キノコのほうしを目指して   作:野傘

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大変お待たせいたしました。
地脈世界編最終話となります。


注意!
当作品には独自展開、独自解釈、設定捏造、キャラ崩壊が多分に含まれています。
上記の要素が苦手な方はご注意ください。





































戴冠の時、来たれり


以て六尺の孤を託す

――ウイイイーーーーーーーッ!!!!

 

 「ほうせきの国」に響く耳障りな鳴き声。吾輩にとって聞き覚えのある()()が聞こえてきたのは、崩壊した『大地の玉座』のすぐ近く。先ほどまで吾輩が居り、そして今も「ほうせきの民」たちが居る筈の場所だった。

 

――いかん!

 

 吾輩は沸き上がる焦りに突き動かされるまま短い脚を全力で動かし、「ほうせきの民」らの元へと急ぐ。

 果たして再び『大地の玉座』へ戻って来た吾輩が見たのは、逃げまどう「ほうせきの民」とそんな彼らに襲い掛かるヤミラミたちの姿であった。

 

 遅かったか……!

 

 敵の襲来を予期出来なかったことを悔やむ気持ちが湧き上がる。が、今は悩んでいる暇はない。「ほうせきの民」(彼ら)を助けるのが先決だ。

 吾輩は今まさに「ほうせきの民」に飛び掛からんとするヤミラミ目掛け、思いきりドロップキックを放つ。横からの思わぬ攻撃に吹き飛ばされるヤミラミ。さらに吾輩は倒れたヤミラミに向け、たっぷりと"体の自由を奪うほうし(しびれごな)"を浴びせてやる。憐れ、大量のほうしを吸い込んだヤミラミは全身を痙攣させ倒れ伏した。

 仲間の一匹が倒されたことでヤミラミたちが吾輩の存在に気が付くが、吾輩はそのまま奴らに向かって大量のほうしをぶちまけ、ほうしによる障壁を形成することで牽制、こちらに近づけさせないようにする。ほうしの効果は長くは持たんが、少しだけ時間が稼げればそれでよい。

 

 ほうしによる障壁の中、吾輩は助けた「ほうせきの民」に吾輩が居らぬ間に何があったのか手短に尋ねる。

 その「ほうせきの民」曰く、「ほうせきの国」に繋がる横穴より突如として数十体のヤミラミが侵入し、自分達に襲い掛かってきたのだとか。あまりに突然の出来事で誰も有効な手が打てず、結果ヤミラミたちに追い立てられることになったらしい。

 

 事情は把握した――ところでお転婆姫はどうした?

 

 吾輩がそう尋ねると「ほうせきの民」は、混乱の内でよく分からなかったが、恐らくお付きの者たちと共に逃げているのでは、と答えた。

 

 そうか……、分かった。――そろそろまき散らしたほうしの効果が薄れて来る頃合いだ。取り敢えず吾輩はお転婆姫を探して合流することにする。貴様も早く安全な場所へ逃げろ。

 

 吾輩の言葉にコクコクと頷くと、「ほうせきの民」はヤミラミたちのいない方角へぴょんぴょん跳ねて逃げていく。それを見届けた吾輩は薄れゆく障壁に"種子銃(タネシガン)"を打ち込み、そのまま吾輩自身も飛び込んでいく。「ほうせきの民」がうまく逃げられるよう少しでも時間を稼ぐためだ。

 障壁の向こうには複数体のヤミラミが集っていたようで、内一匹は先ほど打ち込んだ"種子銃(タネシガン)"がクリティカルヒットしたのか、顔面を押さえて這いつくばっている。

 

 隙だらけだ。

 ――"大吸収(メガドレイン)"

 

 瞬間、這いつくばったヤミラミに深緑の菌糸束が纏わりつき、その体力(HP)を吸い上げ吾輩へと還元する。瞬く間に行われた攻撃にヤミラミは抵抗する間もなく倒れ、そのまま戦闘不能となった。

 再び仲間を倒されたことでヤミラミたちに動揺が走る。吾輩はその隙を逃さず、こんな時のためにと用意した隠し玉を使った。

 

――喰らえ! "閃光茸(キノコフラッシュ)"!

 

 瞬間、吾輩の体より眩い虹色の光が放たれた。

 "閃光茸(キノコフラッシュ)"は「ほうせきの国」に来る道中で見た光るキノコの林にインスピレーションを受け、地底に存在する輝く結晶の性質を真似して編み出したものだ。効果は恐らく通常の"フラッシュ"と同様、しかし何故か放たれる光はやたらキラキラした虹色の輝きだ。なぜ虹色になるのかはさっぱり分からんが、そのフィーバー!な光り方を吾輩は密かに気に入っていた。

 光を直視してしまったヤミラミたちは一時的に視界を奪われ、吾輩を捉えることが叶わない。後は吾輩の為すがままだ。まともに動けなくなった連中をあっという間に叩きのめし、全員戦闘不能にした。

 

 ふむ、吾輩の攻撃数発で戦闘不能になるか。どうやら連中、個々での実力はそれ程高くないようである。

 だが問題は数だ。奴ら矢鱈と数が多い。この数を相手取るには吾輩だけでは手が足りん*1。やはりもう一匹戦力となる存在が欲しい。そして今、「ほうせきの国」にて吾輩と同等に戦える(が背中を預けられる)存在といえば()()()()

 衆寡敵せず。数で劣る吾輩たちが、数で勝るヤミラミ達に対抗するためには、やはり戦力を集中させるべきであろう。吾輩はお転婆姫(戦力となる存在)と合流すべくその場を後にした。

 

 ワラワラと寄り付くヤミラミたちを蹴散らしながら「ほうせきの国」中を走り回る吾輩。そんな吾輩の視界に一際ヤミラミたちが集っている箇所が映る。

 むむ、あそこだけ妙に連中が多いな。

 よくよく見ればヤミラミたちの奥に沢山の「ほうせきの民」の姿がある。彼らは天敵(ヤミラミたち)を前にしても他の「民」らとは違って逃げようとはせず、むしろ体を張って立ち向かっているようであった。どうやらあそこには戦う能力が低い彼らが体を張ってでも守ろうとする何かがあるらしい――無論その正体など考えずとも分かることだが。

 

 しかしどうにも解せぬ。少し前ならばいざ知らず、今のあ奴はかの怪物(ハガネール)相手に喧嘩を売るくらいに無鉄砲だ。そんな者がこの状況で大人しく守られているなどとは考えにくいが……?

 考えても埒が明かぬ。ここは手っ取り早く本人に聞くとしよう。

 

 そう思い立った吾輩は集りに集ったヤミラミたちに向け突撃を開始した。

 

 夢中で「ほうせきの民」に襲いかかるヤミラミの後頭部にドロップキックをぶち当て、押し倒す吾輩。仲間に一匹がいきなり倒れたことでヤミラミたちに一瞬動揺が走る。その隙を逃すことなく、吾輩はヤミラミたちに向かって大量の"体の自由を奪うほうし(しびれごな)"をまき散らしてやる。ほうしを吸い込み次々と痺れるヤミラミたち。吸わなかった者たちも慌てて口を抑え、ほうしの効果外へと逃れていく――誤って一部の「ほうせきの民」も巻き込んでしまったが非常時故仕方なし、やむを得ない犠牲(コラテラル・ダメージ)ということで許して欲しい。

 ともかく吾輩はほうしの障壁を作りヤミラミたちを牽制することに成功した。その間に「ほうせきの民」たちは急いで態勢を立て直す。そんな彼らを横目に吾輩は集団の中心、彼らが守っている存在の元を目指し駆けて行く。

 

 果たして集団の中心部、数多くの「ほうせきの民」に囲まれて彼女はいた。輝く桃色金剛石を身に纏う「ほうせきの国」の至宝にして、我が出藍の弟子・お転婆姫である。お転婆姫は常の元気さは何処へやら、地べたを見つめ気落ちした様子で佇んでいた。

 

――ようやっと見つけた。探したぞ、お転婆姫よ。

 

 そう声をかけると、吾輩に気が付いたのかお転婆姫は顔を上げる。が、直ぐに視線を逸らし、再び俯いてしまう。

 どうやら先の『大地の玉座』が失われた動揺より立ち直れていないようであった。

 

 ……気持ちは分かるが今は「ほうせきの国」存亡に関わる非常事態。一人でも戦力となる者が必要だ。すまんが力を貸してくれ、吾輩一匹では奴等全てを相手取るのは不可能だ。

 

 と、吾輩はお転婆姫に助力を求めるが、お転婆姫は黙ったまま首を振るばかり。

 一体どうしたというのだ。つい先ほどハガネールと相対していた時の無鉄砲さは何処へ行った。正直、吾輩がこのように助力を請わずとも勝手に闘っているものと思っていたのだが。

 そう吾輩が疑念を口にすると、お転婆姫は逡巡するように数度口を開いては閉じることを繰り返した後、ポツリと呟いた。自分はもう戦わ(バトルし)ない、と。

 

――今、何と言った?

 

 お転婆姫からの予想外の言葉に耳を疑い、吾輩は思わず聞き返す。それに対してお転婆姫、今度ははっきりと、自分はもう戦わ(バトルし)ない、戦うべきではない、と言い放った。

 そこから堰を切ったようにお転婆姫が話し出す。曰く、自分などほんの僅かに"わざ"が使えるだけの戦い方など知らぬ素人。そのような存在が戦場に居ても邪魔なだけ。それに自身は「ほうせきの国」の姫である身、万が一にでも傷つくことがあってはならない。そして何より『大地の玉座』が崩壊したのは自分が出しゃばったがため、即ちこの国が危機に陥っているのは自分の所為だ。これ以上出しゃばって彼らを危険に晒すような真似は出来ない。故に、自分はもう戦わない。「民」らの言うことを聞いて、大人しくしているべきなのだ、と。

 

 そう思いの丈をぶちまけ、再び俯いて地べたを見つめるお転婆姫。

 

――ふむ、そうか。

 

 彼女が吐露した思いを受けて、吾輩は一つ頷く。

 

――貴様の考えはよーく分かった。自らの実力を過信して危険な場所に飛び込み、挙句『大地の玉座』を崩壊させてしまったことを悔やみ、もう二度とそのようなことを起こさぬよう戦うこと(バトル)を行わない、と。そういうことだな?

 

 念を押すようにお転婆姫へ問いかけると、その通りだと言わんばかりに肯首するお転婆姫。

 

――そうかそうか、なるほどな。……色々言いたいことはあるが、お転婆姫よ。取り敢えず歯を食いしばれ。

 

 えっ、と顔を上げたお転婆姫。その頬目掛け吾輩は少量の"かくとう"エネルギーを叩きつけてやる。パァン、と鋭い音と共にお転婆姫の首が僅かに傾く。吾輩はそのままもう片方の頬にも同じように"かくとう"エネルギーを放つ。再びパァンという音が鳴った。

 一体何をされたのかと目を丸くし、頬を押さえ茫然とこちら見るお転婆姫。

 

――"めざましビンタ"だ。何やら寝ぼけたことをぬかしていたのでな、これで少しは目が覚めたか。

 

 戸惑うように吾輩を見つめるお転婆姫。吾輩はそんなバカ弟子に()()()を指摘してやる。

 

――『『大地の玉座』を崩壊させてしまったのは自分の所為、故もう二度とそうならないよう戦うこと自体を辞める』……アホか、貴様。それで『大地の玉座』崩壊の責任を取っているつもりか? ハッキリ言おう、それは単なる"逃げ"だ。貴様が今やっているのは自身がしでかした失態から目を背けること以外の何物でもない。真に責任を感じておるというのならば、貴様がやるべきことは唯一つ――『ほうせきの国』を救うために戦うことよ。

 

 お転婆姫が目を見開く。

 

――それに、だ。『大地の玉座』崩壊は貴様だけの責任ではない。……吾輩らが放った結晶砲撃が(ハガネール)に通じなかった時点で、既に吾輩らは敗北していた。吾輩らに(ハガネール)を止める術はない、『大地の玉座』が崩壊するのは時間の問題であった。恐らくだが、吾輩だけでなくこの「ほうせきの国」に居た者全てそう思ったであろう――だが貴様だけは違った。誰もが諦めていたあの時、貴様だけが(ハガネール)に臆することなく立ち向かい、そして打倒してみせたのだ。

 

 そう、お転婆姫はあの時確かにハガネールを打倒したのだ。その後の反撃によって結局『大地の玉座』は崩壊してしまったが、それはむしろあの状況から反撃を行った敵の方を褒めるべきであろう。故に――

 

――他ならぬ吾輩が保証しよう。貴様は確かにあの時、「ほうせきの国」を脅かす危機より「国」を守った。自らに外敵を打ち倒せるだけの力があると証明してみせたのだ。

 

 だからこそ、

 

――今、吾輩が背を預けられるのは貴様だけだ。今、「ほうせきの国」を危機から救えるのは吾輩と、他ならぬ貴様だけなのだ。

 

――だから頼む、お転婆姫よ。我が出藍の弟子よ。吾輩と共に戦ってくれ。「ほうせきの国」を脅かす敵を共に打ち払ってくれ。

 

 お転婆姫の目を見つめ、吾輩はそう告げた。

 

 吾輩の言葉を受け、お転婆姫の瞳が揺れる。やがて彼女は意を決したように口を開き、吾輩に何かを返そうとして……しかし、吾輩がその言葉を聞くことは出来なかった。

 

――ウイイッ!!

