ラスボスの子に転生したのでNO.1ヒーローを曇らせたいと思う 作:タメガイ連盟員
誤字報告ありがとうございます。
オリ主について頂いた感想
・まさに魔王の娘
・魔王の系譜
・屑人間
・精神ヒソカ
・ナチュラルボーンヴィラン
・組み分けタルタロス
・邪神
・ニャルラトホテップ
常夜ちゃん「私がなにをしたっていうんだ!」
今、私はわからせられている。
自分の体に。
とてもつらい。
そう、例のアレ、月のものとかいうやつ。あれがきちゃったのだ。肉体の推定年齢と保健体育の授業内容を踏まえるとそろそろかなぁ、って思ってたけどさ。これ毎月来るとか呪いかよ。でもこういうの下手に止めるとあとで不調になって返ってきそうだからなにもできない。なんかでアスリートの生理不順がどうのって話見たんだよね。そういう意味でも成長促進系の個性は使ってこなかった。これが来ちゃうからでもあるけど。背は高くなりたいけど、こっちは回避したかった。できなかったよ。はぁ。
痛覚遮断とかやれば多少はましになるけど、なんかこう、じわじわとくる不快感は消えないんだよ。普段の私からは想像もつかない有様なので、百をはじめクラスのみんなには大層心配された。あ、2年生になって百とは同じクラスにしたのだ。わーい。
ドクターにどうしたらいいかって聞いたら産婦人科に行けって言われた。正論過ぎて何も言えない。まあ、実際一度行った方が良いと思うんだ、なにぶん女の子の体についての知識は保健体育止まりだし。これで子供産めるようになってるってんだから摩訶不思議。生命ってすごい。まあ、私は装置から産まれてきたんだけど。科学ってすごい。つーか機械から産めるんだからこの機能いらなくない? この世からなくなって欲しいもの堂々の1位タイだよ。自分の血とか初めて見たぞ? うおお、スプラッターな光景を思い出してしまった……余計気分悪くなったぞ。
ちなみに筒美さんに相談したところ、「私はお前の母親じゃないんだぞ」と言いながらオススメのグッズとかお薬を教えてくれた。なんだかんだ言って面倒見いいんだよね、あの人。こういうところが彼女のヒーローらしさなのかもしれない。いつもありがとう、ハリボテ社会を頑張って壊しましょうね。
それにしても生まれてからこれほどストレスを感じたのは初めてだよなぁ。どっかで発散したい。“黒外套”活動もパチモンが出てきてそいつらシめることが増えてきたし。なに、そんなに刑務所行きたい人いるの? 生活苦しいとムショ暮らしが良く見えちゃうらしいからなぁ。この世界、見栄えはいいけどやっぱり問題は多いんだよね。経済問題はどうにもならないのでその辺は政治家の人に頑張って欲しい。後々個性関連法の改正とかやってもらうことになるから本当に頑張って欲しい。
そういや異能解放軍の心求党ってもう議席持ってるんだよね。確か最大党からの分派だっけ? 原作だと超常解放戦線崩壊後に関係者逮捕されちゃって解体されちゃうようだけど、補選とかやってられる状況じゃないよな。うーん、法改正が遅れるなこりゃ。無法状態はよくないからね。そこを考えると彼らには議席維持してもらった方がいいのか? 彼らの解放思想、つまり個性規制の撤廃ということになるのだが、彼らの主張でも犯罪行為への利用を認めるわけもないし、自己防衛での個性使用は今でも認められてるけどやりすぎれば過剰防衛に問われる。日常生活での個性利用の拡大を手始めにするつもりなんだろうか? それにしたって個性は千差万別、結局使えない人も出てくるよな。あ、そうか、そこでリ・デストロのデトネラット社製のサポートアイテムの出番になるわけか。うわぁ、なんという官民癒着。やっぱ連合と合体して解放戦線になったあとにまとめて潰した方が良くないか? あーでも結局他のサポート企業が乗り出してくるわけだからそんなに変わらないのか。サポートアイテムがどれぐらいのお値段になるかわからないが、基本オーダーメイドになるから高額になりやすいだろうし、メンテナンスも必要になってくる。