全面的に内容を改稿いたしました。すでに旧バージョンの方をお読みいただいた方は申し訳ありません。
注意!
当作品には独自展開、独自解釈、設定捏造、キャラ崩壊が多分に含まれています。
上記の要素が苦手な方はご注意ください。
老人はライオンの夢を見る。
カナズミシティに響き渡る情けない悲鳴。吾輩はその声にどこか聞き覚えがあった。
それは隣に佇んでいたバンダナ少女も同じであったようで、吾輩たちは顔を見合わせ、揃って悲鳴が聞こえてきた方へと向かう。
果たして、そこに居たのは見覚えのある中年の姿。昨日吾輩たちが助けたデボンの研究員であった。研究員の中年はゼエゼエと息を切らし、道端にて座り込んでへばっておった。取り敢えず知り合いとなれば放置しておくのもまずかろうと、吾輩らは研究員の中年を助け起こし何があったのか話を聞くこととする。
研究員が語ったところによれば、此奴は先の事件にて大目玉を食らった後、汚名返上のためとある"にもつ"の管理を任されたのだとか。ところが、あろうことか任された初日に管理部屋に賊が入り込み、その"にもつ"を奪われてしまったのだという。このままでは管理不行き届きで最悪クビになってしまう。そうなる前に奪われた"にもつ"を何としても取り戻さねばならない。しかし、自分はポケモントレーナーではない*1ため、賊に対抗する手段がない。そこで先日の戦闘で
いくら悪漢を追い払うだけの実力があるとはいえ、十を過ぎただけの子供に縋るというのはいい歳こいた大人としていくら何でも情けなさすぎるのではなかろうか。
そう思う吾輩であったが、しかし当のバンダナ少女はと言えば大分困っているようであるから、と中年の頼みを引き受けるようである。
バンダナ少女は少々お人好しが過ぎるのではないか。まあ、此奴の境遇には同情すべき点も無い訳ではない。それに断った結果、知り合いが露頭に迷うのも寝覚めが悪い。仕方があるまい。吾輩も尻ぬぐいに協力してやろう。
という訳で中年の頼みを引き受けた吾輩たち。中年曰く賊は街の東の方へ逃げていったという。吾輩たちはその言葉に従い、街を東に向かって駆けてゆくのであった。
さて、タッタタッタと街を東の方へ走り続け、いつのまにやら街はずれのカナシダトンネルへとやって来てしまっていた吾輩たち。するとトンネルの入り口に、何やら人だかりがあるのが見えた。吾輩たちは逃げていった賊に関係しているのではと、人だかりの内の禿の老人に話を聞いてみることにした。
そのキャモメを連れた老人が言うには、この辺りを散歩していたところ突如海賊のような恰好をした二人組がトンネルへと入って行き、中でトンネル堀をしていた男が追い出されたのだという。
しめた。
さあ、連中からさっさと荷物を取り返し、あの憐れな中年の職を守ってやらねば。老人に礼を言い、吾輩たちはカナシダトンネルに走り込んで行く。奥へと続く一本道を駆けてゆけば、やがて袋小路にて立往生する
さあ、もう逃げ場はないぞ
しかし、連中は
この期に及んで抵抗するか、その意気やよし。しかし吾輩はともかくとして、
こちらへ迫るポチエナを確認した少女は、対抗するように腰元よりモンスターボールを投げ放つ。開閉スイッチが押され、光と共に飛び出したのは、先の戦いにて新たな姿を獲得した
次の瞬間、放たれたのは豪脚による蹴り二連。憐れポチエナたちは鎧袖一触、
瞬く間に
さあ、
そう言って
――UPAAAA!!!
