キノコのほうしを目指して   作:野傘

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お待たせいたしました。
地脈世界編その2となります。一応、地脈世界編は次回で終わる予定です。


注意!
当作品には独自展開、独自解釈、設定捏造、キャラ崩壊が多分に含まれています。
上記の要素が苦手な方はご注意ください。




























「誉あれ 大地の女王 力有る石を統べる者よ 輝かしき地下の支配者よ 人と神を繋ぐ 二色の宝珠を作りし者よ どうかどうか今一度 我らの祈りに応え給え」
――ホウエン神話断章『大地の女王』より


鉱国の興廃この一戦にあり

 どうしてこうなった。

 

 今の吾輩の心境を一言で言えばこうであろう。

 

 「ほうせきの民」にお転婆姫への戦い方(バトル)指導を請われた吾輩。はじめの内は「未だ修行中の身故、姫の指導などとても」と断っていたものの、何のかんのと言い包められ、結局お転婆姫への戦い方(バトル)指導を引き受けることになってしまった。

 

 もう一度言おう。どうしてこうなった。

 

 吾輩は物見遊山で「ほうせきの国(ここ)」を訪れた筈だったのに、いつの間にやら姫の指導などさせられることになっておる。

 

 ……仕方がない。引き受けてしまった以上指導はせねばなるまい。とはいえ吾輩は「キノコのほうし」を会得するための武者修行の途中。それに我が友バンダナ少女との約束もある。余り長居する訳にもいかん。

 ということで吾輩が指導するのはお転婆姫が最低限戦える力を付けるまでだ。これだけは譲れん。

 吾輩の出した条件に「ほうせきの民」達も文句は無かったようで、かくして吾輩はお転婆姫が最低限戦えるだけの実力を付けるまで面倒を見ることになったのであった。

 

 そう言った訳でさっそく指導開始だ。お転婆姫よ、貴様には一刻も早く強くなってもらうぞ。

 

 お転婆姫に対して吾輩が真っ先に行ったことは、彼女が使える"わざ"を尋ねることであった。

 "わざ"はポケモンバトルにおける最重要要素である。ポケモンバトルとは極端に言ってしまえば互いの"わざ"の撃ち合いであり、"わざ"が使えなければバトルすることは不可能であるからだ。お転婆姫の現状の実力を確認すべく"わざ"を確認するのは当然であった。

 が、お転婆姫は吾輩からの質問に対し首を捻るばかり。嫌な予感がしたので尋ねてみれば、どうやらお転婆姫は生まれてこの方"わざ"というものを使ったことがないらしい。

 

 …………そこからか。

 

 まあ、仕方がないと言えば仕方がない。"わざ"とは即ち「型」だ。生体エネルギーを"わざ"に変換する力の流れを知らなければ"わざ"を使うことは出来ん。そして吾輩たち野生のポケモンが新しく"わざ"を覚えようと思ったら、ほとんど他のポケモンが使用するのを見て盗む他ない。

 大抵のポケモンは生まれた後に群れの仲間や或いは他の野生ポケモンが使用するのを見て自然と"わざ"が使えるようになるものだが、お転婆姫は生粋の箱入り。「ほうせきの国」内部は聖なる結界に守られており「ほうせきの民」たちも滅多に"わざ"を使うことが無かったのだろう。結果、お転婆姫は"わざ"を見る機会がほぼ無く今まで来てしまったという訳だ。

 

 なればどうすれば良いか? 答えは簡単だ。手本を見せてやればよい。

 

 という訳だ、お転婆姫。貴様にはまず"わざ"を使えるようになってもらう。今から吾輩が手本として"わざ"を使ってみせるから、しっかりと見ておれ。

 

 お転婆姫が元気よく了承したのを確認し、吾輩は早速"わざ"を放つ。選択したのは"種子銃(タネシガン)"*1であった。

 何故この"わざ"を選んだかと言えば、これが吾輩が使えるものの中で最もお転婆姫にとって参考となるであろう"わざ"だったからだ。

 吾輩の"わざ"のレパートリーは"すいとる"や"大吸精(メガドレイン)"といった"吸収(ドレイン)"系、"たいあたり”や"ずつき"と言った力業(ノーマルタイプ)、「ほうし」を利用した変化技、そしてそれ以外の計四種類。

 この内、「ほうし」を利用した変化技はお転婆姫にはどうやっても使用出来そうにない故却下、"吸収(ドレイン)"系の"わざ"も基本的にくさタイプ専門の分野であるため、見るからにいわタイプであるお転婆姫の参考にはならんと却下、力業(ノーマルタイプ)については少し迷ったがやはり覚えるからにはやはりタイプ一致の方が良かろうとこれも却下。結果、残ったのがこの"種子銃(タネシガン)"のみであったという訳だ。

 "種子銃(タネシガン)"もくさタイプの"わざ"ではあるが、物理的実体を相手に飛ばすという「型」は多くのいわタイプの"わざ"に共通する「型」。お転婆姫も比較的参考にしやすい筈。

 

 ではお転婆姫よ。吾輩を真似して実際に"わざ"繰り出してみよ。

 

 吾輩の言葉にお転婆姫はコックリ頷くと、両掌を突き出しエネルギーを集中させる。「型」は吾輩が先ほど見せたものと同じ、しかし感じるエネルギーの属性(タイプ)は"いわ"である。

 エネルギーの高まりと共にお転婆姫の掌にはキラキラと輝く結晶が形勢される。やがて高まりが最高潮へと達するとお転婆姫は収束させたエネルギーを解放、構えた手より結晶の弾丸を打ち出した。

 打ち出された弾丸はフラフラと1mほど飛翔するとエネルギーが切れたのかそのまま垂直に地面へと落下、コロコロと数cmほど転がって融けるように消え去った。

 

 …………まあ、初めてならばこんなものだろう。

 

 "わざ"を繰り出したことに大はしゃぎするお転婆姫を横目に、内心でそう独り言ちる吾輩。お転婆姫が繰り出した"わざ"はハッキリ言ってほぼ"わざ"の程すら成していないものであったが、それでも何かしら繰り出せただけ上出来であろう。とはいえ、戦闘(バトル)で使用するにはまだまだ程遠いのも事実。お転婆姫が戦闘力を身につけるまで先は長そうである。

 

―――

 

