当作品には独自展開、独自解釈、設定捏造、キャラ崩壊が多分に含まれています。
上記の要素が苦手な方はご注意ください。
また当話には原作におけるとあるキャラクターを貶める表現が含まれています。閲覧の際はご注意ください。
さらば友よ。我らの旅路が再び交差するその時まで――願わくばその旅路に幸いが多からんことを。
吾輩が目を覚ましたのはSFちっくな機械の並ぶポケモンセンターの治療室であった。
うむ、この景色も大分見慣れてきたな。
もはや馴染みの感すらある光景に吾輩は一人頷く。違いがあるとすれば今回は側にバンダナ少女がいないことくらいか。
と、そこへ赤いバンダナをピコピコ揺らしながら、同行人の少女がやって来る。こちらに気付いたバンダナ少女へ吾輩は軽快なステップで息災なことを伝えてやった。
余り動くなと女医より怒られた。
吾輩は少しヘコんだ。
さて、いつもの三倍ほどブオンブオンと鳴る機械に乗せられた後、治療を終えた吾輩はバンダナ少女に思い切り抱き締められていた。
万力の如き締め付けに負傷より回復したばかりのボディが悲鳴を上げるが、吾輩はそれを無視しバンダナ少女にされるがままとなる。
仕方あるまい。結構な心配をかけさせてしまったのだ、この程度甘んじて受け入れよう。出来れば吾輩が意識を失う前に解放してくれることを願うばかりだ。
今回も何とか意識を失う寸前で解放された吾輩。そこでふと、バンダナ少女の左肩が包帯で覆われているのに気が付く。疑問に思う吾輩の視線に気が付いたのか、バンダナ少女は吾輩が気絶した後のことを話す。
何と、その傷は吾輩を庇ったことで受けたものだったのか。吾輩が無事であればそれで良いと、何でもないことのように語る少女の姿に吾輩は驚愕と共に強い自責の念に駆られた。
彼女が傷を負ってしまったのは紛れもなく吾輩の所為である。吾輩が野生のポケモンであった故に、彼女は吾輩を
いや、そもそもだ。究極的に言ってしまえば吾輩が弱いからこうなったのだ。スバメも、ワカシャモも彼女の
翻って吾輩はどうか。ジムリーダー戦も
ああ、やはり吾輩など
なるほど今からでも頭を下げれば、彼女は吾輩を手持ちとして迎えいれてくれるであろう。しかし、彼女の
――それでも。
吾輩は思う。
――それでも、楽しかったのだ。
バンダナ少女と共にしたこの数日間の旅はどうしようもないほど楽しかった。
仲間たちと共に強敵に挑むのが嬉しかった。
夢に向かってひた走る、バンダナ少女の姿は眩しかった。
この旅がこれで終わるのかと思うと寂しかった。
もう少しだけ続けたくなるくらいに、この旅は吾輩にとって良きものであったのだ。
ああ、少女よ。願わくば――
と、そこでしょげ返っていた吾輩の様子を心配そうに見つめるバンダナ少女に気が付いた。それを見た吾輩は内心を押し隠し、努めて元気に振る舞ってみせる。
なに少女よ、何の問題もありはしない。ちょっとセンチメンタルな気分に浸っていただけである。ほれこの通り吾輩は元気そのもの。だから心配などご無用だ。
バンダナ少女は急に雰囲気を変えた吾輩のことを訝し気に眺めていたが、渋々といった感じに納得したようである。
さて、バンダナ少女に連れられてポケモンセンターを出た吾輩。そんな吾輩たちを待ち構えていたように、上質なスーツを来た男が声を掛けてきた。自らをデボンコーポレーション社長秘書だと名乗った男。曰く、デボンの社長が吾輩たちに直接会って今回の件に対する謝罪と礼をしたいのだとか。
用向きがあるならばそちらから出向けば良かろう、何故吾輩たちが態々赴かねばならんのだ、とは思ったが、バンダナ少女の持ち前のお人よしと秘書を名乗る男の丁寧な物腰に、毒気を抜かれた吾輩は素直に男に付いて行くことにした。
男の後をノコノコついて行き、辿り着いたのはホウエンが誇る大企業、デボンコーポレーションの社長室。
流石は大企業の社長室。見事な調度品が飾られた豪華な部屋である。だが、それ以上に部屋中に飾られた多種多様の化石・鉱物が目に付いた。それでも化石・鉱物が部屋の雰囲気を乱すことなく、むしろ部屋にしっくりときているのは流石と言ったところだろう。――聞いた話によれば、これらは社長自ら集めたコレクションだったらしい。社長は何でもとてつもない鉱物マニアだとか。後に社長の息子もまた石マニアであると知った時、血は争えぬと納得したものであった。
そんな社長室の奥、代表取締役のデスクに座るのがデボンコーポレーション社長ツワブキ・ムクゲ氏。紫紺のスーツを身に纏う、ロマンス・グレーの老紳士である。その顔は年齢を感じさせながらも非常に整っており、若い頃はさぞやモテたであろうと思わせるものであった。
何やら電話を掛けていたツワブキ氏は吾輩たちに気がつくと、すぐに電話を切り上げる。そして吾輩たちに設られたソファに座るよう勧めると、自身も対面へと腰掛けた。