トンネルに
「――UPAAAA!!!」
入り口方面よりトンネル中に響き渡る咆哮。
次に聞こえたのはドシドシという足音。それは何者かがこちらへ近づいてきていることを示していた。
やがてトンネルの入り口の方から、その足音の主が飛び込むように姿を現す。
「テメェらッ! ナニヤッテルンだッ!」
現れたのは身長2メートルを超えようかという浅黒い肌の巨漢。ゴーリキーもかくやと鍛え抜かれた上半身を惜しげもなく晒し、その胸には自らの所属を誇示するように海賊の骨を模した
「「ウ、ウシオ隊長!」」
したっぱたちから「ウシオ」と呼ばれた男性はその巨躯に見合わぬ身軽さで跳躍し、軽々とハルカたちの頭上を飛び越えてしたっぱたちの前に着地する。
ズシンっ、と衝撃が響いた。
「ホウコクをウケてキテミれば、ガキ一人にナニをテコズッテるんだッ!」
「うっ……。す、すいやせん。隊長」
「で、でも、あのガキやたらと強くて……」
「イイワケすルんジャあ、ねエ!!」
ドォン! とトンネルの床を踏み鳴らし、ウシオはしたっぱ達を黙らせる。
「イイか! コノコトはもうアニィにツタエてアる! オメェらは後でオシオキの「ぐりぐり」ダ!」
「「そ、そんな~~~!」」
ウシオからの無常な宣告に、悲鳴を上げて膝から崩れ落ちるしたっぱ達。そんな彼らを無視して、ウシオはぐるりとハルカたちの方へ向き直る。
「オウホウ! ジコショウカイがまだだっタな! オレッちの名は"ウシオ"! アクア団サブリーダーの"ウシオ"ダ!」
自らをアクア団のサブリーダーであると名乗ったウシオ。予期せぬ敵幹部の登場に驚くハルカ。そんな彼女の驚愕を余所に、ウシオはさらに言葉を続けた。
「オイ、オメぇ! オレッちのカワイイシタっぱどもをブッとバスとは、中々ヤるじゃネーか!! ――よォーし決めタゼッ! オメぇは! オレッちがジキジキに!
そう言ってウシオはハルカたちへ向け、手にしたモンスターボールの開閉スイッチを押す。
「イっくぜェェ!」
瞬間、何かが凄まじい勢いでボールから飛び出した!
それが収まるか収まらぬ内に、吾輩たちの背後より何かが崩れる音が鳴り響く。見れば、トンネルの天井の一部が崩落し、入口へと続く道が塞がれていた。どうやら吾輩たちはこの狭い洞窟に閉じ込められてしまったらしい。
崩落した通路より視線を上にやれば、そこには先ほどボールより射出され、吾輩たちを閉じ込めた下手人の姿。"きょうぼうポケモン"サメハダー。奴は射出された勢いのままトンネルの壁面に衝突、強固な岩盤を砕き割ってめり込むように停止していた。
その姿を見て吾輩は
何という破壊力。吾輩では手も足も出なさそうな岩盤をこうも容易く砕くとは。これ程までに鍛え上げられたポケモンを見るにこの
しかし、疑問もある。なにゆえ奴は吾輩らを直接狙わず、背後の岩盤のみを狙ったのか。あれ程の威力の突撃、もし吾輩らに直撃すればひとたまりも無かったろう。だが、先の飛翔コースは明らかに吾輩らを避けていた。
――ならば必然、それこそが奴の狙い。この吾輩たちが閉じ込められた状況こそ、奴が行おうとしたことに他ならない。では何故、奴は吾輩たちを閉じ込めようとしたのか、その答えは割合すぐに得られた。
崩落した通路を見て、高笑いする
「フゥーハッハッハ! イイ感じニぶっこワレやがっタ!! ――さア! つぎはオメエのデバンだ!!」
その言葉と共にボールが地面に叩きつけられ、中から新たなポケモンが飛び出した。
飛び出したのは青い体に長い耳、毬のような尾を備えたポケモン。"みずうさぎポケモン"マリルリであった。
が、その体はマリルリにしては妙に筋肉質だ。全身が無駄にパンプアップされていて、途轍もなくむさ苦しい。おまけにそんな体型にも関わらず、顔はマリルリのままなのだ。アンバランス極まりない、正直に言ってとても気色が悪かった。