 という吾輩の予想は良い意味で裏切られることになった。理由は単純。このお転婆姫、凄まじく筋が良い。

 先の"わざ"を練習すること数度、たったそれだけでお転婆姫は"結晶弾(いわおとし)"を物にした。その完成度はすぐさま実戦(バトル)での使用に耐えうるほどである。

 それだけではない。吾輩がどうしてもと請われて披露してやった"大吸精(メガドレイン)"。お転婆姫はこの"わざ"の持つ大地を媒介としてエネルギーを伝達する点を模倣し、大地よりエネルギーを――それもお転婆姫が本来持ち得ない"じめんタイプ"のエネルギーを噴き上げるという新たな"わざ"を会得して見せたのだ。

 

 ハッキリ言って恐ろしい才能である。吾輩とてここまで短期間に複数の"わざ"を会得することなど不可能であるのに。いやはや、(ポケモン)は見かけによらぬというがあまりにも意外過ぎる。まさかお転婆姫(生粋の箱入り)にここまでの才能が備わっているとは。いや、むしろここまでの才能を持ちながら、今の今まで腐らせていた環境の方に驚くべきか。

 いずれにせよ、これは僥倖である。思ったより早く指導を終えることが出来そうだ。

 

 さて、短期間でお転婆姫が二つもの攻撃技を会得したことで、吾輩は順序を早めより実戦的な指導に移行することを決めた。

 

 具体的には吾輩との模擬戦(スパーリング)である。

 

 お転婆姫の構えた両掌にエネルギーが集まる。その速度は先と比べ物にならない程早い。瞬く間に輝く結晶が形勢され、そしてすぐさま結晶弾として打ち出された。結晶弾は紙一重で避けた吾輩を掠めて飛翔し、背後にあった結晶を砕いて消滅する。

 結晶弾を撃った隙を突き、お転婆姫に接近を試みようと足に力を込める吾輩。だが足元に躍動するエネルギーの流れに気が付き、咄嗟にその場から飛び退く。瞬間、先ほどまで吾輩が立っていた場所に、大地から"じめんタイプ"のエネルギー(だいちのちから)が迸った。

 

 中々やるではないか。だが、吾輩とて指導を任された身。そう易々と勝利をくれてやる訳にはいかぬ。

 

 噴き上がった"じめんタイプ"のエネルギーの余波で、周囲には濛々とした土煙が立ち込めている。煙る視界の中、吾輩が先の"わざ"より逃れたことを認識したお転婆姫。どうやら次なる一手を思案しているようだが、生憎その次の一手を許す気はない。

 お転婆姫が攻撃のため再び両掌を構えようとして、()()()()()()()に気が付く。原因は彼女の周囲、パラパラと舞う土煙に混ぜた吾輩の"ほうし(しびれごな)"。

 さらに彼女の身体を拘束したのはそれだけではない、いつの間にやらお転婆姫の体表を深緑の菌糸束がびっしりと覆っている。その正体は吾輩が大地より伸ばした"くさタイプ"のエネルギーである。お転婆姫はしまったという顔をしたがもう遅い。

 

 ――"大吸精(メガドレイン)"。

 

 吾輩はつなげた経路(パス)を通じ、お転婆姫の体力(HP)を吸い上げてやる。お転婆姫は拘束を解くことが出来ず、そのまま体力(HP)全てを吸い取られ目を回して倒れた(ひんし状態となった)

 

 さて、模擬戦(スパーリング)も終わり、吾輩は目を回して伸びているお転婆姫へ拾った結晶片(げんきのかけら)*2を含ませてやる。

 しばらくしてパチリと目を覚ましたお転婆姫。あと少しで勝てそうだったのにと悔し気な様子であった。

 

 吾輩が勝つのは当然だ。幾ら修行中の身とは言え、昨日今日訓練を積んだだけの素人に負けるほど弱くはない。

 さて戦い(バトル)についての講評だが。先程は自らの"わざ"を繰り出すことと吾輩自身の動きに集中し過ぎたな。お蔭で地中より這い進む"大吸精(メガドレイン)"の菌糸束に気付くことが出来なかった。――まあ、仕方あるまい。幾ら才があるとは言え貴様はまだまだ経験不足。もう少し経験を積めばあまり意識せずとも"わざ"を繰り出すことが出来るようになるだろう。そうすれば周りに注意を向ける余裕もできる筈だ。

 

 ――と未だ経験不足であり、精進せよとお転婆姫に伝えた吾輩。しかし、内心ではまた別の感想を持っていた。

 経験不足故に吾輩が勝つのは当然と答えていたが、あれは少々見栄を張ったものだ。先の戦い、油断すれば負けていたのは吾輩の方であった。お転婆姫の経験不足に付け込み、"ほうし(しびれごな)"という搦め手を用いることで勝利したが、真正面からの力比べとなれば恐らく敗北は免れなかったであろう。正直に言えば、単純な能力値の面においてお転婆姫は吾輩なぞとっくに凌駕しておる。恐らくお転婆姫の種族的基礎能力がずば抜けて高いのだ、それこそ吾輩(キノココ)なんぞとは比べ物にならんほどに。

 

 ……何と言うかこれ程の才能を目の当たりにすると、最早嫉妬すら湧かんな。むしろどこまで成長するのか若干楽しみになって来た。 

 おっと、いかんいかん。あまり肩入れしすぎるな。お転婆姫との師弟関係はあくまで彼女が戦える力を身につけるまでの短期間のもの。吾輩には叶えねばならぬ目的(ユメ)がある。そのために長期間彼女と共に居る訳にはいかんのだ。

 うーむ、旅に出でてよりこっち、どうも絆されやすくなって敵わんな。気を引き締めなくては。

 

 と、吾輩がそんなこと考えていた所、吾輩の講評を受けたお転婆姫がもう一回と模擬戦をせがんできた。

 

 分かった分かった、付き合ってやるからそう引っ張るでない。というか今の貴様に引っ張られると普通に痛い。

 

 次は勝つぞと意気軒昂のお転婆姫。そんな出藍の弟子にグイグイと引っ張られながら、吾輩は次の模擬戦で使う戦術の思案を始めるのであった。

 

―――

 

 その後、吾輩はお転婆姫にせがまれるまま幾度も模擬戦を行った。いつの間にやら周囲には「ほうせきの民」の観客(ギャラリー)まで出来ていた。彼らもお転婆姫がここまでの才能を持っているなどとは思わなかったのだろう。当初はハラハラした面持ちで見守っていたが、現在では吾輩と互角に立ち回るお転婆姫の姿に歓声など上げる始末。

