キノコのほうしを目指して   作:野傘

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注意!
当作品には独自展開、独自解釈、設定捏造、キャラ崩壊が多分に含まれています。
上記の要素が苦手な方はご注意ください。


エスケープ・フロム

 目を覚ますとそこは暗黒であった。

 

 視界の先に広がる一寸先も見通せぬ漆黒の闇に、全身を包む何とも言えぬ圧迫感。鼻腔には潮の香りが微かに漂い、吾輩は母の子宮の中とはこのようなものなのかとふと思った。

 だがしかし、子宮内とは決定的に違う点が一つ。吾輩の額に走る鈍い痛みだ。子宮内で額を痛めた赤子など聞いたことがない。いるとすれば一体どれだけ姿勢が悪かったのか。是非、一度お目にかかってみたいものである。

 

 勿論、吾輩がいるのは子宮などではない。

 吾輩がいるのは海辺の砂浜、そこに埋まっている状態であった。真っ暗なのも砂に頭を突っ込んでいるのだから当然である。

 さて、なぜ吾輩がそんな状態になっているのか? 話は吾輩が地上に出た直後に遡る。

 

 

―――

 

 

 水平線の向こうに見える街を目掛けて駆けだした吾輩は、そこでハタと気が付く。ここは四方を海に囲まれた小島、街へ向かうには海を渡らねばならぬ。しかし、吾輩は海を渡る手段を持ち合わせておらん。そもそもとして吾輩らキノココという種族はその体型上、水に対する適正が著しく低い。端的に言えば泳げんのだ。池などの穏やかな場所で短時間浮かぶ程度ならともかく、それなりの広さの海峡を身一つで渡るなど不可能。完全なる自殺行為である。

 つまり吾輩があの街に向かうには誰かしらの助けが必要不可欠ということだ。さらに言えば、ここは砂浜と岩しかない小島。凡そ食糧と呼べるものは一切なく、何とかして脱出しなければ吾輩はこのまま飢え死にである。一度地底へと戻りお転婆姫に助けを請おうかとも考えたが、残念ながら彼女と別れてよりかなり時間が経過している。あの複雑怪奇な地底洞窟で彼女と再び出会えるかは分からぬし、もし出会えなければ洞窟を散々彷徨った挙句の野垂れ死にだろう。

 

 自らが命の危機に在ることにようやっと気が付き、吾輩は全力で行動を開始した。

 まず吾輩は海岸に出来る限り大きな「SOS」を描く。前世と文字体系が異なるこの世界において、前世の文字による遭難信号にどれほど意味があるのかは不明だが何もしないよりはましだ。意味は通じずとも見た者の目を惹くことは出来るだろう。

 次に行ったのは小島の出来るだけ高い位置に陣取り、"閃光茸(キノコフラッシュ)"を乱発することだった。強い光を発して近くを往く者に吾輩の存在を知らせるのである。日中に行っているため効果は薄いのであろうが、この状況で夜まで待つつもりはなかった。

 果たして吾輩の決死の祈りが天に届いたか、生体エネルギーを全て搾り出す勢いで発光を続けることしばらく、光に気が付いた一羽のペリッパーが小島に降りてきてくれた。

 何事かと島に降り立ったペリッパーに吾輩は現状を説明し、どうにかこの島から脱出させてくれまいかと頼み込む。幸いにしてこのペリッパーは中々に話の分かる者で、交渉の末に秘蔵のきのみと引き換えで海峡の向こうに見える街まで送ってもらえることとなったのである。

 

 という訳で何とか無人島から離れることに成功した吾輩。しかし、助かったと思ったのも束の間。一難去ってまた一難、吾輩はさらなる災難に巻き込まれることとなった。

 

 吾輩を乗せて海上を飛ぶペリッパー。だが次の瞬間、吾輩らが飛ぶすぐ側を()()()()()()が高速で通り過ぎた。その際に「ごめんね!」という声が聞こえた気がしたが、生憎それを気にしている余裕は吾輩には無かった。なぜなら不意の出来事に驚いたペリッパーがバランスを崩し、その拍子に吾輩は空中へと投げ出されてしまったからだ。

 重力に引かれ、海面へと真っ逆さまに落下する吾輩。……ここで落ちていたのが海面だったのならば、まだペリッパーが回収してくれる目もあっただろう。だがそうはならなかった。不運なことに吾輩が落下した地点で丁度、ホエルオーが大あくびをしていたのだ。憐れ、吾輩は大きく広がったホエルオーの口に吸い込まれ、口腔内に閉じ込められることとなってしまったのである。

 

 真っ暗な口の中を出力を絞った"閃光茸(キノコフラッシュ)"で照らしながら、吾輩はどう脱出すべきが思案する。幸いにして呑み込まれずに済んだものの、かと言って再び口が開くのをこのまま座して待つという訳にもいかん。最悪の場合、次に口が開いた時に周囲が海の底だった、ということも考えられるのだ。一刻も早く脱出せねばなるまい。

 

