前話に入らなかったおまけ的な話。
注意!
当作品には独自展開、独自解釈、設定捏造、キャラ崩壊が多分に含まれています。
上記の要素が苦手な方はご注意ください。
2022/8/4 追記
当話の中で新作「スカーレット・バイオレット」で登場するキャラクターと同名のキャラクターが出てきておりますが偶然の一致であり、新作との関係は特にありません。
2023/10/1 追記
「スカーレット・バイオレット」登場キャラクターとの名前被りがどうしても気になったため、当該人物の名前を変更しました。
――カツン、カツン。
ニューキンセツ下層、シークレットラボ。爆発の衝撃で全ての機器が吹き飛んだその場所に足音が響く。
辛うじて生き残った照明に照らされて、薄暗い室内に浮かび上がったのは、この場に似つかわしくない上等なスーツを身に纏った男の姿。
男の名はシズク。ホウエン屈指の大企業・
「……」
相当な金額を掛けて作り上げた施設が完全に崩壊したこの惨状、しかしそれを眺める彼の目に落胆・怒りといった負の色はなく。むしろ、興味深げですらあった。
「――いやあ、こりゃ酷い」
と、研究室に飄々とした声が響く。
同時に鳴る新しい足音。部屋に新たな人物が入って来る。
「あんなにあった機械が一つも残ってないじゃないですか。これじゃあ、再建は厳しそうですなー」
まるで他人事のようなとぼけた口調でそう語る声。シズクはその声の主――自身の呼び出した人物へとゆっくりと振り返った。
「――ラジアさん」
「はいはい、ラジアさんですよっと」
視線の先、立っていたのはマグマ団の衣装に身を包んだ女性。
彼女の名は"ラジア"。マグマ団に潜入しているアクア団の
「潜入任務ご苦労様でした。貴女の持ち帰った情報――『地脈世界』、『紅い貴石』、そして『いんせき』の情報は実に有意義で、
「お褒めに預かり恐悦至極、と。ま、ラジアさんに掛かればこれくらいお茶の子さいさいですよ」
「それは重畳。では、私の依頼も期待してよろしいのでしょうね」
というシズクの言葉に、勿論と返すラジア。彼女は懐から一冊のファイルを取り出し、シズクへと手渡す。
「こちらお求めの品――デボン・コーポレーションの最高機密、
「――ありがとうございます。…………………………ふむ」
ファイルを受け取ったシズクはパラパラとページを捲り、その内容を確認する。
「やはり
一通り目を通した後、シズクはパタリ、とファイルを閉じた。
「――ええ、とても素晴らしい情報でした。これで
「ははーありがたき幸せー。……とはいえ、相手は天下のデボン。いくら優秀なラジアさんとはいえど、最高機密の奪取はそう簡単にとはいきませんでした……なので、ねえ?」
「ええ、分かっています。報酬には色を付けておきますよ。――こちらを」
そう言ってシズクが取り出したのは小型のメモリ。
「我が社で開発中の新型ドリルの設計図です。マグマ団にはこちらをお渡しください」
「いやー、いつもありがとうございます。これで諜報活動もますますやりやすくなるというもの。幹部サマ様々ですなー」
ニンマリと笑みを浮かべ、メモリを受け取るラジア。
これでマグマ団内での信用が上がり、諜報活動がやりやすくなるとご満悦だった。
「――ええ、喜んでいただけたようでなによりです」
そう言うシズクが浮かべる表情も、また満足気であった。
情報を交換し、当初の予定を終えた二人。
そこで、ふとラジアが機器の吹き飛ばされ、伽藍洞となったシークレットラボを見ながら「それにしても」と声を出す。
「せっかくデボンにバレないように手間とお金を掛けて、こんな辺鄙なところに
「問題ありませんよ。既に予備も含めた生体エネルギーの収集は終わっています。近い内にこの施設は破棄する予定でしたので、むしろ手間が省けたくらいです。――それとそのジョーク、笑えないですね。考えた人間のセンスを疑います」
「ええ~。このジョーク、
と、ラジアはどこかおちょくるような口調でそう返す。
「組織としての上下関係と個人のセンスは別です。少なくとも、私はそのような幼稚なジョークを面白いとは思えません」
「あっはっは、言いなさる! ――あなたが『組織としての上下関係』だなんて、そっちの方が笑えないジョークでしょうに」
「――ほう」
空気が変わる。先ほどまでの友好的なものから、ひりついた剣呑なものへと。
「だってそうでしょ?