 ……何と言うか本当に調子がよいな貴様ら。お転婆姫も中々に調子がよい性格であったが、間違いなく此奴らの影響であろう。

 おい、貴様ら見世物ではないのだぞ、散れ散れ。そこな髭の御仁、自作の結晶棒(ライトスティック)を振り回すでない。変な掛け声をかけるのも辞めろ。お転婆姫もそれに応えるでない。

 ……おい、今吾輩に向かってブーイングした者は誰だ。お転婆姫の"わざ"の的にしてやるから出てこい。誤魔化して無駄だぞしっかり聞こえていたからな。

 

 そのようにワチャワチャと騒いでいた吾輩と「ほうせきの民」たち。だがその空気は一瞬にして霧散する。突如「ほうせきの国(地下空洞)」全体を地響きが襲ったからだ。震動する空洞に右往左往する「ほうせきの民」たち。曰く、この地がこれほど揺れるのは初めてのとのこと。通常の地震であれば揺れるのはもっと地上に近い場所、深域にある「ほうせきの国」に振動がくることはほとんどないらしい。それが示すことは即ち、今「ほうせきの国」を襲うこの揺れは通常の地震に因るものではないということだ。

 

 そんな吾輩の予想はすぐさま正しいものであったことが証明された。空洞を襲う地鳴りがますますひどくなる。震源地は……()()()()()()()。震動が最高潮に達した瞬間、「ほうせきの国」の床の一部が崩落しポッカリと開いた竪穴から、この地震を起こした下手人が這い出してきた。

 まず見えたのは10m近い長大な体。「ほうせきの国」に満ちる結晶の光によって鈍く輝く鋼の体表は、この世のあらゆる金属の中で最も硬く、金剛石をも凌駕するという。どこか円匙(シャベル)にも似た形状の頭部には、岩盤を噛み砕く凶悪な顎が備えられ、さらにその先には暗黒の地中をもハッキリと見通す鋭い瞳があった。

 土中より現れた恐るべき威容を持つ"はがね"ポケモン。その姿は紛れもなく、"てつへびポケモン"ハガネールであった。

 

 ハガネール。イワークの進化系にして、ポケモンの中でも屈指の巨体を誇る"はがねタイプ"の代表的存在。なるほど確かに彼奴は地中深くに住むポケモン、地の底に存在する「ほうせきの国」に現れてもおかしくはない。何よりここには"自然エネルギー"が豊富に蓄えられておる。それを狙ったのだとすれば……。

 という吾輩の想定は、しかしすぐさま「ありえない」と騒ぐ「ほうせきの民」たちによって否定される。曰く、あの種族の生息地はこの地下空洞のさらに深層。この場所まで登って来ることなどまずあり得ない。よしんば何かの拍子に深層を離れたとしても、ここまで接近される前に必ずその存在を感知できる筈だ。それこそ()()()()()()()()()()()()()のでもない限り、と。

 

 ――虚空から突如としてポケモンが出現する。常識的に考えればあり得ない事象だ。だがしかし、吾輩はそれに極めて近い現象がこの"世界"では当たり前に存在していることを知っていた。

 『モンスターボール』。10mを超える巨体すらも掌大の大きさに縮小する文明の利器。開閉スイッチ一つで納めたポケモンが飛び出す機能は、それを知らぬ者からすれば()()()()()()()()()()()したのと同じである。

 

 だが、仮に(ハガネール)がトレーナーの手持ちポケモンとすれば一体何が目的で……?

 そう疑問に抱いた吾輩の思考は、しかし途中にて中断された。ハガネールが洞窟内に響き渡る咆哮を上げたからだ。見れば「ほうせきの国」の護り、悪しき者を拒む紅い結界がハガネールの全身に纏わりつき、竪穴へと押し戻さんとしている。……だがどうも効き目が悪いようだ。

 

 成す術なく押し返されたヤミラミとは違い、ハガネールは結界より齎らされる圧に抗って……いや拮抗している。ハガネールはさらに体節の突起を地面に食い込ませると、その地点を抑えとして頭部をさながら削岩機(ドリル)の如く高速で回転させ始めた。岩盤すら抉るハガネールの大顎にさらに高速回転が加わったことでその破砕力が跳ね上がり、抑え込む結界が悲鳴を上げる。やがてハガネールの全身を覆っていた結界に罅が入り、次の瞬間、硝子が割れるような音と共に砕け散った。

 

 「ほうせきの国」が誇る絶対の護りが粉砕された。その事実に驚愕のあまり茫然と立ち尽くす「ほうせきの民」たち。だがハガネールは彼らには目もくれず、目的(ターゲット)へ向かって一直線に進軍を開始する。彼奴の視線の先にはあるのは「ほうせきの国」中心、『大地の玉座』。

 進軍するハガネールを阻むように『大地の玉座』より次々とヤミラミを黒焦げにした紅い光線が放たれる。だが、こちらも効果が薄いようだ。体表に次々と着弾する光線を意にも介さず、彼奴は只管に『玉座』へ向かって直進し続ける。

 

 と、ここで漸く吾輩たちは(ハガネール)の狙いが『大地の玉座』であることに気が付いた。

 まずい。『大地の玉座』は「ほうせきの民」曰く国の要、結界を維持する国の最重要施設だ。そんな者に敵を近づけさせる訳にはいかん。かと言って吾輩にあの巨体を押し留めることは無理だ。筋肉達磨(ウシオ)の戦いでサメハダーに仕掛けたように"大吸精(メガドレイン)"で以って体を操るにも、あれはいくら何でも大きすぎる。出来たとしても精々体節の一部分程度のもの。それにアレは対象に密着せねば使えん。この距離では吾輩が奴に到達するより先に、確実に奴が『大地の玉座』へと到達する。

 

 駄目だ、打つ手がない。吾輩では奴を止められない。手詰まりの状況に臍を噛む思いの吾輩。ならばいっそのこと一縷の望みをかけて奴へと突撃するかと吾輩は足に力を込めて、そこで周囲にいた筈の「ほうせきの民」たちの姿が見えなくなっていることに気が付いた。まさか逃げたのか、いやそんな訳はないと慌てて見渡し、彼らが壁面より突き出した一際大きな結晶の上に陣取っているのを発見した。