 さてどうするか。と、頭を捻る吾輩の脳裏にふと、前世の朧げな記憶が蘇ってくる。

 

 ふむ、そういえば前世にて見た物語に大鯨に呑まれた者たちの話があったか。確かその者たちは大鯨の腹の内で火を焚くことでくしゃみさせ、その勢いで脱出していたと記憶している。

 所詮は創作(フィクション)の話ゆえ、どこまで参考になるのか分からんが、しかしこのままでは手詰まりなのも事実。ならば試してみても良いかもしれぬ。残念ながら吾輩の手元には火を起こす道具などないが、しかし代わりに状態異常を引き起こす"ほうし"がある。これをコヤツ(ホエルオー)の口内にぶちまけ刺激してやるのだ。

 そうと決まれば話は早い。吾輩は口内の丁度中央部に移動すると、全身に力を込めて、頭頂の噴出孔よりありったけの"ほうし"をまき散らした。

 

――"胞子結界(マッシュルーム)"

 

 体内に存在する"ほうし"をほぼ全て使いきる勢いでまき散らし、口内の空間は瞬く間にもうもうとした胞子の煙に包まれる。視界の全てが胞子に覆われてしばらく、突如として口内が震えだし――

 

 

――オオックショオオン!

 

 

 次の瞬間、吾輩はとてつもない速度で口から()()された。

 

――あああああああああああああああああああああああぁぁぁ!!

 

 宙を切り裂き、岩場で休むキャモメを驚かせながら、凄まじい速度で飛翔する吾輩。荒ぶる風圧に抗いながら何とか進行方向を見れば、その先にどこかの砂浜が確認できた。このままいけば遠からぬ内に吾輩はそこへ()()するだろう。

 ――そう()()だ。断じて着地ではない。残念ながら吾輩には空中でバランスを崩さぬよう減速する術などなく、慣性のまま砂浜に激突する他なかった。

 とはいえ今生の吾輩はポケモンの身。頑丈なこの体なら激突にも耐えられる筈だ――そう信じるしかない。

 そうこうしている内にグングンと砂浜が近づいてくる。激突に備え吾輩は体に力を込めた。

 

 

――ドッゴオオオン!!

 

 

 刹那、轟音と共に砂浜の砂を盛大にまき散らしながら吾輩が着弾する。

 強い衝撃が体を襲うが、吾輩のポケモンボディは僅かなダメージで見事これを耐え抜くことに成功した……ここまではよかったのだ。

 

――ゴンッ!

 

 着弾の瞬間、吾輩の頭に響く鈍い音。同時に吾輩は意識が急速に遠くなっていくのを感じ取る。一体何が起こったのか、それを考える間もなく吾輩はそのまま気絶してしまった。

 

 

―――

 

 

 といった訳で吾輩は現在、頭隠して尻隠さずの姿勢で砂浜に突き刺さっているのである。

 まあ大方額に残る鈍い痛みから、恐らく着弾の際に何か硬いものに頭をぶつけたため気絶してしまったのだろう。着弾の衝撃には耐えられても、流石に脳天へ直接衝撃を与えられたら耐えられなかったという訳だ。とは言え現在、肉体には特に不調はない。あれ程の勢いで脳天をぶつけて気絶程度で済むとは、いやはや全くもってポケモンというのは頑丈極まりない生き物である。

 

 さあ、赤子の気分を味わうのもそろそろ飽きてきたところだ、とっとと脱出するとしよう。

 

 ということで吾輩は足を激しくバタつかせ、体を左右に動かすことで脱出を図る。奮闘することしばらく、吾輩の体はスポンと大地から抜け出した。そのまま体を振るわせ体表に付着した砂を落としていると、額からポロリと何かが剥がれ落ちる。

 はて、と剥がれ落ちたものを眺めてみれば、それはキラキラ輝く星型の宝石……「ほしのかけら」であった。なるほど、どうやら着弾の際にコレが吾輩の頭を直撃したらしい。

 

 ……ふむ、何かに使えるやもしれぬ。持っていくか。

 

 正直に言えばポケモンである吾輩にとって、ただ綺麗なだけの宝石など「綺麗だなあ」と思う以上の価値はないが。日の光を浴びて輝く「ほしのかけら」を眺める内に、何だか妙に気に入ってしまったのだ。アレだ、道端で落ちているイイ感じの棒を拾うのと同じ感覚である。という訳で吾輩は「ほしのかけら」を拾い上げ、懐にしまい込んだ。

 さて、なんやかんやあったが何とか小島を脱出しホウエンの大地を踏んだ吾輩。周囲を見回せば、ここは人気(ひとけ)の無い小さな砂浜であることが分かった。耳を澄ませば微かに喧騒が聞こえてくる。どうやら近くに人間の街が存在するようだ。その街が小島から確認した街であるかどうかは分からぬが、取り敢えず行ってみることにしよう。そう決心すると、吾輩はざわめきの聞こえる方へ歩き始めたのだった。

 

 

―――

 

 

