キノコのほうしを目指して   作:野傘

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お久しぶりです。他の小説に浮気していたら遅くなりました。

今回は二話連続投稿となります。先にこちらからご覧ください。

注意!
当作品には独自展開、独自解釈、設定捏造、キャラ崩壊が多分に含まれています。
上記の要素が苦手な方はご注意ください。


ニューキンセツの空に

――んが……

 

 どれくらい時間が経っただろう、吾輩は瞼に当たる微かな光で目が覚めた。

 気怠い体を起こして見渡せばどうやら吾輩は丸い台座のようなものに載せられているようであった。

 

 はて、ここは何処であろう?

 

 周囲に広がる人口的な景色。薄暗い部屋の中、チラチラと光を放つ無数の機械群……という何ともSF染みた光景を前に吾輩は困惑する。

 

 吾輩はかの未確認飛行物体(コイルの親玉)"じしゃく"ポケモン(コイル・レアコイル)たちに敗北し意識を失ったはずだが……。まあ、順当に考えればひんし状態となった吾輩をコイルたちがここに運びこんだのだろう。ふむ、となればアヤツラ(コイルたち)の目的は吾輩をここに運ぶことだったのであろうか。そうなれば連中の獲物を見つけた捕食者の如き視線の理由も説明がつく。

 

 連中が吾輩を襲った理由に合点がいき、取り敢えず納得する吾輩。同時に、この場に居続けるのはよろしくない、とも思う。

 

 何せここに連れて来るために連中が取った方法はお世辞にも穏当とはいえない方法だ。真っ当な目的ならばこちらに事情を伝えて協力を仰げばよいのだ。それを行わない時点でその目的が碌でもないものだと容易に想像がつく。ならば大人しくヤツラの目的に付き合ってやる必要などないだろう。とっととこの場所より脱出し、旅を再開するのだ。

 

 そうと決まれば、と吾輩は自らの載る台座より勢いよく飛び降りようとして――

 

 みよ~~~~~~~~~~ん

 

 弾力のある()()に阻まれ、そのまま台座中央まで押し戻されてしまった。

 

――な、なんだ!?

 

 中央部まで押し戻され、一体何が起きたのかと目をパチクリとさせる吾輩。

 

――……何か弾力のあるものに阻まれたような……?

 

 取り敢えずもう一度試してみようと、吾輩は台座の縁に――今度はそろりそろりと――近づいていく。そうして吾輩が一歩、台座の外に足を踏み出したその瞬間。ブオン! と光の壁のようなものが展開された。突然目の前に現れた壁に驚き慌てて足を引っ込めると、壁はすぐさま消失する。

 吾輩が再び一歩足を出すと、再度展開される光の壁。再度足を引っ込めれば、それに合わせて壁も元に戻る。どうやらこの壁は台座の縁に一定程度近づくと展開されるようである。

 ならば、と今度は助走をつけて勢いよく光の壁へと突撃してみれば、壁は弾力あるゴムのように伸びた後、反動で吾輩の体を台座へと押し戻した。

 

 ……逃げ出そうとするのは想定済、という訳か。

 

 どうやら単純な身体能力で突破することは無理そうである。ならば――

 

――"わざ"で以ってぶち抜く……!

 

 先の試みからこの光の壁は恐らく、何らかのエネルギー・フィールドの(たぐい)。ならばより強いエネルギーをぶつけてやれば打ち消せる筈だ。というかもうそれぐらいしか手立てがない。これでダメだったら本当にマズい。

 ……不安に思ったところで仕方がない。どっちにしろもう吾輩に残された手立てはこれしかないのだ。ならばそれを全力で行うまでのこと。

 

 意識を集中し、生体エネルギーを練り上げ、身体に力を込める。

 

――さあ、行くぞ!

 

 と、気合と共に吾輩は"わざ"を発動させようとして……

 

 プスン……

 

 ――発動しなかった。

 

 ………………………………………………………………………………………………………………………………は?

 

 一体なぜだろうか、吾輩が発動しようとした"わざ"が発動しない。吾輩は何かの間違いかと、再び"わざ"を発動させようとするが結果は同じ。その後、幾度と試してはみたがその悉くが不発に終わる。

 

 おかしい、何故"わざ"が発動せんのだ。

 

 発動しようとする"わざ"の悉くが不発となる異常事態に、吾輩はその原因を探ろうと、今度は神経をとがらせながら"わざ"を発動させてみた。

 

――!!

 

 残念ながら"わざ"は先と同様に失敗した……が、おかげで吾輩はなぜ"わざ"が失敗するのか、その理由が分かった。発動する寸前にエネルギーが()()()()()()()()のだ。それだけではない、意識を集中させたことで"わざ"のみならず、吾輩自身の体からも少しずつ生体エネルギーが漏れ出していることにも気が付いた。

 そうした漏れ出たエネルギーの行く先は……吾輩の頭上。吾輩の立つ台座をそっくり鏡移ししたかのような装置が、漏れ出たエネルギーを吸い上げていた。

 

 生体エネルギーを収集する装置の存在に気が付き、吾輩は自身がこの場に連れて来られた理由を察する。どうやら吾輩はエネルギーを吸い取るための生体電池という扱いのようだ。

 しかし、どうすべきか。このままここに座していても何れ生体エネルギーを搾り尽くされ、萎び茸となるのがオチだ。ならば一刻も早く脱出すべきなのであるが、残念ながら脱出のための有効な手立てがない。頼みの綱であった"わざ"による強行突破も使えず。現在、吾輩は割と詰んでいる状態であった。

 どうにか頭上のエネルギー吸収装置を破壊出来んものか、と試してみたが、単純にジャンプするだけでは装置には届かず。ならばと光の壁の弾力を利用し、三角跳びの要領で駆けあがろうとしてみたが……光の壁は実体のある壁ではなくエネルギー・フィールド。残念ながら、蹴り上げようとした瞬間に下の台座へ弾き飛ばされる結果に終わった。

 

 ……ダメだな、これは。

 

 脱出の試みが悉く失敗し、打てる手段がなくなってきた吾輩。じりじり吸い上げられる生体エネルギーに焦りを覚えつつ、次なる手を思案していたその時。ふと、周囲の機械が発する駆動音に混じって、微かに別の音が聞こえて来た。

 

――ビビビビビ ビビビ ビビビビ

――む!

 

 聞こえてきたのはどことなく電子的な響きを持つ音。吾輩はその特徴ある音を知っていた……何せ、つい数時間前に散々耳にしたのだから。音の発生源は徐々に近づきつつあるようで、聞こえる音も少しずつハッキリとしてくる。吾輩は意識を失ったフリをし、様子を伺うことにした。

 とうとう至近距離まで電子音が近づいてくる。と同時、ガシャリと扉が開き、薄暗い部屋に光が差し込んできた。

 

――ビビビビ

 

 差し込む光に照らされて浮かび上がるシルエット。鉄球のような丸い体に、馬蹄形の腕を持つそれは吾輩にとって忘れられよう筈もない存在。紛れもなく吾輩をこの地に連れ去った下手人――"じしゃく"ポケモン・コイルであった。

 ギョロギョロと感情の伺えぬ単眼で暗い室内を見回した後、フワフワと部屋の中に入るコイル。やがて部屋の隅で立ち止まると、壁の一角めがけて電撃を放った。瞬間、バっと明るくなる室内。どうやら電撃によって照明を作動させたようだ。

 

――ビビビビビ!