保険適用でもできないときつい人が出てくるから、公的な支援が必要だろう。社会福祉じゃんこれ。個性規制って国家財政の支出抑えるためだったりしない実は? リ・デストロが身を興すのにサポート企業を選んだのも確実に需要が生まれて成長しやすい分野だったからだろうな。国内シェアトップになるまで成長させたのは彼の手腕あってのものだけど。しかしまあ、異能解放軍の幹部は社会的な地位もあるし有能な人ばっかりだから排除しちゃうのはもったいないな。実際彼らがとった社会に根を張り巡らせるという方法は、初代指導者・デストロの暴力的活動からの反省を活かしたものだ。できれば味方につけたいぐらいなんだけど、私の目標的に原作に沿った展開にしないといけないから弔の下についちゃうことになる。でもこうしないとドクターが弔にオール・フォー・ワンを入れてくれないし、そうしないとオリジナルのオール・フォー・ワンを消せないし。あちらを立てればこちらが立たずだなぁ。
あーだこーだと考えていると気分が落ち着いてくる。なにかに集中していると気にならなくなるようだ。存在を思い出すと不快感が湧き出てきちゃうんだけど。つーかこういう社会問題は私が考えてもしかたないんだけど、そういうのが気になっちゃうのだ。実際に問題を解決するのは人に任せて私はおいしいところだけをいただきたい。
なので私としてはあまり人死にを出したくないんだよね。パパなんかほいほい殺すけど、そういうのよくない。人の命ってのは可能性なんだよ、人の数が少なくなれば可能性は縮まってしまう。そりゃ世の中に才能のある人間の数は限られる、確か全体の1割とかそんなだったはずなので人が減るってことは才も減るってことだ。今の個性社会だって多くの人々の不断の努力によって超常黎明期の混乱から立ち直り築き上げてきたものだ。まあ、どんなに崇高な理想を掲げたところで、体制や組織ってのは半世紀もしちゃうと腐敗するもんだからここらへんで一度抜本的な変化が求められるわけだ。
その意味で平和の象徴・オールマイトと悪の魔王・オール・フォー・ワンが舞台から消えるのは良い演出になる。まあ、どっちも完全には消えてないんだけど。しぶとい。
さて、そろそろ出水洸汰くんの両親であるウォーターホース夫妻がマスキュラーに殺害されるイベントが迫っている。ウォーターホースってコスチュームはシュノーケルがついたヘルメットに救命胴衣みたいな格好をしていて、個性も水に関わるものだから、水難救助が主な活動のようだ。回想での背景も海だったと思うし。黒霧が指摘している通り、救難がメインのヒーローは実戦能力に劣ってしまうところがあるし、状況的にも民間人を守りながら戦わなければならなかったことで、命を落とす結果になったのだろう。後に賞賛されてるけど、死んじゃってたら意味ないよね。こういうのってウォーターホースに助けられた人たちが罪悪感を紛らわせるために言ってるところあるよね。うん、別に悪いとは言わないよ、人間生きるために欺瞞が必要なときもあるし。それが1人の少年の心に影を落とすことになるわけだけど。
犯罪行為やテロ行為は、基本やる側が有利だ。いつ、どこで、どんな規模で、どうやってやるか選べるからだ。一方のヒーローや警察はその兆候を掴み、入念な捜査で証拠を積み重ね摘発、あるいは阻止するしかない。これは原作の八斎會編がわかりやすい例だろう。ヴィランだって、突発的な行動は別として、自分が事を起こそうとしている場所・地域を管轄するのはどんなヒーローか調べるぐらいはするだろう。なのでマスキュラーだって暴れる場所を選んでいる……はず……んー、あいつ割と直感的というか、その日の気分で選んでるっぽいんだよなぁ。しかもそれが適切だったりするタイプだ。なので動向を知るには見張るしかない。面倒くさいなもう。とりあえず、マスキュラーが出入りしている地下闘技場の関係者を洗脳して情報を流してもらっている。