 

 背後から再び聞こえてきた耳障りな鳴き声、そして"わざ"がぶつかる衝撃音。どうやら吾輩の張ったほうし(しびれごな)の障壁が消えたらしく、ヤミラミたちがまた「ほうせきの民」に向かって攻撃してきたようだ。

 前線にて戦う彼ら(「ほうせきの民」)の救援に向かわねばなるまい。そう言って、くるり、と踵を返し、お転婆姫に背を向ける。そのまま前線へと走り出す吾輩。後ろは見ない。既に吾輩が伝えるべきことは伝え終わった。後は彼女自身が決めることだ。尤も――

 

 とそこまで考えた所で吾輩は思考を中断した。視界にじゃあくなツメを振りかざし、今まさに「ほうせきの民」に襲い掛からんとするヤミラミの姿を捉えたからだ。

 

――させるものか!!

 

 吾輩はその場から前方へと全力で跳躍、ヤミラミの顔面目掛けてドロップキックを放つ。しかし、迫る吾輩に気付いたヤミラミが咄嗟に後ろへ跳んで回避したことで空振りに終わる。

 

 チッ、敏い奴め。

 

 避けられたことに内心で舌打ちしつつ、吾輩は勢いそのまま地面に着地しようとする吾輩。だが、地面に降り立つその間際、背後より別のヤミラミが迫り来ていることに気が付く。

 

 やられた……! 着地狩りか!

 

 着地のためほんの少し意識を集中させた隙をついた見事な着地狩りだ。吾輩の動きに合わせた完璧なタイミング。どうやら始めからコレが狙いだったようだ。連中は「ほうせきの民」より先に目障りな吾輩の方を無力化するつもりらしい。

 既に身体は着地の姿勢に入っている。空中にいるため咄嗟の動きも出来ず、イザという時の"ほうし"も先の障壁で大量に消費したためしばらくは使えない状態。今の吾輩に振り下ろされるじゃあくなツメから逃れる術はなく、甘んじて攻撃を受け入れる他なかった。吾輩はせめて受けるダメージを抑えんとして全身に力を込める。

 そうしてじゃあくなツメが吾輩に振り下ろされ――ることはなかった。振り下ろされるその刹那、飛来した何かがヤミラミの胴体を直撃し、その体を吹き飛ばしたからだ。おかげで吾輩は一切のダメージを負うことなく、悠々と着地することが出来た。

 

 さて、ヤミラミを吹き飛ばした飛来物、吾輩はそれが何であったのかがしっかりと見えていた。そして()()()()()()()()()()も。

 先ほどヤミラミを吹き飛ばしたもの――それは高速で打ち出された()()()。そうアヤツが最初に習得し、そして最も習熟した"わざ"だ。

 

 ニヤリ、と吾輩の口角がつり上がる。

 

 ゆっくりと振り返れば、果たしてそこに居たのは吾輩の思った通りの存在。結晶弾を撃ちだした姿勢で残心する我が出藍の弟子(お転婆姫)の姿。

 

 そうだ。そうだ、そうだとも。吾輩は信じておったぞ。貴様がこの程度でへこたれることなどあり得ん。必ずや立ちあがり、再びこの「国」のために戦わんとすることを。

 

 フワリと吾輩の元へやって来るお転婆姫。その顔に既に迷いの色は無かった。

 吾輩は近づいてきた彼女にこう言ってやる。

 

――何だ、ずいぶんと遅かったではないか。……それで? 貴様はここへ何をしに?

 

 お転婆姫も笑って答える。無論、押し入ってきた不届き者どもから「国」と「民」と守るため、と。そして付け加えるように、吾輩が手こずっているようだったため手を貸しに、とも。

 

――ハッ! 言うではないか。ならばその手並み……精々連中に見せつけてやるがよい。

 

 そう言って視線を周囲に向ければ、そこには吾輩たちを取り囲ようにズラリと居並ぶヤミラミたちの群れ。薄々感づいてはいたが、先ほどまであれほど攻撃を加えていた「ほうせきの民」たちへ今はほとんど牽制程度の戦力しか貼り付けておらんことを見るに、やはり連中の狙いはこのお転婆姫だったらしい。

 ならばこそ好都合。あの程度の数ならば「ほうせきの民」たちのみで対処できる筈。お蔭で彼らを守るための意識を割かずに済む。吾輩たちはただ、こちらに襲い掛かってくる敵を相手すればよいだけだ。

 言葉は不要、とばかりに自然と背中合わせとなって構える吾輩とお転婆姫。吾輩は周囲を取り囲むヤミラミたちの数を数える。()()()()の……ふむ、ざっと二十体と言ったところか。それに対するこちらの戦力は吾輩とお転婆の二体。その数は20対2とまさしく多勢に無勢。衆寡敵せず、圧倒的に不利な状況であった――連中(ヤミラミたち)の方が。

 

 考えてもみよ、吾輩はヤミラミ程度十体は問題なく蹴散らせる。そして吾輩と同等の実力を持つお転婆姫もそれは然り。これで戦力比は五分五分。さらにそこに息の合った師弟の連携が加わるのだ。これで戦力はさらに倍、いや十倍は跳ね上がる。つまり敵と吾輩らとの戦力差は実質20対200。吾輩らの圧倒的有利である。

 うむ、一分の隙も無い完璧な理論だ。何やらお転婆姫が呆れた目でこちらを見ているが気のせいであろう。……何? その理論絶対に間違っている、だと? 吾輩の地元では息のあったコンビの間で1+1が200になることなど常識だぞ。

 

 お転婆姫からの視線がますます冷たくなった。何故だ。

 

 軽口を叩き合い、随分と弛緩した空気を醸しだす吾輩とお転婆姫。そんな吾輩らの様子を隙と見たのか、連中(ヤミラミ)たちがじりじりとにじり寄り包囲を狭めて来る。

 ふむ、このくらい近づけさせておけば外れることも無い、か。では、お転婆姫よ――開戦の号砲といこうか。

 吾輩の言葉にお転婆姫はニヤリと笑って頷き、

 

――"結晶弾(いわおとし)"

――"種子銃(タネシガン)"

 

 次の瞬間、両掌と砲口からエネルギーを纏った弾丸が射出された。

 

 "くさ"と"いわ"の弾丸がヤミラミを捉え、その体を容易く吹き飛ばす。吹き飛ばされた個体は戦闘不能(ひんし状態)となったのか、そのまま目を回して伸びてしまう。

 遠距離による一撃で仲間が倒されたことで、これ以上距離を取るのを危険と判断したのだろう。ヤミラミたちは金切り声上げて次々に飛び掛かってくる――が、

 

――おおっと良いのか? 近距離(それ)は吾輩の間合いだぞ?

 

 飛び掛かってきたヤミラミたちに絡みつく無数の菌糸束。吾輩はそうして繋がった経路(パス)から連中の生体エネルギーを吸い取ってやる。

 

――"大吸収(メガドレイン)"

 

 体力(HP)を吸い上げられ、瞬く間に三匹のヤミラミが倒れる。ふむ、他の連中は効果範囲から退避することで逃れたか。まあ、大吸収(メガドレイン)は本来単体の相手を対象とする"わざ"。地脈のエネルギーを用いて効果対象を広げたが、それでもこの程度で精一杯であろう。問題はない、元より連中全員を捉えられぬことなど織り込み済み。だからこそ()()()()()()()のだ。

 効果範囲より逃れ、警戒するように吾輩の動きを伺うヤミラミたち。だが次の瞬間、連中がガクリと膝をつく。と同時に、経路(パス)を通じて吾輩の体へと奴らの生体エネルギーが流れ込んだ。

 その原因は連中の体表に浮かぶ緑色のシミ。吾輩が大吸収(メガドレイン)に乗じて放った、吸精胞子(やどりぎのたね)である。これがヤミラミたちから生体エネルギーを吸い上げ、吾輩へと還元しているのだ。そして奴らに全員に吸精胞子(やどりぎのたね)を仕込めたことは、()()()()()()()()()()ことを意味した。

 

 吸精胞子(やどりぎのたね)は対象が戦闘不能(ひんし状態)となるまで体力(HP)を吸い上げ、経路(パス)が繋がった相手に還元する"わざ"だ。この効果は、例え"わざ"を繰り出したポケモンがひんし状態となっても、味方と認識するものが居る限り自動的に経路(パス)が繋がり、維持され続ける。効果から逃れるには経路の移譲対象となる存在を全て戦闘不能とするか、有効射程内から逃れる、もしくは()()()()()()()()()()()()()()()()してから経路(パス)そのものを断つしかない。

 ……今この場には連中を引っ込めるトレーナーもモンスターボールもない。現在、吾輩が味方と認識する(経路の移譲対象となる)存在は「ほうせきの国」の住人全て。そして地脈によって強化された有効射程は……結晶洞窟全域に及ぶ。

 つまり連中が吸精胞子(やどりぎのたね)より逃れるためには「ほうせきの国」の住人全員をひんしとするか、結晶洞窟そのものから逃げる他ない。即ち、連中の詰みである。

 仕上げに吾輩は膝をつくヤミラミたちに向かって"しびれごな"を振りまいてやる。果たして、体力を奪われまともに動けなくなった奴らが逃れる術は無く、一匹残らず"まひ状態"となった。後は吸精胞子(やどりぎのたね)が奴らの体力(HP)を奪い尽くすのを待てば良い。

 

 まずは一つ、吾輩の勝利であった。

 

 さて、吾輩を狙った十体程のヤミラミを無力化し、勝利を収めた吾輩。お転婆姫の助太刀でもしてやるかと背後を振り返れば、そこには吾輩の倍の数はあろうヤミラミを相手に立ち回るお転婆姫の姿があった。

 どうやら連中、空洞中に散らばっていた仲間たちを呼び集めたらしい。ワラワラとお転婆姫に飛び掛かっては彼女の操る岩塊に吹き飛ばされることを繰り返していた。

 

――ふむ、自らの周囲に岩塊を滞空旋回させることで敵を牽制、相対する敵を限定する、か。それにエスパータイプ顔負けの物体操作……やはりアヤツは才能の塊だな。流石は我が出藍の弟子よ。が、しかし……

 

 お転婆姫の死角、そこに複数体のヤミラミが突撃する。それに気が付いたお転婆姫は横目で岩塊を操り、ヤミラミたちを吹き飛ばそうとした。しかし迫る岩塊にヤミラミたちはワザと激突、何匹かを犠牲にして岩塊を食い止め、一匹を岩塊防御の内側に侵入させることに成功する。

 お転婆姫は岩塊を操ることに集中していたために対処が遅れ、すでにヤミラミは攻撃態勢に入っていた。そしてヤミラミのじゃあくなツメがお転婆姫に振り下ろされ――る前に、吾輩の放った種子銃(タネシガン)がヤミラミを吹き飛ばした。

 そのまま吾輩はお転婆姫を囲むヤミラミたちの頭を踏みつけジャンプ、タイミングよくきた岩塊に飛び乗り、お転婆姫のすぐ側の地面へ華麗に着地した。

 

――何やら手こずっているようだな、手を貸してやろう。

 

 先ほどの意趣返しを込めてそう言ってやると、お転婆姫はムッと頬を膨らませる。

 

――はっはっはっ。何、単なる意趣返しだ。そうむくれるでない。とは言え、わざを出すことに集中して周囲への注意が疎かになっていたな。まだまだ未熟、精進せよ。

 

 吾輩からの指摘に少し悔し気な表情を受かべるお転婆姫。

 

――その悔しさは連中(ヤミラミ)にぶつけることだな。何、安心しろ。今この時は吾輩が貴様の目となってやる。死角の敵は引き受ける故、貴様は精々目の前の敵に集中するがよい。

 

 その言葉にお転婆姫は、見てなさいと言わんばかりに鼻を鳴らし、再びヤミラミたちに向き直る。吾輩も呵々と笑いながらお転婆姫の背後、隙を伺うヤミラミたちと対峙する。再び互いの背中を預け合う形となった吾輩たち。

 

 さあ、第二ラウンドと洒落こもう。

 

 お転婆姫の操る岩塊の隙間から、吾輩はこちらを伺うヤミラミに"種子銃(タネシガン)"を打ち込んでいく。吾輩の出現によってお転婆姫の死角は消滅し、ヤミラミたちはお転婆姫に一体ずつ真正面から挑む他なくなっていた。無論、一対一で奴らにお転婆姫が負ける道理はなし。決死の覚悟で挑んだヤミラミを、"結晶弾(いわおとし)"で、"地脈裂吼(だいちのちから)"で、"浮遊する岩塊(げんしのちから)"で次々と葬り去っていく。

 挑んでいった仲間たちが鎧袖一触と転がされる様を見て、流石にこのままでは勝ち目なしと判断したのかヤミラミたちの攻勢が止む。一方の吾輩も奴らが回避に専念するようになって"種子銃(タネシガン)"が当たらなくなったこと、また岩塊の防御の隙間から狙い撃つのにも限界があることから、攻撃を一時停止していた。吾輩たちとヤミラミたち双方の攻勢が止み、バトルフィールドに凪のような空白が生まれる。

 

 うーむ。これで連中が「ほうせきの民」らの元へ向かうのも厄介だ。……ここいらで一網打尽とするか。

 

 吾輩は小声でお転婆姫に尋ねる。

 

――吾輩が一時奴らの動きを止める故、貴様は奴らを一度に仕留めて欲しい。出来るか?

