ラスボスの子に転生したのでNO.1ヒーローを曇らせたいと思う 作:タメガイ連盟員
誤字報告ありがとうございます。
大きく間が空いてしまいましたが、第2部も大詰めが近づいてきているので、頑張りたいと思います。よろしければお付き合いください
今、私はサンドイッチの具になっている。いや、紅白饅頭に挟まれていると言うべきか?
「ギギギギギギギギギギギギギギギ」
なんか変な音を立てている奴がいるけど無視だ、無視。
「峰田よ、あれは女子同士だから許されることだぞ」
「わかってる、わかってるんだ、そんなことは。だけどおいらの魂は嫉妬の炎に焼かれているんだ……! ちくしょう、どうしてどうして……」
ようするに、私は前から百、後ろから三奈ちゃんに挟まれている状態だ。そして身長差があるため、私の頭は2人の胸に当たっているわけだ。まあ、三奈ちゃんはちょっと背伸びしているようだけど。で、なぜこうなっているかと言うと、まず私と百が久しぶりに会ったこともあって、正面からハグ。そこへ三奈ちゃんが私の後ろから抱きついてきたためだ。
とりあえず私を放置しておしゃべりしないでくれないだろうか。
「三奈、離れてください」
三奈ちゃんの手を軽く叩いて訴えかける。
「あ! ごめんごめん!」
パッと離れてくれたので私も百と離れる。普通の男なら羨む状態ではあっただろうな、たぶん。そこで血の涙を流している淫獣は別として、我がA組男子はほぼスルーしている。もはや日常の光景だからね。
「にしてもさ、常夜めっちゃ噂になってんじゃん。雄英祭に続いて話題沸騰!」
「あんまり在学中に有名になりたくなかったんですけどね。デビューしてから期待外れとか思われたくないんで」
「そんなことないでしょ。下手なプロより強いって言われてるし」
「その評価もどうなんですかね。強ければ良いってわけでもないですし」
「それはそうですが、称賛は素直に受け取った方がいいですよ、常夜さん」
「うーん、自分より強い人を見たあとだとどうにも。結局、保須市でヴィランを倒したのはほとんどエンデヴァーだったし。彼がいなかったら、どれだけ被害が拡大していたことか。それに」
視線を送った先には出久くん、飯田くん、轟くんのお騒がせトリオがいる。
「……そうだな、救けられた」
轟くんがやや含みのある言い方をしている通り、表向きはヒーロー殺しと接敵したがエンデヴァーに助けられた、と言うことになっている。ヒーロー殺しとの接触は出久くんがクラス全体にSOSを発信して、その意味を説明したことで知られてしまっているから伏せておけなくなってしまった。一応、その辺は外部に漏らさないで、とは伝えてあるから3人は世間の話題にならずに済んでいる。私が目立ったことが隠れ蓑になっている部分もあるんだろうけど。
3人の行動の問題点は面構署長が指摘した通りなんだけど、例えば一般人がヴィランに襲われて個性を使った場合は正当防衛の範疇になる。個性関連法も杓子定規に運用されてるわけじゃないからね。法律ってのは弾力性がないと。で、個性ってのは使い方次第で凶器になり得る、と言うのも13号先生に指摘されていることだ。どこまでが正当防衛で、どこからが過剰防衛になるのか、と言う問題がつきまとうことになる。世代を経るごとに個性が強くなっているわけだから、反撃したら相手を死なせてしまった、なんてことは十分あり得ることだ。ヒーロー殺しの肺に骨が刺さったのは、脳無相手に動き回ったからだけど、その前に骨折させたのは出久くん達なわけだけど、彼らの攻撃だって当たり所によっては死亡させてしまう恐れがあるわけだしね。ちなみにこの辺はヒーロー基礎学でやる範囲なのでテストに出ます。
「ニュースとかで見たけど、ヒーロー殺し、ヴィラン連合と繋がってたんだろ?」
これは尾白くん。んー、繋がってなくはないんだけど、仲間ではないと言うかなり微妙な関係なんだよね。ヒーロー殺しにしてみれば、連合と言うか弔は見所はあるけどあとで殺す、ぐらいの対象だし。当事者しか知り得ないことだけど、ヒーロー殺しは事情聴取なんてできない状態にしてあるし、弔からも当然無理だから、憶測で話が進んでしまうわけだ。
ところでヒーロー殺しが脳無を殺したことは表沙汰になっていないようだ。例の動画も“演説”だけ切り抜いたものだったし。いや、ヒーロー殺しの後ろに脳無が倒れてるんだけど……ヒーロー殺しが殺したとはわからないからか? 動画を広めている側にとってはヒーロー殺しとヴィラン連合に関連があった方が都合良いようだからともかく、ヒーロー公安あたりは何を考えてるんだろうか。ネームドが連合に集まったところを一網打尽なんて皮算用でもしてるとか? 単に動きを掴めてないだけかもしれないけど。
