地脈世界編その2となります。一応、地脈世界編は次回で終わる予定です。
注意!
当作品には独自展開、独自解釈、設定捏造、キャラ崩壊が多分に含まれています。
上記の要素が苦手な方はご注意ください。
「誉あれ 大地の女王 力有る石を統べる者よ 輝かしき地下の支配者よ 人と神を繋ぐ 二色の宝珠を作りし者よ どうかどうか今一度 我らの祈りに応え給え」
――ホウエン神話断章『大地の女王』より
どうしてこうなった。
今の吾輩の心境を一言で言えばこうであろう。
「ほうせきの民」にお転婆姫への
もう一度言おう。どうしてこうなった。
吾輩は物見遊山で「
……仕方がない。引き受けてしまった以上指導はせねばなるまい。とはいえ吾輩は「キノコのほうし」を会得するための武者修行の途中。それに我が友バンダナ少女との約束もある。余り長居する訳にもいかん。
ということで吾輩が指導するのはお転婆姫が最低限戦える力を付けるまでだ。これだけは譲れん。
吾輩の出した条件に「ほうせきの民」達も文句は無かったようで、かくして吾輩はお転婆姫が最低限戦えるだけの実力を付けるまで面倒を見ることになったのであった。
そう言った訳でさっそく指導開始だ。お転婆姫よ、貴様には一刻も早く強くなってもらうぞ。
お転婆姫に対して吾輩が真っ先に行ったことは、彼女が使える"わざ"を尋ねることであった。
"わざ"はポケモンバトルにおける最重要要素である。ポケモンバトルとは極端に言ってしまえば互いの"わざ"の撃ち合いであり、"わざ"が使えなければバトルすることは不可能であるからだ。お転婆姫の現状の実力を確認すべく"わざ"を確認するのは当然であった。
が、お転婆姫は吾輩からの質問に対し首を捻るばかり。嫌な予感がしたので尋ねてみれば、どうやらお転婆姫は生まれてこの方"わざ"というものを使ったことがないらしい。
…………そこからか。
まあ、仕方がないと言えば仕方がない。"わざ"とは即ち「型」だ。生体エネルギーを"わざ"に変換する力の流れを知らなければ"わざ"を使うことは出来ん。そして吾輩たち野生のポケモンが新しく"わざ"を覚えようと思ったら、ほとんど他のポケモンが使用するのを見て盗む他ない。
大抵のポケモンは生まれた後に群れの仲間や或いは他の野生ポケモンが使用するのを見て自然と"わざ"が使えるようになるものだが、お転婆姫は生粋の箱入り。「ほうせきの国」内部は聖なる結界に守られており「ほうせきの民」たちも滅多に"わざ"を使うことが無かったのだろう。結果、お転婆姫は"わざ"を見る機会がほぼ無く今まで来てしまったという訳だ。
なればどうすれば良いか? 答えは簡単だ。手本を見せてやればよい。
という訳だ、お転婆姫。貴様にはまず"わざ"を使えるようになってもらう。今から吾輩が手本として"わざ"を使ってみせるから、しっかりと見ておれ。
お転婆姫が元気よく了承したのを確認し、吾輩は早速"わざ"を放つ。選択したのは"
何故この"わざ"を選んだかと言えば、これが吾輩が使えるものの中で最もお転婆姫にとって参考となるであろう"わざ"だったからだ。
吾輩の"わざ"のレパートリーは"すいとる"や"
この内、「ほうし」を利用した変化技はお転婆姫にはどうやっても使用出来そうにない故却下、"
"
ではお転婆姫よ。吾輩を真似して実際に"わざ"繰り出してみよ。
吾輩の言葉にお転婆姫はコックリ頷くと、両掌を突き出しエネルギーを集中させる。「型」は吾輩が先ほど見せたものと同じ、しかし感じるエネルギーの
エネルギーの高まりと共にお転婆姫の掌にはキラキラと輝く結晶が形勢される。やがて高まりが最高潮へと達するとお転婆姫は収束させたエネルギーを解放、構えた手より結晶の弾丸を打ち出した。
打ち出された弾丸はフラフラと1mほど飛翔するとエネルギーが切れたのかそのまま垂直に地面へと落下、コロコロと数cmほど転がって融けるように消え去った。
…………まあ、初めてならばこんなものだろう。
"わざ"を繰り出したことに大はしゃぎするお転婆姫を横目に、内心でそう独り言ちる吾輩。お転婆姫が繰り出した"わざ"はハッキリ言ってほぼ"わざ"の程すら成していないものであったが、それでも何かしら繰り出せただけ上出来であろう。とはいえ、