 

 何をしているのかと近づくと、彼らは意識を集中させ足元の結晶へ自らの生体エネルギーを流し込んでいるようだ。やがて流し込まれた生体エネルギーの影響か結晶の色がそれまでの無色から薄桃色へと変化する。またそれに伴って、結晶から感じ取れるエネルギーも属性を持たないプレーンなものから、何かしらの"属性(タイプ)"を帯びたものへと変わっていた。そして結晶の輝きが目の眩むばかりになった時、陣頭にいた髭の御仁より"発射"の号令が飛んだ。

 

 瞬間、結晶より巨大な"属性(タイプ)"エネルギーの弾丸が放たれる。弾丸は飛翔の途中で分裂し星を象った形状へと変化。山なりの軌道を描いてハガネールの周囲に着弾すると、凄まじい光と共に大爆発を起こした。爆発はハガネールの巨体を余さず包み込み、目も眩むような輝きがその姿を隠す。それだけではない、着弾の余波によるものか余剰のエネルギーが周囲へと拡散し、一帯に霧が立ち込めたかのような不可思議な"(フィールド)"が形成された。

 放たれた光量に吾輩は思わず目を背け、同時に内心で舌を巻く。何と凄まじき"大技"よ。結晶に蓄えられた自然エネルギーに"属性(タイプ)"が込められた生体エネルギーを流し込むことで性質を変換、"属性(タイプ)"の大砲として撃ち出したか。いやはや国防はあの結界に頼り切っているものと思い込んでいたが、まさかこんな隠し玉があるとは。

 

 だが、強力な力にはそれなりの代償があるらしい。エネルギーを解き放った結晶にもう先の輝きは無く、どことなくくすんだ色合いへと変化していた。さらに生体エネルギーを注ぎ込んだ影響からか、「ほうせきの民」たちもゼエゼエと息を切らしその場にてへたり込んでいた。この様子では次弾を撃つことも難しいだろう。

 それでもあれ程までのエネルギーを叩き込んだのだ。きっと(ハガネール)もただではすまないと光が収まりつつある着弾地点に吾輩は視線を向け、

 

――ゴアアアアアアア!!!

 

 咆哮と共に光を消し飛ばしながら現れる、(ハガネール)の姿を見た。

 

 敵の威容、未だ健在。砲撃を浴びながらもその勢い、些かの衰え無し。

 何という奴だ。あれ程のエネルギーを食らってまるで堪えた様子もない。吾輩はハガネールの恐るべき防御能力に戦慄しつつも、その絡繰について思考する。

 

 ――あれ程の"属性(タイプ)"エネルギーを浴びながら大きなダメージを受けた様子は無い。単なる能力値(ステータス)による防御ではないな。確かゲームにおける(ハガネール)の"とくぼう"の値は"ぼうぎょ"に比してそれほど高い訳では無かった筈……。となれば原因はもっと異なるもの――"属性(タイプ)"相性によるダメージ軽減か!

 

 先の砲撃は高密度の"属性(タイプ)"を帯びていた。恐らくそのタイプがハガネールの持つ"はがね"・"じめん"のどちらかに軽減されたのだ。故に奴はそれほどのダメージを負わなかったのだろう。

 先の砲撃ダメージが低かった絡繰は分かった。理由が分かれば対策のしようはある。砲撃に使えそうな結晶もまだ幾つか存在している。ならば、と吾輩は砲撃が効かなかったことに意気消沈する「ほうせきの民」たちへと呼びかけた。

 

――我に策あり、と。

 

 吾輩の言葉を聞き「ほうせきの民」の目に力が戻る。そして彼らが言葉を発しようとして、しかし大きな振動によって遮られた。

 

 (ハガネール)がとうとう『大地の玉座』に到達したのだ。ハガネールは鎌首をもたげ、『大地の玉座』を支える結晶の柱へと自慢の大顎を叩きつける。衝撃が空洞を揺らし、柱の一部が削り取られた。それだけに飽き足らずハガネールは再び大顎をもたげると、何度も何度も柱に向かって叩きつけ始めた。

 

 奴め、どうやら柱を圧し折るまで続ける気らしい。

 

 ハガネールの攻撃に柱が悲鳴を上げておる。最早一刻の猶予もない。吾輩は「ほうせきの民」たちに策を明かし、協力してもらえないかと頼み込む。民たちは吾輩の言葉に力強く頷き、疲労困憊の身体に鞭打って大急ぎで別の砲撃用結晶へと移動する。

 

 そうして再び砲撃用結晶の上に陣取った「ほうせきの民」たち。しかし先程とは異なり、陣頭指揮を執るのは髭の御仁では無く、吾輩である。

 

 吾輩の合図と共に「ほうせきの民」たちが一斉に生体エネルギーを結晶へと注ぎ込む。だが先とは違い、流し込まれる生体エネルギーに属性(タイプ)は無い。今回において彼らの役割は砲撃に指向性与えることだけ、砲撃に属性(タイプ)を与えるのは吾輩の役目だ。

 吾輩は砲撃用結晶に菌糸束を張り巡らせ、繋げた経路(パス)を通じて生体エネルギーを流し込んでいく。その際に出力する属性(タイプ)は"()()()()"。重たい水を押し込むような感覚を覚えながらも、吾輩は必死で"かくとうタイプ"に変化させた生体エネルギーを流し込んでいく。やがて結晶が先と同様の目も眩むような光――流し込まれた属性(タイプ)の違いからか色は濃い橙色であったが――を放ち始めた。同時に足元の結晶内のエネルギーが臨界に達したことを察し、吾輩は制御役である「ほうせきの民」たちに"発射"の号令をかけた。

 

 瞬間、結晶から放たれる"かくとう属性(タイプ)"エネルギーの弾丸。放たれた弾丸は飛翔の途中で巨大(キョダイ)な「拳」を象った形状へと変化。ハガネールを横合いから思いきり殴りつけるようにして着弾し、その身を包む大爆発を引き起こした。

 

 それを見届けた吾輩は疲労困憊で座り込む。砲撃にごっそりと生体エネルギーを持っていかれたのだ。

 想像以上にキツイ、一発撃っただけでも倒れそうだ。

 