ウォーターホースの悲劇を回避するために先にマスキュラーの戦力を減らそうと思ってたけど、よく考えたら戦っているところに割って入った方が確実なんだよね。マスキュラー相手に認識阻害を使い続けられるかわからないから、周囲の人間はできるだけ排除して、タイマンの状況を作る必要がある。入念な下準備をしなくてはならない。
となると、私一人では手が足らないんだけど、あいにくこれは私個人の目的だから誰かの手を借りることはできない。じゃあどうすればいいのか。簡単だ、私自身を増やせばいい。トゥワイスの『2倍』にはいろいろと制約や問題があったので、私はその点を改善してやればいい。とはいえ、あれこれと調整しないといけないから、しばらく道場は休んで学校も放課後はすぐに帰宅してその作業を優先しているぐらいだ。ごめんね百、埋め合わせはするから。
そうこうしているうちにマスキュラーがウォーターホースの管轄地域へ向かったとの連絡を受け取った。いよいよだ。原作ヴィランとの戦闘はこれが初だし、これまでの戦闘訓練の仕上げでもある。緊張しちゃうね。
現場である■■市の埠頭へ転移。すでに日が落ちているが、多数の照明によって埠頭は夜とは思えない明るさだ。マスキュラーが大暴れしているために、湾港設備が破壊され、車両が横倒しになっている。入港している船がないためか、埠頭にいた人はそれほど多くはないが、広いから避難に時間がかかってしまう。時間を稼ぐためにかけつけたウォーターホース夫妻が奮闘しているようだが、すでに満身創痍、というか奥さんの片足潰れてない? うわぁ。こりゃ退くに退けないわな。
「なんだ、もう動けねえのか? あんまりがっかりさせるなよ。まあいい、最後ぐらい派手に血を流せ!」
マスキュラーの攻撃がウォーターホースに直撃する。が、しかし。
「ああっ!? なぜ潰れねえ!?」
私の『重量軽減』によってマスキュラーの体重はg単位にまで軽くなっていて、当然破壊力は大幅にダウンしている。彼にしてみれば自分がスポンジにでもなった感じだろう。必殺のつもりがスポンジなんだからすごい気分悪いだろうな。というか、離れた場所に使うの疲れるな。スポンジ並になったマスキュラーを蹴飛ばしてウォーターホースの前に降り立つ。
「く、“黒外套”!? なぜここに」
背後のウォーターホースが驚愕を漏らす。認識阻害は使っていないので顔を見せるわけにはいかない。
「てめえ、本物の“黒外套”か? 噂になっているやつの真似してイキがってる間抜けとは違うよな? いや、どっちでもいい、邪魔しようってんなら」
マスキュラーの顔を見ると左目から血を流しているのがわかる。おっ、もう左目潰してたのか。筋肉の鎧がある場所は攻撃が通らないけど、目は防ぎようがないからな。
「先に潰してやろうじゃねえか!」
マスキュラーの肥大化した右腕が迫る。実際見ると圧力半端ないな! 『重量軽減』解除、『膂力強化』+『重量超増加』+『硬化』を発動。腰を落とし、右腕を引いた正拳突きの構えをとって迎え撃つ。
「ッ!」
マスキュラーの拳が視界いっぱいになった瞬間に突きを放つ。拳と拳がぶつかり合い、増加した自分の体重とマスキュラーの打撃による重みで両足が地面のコンクリートを砕いて沈みながら後退していく。流石にマスキュラーのパワーを相殺することはできなかったか。そして硬化でコンクリートより硬くなっているから当然こうなる。
「ッ! おいおいッ、なんでてめえみたいなチビが俺の拳を受け止められるんだぁ!」
「“
『念動力』による直径1mになる球体状の衝撃波を放つ。これに『衝撃強化』『吹き飛ばし』を追加してマスキュラーを吹き飛ばして距離を取る。おー、2、30mぐらいは飛んだか。増強系足すとやっぱ強いな。
「ウォーターホース、付近の市民の退避は終わっている、あなたたちも退け」
「しかし……!」
