キノコのほうしを目指して   作:野傘

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注意!
当作品には独自展開、独自解釈、設定捏造、キャラ崩壊が多分に含まれています。
上記の要素が苦手な方はご注意ください。















吾輩は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の悪漢を除かなければならぬと決意した。吾輩には人の定めた法(ルール)が分からぬ。吾輩は、一介のキノココである。腐葉土を貪り、目に付いたポケモンに喧嘩を売って暮らしてきた。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。


吾輩は激怒した。必ず、かの邪知暴虐の悪漢を除かなければならぬと決意した

 同胞たちと別れ、故郷を後にした吾輩は只管に森の外を目指し、スタスタスタスタと歩いていた。

 木々が立ち並び昼間でも薄暗い森の景色は、生まれた時よりこの地に暮らす吾輩にとって最早見飽きたものであったが、それも見納めになるかもしれぬと思えば不思議と惜しくなるものだ。

 そんな感傷に浸っていた吾輩の元に、森林の静けさを吹き飛ばす激しい戦闘音が届く。しんみりとした感情など吹き飛ばすような無粋な音に、吾輩は思いきり顔を顰める。旅立ちの感傷が全くもって台無しだ、一体どこの輩であろうか。

 大方、アゲハント同士の縄張り争いであろうと当たりを付け、ならばどれ一目見に行ってやろうと吾輩は音のする方へと歩みを進める。  

 この森では日々生存競争こそ起こっているが、本格的なバトルというものは滅多にお目にかかれない。なぜならどちらかの体力が尽きる前に、大抵の場合は不利を悟った側が逃げ出すからである。野生のポケモンは生きるために余計な争いはしないのだ。

 しかし、そうなれば修行と称して日々積極的に他ポケモンに喧嘩を売っていた吾輩は相当な異端である。群れの同胞たちがバカを見る目で見ていたのもむべなるかな。やはりこれも吾輩が人としての知恵を持つ故か。

 そう思考しながら歩いていれば、やがて眼前に木々が途切れ拓けた空間が見えてくる。人間どもが使う林道であろう。バトルもそこで行われているようで、戦闘音もますます大きくなっていた。

 さてさて戦況は如何なるものかと、近くの茂みに潜んで覗き見れば、そこに居たのはアゲハント(野生ポケモン)たちではなく、ポケモンを連れた人間(トレーナー)たちであった。

 

 これは驚いた、まさかトレーナー同士の本格的なポケモンバトルであったとは。

 見れば人間たちの数は四人。片方は珍妙な衣装に身を包んだ男女。骨のようなマークの黒いバンダナに、青白の横縞シャツと靴下という勘違いした海賊のような装いで、それぞれの手持ちであろうガチガチと歯を鳴らすポチエナの後ろにてニヤニヤと嗜虐的な笑みを浮かべている。

 そんなコスプレ海賊に相対するのは、赤いバンダナが特徴的な恐らく10を少し超えた頃であろう少女と、その背に隠れるようにして震える眼鏡の中年。そしてその手持ちポケモンであろう、スバメ(こツバメ)アチャモ(ひよこ)。しかし、スバメの方はすでに力を使い果たしたのかぐったりと地面に倒れ伏し、アチャモの方も体のあちらこちらに傷を負い、今にも倒れそうな様子であった。

 場の戦況は明らかに少女不利(中年はどうみてもトレーナーではない)。しかし、少女の目は死んではいない。追い詰められた状況を前に若干の焦りこそあれど、諦めずに打開の策を探っているようであった。

 はてさて、少女は次に如何なる手を打つのやら、と興味深くバトルの様子を伺っていた吾輩であったが、次の瞬間、信じられぬものを見た。

 少女が"ひんし"のスバメを戻そうとボールに気をやったその隙に、コスプレ海賊がポチエナにスバメを襲い掛かるよう指示したのだ。指示を受けたポチエナの牙がスバメに届かんとする刹那、間一髪のところでモンスターボールより照射された光線が届き、スバメをボール内(安全な場所)へと連れ戻した。

 その光景を目にした瞬間、吾輩は激しい義憤の情を覚えた。何ということだ、既に力尽きた手合いにいたずらに傷を負わせようとするとは。成る程確かに自然界において手負いの敵に確実に止めを刺すことはあり得るだろう。しかし、それは自らの安全を確保するためのこと。断じて、かの如く吐き気を催す嗜虐と悪意のもとで行われるものではない。

 さらに言えば彼らが取り行っているのはルール無用の生存競争(サバイバル)ではなく、ルールに則って行われるべき決闘(バトル)である筈。敗者を執拗に嬲るなど、獣にも劣る恥ずべき行為であった。

 吾輩は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の悪漢を除かなければならぬと決意した。既にこの身は人ならぬポケモン(畜生)なれど、かつては確かに人であった。そして道理に悖る輩を見逃してやるほど、人間性というものを捨ててもいなかった。

 沸き上がる激情に身を任せ、吾輩は隠れていた茂みより飛び出した。

 