ただ、個人的にはヒーロー殺しがヴィラン連合に所属していたからってそこにネームドが集まるのがよくわかんないんだよね。ヒーロー殺しって一匹狼タイプだから、なにがしかの組織に所属していた、と言うのはヴィラン界隈にしてみればビッグニュースと言える。けどそれもヒーロー殺しが捕まっていては魅力半減どころじゃないと思うんだけど。連合のメンバーになるヴィランも闇ブローカーからの紹介で集まったっぽいし。闇ブローカーが連合に人を集めようとするのはいいんだ、オールマイトの所為で衰退したヴィラン界隈を盛り上げようって意図があるから。じゃあ、それで集まった連中はなんだよって話。マスキュラーやなんとかフィッシュみたいに暴れられれば良い、みたいなのはともかくトガちゃんやスピなんとかみたいなヒーロー殺しのファンなのに、いないのわかっててなんで来たの? って感じで。うーん、ヒーロー殺しが所属していたぐらいだから、連合も同じ思想を持っていると考えているとか? でも弔に会ったら違うってわかるだろうし。弔にある種のカリスマ性があるのは雄英襲撃のときにあれだけの数のチンピラを集めたことからもわかるけど。うーん。
「でもさぁ、例の動画見た? アレ見ると、一本気っつーか、執念っつーか、かっこよくね? とか思っちゃわね?」
おっと、上鳴くん、そいつはノンデリ発言だ。被害者家族がそこにいるんだぞ? 当然ながらそれを出久くんに指摘されて慌てて口を押さえる上鳴くんであった。対する被害者家族こと飯田くんはヒーロー殺しをクールだと感じる人がいるのもわかるとしながらも、粛清と言う手段を選んだことは誤りだと言う。そして自分のような者を出さないためにも、改めてヒーローの道を歩むと力強く宣言する。かっこいいね、飯田くん。
「信念、ねぇ。私には世の中が自分の思い通りにならないから八つ当たりで人殺しをする輩としか思えませんけど」
「辛辣だな、君は」
「世の中を変えたいなら、それこそオールマイトのように模範を示すべきです。さて、そろそろ始業時間です、皆さん、席に戻りましょう」
「はーい」
私も自分の席に着いて、ふと左を見ると見慣れない人がいることに気づく。髪を8:2で分けているけど、A組にこんな人いたっけ?
「なにを見てやがる」
私の視線に気づいた謎の人ががなる。流石にこの声には覚えがある。
「えっ、爆豪くん? イメチェンしすぎでは? あっ、もしかしてベストジーニストに憧れて?」
「そのベストジーニストにやられたんだよ! 洗っても直んねえんだ、あとイメチェンじゃねえ!」
「えぇ……洗っても直らないってなにされたんです……」
そういやこの人、職場体験はベストジーニストの事務所だったっけ。いや、それにしたってなぜあんな髪型に。トップヒーローはよくわからないね。
「なんか、思ったより変な人なんですね、ベストジーニスト」
「…………」
本人的にも成果がなかったらしくてご機嫌斜めね、爆豪くん。いや、いつもそんな感じだけどさ。この人、機嫌の良いときってあるのかね。
朝礼では職場体験やヒーロー殺しについてはさらっと流される。1学期はもう外部での活動はなく、イベントらしいことと言えば期末試験ぐらいだ。そして林間合宿。今から2ヶ月以上先のことになるけど、ようやくって感じだ。でもその準備に向けて忙しいからなぁ。学校の方は分身に行かせないといけなくなるだろう。流石に期末試験は自分で出るけど。
「志村、校長から話があるそうだから、放課後、校長室に来るように」
最後に相澤先生からそう言われた。用件は私の体についてだろう。職場体験前に、以前に入院した病院で精密検査を受けている。その結果の通知だろう。担当した医師はドクターが言った通り、パパとドクターのことを知っている人で、雄英関係の情報をドクターに流しているらしい。黒霧のベースになった白雲朧の遺体をすり替えたのはその人、と言うわけでもないんだろうけど、似たようなポジションの人があちこちにいるはずだ。検査結果は好きなようにいじれるそうだけど、今回はそのまま出してもらうことにしている。ここで重要なのは私が余命幾ばくもないのをオールマイトが知ること、だからね。どんな反応をしてくれるかな?