対面にて向かい合う形となったツワブキ氏と吾輩たち。そんな吾輩たちにツワブキ氏が行ったことは、吾輩たちに頭を下げ、此度の一件の謝罪を述べることであった。
曰く、今回の一件にてバンダナ少女が傷を負ったのは我々の責任。先ずは謝罪させて欲しい、と。そして掛かった治療費はこちらで負担させて貰った上、さらに何かしらのお詫びの品を用意したい、と言った。
ホウエンが誇る大企業のトップが、いくら傷を負わせる要因となったとはいえ一介の少女とポケモンに過ぎぬ吾輩たちに頭を下げる。大企業の社長の頭というものがそうホイホイ下げられるほど安くないのは吾輩でも分かる。それを分かった上でツワブキ氏は頭を下げたのだ。吾輩はツワブキ氏の真摯な姿勢に感心すると共に、成る程これが組織の
勿論、お人好しのバンダナ少女には効果覿面である。彼女は自分より遥かに歳上の社会的地位のある男性に頭を下げさせることに耐え切れず、慌てた様子で頭を上げて欲しいと言った。しかし、それでもツワブキ氏は頭を下げるのを辞めず、結局数分間の押し問答の末、ようやく頭を上げるのだった。
うまいな、と思う。こうして真摯に頭を下げる姿勢を見せることで、吾輩たちはもう社長からの謝罪を受け入れる他なくなった。先手を打って謝罪することで、吾輩たちにゴネる隙を与えず、賠償を自分たちが用意したものだけで済ませる。別に反省の色が見えないといってこれ以上の賠償を要求しようなどという気は毛頭ないが、相手を納得させた上で自らの被る被害を最小限に留めるやり方に、吾輩はこれが大企業社長を務めるものの器というものかと、素直に感心したのだった。
さて、ツワブキ氏が謝罪を終えると、次は吾輩たちが詫びの品を受け取る番であった。
ツワブキ氏が用意した品は二つ。一つはムロタウン行きの船の手配。何でもカナズミ―ムロ―カイナ間を移動するため、デボン社が保有する船――カクタス号というらしい――を操縦士付きで貸してくれるのだとか。
これはありがたい。バンダナ少女の次なる目的地、ムロタウンはホウエン本土より離れた離島である。海を渡る手段を持たないバンダナ少女は、どうやって向かうべきか頭を悩ませていたのだ。うむ、これぞまさしく"渡りに船"といったところであろうか。
内心、「うまいこと言ってやった」と、したり顔の吾輩。そんな吾輩を余所に次なる品の用意をするツワブキ氏。吾輩は少しだけ悲しい気持ちになった。
そんな吾輩の感情はさておき、ツワブキ氏は秘書の男性に声を掛けると、何やら手のひらほどの大きさの箱を持ってこさせる。そして秘書が持ってきた箱を目の前のデスクに置くと、ゆっくりとそれを開けた。
隣にいたバンダナ少女が息を呑むのが分かった。かく言う吾輩も目を丸くし、明らかになった中身を驚きをもって見つめる。
箱の中身はポケモンを捕獲する『モンスターボール』であった。だが、そんじょそこらのボールではない。ボール上半分に施された
吾輩の目が間違いでなければ、これは全ポケモントレーナー垂涎の代物。あらゆるポケモンを確実に捕獲するという至高のボール――『マスターボール』であった。
これは驚いた。まさか『マスターボール』をこんなところでお目にかかれるとは。吾輩はこの"世界"のことを前世の知識としてしか知らぬが、それでも
震える声で『マスターボール』を指差し、ツワブキ氏に何度も本当にこれを貰ってよいのか確認するバンダナ少女。ツワブキ氏はそんな彼女に、これは
ツワブキ氏からの謝罪を受け入れ、詫びの品も受け取った吾輩たち。これで吾輩たちがここに訪れた目的は達成された訳だが、それが終わった後も吾輩たちはまだ社長室にいた。若いトレーナーと話す機会もあまりないから、とツワブキ氏が吾輩たちと少し雑談することを望んだのだ。吾輩たちとしても特に問題は無かったので、ツワブキ氏との雑談に付き合うことにした。
始めは当たり障りのないことを話していたが、バンダナ少女がうっかり社長室中に飾ってある鉱物のことに触れるや否や、途端にツワブキ氏がヒートアップ、立て板に水といった勢いで石について語り始めた。マニアという人種は語り始めたら止まらない。部屋に置いてある鉱物について、その性質や希少性、美しさなどを聞いてもいないのに熱心に解説しだし、挙句の果てに図録まで持ち出す始末。
正直に言って内容のほとんどがちんぷんかんぷんであったが、ツワブキ氏が高速で捲っていた図録の中に吾輩は見過ごせぬものを見つける。吾輩の様子に気が付いたバンダナ少女は、気を聞かせてツワブキ氏に目的のページまで戻るように言ってくれた。目的のページにまで辿り着いた吾輩は、ツワブキ氏に一声鳴きその手を止めさせる。そのページに載っていた鉱物、それは吾輩が今求めてやまぬ代物。持たせたポケモンの進化を抑制する不思議な石、通称『かわらずのいし』であった。
おお、これなるは『かわらずのいし』。紆余曲折あって先送りとなっていたが、吾輩がカナズミシティに赴いた目的は本来この"いし"の情報を得るためである。それがこのような形で手に入るとは、世の中何が起こるかわからない。やはり情けは人の為ならず、というものか。
