ラスボスの子に転生したのでNO.1ヒーローを曇らせたいと思う   作:タメガイ連盟員

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ちびたXtreme様、佐藤東沙様、草鹿午午25色様

誤字報告ありがとうございます

あけましておめでとうございます(遅い)

今回短め


30.おつきさまがきれいだから

 全員がすっかり眠りについた男子部屋。流石に体力旺盛な彼らも日中の疲れに加え、腹を満たしたとなれば睡魔に抗うのは困難なことだろう。

 

 そんな中、1つの影が起き上がり、部屋の外へと出て行く。館内の照明は最低限だが出歩くのには支障は感じられない。トイレにでも起きたのかと思いきや、影は屋外へと出て行く。そして物陰に入ると、持ってきたポーチからスマホを取りだし、操作し出す。位置情報の確認、それから表面上は日常会話にしか見えない文章を、いくらか時間をかけて入力しメールで送信する。

 

 この場所に電波が入っていて助かった。そうでなかった場合、別の連絡手段を使わなければならなかった。この行動が露見する危険性を考えれば衛星電話のような使用者が限定されるものを使わずに済んだことにまずは安堵する。だが連絡をするだけでは終わりではない。念には念を入れて証拠を消さなければならない。

 

 ポーチから小さな蓋付きのプラスチック瓶を2つ取り出す。どちらも液体が入っているが、瓶の半分ほどしか入っていない。スマホを地面に置いてその上に蓋を取った瓶の片方を置く。そしてもう片方の瓶に入っている液体を全て注ぐとその瓶もスマホに乗せる。2種類の液体が混ざり合った瓶が、ボロボロと“崩壊”し始める。それはスマホともう片方の瓶にまで広がり、そして跡形もなく消え去った。

 

 それを見届けた人影は深く息を吐く。これで自分が合宿所の場所を外部に知らせたと言う証拠は消えた。受信した側もすぐにスマホを破棄するはずだ。

 

 これで、家族の安全は守られる。

 

 だが、本当にこれでいいのか。

 

 人影――青山優雅の脳裏には何度反芻したかわからない、そんな思考が浮かび上がっていた。

 

 あの人とヴィラン連合には繋がりがある。雄英の入学試験を突破できたほどだが、人並み以上に頭が回る彼にはそれを察していた。優雅にしてみれば、常夜が生死の境を彷徨うことになったのは自分のせいだ、と言う罪悪感が付き纏っていた。常夜が回復してからも、彼女の姿を見る度に胸が痛んだ。

 

 こうして合宿所の場所を知らせたからには、4月のときのように襲撃が行われるだろう。よくよく考えてみると、この合宿所もUSJと同じく孤立した環境だと言える。連合も前回よりさらに戦力を投入してくるだろう。そうしたら、今度こそ死者が出るかもしれない。自分のせいで誰かが死んでしまう。

 

 だがもう遅かった。もう知らせてしまった。

 

 もしこのことを皆に知らせたら? そうすればクラスメイト達が被害を受けることはなくなるだろう。しかし優雅はヴィランの協力者として拘束される。両親もそうなる。いや、その前に制裁として殺されてしまう。

 

 15年、自分を愛し育ててくれた両親とたかだか数ヶ月の付き合いでしかないクラスメイト。優雅は家族とクラスメイトを天秤にかけ、前者を選んだ。

 

 なにもかも手遅れだ。いや、あの人、オール・フォー・ワンに関わったその日から。

 

 青山優雅はいわゆる富裕層の生まれだ。優しい両親の元で何不自由なく育った。

 

 ただ一点、彼が無個性であることを除けば。

 

 彼の世代で無個性として生まれる確率は小数点以下、日本全国の同世代を見ても同じ境遇の者は片手で数えられるほどしかいないだろう。世界人口の2割が無個性だと言われているが、そのほとんどが旧世代の者達だ。無個性者として生まれる者は、それはそれは稀な存在となっている。

 

 個性は身体能力の延長、あるいは身体の一部。これは要するに体を鍛えるのと同様に個性も鍛えられる、と言うニュアンスで語れることだが、見方を変えれば無個性とは肉体が欠損した状態と同じ、つまり不完全な人間なのだ。

 

