ラスボスの子に転生したのでNO.1ヒーローを曇らせたいと思う   作:タメガイ連盟員

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佐藤東沙様、ちびたXtreme様、路徳様、ヴァイト様

誤字報告ありがとうございます。

早いもので本作も掲載開始から3年になりました。かなりゆっくりペースですが、これからもお付き合いいただければ幸いです。
また、多くの方にお気に入り登録・評価・ここすきしていただきありがとうございます。


25.職場体験4

 土曜日。職場体験は今日が実質的な最終日となる。日曜日が残っているけど、ここは遠方に行った生徒のための移動日だ。実際常闇くんなんて福岡まで行ってるからね。雄英も潤沢な予算があるとは言え、交通費に関しては若干吝いのか移動手段は陸上のみだ。場合によっては空路の方が安上がりなこともあるけど。交通費・宿泊費・食費などが学校から支給されているのだけど、これを全額使い切ってしまうわけにもいかない。支出の詳細を学校に提出しなくてはならないから、無駄遣いはできない。私はほぼ交通費だけだからA組で1番支出が少な――いや、轟くんなんかほぼ零か。彼、実家から事務所までエンデヴァーと一緒に出勤してるだろうし。

 

 こう言う外部での活動における支出の報告は毎回行われることになる。さすがにこの辺は不和先輩にも聞いたことがないけど、ほぼ確実だと思う。プロヒーローになれば、この手の書類作成は日常茶飯事、今のうちに少しでも慣れさせておこう、と言うことだろう。お金に関することはこの先授業でもやるにしてもだ。こんなことも実践、実践。何事も無駄にしない、根津校長あたりの発案らしい仕組みだ。

 

 ナイトアイ事務所に到着したらまず更衣室でコスチュームに着替え、オフィスへ向かう。

 

「フーディーニです」

 

 入れ、と言う返事を確認してから入室する。室内にはナイトアイ、バブルガール、それからもう1人。スーパーマン、じゃなくてオールマイトを彷彿とさせるコスチュームの人物。そう、通形ミリオだ。私は一方的に知っているけど、これが初対面だ。

 

「おーはー!!」

 

 人差し指と親指で輪っかを作り、それを広げると言う動作と行われる朝の挨拶。遙かな前世、子供時代に見ていた朝の子供向けバラエティ番組の始まりの挨拶だ。な、なぜそれを知っている……!?

 

「お、おーはー……?」

 

 戸惑いつつも返事をする。挨拶は大事だからね。ちなみに件の番組は現在では放送していないし、放送中止になったのもママが産まれるより前のことなのでミリオが知っているはずはないのだけど。アーカイブとかも滅茶苦茶になっちゃってるしね。

 

「よし、すべり気味だな!」

 

 満足げに頷くミリオ。そしてこっちの反応がいまいちなのになんだその反応は。オールマイトもだけど、こういうノリの人なんか苦手だな。

 

「フーディーニ、彼が初日に話をした通形ミリオ、ルミリオンだ」

 

「よろしく!」

 

「志村常夜です。ヒーローネーム、フーディーニです」

 

 がっちりシェイクハンド。手袋つけてるのに手がゴツゴツしてるのがわかるとかどんだけだよ。

 

「フーディーニ、今日はルミリオンと行動してもらう」

 

「わかりました。よろしくお願いします」

 

 ミリオ、いやルミリオンに会釈する。と言ってもやることは変わらない。担当地域の巡回とトレーニング、模擬戦だ。ここでルミリオンと模擬戦ができるのは悪いことじゃないけど。

 

「では、本日の課業を開始する」

 

 朝の巡回は土曜日と言うこともあって人の姿は少ない。だからと言って警戒を緩めて良いわけではないのだけど、登校する子供がいないので楽だ。私もルミリオンも方向性は違うけど顔をよく知られてるので声をかけられることが多くて、高校生とか大学生、社会人は声をかけてくるだけなんだけど、小学生とかは触ってこようとするからな。うざい。と言う本音を出せるわけもないので、ハイタッチしてあげたりと適度に対応する。この辺、ルミリオンは慣れたものである。センチピーダーが一緒のときは近寄ってこないから、巡回は彼とが良い。

 