 ……一発だけの吾輩ですらこれなのだ、二発目となる「ほうせきの民」たちの状態はさらに酷い。そのほとんどがその場より立ち上がることも出来ず、さらに幾匹か意識を失っている者さえいた。

 だが、それだけの甲斐はあった。吾輩たちが放った弾丸の属性(タイプ)は"かくとう"。"はがねタイプ"であるハガネールにとっては弱点となる属性(タイプ)だ。その力を何倍にも増幅させた弾丸を正面から受けたのだ、奴にとって確実に痛打となったであろう。

 果たして光が晴れたその場には"かくとう"の弾丸によって打ち据えられ、地に伏すハガネールの姿があった。 

 大敵が倒れたのを目の当たりにして俄かに騒めく「ほうせきの民」たち。誰かが呟く声が聞こえた。

 

 ――やったか……? と。

 

 世の中にはジンクスというものがある。一種の俗信・迷信のようなもので、その中でも特に縁起の悪いものやことを指す言葉だ。黒猫に横切られるのは不幸の前触れ、というのはよく知られた例であろう。

 ……何故吾輩がこんなことを唐突に考えたのかと言えば、この状況にピタリと当て嵌まるジンクスがあるからだ。先程誰かが発した「やったか」という言葉。この言葉が発せられた時、大抵の場合は()()()()()()

 

 ああ、嫌な予感がする。

 

 そんな吾輩の感じ取った嫌な予感は――当然の如く現実となった。

 バチリ、と閉ざされていたハガネールの瞳が開かれる。続けて全身をくねらせながら起こした奴は洞窟に響き渡る怒りの雄たけびを上げた。

 

――ゴアアアアアアア!!!

 

 地下空洞中を震撼させる咆哮。吾輩たちはその音量に思わず身を竦ませる。

 ギロリ、とハガネールが怒りに満ちた視線をこちらに向ける。どうやら奴は先の一撃を受けたことで吾輩たちを()()と判断し、ターゲットの前に排除することを決めたようだ。

 ガパ、とハガネールの巨大な顎が開かれ、ポッカリと空いた口腔に破壊的な力が収束する。奴から離れた場にいてなお感じ取れる強大なエネルギーを前に吾輩たちは悲鳴を上げる体に鞭打ち、意識のない仲間は無理やり背負って、全力でその場から退避する。

 そして吾輩たちが皆その場より離れた直後、ハガネールより"破壊光線(はかいこうせん)"が放たれた。文字通り射線上にあるもの全てを破壊するエネルギーの大奔流に、吾輩たちが先ほどまで立っていた結晶は数秒と持たず粉砕される。さらにそれだけでは飽き足らず、結晶内部に残された自然エネルギーと結び付き、大爆発を引き起こした。

 爆風によりコロコロと転がされる吾輩の体。地面より突き出した結晶に思いきりぶつかることでようやっと停止する。顔面を襲う痛みをこらえながら背後を振り返れば、そこには恐るべき破壊の爪痕があった。

 先の爆発は砲撃用結晶を地下空洞の壁ごと粉砕したようだ。爆心地には円形の破壊痕が残されており、結晶の外殻が抉られたことで洞窟本来の黒々とした地肌が覗いていた。

 

 危なかった。あんなものを真面に食らえば一巻の終わりだろう、危うく短いポケモン生をこんなところで終えるところであった。幸い大急ぎで退避したお蔭で犠牲となった「ほうせきの民」たちは居らぬようだ。それだけが不幸中の幸いと言えるだろう。

 

 だが状況は最悪だ。ハガネールは既に反動から回復し、再び『大地の玉座』に体を叩きつけている。にも関わらず吾輩にはもう打つ手がない。「ほうせきの民」たちは皆散り散りとなってしまった。砲撃用結晶自体はまだ幾らか存在するものの、アレを動かすには彼らの協力が不可欠。しかし吾輩たちに再び結集する時間はない。砲撃を放てるだけの人員が集まるより先に、『大地の玉座』の方が崩れ落ちるだろう。見れば『玉座』を支える結晶柱には既に幾つもの罅が入っておる。このままではそう長くは持つまい。

 しかしどうすればよいのか。先の砲撃は吾輩たちの唯一といってよい切り札であった。それが通じなかったのだ。吾輩にはもう切れる手札も、講じられる策もない。正しく万事休すの状況に、吾輩は我が物顔で『玉座』を蹂躙するハガネールを精一杯睨み付けてやる他無かった。

 

 ……?

 

 ふと「ほうせきの国」中に断続的に響いていた衝撃音が止んだ。見ればハガネールが結晶柱への攻撃を停止させ、何かをジッと見つめている。

 

 何故だ。何故奴は停止した……?

 

 その理由は直ぐに分かった。奴の視線の先、『大地の玉座』の上にとあるポケモンが陣取っていたからだ。

 『大地の玉座』の紅い光に照らされて、しかし色褪せることなき桃色金剛石の輝き。紛れもなく我が弟子"お転婆姫"であった。

 

 ……あのバカ弟子! 何を考えている! まさか(ハガネール)と戦おうとでもいうのか……? だとすればあまりにも無謀。戦い(バトル)を覚えたばかりの素人にあんな怪物の相手など務まる筈ない。何故だか(ハガネール)は停止しているが、再び動きだせばその時点でお陀仏だ。それに例えハガネールの攻撃が当たらずとも『大地の玉座』の上(あんな場所)にいたら確実に崩落に巻き込まれる。

 

 ええい仕方があるまい……!

 

 吾輩は手近にあった結晶へ向かって"大吸精(メガドレイン)"を繰り出した。菌糸束を思わせる深緑の線が結晶を覆い、蓄えられていた自然エネルギーを吸い上げ吾輩へと還元する。一挙に流れ込む無色の力に吐き気を催すが、意思力で以って抑え込み、我が身を駆動させる生体エネルギーへと変換していく。

 

 オエップ……やはり自然エネルギーを一挙に取り込むのは堪えるな……。だがこれで先の砲撃による消耗分は回復した。戦闘になったとしても問題はなかろう。さあ、頼むから双方そのまま動いてくれるなよ。

 内心でそう祈りつつ、吾輩は短い脚に力を込め『大地の玉座』目掛けて走り出したのであった。

 

―――

 

 「ほうせきの国」中央、『大地の玉座』。

 「ほうせきの国」で最も高い位置にあると言ってもよいこの場にディアンシー("お転婆姫")は立っていた。相対するハガネールはこの場にいてようやく視線がつり合う程の巨体。しかし、そんな存在を前にしても彼女が億することはない。