ということで、早速吾輩は『かわらずのいし』が何処にあるのかを確かめんと目を皿のようにして図録を覗き込んだ、のだが……。
ダメだ、字が読めん。
よくよく考えれば今生にてポケモンとして生を受けた吾輩。そんな吾輩が文字を読めるよう教育を受けている筈もなく。眼前に記された全く未知の文字体系を前に、膝を屈する他なかった。
あな口惜しや。喉から手が出るほど欲しい情報が目の前にあるというのに、吾輩の知識不足故に手に入れることが出来ぬ。吾輩は血涙を滴らせんとばかりに目を見開き、前方の図録を睨みつけた。
が、そこに伸ばされる
ありがとう、
助かったぞ、
全くもって持つべきものは友である。
バンダナ少女の質問を受け、ツワブキ氏は実に丁寧に解説をしてくれた。何でも『かわらずのいし』は、『ムロタウン』に程近い『石の洞窟』で産出されるのだとか。
なるほど『ムロタウン』に程近い、と。……バンダナ少女の目的地もまた『ムロタウン』、となればバンダナ少女に同行するのが最も効率的か。
うむ、そう言う訳だバンダナ少女よ。後、もう少しだけ世話になるぞ。そう意図を込めて、吾輩はバンダナ少女の顔を見上げた。生憎バンダナ少女には伝わらなかったようで、彼女は不思議そうな表情を浮かべていた。
ふと、ツワブキ氏が突然なにかを思い出したかのように、そういえば、と声を上げる。曰く、ムロタウンには今、石マニアであるダイゴという男が滞在している、もしかすれば彼が力になってくれるかもしれないとのことだった。
気になった吾輩たちがダイゴというのがどのような男なのか聞くと、何とツワブキ氏の息子なのだという。彼もまた社長譲りの石マニアであり、珍しい石を求めてホウエンはおろか世界中を回っているそうだ。
なるほど。つまりそのダイゴという男、親が金持ちであることを良いことに、いい年こいて*1定職*2にも付かず好き放題の放蕩三昧と。
――うむ、典型的なボンボンのドラ息子という奴だな。
吾輩はそんなチャランポランな人物に
吾輩の心配を余所にツワブキ氏は、それならばとその場で
……バンダナ少女よ、其方はホイホイ他人の頼みを引き受け過ぎだ。
吾輩はこのお人好しの少女が将来、悪人に騙されて非道い目に遭いはしないかと本当に心配になった。
さて、ツワブキ氏との対談を終えた吾輩たちは、現在『トウカの森』に来ていた。
ツワブキ氏が手配してくれた船の出立準備が整うのは速くとも明日になるとのことで、少し時間が出来たバンダナ少女と吾輩。そこで吾輩は『トウカの森』に存在するとあるものを思い出し、これからの冒険に役立つかも知れぬと、バンダナ少女を誘ってやってきたという訳である。
おっと、ここだここだ。
見渡した風景の中に、お目当ての目印を見つけた吾輩は、バンダナ少女の裾を引き、林道横の茂みに潜って行く。
林道を外れ、森のポケモンたちのみが知る秘密の道を通って少し行けば、そこに広がっているのは鈴生りに実を付けたオレンの林。吾輩たち『トウカの森』の住人だけが知る秘密の果樹園である。うむ、本当は森の仲間のみが知る場所なのだが、バンダナ少女ならば教えても問題なかろうて。
鈴生りのオレンの木を見上げ目を輝かせるバンダナ少女。彼女は早速手持ちたちをボールより出だすと、共に『オレンの実』の収穫を始めた。
手持ちたちの活躍もあり、あっという間に両手いっぱいの『オレンの実』を手に入れた吾輩たち。
うむ、これだけ有れば当面は十分であろう。沢山収穫したが、果樹園全体の総量から見れば微々たるもの。森の仲間たちの分はしっかりと残されておる。
……バンダナ少女がもし欲の皮を突っ張らせ、この場の全てを自らのものとしようとしたらどうしようかと思ったが、どうやら杞憂であったようだ。彼女はこれだけ有れば十分と、両手いっぱいの『オレンの実』を得た時点で収穫を切り上げていた。
森の恵みはそれを求むる者たち全てのもの。得て良いのは自らにとって必要な分だけ。己のことのみを考えて、恵みを独り占めにしようとする者は手痛いしっぺ返しを食らう。バンダナ少女はそれをしっかりと弁えた"足るを知る"者であったようだ。笑顔で礼を言うバンダナ少女を見ながら、吾輩はそう内心独り言ちたのであった。
ところでバンダナ少女よ。今回収穫した『オレンの実』だが、少し吾輩に分けてもらえるだろうか。いや勘違いするでないぞ、吾輩はただ旅先で傷を負った際に回復できる手段を備えておきたいだけだ。決して吾輩も食べたかったとか、そういう訳ではない。無論のこと、キノココの我が身では聳えるオレンの木に手が届かず、落ちているオレンを食する他無かったことも断じて関係がない。
バンダナ少女は笑顔で『オレンの実』をくれた。
もぎたての『オレンの実』はじつに美味かった。
手持ち達からは生暖かい目で見られた。
……いや、違うのだぞ?