という吾輩の予想は良い意味で裏切られることになった。理由は単純。このお転婆姫、凄まじく筋が良い。
先の"わざ"を練習すること数度、たったそれだけでお転婆姫は"
それだけではない。吾輩がどうしてもと請われて披露してやった"
ハッキリ言って恐ろしい才能である。吾輩とてここまで短期間に複数の"わざ"を会得することなど不可能であるのに。いやはや、
いずれにせよ、これは僥倖である。思ったより早く指導を終えることが出来そうだ。
さて、短期間でお転婆姫が二つもの攻撃技を会得したことで、吾輩は順序を早めより実戦的な指導に移行することを決めた。
具体的には吾輩との
お転婆姫の構えた両掌にエネルギーが集まる。その速度は先と比べ物にならない程早い。瞬く間に輝く結晶が形勢され、そしてすぐさま結晶弾として打ち出された。結晶弾は紙一重で避けた吾輩を掠めて飛翔し、背後にあった結晶を砕いて消滅する。
結晶弾を撃った隙を突き、お転婆姫に接近を試みようと足に力を込める吾輩。だが足元に躍動するエネルギーの流れに気が付き、咄嗟にその場から飛び退く。瞬間、先ほどまで吾輩が立っていた場所に、大地から
中々やるではないか。だが、吾輩とて指導を任された身。そう易々と勝利をくれてやる訳にはいかぬ。
噴き上がった"じめんタイプ"のエネルギーの余波で、周囲には濛々とした土煙が立ち込めている。煙る視界の中、吾輩が先の"わざ"より逃れたことを認識したお転婆姫。どうやら次なる一手を思案しているようだが、生憎その次の一手を許す気はない。
お転婆姫が攻撃のため再び両掌を構えようとして、
さらに彼女の身体を拘束したのはそれだけではない、いつの間にやらお転婆姫の体表を深緑の菌糸束がびっしりと覆っている。その正体は吾輩が大地より伸ばした"くさタイプ"のエネルギーである。お転婆姫はしまったという顔をしたがもう遅い。
――"
吾輩はつなげた
さて、
しばらくしてパチリと目を覚ましたお転婆姫。あと少しで勝てそうだったのにと悔し気な様子であった。
吾輩が勝つのは当然だ。幾ら修行中の身とは言え、昨日今日訓練を積んだだけの素人に負けるほど弱くはない。
さて
――と未だ経験不足であり、精進せよとお転婆姫に伝えた吾輩。しかし、内心ではまた別の感想を持っていた。
経験不足故に吾輩が勝つのは当然と答えていたが、あれは少々見栄を張ったものだ。先の戦い、油断すれば負けていたのは吾輩の方であった。お転婆姫の経験不足に付け込み、"
……何と言うかこれ程の才能を目の当たりにすると、最早嫉妬すら湧かんな。むしろどこまで成長するのか若干楽しみになって来た。
おっと、いかんいかん。あまり肩入れしすぎるな。お転婆姫との師弟関係はあくまで彼女が戦える力を身につけるまでの短期間のもの。吾輩には叶えねばならぬ
うーむ、旅に出でてよりこっち、どうも絆されやすくなって敵わんな。気を引き締めなくては。
と、吾輩がそんなこと考えていた所、吾輩の講評を受けたお転婆姫がもう一回と模擬戦をせがんできた。
分かった分かった、付き合ってやるからそう引っ張るでない。というか今の貴様に引っ張られると普通に痛い。
次は勝つぞと意気軒昂のお転婆姫。そんな出藍の弟子にグイグイと引っ張られながら、吾輩は次の模擬戦で使う戦術の思案を始めるのであった。
その後、吾輩はお転婆姫にせがまれるまま幾度も模擬戦を行った。いつの間にやら周囲には「ほうせきの民」の
……何と言うか本当に調子がよいな貴様ら。お転婆姫も中々に調子がよい性格であったが、間違いなく此奴らの影響であろう。
おい、貴様ら見世物ではないのだぞ、散れ散れ。そこな髭の御仁、自作の
……おい、今吾輩に向かってブーイングした者は誰だ。お転婆姫の"わざ"の的にしてやるから出てこい。誤魔化して無駄だぞしっかり聞こえていたからな。
そのようにワチャワチャと騒いでいた吾輩と「ほうせきの民」たち。だがその空気は一瞬にして霧散する。突如「