 

 何故なら自らはこの国の長たる"姫"故に。"姫"たる自分が国の危機にありて何もせずにいられようか。

 "わざ"の一つも使えなかった以前の自分であればいざ知らず、師より教えを受けた今の自分には戦えるだけの力がある。なればこそ国を脅かす敵を前に背を向けることなど出来はしない。

 自分はもう「民」らに守られるだけのか弱き存在ではないのだ。この国を侵す外敵を討ち果たし、「民」らにそれを証明してみせよう。

 

 と、そんな思いを胸に大敵(ハガネール)と対峙するディアンシー("お転婆姫")

 当然のことながら彼女の行動は愚行である。どこの世界に自らより遥かな格上相手に単独で挑む王がいようか。それが一騎当千の勇士であればいざ知らず、彼女は昨日の今日でようやっと戦い方を身につけただけの素人。幾ら戦い(バトル)の才能があるとは言え無謀という他ない。

 しかし時として愚か者の無謀な一手が、不利な戦況をひっくり返す奇貨となりえることもまた事実。お転婆姫のこの行動は偶然にも、(ハガネール)の攻撃を停止させることに成功していた。

 

 ハガネールは酷く困惑していた。原因は彼の目の前、目標(ターゲット)の上に陣取りこちらを睨み付けてくる桃色のポケモンだ。彼に与えられた命令(オーダー)眼前の結晶(ターゲット)の破壊。しかし同時に、彼は自身が今参加している作戦の最終目標がこの桃色のポケモンを捕獲することであるのを理解していた。

 故に迷う。与えられた命令(オーダー)は遂行しなくてはならない。しかし、今眼前の結晶(ターゲット)を破壊してしまった場合、巻き添えでこのポケモンが死ぬ可能性がある。そうなってしまっては作戦そのものが失敗してしまう、どうすべきか。

 命令と目標の二律背反に彼の脳が悲鳴を上げる。不毛な思考にリソースを取られ、彼は目標(ターゲット)への攻撃を一時中断、活動を停止させ――それが彼の命取りとなった。

 

 混乱し動きを止めたハガネールの直下へ莫大なエネルギーが収束する。力の出処は――相対するディアンシー(お転婆姫)

 彼女が使用しようとしたのは"だいちのちから"。本能によってタイプ相性を理解していた彼女は自らの手札の中でハガネールに最も相性のよい"わざ"を選択したのだ。

 それだけでは無い。大地を通じ送り込んだ"じめんタイプ"のエネルギーは途上にて結晶内部の自然エネルギーと合流し、その規模と威力を大幅に引き上げる。膨れ上がった"わざ"はさらに周囲よりエネルギーを引きつけ、瞬く間に先の砲撃を凌駕する規模に至る。

 「ほうせきの国」に蓄えられた自然エネルギーを吸収し、今にも爆発せんとする力を必死に制御するディアンシー。無論、彼女にこれほどまでの力を御した経験などない。しかし何故か彼女にはこれの制御方法が分かった。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。かくしてディアンシー("お転婆姫")は導かれるまま、キョダイな"じめんエネルギー"をハガネールの足元へと集中し――解放した。

 

―――

 

 解放の直前、ハガネールは漸く自らの足元に集うエネルギーに気が付いた――既に手遅れ。瞬間、大地より噴き上がったキョダイな砂塵が"はがね"の体を呑み込む。

 足元より放たれた"じめんエネルギー"の大奔流。その直撃を食らったハガネールは瞬時に自らの敗北を悟る。弱点となる属性(タイプ)の、それも肉体を包む鋼の鎧が意味を為さないエネルギーによる(とくしゅ)攻撃を食らったのだ。体力(HP)は凄まじい勢いで減少しており、遠くない内に彼は力尽きる(ひんし状態となる)だろう。

 そこまで理解した時、ハガネールは考えるのを辞めた。代わりに身を委ねたのはポケモンの持つ()()()()()。自然界を生き抜いた強者としてのプライドが自身の敗北を拒むように眠れる闘争本能へ火をくべた。

 

 与えられた命令(オーダー)は結晶の破壊――否、そんなことはもうどうでもよい。倒す。何としてでも目の前の敵(ディアンシー)を倒す。

 倒す。目の前の敵を倒す。倒す倒す倒す倒す倒すタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオスタオス倒すッ!!!

 

 理性など疾うに消し飛んだ。後に残るのは極限まで高められた闘争本能のみ。

 

 力だ、力が欲しい。寄越せ、力を寄越せ。敵を倒せるだけの力を――!!

 

 ――それは奇跡か偶然か。ハガネールの"極限"にまで至った闘争本能がその肉体を徐々に変質させ始める。より強く、より戦いに相応しい形へと。

 元よりポケモンとは闘争の中で成長し、より強大な姿へと進化する種族。敵を打倒する力を欲した彼が更なる力を得るために、その姿を変えようとしたのも当然のこと。

 奇しくもこの場には()()に必要なエネルギーが存在した――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ビシリと体側の突起と尻尾が砕け散る。代わって肉体から突き出したのは美しく輝く()()()()()()。体節の側面も同様に砕け、断面には青い円環が浮かび上がる。破砕された金属片は落下することなく、彼の首回りを浮遊旋回。とりわけ特徴的だった顎には新たな突起が生え揃い、さながら軍用円匙(ショベル)の如き容貌へと変化した。

 其は進化にありて進化に非ず。進化を超えたシンカの力。極限の闘争本能が齎したポケモンの覚醒形態――メガシンカである。

 

――オオオオオォォォォォォォ!!!!