 海岸線に沿って砂浜をトテトテと歩むことしばらく、せり出した小さな岬を超えたところで急に視界が開けてきた。同時に飛び込んでくる港街の風景。久方ぶりの文明の景色だ。

 

 さあ、ここまで来ればもうひと頑張り。

 

 吾輩は足に力を入れ直し、再び歩き出す。逸る心に歩みはほんの少し速くなっていた。

 

 歩き続けるさらにしばらく、パラソルが立ち並ぶ砂浜を通り過ぎ、文明の地を踏むこととなった吾輩。辿り着いたそこは無数の人と物が行き交う大きな港街。カナズミシティ(大都会)ともまた違う、活気に満ちた独特の空気を胸一杯に吸い込めば、潮風に混じって漂う不思議な香り。ふわりと鼻腔をくすぐったそれに、吾輩に海の彼方の異国の景色を想起し――いつになく高揚した気分となっていた。

 

 潮風が運ぶ異国の香りか……。やはり港はいい。彼方より来るもの、此方より去りゆくもの、各々出自の異なる者が出会いと別れを繰り返す……そんな港街の混沌とした、それでいてどこか陽気な雰囲気が吾輩は好きであった。

 

――むむ!

 

 その時、鼻腔をくすぐる香りの中に何やら気になるものを感じ取った。神経を集中すると何とも甘酸っぱい香りがどこからか漂って来るのが分かる。

 

――スンスンスン……。もしやこの香りは!

 

 その香りに何とも懐かしいものを感じ取った吾輩は、匂いを頼りにその出処を探す。漂う香りを辿りながら港町を歩くこと少し、吾輩が辿り着いたのは街の西側に位置する大きな市場であった。

 市場には露店が所狭しと立ち並び、ホウエンはおろか世界中から集まった種々雑多の品々が並べられている。またそうした品々を求めて多くの人々が集まり、市場は非常に賑わっていた。

 そんな人混みの中すり抜けながら、ますます強まる匂いの出処を探す吾輩。賑わう市場をあっちへフラフラ、こっちへフラフラ、彷徨い歩いた末にとうとうその出処に辿り着いた。

 

――おお……!

 

 その出処は一件の果物露店。店先には色とりどりの新鮮な果実が並べられて芳香を放っている。並べられている果実はどれも実に美味そうであったが、吾輩が目を惹かれたのはその中のただ一種……甘酸っぱい懐かしい香りのする真っ赤な果実である。この世界に生まれ変わってより以来見たことのない、しかしとてつもなく見覚えのあるその果実は、

 

――間違いない……! これは……『リンゴ』!

 

 『リンゴ』であった。

 

 『リンゴ』はバラ科リンゴ属に属する落葉高木で、その果実は前世(地球)においてその名を知らぬものなどほとんどいないであろう、最もメジャーな果物の一つである。

 ポケモンの世界に転生してより幾年、まさかこんなところで前世(地球)と同じ果物を見つけるとは。いや、この推定『リンゴ』が本当に前世における林檎と全く同一の存在なのかは分からぬが、しかし感ずる匂いは前世で嗅いだものと寸分違わず同じ。ならば味の方もまた同一なのではなかろうか。

 と、その時ギュルルと吾輩の腹の虫が鳴る。思い出せば地下より出でてからこっち、何も口にしておらんかった。エネルギーに満ちた「ほうせきの国」ではほぼ飲食が不要であったため、すっかり忘れていたらしい。

 自覚すれば尚更空腹が募って来る。そして目の前には実に旨そうな果実。

 

 食べたい。

 もの凄く食べたい。

 

 口の端から涎を垂らし、眼前の『リンゴ』を穴が空くほど見つめる吾輩。しかしどれほど望もうとも吾輩が目の前を果実を食すことは出来ない。なぜなら吾輩は野生のポケモン、人間社会にて使える貨幣など持ち合わせていないからだ。店のものを勝手に食べる訳にもいかぬ。「ひとのものをとったらどろぼう!」対価を払わずに他者の所有物を奪うのは立派な犯罪である。

 ……前世の吾輩(人間であったころ)ならばいざ知らず、今生の吾輩はポケモンの身。あるいは人間社会の規範(ルール)に従う必要などないのかもしれぬ……が、それでトラブルが起こっても面倒くさい。「郷に入っては郷に従え」――人界という異なる社会に入り込む以上、無用な波風を立てぬよう行動もなるべくその社会の規範(ルール)に則ったものとするのが吉である。

 しかし、意地を張ったところで空腹であることには変わりない。相変わらず目の前の果実は吾輩の目を捉えて離さんし、涎は止めどなく口から溢れ出ておる。いかん、このままでは本能に負けてしまう。店のものに手を出しお尋ね者となる前に一刻も早くこの場から離脱せねば。

 

――ハッ!