吾輩の感想はさておき。ボールより飛び出した後、無駄にキレのあるポージングを決めながら着地したマリルリ。その姿にしたっぱどもは歓声を上げ、それを聞いた吾輩はゲンナリした。そんな吾輩たちを余所に
「ヤレっ、マリルリ! "みずあそび"ダ!」
瀑布が如き勢いで吐き出された水は最早「水遊び」などという次元ではなく、「滝行」と言った方が正しいだろう。その様相は吾輩に前世でよく見た
いや、そのような暢気なことを考えている場合ではない。
密閉された空間に大量の水が供給され、瞬く間にバンダナ少女の腰当たりにまで水が貯まる。
大量の水。彼奴等この空間を水で満たし、吾輩らを溺れさせるつもりか? だが、吾輩の予想とは裏腹に、水がバンダナ少女の胸のあたりにまで達したところで、マリルリは水を吐き出すのを止めた。
周囲一体は完全に水没し、吾輩たちはそれなりに広さのある池の中、獰猛な笑みを浮かべる
「うおおおおおおおお! 出た! ウシオ隊長の
「Hooooo! 流石隊長だ! 子供相手にも容赦ねえ!」
現れた
「オウホウ! マタセちまってワリィな! ナニせ、オレッちのポケモンはコウヤッテ
したっぱどもの喧しい声援を背にして、相対する吾輩らにそう告げる
「ダが! コレでヨーヤく
状況は格段に吾輩たちにとって不利。相手は格上、場は奴らの支配下。
なれどバンダナ少女に諦観なし。逆境にありてなおその瞳、未だ力を失わず。いやむしろ逆境無頼にありてこそ、
バンダナ少女はボールより、残った最後の
――さあ、
水面を引き裂き、吾輩たちの元へ迫るサメハダー。その脅威を真っ先に迎え撃ったのは、バンダナ少女が率いる
全霊の一撃がサメハダーに直撃し、直進するその勢いを僅かに弱める。しかし、
いい加減スバメの突撃を煩わしく思ったのか、サメハダーは進撃を一時停止。己が頭上を舞う目障りな
サメハダーの牙がスバメを捉えるその寸前、バンダナ少女の手元よりリターンレーザーが向けられる。果たして、既のところでスバメは光の粒子となって
さて一の矢が放たれれば、続けて二の矢も放たれるというもの。スバメを追って中空を舞ったサメハダー目掛け、飛来する物体が一つ。練色の傘に緑の体、まん丸ボディの吾輩である。吾輩は近くにいたワカシャモに頼み、彼奴が宙を舞うのに合わせて、吾輩を思いきり蹴り飛ばすよう頼んだのである。
果たして、ワカシャモは見事にその頼みを全うしてくれた。蹴り出された吾輩の体は丁度彼奴に届くコースを描いておる。吾輩は彼奴の体へ向け飛翔する間、蹴り出された際に僅かに残留したワカシャモの闘気に意識を向ける。闘気、即ちポケモンの有する"かくとう"の属性が込められた力。
残留した"かくとう"の属性に干渉、肉体に吸収し、その指向性を解析する。解析を終えたのならば、お次は我が身に保有する生体エネルギーへ、解析した"かくとう"の指向性を入力。体外へと放出する
出力されたのは
激突の瞬間、鋭い
弱点である"かくとう"の一撃を食らい、
さて、先の飛翔において吾輩は自らの得意とする"くさ"のエネルギーではなく、態々外部より吸収した"かくとう"のエネルギーを用いて攻撃を行った。これが何故かと言えば、吾輩の"くさ"エネルギーの扱い方の問題だ。吾輩が"くさ"タイプの"わざ"を使う際、ほうしや物理的接触を伴う場合を除き、大地を媒介とすることで相手に"わざ"を届かせている。これは未だ
そして思惑は成功し、吾輩はまんまと奴の体に取り付くことができた。ここまで近づけていれば、大地の補助が無くとも"わざ"を奴に届かせられる。さあ、どう料理してくれようか。
ほうしをまき散らして奴の身体の自由を奪うか?
――いや、ダメだ。水棲のポケモンたるサメハダーはエラ呼吸。吸い込ませることで初めて効果を発揮するほうしでは効果が薄かろう。
ならばこのまま奴の無防備な背中を物理的に滅多打ちとするか?
