ラスボスの子に転生したのでNO.1ヒーローを曇らせたいと思う 作:タメガイ連盟員
誤字報告ありがとうございます。
UAが70万を超えました。ありがとうございます。
なんとか目標を達成して試験を突破した。
今は臨時の保健室に移動しているところだ。爆豪くんと出久くんはオールマイトが担いでいる。爆豪くんが意識がないのと、出久くんは腰に良いのが入ったせいでまともに動けないから。私は遠距離タイプだからオールマイトからの攻撃はほぼ2人が受けてくれたのでダメージは少ない。少ないんだけど、さっきから頭が痛い。痛覚遮断をしてみてもいまいち効果がない。何なの?
「ああ、そりゃ個性の使いすぎだね」
そう言ったのはリカバリーガール。
「そんなことあるんですか」
「個性ってのは基本、肉体から効果が現れるものだろ? でもあんたの場合、体から離れたところで効果が現れる。そういうタイプの個性だとね、脳みそに負担がかかるから使いすぎで頭痛がしちまうのさ。まっ、筋肉痛みたいなもんだからしばらく安静にしていれば治るさね。どうしてもきついならミッドナイトに眠らせて……ってまだ試験中だったね」
ようするに治癒では治らないらしい。ズキズキして嫌なんだけど、しばらくは我慢しないといけないようだ。生理と言い、こういう痛覚遮断で対応できない痛みって困るなホント。痛み自体はなくなるんだけど、不快感とかそう言うのは残るのだ。全感覚遮断すればそれも消えるけど、寝てるとき以外はできないし。リカバリーガールの言う通り保健室で寝てますか。
爆豪くんは気を失っているので『治癒』をしたら保健室までオールマイトが担いでいくそうだ。出久くんは臨時保健室に設けられている各会場のモニターから試験の様子を見たい、とのことなのでその場に残る。熱心だねぇ。臨時保健室は臨時なだけあっていくつもベッドが置いてあるわけじゃないけど、試験後はみんな消耗しているだろうから、と保健室以外にもベッドが置かれているようだ。もちろん部屋は男女別だ。
難易度:オールマイトなんて言ったけど、蓋を開けてみれば全体の中でも難易度は低めではないだろうか。オールマイト自身が消耗を抑えるためだったのかもしれないけど、割と休み休み攻撃してきたから相談する余裕もあったし。そもそもあの2人の仲の悪さをなんとかするのが主目的だったわけだし、その要因にオールマイトの存在があるから試験官に割り当てられたわけで。贔屓では?
試験自体は攻撃と撤退を繰り返しながらゴールを目指す、という戦法をとった。あの2人が協力するようになってから、だけど。爆豪くんは1人でオールマイトに挑みかかって返り討ちに遭うわ、出久くんは逃げ腰だわで……私は爆豪くんが言うこと聞かないけど、要は彼だと考えていたから上手く合わせる方針だったんけど、案の定、余計なことすんな、と怒鳴る有様。
協調性については、実習や授業で散々言われてることなんだけどね。ソロ活動してるミルコみたいな例はあるけど、ほとんどのヒーローはサイドキックがいたり、マニュアルのように1人事務所であっても他のヒーローと協力する場面が多い。だからこの試験でもその点が重視されている。なんだけど、爆豪くんはなまじ能力があるから1人で何でもできちゃう、できちゃったのだろうと想像できる。そこにプライドやら何やらが混ざってああいう人格ができあがったってわけか。正直、こうして近くで見ていると、単にわがままなだけじゃないかと思えてくる。
うん、そんなわけで大変だった。爆豪くんを煽るのを我慢するのに。いやだってさあ、煽らずにいられないって言うかさあ。パパだって爆豪くんと対峙したら絶対煽るよ。パパは誰でも煽るけど。
オールマイトもオールマイトで2人のフリートークの時間を作るためか上空に私を放り上げるし! 私じゃなかったら死んでたぞ。他界たかーい。じゃないんだよ。
まあ、そんなこんなで試験はクリアできたから良しとしよう。2人の関係は……共闘できるぐらいになった、のかなぁ。10年かけてじっくり拗れた関係が一朝一夕では解決しないか。
他の試験の様子を見るに、合格するのが難しそうなのはセメントスと校長か。そもそも合格させる気があるのか怪しいレベルだ。A組B組のどちらでもあの人らを攻略するのは無理じゃない? 私は相手がいそうなところに衝撃波の飽和攻撃をすればいいけど、高い攻撃力をもつ爆豪くんや轟くんでも突破は難しいだろう。壁を壊してもすぐ直しちゃうし。あれ、もしかしなくても、セメントスってすごく強いのでは……? 原作でも超常解放戦線の幹部を倒してたし。哀れ、切島・砂藤コンビは補習を受ける運命にあったのだ。で、校長の方は位置さえ特定できればなんとかなるんだけど、それが難しい。周囲が破壊されていく状況ではなかなか冷静ではいられないものだ。上鳴・芦戸コンビも補習送りが予め決まっていたようなものだ。補習やっても合格できるようにはならなくないか?