 かつて個性は異能と呼ばれ、それを持っている者は迫害された。人間に限らず、動物の多くは自分達と同じ姿をしているものと群れ、異なるものを排除するものだ。しかし、超常黎明期から100年、その人口比は完全に逆転していた。であるならば、迫害の対象となるのはなんであるかは明らかであった。

 

 当然、息子が無個性であるとわかったとき、青山夫妻は酷く狼狽し、そして恐れた。皆と違う。ただそれだけで、息子がどんな目で見られるか、どんな扱いを受けるのか。容易に想像できた。それが彼らの無個性者に対する意識の裏返しであったとしてもだ。

 

 溺れる者は藁をもつかむ。そんな思いで“個性を自由にくれる”と言う噂に縋り付き、オール・フォー・ワンにたどり着いた。

 

 そして、魔王の手を掴み、優雅は個性を手に入れた。これで皆と同じだ。

 

 だが、彼らは藁を掴んでいた方がマシだった、と思い知ることになる。

 

『オールマイトが教師になるという噂がある。雄英に入れなさい』

 

『クラスが孤立するタイミングを教えなさい』

 

『合宿先を教えなさい』

 

 オール・フォー・ワンからの指示に逆らうことはできなかった。失敗すれば殺される。嘘をついても殺される。警察に逃げ込んで罪を告白しても出所後に殺される。この点、魔王はまったく手抜きをしなかった。どこに逃げようと居所をつきとめ、死に追いやった。必ず己の手で制裁を行い、支配下にある者に見せつけた。

 

 進むも地獄、進まぬも地獄。

 

 しかし青山一家は地獄への道を踏み出してしまっている。ならば進み続けるしかない。

 

 優雅がふと夜空を見上げると、そこには都会では見ることができない満天の星空。そして、月。その月に己の行いを見咎められているようで、顔を伏せる。そうしたところで何も変わらないのに。

 

 しばらくその姿勢のままでいたが、もう部屋に戻ろうと思った。怪しまれることはなるべく避けたい。

 

 

 

 

「あぁ、君だったんだぁ」

 

 

 

 

 まるで、背後から耳元で囁かれたような声に優雅はその身を凍てつかせる。バレた? そうだしたら……

 

「青山優雅くん」

 

 声に聞き覚えがある。だが、もっと別の、そう、10年前に聞いた声と同じ。

 

「おじ、さま?」

 

 そんなわけがない。あの人が、こんなところにいるはずがない。

 

「んー? あっ、そっか、君はお父様と会ったことがあるんだ。となると、うん、君、もしかして無個性だった?」

 

 あの人ではない、らしい。しかし、この声は。

 

「だってお父様と直接会ったことがある人なんてそんなに多くないしね。会ったことがあるとしたら、個性を与えられたときぐらいだろうから。ねっ、合ってる?」

 

「君は」

 

「うん?」

 

「誰、なんだ。志村さんじゃないのか」

 

 そう、この声は志村常夜のものに違いない。しかし雰囲気はあの人を思わせるほどに違う。

 

 背後の彼女からくつくつと笑う声が漏れる。

 

「じゃあ、はっきりさせようか? 私がヴィランだってことを」

 

 なにかを、いやスマホを操作しているらしい。

 

「もしもし、黒霧? 合宿所の座標を伝えるからこっちに来て。いい? 北緯――」

 

 さきほど優雅が伝えたのとまったく同じ座標だ。いや、それより黒霧? USJのときに襲撃してきたヴィランの名前だ。

 

 常夜が電話を切ると、目の前に黒い霧のようなものが現れる。USJのときに見たものと同じだ。そこからゆらりとあのときのヴィランが出現する。

 

「ごきげんよう、死柄木常夜」

 

 いつの間にか優雅の前に進み出てた常夜に黒霧が一礼する。それから優雅にも同じように。

 

「こんばんは、黒霧。急に呼び出したけど、大丈夫だった?」

 

「事前に予告して頂いておりますので」

 

「ならよかった。んーと、はい、ここの周辺地図」

 

「お預かりします」

 

「明後日の夜に肝試しをするそうだから、そのときがチャンスだって、お兄様に、あー、弔に伝えておいて」

 

「肝試し、ですか。それはまた呑気な」

 

「だよねぇ。だからこそ、こっちはつけいる隙ができるわけだけど。じゃ、弔やお父様によろしくね」

 