――否。吾輩の持ちうる物理攻撃はその大半が"くさ"のエネルギーを用いぬ
吾輩はこの身に宿す"くさ"のエネルギーを活性化、身に纏っていた"
さあ、食らうがよい。これなるは今の吾輩が出せる最大級の
瞬間、サメハダーの体を根状に張り巡らせた"くさ"エネルギーが覆った。
這いずるように、絡みつくように、菌糸束を思わせる"くさ"エネルギーがサメハダーの体に張り巡らされる。侵食した"くさ"エネルギーは奴の生体エネルギーへと干渉し、それを吸い上げて吾輩へと還元していく。
自らを侵す菌糸束に紛れもない脅威を感じたのか、奴は背部に居座る吾輩を振り落とそうと矢鱈滅多に暴れ出す。奴はトンネルの壁面へと突撃し、背部を壁面へと押し付けそのまま削り取るように泳ぎ始めた。一方の吾輩も振り落とされまいと、"
そうこうする内、"
奴の進路上、そこには吾輩たちの放つ
佇むワカシャモの姿を見た吾輩は全力を以てサメハダーの肉体を操作、水面より飛び出させ中空へと再び身を踊らさせる。
サメハダーが空中へと飛び出さんとする直前、ワカシャモはその脚力を以て高々と跳躍し、洞窟の天井を蹴り飛ばすことで反転、膨大な"
これこそが吾輩たちの立てた作戦。奴の機動力に追いつけるスバメでは奴を倒しきるだけの火力がなく、逆に奴を倒しきれるだけの火力を備えたワカシャモでは奴の機動には追いつけない。故の協力。二匹の能力を生かし、足りない分は吾輩が補う連携。
そして吾輩らの作戦は今まさに結実の時を迎えている。奴の体は空中に有り、自慢の機動力は発揮できない。蓄えた水も底を尽き、始めに見せたあの空中機動も行えまい。一方のこちらは既にワカシャモが完璧なタイミングで跳蹴を放っている。込められた"かくとう"の力を食らえば、幾ら奴とて一溜まりもないだろう。さらに吾輩に油断はない。例えワカシャモの跳蹴が外れても、そのまま奴を仕留められるようにより強く、"
そうこの時、吾輩に油断は無かった。先のジムリーダー戦での反省を以て、奴を確実に仕留められるよう気を張った。この
そして奴の実力は吾輩たちの全霊を上回るものだった。
ありえない。口腔とは内臓へと直結する重要器官。どれだけ体を鍛えようとも、体の内側を鍛えることは出来ぬ。そんな内側に敵の攻撃を受け入れる? それは正しく自殺行為に他ならない。一応、牙を噛みしめることで最低限の防御を施したようだが、ワカシャモの攻撃はそんなもの容易く砕き割り、脚が彼奴の口腔内に深々と突き刺さる。衝撃が彼奴の体を揺らし、蹴爪によって傷つけられた口腔より血が流れる。
だが、そこまでだった。
与えられた衝撃は奴の意識を刈り取ることはなく。そのままワカシャモの勢いも止まる。ここで吾輩は少しの違和感を感じた。先ほどサメハダーの口へと蹴りを叩き込んだ際に、ワカシャモの勢いが僅かに削がれたように思えたのだ。
そして察した。
そうか、ワカシャモよ。汝は命を奪うことに躊躇したか。口腔内へと叩き込んだ一撃。あれが真の威力を発揮していればサメハダーは戦闘不能を免れなかっただろう、いやそれどころか内臓を傷つけられ命の危機にすら陥ったかもしれない。その予感がワカシャモの攻撃を僅かに鈍らせ、結果として奴は多大なダメージを負ったものの未だ健在という訳だ。
甘い、とは言うまい。寧ろ高潔と言うべきであろう。恐らくかのワカシャモは生まれた時より人と共に在ったポケモンだ。そして人と長らく在ったが故、人の倫理より強い影響を受けておる。いくら自らを脅かす敵相手であろうとも、命を奪うことに対し躊躇を覚えたのはそれが要因だ。
だが平時においては尊ばれるべきその性も、ことこの場においては仇となる。或いは、
瞬間、砕け散ったサメハダーの牙が生え変わる。ズラリ並ぶ鋭い牙が突き刺さったままのワカシャモの脚をガッシリと咥え込んだ。これはいかん。吾輩は奴の動きを止めんと"
生え揃った牙を丸ごと粉砕して放たれた"
吾輩は最後にワカシャモの体がリターンレーザーの光に包まれるのを辛うじて確認し、再び水中へと戻っていった。
吾輩たちの用意した三の矢がへし折られた。しかしまだ矢は二本残っておる。三の矢がダメだったならば、二の矢たる吾輩がトドメを刺せばよいのだ。吾輩は奴の体から残った生体エネルギーを吸い上げんと、"