 軽く雑談しつつ巡回を続ける。例によって私は相手のことは知っているけど、知らないことになっているので、その辺でボロを出さないためでもある。

 

 巡回後は基礎的な筋力トレーニングや格闘訓練、そして模擬戦だ。模擬戦の方は個性を使って・使わない状態でそれぞれ3分間を1分間の休憩を挟みながら3セット行う。

 

 で、模擬戦やってみて改めてわかったんだけど。

 

 ルミリオン強すぎ。

 

 個性なしでの模擬戦でも1度も攻撃当たらないし。こちらの動きを的確に読んでくるんだもん。空手を何年かやってたけど、それじゃ全然相手にならない。いやまあ、ナイトアイとの模擬戦も似たようなもんだったけど、あっちはヒーロー稼業やって10年以上のベテランだから実力差があって当然なんだけど、ルミリオンは何なの……?

 

 と言うか、ルミリオン、ナイトアイの指導を受けるまで個性を使いこなせていなかったって話なんだけど、この人、ほぼ無個性の状態で入学試験突破したってことだよね。となると、入学時点でかなり体を鍛えていたはずだよね、それこそずっと前から。あの試験、ヴィランロボ相手に臆せず攻撃できないといけないから、案外振るい落とされる人が多いんだよね。そう言う度胸も身につけていたわけだ。

 

 ……いや待て、ルミリオンが力をつけてきたのはナイトアイの指導を受けるようになってから。つまり仮免試験より後だ。え、この人、そんな状態で仮免通ったの? 仮免もヒーロー試験もその気になれば個性なしでも合格はできるだろうけども。ルミリオンの場合、体育祭の成績がいまいちだから、恒例の雄英潰しには遭ってないのかもしれない。でも難関には違いないし。とにかく、この人の素の戦闘能力がかなり高いのだ。雄英生時代のオールマイトより強いんじゃないか? 現代の方がヒーロー育成のノウハウが蓄積されているのは確かだけど、それ抜きにしてもだ。

 

 そして彼の個性である『透過』。扱いにくいが使いこなせれば強い、というタイプの代表例のような個性と言える。そうなるまでが大変なのだけど。個性発現時にうっかり死にかねないタイプでもある。透過しっぱなしだと地球核に向けて落下し続けるし呼吸もできないと来ている。昔、異能事故死がよくあったそうだけど、よくそうならずに済んだものである。

 

 透過中は呼吸もできないし目も見えない音も聞こえないから、隙を突くなら、言わば“息継ぎ”や“まばたき”のタイミングを狙うしかない。当然、その対策はしてある。ルミリオンの強さは地道に積み上げてきたものだ。それゆえ隙が少ない。隙があってもそれを埋めながら進んできたからだ。

 

 個性ありの模擬戦は回避に専念するしかなかった。ルミリオン、こっちの衝撃波を感知できないのに発動タイミングを読んでくるんだもん。何なの。機雷も部屋いっぱいになるまで設置したけど、発動条件を満たす程度に触れて回避してくるし……もうやだ! 今度あったら速攻『抹消』してやるんだから。こいつとは絶対まともに戦わない。

 

「思ったより粘るね、フーディーニ! 1分以内で降参すると思ってたんだけど」

 

 自信満々だなこの人。それだけの実力があるからだけど。私もそこそこ戦闘には自信があるつもりだったけど、模擬戦で1度も攻撃を当てられないとは思わなかった。

 

 流石、相澤先生が現役含めて最もNo.1に近いと評するだけのことはあるってわけか。と言うか、この人にタイマンで勝てる人って相当限られるんじゃないか? オールマイトはなんだかんだで勝ちそうだけど、トップヒーロー達でも確実に勝てるとは言い切れないし。当然ながら、大半のヒーローの攻撃手段は物理だ。それをほぼ無力化できるんだから負けようがない。

 

 彼の陽性の性分も合わせて、根津校長がオールマイトの後継者に推薦するのも当然だろう。実際、彼が『ワン・フォー・オール』を継承していれば、オールマイトに伍するヒーローになっていただろう。『ワン・フォー・オール』の継承にデメリットがある、ってことを気にしなければ。

 