 

 明るくなった室内を確認したコイルは電子音にどこか満足気な感情を混じらせ、部屋の中央部へと進んでいく。

 

 一方の吾輩は最早、コイルのことなど眼中に無かった。光が灯り、明らかとなった部屋の中。そこには吾輩が捕らえられているのと同じ装置が幾つも並び、中には同じようにポケモンたちが捕らえられていたのだ。

 閉じ込められたポケモンたちは生体エネルギーを限界まで搾り取られたのだろう。皆一様に身じろぎ一つせず、装置の中で力無く倒れ伏している。ポケモンたちの衰弱しきった様子に、吾輩は今までにない焦りを覚えた。

 

 マズい。このまま手をこまねいていたら、吾輩も彼らの仲間入りだ。一刻も早くこの装置より脱出せねば……!

 

 そう焦燥感を覚える吾輩であったが、しかしこれといった手立てもない。まさしく八方ふさがりの状態であった。

 と、そうこうする内に、部屋の中央に鎮座する巨大な機械へコイルが小さく電気を放っているのが見えた。嫌な予感を覚えた吾輩は懐より「ほうせきの国」より持ち出した結晶片(げんきのかけら)を取り出し、大急ぎで口に含む。

 次の瞬間、吾輩を捕らえる装置が大きく駆動し、凄まじい勢いで生体エネルギーを吸い上げ始めた。

 

――あばばばばばばば!

 

 体内から恐ろしい勢いでエネルギーを吸い上げられ、見る見るうちに体に力が入らなくなっていく。吾輩は口に含んだ結晶片(げんきのかけら)を噛み締め、意識が飛びそうになるのを必死にこらえる。エネルギーの供給と収奪で明滅する視界。見れば他の装置のポケモンたちも苦悶の表情を浮かべていた。

 

――ふぎぎぎぎ! こ、こんな……ところ、で……!

 

 とうとう口内の結晶片(げんきのかけら)が砕け散り、吾輩の意識を繋いでいたエネルギーの供給が消失する。途端に暗くなり始める視界。どうやら根性で耐えるのにも限界があったらしい。

 ……もしもこの場で意識を失ってしまえば吾輩に最早抵抗の余地は残されん。一度生体エネルギーを吸い尽くされれば回復には長い時間を要する。そしてこの装置に捕まっている以上、生体エネルギーが回復することはありえない。そうなれば後は彼らのように死なぬギリギリのところで生体エネルギーを延々と搾られ続けられるだけ。当然のことながらバンダナ少女やお転婆姫()との約束も果たせず、"キノコのほうし"を習得するという吾輩の夢を叶うことはないだろう。

 ああ、そんなこと――

 

――認められるかアアアアア!!

 

 意識が戻る。心が燃える。こんなところで折れてなるものかと、全身全霊で奮起する。

 ……脱出のための手立てが思いついた訳でもない。未だ状況は絶体絶命、秒単位で生体エネルギーは削られ続けている状態だ。遠からぬ内に、今度こそ完全に意識を失うだろう。今のこれは言わば燃え尽きる蝋燭の最後の輝きのようなものだ。

 

 

―――

 

 

 逆境に陥った者には2つの選択肢が与えられる。即ち屈するか、それとも抗うか。

 

 逆境に屈するのは容易い。何せ単に諦めるだけなのだから。自身にはどうすることも出来ぬと投げ出し、全てを受け入れるのはとても「楽」だ。

 逆境に抗うのはとても困難だ。立ち向かえるかどうかすら分からぬ壁に、それでも挑むなどそうそう出来るものはいない。さらに挑んだところで成功するかどうかも定かではないのだ。多くの者がやがて諦めてしまうのも無理はないだろう。

 

 それでも……

 

――!?

 

 それでも、己を信じ抗い続ける者にこそ。

 

――な、何だ!?

 

 運命()はほほ笑むのだ。

 

 

―――

 

 

 吾輩の体から、突如として強烈な光が放たれる。

 次の瞬間、懐より独りでに()()()()()が飛び出した。

 

――こ、これは!

 

 目も眩まんばかりの()()()()を放ちながら中空にて浮かぶそれは、星の血脈(マグマ)を思わせる真紅の「宝石」。お転婆姫より預かった「紅い貴石」であった。

 吾輩の眼前にて「紅い貴石」の輝きがどんどん強まり、最早目も開けられなくなっていく。やがてその輝きは瞼を閉じてなお感じられるまでに至り――そして「紅い貴石」から膨大な星の息吹(自然エネルギー)が放たれた。

 

――うわっぷ

 

 周囲へ満ちる荒々しい無色の力。その濃度は地上などとは比べるべくもなく、「ほうせきの国(地下空洞)」と遜色がないほどであった。吾輩はこれ幸いと溢れる自然エネルギーを吸収し、削られた生体エネルギーを回復させる。

 

 さらに自然エネルギーが齎した影響はこれだけにとどまらなかった。

 

 突如として装置の駆動音が停止し、吾輩からあれほどまでに流れ出ていた生体エネルギーが止まる。見れば装置からバチバチと火花が上がっていた。どうやらエネルギーの過剰供給によりオーバーロードしたようだ。

 

 好機! 

 

 装置が停止したということは、脱出を阻むエネルギー・フィールドもまた停止したということに他ならない。即ち、待ちに待った脱出のチャンスである。この千載一遇の機会を逃す訳にはいかなかった。

 吾輩は一頻りエネルギーを放出し、光の収まった「紅い貴石」を急いで回収すると、勢いを付けて装置から飛び降りる。果たして、予想通り脱出を阻むエネルギー・フィールドが展開されることはなく。吾輩はあっさりと部屋の床に着地することが出来た。

 

 部屋の中はカオスの極みのような状態であった。室内には大量の自然エネルギーが充満しており。その影響か立ち並ぶ装置群が一様に煙を上げ、捕らえられていたポケモンたちが次々と脱出していた。解放されたポケモンたちは、この場に満ちる自然エネルギーを吸収したのだろう、先ほどまでの生きた屍のような状態が嘘のように元気そうな状態であった。

 

 あ!