「っつぅ……」
あれこれ考えててもやっぱり頭が痛い。少しは気が紛れるかと思ったけどそうもいかないか。あー、さっさとベッドに転がりたい。
「大丈夫かい?」
「まあ、なんとか。こういう内側から来る痛みっていかんともしがたいですね……オールマイトって関節とか大丈夫なんですか?」
「なんだい急に! 人を年寄り扱いしちゃって!」
年寄りじゃん。
「人材育成に携わるようになったから、どこか悪いのかと思って」
「どこか悪いように見えるかい!?」
「……いえ、あまり」
「そうだろ!?」
実際にはお腹の中がぐちゃぐちゃになってるんだけどね。今もやせ我慢しているところだろうに。
「そういえば、林間合宿にはオールマイトも来るんですか?」
「あー……私は行かないんだ、ほら、場所も校外だし、いろいろ目立っちゃうから」
表向きはマスコミや野次馬対策ってことね。実際はマッスルフォームの維持時間が短いから。授業はともかく、合宿で短時間だけ顔を出すなんて不自然だし。
「それは……オールマイトに指導してもらえないのは残念です」
「林間合宿以外にも機会はあるさ!」
「そうですね」
そんな機会、ないよ。今まで以上にかみしめて欲しいな、オールマイト。あなたが出久くんに直接指導できるのはこれが最後だったんだから。
結果を言えば、林間合宿は全員参加。筆記は問題なかったけど、実技では案の定、芦戸・上鳴・切島・砂藤・瀬呂の5人が合宿と合わせて補習を受けることに。試験前は赤点は学校に居残りとか言ってたけど、久々の合理的虚偽であった。意図はわかるんだけど、あんまり好きじゃないなー、こういうの。
翌日、試験明け、かつ休日ってことで、透ちゃんの提案でA組のみんなで県内のショッピングモールへ買い物に来ている。ちなみに爆豪くんは団体行動を嫌がり、轟くんはお母さんのお見舞いで不参加である。みんな目的のものがバラバラなのでさっそく集合場所と時間を決めての自由行動に。
私の方は、と言うと実のところ買う物はない。今いる部屋を引き払うから物を増やしたくないと言うか。ぶっちゃけ着る物以外は残してもしょうがないからね。
原作では取り残されちゃった出久くんとお茶子ちゃんは、他のグループについていくよう促したのでここに残っているのは私だけ。なぜこんなことをしているかと言うと。
「よお、雄英の人じゃん!」
声をかけられ、振り返るとそこにはフードを目深に被った男性が。いや、誰かわかってるんだけどね。死柄木弔だ。
「ごきげんよう、お兄様」
そう返すと弔はピタリと止まる。フードの下の表情も一般人の装いが剥がれている。こちらから歩み寄って、軽く会釈する。
「初めまして、死柄木常夜です。お父様、ああ、オール・フォー・ワンの娘になります」
「……先生に子供がいるなんて聞いた覚えがねえな。ていうかなんだ、お兄様って。妹がいた覚えもない」
「覚えてないと思いますけど、血の繋がりはありますから」
「ああ?」
「ドクターから伺いました。お兄様は昔の記憶がないのだとか。まあ、私も物心がつく前のことですから、お兄様のことを知ったのは今年の5月になってからです」
弔は首筋を人差し指で掻きながら私を見つめている。
「……なるほど、雄英絡みの情報を寄越してきたのはお前ってわけか」
私は送ってないけどね。でもパパの息がかかった人間がいるのは間違いないだろう。
「敵を欺くには味方からってわけ。回りくどいことをするな」
「お父様は何かするとき、いくつもルートを作るそうですから。お兄様もそういうの意識した方がいいんじゃないですか」
「俺と先生とじゃやり方が違う……ま、少しは考えておくさ」
「立ち話もなんですから、どこかに座りませんか?」