 

 お転婆姫はコクリと頷き、動きが止まっているなら何とでもと答える。

 

――よし、ならば吾輩が合図したら……

 

 奴らに聞こえないよう吾輩はお転婆姫に策を伝えた。

 

――ではいくぞ、一、二の今!

 

 吾輩の合図で吾輩らの周囲を浮遊旋回していた岩塊が、辺りを囲うヤミラミたちに向かって無差別に吹っ飛んでいく。警戒していたヤミラミたちは驚きこそしたものの、危なげなくコレを回避した。

 ……あわよくばこれで何匹か持っていければと思ったが、そう上手くはいかんか。しかし、それはあくまで上手くいったら儲けもの程度のこと。こうして奴らの視線を吾輩らに集めることこそが本命よ。

 狙い通りにヤミラミたちは突如防御を解いた吾輩らを警戒し、一体何をしようというのかと言わんばかりにこちらを凝視している。さあ、たっぷりその目に焼き付けるがよい。

 

――"閃光茸(キノコフラッシュ)"!

 

 瞬間、吾輩の体から激しく輝く七色の閃光が放たれた。

 

 奴ら(ヤミラミ)の宝石眼には瞼が無い。故、強い光を感じても咄嗟に瞼を閉じて防御することが出来ず、不意を打たれれば直視せざるを得ないという訳だ。結果、吾輩のフィーバー! な光を浴びたヤミラミたちは視界を完全に失い、各々が眼を抑えて這いつくばることとなった。

 

 よし! これで連中の動きは完全に止まった。後は貴様の番だ、お転婆姫よ。ん? どうした? 何々、自分も似たようなことが出来そう? これなら連中なぞ一捻り? ……よし、やってしまえ。

 

 吾輩の許可にお転婆姫は一つ頷くと、目を閉じ意識を集中させる。彼女の生体エネルギーが属性(タイプ)エネルギーへと変換され、漏れ出した余剰のエネルギーによって彼女の体がほんのりと輝き出す。

 躍動するエネルギーの流れから、使用している"わざ"の型は"閃光茸(キノコフラッシュ)"と同じ――だが注がれるエネルギーの総量は桁違いだ。

 

 カッとお転婆姫が目を開いた。既に変換作業は終わり、彼女の体内では巨大な属性(タイプ)エネルギーの塊が外界へと出力されるのを今か今かと待っている。

 

 そしてたっぷり一呼吸の間を置いた後、ソレは凄まじい閃光(スパークル)となって解き放たれた。

 

――"輝煌閃耀(マジカルシャイン)"

 

 瞬間、ヤミラミどもに降り注ぐ色とりどりの光の礫。七色の輝きが空洞を照らす様は美しいが、それが齎す効果は凶悪そのもの。

 

 圧倒的な属性(タイプ)エネルギーが込められた光は見た目のファンシーさとは裏腹に恐ろしい破壊力を有している。それが全方位からヤミラミたちに襲い掛かったのだ。無論、先の閃光茸(キノコフラッシュ)によって目を眩まされた連中にこれを避ける術は無く。憐れ、ヤミラミたちは全身黒焦げとなって一掃されることとなった。

 

 プスプスと煙を上げ、死屍累々と倒れ伏すヤミラミたち。そんな連中の様子を見て、お転婆姫はフンすと鼻を鳴らす。そして吾輩の方を振り向き、どうだ、すごかろうと言わんばかりの顔を向けてきた。

 

――うむ、素晴らしい火力である。流石は我が出藍の弟子よ。

 

 火力 is パワー。火力 is ジャスティス。やはり圧倒的な力で敵を薙ぎ払うのは心が躍る。自身が相対するのはゴメンだが、傍から見る分にはこれほどスッとするものはあるまい。

 技巧を凝らした戦運びも悪くは無いが、やはり敵を上回る力を以て正面から打ち破ってこその王道よ。吾輩は素晴らしきエンターテインメントを披露してくれたお転婆姫に、混じり気無しの称賛を送った。

 

―――
 

 

 吾輩たちを囲む戦闘不能(ひんし)状態となったヤミラミの輪。その一角に何やら()()()()と動くものを見つけ、吾輩たちは瞬時に警戒を強める。

 

――ウィィ……

 

 折り重なった体から這い出してきたのは何匹かのヤミラミたち。どうやらひんし状態の仲間の体が偶然にも盾となり、お転婆姫の閃光から逃れることが出来たらしい。

 

――ウィィ……? ウィッ!? ウィ、ウィヒィィィィィ!?

 

 ヤミラミたちは状況を確認するように周囲を見渡し、死屍累々と倒れ伏す仲間たちの姿に驚き、そしてそれを為した吾輩らの存在を認識すると、目で見ても分かる程に怯え始めた。

 

 お転婆姫はまだ生き残りがいたか、成敗してくれようと属性(タイプ)エネルギーを充填させ、連中に向かって歩み出す。吾輩もまた彼女の後に続いて一歩踏み出し――

 

 

 

 

 

 

================================================================

 

――ヤミラミ部隊の損耗率、許容値を突破。

 

――敵戦力を上方修正。

 

――作戦規定に従い指揮個体の待機命令を自動解除。

 

――『ヨノワール』出撃する。

 

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 ゾッと、全身に悪寒が走る。感じ取ったのは精神を削る強烈な"プレッシャー"。大いなる自然界に生きることで鍛えられた吾輩の生存本能が今、最大級の危険を告げていた。

 

 "敵"が、来る。それもヤミラミたちとは比べ物にならない程の"強敵"が――!

 

 吾輩は全力で周囲を見渡し、"敵"の姿を見出そうとした。

 

 どこだ!? どこに潜んで――ッ!?

 

 姿は見えぬ、しかし放たれる"プレッシャー"が"敵"いる方角を吾輩に教えてくれた。その方向は()()――吾輩らの足元から。

 見ればズルズルと独りでに動く持ち主不明の影が「ほうせきの国」の底面を這い進んでいる。その進行方向にはヤミラミを捉えんと歩みを進める()()()()

 お転婆姫はまだ這い進む影に気が付いていない。

 

――いかん!! お転婆姫!!

 

 言葉では間に合わんと判断した吾輩は咄嗟にお転婆姫へと飛び掛かり、彼女の体をその場より弾き飛ばす。

 次の瞬間、()()()()()()()()()()()()()()吾輩の体(お転婆姫が居た空間)を鷲掴みにした。

 

 突如として突き飛ばされ、さらに地面から巨大な手が伸びるのを目にし、驚愕の表情を受かべるお転婆姫。そんな彼女の目の前でズルリと影が立ち上がる。ゆらゆらと揺らめく赤い光を中心に、徐々徐々に曖昧な輪郭が形を成していく。

 光は単眼に、影は肉体に。

 現れたのは亡霊を思わせる不気味な人型のポケモン。吾輩の知らぬポケモンではあったが、その姿にはどこか見覚えがある。

 

――その亡霊の如き姿に、火の玉を思わせる赤い単眼……。コヤツ、"おむかえポケモン(ヨマワル)"の系譜に連なる者か……!

 

 見知らぬポケモンの姿に見知ったポケモンの面影を見た吾輩は、その正体に当たりを付ける。が、そんな吾輩の思考はすぐさま中断されることになった。

 

 ミシミシミシィ……!

 

――ぐわああぁぁぁぁ!!

 

 (ヨマワルの系譜に連なるポケモン)が吾輩の体を万力のような力で締め上げたからだ。凄まじい力で"しめつけ"られ、吾輩の口から思わず苦悶の声が漏れる。

 何とか脱出しようと藻搔くが、その度に奴の締め上げる力が強まり吾輩の体力(HP)がガリガリと削られていく。先の戦いで仕込んだ"吸精胞子(やどりぎのたね)"から流れ込む生体エネルギーによって何とか耐え忍んではいるが、削られるスピードに回復量が追い付かない。このままでは吾輩の体力が先に尽きる、一刻も早く脱出せねばならなかった。

 吾輩は今にも飛びそうな意識の中、必死に生体エネルギーを練り上げを体の自由を奪う"ほうし"(しびれごな)を生産する。まひ状態になれば多少拘束は緩むだろう、と目論んだのだ。

 だがその目論見は外れる。奴め、吾輩が何か仕掛けようとしているのを見抜いたらしい。拘束をそのままに、吾輩の体を凄まじい勢いで地面に叩きつけた。

 

――ぐえ……!!

 

 叩きつけられた衝撃で吾輩の意識が一瞬飛ぶ。練り上げていた生体エネルギーの流れが寸断され、作っていた"ほうし"がその効果を発揮しないまま霧散する。

 意識が朦朧とし、力の抜けた吾輩の体。奴はそんな吾輩をさらに数度地面に叩きつけた後、思いきり放り投げた。

 投げられた勢いのまま放物線を描いて飛ぶ吾輩をお転婆姫が受け止める。そのまま彼女が吾輩の口に結晶片(げんきのかけら)を放り込むと、供給されたエネルギーにより吾輩の意識は一気に覚醒した。

 

――ゲホッ! ゲホッ! ハアハア……、助かったぞお転婆姫……!。

 

 吾輩はお転婆姫に感謝を述べつつ立ち上がり、少し離れた場所にて悠然と佇む強敵を睨みつける。

 

――恐るべき手合いよ。不意を突かれたとはいえ、吾輩がほぼ何も出来ずに戦闘不能(ひんし)に追い込まれるとは……!

 

 目の前の敵が見せた恐るべき実力に吾輩は内心で冷や汗を流す。今までもジムリーダー(デコ少女)のノズパスや筋肉達磨(ウシオ)のサメハダーといった強敵と戦ったことはあったが、奴はそのどれをも凌駕しているように思えてならない。

 こちらの戦力は吾輩とお転婆姫の二匹に対し、向こうは恐らく一匹と数の上では吾輩たちの有利。だが吾輩は結晶片(げんきのかけら)のお蔭で何とか戦闘不能(ひんし)からは復帰したものの、奴から与えられたダメージが回復しきっていない手負いの身。お転婆姫も持てる力は吾輩を上回るとはいえ、未だ技量に不安が残る。先の攻防から垣間見た奴の実力を加味すれば――吾輩たちの完全な劣勢であった。

 

――敵は強大、正攻法では二匹掛かりでも勝てぬ……。ならば、取るべきは搦め手――!

 

 そうだ。敵の実力に手が届かんというのならば、こちらが届くところまで引き下げてやればよい。状態異常で以って拘束し、その隙に最大火力を叩き込んで沈めるのだ。それ以外に吾輩らに勝機はないだろう。

 ならば決まれば吾輩がやるべきことは一つ。奴をどうにかして状態異常にすることだ。吾輩は如何なる隙も見逃さぬよう奴の一挙手一投足に注意を払う。そうでなくとも奴の実力は今の吾輩らを遥かに凌駕しているのだ。一瞬の油断が命取り、目を離すことなど出来なかった。

 

 残念ながらこの時、吾輩は奴の力を見誤っていた。今までの強敵たちのように搦め手を用いれば勝てぬまでも対抗は出来るだろうという吾輩の見通しは、()()()()()()()()を相手取るにはあまりにも甘すぎたのだ。

 

 そんな吾輩の甘すぎる見通しのツケは、この後イヤと言うほど払わされることとなる。

 

―――

 

 何とかして奴を状態異常にするという難題。吾輩は一つの隙も見逃すまいと奴の行動をつぶさに観察する。すると吾輩の視界が奴の微かな動きを捕らえた。奴がこちらを見据え、その口元を僅かに歪ませたのだ。

 

――? ……!!

 

 明らかなる嘲笑。

 奴は吾輩たちを見下し、嘲っていた。

 

 それに気づいた途端、吾輩の内心に途轍もない怒りが湧き上がる。

 

――おのれぇ……! 吾輩らをコケにしおったな……! 許すまじっ! そこを動くな、目にもの見せてくれるわぁ!! …………あべしっ!