 

 と、周囲の様子を観察していた吾輩の視界が、中空を大慌ての様子で逃げていくコイルの姿を捉える。

 捕らえたポケモンたちが一斉に解放されたのを見て、慌てて仲間を呼びに行ったのだろう。

 グズグズ留まっていては連中が再びやってくる可能性がある。一刻も早く脱出する必要があるだろう。

 

 なれば、と吾輩は右往左往するポケモンたちに声を掛ける。

 この場に留まっていてはまた捕まってしまう。すぐさま脱出しよう、と。

 幸いにしてポケモンたちも再びあのような目に遭うのはゴメンだ、と賛意を示し、吾輩たちは揃って部屋より駆けだした。

 

 ポケモンたちに聞いたところ、ここはどうやら人間たちが作った地下施設らしい。ならば、目指すべきは上。吾輩らは微かな空気の流れを辿っては、見つけた階段を片っ端から駆け上がり、ただひたすら出口を目指して走り続ける。

 途中、吾輩たちの存在に気が付いたコイルたちの散発的な攻撃はあったものの、数の利は吾輩らにある。一斉攻撃によってコイルたちを蹴散らし、吾輩らは進み続けた。

 

 そうして走り続けること少し、吾輩らは空気の中に潮と草木の匂いが混じっていることに気が付く。どうやら出口が近いようだ。久方振りの自然の香りに勢いづくポケモンたち。

 

 さあ、あともう少しだ。

 

 と、吾輩らが再び駆けだそうとした――その時。

 

――鏡光撃射(ミラーショット)

 

 突如として吾輩らを強烈な閃光が襲った。

 文字通り目が眩むほどの輝きを放つ光線を、吾輩は直感的に飛び退って躱す。瞬間、吾輩のいた地点へと着弾する"はがね"の光線。込められた属性(タイプ)エネルギーが爆発を起こし、衝撃で吾輩を含む数匹のポケモンたちが吹き飛ばされた。

 

 ぐっ……! 大丈夫か、お前たち。

 

 急いで体勢を立て直しながらそう問えば、誰もが直撃を免れたようで戦闘不能(ひんし状態)となったものはいなかった――この攻撃が所詮、挨拶替わりの牽制の一撃であったのもあるだろうが。

 

 ならば良し、と仲間たちの無事を確認した後、吾輩は先の光線を放った下手人……眼前に浮遊する未確認飛行物体(大敵)を見据えた。

 

 

――ビビビビビビビビ!

 

 

ジバババン ジバババン ジバババン

 

 

――ビビビビビビビビ!

 

 

 十数匹の"じしゃく"ポケモンを引き連れ、出口を塞ぐかのように通路へと陣取る未確認飛行ポケモン(コイルの親玉)。馬蹄形の磁石にバチリバチリと火花を散らし、奴は感情の読めぬ無機質な瞳でこちらをねめつける。

 

――親玉のお出まし、という訳か……。

 

 肌を焼くチリチリとしたプレッシャーから、目の前のポケモンの実力が取り巻きども(コイル・レアコイル)とは比較にならんことは分かる。周りのポケモンたちも彼の大敵の実力を感じ取ったか、皆一様に顔を険しくし、奴を警戒しているようであった。

 

 ……目の前には尋常ならざる大敵。されど奴を突破せねば脱出は叶わぬ。

 

――いかにすべきか……

 

 眼前の未確認飛行ポケモンを見据え、その障害を突破すべく頭を回す吾輩。だが、

 

――ギュオオオオ!!

――!? おい、待て! 貴様ら……!

 

 しかし吾輩が何かしらの策を思い付くその前に、すでにポケモンたちが突撃を開始していた。寄り合い所帯ゆえの弱点か、吾輩らはこの地下より脱出するという目的こそ同じだが連携が取れている訳ではない。そもそも同じ群れですらない野生ポケモン集団に、指揮系統なぞある筈もなく。吾輩らはなし崩し的に未確認飛行ポケモン率いる"じしゃく"ポケモンの群れと戦端を開くこととなってしまった。

 

――ええい! こうなっては仕方あるまい!

 

 正直に言えば格上であろう未確認飛行ポケモン相手に無策で突撃なぞたまったものではないが、なってしまったものは仕方ない。吾輩は体内の生体エネルギーを練り上げ戦闘の構えを取ると、混戦状態となった戦場へと突撃するのだった。

 

 

―――

 

 

 どっせい!

 

――吸精突撃(ドレインタックル)

 

 全身に"かくとう"エネルギーを纏って突撃、目の前を浮遊していたコイルを弾き飛ばす。同時に繰り出された"わざ"の効果によって奴の体力(HP)を吸い上げ、吾輩の内へと還元させる。吹き飛んだコイルはひんし状態となったのだろう、そのまま床に落ちて動かなくなる。構成員が戦闘不能となり防御の一角に穴が空いた、が、すぐさま別のコイルたちが現れてその穴を塞ぐ。

 

――ええい埒があかん!

 

 先ほどからこれの繰り返しだ。吾輩らが幾らコイルたちを倒そうとも、連中は抜群の連携で以って穴を埋め、吾輩らの脱出を阻み続けている。同族としての本能的連携能力の賜物か、はたまた少し離れたところで浮いている司令塔(未確認飛行ポケモン)*1の存在ゆえか……ともかくとして吾輩らの攻撃は連中に悉く防がれ、突破の糸口すら掴めておらん状態であった。

 

 ぬう。やはり各々勝手に攻撃している状態では連中には勝てんか……。

 

 幸い、戦場が狭い通路ということも相まって何とか包囲されることだけは防げているものの、このままではジリ貧もいいところである。吾輩らの目的はこの地下施設よりの脱出、連中を殲滅することではない。なので何とか連中の防御を抜けるだけの隙が作れればよいのだが……。

 

 と、そこで吾輩は脱出せんとするポケモンたちの中で、見事な連携を見せている連中が存在していることに気が付く。

 

――ルルルルオオォォォォ!!

――グアウ!

――ギャウ!

――ガオウ!

 

 それは一頭のライボルトを中核とするラクライたちの群れ。元々群れで生活する種族ゆえか、それとも同じ群れに所属していたからかは定かではないが、リーダーであるライボルトの指揮の元、実に淀みの無い動きでコイルたちを打ち払っている。

 

 ライボルト、か。確か前世の知識によればかの種族は自らの頭上に雷雲を作り出す力があるという。……ふむ、一か八か、試してみるか。

 

 ライボルトには雷雲を作り出す――即ち落雷を発生させる能力を持っていることを思い出し、そこでほんの僅かであるが、連中の動きを止められる可能性を思いついた吾輩。ワラワラとこちら群がって来るコイルどもを蹴散らしながら、彼らの元へと向かう。

 

――おおい、そこなライボルトたち! スマンが吾輩に少々協力してくれんか?