 

 その時、吾輩の脳に天啓が降りる。そうだ、アレが使えるやもしれぬ。

 ゴソゴソと懐を探り、取り出したのは先ほど拾った「ほしのかけら」。記憶によればこの宝石はそれなりの値段で売れた筈、これを対価として『リンゴ』と交換できぬだろうか。

 

 よし、ものは試しだ。一つ店主に掛け合ってみよう。

 

 という訳で、吾輩は中で何やら作業をしている店主を気付かせるべく、鳴きながら店先でぴょいんぴょいんと飛び跳ねた。跳ねること数度、吾輩の存在に気が付いたのか店主が作業を止めこちらを覗き込んできた。訝し気な表情を浮かべる店主に、吾輩は「ほしのかけら」を差し出し、身振り手振りでこれと『リンゴ』を交換してくれないだろうかと伝える。

 ジェスチャーを繰り返すこと数分、吾輩の意図が伝わったのか、店主は合点がいった表情で「ほしのかけら」を受け取り、代わって商品棚からとくだいサイズの『リンゴ』を吾輩の前に置いてくれた。

 

――おお、『リンゴ』……否、『とくだいリンゴ』だ!

 

 目の前に置かれた"とくだい"の紅い果実をキラキラと見つめる吾輩。さらに店主は吾輩の前に一つ、二つ……総計五玉の『とくだいリンゴ』を置いてくれた。どうやら「ほしのかけら」の代金分をキッチリ渡してくれたらしい。まったくポケモン相手に律儀なものである。

 

 さあ、いい加減腹の虫ももう限界だ。さっそく、実食といこう。

 

――ガツガツ! むしゃむしゃ! ガツガツ! むしゃむしゃ!

 

 一口齧るごとにあふれ出る果汁。口の中に広がる爽やかな甘みと酸味が実に美味である。その味は確かに前世で味わったものと同じ『リンゴ』の味。なればこの果実も間違いなくリンゴであろう。

 あまりの美味さに吾輩はあっという間に一玉平らげ、続けて二玉目に移る。

 

――ガツガツ! むしゃむしゃ! ガツガツ! むしゃむしゃ!

 

 二玉目、三玉目、四玉目……と次々に手を伸ばす吾輩。

 

――ガツガツ! むしゃむしゃ! ガツガツ! むしゃむしゃ!

――ガツガツ! むしゃむしゃ! ガツガツ! むしゃむしゃ!

――ガツガツ! むしゃむしゃ! ガツガツ! むしゃむしゃ!

――ガツガツ! むしゃむしゃ! ガツガツ! むしゃむしゃ!

――ゴクン!

 

 都合五玉の『とくだいリンゴ』を瞬く間に食べ尽くし、吾輩はげふ、とゲップを一つ。

 

 うむ、『とくだいリンゴ』は実に美味かった。腹も膨れてすっかり大満足である。

 

 店主は吾輩があれだけの量の『リンゴ』を一度に平らげのたを見て、目を丸くして驚いているようであった。

 まあ、実を言えば少々腹が苦しいのだが……。野生においては食べられる時に食べておくのが生き残るコツだ。それにあの大きさともなれば持ち運ぶのも容易ではない。そんな訳で少々無理してでもあの量を一度に食べ尽くしたという訳であった。

 

 さあ腹も満たされたことだ、そろそろ出立するとしよう。

 

 空腹を満たし元気を取り戻した吾輩は、店主にジェスチャーで精一杯の礼を示し、市場を後にする。

 

 吾輩の旅はまだまだ途中、あまりグダグダする訳にもいかん。

 何より"キノコのほうし"は未だ遥か彼方。立ち止まっている暇はないのだ。

 

 そんなことを考えながら、吾輩は次なる修行場所を目指して港町を出たのであった。

 

 

―――

 

 

 さて港街を後にし、街道を道なりに進む吾輩。丁度よい修行場所を探してスタスタ、スタスタと行く内に、いつの間にやら大きな橋の下の道を歩いておった。橋下の道はもさもさと下草が生い茂っていて視界が悪く、お世辞にも整備されているとは言えなかったが、人間ならばいざ知らずポケモンである吾輩にとっては問題なく歩みを進められる程度のもの。周囲には人っ子一人、ポケモンの一匹おらず、ただただ草の揺れる音だけが響く静かな場所であった。

 

 ふーむ、何とも寂しい場所だな。

 

 下草を掻き分け掻き分け進みながら、吾輩はそう思う。吾輩の知る限り、大抵こういった場所にはそれなり数のポケモンが生息しておるのが常だ。しかし、吾輩がこの道に分け入ってよりこっち、全くといってよいほどポケモンの姿を見かけておらん。気配を探れば幾つか、野生ポケモンらしき気配を感じ取ることは出来るのだが、何故だか隠れ場所に閉じこもっているようで動く気配がない。

 

 つまらん。縄張りを侵したとして攻撃してきたならば、返り討ちにしてやろうと思っておったのに。

 

 野生ポケモンとの戦闘(バトル)を想定していたにも関わらず、あまりに何もない街道の様子に拍子抜けしつつ歩みを進めていたところ――

 

――ん?