2人で並んでベンチに腰掛ける。原作では出久くんの首に手を添えて、個性の発動条件をすぐ満たせる状態で話していたけど、そういうことはせずにポケットに手を突っ込んだままだ。
「そういえば、お兄様はなぜここに? 顔は隠してるみたいですけど、巡回しているヒーローだっているんですよ」
「ああ、たまたまだ。別に場所はどこだってよかった」
わざわざ嘘を言う必要はないから、本当なんだろう。えっ、じゃあ原作で出久くんと会ったのもマジで偶然なの? 私はここで弔と遭遇するって知ってるからそれに合わせて動いているから、この場は偶然じゃないんだけど。
「考え事だよ、考え事。何でも気に入らないんだけどさ、今なにより腹が立つのはヒーロー殺しだ」
私もあいつは嫌いだけど、弔とは方向性が異なる。雄英襲撃に、保須での脳無による破壊活動。普通ならどちらもかなりの話題になるはずが、ヒーロー殺しにすっかり食われてしまっている。ヴィラン連合の影は薄くなる一方だ。当然そこで疑問が生じる。結局のところ気に入らないものを壊しているだけ。一体どこに違いがある?
「お前、ヒーロー側にいるんだからそっちの考え方はわかるだろ? 教えてくれよ、妹」
「んー、そうですね。まずは実績の有無」
「実績?」
「ヒーロー殺しはここ数十年での最多の大量殺人者です。大物犯罪者と呼んで良いでしょう。対してお兄様のヴィラン連合は数人の負傷者を出しただけで、オールマイトやエンデヴァーに撃退されたポッと出でしかありません」
「……言ってくれるなぁ」
「なので、お兄様に必要なのはヴィラン連合がヒーローに勝利した、と言うトップニュースです。いや、ヒーローがヴィラン連合に敗北した、かな?」
「納得はできるが、まだ気に入らないな」
「ヒーロー殺しの思想の根っこにオールマイトがいるからじゃないですか? ひん曲がってはいますけど、オールマイトを理想としてましたから。お兄様、オールマイト嫌いでしょ」
「はっ、なるほどね、やっぱりオールマイトか」
弔が合点がいったように笑い出す。結局はそこにたどり着くのだと。民衆がヘラヘラ笑って過ごしているのも、オールマイトがヘラヘラ笑っているからだと。
「俺は何も曲がることはない! あのゴミがいない世界を創り、正義とやらがどれだけ脆弱か暴いてやろう! ははっ、信念なき殺意に何の意義がある、だとか言っていたが、信念も理想も最初からあったんだ! ……ふぅ、人と話すってのも意外と良いもんだな。すっきりしたよ」
「それはなにより」
周囲がこちらを意識しないようにしているけど、大声出すのやめて欲しい。
それにしても、信念ねぇ。私には理解できないけど。今後の弔には必要なものだからね、異能解放軍を下すときとかに。
「うーん、でも、オールマイトを殺すのはどうでしょう」
「……お前もいちいちむかつくな。何が言いたい」
ちょっと嫌そうな顔してるのおもろ。
「耳に痛いことほどちゃんと聞いた方がいいですよ」
「……チッ。で?」
「死んだオールマイトは生きているオールマイトより厄介ってことです。全盛期と比べたら影響力は落ちてますけど、それでも社会への影響は大きいです。そんなオールマイトが死んだりしたら、オールマイトの無念を晴らす! だの、オールマイトの遺志を継ぐ! とか言い出すのがわんさか出てきます。それに死んだら影響力って落ちにくくなっちゃいますから」
「チッ」
再び舌打ち。けど私が指摘した問題について考えを巡らせているようだ。弔って衝動的な行動が目につくけど、頭が悪いわけじゃないんだよね。パパ自ら教育しているから同年代の水準は軽く超えているはずだし。
