それは夏の霧がごとくゆらめき   作:かもめし

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最近、「NOSTALGIC TRAIN」というゲームをプレイしまして、とてつもない余韻を感じたまま、どうしてもこの作品と電王とをクロスオーバーさせた話のアイディアを思いつき、筆を執らせていただきました。

未プレイの方は、どうか本作を一通り味わってからのご閲読をお願い致します。


夏の霧・一度きり(其の一)

 都内の一郭にあるカフェ・「ミルクディッパー」において、野上良太郎は口に含んだ液体を盛大に噴出した。

 

 

「まぁ。良ちゃん。お行儀が悪いわよ」

 

 

 姉の愛理がにこやかに窘める。ちなみに、良太郎が吐き出した液体というのは、彼女お手製の『オリジナル栄養ドリンク』なるもので、くさやの汁やら青汁やら、体にいいと聞いたものをなんでもかんでも鍋に入れて煮詰めた一品。もちろん味の保証などはない。

 しかし、良太郎はそんなドリンクの不味さも、姉の言葉も全く気にならないほどに、店内に設置されたテレビの画面に夢中になっていた。

 今は午後の三時を回ったばかりで、放送しているのはありきたりなワイドショーの一つなのだが、その内容がどうも急を要する大事らしく、画面端に浮かぶテロップには「緊急生中継!」などと銘打ってある。

 さて、その緊急生中継の舞台は、ワイドショーを放送しているテレビ局の中。今も画面に映る若手の男性アナウンサーが口早に説明するには、どうにも着ぐるみに身を包んだ不審な男がテレビ局に乗り込み、

 

 

「テレビに映らせろ!」

 

 

 とわめいているらしい。

 急いで警察に連絡しつつ、自分たちの敷地の中で珍騒動が起こったことを美味しいと思ったのか、テレビカメラはその「着ぐるみ男」の姿を映す。

 果たしてテレビに映ったのは……。

 

 

(おい! ありゃ、イマジンじゃねぇか!)

 

 

 良太郎の脳内へと直接響くような声。どこか荒っぽい不良を想起させるその声が言う「イマジン」というのは、簡単に言えば『精神生命体となった未来人』である。

 彼らは遠い未来から、この2007年へと時を渡り、とある目的のために「歴史改変」を行おうとしているのだ。

 が、このことを知っているのは良太郎を含めてごく一部。それが証拠に、画面向こうのアナウンサーは、あくまでイマジンを着ぐるみ男……つまりはイロモノとして扱い、恐れが三割にフレンドリーさが七割といった具合でインタビューをしている。

 

 

『今日は、どうしてここへお出でになったんですか?』

 

 

 長ったるい来歴の探りを終え、アナウンサーがその質問を口にしたとき、待ってましたと言わんばかりにイマジンはアナウンサーからマイクをひったくり、

 

 

『見てるか、電王! 俺を止めたきゃ、夏霧まで来い!』

 

 

 と大声を上げてみせた。

 かくしてイマジンは目的を果たしたらしく、どこかすっきりとした面持ちで鼻息を一つ吐くと、

 

 

「そらっ」

 

 

 海辺の景色が広がるテレビ局の窓を体当たりで打ち破り、豪快に外へ飛び出した。

 中継の場は、テレビ局の十階。そこから、着ぐるみをきただけの男が飛び降りたとあらば、これはただではすむまい。

 悲鳴が沸き起こる現場で、それでも懸命にアナウンサーとカメラマンは動揺を押し殺し、イマジンが破った窓へと近寄り、真っ先に地上の様子を映す。

 しかし、そこにあるであろう、着ぐるみ男の死体はなく、

 

 

『あっ、あそこ!』

 

 

 現場に居合わせたのだろう。女性局員の声を合図に、慌ただしくカメラの視点が動き、次には道を走る数々の車のボンネットからボンネットへと軽々しく飛び移る小さな影を捉えていた。

 ここで、テレビはいったんコマーシャルに入る。

 

 

「すごいわねぇ。お面ファイターの撮影かしら?」

 

 

 一部始終を見ていた愛理は、先の騒動があった局で放映している特撮ドラマの名前を上げ、変に感心している。どうやらその特撮番組の撮影風景だと勘違いしているらしい。

 その抜けている……という言葉では収まらないところが、姉らしいと言えば姉らしいところだ、と安心した良太郎の頭の中へ、再び声が響く。

 

 

(へっ! 俺たちをご指名とはいい度胸じゃねぇか! 良太郎! ご期待に応えてやろうぜ!)

 

 

 先ほどの不良声が息巻いた直後、

 

 

(でも先輩。ナツギリ、なんて場所しってるの?)

 

 

 女性を虜にしそうな甘ったるい声が続いた。

 

 

(………知るわけねぇだろうが)

 

 

 不良声が、どこかばつの悪そうに言うと、

 

 

(わかりきったこと言わなくていいよ。先輩が馬鹿なこともね)

 

 

 甘ったるい声がそこまで言ったところで、今度は何かを殴りつけ、蹴り飛ばし、ひっぱたく音が響いた。

 これへ、特別驚く様子でもない良太郎は、苦笑いを浮かべつつため息を吐いた後で、

 

 

「姉さん。地図ってどこにあったっけ?」

 

 

 もうすっかりテレビへの関心も失せ、コーヒー豆を挽き始めた愛理へと尋ねた。

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