 

 ふと、吾輩の耳に何やら聞きなれぬ音が飛び込んでくる。

 

――ビビビビビビビビ

 

 それは草の揺れる音とは明らかに異なる、電子音を思わせる奇妙な音。

 

 はて、一体何であろうか?

 

 荒れ放題の緑道には似つかわしくない機械的な音が気になり、吾輩はその発信源を確かめんと音のする方へ向かう。伸び放題の草をかき分け進むこと少し、やがて下草の途切れた開けた空間に辿り着いた。

 

――あれは……

 

 そこで吾輩はあの電子音の主であろう、中空をフラフラと漂うとあるポケモンを見つける。

 丸い鉄球のような体に、馬蹄(ばてい)形の磁石が如き腕。体には三本の螺子(ねじ)らしきものが突き刺さり、その中心部には無機質な単眼が鎮座している。一見すれば生物とはとても思えん奇妙奇天烈なその姿は、しかし吾輩にとって前世からよく見知ったもの。

 ――"じしゃくポケモン"コイル。それが吾輩の見つけたポケモンの正体であった。

 

 なるほど先の奇妙な音はコヤツ(コイル)が発しておったのか。

 

 怪音の正体が分かり納得した吾輩。と、同時に新たな疑問も湧いてくる。

 

――何故コヤツ(コイル)はこんなところに居るのであろうか、と。

 

 吾輩の記憶が正しければコイルというポケモンは電気が食糧。故にその生息地は文明にほど近い領域であることがほとんどだ。しかし、ここは街からそれなりに離れた緑道の真っ只中。お世辞にもコイルにとって快適な環境とは言い難い筈……。しかし、現にコイルはここにいる。はてさて一体全体なぜなのだろうか?

 

 と、吾輩が思考しつつしばらくその様子を眺めていると、突如としてコイルの動きが止まり――次の瞬間、ギョロリと無機質な視線がこちらに突き刺さった。

 

――!

 

 感情の見えぬ単眼に射抜かれ、ゾワリとした感覚が吾輩を襲う。ザワザワと肌を撫でる形容し難い感覚。敵意とも戦意とも異なるコレは……敢えて表現するならば"捕食者に目を付けられた"、と言ったところか。

 

 なにゆえ電気食性のコイルがそのような感情を向けてくるのか――まるで意味が分からず混乱する吾輩であったが、目の前でコイルが馬蹄(ばてい)形の腕に電気を纏わせだしたことで、我に返る。

 

 ……いや、今理由を考えたところで仕方がない。少なくとも(コイル)が友好的な存在でなく、かつ攻撃を仕掛けようとしているのは確かだ。ならば、吾輩がすべきことは一つ。今まさに襲い掛からんとする外敵を打倒し、身の安全を確保することだ。

 

――すぅー……、ハァー……

 

 深く息を吸い込み、吐く。

 身に力を込め、腰を落とし低く構える。

 全身に生体エネルギーを巡らせ、相手のいかなる動きも見逃さぬよう神経を研ぎ澄ませる。

 これなるは臨戦の構え。一切の油断なき戦闘態勢。

 

――さあ、どこからでもかかって来るがいい。

 

 相対せし外敵(コイル)を見据え、吾輩はそう呟いた。

 

 果たしてその声が届いたのか否か、戦端を開いたのは(コイル)の方からであった。

 コイルが磁石の腕を前方に突き出し放電、自らと同程度の大きさの雷球を作り出し――撃ち放つ。球状となって放たれたそれが電撃としては幾分遅いスピード――それでも吾輩からすれば相当な速さであった――で迫ってくる。

 だが……

 

 ナメるな!

 

 迫る雷球をギリギリまで引き付けた後、吾輩は地面を勢いよく蹴ってジャンプ。雷球を飛び越えることで躱し、そのまま宙返りして着地する。

 なるほど、確かに雷球の速度は速かった。以前の吾輩であればその速度に対応出来ず、直撃するのは避けられなかったであろう。だがしかし、吾輩も「ほうせきの国(地下世界)」の戦いでそれなりには成長しておる。あの程度の速度ならば問題なく対応可能だ。

 吾輩はそのまま次の攻撃が放たれる前にコイルを粉砕せんと、足に力を込め……

 

――アビャバ!?

 

 背後からの衝撃で思いきり吹き飛ばされた。

 

 肉体を走るビリビリとした感覚に、吾輩は己が"でんき"エネルギーによる攻撃を受けたと判断する。しかし、目の前のコイルが電撃を放った素振りはない。一体どこから……。

 と、そこで吾輩は先ほど躱した雷球の存在に思い当たる。そうか、あれは一種の『必中技』であったか。

 

 ポケモンの"わざ"の中には相手に対し「必ず命中する」という性質を持ったものがある。俗に『必中技』と呼ばれる"わざ"だが、確か"でんき"タイプの中にもそう言った類の"わざ"があった筈だ。

 

――ぐぬぬ。

 

 不意を突かれたことに歯噛みしながら、吾輩は痺れる体を抑えて立ち上がる。

 幸いにして"でんき"属性(タイプ)の攻撃は"くさ"属性(タイプ)の吾輩に「こうかはいまひとつ」。負ったダメージそのものは少なく、戦闘に支障はない。

 