 

 吾輩が奮闘するライボルトたちにそう話しかけると、ライボルトたちは唐突に現れた吾輩の存在に怪訝な表情を浮かべる。とはいえ共通の敵を持つ現状、すぐさま攻撃されるということは無く。吾輩の言葉に耳を傾けてくれそうであった。

 そこで吾輩が思いついた策を明かすと、彼らは半信半疑であったが、しかし現状ジリ貧であることに変わりなしとして吾輩の策に乗ってくれることとなった。ありがたい、これで何とかなる可能性が出て来たぞ。

 

 だが、しかし問題もある。吾輩の策を実行する間、彼らはその場から動くことができないのだ。その間、無防備な彼らをコイルたちの攻撃から守る必要があるのだが、その役目を誰が担うというのか。

 ――無論、言い出しっぺの吾輩である。吾輩はこの策に望みを託したのだ。ならばその成就のため全力を振るうのは当然であろう。それに吾輩には「ほうせきの国」の戦いを経て考案したとある"わざ"がある。未だ完成度は十分とは言えぬが、この逃げ場の少ない限られた空間ならば十分威力を発揮できる筈だ。

 

 さあ、そうと決まれば早速行動開始だ。奴らに目に物見せてやる。

 

 

―――

 

 

――ギュオオオオオオン!!

 

 戦場に一際長く雄たけびが響く。それはライボルトによる作戦始動の合図。同時にラクライたちがリーダーの周囲に集い、一斉にその長い体毛をこすり合わせ発電を開始した。

 

――じゅうでん

――じゅうでん

――じゅうでん

 

 バチバチバチバチ!

 

 生み出された電気によって彼らの体から無数の火花が発生し、戦場に激しい音を響かせる。その音を聞きつけたコイルたち。何かしら仕掛けてきていることに気が付いたのか、一斉にラクライたちの元へと接近してくる。

 

 彼らの邪魔はさせん!

 

 と、そんなコイルたちの前に邪魔はさせじと立ちはだかる者があった。一頭身のまん丸ボディ、練色傘のキノコポケモン――即ち吾輩である。この策を成らせるためには何としてもライボルトたちのチャージを成功させる必要がある。故に、連中には指一本たりとも触れさせはせん。

 

 吾輩は全身に力を込めると、頭頂の噴出孔に"くさ"エネルギーを集中させる。使用する"わざ"の型は種子銃(タネシガン)。だが発射の直前、吾輩は形成された()()のエネルギーをオーバーロードさせ、発射した瞬間に炸裂させる。

 炸裂によって散らばった細かい弾丸が銃身(バレル)によって与えられた指向をそのままに、突撃してきたコイルたちへ面状にばら撒かれた。

 

 そう、これこそ「ほうせきの国」での経験より吾輩が考案した対多数用の新技。種子銃(タネシガン)の弾丸を発射直後に炸裂させることで、一発当たりの威力と引き換えにより多くの敵を捉えられるよう改造した新たな攻撃――その名も種子散銃(タネショットガン)である。

 

 狭い通路一杯に広がる"ほうし"の弾丸を勢いよく突撃してきたコイルたちが避けられる筈もなく、次々と弾丸に激突してはその勢いが削がれていく。残念ながら種子散銃(タネショットガン)は"くさ"属性(タイプ)の"わざ"ゆえに与えられるダメージは期待できんが、それでも当てれば動きを鈍らせることは出来る。吾輩は役割は時間稼ぎだ。今は奴らを足止め出来ればそれでよい。

 種子散銃(タネショットガン)を二度、三度とぶっぱなし、連中の動きを抑え込む吾輩。さあ、後はライボルトたちのチャージが完了すれば……!

 

――ギュオウ!

 

 と、その時ライボルトが短く鳴き声を上げた。チャージが完了した合図だ。見ればライボルトたちの頭上には膨大な"でんき"エネルギーを孕んだ黒雲が形成されていた。この距離でもビリビリ痺れるような感覚が伝わって来る。……これならばいけるやも知れぬ。

 視線の先、集った"でんき"エネルギーに危機感を覚えたのか、ようやく未確認飛行ポケモンが動き出した――が、もう遅い。

 

 奴が何か仕掛けようとする前に、すでに吾輩は叫んでいた。

 

――()え!!

――ギュルオオオォォォーーー!!

 

 

――神 鳴(かみなり)

 

 

 瞬間、咆哮と共に放たれる雷霆の一撃。凄まじい光と轟音が通路を満たし、視界の全てが白い輝きに包まれる。やがて荒れ狂う"でんき"エネルギーが収まり、視界が少しづつ回復してくる。目を二度三度しばたたかせれば、果たしてそこにあったのは吾輩の目論見通りの光景であった。

 一面が黒く焼け焦げた通路、かき乱された磁界によって身動きの取れなくなった"じしゃくポケモン"(コイル・レアコイル)たち、そして――"かみなり"の直撃を浴びて墜落した未確認飛行ポケモン(UFO)姿。

 

 よし! やったぞ!

 

 墜落し、身動きが取れない様子のコイルどもを見ながら内心ガッツポーズを取る吾輩。どうやら吾輩の目論見通り、策は成ったようである。

 

 さて、なぜ放たれた"かみなり"によりコヤツらはこうして身動きが取れなくなったのか。それにはコイルというポケモンの生態が関係している。

 前世の記憶によれば、コイルというポケモンは体側に存在するユニットから磁力を発することにより浮遊しているという。これは恐らく自身の発する磁力を惑星の地磁気とを反発させることによって自身の体を浮き上がらせているということなのだろう。そこから吾輩はならば、その磁力をかき乱してやれば奴らは浮遊することが出来なくなるのでは、と予想した。

 そして雷には周囲の磁場をかき乱す性質がある。吾輩はこの性質を利用し、付近の磁場に異常を起こさせることで奴らの動きを一時封じることが出来るのでは、と目論んだのだ。

 正直一か八かの賭けではあったが、見事吾輩の目論見は成功した。奴らはかき乱された磁場の影響で浮遊出来ず、地面を転がるままとなっている。

 

 さあ、もう吾輩たちの邪魔をするものは何もない。磁場の影響が消えコヤツらが再び動き出す前に、とっとと脱出しよう。

 

 突然の光と音、そしてバタバタと堕ちていったコイルたちに驚き右往左往するポケモンたちの尻を蹴り上げ、吾輩はさっさと逃げるように促す。ポケモンたちは脱出する道を阻んでいた存在が消えたことにようやく気が付くと、我先にと出口目掛けて駆けだしていく。吾輩とライボルトたちは念のため、コイルたちが動き出さぬか見張っていたが、逃げるポケモンの最後の一匹の姿が消えたことを確認して、ようやっと吾輩たちも出口を目指して移動することにした。

 

 

―――

 

 

 大敵である未確認飛行ポケモンとコイルたちを封じ、脱出の目途が立ったことで吾輩は内心安堵のため息を吐く。

 

 いやはや、突如として連中に連れ去られた挙句、生体エネルギーを吸い上げられる装置に閉じ込められた時にはどうなることかと思ったが……。今回も何とか無事脱出できそうだ。

 

 と、同時に吾輩は自身の窮地を救ってくれた「紅い貴石」についても考えを巡らせる。

 

 ……此度の窮地、この「紅い貴石」が無ければ本当に詰んでいた。これがエネルギーを吐き出し、かの装置をオーバーロードさせていなければ吾輩の旅はあのまま終わっていたであろう。偶然とはいえ、これを託してくれたお転婆姫には感謝せねばなるまいて。……しかし、

 