冷気の出どころは奴の口腔。何と彼奴め、自身の進行方向へ向け"
何という奴だ。いくら"みず"タイプで"こおり"に対しては耐性を持っているとはいえ、一歩間違えればそのまま凍り付いて動けなくなっていたかもしれぬというのに。
水面に浮き上がった吾輩に奴の背びれが迫る。と、そこへ上空より舞い降りる影。ボールより再び繰り出されたスバメが吾輩を掴み、中空へと飛び上がる。ガキン、と先ほどまで吾輩が浮かんでいた位置をサメハダーの大口が通り過ぎた。
ふむ、間一髪。助かったぞスバメよ。汝が居らねば先ほどの時点で吾輩は一巻の終わりであった。しかしこの状況、如何がすべきか。何とか奴の攻撃より逃れはしたものの、奴は未だ健在で今も宙を飛ぶ吾輩たちを追って来ておる。今のままではジリ貧、何とかして奴を倒す策を講じねば。
そんな事を思案していた吾輩。そこでふと、吾輩は先ほどよりスバメの飛翔速度が落ちていることに気が付く。いや確かに吾輩を掴んでいる分、普段より速度が落ちていることは確かだが、それにしてもあまりにも遅すぎる。一体これはどういうことか。そこでようやく吾輩は周囲の気温が極端に低下していることに気が付いた。先の攻防にて体温が下がっていたため気が付かなかったのだ。
周囲を漂う不自然な冷気。出どころは勿論眼下にて吾輩たちを追跡するサメハダー。奴め、"
みるみるうちに吾輩たちの飛翔速度が落ちる。吾輩やスバメの体表には霜が付着し、その体温を奪ってゆく。ふと、眼下に見えていたサメハダーの姿が見えないことに気が付いた。
突如として吾輩の体が中空へと投げ出される。掴んでいたスバメが吾輩を投げ飛ばしたのだ。何故かと体を捻って背後を見れば、そこには
体側の傘を浮き輪代わりにして、どうにか水面に浮かぶ吾輩。だが吾輩に出来るのはそれだけ。短足無腕の吾輩ではとてもではないが水場にてまともに動くことなどできず、仮に動けたとしても
詰みだな、これは。
吾輩はこの状況を盤上遊戯で言うところの詰みであると理解する。もはやバンダナ少女には戦える手持ちはおらず、協力者である吾輩にも彼奴を倒す手段は存在しない。この
だが、まだ勝負はついておらん。既に勝利はないが、敗北したわけでもない。目指すは
眼前には水面を切り裂くサメハダーのヒレ。そう遠からず吾輩は奴の攻撃によりその意識を断たれるだろう。だが、タダではやられてやらぬ。
ざばり、と。サメハダーが水面よりその凶悪な面を覗かせる。開いた大口にはズラリと並ぶ鋭い牙。迫り来るサメハダーの顎に、しかし吾輩は逃れようとはせず、むしろ頭頂を奴に向け、喜び勇んで飛び込んでやる。瞬間、凄まじい衝撃と共に奴の牙が吾輩へと突き刺さった。
感じたのは激痛。ブチリ、ブチリと吾輩の身体が引き千切られる音が聞こえる。先のジムにて体感した弱点タイプによる痛みとも異なる、ただただ強大な力による痛み。遥か格上相手からの桁外れのダメージを受け、吾輩の意識は一瞬で闇に沈む。
だが、これでよい。
無防備なキノココを"かみくだ"いたサメハダー。その体がビクリと震える。そうして何度か身悶えた後、サメハダーは咥えていたキノココを思いきり吐き出した。
勢いよく吐き出されたキノココは、まるで水切り石のように水面を何度か跳ね、バシャリと浮かんで動かなくなる。
一方のサメハダーはどうやら"まひ状態"となったらしい。時折体を痙攣させ、動きも明らかに鈍っている。
「――キノちゃん!!」
水面に浮かび、動く様子のないキノココを見て
「オウホウ! 中々ヤるじゃねエか! まさカ、サメハダーにワザと噛み付かセて、"まひ"サせるとはヨゥ! ソレにオレッちのサメハダーの攻撃を食ラって、マだボールに戻らねエとは! タフだナ、オイ! ――だガ、これでトドメだ! ヤレ! サメハダー!!」
しかし、ウシオはハルカがボールにキノココを戻さないのを見て、キノココが未だ健在であると判断したようだ。サメハダーに指示を出し、動かないキノココにトドメを刺そうとする。
勿論、ハルカがキノココをボールに戻さないのには理由がある。
あのキノココはあくまで、ハルカにくっついて来ているだけの野生のポケモン。一度手持ちに加えようとして断られたが、何故か一緒に付いてきている不思議なポケモンだ。彼は彼女の手持ちではなく、故に
