの光景を見たならば、ついさっきの用済み発言はなんだったのか、と思わずにはいられないだろう。
「これ用の個性も集めておかないと。いや、その前にどんなビルドにするかだな。本来の個性を活かすか、それともマキアみたいにシナジーを狙ったものにするか……うーん、悩むなぁ。とりあえず、『超再生』はデフォだな。あー、でもこっちもいいけど、林間合宿に向けての準備もあるからなぁ、忙しくなるなぁ。学校行ってる暇あるかな」
常夜の様子は、まるで誕生日に今まで欲しがっていた玩具を与えられた幼児のように無邪気に見える。無論、相手を脳無にしようとしているのだからそこには悪意が満ち満ちているのだが。
「ずっと考えてたんだよね、あなたが嫌がることを。なかなか思いつかなくってさぁ、じゃあもういいやって思ってたのよ。でもさ、これが一番良い方法だと思わない? 脳無になるってことは私と言う悪に隷属することになるんだから、あなたにとっては屈辱的な状態じゃない? だから、改造するときは意識がいくらかでも残るようにしてあげるね。ああ、これがパパの言う、“踏みにじって絞り出したワインを愉しむ”って奴なのかな? 悪くないな」
常夜は両手を広げ、宣言する。
「喜んで欲しいな、苦しんで欲しいな、赤黒血染! あなたの人生はこのためにあったと考えるんだ!」
笑う、嗤う、嘲う。
人はなぜ笑うのか。楽しいからだ。
「ふっ、ふふふふふふっ」
ならば笑うべきだ。笑え嗤え嘲え!
「これであなたは私の玩具だ!」
哄笑が病室に響き渡る。悪魔の嘲笑に似たそれが。
一頻りわらい続けた常夜がスンっとそれを止め、病室の扉に手をかける。そして物言わぬステインに振り向く。
「次に目覚めたときは……あはっ、これは言いっこなしかな? じゃ、またね」
常夜がステインを脳無にする案を省いていたのは脳無がパパ絡みだから避けていたため。なんでやる気になったかと言うとその場のノリ。それでいいのか。