「子供に死体で対面したい趣味があるなら止めない……いいや、2名様ご案内ー」
説得するのも面倒なので適当な場所まで転移させてしまう。近くに避難した人もいるはずだから治療も十分間に合うだろう。
吹き飛ばしたマスキュラーがのっしのっしと歩いてくる。
「いいねぇ! いいねぇ! お前みたいなのは遊びでやっちゃいけねえ!」
マスキュラーの筋繊維が更に増大していく。出久くんとの再戦時の巨大化状態じゃん。よほどテンションがあがっているようだ。
「ここからは本気だ!!」
まさに暴力の権化。一撃一撃が私を命諸共叩き潰さんと振るわれる。拳大の衝撃波を放つ“
原作でも雄英の教師が「戦闘とは如何に自分の得意を押しつけるかだ」って言ってたけど、まったくその通りだと思う。この点マスキュラーは100点満点だろう。彼の一撃は致命傷になりかねない、というのは即座に理解できる。なので今の私のように回避に専念しなければならないし、ヒーローならば民間人を守るために、先ほどのウォーターホースのように体を張らざるを得ない。筋肉増強というシンプルであるがゆえに対策が困難、鍛え上げられた増強系個性とはなんとも厄介だ。
「逃げるな逃げるな! 血を見せろよぉ!」
「いやだね! 私は血を見るのが嫌いなんだ!」
「なんだそりゃ、気が合わねえなあ!」
『氷結』を発動、マスキュラーを氷漬けにして動きを止めようとするが、増殖した筋繊維をパージして凍った部分を排除、すぐに行動再開してしまう。
「ぬりぃ真似してくれるなよ、こんなもんで止められるとでも思ってるのか、小細工ばっかでよぉ、もう少しこっちの気持ちも汲んでくれよ?」
「ならマスキュラー。あなたはなぜこんなことをする?」
「あん? この個性で好きに暴れるため、悔いのない人生を送るためだ! これほど愉しいことが他にあるのか? ないね!」
再びマスキュラーが襲いかかる。だが今度は避けない。
「なるほど?」
『人体刃物化』+『切断』
「まったく、同感ッ!」
マスキュラーの増強された筋繊維を手刀で切り裂く! 打撃に強くても所詮は肉、斬撃は防ぎようがあるまい。本体部分にも攻撃が届いたため、マスキュラーの体の各所から血が噴き出す。
「ほおお! ようやくその気になってくれたか! そうだろそうだろ、愉しいだろぉ! 血と! 闘争! これよ、これ!」
「別に暴れるのが好みってわけじゃないんだけど」
ああ、そうか、なんで私がマスキュラーを嫌ってたのか、わかった気がする。
『火炎』+『エネルギー圧縮』、『放出』。筋肉の装甲が焼け焦げるが本体へのダメージはわずか。
マスキュラーこと今筋強斗は学生時代まではヴィランではなかった。とはいえ、所謂荒れた学校で喧嘩三昧の日々を送る不良学生であったらしい。そんな彼にも転機が訪れる。個性を用いたタイマン勝負で相手を殺害したのだ。そのときに目覚めてしまったのだろう。それ以来彼は表社会から姿をくらまし、裏社会で生きるようになった。
『土人形』+『硬化』。コンクリートでできたゴーレムと殴り合わせるが10合も経たずに粉砕されてしまう。
彼の持つ願望はこの時代ではむしろ普遍的なものなのだろう。個性を持って生まれて、それを使えないなんて、初めから人生の一部を失っているようなものだ。しかし自由な個性使用は法によって戒められている。それを破ればヒーローに捕らえられるし、悪くすればタルタロス送りだ。大凡の人間はそうしたデメリットを理解しているから法に従っている。
『電撃』+『リアクター』。しばらく動きが止まったものの数秒で行動を再開。
だがそれに耐えられない者は当然出てくる。マスキュラーを始め、後にヴィラン連合に加わる面子がその好例だろう。デメリットを無視してなお捕らえられない者たち、社会にとっては脅威だがその出現は必然でしかない。自分が生まれ持った力を使うことをなぜ他人に縛られなければならないのか? 自分のあり方をなぜ他人に強要されるのか? 自由に個性を使う者がいるのに?