 しかし、どうすべきか。

 

 目の前のポケモン(コイル)には吾輩の持つほとんどの"わざ"の効果が薄い。原因は奴の有する"はがね"属性(タイプ)。この属性(タイプ)は吾輩の主力である"くさ"属性(タイプ)の攻撃を大幅に軽減する。その無機質な外観から吸い込ませねば効果が薄い"ほうし"も恐らく通用せんであろう。となれば、"麻痺胞子(しびれごな)"、"吸精胞子(やどりぎのタネ)"は使えんか。"蝕毒胞子(どくのこな)"に至っては論外だ、"はがね"属性(タイプ)に無効化されるのがオチであろう。

 

 ならば、吾輩の取るべき選択は一つか。

 

 吾輩は足に力を込め、駆け出す。目指す先は無論、眼前にて滞空するコイルの元。敵が自身へと迫り来るのを見たコイルは、再びあの雷球を撃ち放つ。

 瞬く間に吾輩へと接近する雷球。だが、吾輩は眼前に迫ったそれを避けようとすらせず、逆に勢いに任せて突っ込んだ。内包された"でんき"エネルギーが炸裂し、痛みと共にダメージを負うが、戦闘に支障なしと無視。足を止めることなく走り続ける。

 

 そうだ。どうあがいても『必中技』足る雷球を躱すことが出来ぬのなら、初めから躱さなければよいだけのこと。どうせ「こうかはいまひとつ」の攻撃だ、一撃で倒されることなどありえない。ならばこちらから食らう覚悟でぶつかり、逆に攻撃後の隙を突いて一撃を叩き込んでやればよいのだ。

 

 これこそ吾輩の選択。属性(タイプ)耐性と防御力に任せた正面突破である。

 

 知性の欠片もないような脳筋(ゴリ押し)戦法だが、他に有効な策がある訳でもなし。時に、勢いに任せた力押しこそが最良の戦術と成りえる場合もあるのだ。

 

 ――それに多少のダメージ程度ならば補填する手段も持ち合わせておる故。

 

 真正面から雷球に"たいあたり"し、そのまま突き抜けた吾輩に慌てた様子で次弾を作りだそうとするコイル。

 だが残念、吾輩が到達する方が早い。

 

 大地を両足で強く蹴り、跳ぶ。

 全身に纏う"かくとう"のエネルギー。使用するのは"吸収(ドレイン)"の型。

 喰らうがよい。これなるは吾輩の十八番(おはこ)鋼鉄(はがね)も砕く闘気(かくとう)の一撃――

 

――吸精突撃(ドレインタックル)

 

 果たして吾輩の全力の吶喊にコイルは対応することが出来ず、両者はそのまま中空にて激突。

 吾輩の纏う"かくとう"エネルギーがコイルの"はがね"の体をぶち抜いた。

 

 弱点属性(こうかはバツグン!)による攻撃であったこと、運悪く身体の真芯を捕らえられた(急所にあたった!)こと、そして何よりも自身より練度で勝る(レベルが高い)相手からの一撃であったこと……これらの要素が重なり合った結果、与えられたダメージはコイルの体力(HP)をあっという間に削り取り、コイルは二、三度空中にてフラフラと揺れた後、ガシャリと音を立てて墜落することとなった。

 奴が落ちるのとほぼ同時に、吾輩もしゅたりと地面に着地する。

 

 先の吸精突撃(ドレインタックル)によって、コイルから多量の体力(HP)を吸い取れた。

 お蔭で先の雷球によるダメージもほぼ回復済である。

 

 吾輩はそのまま油断なく地面に落ちたコイルの方を見やる。コイルは力無く地べたに横たわったまま完全に沈黙しており、ピクリとも動く様子は無かった。どうやら戦闘不能(ひんし)となったらしい。

 

 ひとまず吾輩の勝利であった。

 

 襲い掛かって来たコイルを撃退し、吾輩はふう、と一息。

 

 さて、これよりどうするか。

 

 結局、コヤツ(コイル)が吾輩を襲った理由は分からず仕舞いだ。だが一度襲われた以上、二度目三度目がないとも限らん。真正面からの立ち合いならば望むところだが、流石にこちらを捕食?しようとする相手との連戦は避けたい。速やかにここを離れるのが吉であろう。

 

 と、しばらく考えた末にそう結論付けた吾輩は、さっさとこの街道を抜けてしまおう、と一歩足を踏み出し……

 

――!

 

 背後にバチリと火花が散る音を聞きつけ、吾輩はとっさに飛び退る。

 瞬間、吾輩のいた地点へと着弾する電撃。それは明らかに攻撃の意図を以って行われたもの。

 

――新手!