 

 怒りが堪忍袋の緒を引きちぎり、吾輩は頭に血が上った勢いのまま奴へと突撃しようとして――お転婆姫の手刀が頭頂に振り下ろされた。目玉が飛び出るような衝撃に思わず吾輩の足も止まる。

 そのままお転婆姫は吾輩の頬をむんずと引っ掴み、パァン! パァン! と平手打ち。

 

――イダダダダダダ!! ……な、何をするかいきなり!!

 

 突然の脳天手刀打ち(チョップ)と往復ビンタに抗議の声を上げる吾輩。そんな吾輩にお転婆姫は、それはこちらの台詞だと返す。突然怒り出したかと思えば、奴に向かっての突撃。何故いきなりそんな無謀なことをするのか、と。

 吾輩はその言葉でハッと気が付く。

 そうだ。遥か格上を相手にして、怒りに任せた突撃など愚の骨頂。普段の吾輩であるならばそのようなこと、衝動的であろうと行う筈が無い。では何故――いや、考えるまでもない。

 吾輩が怒りに支配されたのは奴を観察していた時、そして吾輩自身に原因が無いのであるならば、残る可能性は奴が何か仕掛けたということだけだ。そして吾輩の有する記憶(前世の知識)にはそれらしき"わざ"の存在があった。

 

――"ちょうはつ"か……!

 

 "ちょうはつ"、相手を挑発して怒らせるあくタイプの変化技。だが、その効果は相手を単に怒らせ判断力を低下させるものではない。

 

――フンッ! フンッ、フンッ! ……ダメだ、"ほうし"が生成出来ん……!!

 

 "ちょうはつ"の持つ真なる効果、それは掛けた相手の変化技を一切封じるというもの。奴の術中に嵌った吾輩の体は、どれだけ命じようとも状態異常を引き起こす"ほうし"を生成することはない。

 吾輩らは敵の状態異常という微かな勝機を完全に失ったのだ。

 

――クソッ……! 搦め手を完全に封じられた……! どうする……? 真向からの殴り合いなど、とてもではないが出来んぞ……!

 

 戦術の一つを封じられ、焦った吾輩は次の一手をどうすべきか思考しようとする。が、奴はそんな悠長なことを見逃してくれるほど甘くなかった。

 思考のために吾輩が意識を外したほんの一瞬で奴の姿が掻き消える。

 

――なっ!? 消えっ――!?

 

 次の瞬間、奴は吾輩の背後に移動し――既に攻撃を終えていた。

 

――"潜 影 瞬 撃(かげうち)"

 

――ぐはッ!!

 

 背後からの奇襲に吾輩は為す術なく吹き飛ばされる。幸い"わざ"そのものの威力は然程大きくないのか一撃で戦闘不能(ひんし)となることはなかったものの、無抵抗で受けたため吾輩の体は大きく吹き飛ばされ、お転婆姫と分断されてしまう。

 

――お転婆姫!!

 

 瞬間移動にも等しい奴の攻撃に反応が遅れた所為か、お転婆姫はまだ迎撃の準備が整っていない。奴はそのまま巨大な両掌で無防備なお転婆姫に掴みかかる。万力にも等しい力を有する剛腕が、彼女の華奢な体を捕らえた。

 

 だが、お転婆姫も然る者。見かけには分からずとも既に迎撃の準備を整えていたようだ。

 巨掌が彼女の体を捕らえたその瞬間、彼女は体内にて練り上げた"破壊の光(マジカルシャイン)"を解放。全方位に放たれた虹の光が、自らを包み込もうとする奴の掌を弾き飛ばす。

 それだけではない。お転婆姫は間髪入れずに結晶弾(いわおとし)を発射、その反作用でもって奴の腕の間合いより逃れる。さらにそのまま周囲に"浮遊する岩塊(げんしのちから)"を生み出し、奴目掛けて次々と撃ち出す。

 

 迫りくる無数の岩塊、しかし奴に微塵も動揺はない。

 

 ギチリと、拳が握られる。

 バチリと、拳に力が篭る。

 

 纏うは"かくとう"、構えるは正拳、放たれしは――

 

――"岩 砕 拳 ・ 乱 打 の 型(いわくだき:ラッシュバージョン)"

 

 岩をも砕く、拳の連打。

 

 殺到する無数の岩塊、奴はそれを無数の突きで以って砕いていく。

 

 投げる。砕く。投げる。砕く。投げる。砕く。投げる。砕く。

 

 投石と拳撃の応酬。拮抗しているように見えるその戦いは、しかし徐々に均衡が崩れていく。

 

 投げる。砕く。投げる。砕く。砕く。投げる。砕く。砕く。砕く。砕く。砕く。砕く…………。

 

 お転婆姫の投石速度を奴の迎撃速度が上回り始めたのだ。

 原因は彼女の岩塊を操る精度が急速に落ちてきたためであった。

 無理もない。"浮遊する岩塊(げんしのちから)"は無数の岩塊を浮遊させ操る性質上、どうしても制御に多くの精神力(PP)が必要となる。多用すればそれだけ消耗し"わざ"の精度は悪くなっていく。

 それだけではない。恐らく、奴から放たれる強烈な"プレッシャー"がお転婆姫の精神力の消耗をさらに加速させているのだ。

 

 お転婆姫の投石が徐々に鈍る。その隙を奴は見逃さない。ラッシュの速度をさらに跳ね上げ、投げつけられた岩塊を全て砕く。そして守りの消えたお転婆姫本体目掛け、全力の拳を振り上げる。

 お転婆姫は振り上げられた拳を見て、これ以上の投石を無意味と判断。咄嗟に残った岩塊を眼前に集め、即席の盾を作りだす。無数の岩塊が集まった分厚い防壁。奴とて砕くのは容易ではあるまい。よしんば砕かれたとて、その勢いは多少なりとも削がれる筈。実際お転婆姫もそう判断したのか、岩塊を砕いた後の奴を迎撃せんと力を溜めていた。

 

 だがその予想を、奴は軽々と飛び越える。

 

 眼前に現れた岩の壁に、奴は振り上げた拳を()()()()()()()()()()、代わって()()()()()()()()()()()()()()

 振り下ろされた拳は、しかし洞窟の地面を砕くことは無く、代わりに足元にあった()()()()()()()()()()()()()()

 

――"潜 影 打 手(シャドーパンチ)"

 

 ズルリと影が伸び、奴とお転婆姫の影が接続する。瞬間、お転婆姫の映る影より実体化した奴の拳が襲い掛かった。

 

 岩塊による防御をすり抜け、襲い来る影の拳。彼女は瞬時に危機を察し、拳との間に防御用の結晶弾を作りだす。しかし、所詮は急造のソレ、奴の力を前に結晶弾は呆気なく砕け散り、影の拳がお転婆姫へと突き刺さる。

 

 打ち込まれる凄まじい衝撃。

 桃色金剛石の体が洞窟の宙を舞った。

 

 一方、最初の攻防にて吹き飛ばされた吾輩は、奴とお転婆姫が激突する戦場へ向けて全速力で足を動かしていた。一刻も早くお転婆姫を助太刀せねば、と。しかし、そんな吾輩の眼前で彼女が奴の攻撃により大きく吹き飛ばされる。

 

――いかん!!

 

 それを認識した瞬間、吾輩はすぐさま全身にブレーキをかけて方向転換、走って来た勢いそのままにその場より全力で跳躍する。目指したのは吹き飛んだお転婆姫の進行ルート上。果たして吾輩はぶつかった衝撃によってお転婆姫の勢いを相殺、彼女を受け止めることに成功する。とはいえ、流石に全ての衝撃を殺しきることは出来ず。お転婆姫は受け止めた吾輩諸共地面を転がり、数メートル進んだところでやっと停止した。

 

――うぐぐぐぐ……なんという力……! お転婆姫! 大丈夫か!?

 

 吾輩は起き上がった後、すぐさまお転婆姫の容態を確認する。

 彼女は苦痛に顔を歪めているものの意識はハッキリとしており、戦闘不能(ひんし)状態となってはいなかった。どうやら直前に展開して結晶弾の防御が拳の威力を削いでくれたようだ。

 だが、幾ら戦闘不能(ひんし)状態とならなかったとは言え、彼女の負ったダメージはあまりにも大きい。吾輩を支えに何とか立ち上がったものの、その際攻撃を受けた箇所を庇っており、何もせずに佇む今も若干姿勢がふら付いている。

 かく言う吾輩とて状態は似たようなものだ。洞窟底面の結晶に菌糸束を這わせ、蓄えられていた自然エネルギーで体力を多少回復したものの本調子には程遠い。

 何より奴との戦いが始まって以降、奴からの攻撃を凌ぐばかりで吾輩たちからの有効打は何一つ与えられておらん。

 

――強すぎる……!

 

 吾輩の脳裏に敗北の二文字がチラつく。

 

 ……今まで対峙してきた者たちとの戦いでは、まだ吾輩にも抵抗の余地があった。正面からでは敵わずとも搦め手で、仲間との連携で、圧倒的格上相手にも勝負が出来ていた。

 だが奴は違う。搦め手は真っ先に封じられ、仲間(お転婆姫)とは分断されて連携する隙はない。吾輩たちは奴と勝負すら出来ていないのだ。

 

――どうする……どうすればいい……!

 

 絶望的な現状を前に何とか打開策を探す吾輩。しかし、そんなものが土壇場で都合よく出てくる筈もない。

 

 ノズパス(ジムリーダー)を相手にした時、吾輩の後ろにはアチャモ(仲間)がいた。

 サメハダー(アクア団幹部)を相手にした時、吾輩はバンダナ少女を逃がすだけの時間が稼げればよかった。

 だが今は違う。奴の目標はお転婆姫だ。そしてお転婆姫はこの「ほうせきの国」の"姫"。「ほうせきの国」を、「民」を見捨てて自身だけ逃げることなど出来る筈もない。彼女を逃がすためならば最低でも「民」の全てを逃がす必要がある。

 それだけの時間を吾輩一人で稼ぐことなど不可能だ。というより状態異常を封じられた現状、捨て身で挑んだとて足止めにすらならん可能性が高い。

 かと言って奴を打ち倒せるかと問われれば、それもまた難しい。残念ながら今の吾輩とお転婆姫が死力を振り絞っても、奴に勝てるビジョンが全く見えん。

 

――詰み……否! 諦めるな! 考えろ、考え抜け! 考え続ければ必ず突破口はある筈……!

 

 悲観的な考えを頭を振って振り払い、挫けそうな心を無理やり奮い立たせる。大丈夫だ、考え続ければ突破口は見つかる、と。だが、敢えて言おう。考えねばならぬ時点で吾輩たちの敗北は決定していた。

 何故か? 答えは簡単。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 吾輩が思考へと意識を割いたその瞬間、奴の姿が掻き消える。

 

――!! しまッ――!!

 

 それは先の焼き直し。一瞬の隙を突いた奴の奇襲攻撃。

 

――"潜 影 瞬 撃(かげうち)"

 

 だが、強力な奇襲攻撃も分かっているなら対処は可能。

 吾輩とお転婆姫は咄嗟にその場より飛び退き、奴からの攻撃を避けようとする。

 タイミングは完璧だった、先と同じ攻撃であったのならば吾輩たちは十分に避けることが出来ただろう――そう、()()()()()()()()()()()()()

 

 恐ろしいことに、奴は吾輩たちが先の攻撃に対応してくることすら予測していたのだ。

 吾輩たちの背後に出現した奴は吾輩たちに瞬撃を行うことなく、代わりに正拳の構えを取る。振り下ろされた拳は奴の足元、吾輩へと伸びる影に沈み込んだ。

 

――"潜 影 打 手(シャドーパンチ)"

 

 瞬間、眼前へと出現する影の拳。恐るべき速さで迫るソレを、空中で身動きのとれぬ吾輩が避けられる訳がなく。果たして、金剛石(ダイヤモンド)をも砕く鉄拳が吾輩の顔面に突き刺さった。

 

 暗転する視界。全身を苛む激痛。体を支える全てが揺るがされ、途轍もないダメージと共に吾輩の体が吹き飛ばされる。

 

――ガッ……ハッ……!!

 

 吹き飛んだ吾輩の体が何かにぶつかり、衝撃で息が止まった。

 そのまま重力に従ってズルズルと滑り墜ちる吾輩。視界が歪み、ぶつかったものが何なのかを確かめることすら出来ない。

 

 だが、吾輩の意識はまだ絶えていなかった。

 即ち、吾輩はまだ戦闘不能(ひんし)とはなっていないということだ。

 

 身心を襲う激痛を歯を食いしばって耐える。

 ともすれば崩れ落ちそうになる両足に力を込め、大地を掴んで立ちあがる。

 

 と、そこでようやく視界が戻って来る。真っ先に映ったのは砕けた結晶の山、崩れ落ちた『大地の玉座』の残骸だ。どうやら吹き飛ばされた吾輩はこの残骸にぶつかって止まったらしい。

 

 背後から激しい戦闘音が聞こえてくる。振り返れば、いつのまにやら作りだした結晶剣を振り回し、奴からの猛攻を凌ぐお転婆姫の姿があった。

 奴の桁外れの力を前にして、致命的な攻撃を逸らしつつ紙一重で渡り合うお転婆姫。やはり彼女の戦いの才能はずば抜けている。だが、それでも奴の実力には及ばない。彼女に出来ることは辛うじて攻撃をいなし続けることだけ、自ら攻撃を出す余裕は無い。このまま彼女の一人で続けたとてジリ貧となるのが関の山、どれだけ助けになるかは分からんがすぐさま助太刀に向かわねば。

 

 そうして足に力を込めたところ、ふと奴の単眼が揺らめくのが見え――

 

――そ こ を う ご く な(くろいまなざし)

 

 ガキリ、と吾輩の足が縫い留められる。

 

――なっ……!?