『水流』+『圧力』。高水圧によって吹き飛ばす。別に義理があるわけではないけど、ウォーターホースの意趣返しはこれでいいだろう。
そう、自由だ。自由、自由、自由! 誰もが求める、けど誰も手に入れられないもの! 人間ならそれを求めるのは当然じゃないか、なぜ我慢する必要がある?
私だってそうだ。パパ、オール・フォー・ワンという重石を取り除いて自由になりたい! 一般人に生まれていたなら考えもしなかっただろうけど、これだけ恵まれた体と力を持ってそれを使わないというのはおかしな話ではないか。この世界を存分味わいたいのだ。
要するに、同類なのだ。認めたくないけど! つまり同族嫌悪ってわけ。
でもこうして戦ってみて、好きになれるような気がしてるんだよね。
マスキュラー・今筋強斗。
あなたの絶望が見たい。
────────────
既に本来の身長の倍近く、4mまで巨大化したマスキュラーと『念動力』による不可視の拳、多種多様な個性を振るう“黒外套”によって戦場となった埠頭は本来の姿を失いつつあった。この場には彼ら以外の人はいない。元々ここで働いていた人々はウォーターホースが戦っている間に避難したにしても、これだけの騒ぎであるのに、他のヒーローが駆けつけてこないのは不自然であった。
「到着しました。確認できます、“血狂い”のマスキュラーと、おそらく噂の“黒外套”」
戦場から100mほど離れたビルの屋上に1人のヒーローが舞い降りる。ウィングヒーロー・ホークスである。昨年のヒーロービルボードチャートJPでトップ10入りを果たした新進気鋭、通称“速すぎる男”。そして、ヒーロー公安に属するヒーローでもある。彼がこの場に現れたのは世間を騒がす“黒外套”の調査のためである。さすがのホークスも神出鬼没の“黒外套”を追うのは難儀していたが、今日になって■■市の埠頭でマスキュラーと交戦しているとの情報が入ったことでようやくその姿を捉えられたのであった。
『接近できるか?』
「いやいや御免被ります。あんな巨人がどっかんどっかんやってるところになんて近づきたくないですって」
ホークスにマスキュラーが対処できないか、と言われればそんなことはない。巨大化個性を持ったヴィランの鎮圧などわけはないし、実際マスキュラーを倒せる自信はある。だがそこに正体不明の“黒外套”が加わるとなるとどうなるかまるで予測がつかない。目的はあくまで調査、戦闘はあくまで二の次だ。双眼鏡の焦点を“黒外套”に合わせる。
「えー、身長は140cm程度、服装は黒の全身型のボディスーツに黒のグローブ。で、噂通りの黒いマントですね。顔は……動きが激しくてよく見えないです、さすがに。でもまあ、たぶん女の子です。根拠ないんですけど、そんな感「タダ見はいけませんよ」
周囲の景色が一変する。埠頭の近くにいたはずが緑深い山々に囲まれている。急いでスマホのGPSで位置を確認すると北海道にいることがわかる。
「やられた……」
“黒外套”自身が転移系の個性を使える、もしくはそういった個性を持った仲間がいる、とは推測されていたが、まさかホークス自身がそれの接近を許してしまうとは。ホークスの『剛翼』は探知能力も優れており、周囲の変化を見逃すことはなく、警戒も怠っていたわけでもない。にも関わらず転移させられるまで気づかなかった。これは相手が転移系個性に加え、高度な隠蔽能力を持った個性を所持していることを意味する。
(仲間まで複数個性……こりゃ例のオルフォさんが絡んでるのは確実?)