 

 どうやら吾輩が考え込んでいる間に、新たな襲撃者が「おでまし」したらしい。

 気がつかなかったことに苦々しく思いつつ、吾輩は襲撃者の姿を確認せんと顔を上げ――

 

――……冗談であろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ビビビビビビビビ

 

――ビビビビビビビビ

 

――ビビビビビビビビ

 

――ビビビビビビビビ

 

――ビビビビビビビビ

 

 

――ビビビビビビビビ

 

――ビビビビビビビビ

 

 

――ビビビビビビビビ

 

 

 

 

 

 

 

――ビビビビビビビビビビビビビビビビ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウジャウジャ、ウジャウジャと視界を埋め尽くす鉄球の集団。数にして百を超えようかという"じしゃく"ポケモン(コイル・レアコイル)たちが怪音を発しながら吾輩を取り囲んでいた。

 

――ギョロリ

 

 無機質な眼が皆一様に吾輩を凝視する。

 突き刺さる無数の視線。先の捕食者に狙われる感覚が何倍にもなって全身に走る。

 ゾゾゾと背筋に寒気が走り、吾輩は思わず身震いした。

 

――これは……マズい。

 

 先の攻撃はコヤツらから放たれたもの。ならば必然、先のコイルと同様にコヤツらもまた吾輩を襲撃する意思を持っているということだ。

 そして現在、吾輩はそんな"じしゃく"ポケモン(コイル・レアコイル)たちに一分の隙もなく周りを囲まれている状態――ハッキリ言って大ピンチであった。

 

 敵の数はおよそ百、対する吾輩はたった一匹。数の差は絶対的に吾輩の不利。

 練度(レベル)差は恐らくコイルどもより少し上、レアコイルとは同程度か。

 属性(タイプ)相性は若干、吾輩が有利……が、この数を前にしては焼け石に水もいいところ。

 

 うむ、何一つとして勝てる要素がないな。正面突破では数の差で押し切られるだろうし、搦め手も吾輩の持ちうる手札はヤツラにことごとく無力化されておる。

 戦っては確実に負ける……ならば逃げるしかないのだが、しかしこうも囲まれてしまっては後ろを向いて逃げることも出来ない。

 

 ――と、なれば吾輩の取り得る手段は一つ。

 

 吾輩は全身にぐっと力を込める。

 

 そして"じしゃく"ポケモン(コイル・レアコイル)が次なる攻撃を放たんと、両腕に電気を帯びさせたその時。

 

――喰らえ! "閃光茸(キノコフラッシュ)"!

 

 七色の激しい輝きが吾輩の体から放たれた。

 

――!!?

 

 突然の眩い輝きを直視し、思わず怯む"じしゃく"ポケモン(コイル・レアコイル)たち。その隙を逃さず、吾輩は勢いよく浮遊するコイルの一匹目掛けて突撃する。

 

――吸精突撃(ドレインタックル)

 

 不意打ち気味に放たれた"かくとう"属性(タイプ)の一撃。喰らった衝撃でコイルは、そのまま背後にいた仲間を諸共弾き飛ばされる。結果、吾輩を囲う環にほんの僅かだが()()()()が出来た。

 

――今!

 

 吾輩は包囲の僅かなほころび目掛け、全力で走り出した。

 

 そう、これこそが吾輩のとり得る手段。

 襲い来る連中を粉砕しつつ、()()へと逃げるのだ。

 成功するかは、一か八か。されど襲われた相手に無抵抗など以ての外。それに吾輩にはこれよりほか手がない、ならばやる他ないのだ。

 

――そこをどけえええええええ!!

 

 閃光より立ち直り、再び吾輩を取り囲まんとする"じしゃく"ポケモン(コイル・レアコイル)たち。

 目の前に立ち塞がるコイルたち目掛け、吾輩は全力で突撃するのであった。

 

 

―――

 

 

 喰らえい!

 

――吸精突撃(ドレインタックル)

 

 放たれる"かくとう"の突撃。突撃されたコイルが複数体の仲間を巻き込み、あらぬ方角へ弾き飛ばされる。密集する"じしゃく"ポケモン(コイル・レアコイル)の壁に空く穴。そこへ向かって吾輩は走り出し――

 

――電撃波(でんげきは)

――電撃波(でんげきは)

――電撃波(でんげきは)

 

――!!

 

 瞬間、吾輩に向けて放たれる複数の"わざ"。『必中』の性質をもった雷撃は寸分違わず吾輩へと命中し、その体力をすり減らす。いくら耐性があるとはいえ、同時に何度も喰らえばそのダメージは無視することはできない。

 

――ぐぎぎぎ……!

 

 全身を襲う痛みを歯を食いしばって耐え、そのまま横っ飛びに突撃。空中に浮くコイルへと吸精突撃(ドレインタックル)を打ち込み、その体力を吸い上げることで何とか戦闘不能(ひんし状態)となることを回避する。

 

 ぜえぜえ……。くそ、数が多すぎる……!