 

 体節と金属片が高速で回転する。同時に旋回する結晶から莫大なエネルギーが噴出し、メガハガネールの体に沿って螺旋状の力場を形成、その体を一つの武器へと変貌させた。

 顕現したのは大地を穿つ巨大な螺旋錐(ドリル)。万象を貫く螺旋錐(ドリル)と化したメガハガネールは自らを覆う"じめん"の力場へ、その切先を向けた。

 

――"螺旋衝鑽(ドリルライナー)"

 

 大地より噴き出す砂塵の壁に、虹の螺旋が激突した。

 

―――

 

 ディアンシーは自らの操る大地の奔流に強い抵抗が来たのを感じ取った。内側から"わざ"を食い破らんとするエネルギーの高まり、それはもはや災害に等しい大地の奔流にかき消されることなく、むしろ徐々に拮抗しつつある。

 秒単位で膨れ上がる力にディアンシーの本能が警鐘を鳴らす。まずい、このままでは大地の奔流が破られかねない、と。ディアンシーはがむしゃらになって更なる自然エネルギーを搔き集め、内部のエネルギーを抑え込もうとした……が、相手の方が速かった。

 地より噴き上がる砂塵の壁、その壁面に穴が穿たれる。内部より姿を現したのは高速回転する虹の螺旋。壁面を穿たれたことで噴き上がる奔流の勢いが少しずつ弱まっていく。そして虹の螺旋がさらに回転を速めると、際限なく高まるその力に耐え切れなかったのか砂塵の壁は揺らめくように姿を消した。

 

 自らを抑え込んでいた砂塵の壁は消滅した。最早、"螺旋衝鑽(ドリルライナー)"を阻むものは何もない。虹の螺旋は最後に残った砂塵の残滓を一瞬で消し飛ばすと、勢いのまま『大地の玉座』上の(ディアンシー)目掛け突撃する。

 大規模な力を行使したことで消耗し、動くことの出来ないディアンシー。彼女の小さな体に恐るべき破壊の力が襲い掛からんとした――その瞬間、真紅の輝きがディアンシーを護るように拡がった。『大地の玉座』より発せられた超高密度の"いわ"と"フェアリー"のエネルギー、それが真紅の障壁となり破壊の虹を阻んだのだ。展開された障壁の強度は「ほうせきの国」を覆う結界を遥かに凌ぎ、タイプ相性による不利すら物ともせず、メガハガネールの"螺旋衝鑽(ドリルライナー)"を押し返さんと拮抗する。

 

 真紅の障壁と虹の螺旋、ぶつかり合う両者の力比べにやがて変化が訪れる。真紅が虹を徐々に押し返し始めたのだ。

 考えてみれば当然。両者の出力は拮抗している、ならば勝負を決めるのは如何にその出力を維持し続けられるか。『大地の玉座』は「ほうせきの国」に満ちる膨大なエネルギーを統御し、次々と注ぎ込める一方で、メガハガネールの力はひんし寸前状態から身を削って放った蝋燭の最後の輝きだ。既に限界寸前だったところへさらにメガシンカの負担も加わり、その出力を維持することが既に難しくなっていた。

 勝負の天秤は少しずつ、「真紅」に傾きつつあった。

 

 紅い障壁の圧力がさらに強まったのを感じたメガハガネール。理性など欠片も存在しない闘争本能に支配された状態の彼は、しかしだからこそ無意識より来る囁きに忠実だった。永きに渡り大自然の生存競争を勝ち続けた彼の持つ()()。闘争本能に支配されてなお肉体に染み付いたそれが、この状態に於ける対抗策を無意識の内に実行させた。

 向かい来る圧力に対しメガハガネールは、己が纏う"螺旋衝鑽(ドリルライナー)"の切先を僅かに下げる。掘り抜けぬほどに堅い岩盤にぶち当たった時は進路を僅かに逸らし、掘り進める場所を見つけるまで繰り返す。そうすることで初めて通り抜けることが出来る進路が見つかるのだ――こんな具合に。

 逸れた虹の切先が、球状に展開された紅の障壁の表面を滑るように動き、その進路を変更する。進行方向にあるのは『大地の玉座』を支える()()()

 メガハガネールの"螺旋衝鑽(ドリルライナー)"を押し返すほどの障壁。それ程の障壁を展開するのはいくら『大地の玉座』とて、本体に極近い領域のみが限界。自らを支える結晶柱に同等の障壁を貼ることは不可能であった。

 ハガネールの行動は彼にとって最適解であり、同時に奇しくも当初の命令(オーダー)を達成することとなったのだった。

 

 虹の螺旋の切先が結晶柱を捉える。既に先の攻撃にて罅が入っていた結晶柱が虹の破壊に耐えきれる筈もなく、秒と経たずに砕け散る。

 瞬間、支えを失った『大地の玉座』が崩落を始めた。

 

―――

 

 巨大な砂塵がハガネールを包んだと思ったら、ハガネールが虹の螺旋となって突撃していた。一体何が起こっているのだ、まるで訳が分からんぞ。出てきたハガネールの姿も何だかいつもと違うような気がしたが、気のせいか……? 少なくとも結晶柱に砕いて停止した姿は吾輩が前世にて見慣れたハガネールである。

 一瞬見えたハガネールの異形の姿に疑問を抱くが、今はそれに(かかずら)っている暇はない。

 

 支えとなる結晶柱を失った『大地の玉座』が崩落する――その上にお転婆姫を乗せたまま。

 ええいクソが、やはりこうなったか。お転婆姫の姿を『大地の玉座』に確認してより、こうなる気はしていたのだ。故にこそ吾輩は鈍足を押して必死に走っているのだが。

 崩れ落ちる『大地の玉座』へ向かうべく短い脚を全力で動かしながら、同時に吾輩は崩落音に負けぬよう力の限り叫ぶ。

 

 お転婆姫、そこから跳べ! 吾輩が受け止めてやる!

 

 吾輩の声が届いたのか、お転婆姫はハッとこちらを向き、意を決したように崩れゆく『大地の玉座』から跳んだ。

 崩落より跳び出した桃色金剛石の体は重力に引かれ勢いよく落ちていく。吾輩はお転婆姫の落下位置に当たりを付けると、その場所目掛け全力で跳び込んだ。

 

 間に合ええええええ!!