そんな吾輩の予想はすぐさま正しいものであったことが証明された。空洞を襲う地鳴りがますますひどくなる。震源地は……
まず見えたのは10m近い長大な体。「ほうせきの国」に満ちる結晶の光によって鈍く輝く鋼の体表は、この世のあらゆる金属の中で最も硬く、金剛石をも凌駕するという。どこか
土中より現れた恐るべき威容を持つ"はがね"ポケモン。その姿は紛れもなく、"てつへびポケモン"ハガネールであった。
ハガネール。イワークの進化系にして、ポケモンの中でも屈指の巨体を誇る"はがねタイプ"の代表的存在。なるほど確かに彼奴は地中深くに住むポケモン、地の底に存在する「ほうせきの国」に現れてもおかしくはない。何よりここには"自然エネルギー"が豊富に蓄えられておる。それを狙ったのだとすれば……。
という吾輩の想定は、しかしすぐさま「ありえない」と騒ぐ「ほうせきの民」たちによって否定される。曰く、あの種族の生息地はこの地下空洞のさらに深層。この場所まで登って来ることなどまずあり得ない。よしんば何かの拍子に深層を離れたとしても、ここまで接近される前に必ずその存在を感知できる筈だ。それこそ
――虚空から突如としてポケモンが出現する。常識的に考えればあり得ない事象だ。だがしかし、吾輩はそれに極めて近い現象がこの"世界"では当たり前に存在していることを知っていた。
『モンスターボール』。10mを超える巨体すらも掌大の大きさに縮小する文明の利器。開閉スイッチ一つで納めたポケモンが飛び出す機能は、それを知らぬ者からすれば
だが、仮に
そう疑問に抱いた吾輩の思考は、しかし途中にて中断された。ハガネールが洞窟内に響き渡る咆哮を上げたからだ。見れば「ほうせきの国」の護り、悪しき者を拒む紅い結界がハガネールの全身に纏わりつき、竪穴へと押し戻さんとしている。……だがどうも効き目が悪いようだ。
成す術なく押し返されたヤミラミとは違い、ハガネールは結界より齎らされる圧に抗って……いや拮抗している。ハガネールはさらに体節の突起を地面に食い込ませると、その地点を抑えとして頭部をさながら
「ほうせきの国」が誇る絶対の護りが粉砕された。その事実に驚愕のあまり茫然と立ち尽くす「ほうせきの民」たち。だがハガネールは彼らには目もくれず、
進軍するハガネールを阻むように『大地の玉座』より次々とヤミラミを黒焦げにした紅い光線が放たれる。だが、こちらも効果が薄いようだ。体表に次々と着弾する光線を意にも介さず、彼奴は只管に『玉座』へ向かって直進し続ける。
と、ここで漸く吾輩たちは
まずい。『大地の玉座』は「ほうせきの民」曰く国の要、結界を維持する国の最重要施設だ。そんな者に敵を近づけさせる訳にはいかん。かと言って吾輩にあの巨体を押し留めることは無理だ。
駄目だ、打つ手がない。吾輩では奴を止められない。手詰まりの状況に臍を噛む思いの吾輩。ならばいっそのこと一縷の望みをかけて奴へと突撃するかと吾輩は足に力を込めて、そこで周囲にいた筈の「ほうせきの民」たちの姿が見えなくなっていることに気が付いた。まさか逃げたのか、いやそんな訳はないと慌てて見渡し、彼らが壁面より突き出した一際大きな結晶の上に陣取っているのを発見した。
何をしているのかと近づくと、彼らは意識を集中させ足元の結晶へ自らの生体エネルギーを流し込んでいるようだ。やがて流し込まれた生体エネルギーの影響か結晶の色がそれまでの無色から薄桃色へと変化する。またそれに伴って、結晶から感じ取れるエネルギーも属性を持たないプレーンなものから、何かしらの"
瞬間、結晶より巨大な"
放たれた光量に吾輩は思わず目を背け、同時に内心で舌を巻く。何と凄まじき"大技"よ。結晶に蓄えられた自然エネルギーに"
だが、強力な力にはそれなりの代償があるらしい。エネルギーを解き放った結晶にもう先の輝きは無く、どことなくくすんだ色合いへと変化していた。さらに生体エネルギーを注ぎ込んだ影響からか、「ほうせきの民」たちもゼエゼエと息を切らしその場にてへたり込んでいた。この様子では次弾を撃つことも難しいだろう。
それでもあれ程までのエネルギーを叩き込んだのだ。きっと
――ゴアアアアアアア!!!