 

 疲労困憊、荒い息を吐きながら吾輩は悪態を吐く。

 だがそれも仕方がない。何せ吾輩を襲う"じしゃく"ポケモン(コイル・レアコイル)はあまりにも多すぎた。都合百匹を超えるであろう群れ、倒しても倒しても数が減らない。

 おかげで逃走も遅々として進んでおらん。どれだけ包囲に穴を穿(うが)とうと、周りの連中の攻撃で包囲内に引きずり戻される。

 さらに体力(HP)こそ吸精突撃(ドレインタックル)で回復できるものの、溜まっていく疲労はどうしようもない。疲労を回復させるには休息をとる他ないが、残念ながらこの状況でそんな悠長なことをしている余裕はなかった。

 疲労により動きが鈍った体、低下した判断力……故にこそそれは必然であったのだろう。吾輩は致命的なミスを犯した。

 

 前を見据え、再び吸精突撃(ドレインタックル)を放たんと突撃した吾輩。だが発動の最中、纏う筈の"かくとう"エネルギーが霧散し"わざ"が不発となってしまう――連続使用によるガス欠(PP切れ)であった。

 

 ええい、よりにもよってこのタイミングで!!

 

 考える限り最悪のタイミングでのガス欠(PP切れ)に、吾輩は内心であらん限りの悪態を吐く――が、どうしようもない。バランスを崩し、突撃した勢いのままもんどりを打って転がる吾輩。それでも倒れた姿勢から大急ぎで立ち上がろうとして……

 

――磁鉄炸弾(マグネットボム)

――磁鉄炸弾(マグネットボム)

――磁鉄炸弾(マグネットボム)

 

――ぬわあああ!

 

 殺到する大量の金属塊。投げつけられたそれは磁性を帯びているのか、吾輩の体に次々とくっつきその行動を封じてくる。

 

――ぐぎぎぎぎ……!

 

 無数の金属塊に押しつぶされ身動きがとれぬ。何とか抜け出そうと藻搔いてみるものの、全身に纏わりついた金属塊はずっしりと重く、吾輩の力ではビクともしない。

 為す術もなく拘束された吾輩。さらに次の瞬間、頭上に猛烈な"はがね"エネルギーの収束を感じ取る。

 

 危機を告げる本能。吾輩は無理やり顔を捩り、エネルギーが集まりつつある方を見た。

 

 視線の先、吾輩の目が捕らえたのは中空に浮かぶ一匹のポケモン。

 どこか"じしゃく"ポケモン(コイル・レアコイル)の面影を残す、しかし決定的に異なる姿。

 円盤を思わせる扁平な体に、頭頂より伸びた大きなアンテナ。馬蹄型の磁石はユニットのように身体の下部に移動し、三つの瞳は身体の中央に直線状に並んでいる。

 さながら未確認飛行物体(UFO)を思わせるそのポケモンは、恐らく"じしゃく"ポケモン(コイル・レアコイル)たちを率いる群れの長なのだろう。周囲の連中とは別格の力を放っていた。

 

――ジバババン ジバババン ジバババン

 

 無機質な鳴き声を発しながら未確認飛行物体(コイルらの親玉)は中央の一際大きく赤い瞳に"はがね"エネルギーを集めていく。明らかなる攻撃の予備動作……その標的は紛れもなく吾輩であろう。

 ……収束するエネルギー量を鑑みるに、まともに喰らってしまえば戦闘不能(ひんし状態)となるのは免れまい。故に当たる訳にはいかない……が、吾輩は拘束されている状態。避けることは叶わない。

 残念ながら今の吾輩に出来ることといえば、未確認飛行物体(コイルらの親玉)を精一杯睨みつけやることくらいであった。

 

 そして奴の"はがね"エネルギーの収束が(チャージ)完了し……次の瞬間、銀色に輝く光線が発射された。

 

――鋼煌加砲(ラスターカノン)

 

 中空を睨む吾輩の視界が銀色に染まり、やがて何も見えなくなる。

 鳴り響く爆発音をどこか遠くに感じながら、吾輩はその意識を手放した。

 

 

―――

 

 

 鋼煌加砲(ラスターカノン)が着弾し、吸い付いた爆弾(マグネットボム)を巻き込んだ鋼色の大爆発を起こす。

 数十秒の後、煙が晴れたそこには衝撃で抉れた地面と戦闘不能(ひんし状態)となって転がるキノココの姿。

 

 数体のコイルが近づいて確認すると、戦闘不能(ひんし状態)となっているものの命に別状はないようだ。

 

 キノココの生存を確認したコイルたちは磁力で以ってキノココを持ち上げると、()()()()()()()に従い彼らの拠点へと運んでいく。

 

 かつて建設途中で開発中止となり、放棄された巨大ジオフロントーーニューキンセツへと。

 




⊃(◎)⊂<出荷よー

・キノココ
 我らが主人公。無人島から脱出したのも束の間、コイルたちにドナドナされる。

・ジバコイルwithじしゃくポケモン's
 元々はニューキンセツに生息していたポケモンたち。何者かによって「野生ポケモンの捕獲」を命じられ、110番道路で狩りを行っていた。
 キノココが110番道路を通った際にポケモンが少なかったのはこのため。
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