オール・フォー・ワンとの関連はこれまでにも指摘されているが、行動の不可解さ────ヴィランを襲えど命も個性も奪わず、ヒーローも無力化するのみとなんとも中途半端なものであるため、彼の巨悪自身とは思えない、というのが関係者の大凡の見解であった。だからこそ目的を探ろうとしているのだが。
『ホークス、どうした』
「北海道まで飛ばされちゃいました。現地に他の人を派遣しても同じように遠くへ飛ばされちゃうと思うんで、衛星でも使わないことにはどうにもなりません」
飛行能力があるホークスにとって山奥に放り出されたところで何の支障もないが、さきほどの場所まで戻るには時間がかかる。戻ったところで両者の戦いは決着がついてしまっているだろうし、どちらが勝っても調査という目的を果たすことはできそうにない。
『現地のヒーローも近づけなくなっている。メディアの撮影ドローンもだ』
「そりゃまたずいぶんな念の入りようで」
『よほど正体を知られたくないようだ』
正直なところ頭が痛い。これは公安委員会の担当者も同様だろう。“黒外套”が複数名によるチームである可能性、それが的中してしまった。彼女がいつかヴィランとして動き出したら、という未来は避けたいところなのだが。
「しょうがないんで、今日はもう福岡に帰ります。にしても」
『どうした』
「ちょっといい加減にして欲しいですね」
『まったくだ』
────────────
『本体! お楽しみのところ悪いんだけど急いで終わらせて!』
監視を担当している分身からの緊急連絡だ。なに、誰か来るの?
『オールマイトが来てる!』
なんで来るんだあのおっさん! ここあの人の事務所がある渋谷から結構離れてるぞ!? 止められないの!?
『一度やったのにまた来てるの!!』
なんなんだ本当にもう! 非常識にもほどがあるわ! ええい、気を取り直して!
「マスキュラー! 次で決めよう」
「おお! いいぜ!」
ノリいいよなこの人。マスキュラーは古くなった筋繊維を剥がし、右腕を中心に新しいものへ張り替えていく。私はマスキュラーの真正面で足を止める。『念動力』による“
「ぶっ潰れろぉおおおおお!!」
「“
マスキュラーの拳と衝撃波が激突する。これによって生じた風圧で周囲のものが吹き飛ばされる。だが私の攻撃はこれで終わらない、拳から腕へ、そして頭へと衝撃は貫通する。さすがのマスキュラーも脳を直接守る手段は持っていない。脳に衝撃がいけば意識を保つのは難しいだろう。死なれちゃ困るけど。
マスキュラーがぐらりと体勢を崩し、そのまま後ろにどおっと倒れ込む。近づいて意識がなく、脈拍と呼吸があることを確認する。よし、うまくいったようだ。まあ、あれだけぶっぱしたのを食らわせて蓄積したダメージもあったんだろうけど。それにしてもタフだったなぁ、こいつ。脳内物質がドバドバだったんかね。
決着はまた今度だ、マスキュラー。あなたにはまだ出番が残っているからね。そのときがあなたの最後だ。なんてね。
『よし、全員集合!』
周囲にいる分身たちに呼びかける。しばらくしてから全員がまとめて転移してくる。転移使えるの一人だけだから、他の分身を集めないといけないからちょっと時間がかかるのだ。
「撤収するよ。手はず通りに」
「お任せ」
「りょ」
まず転移担当の分身がマスキュラーを彼の住処へ転移させる。向こうには地下闘技場の人に待機してもらっているので介抱はその人がしてくれるので安心だ。