咆哮と共に光を消し飛ばしながら現れる、
敵の威容、未だ健在。砲撃を浴びながらもその勢い、些かの衰え無し。
何という奴だ。あれ程のエネルギーを食らってまるで堪えた様子もない。吾輩はハガネールの恐るべき防御能力に戦慄しつつも、その絡繰について思考する。
――あれ程の"
先の砲撃は高密度の"
先の砲撃ダメージが低かった絡繰は分かった。理由が分かれば対策のしようはある。砲撃に使えそうな結晶もまだ幾つか存在している。ならば、と吾輩は砲撃が効かなかったことに意気消沈する「ほうせきの民」たちへと呼びかけた。
――我に策あり、と。
吾輩の言葉を聞き「ほうせきの民」の目に力が戻る。そして彼らが言葉を発しようとして、しかし大きな振動によって遮られた。
奴め、どうやら柱を圧し折るまで続ける気らしい。
ハガネールの攻撃に柱が悲鳴を上げておる。最早一刻の猶予もない。吾輩は「ほうせきの民」たちに策を明かし、協力してもらえないかと頼み込む。民たちは吾輩の言葉に力強く頷き、疲労困憊の身体に鞭打って大急ぎで別の砲撃用結晶へと移動する。
そうして再び砲撃用結晶の上に陣取った「ほうせきの民」たち。しかし先程とは異なり、陣頭指揮を執るのは髭の御仁では無く、吾輩である。
吾輩の合図と共に「ほうせきの民」たちが一斉に生体エネルギーを結晶へと注ぎ込む。だが先とは違い、流し込まれる生体エネルギーに
吾輩は砲撃用結晶に菌糸束を張り巡らせ、繋げた
瞬間、結晶から放たれる"かくとう
それを見届けた吾輩は疲労困憊で座り込む。砲撃にごっそりと生体エネルギーを持っていかれたのだ。
想像以上にキツイ、一発撃っただけでも倒れそうだ。
……一発だけの吾輩ですらこれなのだ、二発目となる「ほうせきの民」たちの状態はさらに酷い。そのほとんどがその場より立ち上がることも出来ず、さらに幾匹か意識を失っている者さえいた。
だが、それだけの甲斐はあった。吾輩たちが放った弾丸の
果たして光が晴れたその場には"かくとう"の弾丸によって打ち据えられ、地に伏すハガネールの姿があった。
大敵が倒れたのを目の当たりにして俄かに騒めく「ほうせきの民」たち。誰かが呟く声が聞こえた。
――やったか……? と。
世の中にはジンクスというものがある。一種の俗信・迷信のようなもので、その中でも特に縁起の悪いものやことを指す言葉だ。黒猫に横切られるのは不幸の前触れ、というのはよく知られた例であろう。
……何故吾輩がこんなことを唐突に考えたのかと言えば、この状況にピタリと当て嵌まるジンクスがあるからだ。先程誰かが発した「やったか」という言葉。この言葉が発せられた時、大抵の場合は
ああ、嫌な予感がする。
そんな吾輩の感じ取った嫌な予感は――当然の如く現実となった。
バチリ、と閉ざされていたハガネールの瞳が開かれる。続けて全身をくねらせながら起こした奴は洞窟に響き渡る怒りの雄たけびを上げた。
――ゴアアアアアアア!!!