さて、職場体験後の授業もつつがなく進み、お昼休みだ。食堂に来ているんだけど、百と一緒なのはいつもとして、今日は朝に引き続き三奈ちゃんを加えた3人でだ。話題はこれまた朝に続いて職場体験関係だ。
「CM撮影!? なにそれすごいじゃん!」
「と言っても背景にいただけですし……いえ、あれも大事なヒーローの仕事……!」
「なんか、大丈夫?」
「思ってたのとなんか違ったみたいですね。でもそれ以外はトレーニングとパトロールでしょ?」
頷く百。
「そこはみんな一緒なんだね」
「流石にヴィラン退治に参加させたりするのは危ないからね」
「常夜はやったじゃん。梅雨ちゃんも密航者捕まえたって言ってたし」
「ヴィラン捜索方法のレクチャーの一環で保須に同行したら巻き込まれたんですけどね」
基本的に職場体験にやってくる学生はお客様だ。怪我でもさせたら責任問題になりかねない。なので基本のトレーニングとパトロールばかりになりがちのようだ。このヒーロー飽和の時代じゃヴィラン犯罪なんてホイホイ起きるわけじゃないからヴィラン退治の機会は少ないんだけど。
「トレーニングと言えばインターンで来てた3年の先輩、すごく強かったです。何度か組み手をしましたけど、一度も攻撃を当てることできませんでした」
「常夜が? マジで?」
「3年生ともなるとそこまで違うのですね」
「てか、インターンって?」
「えーっと、職場体験の本格版? だそうで、ヒーロー事務所にサイドキック待遇で活動するらしいです。仮免取得してからじゃないとできないから、仮免許試験が確か6月と9月なんで、私達ができるようになるのは最短で9月になりますけど、さすがに厳しいので来年からですね」
実際には今年の9月の試験での取得を目指す方針になっちゃうんだけどね。今回の保須の一件が影響していることは間違いない。流石にこの短期間に2度もヴィランとの接敵があったんじゃ例年通りにするわけにはいかないってことだろう。ヴィラン連合が逮捕されていないのも関係しているだろうし。で、仮免を取得させることで公共の場での個性使用が大丈夫な状態にしようってわけだ。もうやっちゃった人もいるしね。
「厳しいってそんなに難しいもんなん?」
「合格率、5割だそうです」
「うっわ。年2回でもきついなぁ」
「仮免が受からないせいで留年する人もいるそうですから。雄英のヒーロー科にはいないけど」
「もとより狭き門を通ってきたのですから、5割を突破できなければ雄英生たり得ないと言うことですわね」
300倍だもんね、雄英の入学試験。百は推薦組だけど。原作の仮免試験、例年とは違ってたから普段どういう感じなんだろうか。と言うか、今年は異例尽くめだね、ホント。パパのせいだけど。今は私もか。A組の定員増やしてるし。
「それでさ、その先輩ってなんて名前?」
「通形ミリオ先輩。ヒーロー名はルミリオンですね」
「うーん、知らない人だ」
首を傾げる三奈ちゃんと百。雄英祭じゃほとんど活躍できてないからね、あの人。最終種目みたいなタイマン勝負なら話は別なんだろうけど。そういやビッグ3なんて呼ばれてたと思ったけど、まだそう言う噂は聞いてないな。もうちょい先かな。
写真もあるので見せてみると、去年の雄英祭で服が脱げていた人だと百が気づいた。
「服ぬげんの!? どういう個性?」
「先輩からはクラスの人には内緒だよ! って言われたので黙秘します」
若干既視感のある言い方だったけど、実際、そのうちA組に来訪するしね。ルミリオンって個性がわかったところで対策するのかなり難しいんだけど、本人としてはサプライズ性と言うか、そういうのを狙っているのかもしれない。
「ふーん……あれ、常夜のことだから職場体験で行った事務所の人みんなと撮ってるかと思ったけど、サー・ナイトアイのはないね」
私の、“志村常夜”としての行動として、クラスメイトや友人とツーショットを撮っている。当然ナイトアイ事務所の面々とも行っている。三奈ちゃんが言う通りナイトアイには断られてるんだけど。あ、グラントリノやマニュアルとも撮っておくべきだったかな。マニュアルはともかくグラントリノとはやっておいて損はないし。