 

 足がピクリとも動かない。どれだけ力を込めようと、まるで拒絶するかのように微動だにしない。

 『くろいまなざし』、"ゴースト"タイプの変化技。前世の知識(ゲーム)では相手を戦闘から逃げられなくする"わざ"であったが、まさかこのようなことも出来るとは……!

 

 奴とお転婆姫の目まぐるしく行われる戦闘。とてもではないが種子銃(タネシガン)で奴のみを狙い撃つことなど不可能。大吸収(メガドレイン)もダメだ。菌糸束を伸ばすには時間が足りない。

 

 今の吾輩に打つ手はない。ただただ、奴とお転婆姫の戦いを傍観する他無かった。

 

 奴の剛腕が振り下ろされ、結晶剣が砕かれる。

 得物を失ったお転婆姫。そのまま自らを捕らえようと迫る腕に、しかし彼女は逃れることはせず、逆に一歩踏み出して体ごと奴にぶつかっていく。

 お転婆姫の行動が予想外であったのか、奴の反応が一瞬遅れる――それこそがお転婆姫の狙いであった。

 

――"輝煌閃耀(マジカルシャイン)"

 

 お転婆姫の体から光の礫がはじけ飛ぶ。

 超至近距離で放たれた破壊の光が奴の体を吹き飛ばした。

 

 さしもの奴とて密着した状態で炸裂した"わざ"に対処するのは難しかったらしい。吹き飛んだ先で焦げた胴を押さえ、思わずといった様子で膝を突く。吾輩らが奴に対して初めて有効となりうるダメージを与えた瞬間であった。

 一方、奴を吹き飛ばして距離を取ることに成功したお転婆姫。彼女は手元に新たな結晶剣を作りだすと切先を奴に向け、油断なく構える。膝を突いた奴に対しこれ幸いと追撃を行うことはない。ダメージを与えたと見せかけ、油断して近づいたところにカウンターを打ち込まれることを警戒してだ。奴との間に大きな実力の隔たりがある以上、警戒し過ぎるに越したことはない。

 そして彼女の懸念は正しかった。

 膝を突いていた奴が何事も無かったかのように立ち上がる。大腕を構えるその姿は強壮で些かの陰りも見えない。やはり先の膝を突いた姿はお転婆姫を油断させる演技であったようだ。

 考えてみれば当然、奴はこれまでの戦いでダメージらしいダメージを受けていない。体力(HP)はほぼ万全の状態であった筈。それに奴に近しい存在であろうサマヨール("てまねき"ポケモン)は耐久に優れたポケモン。奴もその傾向を受け継いでいるとするならば、先の攻撃で果たして如何ほどのダメージを与えられたことやら。

 

 だがこの時そんな吾輩の思考とは裏腹に、奴自身はダメージを与えられたことを重く受け止めたらしい。

 

 ――奴の纏う雰囲気が変わる。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 どうやら奴はお転婆姫を捕えるべき獲物ではなく、倒すべき敵として認識したようだ。

 故に、全力で勝負を決めにかかった。

 

 奴が腹の前で両掌を構える。

 向き合うようにして構えられた掌、その狭間に強大極まりないサイコパワーが収束する。両掌の間から見える景色は奇妙に歪み、どうやら集ったサイコパワーが何かしらの力場を形成しているようであった。

 

 瞬間、吾輩の直感が全力で警鐘を鳴らす。

 ()()を完成させてはならない。()()が完成したらお終いだ。

 

 それはお転婆姫も同じだったようで、力場の完成を阻止すべく奴へと攻撃を放とうとした。エネルギーの流れから、選択したのは光の礫(マジカルシャイン)。現状の彼女の有する最大火力の"わざ"であった。

 

 だが、今まさにお転婆姫が"わざ"を放たんとしたその時、奴の単眼が赤く揺らめいた。

 

――禁 縛 定 身(かなしばり)

 

 途端に彼女の体に異変が起こる。彼女の体内を巡るエネルギーの流れ、それが奇妙に捻じ曲げられた。つい先ほどまで"わざ"の型に沿っていた筈の結合が解かれ、テンでんバラバラになって拡散していく。

 繰り出さんとした"わざ"が不発となり驚愕の表情を浮かべるお転婆姫。驚愕は動揺を呼び、彼女の動きが止まる。そしてその時間は吾輩たちにとってあまりにも致命的なタイムロスであった。

 

 ギパリと奴の腹の口が開き、空いた隙間から力場に向かって()()が吐き出された。

 吐き出されたのは混じりけ無しの黒い球体。あまりにも黒すぎるために三次元上に在りながら立体感のまるでないそれは、さながら空間に空いた穴を思わせる。

 ――いや、違う。あれは正しく穴なのだ。一度落ちたら最後、光すらも脱出できぬ深い深い底なしの穴。全てを吸い込む闇の真空(ブラックホール)だ。

 

 瞬間、全てが黒に墜ちる。

 ねじ曲がった重力に引かれて大気が、大地が、奴の前方に存在する全てが、闇の真空(ブラックホール)目掛けて()()していく。

 

 それは吾輩たちとて例外ではない。

 吾輩は必死で『大地の玉座』の残骸にしがみ付き、引き寄せられぬよう踏ん張る。あんなもの(闇の真空)に吸い込まれれば一巻の終わりだ。

 幸いにして闇の真空(ブラックホール)の吸引力は本体から離れれば離れるほど弱まるようで、それなりの距離を隔てた吾輩は何とか踏ん張ることが出来ていた。

 だが、奴により近い位置にいたお転婆姫は違う。逃げる暇もなく強大極まりない重力を真面に受けることとなった彼女は、手にした結晶剣を地面へと突き刺し闇の真空(ブラックホール)より放たれる力に辛うじて抗っている状態だった。

 

 中々吸い寄せられない彼女の様子に焦れたのか、奴から放たれる重力が一段と強くなる。余りの吸引力にお転婆姫の体が地面より浮かび上がった。お転婆姫は吸い込まれまいと必死で結晶剣を持つ手に力を込める。

 

――マズい……!

 

 今、お転婆姫を支えているのは地面に突き刺した結晶剣とそれを握る彼女の手の力だけ……そう長くは保つまい。闇の真空(ブラックホール)に呑み込まれるのは時間の問題だ。一刻も早く彼女を重力圏から救い出す必要があった。だが……

 

――クソッ!! どうすれば……!!

 

 現状、吾輩は闇の真空(ブラックホール)より発せられる引力に抗うのに精一杯。とてもではないが彼女を助けに行ける状態では無い。何より肝心の彼女を救い出す術が吾輩には無く。焦燥に苛まれつつも、吾輩はただただ手を拱いている他無かった。

 

 そしてタイムアップの時がきた。

 

 突き刺さった結晶剣が絶え間ない負荷に耐えきれず砕け散る。

 支えを失った彼女の体が宙に浮き、闇の真空(ブラックホール)へと吸い寄せられる。

 遮るものは――何も無い。

 

――お転婆姫!!!!

 

 吾輩の口から悲鳴が漏れる。数秒後に彼女の体が闇に呑まれるのことを予期し、吾輩の心を絶望が満たした……その時。

 

『――――』

 

 不思議な声が聞こえてきた。耳で聞くのとは違う、頭の中に直接響くようなそんな不思議な声。

 

 ……誰だ、貴様? 何? 「あの子を助けたい」……だと? 彼女を救う方法があるというのか!? 「そのためには吾輩の協力が必要」……? 分かった、吾輩に出来ることなら何でもしよう。 ん……? 「何故お転婆姫(あの子)のためにそこまでするのか」、だと? 何を言っている。仮初とはいえお転婆姫は吾輩の弟子、師が弟子のために体を張るのは当然であろう。

 

 吾輩の答えを聞き、コロコロと上機嫌に笑う声の主。

 そんな声の主に吾輩はどうしても言わなくてならないことがあった。

 

――後、吾輩は"ヒトノコ"などではなくキノコ……アビャビャビャビャビャビャ!!!?

 

 だが、吾輩の言葉は最後まで続けられることは無かった。突如として吾輩の体内からゴッソリと生体エネルギーが吸い取られたのだ。大量の生体エネルギーを一度に失い、あっという間に暗くなる視界。

 意識を失うその刹那、吾輩が見たのは崩れ落ちた筈の『大地の玉座』から凄まじい光が放たれる光景であった。

 

 

―――

 

 

 崩れ落ち、力を失った筈の『大地の玉座』が突如として輝き出す。その煌きは健在であった時と変わらずに――否、健在であった頃を凌駕するほどの光量で以って「ほうせきの国」(大空洞)を紅く染め抜く。

 やがて光は収束し、眩い輝きと共に『大地の玉座』の残骸から()()が飛び出した。

 

 『大地の玉座』から飛び出したもの、それは内に()()()()()()()()()()()を持つ桃色の「宝玉」。何処となくディアンシーによく似た配色を持つこの「宝玉」は「ほうせきの国」に伝わる秘宝であり、歴代女王に受け継がれし「王権の象徴(レガリア)」であった。

 「王権の象徴(レガリア)」足る「宝玉」――外界においてディアンシナイト(メガストーン)とも呼称されるソレが現れたということは、即ち「ほうせきの国」に新たなる"女王"が誕生することを意味した。

 

 ()()()()()()()()()()が注ぎ込まれ「宝玉(ディアンシナイト)」が励起する。次の瞬間七色の凄まじい煌きを放ちながら「宝玉」は飛翔した。向かう先は無論、今まさに闇の真空(ブラックホール)に呑まれんとしていたお転婆姫(ディアンシー)の元。

 そして飛来した「宝玉」が彼女の体に触れた瞬間、()()()()()()()()が彼女の体を包み込んだ。

 それは先のハガネールが起こしたものと同様の事象。しかし、トレーナーとの絆(人間の生体エネルギー)メガストーン(媒介となる石)が介在することで引き起こされたソレは暴走などとは無縁の――真なる形のメガシンカ。

 

 眼前にて発生した世界の在り方をも揺らがせるメガシンカのエネルギーにより、闇の真空(ブラックホール)力場がかき乱される。結果、制御の失われた闇の真空(ブラックホール)はその存在を保つことが出来ず、跡形もなく消え去った。

 

 

 光り輝く繭の中、ディアンシーは自らに()()が流れ込むのを感じ取る。

 

 それは彼女が知らない筈の数多の経験。

 それは彼女が良く見知った不思議な感覚。

 

 それは産まれてより彼女と共に在った。

 その本質を産まれて初めて彼女は知った。

 

 これは記録だ。自らの先代が――歴代の女王たちが残した魂の記録。

 百代を経て蓄積された高密度の戦闘経験(けいけんち)

 

 流れ込む数多の戦闘経験(けいけんち)が彼女の肉体と精神を秒単位で変生(成長)させる。それは彼女がこの「国」を、ホウエンの地下を統べる支配者に相応しいと認められた証。新たなる女王を"女王"足る存在に至らしめる継承の儀だ。

 

 変生が終わる。

 光の繭が解け、成長したお転婆姫(ディアンシー)がその姿を現す。

 

 ――否、彼女は既に"姫"に非ず。

 

 顕現したるその姿。頭頂よりたなびく絹の如きベール。下半身はかつての原石の如きソレから、磨かれ抜いた宝石のドレスへ。額に戴かれた桃色金剛石は大地の心臓(ハートマーク)を模った絢爛豪華なる王冠(ティアラ)へと変わっていた。

 

 戴冠の時、来たれり。

 座して称えよ。その名、『メガディアンシー』。

 遍くホウエンの地の全てをしろしめす『大地の女王』である。

 

 『大地の女王(メガディアンシー)』が眼を開く。彼女よりあふれ出た光が「ほうせきの国」を照らし、かつての美しき風景が見る影もなく荒れ果てたその様を克明に映し出す。

 

 何たる無惨。何たる荒廃。幼き自身では力及ばす、愛する故郷を、民たちを、そして大恩ある師を随分と傷つけさせてしまった。

 

 ジロリ、と"女王"は眼前にて構えを取る不届き者(ヨノワール)を睥睨する。

 

 不遜にも『大地の玉座』を崩し、「ほうせきの国」を土足で踏みにじった不心得者どもに、"女王"として自ら犯した罪の報いを受けさせねばなるまい。

 