意識のないキノココにサメハダーが迫る。"まひ状態"のためか先ほどと比べて速度は遅いが、確実にキノココを狙っていた。"ひんし状態"の今、もし先と同様の一撃を貰ってしまえばキノココの命が危うい。そう悟った時、自然とハルカの体は動き出していた。
サメハダーの牙がキノココに触れる、その寸前。キノココの元へと辿りついたハルカはぐったりとした彼の体を抱え込み、サメハダーより庇う。
「あぐっ……!」
ザクリ、と飛び掛かったサメハダーの牙が彼女の肩口を切り裂き、感じた痛みに彼女は思わずうめき声を上げる。切り裂かれた傷口から鮮血が流れ出し、彼女の周囲を赤く染める。
「――!? オイ! オメエ、正気カ!? 何でポケモンを庇っテンだ!? ポケモンの"わざ"を人間が喰ラったりしたら、下手スりゃ死ぬぞ!!」
自らの身を呈してキノココを庇う
「決まっ、てる……でしょ! キノちゃんは……、この子は……!」
痛みで意識が朦朧とし、呂律もうまく回らない。それでも一言一言つっかえながら、彼女は自身の答えをはっきりと言い切った。
「あたしの、友達なんだから――!」
顔を上げ、しっかとウシオたちを睨みながらそう言い切った少女。その瞳には思わず気圧されてしまいそうな、強い強い光が宿っていた。
「チッ……! クソが、冷めチまっタぜ。――マアいい、目的のブツは手に入ッたンだ! オイ、シタっぱども! ズラかるぞ!」
「「へ、へい!」」
興が削がれたのか、はたまた少女の言葉に何か思うことがあったのか、ウシオはこの場より撤退することを決める。部下たちにそう伝えた後、ウシオは自身の手持ちポケモンに戻って来るよう声を掛け――
「サメハダー! オメェもさっさと――!? オイ、サメハダー!? ドウしたんだ!?」
その様子がおかしいことに気が付いた。
この時ウシオは知る由も無かったが、サメハダーは自身を傷つけられた痛み、そして先の戦いにて掻き立てられた闘争心によって、極度の興奮状態にあった。そんなところに
「サメハダー? ッ!? ――ウオオオオオオオゥ!?」
突如、ウシオの懐から莫大な光が漏れる。その光に呼応するようサメハダーの肉体も同様の光に包まれる。薄暗い洞窟を照らす桁外れの虹色の光、ハルカは思わず顔を背けた。
やがて光が収まれば、そこには姿の変わったサメハダー。全身に黄色い古傷が浮かび上がった凶悪な姿形。メガシンカしたその姿、名をメガサメハダーと言った。
メガサメハダーはユラリとハルカたちの方を向くと、長く伸びた吻部より無数の棘を伸ばし、彼女ら目掛けて凄まじい勢いで突進し始めた。
「クソッ! ナンで勝手にメガシンカを……!? オイ、サメハダー!! オレッちの言うコトを聞きヤガレ! ボールに戻るンだ!」
ウシオが何度呼び掛けようともサメハダーに届く様子はない。業を煮やしたウシオがボールに戻そうとリターンレーザーを照射するが――
「ナン……、ダト……!?」
リターンレーザーが弾かれた。全身から放たれる莫大なメガシンカのエネルギーが、リターンレーザーを消し飛ばしたのだ。
「うわわわわわ、隊長! 流石に殺しはマズいですって!」
「おいガキ! 何してんだ、すぐに逃げろ!」
最早アクア団たちですらメガサメハダーを止められない。ハルカはせめてこの子だけでも、と"ひんし"のキノココを強く抱え込み――。
「――破ァ!」
次の瞬間、轟音と共に飛んできた岩がメガサメハダーに激突し、その体を吹き飛ばした。
岩が飛んできた方向を見れば、そこに居たのは一人の老人。傍らには老人のポケモンだろう、キャモメとルンパッパがいた。
「――ゴニョニョたちが妙に騒ぐ故、気になって来てみたが。まさかこんなことになっておるとはのう」
よく見れば道を塞いでいた瓦礫の一部が無くなっている。老人がこちらに来る際に吹き飛ばしたらしい。メガサメハダーに投擲したのはその余りだろう。
よいしょ、と音を立てて水に飛び込み、ハルカに近づいてくる老人。ハルカはその老人に見覚えがあった。
「あなた、さっき入り口で会った……!」
「ほっほ。さっきぶりじゃのお嬢さん。――ん? あんた怪我しとるのか。ふむ……ピーコちゃん、頼めるかの」
――ぴひょー!