「私がプロになったときに、だそうです」
言われたこと自体は本当。でも私がプロになることはないから彼とのツーショットは永遠にファイルフォルダに加わらないのであった。
「あとは……爆豪さんですわね」
「爆豪は難しそうだよねぇ」
「そうですね」
他の人は快く撮ってくれたんだけど、爆豪はどうしたもんかなぁ。こいつだけ『魅了』の効果が入ってないから私への好感度が低いから余計に。と言うか、好感度の高い爆豪ってなんだろう。サインをしてくれるエンデヴァーより不可解だぞ。
「彼だけ抜けているのも気持ち悪いので、まあ、なんとかします」
撮った写真はプリントアウトして部屋に飾っている。こういうのが後々効いてくるのだ。ちなみに相澤先生をはじめ教師陣とも撮っている。どうやらオールマイトもこのことを知ったらしく、チラチラアピールしてきていて若干うざい。どうしよっかなー。ママの写真とかも持ってないっぽいし? 師匠の孫(推定)でも写真があった方がいいよねー。
「どうかされましたか?」
おっと思わず笑みがこぼれていたらしい。気をつけよう。
「なんでもないよ」
放課後、相澤先生に言われた通り校長室に向かう。
「志村です」
ノックをして、入室の許可を得てからドアを開く。室内には校長と私の検査を担当した医師がいる。既に見知った顔ではあるけど会釈しておく。応接用のソファに座るよう促されたのでそうする。対面に校長と医師が座る。話の内容は予想通り、検査結果の告知だ。どういう話をするかは医師と打ち合わせをしてあるのでここから先はぶっちゃけ茶番だ。
「志村くん、これから告げることは君にとって衝撃的なことだと思う。できれば覚悟を決めて欲しい」
そんなこといきなり言われても困るだろうよ。それ以外言い様がないのはわかるけどさ。校長が医師に合図をする。
「志村さん、簡潔に申し上げます。あなたが生きられるのはおよそ1年です」
「え」
言っている意味がわからない、と言う風に目を見開く。次いで視線を医師、それから校長に向ける。うーん、余命宣告された人の反応ってこれでいいのかな。実際の余命宣告の場面とか知らないし。
「あの、それって、どういう……」
「現状ではまだ自覚症状はありませんが、あなたの体は不可解な老衰が進行しています。おそらくですが、半年もすれば症状が顕在化、これまでような生活を送ることは困難になるでしょう」
ちなみに半年もすれば、ってのはドクターによる予測だ。今の私の体は40代半ばぐらいの状態らしいのだけど、老衰のペースが加速していくとか。肉体の負担が増えるとその分早まるとも言ってたけど。で、症状と言うのは色々起きるみたいだけど、まず身体能力の低下、さらに肉体の崩壊だ。これは『ワン・フォー・オール』4代目・四ノ森避影の体と同じだ。体にヒビが入るのはその前兆のようなものだ。なので残りの数ヶ月は寝たきりになってしまうだろうし、意識もどれだけ維持できるか。
「医師としての立場から言わせて貰えば、すぐにでも入院措置をとるべきです。残り1年とは、あくまで安静にしていればの話です。ヒーロー科の授業がどういったものかは私もよく存じています。体に負担がかかる状態が続けば、さらに寿命を削ることになります」
聞きながら、俯いて手を組んだり離したりを繰り返したり、体のあちこちを触ってみたりと動揺してますアピール。
「こ、こうちょう、せんせい。わた、わ、わたし、どうしたら……」
「私も先生と同意見さ。だけど君の意思もできるだけ尊重したいと思っているのさ」
念のために校長には『魅了』からさらに進んだ『洗脳』を使っている。心操くんの個性とは違って、これは『魅了』の延長と言うか強化版だ。普段使いしている『魅了』は効果範囲を広げているため、私に好意を持ちやすくなる程度の効果しかないが、範囲を絞ることで効果を上げることもできる。今回厄介なのが対象となるのが校長と言う点。余命1年の学生をヒーロー科に置くなんてことをこの人がするだろうか。しない。なので真に常識的な倫理観をお持ちであるこのネズミには『洗脳』を使わざるを得ない。