 そりゃねぇ、4代目とオールマイト以外は保持期間が短いから無個性者以外が継承すると寿命がゴリゴリ削られるなんて知りようがないからね。実際にルミリオンが継承してたら1年と経たずに命を落としてたんじゃないかな。結果的にだけど、出久くんを継承者に選んだオールマイトのファインプレーであった。そのせいでナイトアイとの関係がさらに拗れてしまったことは脇に置いておくとして。

 

 模擬戦を終え、センチピーダーから講評を受けてから休憩に入る。

 

「そういえば、先輩のコスチュームって脱げないんですね。体操服は脱げてましたけど」

 

「コスチュームが脱げちゃうんじゃヒーロー活動なんてできないからね! だから俺のコスチュームは特別製なのさ」

 

「特別製……先輩の表皮からできてるとか?」

 

「猟奇的な発想だな!? 髪の毛だよ、髪の毛。髪の毛なら自分の体の一部だから個性の対象になるんだ」

 

「それなら皮でも一緒では」

 

「なんでそこに拘る!?」

 

「いや、だってコスチュームにできるだけの量を確保できそうな体の部位ってそこぐらいしかないと思って」

 

「髪の毛を培養してコスチュームにできる量にしたんだよ……いや、君、わざと言ってない?」

 

「人皮使うなんていまどきヴィランでもやりませんから」

 

「どうやら君のユーモアは真っ黒みたいだな」

 

 呆れたようにルミリオンは頭を振る。

 

 人皮で装丁された本とかあるけどね。パパのコレクションにあったりする。パパもこういう悪趣味なもの集めるんだなぁ、って思ったら献上品らしい。パパって基本来る者拒まずだからそう言うのも受け取っちゃうわけか。去る者は絶対に許さないけど。

 

 ん? そういえば、ベストジーニストがルミリオンのコスチュームに個性を使った場合はどうなるんだ? んー、ルミリオンのコスチュームは彼の体の一部としてルミリオンの個性と判定されているから、ルミリオン側の個性が適用される、とか? まあ、ジーニストの個性が優先されてもルミリオンは全裸になるだけなんだけど。

 

 それとついでに思ったことだけど、ジーニストの個性ってレザーには適用されるんだろうか。レザーって皮だし。効かなければ効かないでなんとかしそうだけど。

 

「先輩は卒業したら事務所を立ち上げるんですか?」

 

「いや、ここにサイドキックとして就職する予定。ヒーロー免許の本試験もまだだしね。それに事務所を立ち上げるにもほら、お金がかかるから」

 

「あー……」

 

「このヒーロー飽和の時代、新しく事務所を開くのも簡単じゃないしね」

 

「副業が認められていなかったら、職業ヒーローはもっと少なかっただろうって話もありますもんね」

 

 今年度の終わりにはごっそり減ることになるけどね! 飽和解消だ、やったね。

 

「俺はヒーロー一本でやってくつもりだけどね!」

 

 んー、なんかちょっと突っ込んだ話にも簡単に応じるな。将来どうしたい、とかいくら同じヒーロー科の後輩でもそうそうしないはずだ。先輩なら聞いたら答えてくれそうだけど。『魅了』の効きが良いんだよね、この人。『魅了』も人によって効き方が違う。最初から私に敵意を持っている爆豪くんや、年単位で受けている百は別としても、透ちゃんが妙に効いているんだよね。なんでだろう。効果の幅があると言ってもどういう条件で幅ができるのかは検証してみないとわからないし。あ、そうだ、透ちゃんと言えば。

 

「先輩、ちょっと相談したいことがあるんで、今後連絡しても構いませんか?」

 

「ん、いいよ。本試験が近いからいつでもってわけにはいかないけどね」

 

「いえいえ、相談に乗ってくれるだけでもありがたいです……ヒーロー科って縦の繋がり弱いですし」

 

「学年を越えてやる授業とかないからね。俺はあった方が良いと思うんだけどね」

 

 相談したいこと、と言うのは透ちゃんのコスチュームについてだ。これは前々から思っていたことではあるけど、こうして先輩と知り合いになれたから彼女のコスチュームをまともなものにする提言ができるようになったわけだ。でもまあ、透ちゃんの髪を使ってコスチューム作るのって大変そうだな。髪の毛も見えないわけだし。3Dプリンタでも使うんだろうか? そこはコスチューム製作会社の仕事だから私が気にしても仕方ないんだけど。

 