地下空洞中を震撼させる咆哮。吾輩たちはその音量に思わず身を竦ませる。
ギロリ、とハガネールが怒りに満ちた視線をこちらに向ける。どうやら奴は先の一撃を受けたことで吾輩たちを
ガパ、とハガネールの巨大な顎が開かれ、ポッカリと空いた口腔に破壊的な力が収束する。奴から離れた場にいてなお感じ取れる強大なエネルギーを前に吾輩たちは悲鳴を上げる体に鞭打ち、意識のない仲間は無理やり背負って、全力でその場から退避する。
そして吾輩たちが皆その場より離れた直後、ハガネールより"
爆風によりコロコロと転がされる吾輩の体。地面より突き出した結晶に思いきりぶつかることでようやっと停止する。顔面を襲う痛みをこらえながら背後を振り返れば、そこには恐るべき破壊の爪痕があった。
先の爆発は砲撃用結晶を地下空洞の壁ごと粉砕したようだ。爆心地には円形の破壊痕が残されており、結晶の外殻が抉られたことで洞窟本来の黒々とした地肌が覗いていた。
危なかった。あんなものを真面に食らえば一巻の終わりだろう、危うく短いポケモン生をこんなところで終えるところであった。幸い大急ぎで退避したお蔭で犠牲となった「ほうせきの民」たちは居らぬようだ。それだけが不幸中の幸いと言えるだろう。
だが状況は最悪だ。ハガネールは既に反動から回復し、再び『大地の玉座』に体を叩きつけている。にも関わらず吾輩にはもう打つ手がない。「ほうせきの民」たちは皆散り散りとなってしまった。砲撃用結晶自体はまだ幾らか存在するものの、アレを動かすには彼らの協力が不可欠。しかし吾輩たちに再び結集する時間はない。砲撃を放てるだけの人員が集まるより先に、『大地の玉座』の方が崩れ落ちるだろう。見れば『玉座』を支える結晶柱には既に幾つもの罅が入っておる。このままではそう長くは持つまい。
しかしどうすればよいのか。先の砲撃は吾輩たちの唯一といってよい切り札であった。それが通じなかったのだ。吾輩にはもう切れる手札も、講じられる策もない。正しく万事休すの状況に、吾輩は我が物顔で『玉座』を蹂躙するハガネールを精一杯睨み付けてやる他無かった。
……?
ふと「ほうせきの国」中に断続的に響いていた衝撃音が止んだ。見ればハガネールが結晶柱への攻撃を停止させ、何かをジッと見つめている。
何故だ。何故奴は停止した……?
その理由は直ぐに分かった。奴の視線の先、『大地の玉座』の上にとあるポケモンが陣取っていたからだ。
『大地の玉座』の紅い光に照らされて、しかし色褪せることなき桃色金剛石の輝き。紛れもなく我が弟子"お転婆姫"であった。
……あのバカ弟子! 何を考えている! まさか
ええい仕方があるまい……!
吾輩は手近にあった結晶へ向かって"
オエップ……やはり自然エネルギーを一挙に取り込むのは堪えるな……。だがこれで先の砲撃による消耗分は回復した。戦闘になったとしても問題はなかろう。さあ、頼むから双方そのまま動いてくれるなよ。
内心でそう祈りつつ、吾輩は短い脚に力を込め『大地の玉座』目掛けて走り出したのであった。
「ほうせきの国」中央、『大地の玉座』。
「ほうせきの国」で最も高い位置にあると言ってもよいこの場に
何故なら自らはこの国の長たる"姫"故に。"姫"たる自分が国の危機にありて何もせずにいられようか。
"わざ"の一つも使えなかった以前の自分であればいざ知らず、師より教えを受けた今の自分には戦えるだけの力がある。なればこそ国を脅かす敵を前に背を向けることなど出来はしない。
自分はもう「民」らに守られるだけのか弱き存在ではないのだ。この国を侵す外敵を討ち果たし、「民」らにそれを証明してみせよう。