「オールマイトを倒すのとオールマイトを殺すことはイコールじゃない。今、世の中でもっとも信頼されているのは? オールマイトと雄英だ。そしてオールマイトは雄英の教師をやっている。となれば、まず狙うべきは雄英ってわけか」
「でも雄英の襲撃は4月にやって失敗してますよね。重傷者は1人だけでしたし、その後の雄英祭でむしろ雄英の対ヴィラン姿勢を示すのに利用されたぐらいですし」
「その重傷者ってお前だろうが」
「そうですよ? あれ死ぬほど痛かったんですから。ほら、手術したときの痕がまだあるし」
Tシャツのネックを引っ張って胸元を見せる。ちなみに本日のTシャツ文字は“青椒肉絲”である。
「服を広げるな、バカ」
「どうせ誰もこっちを気にしてないですよ」
「そういう問題じゃねえ。少しは恥じらいを持て」
「急に兄貴面しますね!」
「うるせえ」
「でも失敗した原因はわかってるんですよね? それをブラッシュアップした計画ってことですか」
「そんな感じだ。雑魚じゃ何人揃えても意味がないからな、やるなら経験豊富な少数精鋭だ」
「と言うと、人集めは順調ってことで?」
「気に入らない奴らばっかりだが、これからはそういうのも束ねないとな」
「組織のリーダーって大変ですね。脳無は借りられるんですか?」
「保須で3体も無駄にしたからな、次に使えるのはミドルクラスは1体だけだ」
「雄英をターゲットにするとして、学校を直接狙わないですよね? 前よりセキュリティ上がってますし」
「おあつらえ向きなイベントがあるだろ、林間合宿だっけ?」
「なるほど、それなら近くにいるヒーローもそれほど多くないですね」
だけど問題がないわけじゃない。合宿所って何かあった場合増援を呼びやすい体制が整えられてるんだよね。近隣のヒーローが駆けつけやすいってわけだ。この辺は真綿先輩に聞いたことだけど、安全管理もあるからね。ただ、原作通りここで弔が接触してきたことで、ヴィラン側の動きを警戒して合宿場所は変更されてしまう。しかも場所を秘匿するために行き先は当日まで明かされず、場所を知っているのも合宿での指導を担当する相澤先生とB組担任のブラドキング先生、校長、そして合宿所を提供してくれるヒーローだけになる。
「へえ、かえって都合が良いかもな。どこに場所を変えようがこっちにはお前と黒霧がいる。それにヒーロー所有の土地で合宿とやらに使える場所は限られているはずだ。大方、山奥か離島ってとこだろ」
指導することを考えると、ラグドールがいるプッシーキャッツが最有力であることに変わりはないはず。他にも候補はいるんだけど、ラグドールの個性である『サーチ』が便利すぎる。そらパパも目をつけるわ。まあ、私は『サーチ』対策でラグドールを洗脳しないといけないんだけど。
「場所が確定したら連絡を……ってどうやって連絡します?」
「ドクターがいるだろ」
「連絡先知らないです」
話があるときは直接行くからね。
「何でだよ……って俺も知らねえな」
「お兄様の方が付き合い長いでしょ」
「連絡取るときはそれ用の通信機使ってるから個人的な連絡先なんて知らないんだよ」
「んー、あっ、黒霧はどうです?」
「ああ、あいつがいたか」
黒霧の連絡先も知らないけどね。ドクターの地下研究所で落ち合えばいいかな。テレパシーを使えばいいから連絡先は必要ないんだけどね。
「で、だ。お前のクラスの爆豪勝己くんっているだろ」
「いますね」
「あいつを仲間に引き入れようと思っている」
「それはまた」
雄英祭で暴れてたのを見たんだろう。あれだけなら、個性社会に抑圧されているように見えるだろう。でもね、弔、残念だけどアレが爆豪くんの素なんだ……!