「じゃあ、将来雄英の先生になって実現してください」

 

「先生か。それもいいかも」

 

 実際先生に向いてるんじゃないかな、先輩って。努力してここまでの実力を身につけてきた人だし、観察力もあるから指導とかもできそうだし。落ちこぼれからトップにまで上り詰めたわけだし……いや、雄英のヒーロー科に入ってる時点でエリートだよ、先輩。同学年の全国トップ40の1人だよ、あなた。お前のような落ちこぼれがいるか。

 

「じゃあ、午後の巡回、行こうか!」

 

 

 

 


 

 

 

 

「1週間お世話になりました」

 

 1日が終わり、同時に常夜の職場体験も終了となる。オフィスにはナイトアイ事務所所属のヒーロー全員とインターン生のルミリオンが揃っていた。

 

「月並みだが、今回の職場体験をもとに今後の学習がより良いものになることを願おう」

 

 それぞれが常夜と挨拶を交わし、退勤するとオフィスには常夜とナイトアイが残った。奇妙な状況だった。ナイトアイはともかく、常夜がこの場に残る必要はない。いや、むしろ最初に帰るべきだ。

 

「さて、もう会うこともないと思いますけど、どうです? 私の未来、視てみませんか?」

 

 あっさりと“志村常夜”としての態度を“死柄木常夜”に切り替え提案する。そもそもナイトアイが常夜の未来を視なかったのは彼女からそうしないように暗示をかけられていたからで、これは常夜が自分がこれから何をしようとしているか知られないようにするためだ。

 

 ナイトアイの個性である『予知』は条件を満たした対象人物の取り得る行動を1時間視ることができる、と言うものだ。情報と言うものは様々な種類があるが、その中でも未来に関わる情報ほど価値のあるものはないだろう。未来を知ることができれば、利益を得ることもできれば不利益を避けることもできる。未だ異能現れざる時代においても“超能力”の代表的なものとしても“未来予知”が存在していた。その実態は眉につばをつけるようなものであったが、異能・個性時代においては真実となっている。

 

 『予知』はレアと呼ばれる希少な個性ではあるが、ヒーローとして活動している者となるとさらに少ない。個性は同系統のものでも能力の強弱にはかなり幅があるため、実戦で運用できるほどの強度がなければならず、またそれを活用できるだけの経験や技量が必要になる。その意味でナイトアイの『予知』は強力な個性だと言って良いだろう。

 

 しかし、難点もある。使用後24時間のインターバルが必要になるため、ここぞと言った場面を見定めなければならず、使いどころが難しい。さらに視える範囲も対象人物の行動や周辺環境と限られている。

 

 そして人の未来、その終着点である死までが視えてしまう。そして、視た未来は不可避のもの、とナイトアイ自身は思い込んでいる。実際には変えることはできるのだが、それは容易ではない。ただ1人の力では足りない、何人もの人々がそのために力を結集しなくてはならない。だからこそ改変不能だと考えてしまっているのだが。

 

 常夜は前述の通り、“志村常夜”と“死柄木常夜”と言う仮面を付け替えているようなものだから、彼女の未来を見ることは、その両方の未来を見ることと同じだ。

 

 ナイトアイは常夜のヴィラン連合、そしてその背後にいるオール・フォー・ワンとの関連に気づいている。彼女の未来を視ることはそれらの動向を掴むことができる可能性がある。しかし、なぜ常夜はそれを視せようとしているのか? まるで意図が読めない。2年前、死穢八斎會で対面したとき、『巻き戻し』の個性を預けられたことも、何のためだったのか未だにわからずにいる。いや、常夜の暗示の影響で、これまでその点について考えることはできなかったのだが。

 

 ヴィラン側、それもおそらくオール・フォー・ワンに近い存在であるはずなのに、オールマイトの死を回避する手段を提示する? いや、ヴィランも必ずしも一枚岩ではない。オールマイトを全盛期の状態に戻し、オール・フォー・ワンを倒させる。6年前でもほぼ相討ちであったことを考えればオールマイトも無傷とはいかない。そこで漁夫の利とばかりにオールマイトも倒し、自身が魔王の後継者となろうとしているのかもしれない。

 

 あるいはヴィラン側にいながら、ヒーロー側を助けようとしている?