と、そんな思いを胸に
当然のことながら彼女の行動は愚行である。どこの世界に自らより遥かな格上相手に単独で挑む王がいようか。それが一騎当千の勇士であればいざ知らず、彼女は昨日の今日でようやっと戦い方を身につけただけの素人。幾ら
しかし時として愚か者の無謀な一手が、不利な戦況をひっくり返す奇貨となりえることもまた事実。お転婆姫のこの行動は偶然にも、
ハガネールは酷く困惑していた。原因は彼の目の前、
故に迷う。与えられた
命令と目標の二律背反に彼の脳が悲鳴を上げる。不毛な思考にリソースを取られ、彼は
混乱し動きを止めたハガネールの直下へ莫大なエネルギーが収束する。力の出処は――相対する
彼女が使用しようとしたのは"だいちのちから"。本能によってタイプ相性を理解していた彼女は自らの手札の中でハガネールに最も相性のよい"わざ"を選択したのだ。
それだけでは無い。大地を通じ送り込んだ"じめんタイプ"のエネルギーは途上にて結晶内部の自然エネルギーと合流し、その規模と威力を大幅に引き上げる。膨れ上がった"わざ"はさらに周囲よりエネルギーを引きつけ、瞬く間に先の砲撃を凌駕する規模に至る。
「ほうせきの国」に蓄えられた自然エネルギーを吸収し、今にも爆発せんとする力を必死に制御するディアンシー。無論、彼女にこれほどまでの力を御した経験などない。しかし何故か彼女にはこれの制御方法が分かった。まるで
解放の直前、ハガネールは漸く自らの足元に集うエネルギーに気が付いた――既に手遅れ。瞬間、大地より噴き上がったキョダイな砂塵が"はがね"の体を呑み込む。
足元より放たれた"じめんエネルギー"の大奔流。その直撃を食らったハガネールは瞬時に自らの敗北を悟る。弱点となる
そこまで理解した時、ハガネールは考えるのを辞めた。代わりに身を委ねたのはポケモンの持つ
与えられた
倒す。目の前の敵を倒す。倒す倒す倒す倒す倒すタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオス倒すッ!!!
理性など疾うに消し飛んだ。後に残るのは極限まで高められた闘争本能のみ。
力だ、力が欲しい。寄越せ、力を寄越せ。敵を倒せるだけの力を――!!
――それは奇跡か偶然か。ハガネールの"極限"にまで至った闘争本能がその肉体を徐々に変質させ始める。より強く、より戦いに相応しい形へと。
元よりポケモンとは闘争の中で成長し、より強大な姿へと進化する種族。敵を打倒する力を欲した彼が更なる力を得るために、その姿を変えようとしたのも当然のこと。
奇しくもこの場には
ビシリと体側の突起と尻尾が砕け散る。代わって肉体から突き出したのは美しく輝く
其は進化にありて進化に非ず。進化を超えたシンカの力。極限の闘争本能が齎したポケモンの覚醒形態――メガシンカである。
――オオオオオォォォォォォォ!!!!
体節と金属片が高速で回転する。同時に旋回する結晶から莫大なエネルギーが噴出し、メガハガネールの体に沿って螺旋状の力場を形成、その体を一つの武器へと変貌させた。
顕現したのは大地を穿つ巨大な
――"
大地より噴き出す砂塵の壁に、虹の螺旋が激突した。
ディアンシーは自らの操る大地の奔流に強い抵抗が来たのを感じ取った。内側から"わざ"を食い破らんとするエネルギーの高まり、それはもはや災害に等しい大地の奔流にかき消されることなく、むしろ徐々に拮抗しつつある。
秒単位で膨れ上がる力にディアンシーの本能が警鐘を鳴らす。まずい、このままでは大地の奔流が破られかねない、と。ディアンシーはがむしゃらになって更なる自然エネルギーを搔き集め、内部のエネルギーを抑え込もうとした……が、相手の方が速かった。