別の分身が『ロールバック』を発動させると、みるみるうちに埠頭が戦闘開始前の状態に戻っていく。『ロールバック』は『巻き戻し』に似ているが、こっちは対物、というか対環境だ。指定した範囲を記憶しておき、記憶した状態に戻してしまうわけだ。さすがに他の個性との併用は不可能なので、これ専門の分身を用意する必要があった。この分身がマスキュラーとの戦闘に巻き込まれて消えでもしたら復旧は不可能だ。なので記憶が終わった時点で転移で安全なところに運んでおいてもらっていたのだ。まあ、開始前に壊されたものはそのままだけど、ウォーターホースの証言があれば保険適用できるはずだ。あとは知らん。
「いやあ、自分で言うのもなんだけど、すごくない?」
これがあれば覚醒弔の『崩壊』で粉々になったものも元通りにできる。まあ、事前に記憶しておかないといけないんだけど。それに私本体がやろうとするとメモリを占有してしまうので、今回のように分身にしかやらせられない。まあ、そういう制約を入れたことで実現できた個性ではあるんだけど。
「じゃ、私はお仕事終わりだね」
「うん、お疲れー」
ハイタッチをすると分身(ロールバック)がドロンと煙になって消滅する。分身は書いて字の如く私から分けた存在であるため、本体である私に戻りたがるという性質を持たせている。これならトゥワイスのように増やした自分に謀叛を起こされることもないし、分身を回収すればその記憶も共有できるようにしてある。特に後半の性質は本当に便利で、情報収集にぴったりだ。まあ、私には映像を再生するような感じになるから生で見るのには敵わないんだけど。これの調整するの結構大変だったんだよね。
「本体、先に家に戻ってよ。私たちは目撃者いないか確認してから戻るよ」
「OK。よろしくね」
転移で自宅に戻り、しばらくしてから戻ってきた分身たちを回収する。
「げっ、ホークスいたのか……やべ、顔見られたかも」
これから記憶を消しに行くか? いやでもあいつヒーロー公安と繋がってるから目撃情報を公安に知らせてるかも。うーん、これから雄英入って、体育祭あたりだよね、ホークスに再度顔見られる時って。積極的に接触してこない限りは避けられそうだし、もしなんか言ってきても白を切ろう。
あ、そうだ、ウォーターホース夫妻の安否確認しておこう。ふむ、重傷のようだけど命に別状はないって感じか。私が介入しなかったらあのままマスキュラーに潰されてただろうから、こんなものか。後遺症で引退って可能性もあるが、生存してるなら良しとしておこう。詳報は夜が明けてからじゃないとわからないけど、民間人の被害はなし。これはウォーターホース夫妻の功績だね。既にやっちゃったからしょうがないんだけど、埠頭の被害を元通りにしたのはやりすぎだったかな? 元通りというか、私がやった分だけなんだけど。
それにしても思ったよりスムーズに個性が発動できたな。普段から常時発動の個性をいくつか使ってるから、最初の頃よりはメモリは拡大していると思うけど。んー、成長期だから個性の伸びもいいんだろうか? でも失敗もしてるし、相手がシンプルな個性のマスキュラーだったからよかったけど、もう少しうまく考えないと。空手を習ってはいるけど、どうも直接殴る蹴るするのはしっくり来ない。やはり『念動力』による衝撃波攻撃が良い感じに思える。表向きの個性でもあるので、これは集中して訓練を続けている成果でもある。結局それぞれの個性を使いこなすには、それぞれに訓練が必要なんだよなぁ。そうでないのはぶっぱになっちゃうし。マスキュラーにも結構ぶっぱしたけど。君は良いサンドバッグだったよ。今度会うのは……夏合宿か? 積極的に会う気はまったくないんだけど。戦うことになるのは出久くんのはずだし。マスキュラーって心折れるのかな。あの物言いからして、個性がなくなれば一発KOだと思うんだが、うーん、個性を破壊するだけじゃインパクトに欠けるんだよね。やっぱりこう、相手にも見える形でやりたい。そういう意味ではパパのは駄目だ、あれ異形系でもない限り見た目の変化乏しいし。見える形か。形。形ねぇ。そうかそうか、パパのことを意識しすぎてるんだな、ハードの容量が足りないんだったら別に用意すればいいんだから。