明くる日。一晩休んで英気を養った吾輩たちは、ツワブキ氏より指定された時間にカナズミシティの港へと向かう。港に着いた吾輩たちを出迎えたのは、何とも立派なクルーザーであった。
なるほど、これがカクタス号か。吾輩たちだけのためにこのような船を用意するとは豪勢なものだ。吾輩は
それは隣のバンダナ少女も同じであったようで、絢爛豪華なクルーザーを一目見て、口をポカンと開いたまま魂消けたように固まっていた。
うーむ。バンダナ少女とてジムリーダーの娘としてそれなりの暮らしをしておった筈。その彼女をしてここまでのリアクションを取らせるとは、富裕層恐るべし。
カクタス号の船の旅はあっと言う間であった。流石は高級高性能のクルーザー、そんじょそこらの船とは出力が違う。104~106番水道を圧巻のスピードで駆け抜けるのを見るのは実に爽快で、吾輩も随分とはしゃいでしまった。因みにはしゃぎ過ぎて、危うく船より落ちそうになったのは秘密である。やはり無手無腕の吾輩が船べりでステップを踏むのはまずかったか。
それはさておき。吾輩たちが船に揺られ、到着したのは『青い海に浮かぶ小さな島』ムロタウン。ホウエン地方南西部の離島に存在する小さな田舎街である。主要産業は漁業とポケモンジム目当てのトレーナーに対する観光業。その他、町外れにある『石の洞窟』は珍しい石が産出されるらしく、その手のマニアが良く訪れるのだとか。後、最近原始時代に描かれた壁画が見つかったとのことで、町の新たな観光資源にしようと盛り上がっているらしい。
というのが吾輩が聞いた『ムロタウン』の概要である。道中、バンダナ少女が観光パンフレットを読み上げてくれた。
『ムロタウン』に到着した吾輩たちが真っ先に向かったのは町外れの『石の洞窟』である。ここに吾輩の目的物である『かわらずのいし』があるからだ。それに吾輩たちには
さて、『石の洞窟』に辿り着き早速中へ入った吾輩たち。内部はあちらこちらに照明が設えられており、洞窟の割にはかなり明るかった。壁画を見に来た観光客のために整備されたらしいものらしい。
……その割には観光客がほとんどおらず人気が無かったが。どうやら壁画の知名度はまだまだ低いようだ、『ムロタウン』の役人にはもう少し宣伝を頑張って欲しいものである。とはいえ、お蔭で実にスムーズに壁画まで辿り着けたので、その点においては吾輩たちにとって好都合であった。
壁画の間に入った吾輩たち――実は壁画の間に行くか、もっと奥へ行くか迷ったのだが。奥はまだ未整備であり、吾輩はともかくバンダナ少女が立ち入るのは難しそうであったため、先に比較的整備された壁画の間へ行くことにしたのだ――はそこに佇む一人の青年を見つけた。
その銀の髪を持つ青年は何かを感じ入るように原始の壁画を見つめている。ちらりと見えたその横顔は非常に整っており、何処となくツワブキ氏の面影があった。
間違いない。アレがツワブキ氏の言っていた
しかし吾輩たちはツワブキ氏よりこの男宛ての手紙を預かっておる。近づかぬ訳にもいくまい。
……仕方ない、
そう思って
壁画に描かれていたのは二柱の荒ぶる神々の戦い。
左方には大いなる大地の化身。日照と干魃を呼び、岩漿を以て海を埋める山神の荒御魂。
右方には偉大なる大海の化身。嵐と雷雲を呼び、大浪を以て陸を削る海神の荒御魂。
神々の戦いは正しく災害そのもの。周囲にはその発露より逃れようと逃げ惑う、人間とポケモンの姿もあった。
それは
凄まじい。
壁画を見て、吾輩が真っ先に抱いた感想がそれであった。決して巧いという訳ではない、しかしこの絵からは描き残した者たちの「畏れ」がありありと伝わって来る。
これなるは原始の"神"。人の力など遠く及ばぬ自然神。おそらく
描かれた当初の目的がなんであったのかは分からぬ。信仰のためか、戒めとするためか、或いは閉じ込めるためか。少なくとも今分かるのは、この壁画には後の世に残そうという強い祈りが込められていることだけだった。
それを見た吾輩は大急ぎで彼奴とバンダナ少女の間に立ち塞がり、両者の間にて壁を作る。
ええい、離れんかドラ息子。
ドラ息子をバンダナ少女より引き剥がさんと、吾輩は二人の前をぴょいんぴょいんと跳ね回る。その様子にバンダナ少女は困惑し、ドラ息子は苦笑いを浮かべていた。
この時の吾輩たちの間には何とも弛緩した雰囲気が漂っていた。だが、次の瞬間その雰囲気は一変する。
突如として吾輩たちを震動が襲った。壁画の間全体がガタガタと揺れ、天井からは砂埃が落ちてくる。予期せぬ地震でバランスを崩し、危うく倒れそうになるバンダナ少女。咄嗟にドラ息子が助けに入ったことで倒れずに済んだ。その際ドラ息子がバンダナ少女に触れるが、緊急事態故いた仕方なし、今回は見逃してやる。