 

 いや、それも『予知』で視ればわかるのか。常夜もこれ以上何かを話すつもりがないのか、それを待っている。

 

 ナイトアイは意を決して、『予知』の発動条件 -対象の一部に触れ、目線を合わせる- を満たすために常夜に手を差し出す。その条件を知っていたらしい常夜もすぐにその手を握り、ナイトアイの目を見つめる。

 

 『予知』発動。

 

 映画のフィルムのような映像がフラッシュバックのようにナイトアイの脳裏に映し出される。そこには雄英高校での学校生活を送っているものが多くを占めているが、度々ナイトアイ事務所が監視対象としている死穢八斎會の若頭、治崎廻や、ふくよかな体型のいかにも研究者風の老人と接触するなど、怪しげな行動も見て取れる。さらにその先では、雄英高校ヒーロー科恒例の林間合宿と、それがヴィラン連合に襲撃される場面も。

 

 そして。

 

 ナイトアイの目が大きく開かれる。

 

「ばかな」

 

 驚愕と共に、ナイトアイは声を震わせ、両手で顔を覆う。

 

 あり得ない。

 

「こんな……ことが……!」

 

 常夜の最期の瞬間。あまりにも鮮明に脳裏に映し出されていた。しかし、ナイトアイを惑わせているのはそれではない。

 

「なにが、みえましたか?」

 

 手を離した常夜が、ナイトアイの耳元で囁く。彼の指の隙間から、2年前と同じく赤い月が見えた。

 

 こいつは、“死柄木常夜”は。

 

 ヴィラン連合の目的は象徴の抹殺。その手法は直接オールマイトを殺害しようと言うものだった。これは既に撃退されているが、彼らはまだ諦めてはいないだろう。

 

 しかし、それとは別に第二の矢が平和の象徴に向けて放たれていたのだ。そしてはそれは象徴のすぐそばにまで近づいていた。

 

 それがこの少女だ。

 

 その矢が象徴に届いたとき、オールマイトは終わる。

 

「あなたが見た未来は確定されてしまうんでしたっけ? あーあ、どんな未来なのか知りませんけど、そのときまで悶々と過ごすしかないなんて、ひどい個性だこと」

 

 未来は変えられない。常夜の言う通り、ナイトアイは平和の象徴の終焉と死に対してなにもできない。

 

「そもそもここでのやりとりは、あなたは全て終わるまで思い出せないんですけどね? おっと、ということは少なくともその瞬間まであなたはやきもきせずに済むってことですね。あっ、でもオールマイトが死んじゃう方はそのままだからあまり変わらないかな」 

 

 オールマイト。ナイトアイが誰よりも尊敬する唯一無二のヒーロー。幸せになって欲しかった。今でこそ喧嘩別れした状況だが、その思いは変わらない。それが、あんな結末を迎えてしまうのか。

 

「無力に苛まれてる人って良いなぁ」

 

 クツクツと嗤う常夜。

 

 ナイトアイに絶望を味わわせる、という悪趣味のために自身の未来を見せたのだ。悪魔の所業と言うべきだろう。

 

「じゃあ、私もそろそろお暇しますね? ぐっどばーい」

 

 常夜が嘲りを隠しもせずにオフィスから退出すると、ナイトアイの意識が一瞬混濁する。

 

 体を背もたれに預け、天井を仰ぐ。何か、ひどく悪い夢を見ていたような気分だ。

 

 しばらくそうしてから、意識を切り替えようとする。残業をする予定はない。自宅に戻り、いつもの動画を見ながら酒を呑むのが良いだろうか。

 

「あ、そうだ、忘れてました」

 

「!?」

 

 帰ったはずの常夜がひょっこり戻ってきた。もう会うことはない、と言ったのは一体何だったのか。常夜が再び、ナイトアイの対面に立つ。

 

「歴代の『ワン・フォー・オール』継承者について調べておいてください」

 

「どういうことだ」

 

「後々役に立ちますから。意外とオールマイトもお母様以外については関心がなかったのか、全然知らないみたいなんですよね。あ、ノーヒントで調べるのは大変だと思うんで、名前を書き出しておきますね。えーと、書くもの書くもの」

 

 常夜はメモ用紙とボールペンを取ってきて、いくつかの名前を書き出しそれをナイトアイに手渡す。メモ用紙には

 