 "女王"から発せられる圧倒的なまでの威圧感。並みのポケモンであれば対峙するだけで意識を失いかねないソレを真面に浴びて、しかしヨノワールの戦意は未だ軒昂。油断なく構えを取り続ける。

 

――目標(ターゲット)から発せられるエネルギー量の急上昇を確認。

――対象の脅威度を五ランク引き上げ。

――対象戦闘能力、自己(ヨノワール)を凌駕するものと推定。

――戦術策定……最大火力による速攻が最善と判断。

――"闇の真空(ブラックホール)"再展開。

 

 ヨノワールが両腕を突き出しサイコパワーの力場を形成、再び万物を吸い込む黒球を作りだす。重力がねじ曲がり、闇の真空(ブラックホール)へと洞窟内のあらゆるものが墜ちていく。

 対して『大地の女王(メガディアンシー)』が行ったことは、片手を軽く掲げることだけ――それだけで十分だった。

 

 "女王"の令に呼応して、「国」中の遍く地脈結晶から莫大なエネルギーが湧き上がる。エネルギーはやがて無数の桃色金剛石の結晶を象り、"女王"の背後に滞空する。

 

 結晶に内包されるエネルギー量は単体で"はかいこうせん"に匹敵。

 数は数百を超えていた。

 

 "女王"が掲げた手を振り下ろす。

 瞬間、背後にて滞空する無数の結晶が輝き、内包したエネルギーを解放した。

 

 放たれたのは超高密度のエネルギーを纏った光線。幾百条ものそれは寸分違わず闇の真空(ブラックホール)へと殺到する。万物を吸い込む暗黒球は殺到する破壊光とて例外なく、次々とそれを吸い込んでいった。

 

 吸い込む。

 吸い込む。

 吸い込む。

 吸い込む。

 吸い込む。

 吸い込……めない。

 

 ヨノワールは驚愕する。手元で闇の真空(ブラックホール)が悲鳴を上げていた。絶え間なく飛来する光線のその膨大なエネルギー量を前に容量超過(キャパシティ・オーバー)を引き起こしていたのだ。

 "暗黒天体"の名を冠するとは言え、闇の真空(ブラックホール)も所詮はポケモンの作りだした"わざ"の一つ、その力にも限界があった。

 ビシリと黒球に罅が入る。とうとう闇の真空(ブラックホール)が限界を迎えたようだ。それに認識した瞬間、ヨノワールは一切の制御を放棄し全力でその場から退避する。

 

 おかげで彼は命拾いをすることが出来た。

 

 黒球がガラスのような音を立てて砕け散る。刹那、溜め込まれていた膨大なエネルギーが解放され、巨大な桃色の奔流となって迸る。あふれ出た力が洞窟の壁面を直撃し、()()()()()()()()大空洞の一部を崩落させた。

 間一髪のところで破壊の奔流より逃れることに成功したヨノワール。だが、無傷でとはいかなかった。奔流にギリギリで接触してしまった彼の片腕は黒く焼け焦げており、最早使い物にはならないだろう。無論、両腕による制御が必要な闇の真空(ブラックホール)も使用不可能となった。

 

――対象の脅威度を最高ランクに変更。

――片腕に著しいダメージ、当作戦における闇の真空(ブラックホール)再使用は不可能。

――戦闘を継続した際の勝率……0.0000001%。

――これ以上の作戦継続が困難と判断。作戦規定に従い撤退を……ッ!?

 

 "女王"の圧倒的な力を前にこれ以上の戦闘は困難と判断したヨノワール。彼は即座に撤退を決断、その身を影へと沈めていく。だが……

 

――逃がすとでも?

 

 ギチリと影への潜航が止まる。絶大なサイコパワーが彼の体を拘束し、彼の意思を無視して中空へと引きずり出す。

 

 ことこの地に在る限り、支配者たる"女王"の御手より逃れる術はない。何故ならここは「ほうせきの国」。彼女が治め、彼女が統べる、彼女の王国。この地において彼女の令は絶対、彼女こそが法。

 そして彼女は既にこう定めた。

 "女王の御前に引き出されし罪人、何人たりとも逃げるに能わず"。

 故にこの結果は必定、沙汰を待つ罪人(ヨノワール)に逃げることなど許されないのだ。

 

――危険。危険。危険。危険。危険。危険。

 

 自由が利かない体、警鐘を鳴らし続ける本能。

 彼は必死に身を捩り、拘束から抜け出ようと藻搔く。だが、まるで細やかな抵抗を嘲笑うかの如く彼の体は空中に縫い留められたまま。

 そうして()()()()()()を続ける彼の目に、"絶望"が飛び込んできた。

 

 罪人(ヨノワール)を見下ろすように、中空に悠然と佇む『大地の女王(メガディアンシー)』。その背後に美しく輝く無数の金剛石(ダイヤモンド)が渦を巻く。

 先のエネルギーが象っていただけの物とは違う、"女王"の能力によって生み出された正真正銘本物の金剛石(ダイヤモンド)。その数は千をゆうに超え、万か億、あるいはそれ以上。

 煌く無数の金剛石(ダイヤモンド)が描き出す螺旋模様。見る者全てを圧倒するこの世のものとも思えない程に美しい光景だが、その裏に内包された力は何処までも破壊の意思に満ち満ちている。

 それは『大地の女王(メガディアンシー)』が作り出した"世界で最も美しい処刑の刃"。万物を削り破壊する嵐の具現である。

 

 『大地の女王(メガディアンシー)』が手を掲げる。

 令に従い、渦巻く金剛の螺旋がその速度を上げる。

 

――危険。危険危険危険キケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケ――ッ!

 

 "女王"が掲げたその手を振り下ろす。

 

――"金 剛 嵐 舞(ダイヤストーム)"

 

 瞬間、万物を削り飛ばす金剛の嵐が出現した。

 

 美しき金剛の螺旋が渦を巻き、不届きなる罪人を削り飛ばさんと迫る。金剛嵐舞(ダイヤストーム)に呑まれるその刹那、彼女はヨノワールが一瞬、目を見開いたように見えた。

 だがそれも一瞬のこと。すぐさま輝く金剛の嵐に呑まれ見えなくなる。ヨノワールを呑み込んだ金剛嵐舞(ダイヤストーム)はそのまま大空洞の壁面へと到達、進行ルート上にあるもの全てを破壊しながらその力尽きるまで暴れ狂う。

 果たして嵐が収まったその時、残ったのは大空洞に刻まれた巨大な炸裂痕と大量の瓦礫、そして――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 フワリとヨノワールの側に降り立つディアンシー。ピクリとも動かぬその体はヨノワールが完全に戦闘不能となっていることを示していた。

 

――ウィヒィィィィィ~~~~~!!

 

 ふと、彼女の視界が「ほうせきの国」から全速力で逃走しようとするヤミラミたちの姿を捉えた。どうやら指揮官(ヨノワール)が倒されたことで、最早勝ち目なしと悟ったようだ。

 だが幾ら敗残の雑兵といえども、「国」を荒らした侵略者が逃げ出すのを黙って見逃してやるほど"女王"は甘くない。彼女がクイ、と指を曲げれば、瞬く間に大空洞の床より巨大な結晶柱が迫り上がり、彼らが逃げ込もうとした横穴を塞ぐ。

 

――ウィイッ!?

 

 それだけではない。逃げ出そうとするヤミラミたちの周囲にも無数の結晶が突き出し、彼らをすっぽりと包み込むドームを形成する。

 

――ウィ、ウィ……ウィヒィィィィ~~~~~!!

 

――"輝煌閃耀(マジカルシャイン)"

 

 "女王"が再び指を曲げれば、途端に七色の光がドームを満たす。果たしてドームに閉じ込められたヤミラミたちに、逃げ場などある筈もなく。()()()()()()()()()()を粉砕され、全身黒焦げとなって、先に倒れた同胞たちの仲間入りをすることとなった。

 

 侵略者を全て撃退し「ほうせきの国」に再び静謐が戻った。

 それを確認した"女王(ディアンシー)"は再度宙を舞うと、彼女のことを今か今かと待ちわびる「民」らの元へと向かう。

 新たなる女王を迎えんと、かつての『玉座』の跡地にて整然と居並ぶ「ほうせきの民(メレシー)」たち。その様は常の陽気さとは打って変わった、どこまでも厳粛な面持ちであった。

 やがて宙よりフワリと女王(ディアンシー)が『玉座』に降り立つと、(メレシー)たちは一斉に臣下の礼を取る。平伏し自らへの忠誠を誓う臣下らを照覧し、女王(ディアンシー)は大儀であると声を掛ける。

 そんな彼女の御前に静々と進み出たのは一際長い髭を蓄えたメレシー。「ほうせきの国」の長老であり、女王(ディアンシー)にとっては付き人として幼き頃より共に過ごしてきた個体であった。

 長老(髭長のメレシー)が高らかに女王の即位を宣言し、居並ぶ「ほうせきの民(メレシー)」たちは口々に祝福を送る。

 背後では役目を終えた『大地の玉座』の残骸が淡い光を発していた――さながら一人前となった娘を寿ぐかのように。

 

 

―――

 

 

 『石の洞窟』内・マグマ団前線基地。

 

 あれ程までに騒がしかった基地内は今、奇妙な沈黙に包まれていた。

 その原因は唯一つ。強烈な光に包まれたのを最後にノイズを映すだけとなったモニターを見ながら無言で佇む、カガリ(マグマ団幹部)の存在。

 先ほどまでモニターに映し出されていたヤミラミ部隊からの映像、それが一つ一つ消える度に彼女から口数と表情が抜けていく。反比例するように強まるのは重苦しい不機嫌なオーラ。無差別にまき散らされるそれを前に、団員たちは黙り込む他無かった。

 

「……通信途絶。ヤミラミ部隊……全滅しました……」

 

 沈黙を破り、観測担当が恐る恐るそう告げる。

 

「………………回収は?」

 

 感情の見えない平坦な声でカガリが観測担当に問うた。ヤミラミ部隊の回収は可能か、と。

 問われた観測担当は少し逡巡した後――ゆっくりと首を振った。

 

「……絶望的です」

「………………………………………………………………………………………………………………そう」

 

 長い長い間を開けた後、ぼそりと呟くように返事をするカガリ。まき散らされるオーラがさらに膨れ上がった。

 

作戦(ミッション)失敗(フェイラー)…………!)

 

――…………ギリ…ギリィィィィ……!!

 

 苛立ちの余り、音を立てて歯軋りをするカガリ。

 だがそれもむべなるかな。

 

 "エクストラミッション"・ディアンシー捕獲作戦は失敗した。目標(ターゲット)を確保することは出来ず、さらにヤミラミ部隊の全滅というとんでもない損害を被ることとなったのだ。

 これで部隊編成にかけたコストは全て水の泡。メインターゲットである『紅い貴石』捜索にも多大な影響が出るだろう。特に指揮官であるヨノワールを失ったのが痛かった。

 あのヨノワールはマグマ団の虎の子の一つ。対ジムリーダー・四天王を相手にも対抗可能な決戦戦力だ。当然、育成にも多大なコストがかけられており、そう簡単に補充できるものではない。

 そんな貴重な戦力を、幾ら権限を与えられているとはいえ己が独断で別作戦に導入し、しかも喪失させる……。はっきり言ってとんでもない失態だ。どうあがいても処分は免れないだろう。

 

 ――最悪の事態というものは往々にして、それが最も起きて欲しくないタイミングで起きるものだ。

 

 突如として「ドオン!」という破砕音が響き、振動が基地内を僅かに揺らす。突発的な出来事にざわめく指令室。そこへ団員の一人が何やら慌てた様子で飛び込んでくる。

 

「で、伝令! 『石の洞窟』側の擬装が破られました! 侵入者です!」

 

 そう言って手持ちの端末から隠しカメラの映像を見せる団員。そこに映っていたのは、崩れ落ちた擬装ともうもう上がる土埃のみ。だが次の瞬間、土埃の中から一人と一匹のポケモンが姿を現す。

 現れたのは全身を鋼の鎧で覆い、逞しい双角を備えた二足歩行のポケモン――"てつヨロイポケモン"ボスゴドラ。標準より大柄な体躯に、画像越しでも分かる程の圧倒的な力強さ。間違いなく数多の戦いを潜り抜けた猛者である。

 無論のこと、そんなボスゴドラを従えるトレーナーもまた尋常の存在ではない。

 傍らに立つ一人の青年。艶めく銀色の髪に端正な顔立ち、街を歩けば道行く人皆が振り返りそうな容姿のその青年は、しかし彼ら(マグマ団)にとって最も出会いたくない存在。

 

「…………チャンピオン…………!」

 

 ポケモンリーグチャンピオン・ダイゴ。

 気付かれないよう何重にも警戒していた筈の相手、それが基地へと通ずる入り口に立っていた。

 

 (…………ダメ…………!)