 吾輩は思う。何故この石は突然自然エネルギーを吐き出し始めたのか、と。

 

 お転婆姫よりこの「貴石」を授かった時、確かにその中に膨大なエネルギーが秘められていることを感じ取った。だがしかし、感じ取れたのは吾輩が「貴石」に触れてからだ。ただ見ているだけの状態ではこの石にそんなエネルギーが存在することなど一切に感知できなかった。つまりそれだけ強固に力が封じられていたということなのだが……。

 

 吾輩は懐に仕舞った「紅い貴石」に意識を向ける。「貴石」は先のエネルギー放出以降、再び静まってはいるものの、時折脈打つように僅かであるがエネルギーを外部に放出している。

 まるでアイドリングしているかのように。

 

 ……恐らくであるが"何か"が切っ掛けとなって、この「貴石」は今"励起"している状態なのだろう。その"何か"というのは……ふむ、そういえばお転婆姫はこの「貴石」は先代女王が『人間たちの祈り(生体エネルギー)を素に作り出した』もの、と言っていたな。「貴石」がエネルギーを放出する直前、吾輩は"こんなところで諦めてなるものか"と必死に抗っていた。まさか、その意志に反応したというのか……?

 

 意志に反応して励起する「貴石(いし)」。何だか駄洒落のようになってしまったが、その可能性は高いようにも思える。とは言え、吾輩は石の専門家などではない一介のポケモン。予想は立てられても実際のところはどうなのかは分からん。取り敢えず、これはお転婆姫からのお守り代わりということで納得しておく。それよりも今は脱出することが先決だ。

 

 と、吾輩は思考に没頭していた意識を呼び戻し、駆けることに集中する。供に走っていた筈のライボルトたちの姿が遠い。どうやら吾輩の鈍足の所為でおいて行かれたようである。若干ひどいような気もするが、まあ、対して親しくもない野生ポケモン同士の関係などこの程度のものだろう。別に怒るようなことでもない。

 そんな益体もないことを覚えつつ、吾輩は速度を上げようと強く踏み込んで――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――鋼 煌 加 砲(ラスターカノン)

 

 

 

 

 

 瞬間、背後に莫大な"はがね"エネルギーを感じ振り向く。視界に映ったのは、磁場異常から回復し浮遊する未確認飛行ポケモンと――奴から放たれた鋼色に輝くエネルギーの弾丸。

 

 やられた――!

 

 思考に没頭し、警戒が緩んでいた隙を突かれた。だから奴の攻撃に気付けなかった。この距離ではすでに飛び退いて避けることも出来ない。

 

 ――ならば!

 

 鋼煌加砲(ラスターカノン)が直撃するその直前、吾輩は刹那の間に思考を巡らせ、瞬時に全身へ"かくとう"エネルギーを纏う。瞬間、直撃する"はがね"の大砲。吾輩は今にも炸裂せんとするそれを受け止め、全力で軌道を逸らす。

 刹那、大砲は吾輩の後方、斜め上の天井へとぶつかって炸裂。先の"かみなり"で脆くなっていた天井を崩落させた。

 

――ハア、ハア……。何とか直撃することは避けられたが……。

 

 横目で背後の様子を伺う吾輩。そこには崩落した瓦礫によって完全に埋められた通路があった。

 

――閉じ込められた……、という訳か。

 

 出口までの道を封じられ、思わず歯噛みする。これで吾輩は袋のラッタ(ねずみ)という訳だ。

 

 ビビビ ルルルル ジバババン ジバババン ジバババン

 

 眼前には不気味な電子音を響かせながら、浮遊滞空する未確認飛行ポケモンとその取り巻きたち。一方、逃げ遅れた吾輩は地下に一匹取り残されて出口も塞がれた状態。

 まさしく窮地。絶体絶命のこの状況に――しかし吾輩が諦めることはない。

 

 何、いままでも散々窮地に陥って来たのだ。いまさら、こんな程度の窮地で諦観など抱かん。正直、地下世界でかの"おむかえポケモン"の系譜と死合っている時の方がよほど危うかった。

 アレと比べれば目の前の敵など数段は劣る。かつての吾輩は――お転婆姫の協力があったとはいえ――曲がりなりにも"あれ"と立ち会えたのだ。ならば先より成長した吾輩ならば、この程度の相手やってやれないことはないだろう。それにあの時とは違い、吾輩の目的はこの施設からの脱出である。別に連中を悉く戦闘不能にする必要はない、ならば幾らでもやりようはある筈だ。

 

 狂った磁場の影響を脱し、次々と浮遊していく"じしゃく"ポケモンたち。再び立ちはだかった"はがね"の壁を前にして、しかし吾輩に一切の怯みはなく。如何にしてこの場を潜り抜けんか、と全力で思考を回す。

 

 UFOがユニットを閃かせ、吾輩は全身に力を込める。

 

 ――さあ、脱出劇(ポケモンバトル)の開幕だ。

 

 

―――

 

 

 さて、出口付近にて"じしゃく"ポケモンの群れと対峙した吾輩であったが、まず行ったのは連中からの全力の逃走であった。流石にあの袋小路で連中とやり合うのは分が悪すぎる。それに背後の出口が塞がれた以上、新しく脱出路を探す必要もあった。

 そこで使ったのが胞子結界(マッシュルーム)だ。大量の胞子を散布し、奴らの視界を奪うことで、何とか包囲を抜け出ることに成功したのである。

 

 そして吾輩は現在、新たな出口を探して施設内を走り回っているのであるが……

 

――磁鉄炸弾(マグネットボム)

――電撃波(でんげきは)

 

 逃走する吾輩に、背後から"必中"の属性を帯びた攻撃が迫る。

 

――そうなんども当たって堪るか!

――種子散銃(タネショットガン)

 

 接近する属性(タイプ)エネルギーの塊を察知した吾輩は"くさ"エネルギーの弾丸をばら撒いて迎撃、"わざ"の構成をかき乱して誘爆させる。面状に展開された弾丸に打ち抜かれ、必中技は中空にて爆発四散。吾輩に届く前にそのエネルギーをばら撒いて消滅する。

 これで厄介な必中技は処理できた……しかし、

 

――電磁砲(でんじほう)

 

 四散したエネルギーをぶち抜いて、高密度の"でんき"の砲弾が射出される。慌てて横っ飛びに飛び退ると、電磁砲(でんじほう)はそのまま壁面へと着弾。通路の壁を崩して吾輩の行く手を塞ぐ。

 

――ちぃっ!

 

 行く手を塞がれた吾輩は舌打ちを一つ。周囲を見渡し、横手にあった下り階段を降りて行く。

 

――これは誘導されているな……。

 

 先ほどからこれだ。連中、吾輩を遮二無二に捕らえようとするのではなく、通路を破壊して地下へ地下へと誘導しようとしている。恐らく吾輩を地上に出さんがためであろう。ここは奴らのホームグランド、地の利は奴らにある。吾輩は脱出が遠のくことを自覚しつつも、奴らの誘導に乗って地下へと逃げる他なかった。

 

――ええい、こんな状態ではいつまでたっても脱出なぞ出来んぞ!