 

 ……ここで落ちてきたお転婆姫を華麗にキャッチすることが出来たなら恰好もついただろうが、生憎キノココ足る我が身は無手無腕。受け止めるためには体を張る他なかった。

 吾輩は跳び込んだ勢いのまま地面へと激突、顔面を下にした状態でスライディングする。地面との摩擦によって跳び込んだ勢いが弱まったところで、吾輩の上に勢いよくお転婆姫が降って来た。

 お転婆姫の尖った下半身が吾輩の体に突き刺さり、顔面も合わせて悶絶するような痛みが吾輩を襲う。しかし気合で耐えて立ち上がり、お転婆姫を連れてその場より退避する。この場は崩落よりある程度離れているため巻き込まれる心配は無いが、衝撃で砕けた結晶が飛んでこないとも限らないからだ。

 地面より突き出た結晶の影に隠れた吾輩たち。ここなら結晶が飛んできたとしても安全であろう。吾輩たちは結晶の影より、轟音の止んだ玉座を覗き見る。そうして吾輩たちの視界に飛び込んできたのは、あまりにも無惨な景色であった。

 

 あれ程の威容を誇った『大地の玉座』が完全に崩れ落ちている。国中を照らしていた紅い光も、微かな燐光が瞬くばかりで今にも消え入りそうな程に弱まっていた。心なしか「ほうせきの国」中の結晶も今までより少し暗くなった気がする。

 お転婆姫は崩れ落ちた『大地の玉座』にフラフラと近づき、辛うじて形を保っているばかりの巨大結晶を茫然と見上げる。その姿は傍目に見ても沈痛そのものであった。それは近寄ってきた「ほうせきの民」たちも同じで、誰も彼もが崩れ落ちた『大地の玉座』を茫然と或いは悲痛な表情を浮かべて見つめていた。

 ……無理もない。吾輩は話に聞いただけだが、『大地の玉座』とは国の護りの要であるのと同時に、彼らの慕う先代女王が残した忘れ形見。特にお転婆姫にとってアレは顔も知らぬ"母"との唯一といってもよい繋がりである。それが永遠に失われたのだ、その心情は察して然るべきであろう。

 吾輩は掛ける言葉が見つからず、気まずい思いでその場を後にする。……本当はお転婆姫の先の無謀を咎めようと思っていたのだが、あの様相を前にしてとてもそんなことは出来なかった。

 

 悲嘆に暮れるお転婆姫と「ほうせきの民」から離れ、吾輩が向かったのは『大地の玉座』を崩壊させた下手人の元。その下手人――ハガネールは崩れた結晶の山に半身を埋め、身じろぎ一つせずに倒れていた。

 見る限りでは完全に戦闘不能となっているようだ。吾輩は念のため数度ハガネールの体を(つつ)き、さらに"種子銃(タネシガン)"までぶつけてみたが、全く反応はない。ハガネールは完全に沈黙して(戦闘不能となって)いた。

 ……一先ず「ほうせきの国」を襲った危機は去ったようだ。幸いなことに「ほうせきの国」の住人に一人の犠牲者も出ていない――代わりに「ほうせきの国」には無視できないほどの被害が出てしまったのだが。とは言え襲い来た脅威を撃退したのも事実だ。多少、気を緩めても問題なかろう。

 直面した危機を乗り越え、ほっと一息ついた吾輩。落ち着いたところでふと、吾輩の脳裏に初めに抱いた疑問が蘇る。「何故ハガネールが「ほうせきの国」を襲ったのか」だ。

 吾輩の予想が正しければこのハガネールは()()()()()()()()()()()()()だ。だとすれば「ほうせきの国」を襲ったのはトレーナーがそうするよう指示したことになる。だが、地底深くにある「ほうせきの国」はそもそもとして人間の知覚が及ぶ領域ではない。もしこの領域を知覚したのだとしたら、一体どうやって……?

 そこまで考えた時、吾輩の脳内に電流が走る。思い出されたのは吾輩が「ほうせきの国」に来てからの、いや来るまでの出来事。

 お転婆姫を襲った()()()()()のヤミラミ。「ほうせきの民」が出くわしたヤミラミの群れ。結界によって「ほうせきの国」からはじき出された姿。そして、その後に現れた執拗に『大地の玉座』を狙うハガネール。これらの事象が全て繋がっているのだとすれば……。

 

 そうして吾輩は最悪の結論に思い至り――弾かれたように走り出す。

 

 いかん! 吾輩の予想が正しければ「危機」はまだ去っていない!

 

 果たしてその予想を裏付けるかのように、走り出した吾輩の元へ耳障りな叫び声が響き渡った。

 

――ウイイイーーーーーーーッ!!!!

 

 

―――

 

 ()()の潜む横穴にまで響き渡る轟音。

 同時に今の今まで()()を阻んでいた、"()()()()()"のエネルギーが消え去るのを感じる。

 どうやらハガネールは命令(オーダー)を遂行したようだ。

 

 ()はゆっくりと横穴の出口、地下空洞(ほうせきの国)への開口部に手を伸ばす。伸ばされた()の手は何の抵抗も無くスルリと地下空洞(ほうせきの国)へと入って行った。

 

 それを確認した()は背後にて控える無数の部下たちへ、主人より与えられた命令(オーダー)を伝える。

 

 「目標(ターゲット):ディアンシー。命令(オーダー):『目標(ターゲット)ヲ捕獲セヨ』」

 

 受けた部下たちは命令(オーダー)を蹂躙の喜びに身を震わせながら、次々と地下空洞(ほうせきの国)へ飛び込んでいく。

 

――"エクストラミッション":ディアンシー捕獲作戦。第二段階へ移行。

*1
単発の未完成タネマシンガン。未だ連射が効かないため主人公はこう呼称している。サトシのフカマルの「りゅうせい」のようなもの

*2
「ほうせきの民」曰く、「ほうせきの国」内部の結晶にはポケモンをひんし状態から回復する効果があるのだとか。何でもこの国の秘伝らしい。姫の指導を任せるからにはと、特別に教えてもらった




・メガストーン/キーストーンを用いないメガシンカについて
 本編にてハガネールがメガストーン/キーストーンを用いずメガシンカをしているが、これは厳密に言えばメガシンカではなくその大本となった現象であるため。
 拙作独自設定としてメガシンカ形態とは極限の闘争本能に支配されたポケモンが、周囲のエネルギーを吸収し限界を超えることで至る一種の覚醒形態としている。そのためこの形態に至ったポケモンたちは(例外を除いて)一種の暴走状態にあり、自身の身すら顧みず、力尽き果てるまで荒れ狂う。
 自然界において自身の限界を超えるような強烈な闘争本能に支配されることなど滅多にないためこの覚醒に至ることは極めて稀だが、至った個体は必ず周囲に尋常でない影響を及ぼすため比較的人間の目に留まりやすく、荒れ狂う異形のポケモンの記録が幾つも残されている。
 メガストーン/キーストーンによるメガシンカはこの覚醒形態をトレーナーとの絆によって制御出来る状態で発現させたもの。


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