しばらくして揺れが収まると、吾輩たちは安全のため一度洞窟の外に出ることにした。洞窟より出でた後、ドラ息子は町の様子を見にいく、と手持ちであろうエアームドを繰り出しそのまま"そらをとん"で去って行った。
一方のバンダナ少女はと言えば、彼女もドラ息子と同様に『ムロタウン』に戻るようである。
――そうか。ならば、吾輩たちの旅はここで終わりか。
『ムロタウン』へと歩み出した少女に吾輩は追従することなく、砂浜にて立ち止まり鳴き声を一つ上げる。吾輩が付いて来ていないことに気が付いたバンダナ少女が不思議そうな表情で見つめてきた。吾輩はそんな彼女にゆっくりと首をふる。
――バンダナ少女よ、ここでお別れだ。短い間ではあったが、其方との旅は楽しかったぞ。
吾輩の目的はこの『石の洞窟』にて『かわらずのいし』の手に入れること。其方がムロに戻るのであれば、吾輩たちの目指す場所は異なることとなる。故に、もう行動を共にする必要もない。これにて吾輩たちの旅路は別たれ、双方己が道を往くのだ。
少女は吾輩の意図を察したのか、顔に驚愕を浮かべ――次に寂しげな表情となる。
元々はカナズミジムに挑戦する彼女を、目的ついでに助力したのが始まりだった。本来はカナズミジムへの挑戦が終われば、そこで別れるつもりだったのだ。しかし何の因果か、悪漢の幹部に挑むこととなり、果てはこの離島まで共に赴くこととなった。
彼女たちと吾輩は元より同行人の関係、理由が無ければお互いの旅路に干渉することもない。少々長く共に居過ぎたが、吾輩たちの関係は互いの目的を達したらそれで終いの、そんな関係であった筈なのだ。
――いいや、それらは言い訳に過ぎん。
バンダナ少女と共にしたこの数日間の旅はどうしようもないほど楽しかった。
仲間たちと共に強敵に挑むのが嬉しかった。
夢に向かってひた走る、バンダナ少女の姿は眩しかった。
彼らとの旅が終わるのかと思うと寂しかった。
いっそのこと吾輩も
だが駄目だ。駄目なのだ。
正直に言おう、今の吾輩は弱い。どうしようもなく弱い。それは単純な
キノココという種族が持つ最大の特徴は『キノコのほうし』。使えば相手を必ず眠らせる強大な技である。キノココはそれを習得できることが最大の強みだ。だが、それは裏を返せばキノココという種族の強みが『キノコのほうし』
そして『キノコのほうし』の習得には未進化状態での
それでもバンダナ少女は吾輩を見捨てはしないだろう。手持ち達もそんな吾輩をバカにしたりなどすまい。だが駄目なのだ。そのような状態に、誰よりも
吾輩は其方らの足手纏いになりたくない。だから其方とは共に居られない。
――しかし
それでもなお、其方が吾輩と共に在りたいと言ってくれるのならば。
吾輩が
果たして吾輩の意思が通じたのか。しばし見つめ合った後、バンダナ少女は徐に己がバンダナをしゅるりと解くと、吾輩の体に巻き付ける。
その際にかけた言葉は唯一つ、「またね」。
踵を返しムロタウンへと去り行く少女。
彼女が振り返ることはない。なぜなら旅路の果てに再会を約束したのだから。
彼女がすることは決まっている、己が旅路をただ進むこと。なぜなら進んだ先で再び見えることを信じているのだから。
未来を目指し己が旅路を歩む
時折その姿が滲んだように思えたが、それは潮風が目に染みたせいだろう。
きっと、そうなのだ。
去り行く
友との再会は約した。ならば吾輩のすべきことは唯一つ。
――強くなること。
そのために真っ先にしなくてはならないこと。それは一刻も早く『かわらずのいし』を手に入れることだ。さあ、いざ往かん『石の洞窟』。待っているがよい『かわらずのいし』、必ずや吾輩が手に入れて見せよう。
そうして再び『石の洞窟』へと辿り着いた吾輩は、洞窟の入口より少しだけ様子を伺う。ふむ、どうやら余震などもないようだ。これならば大丈夫であろう。
といって吾輩はトコトコと洞窟の中へと入ってゆく。目指すのは壁画の間へ続く分かれ道のその反対側、先に入った際に断念した奥の未整備区画である。
先のバンダナ少女とドラ息子との会話を漏れ聞いたところ、『かわらずのいし』というのはこちら未整備区画のさらに深い場所でよく見つかるらしい。――あのドラ息子、趣味人なだけあってその辺りの知識は豊富なようである。
と、そんな益体もないことを考えていた吾輩の前にそそり立つ険しい崖が現れる。うむ、相変わらず険しさだ。専用の装備なくば人間ではとても登れんだろう。これのおかげで先ほどバンダナ少女と共に来た際は奥に行くことを断念したのだ。
だが、登攀が困難なのは人間だけの話。
吾輩は崖より突き出したでっぱりを見つけると、一跳びで跳び乗った。そのままさらに上のでっぱりを探し、ひょいひょいと跳び乗っていく。
ポケモンの身体能力というのは実に素晴らしい。バトルの際に度々発揮されるこの力があれば自然の障害物程度この通り、実に容易く乗り越えることが出来る。こうした時にはやはりポケモンの肉体というのは便利である。