 吾輩は飛び出した勢いのまま悪漢のポチエナへ渾身の"ずつき"をお見舞いした。意識外からの攻撃に驚いたのだろう、ポチエナは思わずといった様子で怯んでしまう。怯んだことで出来た隙を見逃さず、吾輩はポチエナめがけて至近距離から特製のほうしをぶちまける。

 この"ほうし"は吾輩がバトルにおいて優位に立ち回るべく特別に配合したもので、吸い込んだ相手()体力(どく状態)肉体の自由(まひ状態)精神の自由(ねむり状態)のいずれかを奪う(にする)効果がある。

 その分射程距離が短く、離れれば離れるほどその効果が減衰するという弱点があるが、この至近距離ならば問題はあるまい。事実、吾輩のほうしを浴びせられたポチエナはその身を痙攣させ、身体が動かぬことに驚いているようであった。

 と、そこへ悪漢からの指示を受けたもう一匹のポチエナが吾輩に噛み付いてくる。四足特有の爆発的な加速に鈍足の吾輩は避ける間もなく、その身に牙を突き立てられた。

 鋭い牙が練色の傘に食い込み、吾輩の身体に痛みが走る。だが問題ない。この程度の痛み、修行の際に幾らでも味わった。

 

 話は変わるが、吾輩たちキノココ系統のポケモンは進化後(キノガッサ)のせいか、攻撃偏重で打たれ弱いイメージがある。しかし、進化前である吾輩(キノココ)能力値(ステータス)はむしろ"ぼうぎょ"や"とくぼう"に長じた、いわゆる耐久型なのである。流石に、進化を果たした強力なポケモンたちには通じなかろうが、ポチエナ(未進化)相手ならばこの通り、屁のルンパッパ(河童)であった。

 それだけではない。噛み付きの衝撃で吾輩の身体よりほうしが漏れる。これは先程もう一匹のポチエナに浴びせたものと同じものだ。本来、このほうしは相手の攻撃に合わせて発動、相手の追撃を封じるとともに吾輩に有利な状態を生み出すカウンターとして作り出したもの。果たしてそれはこの場において想定通りの役割を発揮する。

 噴出したほうしに気がついたポチエナは慌てて離れようとするが、もう遅い。みるみる内にポチエナの我が身に牙を食い込ませる力が失われてゆく。ふむ、どうやら彼奴は精神の自由を奪われた(ねむり状態を引いた)らしい。

 彼奴(ポチエナ)は吾輩の身体を離すと、しばらく抗うように首をふっていたが、やがて力尽きたように倒れ伏し、その意識を暗闇へと沈めた。

 さてさて、悪漢どものポチエナを一時拘束することに成功した吾輩であったが、まだ終わりではない。吾輩のほうしの効果は未だ修行中であることも相まって、ポケモン相手ではせいぜい持って十数秒ほど。安全を確保するにはこの間に彼奴らをひんしにまで追い込む必要がある。しかし、生憎吾輩にそのような火力の持ち合わせがなかった。

 先に述べた通り、吾輩らキノココは耐久よりの能力値(ステータス)を有している。そして、そうした耐久よりのポケモンというのは往々にして、相手への攻撃能力が控えめであることが多い。無論、キノココというポケモンもその例に漏れず、攻撃力は控えめであった。但し、この控えめな攻撃力については、吾輩らキノココ系統は進化をすることによって劇的に改善されるのだが、それはまた別の話である。

 

 閑話休題。

 

 さて、結論から言えば、吾輩がこの十数秒間にポチエナ二匹をひんしにまで至らせるのは無理である。どう頑張ったところで火力が足りぬ。

 故に、吾輩の役割はここまで。トドメを刺す役割はそれに相応しい者に任せよう。そうして吾輩は身を翻し、横っ跳びに跳び退る。

 瞬間、吾輩のすぐ側を猛火を纏った火矮鶏(アチャモ)が疾走する。

 その燎原の火が如き疾駆に、自由を奪われた彼奴ら(ポチエナ)が反応できる筈もなく。哀れ二匹は天に向け、勢いよく吹き飛ばされることと相成った。

 少し遅れて、ベシャリという情け無い音と共にその黒い毛皮をさらに黒く煤けさせた彼奴らが降ってきた。うむ。見れば彼奴ら、完全に目を回している。清々しいまでのK.O.(ノックアウト)であった。

 一方それを成したアチャモはと言えば、傷だらけの体で若干フラつきながらも、誇らしげな様子で立っている。成る程、傷を癒さず敢えて自らを危機に追い込むことで、その身に宿るほのおの力を猛らせたか。

 危機(ピンチ)からの逆転は英雄譚の王道。それを見事にこなして見せた(アチャモ)の素晴らしいショーマンシップに、吾輩は惜しみない称賛を送る。

 

 ブラボー! おお、ブラボー!