 

 プロジェクト・AZOTHは道半ば、表立った行動は出来ない。只でさえ対立組織(アクア団)に押されて劣勢の状態にあるのだ。今の段階でチャンピオン(ポケモンリーグ)に目を付けられる訳にはいかない。

 故に彼女の決断は早かった。

 

「…………撤退(エヴァキュエイション)…………………………逃げるよ!」

「「「――はっ!」」」

 

 発したのは即時の撤退命令。

 発せられた部下たちは迅速に行動を開始した。

 

「観測班、データの回収を急げ! 出来るだけでいい!」

「監視班、全人員を即時指令室へ! 絶対に姿を見られるなよ!!」

「脱出路を除く通路の隔壁を全て閉鎖! 奴を少しでも足止めしろ!」

 

 事前に定められた作戦規定により、凄まじい勢いで撤退準備を済ませ、脱出口から次々と逃げていく団員たち。あっという間に人のいなくなった指令室にポケモンの"わざ"が放たれ、持ち出せなかった機器を破壊していく。

 果たして、チャンピオン(ダイゴ)天井が崩落した(隔壁が作動した)通路を潜りぬけた時、そこにあったのは完全に破壊しつくされたがらんどうの空間だけであった。

 

 

―――

 

 

「……逃げられた、か」

 

 原型を留めない程に破壊され尽くした機器が転がるがらんどうの空間でダイゴはそう呟いた。彼は周囲に残る痕跡と熱量から、機器類はつい先ほど破壊されたものだと判断する。彼が目の前で発生した崩落に対処している間に、ここの主たちはまんまと逃げおおせたようだ。

 

(……洞窟の野生ポケモンたちが妙にざわついているから、気になって調べていたけれど)

 

 ――()()()だったみたいだ。

 

 彼のボスゴドラは石の洞窟(ここ)の出身だ。故に、擬装が施された壁面の僅かな違和感にも気付くことが出来た。

 恐ろしく巧妙な擬装が施された壁を破壊してみれば、内部には明らかに人工の空洞が広がり、そして辿り着いた先には短時間で()()()()()()なまでに破壊された機器類、と。

 

(……ここにいた人間はよっぽど自分たちが何をしているのか知られたくなかったらしい)

 

 作った通路を崩落させてまで彼を足止めして時間を作り、証拠の隠滅を図った。そこまでして知られたくないこととなれば、必然的に後ろ暗いことと相場が決まっている。

 

(おやじからの手紙にあった青い服の集団(アクア団)かとも思ったけれど……)

 

 初めに思い浮かんだのは最近ホウエン各地で騒ぎを起こしているアクア団という組織によるもの、という可能性。だがその可能性はすぐに否定された。彼は空洞内で回収した、燃え残りの書類を見る。

 書類は黒焦げでその内容はほとんど判別できなかったが、辛うじてこれを記した組織の名前だけは読み取ることが出来た。

 

(……"マグマ団"、か)

 

 海洋(アクア)の名を冠する集団に対する、大地(マグマ)の名を冠する集団。

 

(どうやら、ホウエンに潜むモノは一つだけじゃないみたいだね)

 

 愛する故郷の裏に蠢く複数の悪意。それを知って、しかしダイゴ(リーグチャンピオン)に動揺はない。

 

(例え相手が誰であろうと関係はない。ボクがやるべきことは唯、この地(ホウエン)を乱す存在を全力で止めること)

 

 それだけだ――。

 

 

―――

 

 

――ハッ!!

 

 萎び切った肉体にエネルギーが供給され、吾輩の意識が覚醒する。

 そして意識を失う直前の出来事を思い出し、吾輩は急いで跳び起きた。

 

――一体どうなった? お転婆姫は……!?

 

 思い出されるのは奴の作りだした闇の真空(ブラックホール)に、今にも吸い込まれんとしていたお転婆姫の姿。不思議な声によれば彼女を救うには吾輩の力が必要とのことだったが……、いつのまにやら気を失ってしまっていた。果たして彼女は無事なのか。

 幸いにして、吾輩の疑問は直ぐに解消された。

 吾輩のすぐ目の前、心配そうにこちらを見つめるお転婆姫の姿があったからだ。どうやら彼女が萎びキノコとなっていた吾輩に結晶片(げんきのかけら)を含ませることで"ひんし"状態より蘇生させたらしい。

 

――おお! お転婆姫! よかった、無事であったか……む?

 

 安否を心配する吾輩に、手をひらひらと振ることで自身が健在であることアピールするお転婆姫。彼女が無事なようで吾輩はホッと胸を撫で下ろすが、そこで微かな違和感を感じる。

 

 コヤツ、本当にお転婆姫か? 何だかいつもの雰囲気が違うような……?

 

 吾輩が抱いた違和感、それはお転婆姫の雰囲気が先ほどまでとは異なっていることだった。常の彼女は最も無邪気で溌剌としている筈なのだが、今目の前にいる彼女はとても理性的で落ち着いた雰囲気を漂わせていて――言ってしまえば物凄く大人びていた。

 子供の成長は早いというが、この変わりよういくら何でも早すぎだ。感覚的にだが、吾輩が意識を失っていたのは恐らく数時間程度のこと。そんな短時間でどうやったら幼げな少女が、酸いも甘いも噛み分けた大人の女性のようになるのだ。全くもって訳が分からん。

 

 お転婆姫の急激な変化に頭を捻る吾輩であったが、今はそんなことをしている場合ではないと気付く。

 

――そうだ! お転婆姫、連中は……奴は一体どうなった!?

 

 吾輩が意識を失ったのは、「ほうせきの国」の途轍もない危機の最中。かの恐るべきポケモンに圧倒され、手も足も出ずに追い詰められていた所である。意識を無くした後のことが気になるのも当然であった。

 そんな吾輩の疑問にクスリと笑うお転婆姫。曰く、自分がこうして健在で目の前にいる以上、奴らは退けられたに決まっているだろうに、と。

 

 ……言われてみれば確かにそうである。奴らの目的はお転婆姫、そして当のお転婆姫が目の前で健在であるということは、即ち奴らが目的を達成することなく退けられたということに他ならなかった。

 

 むむむ、と唸る吾輩の様子を見て、コロコロと上機嫌に笑うお転婆姫。彼女は軽く揶揄っただけだ、と言って吾輩に事の顛末を教えてくれた。

 

――ふむふむ。吾輩の協力によって"女王"に即位し、この大地を統べる力を手に入れることが出来た。その力があれば奴など鎧袖一触、瞬く間に討ち果たした、と……なるほど、分からん。

 

 彼女の説明は実に簡潔、"女王"に即位→パワーアップ→K.Oという流れ。だが、どういった理由でそうなったのかはサッパリ分からぬ。何度か説明を求めるものの、婉曲的な言い回しが多くどうにも要領を得なかった。……まあ、取り敢えず「ほうせきの国」を襲った危機は去った、ということが分かれば十分である。

 

 ……奴を打倒する様子を嬉々として語る彼女はこれ以上ないしたり顔。擬音で表すならば、ドドドドドヤァァァァァァといった様子であった。うむ、このしたり顔振りは間違いなくお転婆姫である。どうやら女王に即位し大人びたとて、根っこの部分はそう変わらんらしい。

 

――うーむ……しかし、貴様が"女王"に即位したとなれば、もう貴様のことを「お転婆"姫"」とは呼べんな……。陛下と呼んだ方が良いだろうか?

 

 というか自然と今通りの態度で接していたが、これも改めた方が良いのでは……? 流石に不敬罪での無礼討ちは勘弁してもらいたいが……。

 

 という、吾輩の言葉に彼女は一瞬キョトンとした表情を浮かべた後、ケラケラと腹を抱えて笑い出した。そして、自分と吾輩は師弟の関係、それは"女王"に即位したとしても変わらない。だから別に今まで通りの態度で接して貰って構わない。後、呼び名についても吾輩の好きなように呼んで構わない、と言った。

 

――ふむ、そうか……ならば遠慮なく、これからも"お転婆姫"と呼ばせてもらおう。よろしく頼むぞ。

 

 そんな吾輩の言葉に、果たしてお転婆姫は笑みを浮かべたまま鷹揚に頷いたのであった。

 

 

―――

 

 

 さて、現在(いま)の話が終わったならば、次は未来(これから)の話だ。

 "お転婆姫"は吾輩に対し、何やら見せたいものがあるのだという。

 

 はて、一体なんであろうか。

 

 そう思う吾輩を尻目にお転婆姫がクイッと指を動かせば、何やらフワフワと大きな物体がこちらへ近づいてくる。吾輩は近づいてきたソレによく目を凝らし――その正体に仰天した。

 

――コ、コヤツはッ!!

 

 近づいてきた()の正体、それは全身を結晶で雁字搦めに拘束された、ヨマワルの系譜に連なるあのポケモン(侵略者)であった。

 

――お、お転婆姫!? 何故コヤツがここに!?

 

 散々に苦しめられ大敵の登場に驚く吾輩。そんな吾輩にお転婆姫が言うには、コヤツには己が犯した罪の贖いをさせるため、「ほうせきの国」へ奉仕させるのだとか。

 

――いや、罪を償わせるという理屈は分かるが……こんなのを「国」にとどめ置いて大丈夫なのか?

 

 といった吾輩の疑問に、問題ないと答えるお転婆姫。奴の体を拘束する結晶にはポケモンの"わざ"を封じる効果が付与してあり、破ることは不可能。仮に逃げ出したとしても、この大地に在る限りは"女王"足る自分から逃れることは出来ない。もし少しでも不埒な真似をすればすぐにでも叩きのめしてやるのだという。

 

 それに、とお転婆姫は続けて。

 

 打ち負かした相手を隷属させ、使役するというのは「ほうせきの国」の伝統。自身もその伝統に則り、女王としてこの身の程知らずにキッチリと上下関係というものを叩き込んでやる、と言った。

 

 ……意気込みを語るお転婆姫はとても()()()()を浮かべていたが、どうしてだろうか、吾輩にはその笑みが恐ろしく見えてならない。

 そう思った吾輩はこれ以上の詮索を辞めておいた。わざわざ藪を突いてハブネーク()を出すことはあるまい。知らぬが仏という言葉が示す通り、世の中には知らない方がよいこともあるのだ。

 

 さて、侵略者どもの処遇を聞いた後、吾輩は「ほうせきの国」の展望について話を聞く。

 今回の騒動によって「ほうせきの国」は随分と荒れた。美しかった景観は台無し、空洞内は穴だらけで壁面もあちこちが崩れ、地上へ続く横穴も幾つか塞がってしまっている。何より国の象徴にして護りの要である『大地の玉座』も崩れ去ったままだ。復興は容易ではあるまい。

 だが、そんな吾輩の心配とは裏腹に、お転婆姫に気負った様子はない。それは彼女だけではなく、「ほうせきの民」たちも同様だ。荒れ果てた「ほうせきの国」をちょこちょこと動き回る彼らに暗い感情は微塵もなく、むしろどことなく浮かれているようにも見える。彼らの様子を不思議に思う吾輩に、お転婆姫はその理由を説明してくれた。

 彼らが浮かれている理由、それは国を挙げての引っ越しを行うからだという。

 何でも「ほうせきの国」は新たに女王が即位する度、都度遷都を行うのが習わしなのだとか。何故遷都を行うのかというと、現在の「ほうせきの国」を構成する大結晶群は全て、先代女王が地下空洞を流れる自然エネルギーの流れを塞き止めることで作りだした言うなればダム湖のようなもの。この地に留まり続ければ、やがてエネルギーが決壊し大災害を引き起こす危険性がある。故に、女王が代替わりする度に遷都を行うことで、エネルギーの流れを元に戻して決壊を起こさないようにしているのだとか。

 また『大地の玉座』についても、アレは次代の"女王"が育つまで「国」の護りを代替するもので、新たな女王が即位すれば自然と崩れ去るため固執する必要はないらしい。今回はまだお転婆姫が"姫"であった時に崩されてしまったために動揺したものの、結果として無事新たな"女王"が誕生したので問題ないとのことである。

 

――フムフムなるほど、そう言った訳であったか。

 

 お転婆姫より説明を受け、その理由に納得した吾輩。

 

――しかし、そうなれば……

 

 既に「ほうせきの国」復興の目途は立っていて、お転婆姫も新たなる女王として「民」らに認められている。吾輩の助力は不要であろう。

 それに彼女は襲い掛かって来た侵略者達へ勇敢に立ち向かい、吾輩とそう変わらぬ立ち回りを見せたばかりか、吾輩でさえ敵わなかった大敵を見事打倒してみせた。

 このことは即ち、吾輩の出した最低限戦えるだけの実力を身に着けされるという条件をとっくにクリアしているということであり――吾輩がこの「国」を去る時がやって来たということだ。

 

 ということで吾輩がお転婆姫にもうすぐこの「国」を発つことを伝えると、彼女は一瞬驚いた様子を見せるも、すぐさま寂し気な笑顔を浮かべながら吾輩の「ほうせきの国」に対する貢献の礼を述べ、自ら地上への案内を申し出る。

 吾輩は"女王"自らの案内に恐縮しつつも、その申し出をありがたく受けることにした……本音を言えば吾輩自身、お転婆姫(愛弟子)との別れを惜しんでいたというのもあるが。

 

 ともあれ、「ほうせきの国」を発つことを決めた吾輩。だが、旅立ちはそうスムーズにとはいかなかった。吾輩がもうすぐこの「国」発つことを聞きつけたらしい「ほうせきの民」たちが、何故だか吾輩の元に次々と押しかけてきたのだ。

 

 なんだなんだ貴様ら、いきなり大勢で押しかけて来よって。何? 吾輩が居なくなると寂しくなる、もっとここに居ろ? 申し出は嬉しいが以前伝えた通り、吾輩には果たさねばならぬ約束がある故そうそう長居をする訳にはいかん。何、今生の別れという訳でもなし。縁があればまた会えようさ。

 ………は、"女王"の伴侶? 吾輩が? 待て待て待て待て、貴様ら何を言っている。なになに、お転婆姫と吾輩が何やら随分と仲睦まじい様子だったので、てっきり()()()()ことかと思った? いやいやいやいやいや、そんなわけ無かろうが。吾輩とお転婆姫はあくまで師弟の関係。そう言った感情なぞ微塵もありはしない、全くもって性質の悪い勘違いである。ほれ、お転婆姫も何か言って――お転婆姫? おい、待て貴様なぜそんな満更でもないような顔をしている!? おい、貴様ら! そんな、"やっぱり"みたいな目で見るんじゃない!!