ラジアは言う、此処にあった物はポケモンたちを食い物にする文明の象徴だと。
「そんな機械を大量に並べて、あまつさえポケモンたちの苦痛もお構いなしに生体エネルギーの収奪する……。それってさ、「ポケモンたちの理想郷を築く」っていう
非難するに、糾弾するように、しかし最後は茶化すようにラジアは
「……ク、クク」
そんな彼女に対して、シズクが返したのは――失笑。
堪え切れなかったかのように、シズクは笑いを漏らしていた。
「アレ? 笑えるようなことを言ったつもりじゃ無かったんですけど?」
「ククク、ク……いえ、失敬。まさか貴女の口からそのような言葉が飛び出るとは思わず」
こちらの方がよほど笑えるジョークでしたよ、というシズクに、ラジアはわざとらしく笑みを浮かべ
「え~、ラジアさんはアクア団の忠実な団員ですよ。幹部サマが団の理念にそぐわないことをしているのを見たら、そりゃ一言くらい言いたくなりますって」
「クク……"アクア団の忠実な団員"、ねえ。幹部の前でおくびも無く
――『流星の民』
「!!!!」
瞬間、ラジアの顔が驚愕に染まる。シズクの口から出た一言、それは誰にも明かしていない筈の彼女の秘密。
咄嗟に彼女の手が腰元のモンスターボールへと伸び――
「おおっと、そう物騒なのは勘弁願いたい」
「――!?」
その言葉と共に、ラジアの全身に細長い触手がからみつき、地面へと押し倒される。腰元をまさぐられ、隠し持っていた
ラジアが横目で確認すれば、そこには水色の体に赤い球を着けた大きな海月――"くらげポケモン"・ドククラゲの姿。どうやらシズクがあらかじめ部屋内に潜ませていたらしい。
(やられた――!)
拘束され身動きが取れない状況に、ラジアは思わず歯噛みする。
自身の正体がバレているなどとは微塵も思っていなかった故に油断した――その結果がコレだった。生殺与奪を握られた状況に、彼女は険しい顔で目の前の男を睨む。
「申し訳ありませんが拘束させていただきますよ。私は自らを害そうとした相手に丸腰で臨むほど勇敢ではないので」
「よく……言うよ……この、変態! か弱い女の子を……ッ! こんな、風に……縛っておいて……さ!」
いけしゃあしゃあとそう述べるシズクに、悔し紛れで変態呼ばわりするラジア。
なるほど、確かに傍目に見れば見目麗しい女性が長い触手で拘束されるという、一部の
が、当のシズクは表情を変えることなく、
「生憎ですがそういった趣味はありません。これはあくまでも"話"をするためのもの、大人しくして貰えればこれ以上危害は加えません。……それと凄腕の
「ッ!!」
"凄腕のドラゴン使い"。この言葉が出るということは
「何で――!」
「そのことを知っているのか、ですか。――企業秘密とだけ答えておきましょう」
何故なのかとというラジアの問いに企業秘密だと答えるシズク。分かり切っていたことだが、素直に話す気はないらしい。
(使うか――?)