「でも、爆豪くんにお前もヴィラン連合に入らないか、なんて勧誘したところでならないって断られるだけですよ。すごい強情ですから、言葉だけじゃ通用しないと思います」
実際に仲間にできたら影響はかなり大きい。何しろ現役の雄英生がヴィラン堕ち、しかも爆豪くんの粗暴さは全国に知られている。なんでそんな奴の入学を認めたのか、ぐらいは言われるだろう。弔の狙いも爆豪くん個人よりそっちの効果の方にあるだろう。
私個人としての考えだけど、爆豪くんはヴィランにはならないと思う。別に彼の精神にヒーロー性があるとかではない。それは彼のみみっちさ、あの粗暴さの割に変なところで常識を発揮してしまうのが爆豪くんだ。ヴィランになれるような、ある種の思い切りの良さがないのだ。その意味では出久くんや飯田くんの方がヴィランになれる素質があると言える。誰よりもヴィランっぽいのにヴィランとしての素質がない。私の主観だけど、どうにも爆豪くんがヴィランになるところが想像できない。ヒーローらしくもないけど。
彼に適性があるのって、格闘技だと思うんだよね。格闘センス◎ついてるし。だけど悲しいかな、裏社会ではともかく、エンタメとしての格闘技はオワコンなのだ。だから、マスキュラーみたく地下闘技場のファイターが向いてると思う。これが個性社会前だったら総合格闘技とかで大成しただろうに。
ヒーロー社会、アスリートへの選択肢が実質なくなっちゃってるんだよね。オリンピックだって、雄英祭に取って代わられてる有様だし。実はヒーローのプロレス団体が興行してたりするんだけど。エンタメ化のひとつだけどね。
「ふぅん。でも使えそうなんだよなぁ、爆豪くん」
せっかく目をつけた駒だしね。
「そういや、爆豪くんって死ねだの殺すだの言ってたな。あれ、いつも?」
「言ってますね、よく。私もこの間言われました」
「そっかそっか。そうだ、だったら爆豪くんに殺しを経験させてあげよう! そうすれば彼の考えも変わるんじゃないか?」
「え……!?」
爆豪くんに殺人を……!?
絶対面白いやつじゃん!!
「良いアイデアだろ?」
ぶんぶんと頭を縦に振って同意を示す。
そんなことになったら爆豪くんはどんな表情を見せてくれるんだろう? 想像しただけでワクワクが止まらない! そうなれば当然出久くんやオールマイト、相澤先生も巻き込むことは確実だ。社会への影響も寝返り以上だろう。流石弔、パパから英才教育を受けてるだけのことはある。
でも、じゃあ爆豪くんが殺人を犯したらヴィラン連合に入るかと言うと、うーん、やっぱり入らないんじゃないかな。やっちゃったら、大人しく自首しそうなんだよね、彼。
ヴィランになった人って、何かのきっかけで犯罪行為に手を染めてしまっている場合が多い。マスキュラーですら最初の殺人は意図したものじゃなかったぐらいだ。それで目覚めちゃったんだけど。あとは抑圧されていたものが爆発しちゃったタイプ。これは弔やトガちゃんだ。それで弔は爆豪くんが自分と同類だと思ったって感じなんだろう。トゥワイスみたいにちょっと踏み外したら一気に転落人生みたいなタイプもいる。
「で、誰を殺させるんです? 幼馴染みの緑谷くんですか」
「へぇ、あいつら幼馴染みなのか。そいつも面白そうだな」
いや、出久くん殺されたら困るんですけどね。爆豪くんもヒーローサイドからいなくなったらちょっと困ると言うか。爆豪くんって出久くんの起爆剤としての役割があるからなぁ。いなくなったら出久くんと弔の直接対決で出久くんが火事場の馬鹿力を発揮してくれるかどうか。うーん、やっぱり一時の面白さの勢いのままに行動すると長期的には面倒だな。
うん、まあ、せっかくだけど、弔のアイデアは一旦お蔵入りかな。
それにそろそろ時間切れだ。出久くんがこちらにやってきている。
「お兄様、今日はこれまでみたいです」
「ん? ああ、お友達が戻ってきたか」
「あっ、お兄様、ちょっと手を私の首に回してくれませんか? 妙なことをしたら殺すって脅すみたいな感じで」
「はぁ?」
「演出ですよ、演出。表向き私はヒーローサイドなんですから、ここで楽しくおしゃべりしてました、ってわけにはいかないんです」
「はいはい。これでいいか」
「ぐっどです、お兄様」
「はぁ……妹ねぇ。やっぱうざいな」