 

 このままではいずれ逃げ場のない空間に追い詰められてのなぶり殺しだ。どうにかして奴らの追跡を逃れなくては。しかし、一体どうすれば……。

 と、そこまで考えたところで吾輩は一時思考を中断する。連中が再び必中技を放ってきたからだ。

 

――クソが! ゆっくり考えることも出来ん!

 

 迫る攻撃を種子散銃(タネショットガン)で迎撃しつつ、吾輩は己が逃走を的確に妨害してくる"じしゃく"ポケモンたちに思わず悪態を吐く。

 

 ああ、もう全くもって憎らしいくらいの連携だ。狭い中空をぶつかることなくスイスイと飛び回り、一矢乱れぬ動きでこちらを攻撃してくる。あんな磁石をぶら下げてよく互いに引っ付かない、もの……だ。

 

――?

 

 ふと、吾輩の脳内に疑問が浮かぶ。そうだ、連中は全身から磁力を発し浮遊しておる筈。だというのに、連中同士が反発し合ったり逆に引っ付き合ったりする様子はない。それどころか、周りの鉄製品すら引き寄せる気配すらない。一体何故だ?

 

 思い浮かんだ疑問を流すことなく、思考を研ぎ澄ませ深堀していく。

 

 ――予想としては、連中が発する磁力を体内で操作している、といったところか。しかし、あれほど磁力が乱れ飛ぶ中で他の仲間と一切反発も引き寄せも起こさずに浮遊するとは、どれほど繊細なコントロールを行っているのだろうか。

 

 この時、吾輩は半ば直感していた。吾輩が今抱く疑問の先に現状を突破する鍵がある、と。

 

 ならばもし、奴らの磁力コントロールを乱すことが出来れば――

 

 その時、吾輩の脳裏に天啓が走る。

 連中を一網打尽とする策が、瞬きの内に頭の中へ描き出されていく。

 

 吾輩の予想が正しければ、これで奴らの動きを封じることが出来る筈。勿論失敗する可能性はあるが、現状他に打つ手はないのだ。ならばこれに賭けてみるのも悪くはなかろう。

 そうと決まれば、と吾輩は進路を変更する。今までの上へと向かう道から、()()()()()()()へ。

 自身らの誘導が効いたと思ったのか、連中は吾輩が進路を下へと変更したことに気が付く素振りもなく。散発的に攻撃を仕掛けては、吾輩の後を追うばかり。

 

――いいだろう、貴様らの誘導に乗ってやる。ただし、誘い込まれているのは吾輩ではなく――貴様らの方だがな。

 

 内心でそう呟きつつ、吾輩は人工の通路をひた走る。目指すべき()()()()へ向かって。

 

 

―――

 

 

――ここだ。

 

 奴らに捕まらぬよう走って走って走り続け、とうとう吾輩は目的の場所へとたどり着いた。見覚えのあるそこは、他ならぬつい先ほどまで吾輩らが閉じ込められていた場所。生体エネルギーを吸収する機械が立ち並んでいたあの部屋だ。

 半開きの扉をすり抜けて中に入れば、「紅い貴石」から放出された濃密な自然エネルギーが体を包む。良かった、これで自然エネルギー濃度が下がっていたら、吾輩の策は全てパーになるところであった。しかし、この場にはしっかりと膨大な自然エネルギーが残されている。ならば吾輩の策もこれにて成る筈である。

 

――電磁砲(でんじほう)

 

 と、その時すさまじい轟音と共に部屋の扉が吹き飛ぶ。

 

――ビビビビビビ ビビビビビビ

――ジバババン ジバババン ジバババン

――ルルル ルルルル ルル

 

 吹き飛んだ扉から不気味な電子音を響かせ、手下を引き連れて未確認飛行ポケモンが侵入してくる。未確認飛行ポケモンは出口を塞ぐように陣取り、手下どもに吾輩を取り囲ませる。

 

 ――連中、吾輩のことを追い詰めたと思っているのであろうな。

 

 なるほど確かに、この部屋は袋小路だ。出入り口はたった1つで、そこを塞がれれば逃げ場はない。そしてすでに連中は吾輩を逃さぬよう出入り口に陣取っている。客観的に見れば吾輩は追い詰められた状態。連中が自らの勝利を確信するのも無理はない。

 眼前にて未確認飛行ポケモンがユニットを閃かせ、膨大な"でんき"エネルギーを収束させている。どうやらその一撃を以ってトドメとするつもりらしい。周囲の"じしゃく"ポケモン(コイル・レアコイル)たちもまた、各々"でんき"、"はがね"のエネルギーを収束させ攻撃体勢を取る。

 

――ジバババババ!

 

 そして、まさに奴が収束させた"でんき"エネルギーを解放せんとした――その時。

 

――!?

 

 ガン! という鋼同士がぶつかり合う音と共に奴の体が揺さぶられる。

 奴が慌てたように視線を遣れば、そこには自身の体に激突した手下のコイルの姿。突然の手下の衝突に、何が起きたのかと動揺したような様子を見せる未確認飛行ポケモン。だが、ことはそれだけでは終わらない。たて続けにガン! ガン! と響く金属音。空中を浮遊していた"じしゃく"ポケモン(コイル・レアコイル)たちが次々と衝突しているのだ。

 瞬く間に部屋中の"じしゃく"ポケモンたちが未確認飛行ポケモンへと引き寄せられ、部屋の中に巨大なコイルの塊が出現する。さらにさらに、塊から発せられる強力な磁力に吸い寄せられ、部屋に据え付けられていた機械群が次々と塊の一部となっていく。そうして出来上がったのはコイルたちと鉄製品が一塊になった金属団子。連中は自身の発する磁力と吸い寄せた金属の重量によって全く身動きが取れなくなってしまっていた。

 

――ふう……、何とかうまくいったか。

 

 連中の動きが完全に封じられたのを確認し、吾輩はホッと息を撫で下ろす。どうやら吾輩の立てた策はうまくいったようであった。

 

 さて、何故先ほどまで自由に動き回っていた奴らがこのような状態となったのか……それはこの部屋に満ちる自然エネルギーが原因である。自然エネルギーはその名の通り自然界に普遍的に存在するエネルギーで、人間やポケモンはこの自然エネルギーを吸収して自らの生体エネルギーへと変換している。即ち自然エネルギーはこの世界の生命体にとって生存に不可欠な物なのである。

 そしてこの自然エネルギー、高濃度になると同空間内に存在する生物の身体機能を活性化させる性質がある。体内に吸収する自然エネルギーの量が増加することで生体エネルギー量が上昇することが要因だ。これ自体は生物にとって害となるものではない。しかし、現在地上で暮らしているポケモンは地上の自然エネルギー濃度に合わせて感覚が調整されている。では、そんな生き物がいきなり高濃度の自然エネルギー空間に入り込めばどうなるのか――端的に言えば活性化した身体能力に感覚が追い付かず、能力が制御できなくなるのである。

 これが吾輩のような植物型のポケモンや獣型のポケモンならば、多少ふら付く程度の影響しかないが、連中のような能力の微細なコントロールが必要なポケモンたちにとっては致命的といってよい影響が出る。

 その結果が目の前の金属団子だ。連中は活性化した自身の磁力を制御出来ず、こうして互いに引き寄せ合い身動きが取れなくなったという訳である。

 

――とはいえ永遠にこのまま、という訳でもあるまい。

 

 自然エネルギーによる能力暴走は、身体が環境に慣れないことによる一時的なもの。高濃度環境に慣れれば、いずれ能力の制御も効くようになる。吾輩らポケモンの環境適応能力は高い。この金属団子状態はそうそう長く続かんだろう。

 故、吾輩はこの間にとっとと脱出する必要があるのだが……。

 

――む?