そうして容易く崖を乗り越えた吾輩の目の前には、さらに洞窟奥深くへと続く穴がぽっかりと口を開けておった。先は長い、どんどん行こう。吾輩は一切の躊躇なく、黒々とした穴へと飛び込んでいった。
穴を降りて少しすると再び広い空間に出た。差し込む光は極僅かで周囲はかなり暗い。人間では一寸先を見通すのにも一苦労するだろう。だが、問題ない。キノココアイは透視力。この程度の暗闇などポケモンの身体能力を以てすれば物の数ではない。地上とほとんど変わらずに活動可能である。
げに恐ろしきはポケモンの環境適応能力か。本来は薄暗い森の中に住む吾輩であっても、洞窟内で何の問題もなく活動できるのだ。これが仮に吾輩が苦手とする環境であったとしても、案外平気で生きていけるのかも知れぬ。もしかすれば世界には従来とは全く異なる環境に居住し、その環境に即した姿に適応変化したポケモンがいるかも知れんな。
そんなことを考えていると、突如背後より敵意を感じ、吾輩は急いでその場から跳び退く。一拍遅れて先ほどまで吾輩が立っていた床が突撃してきた何者かによって踏み砕かれた。
むむ、考え事の最中に襲ってくるとは。貴様、何奴か。
襲い掛かった下手人の姿をよく見れば、大きさは吾輩とそう違いなく。体表に微かな光を反射して煌く、鋼の鎧を纏った四足獣。"てつヨロイポケモン"ココドラであった。ココドラは敵意に満ちた瞳で吾輩を睨み、フンフンと鼻息荒くこちらへと向き直る。
なるほど、縄張りを侵した吾輩を制裁せんとしたか。貴様の縄張りを侵したのは吾輩の非だ、それは詫びよう。だが吾輩とてそう容易く倒されてやる訳にはいかん。――「目と目があったらポケモンバトル」はこの"世界"の倣い。かかってくるがよい、今宵の吾輩は血に飢えておる。
吾輩の闘志を感じ取ったのだろう。ココドラは勢いよく吾輩に突撃してきた。
なお、
幾ら相性有利の相手とはいえ、ここまで簡単に勝利できたことに少し驚く。どうやらバンダナ少女と共に挑んだ強敵たちとの戦闘は、吾輩を以前より
――ならば益々気を引き締めねばならん。
彼女と数日共に旅しただけの吾輩ですら"コレ"なのだ。今後も共に旅をするであろう彼女の手持ちたちは、再会した暁にはどれほど強くなっているのやら。いざ手持ちに加わった際に吾輩一人だけ足を引っ張るような有様では勇んで別れた意味がない。日々追いつき追い越せの精神で修業せねばなるまいて。吾輩はさらに強くなった
さて先ほど吾輩が勝利したココドラであるが、先ほどとは打って変わって妙にペコペコした態度で接してきた。丁度よかったので此奴に『かわらずのいし』の在処を知らぬか聞いてみると、何とそれらしきものを見たことがあるという。何でもその場所まで案内してくれるということだったので、吾輩は取り敢えず此奴に付いて行ってみることにした。
道中、吾輩たちに
それにしても襲撃が妙に多いような気がするが、これはどういったことであろうか。そんな吾輩の疑問にココドラが答えてくれた。曰く、ここ最近妙に地震が多く。それにおかしな恰好をした人間が度々入り込んでくるため、皆気が立っているのだという。
ふむ、
おい、ココドラよ。そのおかしな恰好の人間というのは青っぽい服を着た海賊のような連中か?
ところが、ココドラの回答は否だった。彼曰く、その人間たちは皆一様に
「青」ではなく、「赤」。なんだ
と、そんな会話を続けていると、とうとう目的地に辿り着いた。そこは台座のように盛り上がった地面に巨大な岩が鎮座する広場のような場所。そこでふと吾輩の目に飛び込んでくるものがあった。
おお、これなるは『かわらずのいし』! 間違いない、ツワブキ氏の図録に記載されていた通りだ。やったぞ、とうとう吾輩は手に入れたのだ!
ねんがんの かわらずのいしを てにいれたぞ!
故郷を出た当初の目的が叶い、狂喜乱舞する吾輩。有頂天になるあまり華麗なステップの他、ムーンウォークまで披露してしまった。
目的の物が見つかり、
吾輩が案内ご苦労、もう行ってよいぞと伝えると、ココドラはまるで危ない人物から離れるようにソソクサと立ち去っていった。
念願叶って上機嫌の吾輩はそのまま鼻歌など歌いつつ帰路に就く。出口を目指して元来た道を引き返していたところ、そこで聞きなれぬ耳障りな叫び声を耳にした。
――ウイイイーーーーーーーッ!
はて、これは一体何の鳴き声か。『石の洞窟』に響く耳障りな声に胸騒ぎを感じ、吾輩はその音が聞こえてきた方に向かうこととした。
気づかれないようひっそりと音源へと近づいた吾輩。そこで吾輩はとある二匹のポケモンを発見した。
一匹は"くらやみポケモン"ヤミラミ。宝石のような目をギラつかせ、爪に邪悪なオーラを纏わせながらもう一匹に迫っている。
対するもう一匹は――、アレは何だ?