「本体、これ見て」
例によって考え込んでいると、残っていた分身(転移)がスマホの画面を目の前に差し出してきた。
「なんで私のスマホ持ち出してんの」
「いいからいいから」
どうやら録画映像らしい。
『私が来たッ! ってあれ!?』
そこには颯爽と現れ、狐につままれたような顔をしたオールマイトが。まあ、ヴィランが暴れてるって聞いて駆けつけたら誰もいない埠頭がお出迎えしてたらね。
「レアっしょ?」
「レアだねぇ」
オールマイトはしばらく周辺を見回っていたが、本当になにもないとわかると腑に落ちないという渋い表情をしていたが、それがこちらを見た瞬間ハッとしたものに変わる。
『お師匠……?』
「おい、なにやってんだお前」
顔立ちは志村ママそっくりなのだ、遠目には間違えられてもおかしくないんだから、迂闊な行動をするんじゃない。つーかどうやって撮影してんだこれ。
「サプラーイズ」
『いや、見間違いか……はは、やはり歳かな……』
どうやら一瞬『不可知化』を解除して姿を見せていたらしい。トゥルーフォームでもないのにしおしおになって去って行くオールマイト。うーむ、やはり志村ママ関連は心に来るっぽいな。
「どうよこれ」
満面の笑みでサムズアップしてくる分身。ねえ、こいつ私なんだよね? 私いつもこんななの? うっそだー。
「座布団没収で」
「なんでよ!?」
さて、一夜明けて学校である。平日の夜にやるもんじゃないね、ああいうバトルは。いつものように百が髪を梳いてくれるところだったのだが。
「あら?」
「どうかしたの?」
「これをご覧になってください」
百が私の後頭部をスマホで撮影し、それを私に見せてくる。
「おお?」
髪が一房、メッシュを入れたみたいに真っ白になっている。いやいや、私こんなことしてないぞ?
「常夜さんが髪を染めるとは思えませんし……思い当たることはありませんか?」
「いや、全然……」
待て、これあれじゃないか? 未だ死柄木弔ならざる志村天孤が『崩壊』を使用したあとに髪が白くなっていたのと同じじゃないか? んんー、いやでも確か弔は一気に白くなってたよね? なんで私は一房だけなんだ? それに今まで変化してこなかったのもわからない。まあ、個性をフルに使ったのは昨夜が初めてだからなぁ。今後も個性を使い過ぎればどんどん髪が白くなっていってしまうかもしれない。そういやパパや初代、壊理ちゃんも髪白かったな。そういうことか? んんん。
「これ直さないとまずいよね?」
「校則では理由のない髪の染色は認められていませんわ」
個性の関係で髪色が変わっている人もいるのでこの辺の校則はかつてよりもゆるくなっているが、この学校だと少し厳しいところは残っている。髪を染めるって非行の前兆ってところあるし。あと私は特待生で、勉学以外でも模範的な優等生で通っているのだ。これはよろしくない。
「この歳で白髪染めか……」
一応個性の影響ではあるんだけど、説明しようがない。というかこれ、白髪染め効くのか?
「ええと、白髪染めを取り扱っている企業なら……」
「ああ、うん、とりあえず市販ので試してみるよ」
ドラッグストアで買うのはあれだから通販だな。
ちなみに白髪染めは効きませんでした。おう……自分の体がわからねえ。
感想で「こういうことやらないのか?」というのを頂いてるんですが、常夜ちゃんは不殺主義です。
あと個性伸ばしは『念動力』以外は漫画やゲームやるのに忙しくてサボってます。怠惰。
分身の個性構成
分身(転移):『転移』『不可知化』『千里眼』
分身(監視):『人命感知』『千里眼』『念話』『不可知化』
分身(隠蔽):『ロールバック』