老人の呼び声に応え、ピーコちゃんと呼ばれたキャモメがハルカたちの元へ降り立つ。すると、ピーコちゃんの体から"みず"のエネルギーがあふれ出し、ハルカたちを覆い尽くすほどの巨大な水のリングが発生した。周囲を水のリングに取り囲まれ、驚いた表情を浮かべるハルカ。そこで彼女は気付く、肩口に負った傷から痛みが少しづつ消えていることに。
「"アクアリング"。通常は使用者の体力を少しずつ回復させる"わざ"じゃが、長ずればこのような扱い方もできるのじゃ」
そう言って再びほっほと笑う老人。ハルカはそんな老人に礼を言おうとして、突如瓦礫を砕きながら現れたメガサメハダーによって遮られた。
あふれ出るメガシンカのエネルギーが傷口を刺激し、メガサメハダーの興奮をますます高める。彼は自らに攻撃を加えた相手にターゲットを変更したのか、湧き上がる衝動に身を任せ、凄まじい勢いで老人に突撃してくる。
「――笑止。理性を失った獣風情が、儂に挑もうなど40年早い」
老人の言葉は
『横綱』、と老人が一声掛ければ、ずずいと老人の手持ちであろうルンパッパが前にでる。だが、その在り方は常のルンパッパに在らず。歳月を経て通常のそれよりも長く伸びた体毛は、口元にてさながらドジョッチ髭が如き様相を呈し、細められた瞳はまるで糸のよう。ルンパッパ特有の陽気さは欠片もない静謐な佇まいは、水面に浮かぶ一葉の蓮を思い起こさせた。
迫り来る大浪に、しかし狂乱のサメハダーに一切の怯みはなく。鼻先に膨大な"こおり"のエネルギーを収束、大浪に突っ込むと瞬く間の内にその一部を凍り付かせてしまう。さらにサメハダーは自らの体を回転させ突破力を高めると、そのまま凍り付いた浪を粉砕してみせた。
理性を消し飛ばしながらも、なお"わざ"の冴えを失わぬサメハダー。その技量に老人は内心舌を巻きつつ、しかし一切の焦りなし。何せこの程度の手合いならば、彼が現役時代の時にいくらでも相手してきた。彼らが相手だったならば、そこからさらにもう一手打って来ただろう。それが無い以上、所詮相手は暴走した獣ということだ。
メガサメハダーが流水を纏い、ルンパッパを粉砕せんと飛び掛かる。生半可な相手ならば触れた瞬間に打ち砕かれるであろう必殺の一撃を前にして、しかし
彼はメガサメハダーの牙が到達するその寸前、両掌を構え柏手を打つ。音速の数倍という速さで打ち鳴らされたそれは、衝突の瞬間、衝撃波と共に
いざや一番、見合って見合って。
張り手、一発。掌底がメガサメハダーの腹に食い込み、衝撃と共に吹き飛ばす。吹き飛ばされたサメハダーの体はウシオの側を通り過ぎ、背後の壁に巨大な皹を入れてようやく止まった。その姿は既に常のサメハダーへと戻っており、もう意識はなかった。
「サメハダーー!?」
「嘘だろ!? 隊長のサメハダーが一撃で!?」
「暴走してたとは言え、メガシンカしてたんだぞ!?」
メガシンカポケモンの力は凄まじい。それこそ通常ポケモンでありながら、保有するエネルギーは伝説のポケモンにすら匹敵し兼ねない程に。
「自分の手持ちポケモンくらいキチンと手綱を握っておけ、未熟者が」
それを暴走状態であったとは言え、事もなげにあしらい。たったの一撃で戦闘不能にまで追いやった。それはこの老人の実力が、自分達を遥かに超えているからに他ならない。
「ジ、ジジイ! テメェは……テメェはイッタいナンなンだ!」
目前の敵の桁違いの実力に、ウシオは思わずといった風に老人へと問いかける。
「――儂か? 儂の名はハギ。引退した元船乗りの楽隠居じゃよ」
ウソを吐け。ウシオは思わずそう叫びたくなった。メガサメハダーを一撃で伸せるような存在が、単なる船乗りであってたまるものか。
「……ハギ……ルンパッパ使い、……元船乗り……! まさか! あのハギか!?」
「!? どうした!? オマエ何か知ってんのか!?」
老人が名乗ったハギという名。それを聞いたしたっぱの一人が何かに気が付いたように、その表情を変える。