地より噴き上がる砂塵の壁、その壁面に穴が穿たれる。内部より姿を現したのは高速回転する虹の螺旋。壁面を穿たれたことで噴き上がる奔流の勢いが少しずつ弱まっていく。そして虹の螺旋がさらに回転を速めると、際限なく高まるその力に耐え切れなかったのか砂塵の壁は揺らめくように姿を消した。
自らを抑え込んでいた砂塵の壁は消滅した。最早、"
大規模な力を行使したことで消耗し、動くことの出来ないディアンシー。彼女の小さな体に恐るべき破壊の力が襲い掛からんとした――その瞬間、真紅の輝きがディアンシーを護るように拡がった。『大地の玉座』より発せられた超高密度の"いわ"と"フェアリー"のエネルギー、それが真紅の障壁となり破壊の虹を阻んだのだ。展開された障壁の強度は「ほうせきの国」を覆う結界を遥かに凌ぎ、タイプ相性による不利すら物ともせず、メガハガネールの"
真紅の障壁と虹の螺旋、ぶつかり合う両者の力比べにやがて変化が訪れる。真紅が虹を徐々に押し返し始めたのだ。
考えてみれば当然。両者の出力は拮抗している、ならば勝負を決めるのは如何にその出力を維持し続けられるか。『大地の玉座』は「ほうせきの国」に満ちる膨大なエネルギーを統御し、次々と注ぎ込める一方で、メガハガネールの力はひんし寸前状態から身を削って放った蝋燭の最後の輝きだ。既に限界寸前だったところへさらにメガシンカの負担も加わり、その出力を維持することが既に難しくなっていた。
勝負の天秤は少しずつ、「真紅」に傾きつつあった。
紅い障壁の圧力がさらに強まったのを感じたメガハガネール。理性など欠片も存在しない闘争本能に支配された状態の彼は、しかしだからこそ無意識より来る囁きに忠実だった。永きに渡り大自然の生存競争を勝ち続けた彼の持つ
向かい来る圧力に対しメガハガネールは、己が纏う"
逸れた虹の切先が、球状に展開された紅の障壁の表面を滑るように動き、その進路を変更する。進行方向にあるのは『大地の玉座』を支える
メガハガネールの"
ハガネールの行動は彼にとって最適解であり、同時に奇しくも当初の
虹の螺旋の切先が結晶柱を捉える。既に先の攻撃にて罅が入っていた結晶柱が虹の破壊に耐えきれる筈もなく、秒と経たずに砕け散る。
瞬間、支えを失った『大地の玉座』が崩落を始めた。
巨大な砂塵がハガネールを包んだと思ったら、ハガネールが虹の螺旋となって突撃していた。一体何が起こっているのだ、まるで訳が分からんぞ。出てきたハガネールの姿も何だかいつもと違うような気がしたが、気のせいか……? 少なくとも結晶柱に砕いて停止した姿は吾輩が前世にて見慣れたハガネールである。
一瞬見えたハガネールの異形の姿に疑問を抱くが、今はそれに
支えとなる結晶柱を失った『大地の玉座』が崩落する――その上にお転婆姫を乗せたまま。
ええいクソが、やはりこうなったか。お転婆姫の姿を『大地の玉座』に確認してより、こうなる気はしていたのだ。故にこそ吾輩は鈍足を押して必死に走っているのだが。
崩れ落ちる『大地の玉座』へ向かうべく短い脚を全力で動かしながら、同時に吾輩は崩落音に負けぬよう力の限り叫ぶ。
お転婆姫、そこから跳べ! 吾輩が受け止めてやる!
吾輩の声が届いたのか、お転婆姫はハッとこちらを向き、意を決したように崩れゆく『大地の玉座』から跳んだ。
崩落より跳び出した桃色金剛石の体は重力に引かれ勢いよく落ちていく。吾輩はお転婆姫の落下位置に当たりを付けると、その場所目掛け全力で跳び込んだ。
間に合ええええええ!!