 四ノ森 避影

 

 万縄 大悟郎

 

 揺蕩井 煙

 

 志村 菜奈

 

 と4つの名前だけ。『ワン・フォー・オール』の継承者はオールマイトで8代目であるから、全体の半数でしかない。

 

「8代目以降はご存じの通りなんで省略しますね。初代から3代目は国民データベースに情報が残ってなかったんですよね。叔父様はお父様共々登録してたかどうかも怪しいですけど。とりあえず、この4人の経歴とか個性とかを調べてみてください」

 

「それを私が調べなければならない理由が思い当たらない」

 

「え、だって『ワン・フォー・オール』を知ってる人って限られてるじゃないですか。根津校長、リカバリーガール、グラントリノ。で、あなた。あ、パパもそうか。いや、除外していいかな。ともかく、この中では誰が適任なのかは一目瞭然でしょう」

 

 どうやら常夜の中では今後ナイトアイになにをさせようとしているのかは既に決まったことのようだが、当のナイトアイにはさっぱり伝わっていない。

 

「んー、グラントリノでもいいんですけど、彼1人だと指導の方向性が固まっちゃいそうなんですよね。その点あなたならサイドキックやインターン生もいますから幅のある指導が期待できるってわけです」

 

「私にあの少年を指導しろと」

 

「遅かれ早かれ、そう言う話は来ると思いますよ。さっき言った通り、『ワン・フォー・オール』のことを把握している人、少ないんですから。緑谷くん、オールマイトや爆豪くんの真似をよくしてますけど、これって自分の戦闘スタイルを確立できてないってことですよね。まあ、まともな戦闘訓練をするようになったのが雄英に入ってからじゃ仕方ないんですけど」

 

 指導者としてのオールマイトの適性はまだ評価できる段階ではないし、担任のイレイザーヘッドも放任タイプだから、緑谷出久を育てるならば、個別の指導ができる者がつくべきだろう。しかし、それをナイトアイが受け入れるかは別の問題だ。

 

「受け入れることになると思いますよ。なにしろそんなことは言ってられなくなりますから。まあ、そういうわけで今抱えている案件は夏の終わりまでには減らしていて欲しいなーって思うんですけど?」

 

 ナイトアイは裏社会に関わる多くの案件を並行しているのだが、ものがものだけに短期間で解決するようなものは少なく、そうそう減らせるものではない。

 

「期待はするな」

 

「ですよねー」

 

「それで、『ワン・フォー・オール』の継承者を調べるのはなぜだ」

 

「あー、うーん、ネタバレになるけど、どうせ忘れるからいっか」

 

 常夜はもごもご小さく呟いてから続ける。

 

「『ワン・フォー・オール』が継承するのはパワーだけでしょうか?」

 

 その言葉の意味を考える。『ワン・フォー・オール』とはそうした個性のはずだ。ナイトアイ自身もそう聞かされているし、オールマイトもあの超パワー以外のものを振るったことはないはずだ。しかし、常夜の物言いはそれを否定しているように思える。ならば、パワー以外の何かをも継いでいると言うことか。

 

「継承した者の個性も継承している……?」

 

「まだ発現はしてませんけどね。正直何がトリガーになってるのかは私もわかりませんけどね。でも過去の継承者の姿や記憶を見ることがあるそうですから、片鱗はあるってことですかね」

 

「つまり、緑谷出久を指導するためにその点も把握しておくべきだ、と言いたいわけか」

 

「そんなところです」

 

 だったら最初からそう言え、と思わずにはいられないナイトアイである。

 

「話が横道に逸れたり遠回りするのは私の悪い癖ですね。改めるつもりはありませんけど」

 

 常夜が背を向け、扉へ向かう。

 

「それじゃ、今度こそお暇しますね」

 

 扉を開きながら、常夜が呟く。

 

「ああ、そうそう。『巻き戻し』はエネルギーをため込むタイプなので、使う気になったら早めに知らせてくださいね?」




ヒロアカ二次恒例(?)透ちゃんのコスチュームなんとかしよう案件。
やっぱ全裸はいかんですよ。
透ちゃん、オンオフできないから迂闊に怪我病気できないのがつらそう。内科ならなんとかなりそうだけど、外科や歯科は死活問題では
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