 

 もし吾輩に手があったのならば、割れんばかりの盛大な拍手を送ったことだろうに。この時ばかりは我が身がキノココであることが悔やまれた。

 ふと見れば、悪漢どもが手持ちをボールに戻し、コソコソと尻尾を巻いて逃げ出そうとしていた。全くもって見苦しい。ポケモン(ペット)トレーナー(飼い主)に似るというが、彼奴ら(ポチエナ)は曲りなりにも吾輩らに立ち向って来た。それに比べてこ奴らの何と醜いことか。あんまり腹がたったので、吾輩は悪漢どもに向けて土産とばかりに、これでもかとほうしをばら撒いてやった。少々離れていたのでそれほど効果はあるまいが、人間相手なら十分であろう。精々数日間、節々の痛みに苦しむがいい。

 清々した気分で吾輩が振り返ると、そこにはこちらを見るバンダナ少女とアチャモの姿。よくよく見ればアチャモの体は傷だらけのまま。どうやら少女にはキズぐすりの持ち合わせが無かったらしい。

 ならば丁度良い。吾輩は素晴らしい逆転を見せてくれた礼に、餞別で受け取った『オボンのみ』を差し出す。少女は初め不思議そうな顔をしていたものの、吾輩の意図が伝わったのか、差し出された『オボンのみ』を受け取りアチャモに与えていた。早速『オボンのみ』を啄み体力を回復したアチャモ。先ほどよりも元気そうな様子で何よりである。

 さて、諸々ひと段落したところで少女はあらためて吾輩に助けられた礼と自らの身の上を語った。彼女はジョウト出身であり、ごく最近ここホウエン地方は『ミシロタウン』に越してきたのだという(余談であるが、この時点で吾輩の生まれ育ったこの場所がホウエン地方であると確定した)。ひょんなことから襲われていたポケモン博士を助け、なんやかんやでその時使用したポケモン――彼女のアチャモである――とポケモン図鑑を受け取り旅に出た。そして現在一番目のジムを目標に『カナズミシティ』を目指しているのだという。

 さらに彼女は話を続ける。長くなったので少々内容を要約すれば、カナズミジムは岩タイプのエキスパートであり自分達のパーティ(アチャモとスバメ)だけでは不利、そこで岩タイプに相性のよい草タイプであり、先ほどのバトルで抜群の活躍をした吾輩を是非パーティに迎えたい、自分たちと一緒に旅をしないか、ということであった。

 バンダナ少女(ポケモントレーナー)からの勧誘に吾輩は少し考え込む。ふむ、単純なレベルアップという観点からみればこれはとても魅力的な提案と言えるだろう。何せポケモントレーナーとはポケモン育成の専門家、得られる経験値の量は段違いだ。事実、トレーナーに育成されたポケモンは、野生のそれに比べ遥かに早い速度で成長するという。少なくとも吾輩が単独で修業するよりずっと効率的なレベルアップが見込めるであろう。

 だが一方で不安点もある。彼女の手持ちになるということは、即ち吾輩の生殺与奪の権を彼女に預けるということだ。戦闘相手や使用するわざ、育成の方針などの全てを彼女に任せることになる。吾輩の目的は"キノコのほうし"の習得。そのためにはキノココのまま延々とレベルアップする必要がある。果たして彼女は手っ取り早く強くなる(進化する)ことを拒絶し、弱い(未進化)まま戦い続ける吾輩を受け入れることが出来るのであろうか。

 確かに彼女は真摯に自らの手持ちと向き合う人物であろう。僅かな間だが、彼女が手持ちポケモンたちと深い絆を結んでいるのを見てもそれは分かる。しかし彼女は同時に、どこまでも貪欲に勝利を求め続ける"決闘者(ポケモントレーナー)"でもあるのだろう。先の勝負で追い詰められた際に見せた、あの目の光をみれば分かる。果たして彼女は勝利に拘泥することなく、ただ只管に己が我儘を突き詰める吾輩を手持ちに入れ続けることに耐えられるであろうか。

 深く深く、どこまでも真剣に、考えに考え――そして吾輩は少女の提案を断ることにした。

 吾輩の意思を察したのか、バンダナ少女は残念そうな表情を受かべる。

 すまぬな少女よ。吾輩にはどうしても譲れぬ目的(ユメ)がある。そのためには其方と共に行くワケにはいかぬのだ。しかし袖振り合うのもまた他生の縁。丁度吾輩もカナズミに用事がある。カナズミジム攻略の際には、修行も兼ねて一肌脱ごうではないか。

 といった内容を吾輩は身振りで何とか少女に伝える。果たして彼女は理解したのかしていないのか――恐らくは前者であろうが――再びその表情をほころばせたのであった。

 

 かくして始まったばかりの吾輩の旅に一時、バンダナ少女という同行者が出来た。

 何、旅は道連れ世は情け。ほんのわずかの間に過ぎずとも、道連れとは心強きものである。

 

 なお、この後吾輩のことをお気に入りのポケモンであると捕獲しようとした中年に思いきりほうしを浴びせてやったのだが、それはまた別の話である。




森で出会ったキノコと少女。共に目指すはカナズミシティ。
そこは『自然と科学の融合を目指す』、絢爛豪華の巨大都市。
その地に在りしは岩のリーダー。堅牢堅固の石部金吉。
果たして二人は如何にして、その堅き守りを打ち崩すのか。
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