……ここで落ちてきたお転婆姫を華麗にキャッチすることが出来たなら恰好もついただろうが、生憎キノココ足る我が身は無手無腕。受け止めるためには体を張る他なかった。
吾輩は跳び込んだ勢いのまま地面へと激突、顔面を下にした状態でスライディングする。地面との摩擦によって跳び込んだ勢いが弱まったところで、吾輩の上に勢いよくお転婆姫が降って来た。
お転婆姫の尖った下半身が吾輩の体に突き刺さり、顔面も合わせて悶絶するような痛みが吾輩を襲う。しかし気合で耐えて立ち上がり、お転婆姫を連れてその場より退避する。この場は崩落よりある程度離れているため巻き込まれる心配は無いが、衝撃で砕けた結晶が飛んでこないとも限らないからだ。
地面より突き出た結晶の影に隠れた吾輩たち。ここなら結晶が飛んできたとしても安全であろう。吾輩たちは結晶の影より、轟音の止んだ玉座を覗き見る。そうして吾輩たちの視界に飛び込んできたのは、あまりにも無惨な景色であった。
あれ程の威容を誇った『大地の玉座』が完全に崩れ落ちている。国中を照らしていた紅い光も、微かな燐光が瞬くばかりで今にも消え入りそうな程に弱まっていた。心なしか「ほうせきの国」中の結晶も今までより少し暗くなった気がする。
お転婆姫は崩れ落ちた『大地の玉座』にフラフラと近づき、辛うじて形を保っているばかりの巨大結晶を茫然と見上げる。その姿は傍目に見ても沈痛そのものであった。それは近寄ってきた「ほうせきの民」たちも同じで、誰も彼もが崩れ落ちた『大地の玉座』を茫然と或いは悲痛な表情を浮かべて見つめていた。
……無理もない。吾輩は話に聞いただけだが、『大地の玉座』とは国の護りの要であるのと同時に、彼らの慕う先代女王が残した忘れ形見。特にお転婆姫にとってアレは顔も知らぬ"母"との唯一といってもよい繋がりである。それが永遠に失われたのだ、その心情は察して然るべきであろう。
吾輩は掛ける言葉が見つからず、気まずい思いでその場を後にする。……本当はお転婆姫の先の無謀を咎めようと思っていたのだが、あの様相を前にしてとてもそんなことは出来なかった。
悲嘆に暮れるお転婆姫と「ほうせきの民」から離れ、吾輩が向かったのは『大地の玉座』を崩壊させた下手人の元。その下手人――ハガネールは崩れた結晶の山に半身を埋め、身じろぎ一つせずに倒れていた。
見る限りでは完全に戦闘不能となっているようだ。吾輩は念のため数度ハガネールの体を
……一先ず「ほうせきの国」を襲った危機は去ったようだ。幸いなことに「ほうせきの国」の住人に一人の犠牲者も出ていない――代わりに「ほうせきの国」には無視できないほどの被害が出てしまったのだが。とは言え襲い来た脅威を撃退したのも事実だ。多少、気を緩めても問題なかろう。
直面した危機を乗り越え、ほっと一息ついた吾輩。落ち着いたところでふと、吾輩の脳裏に初めに抱いた疑問が蘇る。「何故ハガネールが「ほうせきの国」を襲ったのか」だ。
吾輩の予想が正しければこのハガネールは
そこまで考えた時、吾輩の脳内に電流が走る。思い出されたのは吾輩が「ほうせきの国」に来てからの、いや来るまでの出来事。
お転婆姫を襲った
そうして吾輩は最悪の結論に思い至り――弾かれたように走り出す。
いかん! 吾輩の予想が正しければ「危機」はまだ去っていない!
果たしてその予想を裏付けるかのように、走り出した吾輩の元へ耳障りな叫び声が響き渡った。
――ウイイイーーーーーーーッ!!!!
同時に今の今まで
どうやらハガネールは
それを確認した
「
受けた部下たちは
――"エクストラミッション":ディアンシー捕獲作戦。第二段階へ移行。
・メガストーン/キーストーンを用いないメガシンカについて
本編にてハガネールがメガストーン/キーストーンを用いずメガシンカをしているが、これは厳密に言えばメガシンカではなくその大本となった現象であるため。
拙作独自設定としてメガシンカ形態とは極限の闘争本能に支配されたポケモンが、周囲のエネルギーを吸収し限界を超えることで至る一種の覚醒形態としている。そのためこの形態に至ったポケモンたちは(例外を除いて)一種の暴走状態にあり、自身の身すら顧みず、力尽き果てるまで荒れ狂う。
自然界において自身の限界を超えるような強烈な闘争本能に支配されることなど滅多にないためこの覚醒に至ることは極めて稀だが、至った個体は必ず周囲に尋常でない影響を及ぼすため比較的人間の目に留まりやすく、荒れ狂う異形のポケモンの記録が幾つも残されている。
メガストーン/キーストーンによるメガシンカはこの覚醒形態をトレーナーとの絆によって制御出来る状態で発現させたもの。