ヤミラミに詰め寄られ、怯えたような表情で後退る見たことのないポケモン。下半身は岩塊のようである一方、上半身はまるで妖精、あるいは人間の少女を思わせる人型の形状。どこか猫にも似た頭部には大粒の桃色金剛石が冠の如く戴かれ、後頭部からも同色の結晶がさながら二つ結いの髪のように垂れ下がっていた。
うーむ。もう一匹は前世においても今生においても見たことのないポケモンだ。その何とも煌びやかでファンシーな見た目は、前世でちらりと見かけた女児向けのアニメなどに出てきそうな具合である。
さて、吾輩はどうすべきか。
ヤミラミの主食は宝石。ならば奴の目的はあのファンシーなポケモンの捕食であろう。何せ全身が煌びやかな宝石で包まれている、奴にとっては極上のご馳走に見えるに違いない。
一方のファンシーポケモン。彼女は――外見から取り敢えず少女と判断する――傍目に見ても怯えきっており、真面に抵抗する気概があるようにも見えぬ。恐らくそう遠くない内にヤミラミに捕食され、命を落とす筈だ。
もしこれが単なる生存競争であるならば、吾輩が介入する理由は無い。食う、食われるは自然の常であり大いなる理そのもの。大自然の定めた掟に吾輩は逆らうつもりは無い、のではあるが……。少々気になる点がある。
それはヤミラミの頭部にバンドで取り付けられた
人間が悪意を以てポケモンを傷つけようというのならば、元・人間の吾輩が義憤以てそれを挫くことは大自然の理を逸脱するものではない。大手を振って介入することが出来よう。
……色々と御託は並べたが、吾輩自身は既に彼のファンシーなポケモンを助けるつもりであった。悪意を以てポケモンを傷つけようとする人間に対する義憤もそうだが、何より吾輩自身見たことのないポケモンが気になって仕方なかったのだ。やれやれ、この"世界"に
そうと決まれば行動開始だ。
ヤミラミの背後、丁度
――これは先のサメハダーとの戦いにて、大地を媒介としない遠距離での物理攻撃手段の必要性を痛感した吾輩が、新たに編み出した攻撃技。
作成した弾丸をさらに噴出孔内に"くさ"エネルギーで形成した
弾丸にに充填された"くさ"エネルギーが終に爆発寸前に至った時、吾輩は意図してその制御を手放した。制御が失われた"くさ"エネルギーは噴出孔内で炸裂し
――その名も"
射出された弾丸は見事にヤミラミの後頭部を打ち抜き、強い衝撃を与えられたヤミラミはその場でふらりふらりと揺れた後、パタリと倒れて動かなくなった。完全に気絶したようである。
倒れた拍子に零れ落ちたカメラを尻で踏みつぶし、ファンシーなポケモンに近づく吾輩。取り敢えず「大丈夫か」と声を掛ければ、命の危機を脱した安堵からか、ファンシーポケモンはピイピイと泣き出してしまう。何やら幼いポケモンのようにも見受けられる故、いたしかたないとも言えるが、
洞窟内に手頃な横穴を見つけ、一先ずそこへ潜り込んだ吾輩たち。そこで吾輩は助けたファンシーポケモンが何者であるのかを聞こうとしたのだが、件のファンシーポケモンはまだグズグズ泣いておる。
ええい、泣くでない。それでは話が出来んではないか。……仕方がない、吾輩の『オレンの実』を一つやるからこれで泣き止め。
そう言って吾輩は秘蔵の『オレンの実』を一つ、ファンシーポケモンに渡してやる。手渡されたファンシーポケモンは取り敢えず泣き止んだものの、掌の上の『オレンの実』を不思議そうに見つめるばかり。
なんだ貴様、
といって吾輩はもう一つ『オレンの実』を取り出し、見本とばかりに目の前で食ってやる。うむ、美味い。少々鮮度が落ちているが、これはこれで乙なものである。
吾輩の様子を見ていたファンシーポケモンは恐る恐るといった具合に『オレンの実』を一口齧り、パッとその顔を輝かせた。どうやら味がお気に召したようである。そのままパクパクと食べ続け、あっという間に全て頬張ってしまった。先ほどまでの泣き顔はどこへやら、今はすっかりご満悦の表情である。
今泣いた
何? もっと『オレンの実』は無いのか、だと? 意外と図々しいな貴様。
吾輩がもう一つ『オレンの実』をくれてやれば、ファンシーポケモンはそれをあっという間に食べ尽くす。そうして落ち着いたところであらためて、吾輩はこのファンシーポケモンが何者であるのか聞くことにした。
貴様は何者かという吾輩からの問いに応えて、彼女は自らの身の上を話し出す。
曰く、彼女はこの洞窟の地底深くに存在する「世界で最も美しい国」こと「ほうせきの国」の生まれであり、そこに住まう者たちの姫なのだという。生まれてこの方ずっとその国で暮らしてきた彼女は民たちから漏れ聞いた、「外の世界」というものに憧れを抱き、どんなところなのか一目見てみたいと願っていたらしく、お付きの者の隙をついてコッソリと抜け出してきたのだとか。
「世界で最も美しい」、「ほうせきの国」のお姫様。…………これまた何ともファンシーな話である。ますます前世で見た女児アニメ染みて来た。ポケモンは不思議な生き物だというが、こういった不思議さは何だか違うような気もする。