「はい。ではまた後ほど」

 

 そうして黒霧は現れたときのように黒い霧の中へと消え、霧自体も消え去った。それを見送った常夜が優雅に振り返る。

 

「そう言うわけで、実は私ヴィランだったの。でも私達仲間だから許してくれるよね?」

 

 あまりにも白々しい屈託のない笑顔。だが余りのことに優雅は言葉が出ない。

 

「ともかく、明後日の夜にヴィラン連合がここを襲撃する。どうするかは君の自由。ああ、仮に君が連合と戦闘になっても咎められないから安心していいよ。むしろヒーロー側らしい行動をすることによってパパとの繋がりをうまく隠すことになるかもね? オススメは肝試しに参加せずに部屋で寝てしまうこと。理由はなんとでもつけられるしね。合宿所なら先生達もいるから比較的安全だよ」

 

「なん、で」

 

「んー?」

 

「なんで、こんなことを」

 

「なんで? んんー? こうすることが最終的に私の利益になるから?」

 

「誰かが、死んでしまうかもしれないのに」

 

「君がそれ言う? 君のせいで、志村常夜は死にかけたんだよ? 今更他人の生死なんて気にしてどうするの。そのおかげで君と君の家族は安泰なんだから、良しとすべきなんじゃないの。ああ、別に責めようってわけじゃないよ。それに、お父様に協力していれば、お父様が支配する世界でそれなりの立場になれる。お父様、ああ見えて働きにはきちんと報いるんだよねぇ。だからこのままでいた方がお得だよ?」

 

 最後に小さく「たぶん」と付け加えているが、おそらくは事実なのだろう。もちろん、青山一家が受けるであろう精神的重圧は別として。

 

「まあ、裏切ったらパパッと切り捨てられちゃうだろうからね。ホントにオススメよ? 従っている間はともかく、そうでないならお父様にとっては君なんて使い捨てのライター程度の価値しかないんだから。あっ、使い捨てライターって今あるんだっけ? ニュアンスは伝わるからいいか別に」

 

 常夜が何もない地面、いや内通の証拠を消した場所を撫でる。

 

「ふむふむ、〈崩壊〉を2つの液体に分離させておいて、混ぜれば効果が発揮されるようにしたわけか。ドクターもいろいろ考えるもんだ。これなら容器も消えるし、証拠隠滅にはもってこいだ。〈崩壊〉、使いにくい個性だと思ってたけど、やっぱり個性は使い方次第だねぇ」

 

「やっぱり、個性なのか」

 

「まあねー。個性を体外に取り出す技術、表には出てないけどあるところにはあるからね。お父様がやった方が手っ取り早いんだけどね。でもお父様がいないとできないのは不便だから色々研究してるってわけ。ところで青山くん、お父様が適当に渡したんだと思うんだけど、君、個性と体質あってないでしょ?」

 

 優雅の、彼が与えられた個性〈ネビルレーザー〉はレーザーを撃つと腹を下してしまう、と言う難点があった。サポートアイテムで軽減してはいるが、このデメリットには度々、いやヒーロー科に入ったことで個性の使用頻度が上がり頻繁に苦しめられている。

 

「私ならそれ、直せるけど、やってみる?」

 

「……いや、止しておくよ」

 

「そう?」

 

 オール・フォー・ワンをお父様、と呼んでいるが本当に親子かはわからない。だが、彼女の提案を受けたらどんな代償を要求されるかわかったものではない。

 

「ともかく、安心していいよ。今夜のことは、それより前のこともみんなバレないようにしてあげるから。

 

 君は、私が守る」

 

 常夜は優雅に背を向けて合宿所の中へひらひらと右手を振りながら戻っていく。

 

「おやすみ、青山優雅君。君に更なる混沌があらんことを(プルス・ケイオス)




本作で一番不幸な人、青山優雅。罪の告白をしようにも原作のようにはいかないので彼は一生苦しむ羽目になります。あと常夜に飯をたかられます。

「クズのヴィランなんて言わないで! そういうのは悪事を楽しめるようになってから言おうよ!」

とか

「君はクズのヴィランなんかじゃないよ! そういうのは私みたいなのを言うんだよ!」

って常夜に言わせようと思ったんですけど、話の流れ的に入りませんでした。
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