「女子高生の妹なんてそんなもんですよ」
実際には叔母と甥だけど。
私がいろいろ工作しているからややこしくなってるけど、世間一般、と言うかヒーロー側には『志村常夜はオールマイトの師匠である志村菜奈の孫である(推定)』として認知されている。で、さらに志村常夜について調査すると『志村常夜は死柄木弔の妹であり、オールマイトの師匠である志村菜奈の孫。小学生までの経歴は全て捏造されたものであり、実際にはオール・フォー・ワンの元で育てられた』と言う事実が浮上してくる予定。ちなみにそのための工作は済んでいる。なので、公的な存在している志村常夜は、志村転弧の『崩壊』によって家族共々死亡した、と言うことになっている。
もちろん、真実は『志村常夜は、オール・フォー・ワンと志村菜奈の遺伝子を元に造られたデザインベイビーである死柄木常夜によってでっちあげられた存在』である。
で、弔が認識しているのは『実の妹で、自身とは別に育てられた。スパイとして雄英に入校している』と言ったところだ。もちろん、私の暗示込みの認識だけど。USJのときに攻撃されたのは私の姿からママの姿を連想しそうになったけど、記憶が繋がらないので、その苛立ちをぶつけてきたって感じだ。いくらか友好的なのも『魅了』による。弔も仲が良いと認識している相手なら年相応の感じになるんだね。
「じゃ、演技始めますね」
「はいはい」
「次に会うときはヒーロー側の志村常夜としてなんで。まあ、遠慮なくやっちゃってください」
「もちろん。またな、クソ妹」
「またお会いしましょう、クソ兄貴」
出久くんがこちらに、私と一緒にいるのが弔だと気づいたようだ。それに弔が騒いだり追ったりしたらどうなるか、と釘を刺していく。
「志村さん! 今のって……!」
駆け寄ってきた出久くんに過呼吸気味に応える。脅されて緊張してました、って見えるように。
「ハァ……ヴィラン連合のリーダー、死柄木弔……ハァ、です……」
「連合の……!? それより大丈夫!?」
「ハァ、なんとか……それより、すぐに通報を……!」
それからショッピングモールは一時閉鎖、区内のヒーローや警察によって弔の捜索が行われるが当然見つかるはずもなく。私はそのまま警察署で事情聴取を受けることに。担当はオールマイトと関係の深い塚内刑事だ。USJの襲撃後以来かな。警察も警察で、ヴィラン連合に対する特別捜査本部を設置、捜査をしている。塚内刑事もその一人で、彼がわざわざ来たのは私と面識があるからだろう。
弔とヴィラン連合について、目的は現行社会の崩壊とオールマイトの抹殺。ヒーロー殺しは連合に所属している、と言われているが違うらしい、ということを伝えた。もちろん、林間合宿を襲撃するつもりだとか、爆豪くんを拉致って仲間に引き入れようとしていることは秘密だ。
さて、事情聴取が終わり、迎えとしてやってきたのはミッドナイト。おや、と思っていると、今夜は私を職員寮に宿泊させることになったのだとか。連合との接触はこれで3度目。私が連合に狙われている、と言う疑いはかなり濃厚になっている。だから念のため複数のヒーローがいる場所に置いておくべき、と言うことらしい。
今の私は財布とスマホぐらいしか持っていないので、自室によってから必要なものを持ってから職員寮へ。職員寮は1人1部屋、間取りは1DKってところかな。流石に生徒用とはわけが違うか。
私はその内の空き部屋に泊まることになる。翌日は学校があるからここから教室に行くわけだ。両隣の部屋にはミッドナイトと13号がいてくれるとのこと。そういえば、13号って女の人だったね。
さて、とうとう林間合宿だ。
楽しみだなぁ。
パパも、オールマイトも、百も、出久くんも、弔も。みんなも楽しんで欲しいな。
私、頑張るから!
パパ「頑張れ頑張れ」
真面目に。爆豪くんは「人を殴れて、かつそれが犯罪にならない、さらにルールが決められている」職業が最適だと思うんですよね、本人の意思は別にするとして。オールマイトに憧れてるからヒーロー目指してるわけでね
オールマイトは悪くないんだけど、諸悪の根源はオールマイトにある。だから、オールマイトを平和の象徴から無力の象徴にしなくては! そうすれば、余計なことを考えずに静かに余生を過ごせるでしょ?