「あ、ああ。間違いねえ。ハギって名前の矢鱈と強えルンパッパ使い何て一人しか思い浮かばねえ! ――
四天王。それはポケモンリーグにおけるチャンピオンに挑む最後の門番。数多のトレーナーとの戦いを勝ち抜き認められた、その地方における最強の5人。星の数ほどいるトレーナーたちの、限りなく頂点に近い怪物たちである。そして目の前の老人はかつてそんな怪物たちの一角だったのだという。
超級の実力者を前にして、
「ほっほっほ。また随分と懐かしい名じゃのう。――で、それを聞いて貴様らはどうする?」
ハギ老人の全身から滲み出る圧倒的な覇気。遥か高みから発せられたそれにアクア団たちは思わず怯んでしまう。
「おお、そういえば。貴様ら何やら"にもつ"を
盗んだ"にもつ"を返してとっとと去れ、そうアクア団へと告げるハギ老人。
「返さぬというのなら――仕方あるまい。海を拡げるなぞと嘯く貴様らに、儂が海の何たるかを教授してやろう」
「……Guu……ッ!」
遥か高みからの屈辱的な発言にウシオは思わず歯噛みする。盗んだ荷物を持ち帰り、
(ここでオレッちがツカマッたらアクア団の、アニィのヤボウにトンデモねエ影響がデチマう……!)
それだけは何としてでも避けねばならなかった。
「――――クソがッ! ジジイ! ツギに会ッタら絶対にぶっとバしてヤル!」
そう捨て台詞と共に、ハギ老人に"デボンのにもつ"を投げ渡すウシオ。
「ズラカルぞ、シタっぱどもッ! ――マリルリィ! "あなをほる"だッ!」
彼の命令を受けたマリルリは洞窟壁面を殴りつけ、膨大な土煙を発生させる。果たして土煙が収まった後、
さて
取り返した"にもつ"はカナシダトンネルの入り口にてデボンの研究員に渡してやった。"にもつ"を渡された時は喜んでおったが、負傷したお嬢ちゃんを見た途端、慌てふためいておったな。自分のせいでお嬢ちゃんが怪我をした、と。研究員の様子があんまり情けなかったから、一発叱りつけてやった。お主がやることは慌てることではない、この事を上に報告し、しっかりと責任をとることじゃ、と。そうしたら、何やら覚悟を決めた顔をしとったな。うむ、あれならば大丈夫じゃろう。
お嬢ちゃん――名をハルカちゃんというらしい――を病院に送り届け、その後お嬢ちゃんのポケモンを代わりにポケモンセンターに連れて行く。その内の一匹、キノココは驚いたことにお嬢ちゃんのポケモンではなく、何と野生のポケモンなのだという。何でも一度仲間に勧誘したが断られてしまったのだとか。だが、その後も何故かお嬢ちゃんに同行しているらしい。何とも変わったポケモンだと話すお嬢ちゃんの顔は、ポケモンに対する愛情に溢れておった。
――彼女の負った傷。アレはこのキノココを庇った際に付いたものだそうじゃ。失礼じゃったが、それを聞いた時儂は思わずこう疑問を口にしてしまった。手持ちでもないポケモンになぜそこまでするのか、と。そうしたらお嬢ちゃんは事もなげにこう答えよった。
どこまでもポケモンに向き合い、危機においては自身が傷つくことすら厭わず、時に命すらを賭けるその姿勢。儂はこの子は良いトレーナーになる、そう思ったのじゃ。
ポケモン
その点、
荒唐無稽な、しかしどうもそんな気がしてならない予感に儂はいつのまにやら笑みを零しておった。
くはは。久方ぶりのバトルだったせいか、どうも血が滾っとるようじゃわい。ふむ、そうさな久方ぶりに
旧友たちとの数十年ぶりの
そうこの時、儂の心は確かに、50年前のあの頃に戻っていたのだった。
ウシオがマリルリを使用するのはポケスペのオマージュです。
ポケスペのウシオのマリルリは目付きが悪い→目付きが悪いのはウシオの性根が歪んでいたから→ポケモンはトレーナーによって強く影響を受ける→ORASのウシオは筋肉モリモリマッチョマン→つまりその手持ちのマリルリも影響を受けてマッチョになるのでは(名推理)