追い込まれた状況ではあるが彼女には一応、まだ打てる手は残っていた。不意を打てば拘束を振り解くことも可能だろう。だが、あれは本当に奥の手だ。使えば彼女はタダでは済まない。それにわざわざ拘束したことを考えれば、現状でシズクが彼女を殺害するという可能性は低いだろう。
ならば、と。ラジアは体から力を抜き、抵抗の意思を引っ込める。
「ハア……分かったよ、降参だ。私はあなたに危害を加えない……だからこの拘束を解いてよ」
「大変結構。最も、話が終わるまでは手持ちは預からせていただきますが」
シズクが合図を送れば、ドククラゲはシュルリとラジアを拘束していた触手を解く。それでもドククラゲが側を離れることはない。これでは隙をついてポケモンを取り返すことも難しいだろう。
そんなことを考えつつ、ラジアは拘束されていた部分を擦りながら立ち上がり、シズクを睨むように見る。
「――それで、何なのさ"話"って」
「なに、ちょっとした確認と提案です」
シズクは言う。
「貴女の目的は『超古代ポケモン』の復活だ。貴女が
「……まあ、そうだよ」
実際には、彼女の目的はその
「結構。そして私の目的もまた『超古代ポケモン』の復活――つまり、我々の目的は一致しています。ならば、協力できるのではないでしょうか」
彼がラジアに提案したこと、それは自分と協力関係を結ばないか、というのもの。
「申し出を受けてくれるのならば、貴女の活動に必要な資金・品・人……全て私が用立てましょう。代わりに貴女は活動で得た情報を全て『私』に流してくれればいい。――簡単なことでしょう?」
如何でしょう、と問うシズク。
そんなシズクにラジアは思う。
(分かりやすいくらいの釘差しだなあ……)
そう、彼女は既にアクア団の一員として諜報活動を行っている。当然、得られた情報はアクア団へと流している訳で、幹部である筈のシズクがその情報を得られない筈がない。それにも関わらずこうして協力関係を結ぼうなどと言って来るということは、即ち"アクア団"ではなく"
それが示すことはつまり、
(なるほどね。だから
実際、この研究の存在を明かされた時、おかしいと思ったのだ。アクア団の――アオギリの掲げる思想はこの世界を「ポケモンの理想郷」とすること。アクア団はそんなアオギリの思想に感化され集まった集団。ごろつきのような連中も多いが、ポケモンに対する姿勢だけは真摯だ。少なくともその点だけは、ラジアも評価していた。
だがしかし、ここで行われている研究は明らかにその思想とそぐわない――いや、むしろ相反しているとさえ言える。文明の力でポケモンに犠牲を強いること、それはアオギリの何よりも毛嫌いする行為そのもの。例え幹部でも発覚すれば処罰は免れないだろう。
故にこそラジアに目を付けたのだ。ラジアもまたシズクと同じく"アクア団"に対して脛に傷を持つ身。お互いの秘密を握っている以上、裏切る可能性は低い。手駒として使えると踏んだのだろう。
(多分、手荒な真似したのはわたしがバラすことを匂わせたからだろうなー……)
あの時はその所業が個人的にムカついたこともあってついやってしまったが……とんだ藪
(正直、
だが、背に腹は代えられない。何より、ポケモンたちが相手の手に握られている現状でラジアに断るという選択肢はなかった。
「………………分かった、協力する」
「大変結構。ええ、よろしくお願いいたしますよ。共犯者さん」
そう言って手を差し出すシズクに、しかしラジアは、
「そういうのはいいから、さっさとわたしの手持ちを返して」
「ククク、そうですか。――ドククラゲ、返して差し上げなさい」
投げ渡されたボールをしっかりキャッチしたラジア。彼女は中のポケモンたちが無事であることを確認すると、ボールを腰元に仕舞い込み、あらためて
「――ねえ、これだけは聞かせて」
「何でしょう?」
既にこの場に用はない。
だがラジアはどうしてもシズクに問いたいことがあった。
「あんたさ、
「ククク、何を言うのかと思えば……。あんな傷心を引きずったガキの戯言なんぞ、真に受ける筈がないでしょう」
――最も、手駒を集めるお題目としては十分でしたが。
そう言って、嘲るように、蔑むように自らの組織を嗤う
ラジアにはそんな彼の姿がまるで――。
ボーマンダの背に乗って『流星の民』は星空を翔ける。
高空の澄み切った大気を浴びながら、彼女が思うのは先ほどのこと。
(まるで、"悪魔"みたいだった)
脳裏に思い浮かぶシズクの笑み。自らの組織の理念を、アオギリの理想を嘲笑するその"悪意"に溢れた笑みは、まさしく"悪魔"そのものの姿。垂れ流される悪意を思い出し、彼女は思わず身震いする。
そんな彼女の心情を察してか、騎乗するボーマンダが心配そうな声で鳴いた。
「あはは、わたしのこと心配してくれるのか。本当に優しいなあ、キミは。――うん、大丈夫だよ」