で、入院となる場合は校長が出資している医療施設に入ることになる。たぶん、原作の第一次決戦編後にみんなが入院していたセントラルだと思う。あそこなら警備も強いだろうし。学校の方は休学と言う扱いになる。なんで除籍とか退学じゃないかと言うと、雄英の学生だといろいろ融通が利くから。私が表向き天涯孤独の身で、しかもヴィラン連合に狙われている恐れがあるとなるとそのまま放置するわけにもいかないってわけだ。連合に対する囮にもなるしね。
流石に担任である相澤先生や保険医であるリカバリーガールには伝えられるらしい。リカバリーガールはともかく、相澤先生が面倒かな。こっちも『洗脳』しておかないと。問答無用で休学とはならないだろうけど、ヒーロー科に在籍することには反対しそうだし。そして、オールマイト。今回の検査結果はまだ知らないけど、私の体に異常があることは知っているようだ。ふふふ、どんな気分かな、師匠の孫に会えたと思ったら自分と同じぐらいしか生きられないって知らされるのは。
学校側としてできることは伝えられたのでお話はこれでおしまい。後は私がどうするか、だ。普通に考えればこれ以上ヒーロー科にいても仕方がない、と言うことになる。さっさと入院して、原因を探るなりするべきところだ。だけど私の、“死柄木常夜”としての目的はヒーローになることではない。パパからのオールマイトへの嫌がらせを完遂することだ。そのためにはもうしばらくここにいる必要がある。
重い足取りを演出しながら校長室から出て、教室へ向かう。思ったより時間が経っているからもうみんなは下校したらしい。ん、おや、切島くんが残っているな。何してるんだろうか。
……待てよ、これはチャンスでは?
実を言うと、私が前世から好きだったヒロアカキャラは切島くんなのだ。まっすぐなんだけど、出久くんみたいな狂気がなくて、中学時代にマキアにびびってなにもできなかった情けないところとかさ。曇らせたらさぞ面白いだろうなぁ。
と言うわけで、周囲に切島くんと私以外がいないことを確認して、っと。
「お、志村。お疲れ」
と挨拶する切島くんに気づかないふりをして彼にぶつかってそのまま尻餅をつく。普段の私を知っている切島くんからしたらちょっとぶつかっただけで私が転ぶなんてまずないとわかっているはずだ。
「えっ、だ、大丈夫か? どっか痛むのか?」
「え……あっ」
左頬に手をやり、涙を流していることに気づく。もちろん嘘泣きである。そこから堰を切ったように泣き出す私、困惑する切島くん。端から見たら切島くんが泣かせたようにしか見えないね。周りに誰もいないけど。私が少し落ち着いてみせたところで教室に入る。
「すみません……」
「ああ、うん、別に……なにか、あったのか?」
聞くよね、当然。それに対して私はしばらく俯いてから、絞り出すように言う。
「私……ヒーローになれないみたいです」
「えっ」
「病院で精密検査を受けて、それで、卒業するまでに……生きられないって」
絶句する切島くん。ちらりと顔を覗いてみる。そんな表情しないでよ、もっと見たくなっちゃうじゃない。
「ようやくここまで来たのに……! おばあちゃんと同じヒーローになれるまで、あとちょっとまで来たのに! それなのに、もう、届かない、なにもない、なにもなにも! もう死ぬのを待つことしかできない……!」
切島くんの胸にすがりついて泣きじゃくる私。
さあ、どうかな、切島くん。夢破れた女の子にかける言葉はあるかな?
あるわけないよね。
なにしろ切島くんには未来がある、ヒーローになれると言う未来が。
そんな人の言葉が響くわけがない。何を言ったところで何の慰めにもならない。
ねぇ、切島くん。
ヒーローって無力だね?
余命1年はガチです。その割には悲壮感の欠片もないね