 

 と、そこでふと吾輩はかすかな空気の流れを感じ取る。

 

――どこからか空気が流れ込んでいるのか?

 

 もしかすれば脱出の糸口になるやもしれぬ、と空気の出処を探す吾輩。しばらく探した後、突き止めた空気の出処は衝撃で外れた空気供給管。近づいてみると、パイプを伝って地上から空気が流れ込んでいるようであった。

 

――ふむ。

 

 パイプの太さは吾輩の胴体と同程度。這い進めばどうにか通り抜けられそうだ。

 

――……よし、ここから脱出を図るとしよう。

 

 しばらく考えた後、吾輩はこの空気供給管を伝って脱出を試みることを決めた。何せ先の出口は連中によって潰されておる。これから出口を探そうにも、この広大な地下施設から他の道を見つけ出すのは手間がかかる。何より迷って時間を消耗した結果、回復した"じしゃく"ポケモンたちに再び追い回される危険性があった。

 ならば多少のリスクは覚悟の上で、恐らく地上へと繋がるこのパイプを這い進む方が脱出の可能性が高いと見込んだのだ。

 

 そうと決まれば、と、吾輩は出来るだけ体を縮め、暗く狭いパイプの中に入って行くのであった。

 

 そうして微かな空気の流れを頼りにせまっ苦しいパイプの中を這い進むことしばらく。吾輩が、何だか自身が"いもむし"ポケモンとなったように感じ始めた頃、ふと行く先に光が漏れているのを見た。

 

――おお、光だ……!

 

 吾輩が大急ぎで這い進めば、そこは頭上より光が降り注ぐ垂直のパイプーーまさしく、吾輩が求めてやまなかった出口に他ならなかった。

 

――やった! 出口だ!

 

 ようやっとたどり着いた出口だ。遥か頭上の光を目指し、上へ上へとよじ登っていく吾輩。そうして登り続けることしばらく、とうとう外まで体一つ分を残すのみとなる。

 

――ああ、ようやく出られる。

 

 久方ぶりの日の光に目を細め、鼻腔をくすぐる土と草の香りに頬を緩ませる。人工的で陰鬱な地下施設の空気とは違い、どこまでも爽やかな地上の空気は吾輩が自由の身となることをことさらに実感させた。

 

 さあ、こんなところからはとっととおさらばして、旅を再開しよう。

 

 目の前まで迫った希望の瞬間に胸を躍らせつつ、吾輩はパイプより這い出ようとして――

 

――……ん?

 

 丁度、体半分ほどパイプより這い出した時、気が付いた。

 

 

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………抜けん。

 

 

 体が、抜けない。

 どうやらこの空気供給管、先端部分が中より少し狭くなっているらしく、吾輩の体はそこで詰まってしまったのだ。

 

――ふうんぬぬぬぬぬ……!!

 

 どうにか脱出できんものかと吾輩は全身に力を込めて必死にもがく。脱出まであと体半分なのだ。こんな間抜けな理由で脱出失敗などゴメンである。――が、そうやってジタバタしたことがアダとなった。

 

――……あ゛!

 

 脱出しようとパイプの壁面を強く蹴り上げたところ、衝撃で吾輩の体が僅かに前進。結果、パイプの狭くなった部分へ胴体が完全にはまり込んでしまう。おまけにより深くハマった結果、足が完全に宙ぶらりんとなり、脱出のため踏ん張ることすら出来なくなってしまった。吾輩は全力で体を捩ってパイプから抜け出そうとするも、パイプにすっぽりハマった体は全く進むことはなく。

 

――だ……!

 

 八方塞がりの状態に、吾輩は思わず叫ぶ。

 

――誰か、助けてくれえええ~~~~~~~!!

 

 助けを呼ぶ声が、地下施設(ニューキンセツ)の空に虚しく響いた。

 

 

―――

 

 

 パイプに詰まったアホなキノコが助けを求めていたころ、ニューキンセツ・地下シークレットラボでは……

 

――ジババババババ!

 

 沈黙状態だった金属団子より、突如として大音量の電子音が鳴り響く。同時に金属団子が大放電。四方八方に電撃をまき散らしながら、凄まじい輝きを放つ。

 そして次の瞬間、張り付いたコイルを勢いよく引っぺがし、中から"じばポケモン"ジバコイルが姿を現した。

 

 彼の行ったことは至極単純、己が肉体に大電流を流すことで周囲の磁界を捻じ曲げ、張り付いたコイルたちからの磁力を打ち消したのである。とはいえ、大電流を体に直接流すことは相当無茶だったのか、宙を浮かぶ彼の体はあちこちが焼け焦げ、浮遊もまた若干ふらついたものとなっていた。

 しかしダメージを負ったとはいえ、その意識は健在。活動に支障はない。彼は高濃度自然エネルギー環境に適応し、再び自由となったコイルたちにキノココを捜索するよう指示を飛ばす。

 指示に従い、若干ふら付きながら散開するコイルたち。そしてすぐさまジバコイルの元へと報告が齎された。曰く、空気供給管の一部が破損しており、内部に僅かながら生体エネルギーの残滓を確認した、と。

 報告を受けたジバコイルは瞬時に逃げたキノココはそのパイプより地上へ向かった可能性が高いと判断。追撃をコイルたちに指示しようとして――

 

――……!