そう言って安心させるように首筋を撫でてやれば、ボーマンダは気持ちよさそうに目を細めた。
(うん……大丈夫だ)
彼女はボーマンダの首筋を擦りながら、何度も大丈夫だと繰り返す。それはボーマンダを安心させるためというよりも、まるで自分自身に言い聞かせているかのようで。
(……ポジティブに考えよう。わたしの正体を知られてたのは予想外だったけど、少なくともアイツが他人にそれをバラす可能性は低い)
シズクが彼女の正体を知っているのと同様に、彼女もまたシズクの秘密を握っている。そのことを考えれば少なくともシズクの口から彼女の秘密が漏れることはない、と考えてもいいだろう。
残念ながらシズクがどこからその正体を知ったのかは分からなかったが、彼女の活動を支援すると言った以上、彼女の行動を邪魔してくる……ということは考えづらい。ならばむしろ、資金・物資などを融通しやすくなり、より活動がしやすくなったとも言える。
(あっちはわたしのことを利用しようとしているんだ。だったら、わたしだってアイツを利用しつくしてやらなくちゃ)
所詮、お互いの目的を達成するまで利用し合うだけの関係。
だったら利用出来るだけ利用してやる。
(それに、アイツが『超古代ポケモン』を復活させようとしているのは間違いないみたいだし)
シズクの目的が『超古代ポケモン』の復活にあるのは間違いない。彼女の持つ、一種の動物的直感がそれを事実だと告げていた。
(何でそれを"アクア団"としてじゃなく、"自分"で行おうとしているのかは分からないけど……)
あの悪魔のような男が目論むことだ。どうせ碌な理由ではないだろう。
だが、『超古代ポケモン』の復活は既定路線。『超古代ポケモン』が目覚めさえするのであれば、誰が目覚めさせようとも同じこと。それに
……その過程で出る犠牲は多少増えるだろうが、それでも世界が滅びるよりはマシだ。
(……わたしじゃなくて、
――犠牲を出すことなく、世界を救えただろうに。
そんな考えが脳裏に思い浮かんで――すぐに首を振って打ち消す。
(――何を考えてるんだ、わたしは。
シガナ、シガナ。わたしの大切な■■。
■■に会いたい。会いたくて会いたくてたまらない。
でも、きっと二度と会うことはない。
それでも――
(安心して、シガナ)
彼女は誓う。
(
彼方の■■へ、
(例え、この身と引き換えになろうとも)
決意を胸に彼女は飛ぶ。
夜空を翔けるその姿はまるで、流星のように美しく――そして儚かった。
『流星の民』が立ち去った後の研究施設。薄暗いその場所に、男は一人佇んでいた。
「クク、ク。『超古代ポケモン』の、復活」
ああ、そうだ。あの女に語ったことは間違いではない。
我が目的は紛れもなく『超古代ポケモン』の――カイオーガの復活である。
だが――
「足りない、足りないのだよ」
そう、足りないのだ。
カイオーガをただ目覚めさせるだけでは、決定的に足りないのだ。
――世界を海に沈めるには。
どれだけ伝説と呼ばれる存在であろうとも、所詮はポケモン――『星の理』に縛られる存在だ。理を覆すには至らない。
「そう……ポケモンのままならば」
ならば答えはシンプルだ。
――
『ポケモン』ではなく、『神』ならば。
理を覆すのは容易いだろう。
そしてそのためのピースは、既に男の手にあった。
懐を探り、取り出す。
薄暗がりに浮かび上がったのは、青い
奇しくも男の名乗る名と同じ名を持つそれは、
創生の力を宿す、神の欠片。
「ク、クク……ククククク」
嗤う、嗤う、嗤う。
――クカカカカカカカカカ!!
何者も見通せぬ闇の中、悪魔の嗤い声が木霊した。
この世界の"異物"は
・ラジア
マグマ団に潜入中のアクア団員。同時に、アクア団の情報をマグマ団に流す
その正体はもちろん某『流星の民』。ラジアというのは組織に潜り込むにあたっての偽名(元ネタは彼岸花の学名"リコリス・ラジアータ"から)である。
実は今作の彼女はとある事情により、原作から大幅に設定が変わっている。が、その事情について語られるのはまだ先――
ただ、ここで一つ明かすのならば――この世界の彼女の傍らに『ゴニョゴニョ』はいない。
・シズク
アクア団幹部にしてSSSカンパニーCEOを務める男性。ニューキンセツ地下に
本来の歴史には存在しない筈の異物。こことは異なる次元、異なる世界線においてアクア団幹部であった男の名を騙る何者か。野望を胸に純粋なる悪意を以って、悪魔は策動を続ける。
さあ、森羅万象一切よ。我が野望の贄となるがいい。
・しずくプレート
「プレート にぎりしもの さまざまに へんげし ちからふるう」
天地創世のおり、世界へ振りまかれたという神の欠片。
その正体は高次元に存在する神の玉座――"生命根源"へと繋がる道標。資格あるものが手にすればその者は神に邂逅するという