吾輩には此奴の語る話が俄かには信じられなかった、が、さりとて此奴が嘘を吐いているようにも思えない。
となれば吾輩が自身の目で事の真偽を確かめる他ない、それに「世界で最も美しい」と豪語する国が一体どのようなものなのかも気になる。どれ、ここは一つその「ほうせきの国」とやらを一目見てやろうではないか。
そう思った吾輩はファンシーポケモンに、その「ほうせきの国」へ行くことは出来ないのかと聞いてみたところ、ファンシーポケモンは「是」と返し、さらに自分を助けてくれた礼に手ずから「国」を案内してやると言った。
ふむ、生まれた時よりその国で暮らしていたという者が案内してくれるとなれば心強い、よろしく頼む。
かくして偶然助けたファンシーなポケモンに連れられて、吾輩は『石の洞窟』の奥深く「ほうせきの国」を目指し、出発したのであった。
……ところで貴様、お付きの者の隙をついてコッソリと抜け出してきたと言ったが、このまま帰ってもよかったのか。
吾輩の言葉を聞いたファンシーポケモンは分かりやすく顔を青ざめていた。
……此奴、姫という割にはどうにもお転婆である。いや、姫というものは概してお転婆であるのが相場というものか。よし決めた、このファンシーポケモンのことは今後、お転婆姫と呼ぶこととしよう。うむ、ピッタリだな。
※主人公はダイゴさんがチャンピオンであること知りません。
『石の洞窟』の奥深く、滅多に人が立ち入らぬ場所にそれはあった。
内部には幾つもの計器が置かれ、その間を揃いの
その中の一人、計器を見ていた男は送信されていたデータが突然途切れたことに気が付いた。そして最後に送られてきた映像データを確認したところで、男の顔に驚愕が浮かぶ。
男は計器のデータが入った携帯端末を片手に席を立つ。このことを自らの上司に報告するために。
「失礼いたします。
「…………何?」
男にカガリと呼ばれた少女。十代の半ば頃であろう幼さの残る顔立ちに、童女のようにも見える小柄な体躯。身を包む赤い制服は他の人間とやや異なるデザインであった。
しかし見た目で侮るなかれ、この少女こそが男の上司。男が所属するマグマ団の幹部にして、この作戦の指揮を執る人物である。
掛けられたぶっきらぼうな言葉に男は冷や汗をかく。リーダーより任せられた今作戦の進捗が捗々しくなく、ここ数日この上司は不機嫌なのだ。
「…………見つかった? …………ターゲット」
「――いいえ、それはまだ」
「…………じゃあ…………すぐに戻って、…………捜索作業。…………全然進んでない…………、ミッション…………リーダー・マツブサからの」
「――はい、作戦の進捗については重々承知しております。しかし、これを」
そう言って男から差し出された携帯端末を、ひったくるようにして受け取るカガリ。彼女は手早く端末を操作し、男の指定した映像データを確認する。興味なさげに映像を見ていたカガリはしかしそこに映っていたモノを認識した途端、突如としてその表情を驚愕へと変える。
「! …………これっ……て…………!」
「ヤミラミ部隊の一匹から映像データが途絶えました。確認してみましたところ、
そこに映っていたのは一匹のポケモン。岩塊のような下半身と少女のような上半身を持つ、全身を煌びやかな
「…………ディアンシー…………!」
"ほうせきポケモン"ディアンシー。メレシーの突然変異体。あまりの希少さ故に研究がほとんど進んでいない、幻のポケモンの一種だった。
ディアンシーの持つダイヤモンドの輝きは世界一と称されるほどに美しい。もし世に出たならば、それがどれほどの値が付くのか分からないほどに。しかし、その美しさもさることながら、ディアンシーの持つ能力こそがその価値を引き上げている。
ディアンシーの持つ能力。それは炭素を操作し圧縮させることで大量のダイヤモンドを一瞬で精製するというもの。精製するダイヤモンドの性質はディアンシーの意志によって自由自在。その気になれば天然のそれと寸分違わぬ性質を持つものすら量産出来る。
宝飾だけではない。工業でもダイヤは使用されている。そして人工ダイヤを作るのにもそれなりにコストがかかるのだ。だが、ディアンシーならばそのコストを限りなく「0」に出来る。
もし、手に入れることが出来ればその存在はマグマ団に、引いては人類社会そのものに莫大な利益を齎すだろう。
それが今まさに
「如何いたしますか、カガリ様」
「…………決まってるよ♪」
腰かけていた椅子から立ち上がり、部下からの問いかけに応えるカガリ。その顔はかつてないほどの歓喜に満ち溢れていた。
「…………ディアンシーが齎す利益………それはボクたちマグマ団の……………リーダー・マツブサの理想実現のための……………大きな力となる。……………発令、…………"エクストラミッション"。…………ターゲットは……ディアンシー…………! 全ては…………リーダー・マツブサのため…………、人類社会の更なる発展のために……………………ァハハッ……♪」
誰も知らぬ地下深く、赤き