 

 ()()を認識した。

 

 

―――

 

 

 さて、唐突だがここで(ムゲンダイ)エナジーについて語ろう。

 (ムゲンダイ)エナジーとはデボン・コーポレーションによって開発された新型のエネルギーである。このエネルギーはメガシンカの際に発生する超大なエネルギーを人工的に再現したもので、ポケモンの生体エネルギーと人間の生体エネルギーをかけ合わせることで僅かな量のエネルギーから莫大な出力を得ることができる。その効率はたったポケモン数十体程度の生体エネルギーで大型ロケットを第二宇宙速度まで加速可能なほどだ。

 桁外れのエネルギー効率を叩き出す(ムゲンダイ)エナジーはまさしく夢のエネルギー資源であり、デボン・コーポレーションをホウエン最大の企業まで押し上げた最大の原動力であった。

 それで、だ。先も言った通り、(ムゲンダイ)エナジーはメガシンカ現象を人工的に再現したもの――つまり、発生のプロセスもまたメガシンカと同様だ。そしてメガシンカのプロセスとは人間とポケモンの生体エネルギーが特殊な石を媒介として掛け合わされることによって発現する、というものである。

 

 そこで考えてみよう。

 

 この場には生体エネルギー収集装置――吸収盤(アブソーバ)によって蓄えられたポケモンたちの生体エネルギーが存在する。

 

――第一条件:ポケモンの生体エネルギーの存在、クリア

 

 そしてこの吸収盤(アブソーバ)には主人公であるキノココも捕らえられ、生体エネルギーの収奪を受けた。……キノココは前世の影響か、その生体エネルギーは人間のものである。

 

――第二条件:人間の生体エネルギーの存在、クリア

 

 この部屋内には「紅い貴石」――人間の祈りから作り出された特殊な石から放たれたエネルギーに満ちている。

 

――第三条件:媒介となる特殊な石の存在、クリア

 

 最後に、先程ジバコイルの放った放電によって収集した生体エネルギーを貯蔵するタンクが破損、流出したエネルギーが混ざり合った。

 

――第四条件:エネルギー同士の掛け合わせ、クリア

 

 つまり、ここには今(ムゲンダイ)エナジー発生に必要な条件が全て揃っているということで、それが示すことは即ち――

 

 

―――

 

 

 ジバコイルの視線の先、そこにあったのは目も眩まんばかりに輝く虹色の光球。その正体は生成が開始された(ムゲンダイ)エナジーの繭だ。繭の内部では(ムゲンダイ)エナジーが恐ろしい速度で生成・蓄積され続けており、いずれ許容量を超えればその内包されたエネルギーを一挙に周囲へと放出するだろう。

 ポケモン数十体分程度の量で大型ロケットを惑星重力圏から脱出させるほどの出力だ。逃げ場のない地下空間でそんなものが無差別に放出されたらどうなるのかは……考えるまでもない。

 ジバコイルたちの本能が最大級の警鐘を鳴らす。

 

――今すぐ逃げろ、さもなければ死ぬ。

 

 野生ポケモンである彼らがその警鐘に逆らう筈もなく。生存本能に命ぜられるまま、ジバコイルたちは全速力でその場から逃げ出した。

 

 そして次の瞬間、光の繭が一際大きく膨れ上がり……大爆発が起こった。

 

 発生したエネルギーの波は部屋内に残っていた機械の残骸を跡形もなく消し飛ばし、さらに同フロアーに存在したあらゆる物体を根こそぎ粉砕する。

 影響はそれだけにとどまらず地下施設(ニューキンセツ)の半分が何かしらの被害を受け、脆くなっていた一部では建築構造そのものの崩壊すら引き起こし、ついでに爆発で発生した衝撃は地表付近に地震を発生させ、特に近傍のキンセツシティでは街全体が大きく揺れる騒動となる。

 

 そして発生した爆風の一部は、外れた空気供給管を通って上へ上へと駆けあがり――

 

 

―――

 

 

 パイプに詰まって身動きが取れず、にっちもさっちもいかなくなった吾輩。取り敢えず助けを求め大声で叫んでみたが、聞くものは誰もいない。しかたがないので、反動で抜けんものかと無駄に天空へ向かって種子銃(タネシガン)を放っていたところ……

 

 

 ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 

 

――!? な、ななな何だ!?

 

 突如、轟音と共に凄まじい振動が吾輩を襲った。建物を揺らすとんでもない振動に地震めいた感覚を覚える吾輩。振動はさらに激しさを増し、吾輩が何だか嫌な予感を抱いた……その時。

 

――? 何だか尻が妙に熱いよう、な……

 

 

 

 

 

 

 

ドカーーーーーーーーン!!

 

 大 爆 発。

 まるで尻が爆発したような衝撃と共にパイプが破裂。吾輩は遥か上空へ向け、天高く撃ち出されることとなった。

 

――ぬわーーーー!!

 

 信じられない速度でぐんぐんと上昇する吾輩の体。あっという間に木々の高さを超え、大きな建物すら超えて、雲に届きそうな勢いで空へと駆け上っていく。

 

『――ひゅあ!?』

――ぶべらっ!?

 

 だがしかし、吾輩の上昇は雲へ届くことなく停止する。空中にて()()()()()()と衝突したからだ。正体不明の固い何かに勢いよく頭をぶつけ、意識が遠のく吾輩。

 

――ああ、そらがきれいだなあ。

 

 意識を喪失する刹那、視界一杯に広がった空はとても澄んでいて――美しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『び、びっくりした……。まさか空にキノコが撃ち上がってくるなんて……。思わず"リフレクター"貼っちゃった……』

 

『って、大変! このままじゃ地面にぶつかっちゃう! ストップ! ストーーーップ!』

 


爆発オチなんてサイテー!!

 

・キノココ

 コイルに攫われ何とか脱出……したと思ったらまさかの爆発オチ。天高く撃ち上げられて、空中にて"リフレクター"と激突。再び気絶する羽目に。

 

・見えない何か

 キノココが空中で激突した"リフレクター"を貼った、姿の見えない何者か。墜落しそうになったキノココを慌てて救助し、爆発やら何やらでボロボロの彼を治療する。

 その正体はみんな大好きあの子。そして当作のヒロイン(予定)である。

 

・ジバコイルwithじしゃくポケモン's

 爆発の直前、虚空に出現した()()()()()に飛び込み生き延びることに成功。が、リングが閉じてしまったためニューキンセツに帰ることが出来ず。仕方なく迷い込んだ先の大都市にて新生活を始めた。

 

吸収盤(アブソーバ)

 (ムゲンダイ)エナジー生成のため、デボン・コーポレーションが開発したポケモンの生体エネルギーを吸い取る装置。その起源は三千年、カロスの王が作り上げた【最終兵器】の動力源とされる。

 なお、シークレットラボに設置にされていた吸収盤(アブソーバ)はかつてダイキンセツホールディングスによって盗み出された設計図を元に作られた海賊版。本家デボン・コーポレーションの吸収盤(アブソーバ)は改良が進んでおり、ポケモンへの負担も大分軽減されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します、リーダー・マツブサ。至急、ご報告が」

「何だ」

「110番道路にて大規模な自然エネルギーの反応を感知しました。明らかに地上ではあり得ない量です。さらに解析班によれば、放出されたエネルギーに"ほのお"と"じめん"の属性(タイプ)エネルギーパターンを観測したとのこと」

「――何だと?」

「さらに現在、量こそ少ないですがキンセツシティ内部でも同様の反応が確認されています。――いかがいたしましょう」

「…………すぐに調査員を派遣しろ。発生した原因を探るのだ」

「了解しました」

 

*1
奴の大きさではこの狭い通路内で動きが相当に制限される。恐らくそれを見越して指示に徹しているのだろう

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