 ヤ、ヤメロー! ヤメロー! 吾輩はこんなところで人生の墓場に入るつもりはないぞーー!!

 

 

―――

 

 

 ザクリ、ザクリとお転婆姫の後に続き、暗い殺風景なトンネルを歩む吾輩。ここは地下空洞(「ほうせきの国」)より地上へと繋がる横穴の一つ。入ってきた時に使った横穴は塞がってしまったため、吾輩らは別の横穴を通って地上を目指しているのだ。

 

 あの後、すったもんだ末に何とか「ほうせきの民」誤解を解いた――と思いたい――吾輩は、彼らに盛大に見送られようやく「ほうせきの国」を発つことが出来た。

 

 地上へと続く道を一歩ずつ進む吾輩とお転婆姫。二匹の間に会話は無い。既に語るべきことは語り尽くしたというのもあるが、何より囃し立てる「ほうせきの民(バカども)」の相手をして疲れていた。

 ふと、前方に微かな明かりを感じ、吾輩は目を凝らした。見れば遠くの方から光が差し込んでいる、どうやら出口に着いたようだ。

 

 ここから出口までは一本道、一人でも迷うことはなかろう。

 

 そう思った吾輩はお転婆姫に道案内はここまででよいと伝える。お転婆姫は名残惜し気な表情を浮かべるも、吾輩の言葉に同意し歩みを止めた。

 

――うむ、ここまでの道案内助かったぞ、お転婆姫。すまんな、"女王"たる貴様にわざわざ道案内をさせてしまって。

 

 女王に即位したばかりの忙しいであろう身で、直々に吾輩を地上まで送り届けてくれたお転婆姫に礼を述べる吾輩。彼女は笑って、自身と吾輩は師弟であり友人でもある仲。旅立つ友人を見送るのは当然のこと、礼など無用だといった。

 

 と、そこで彼女が浮かべる表情を真剣なものに変える。曰く、吾輩に頼みたいことがあるとのこと。

 

――頼み事? 一体なんだ?

 

 突然のことに疑問符を浮かべる吾輩。そんな吾輩に彼女は懐よりあるものを取り出して手渡す。

 渡されたのは一塊の『()()()()』。洞窟内に微かに差し込む光を反射しキラキラと美しく輝くそれからは、膨大なエネルギーと共に微かに"ほのお"と"じめん"の属性(タイプ)を感じ取ることが出来た。

 

――お転婆姫、これは……?

 

 さながら大地を巡る星の血液(マグマ)そのものが結晶化したような宝石。一体何なのかとお転婆姫に問えば、曰くこれは先代の「ほうせきの国」"女王"が、人間たちの祈り(生体エネルギー)を素に作り出した『力のある石』だという。かつて彼女の一族と人間たちとの間に交流があった時代、大地(かみ)との更なる絆を求めた人間たちの頼みにより作り出されたが、ある愚か者がその力を誤ったことに使い大地(かみ)の怒りを買ったため、先代女王によって回収され地の底(「ほうせきの国」)に封印されたのだとか。

 それでもこれは本来人間の元に在るべきもの。代替わりを経て、彼女はこの「貴石」を再び人間の手に返すことにしたのだという。だが、この「石」が再び誤った使い方をされるのも困る。そこで「外の世界」を良く知っており、かつ信頼のおける吾輩にこの「石」の担い手に相応しい人間を見極め、託して欲しい――というのが彼女の頼みごとであった。

 

 ふむ。なるほど、これを託す人間を見つけて欲しい、か。『力のある石』……、「力」というのもは往々にして人間を惹きつけるものであり、手にした者は常にそれを使う誘惑に晒され続けるものだ。故、託すのに相応しき者とはその誘惑を跳ね除け、「力」を正しきことに使えるだけの意思を持つ者となる。

 そこで吾輩の脳裏に思い浮かんだのは、大敵に怯むことなく立ち向かう勇気ある少女(ハルカ)の姿。

 

――相分かった。可愛い弟子の頼みだ、引き受けよう。何、「力」を持つに相応しき者となれば吾輩にも心当たりがある故。

 

 そう言って吾輩は手渡された「()()()()」をしっかりとしまい込んだ。

 

 さてお転婆姫からの頼みも引き受けたことで、吾輩がもう地下空洞に残すことは無い。そろそろ出口へと向おう。といって歩き出そうとした吾輩をお転婆姫が呼び止めた。最後に聞きたいことがあるのだという。

 

 曰く、「ほうせきの国」は良きところであったか? と。

 

 彼女からの質問に吾輩は少し考え、こう答えた。

 

――実に素晴らしい「国」だった。あそこで見たこと、聞いたこと、そして体験したことは少なくとも今生において忘れることはないだろう。

 

 吾輩の言葉を聞き、嬉し気に顔を綻ばせるお転婆姫。そして彼女は決意に満ちた表情を浮かべてこう言った。

 

 自分はあそことは異なる場所で新しい「ほうせきの国」を作る。その「国」もまた彼の地に負けない程、素晴らしい「国」とするつもりだ。だからこそ、自身が国造りを果たした暁には――

 

――是非とも訪れて欲しい。

 

 彼女が作る新たな「国」への招待。

 無論、吾輩の答えは決まっていた。

 

――勿論だ。その時はまた案内を頼むぞ。

 

 吾輩の返答にニッコリと笑みを浮かべるお転婆姫。

 吾輩が嫌というまで案内してくれるそうである。

 

 やれやれ、また果たさねばならぬ約束が増えてしまった。だが、嫌な気分など微塵もない。果たして彼女がどんな「国」を作り上げるのか、今から楽しみである。

 

 さあ、今度こそ思い残すことは何もない。吾輩はお転婆姫に別れを告げ、出口()に向かって走り出す。

 近づくたびに徐々に強くなっていく光。同時に、微かに潮の香りと波の音を感じ取る。そうして出口を抜けた先に――

 

――おお……!

 

 抜けるような青空と見渡す限りの大海原が広がっていた。

 久方振りの日差しに、力一杯伸びをする吾輩。うむ、輝く結晶による幻想的な光も良いが、やはり日光は格別だ。吾輩ら(キノココ)は本来それほど日光を好む種族ではないが、それでも薄暗い地下に長くいた滞在した後となれば、暖かな光が恋しくなるもの当然と言えよう。

 満足いくまで日光浴を楽しんだ後、吾輩は出てきたこの場所の探索に移る。どうやらここは砂浜と岩場があるだけの小さな島らしい。地下空洞へ続くトンネルのあった岩に乗って周囲を見渡せば、四方を海で囲まれているのが分かった。

 

――むむむ……!?

 

 ふと、水平線の向こうに何かが見えた気がして、吾輩は目を凝らす。よくよく見れば遠景に微かに背の高い建物のようなものが幾つもあった。どうやらあそこに街があるらしい。

 うむ、ならば次なる目的地はあそことしよう。そうと決まれば善は急げ、吾輩は街の方角に向かって駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ……どうやって街まで行こう?

 

 

―――

 

 

 ホウエン地方・とある街。

 取り立てて都会という訳でもないが、しかし田舎という訳でもない。ゲームならば描写すらされないような、そんなどこにでもある小さな街にそれは在った。

 街角にひっそりと佇む古びたビル。一見して目を惹くようなが所もないそれは、しかし外見から想像もつかない程に頑強な構造をしており、さらに異常なまでに広大な地下施設を持つ建物であった。無論、周辺住人はこのビルにそのような機能があることなど知る由もなく。このことを知るのはこの施設を建造した()()()()()の構成員のみ。

 その組織の名はマグマ団。人類にとっての理想の世界を目指し、大地を拡げんと暗躍する秘密結社である。この施設はそんな彼らの拠点の一つであった。

 そんな施設の最奥部、組織を束ねる首領(リーダー)の執務室には今、三人の男女の姿があった。

 

「紅い貴石」捜索部隊(ヤミラミ部隊)に対する独断での目的外作戦投入。作戦失敗による部隊の喪失。『地脈世界』探索拠点の失陥。チャンピオンの介入を許したことで、ポケモンリーグに我々の情報が渡った可能性――。これが何を意味するのか、理解しているな()()()

 

 その内の一人、独特な形状のメガネ(メガメガネ)をかけた神経質そうな赤髪の男性が眼前に立つ少女に向け、淡々と告げる。

 

「………………はい………………………………リーダー……()()()()

 

 男性の名は「マツブサ」。マグマ団を束ねる首領(リーダー)の地位にある人物である。

 そんなリーダーに対し少女――カガリは言葉少なながらも肯定の意思を示した。

 

「……そうか。理解しているのならいい」

「ウヒョヒョヒョ! プロジェクトの大幅な遅延に、部隊の損失、以後の組織活動の制限と……カガリにしては珍しい、随分と大きなミスではないですか!」

「…………ッ」

 

 そんな彼女に対しマツブサは、理解しているのならそれでよいと言う。代わって彼女に言葉をかけたのは、同じく最高幹部である男性。ふくよかな体型とどこかマクノシタ(こんじょうポケモン)にも似た顔立ちが特徴の彼の名は「ホムラ」。その地位はマグマ団サブリーダー……組織のNo.2であり、カガリにとってはリーダーを除く唯一の上司と言える存在であった。

 そんな彼からあらためて自身の失態を突き付けられ、ギリッと歯噛みするカガリ。言い訳はしない、なぜなら彼の語ったことは全て事実だからだ。

 

「――カガリよ、お前を『地脈世界』探索任務から外す。後任は……ホムラ、お前が引き継げ」

「ウヒョヒョ! 了解いたしました!」

「カガリ、お前は次の任務まで待機だ」

「…………はい」

「以上だ。下がれ」

 

 幹部二人に沙汰を伝え、執務室を下がらせたマツブサ。彼は二人が立ち去ったのを確認すると、椅子に深く座り直し、これからのことについて思案する。

 

(「紅い貴石」捜索部隊……特に指揮個体(ヨノワール)を失ったのは痛手だ。あれ程の個体となれば補充することは容易ではない。部隊の再建は恐らく不可能……となれば「紅い貴石」捜索は大幅な方針転換が必要になるか)

 

 マツブサは思考する。部隊壊滅によって従来の捜索方針は瓦解した、プロジェクト・AZOTHの進捗についても当初より大幅な遅れが見込まれる。部隊を編成するために投じたコストも水の泡。マグマ団は今作戦において相当な損害を被ることとなった。

 

(――だが)

 

 収穫もあった。

 

(『地脈世界』に関する詳細な情報……特に『地脈結晶』に関するデータが得られたのは大きい。これで「紅い貴石」に関する研究も進む筈だ)

 

 サンプルが少なすぎるために遅々として進まなかった『地脈世界』に関する研究は、今回の作戦によって得られた大量のデータにより飛躍的な進展が見込める状態。既に研究部門では持ち帰ったデータに対し、フルスピードでの解析が始まっている。この分ならばそう遠くない内に「紅い貴石」が発するエネルギーを機械で探知することも可能となるだろう。となれば捜索にかかるコストも随分と軽くなるはずだ。

 

(……しかし、()()()()()()か……)

 

 マツブサはそこでふと、報告にあった今作戦の目標(ターゲット)について思いを巡らせる。

 

(ディアンシー……『大地の女王』。神話断章において『蒼海(うみ)の王子』と並びその名を讃えられる、煌びやかなる地底の支配者。そして……)

 

 それはおとぎ話にも等しい話。ホウエン地方に伝えられる神話において、本流から外れた傍流の神話集――ホウエン神話断章にて語られし『大地の女王』の御業。

 

(「宝珠(たま)造り」の伝説。『力ある石』より人と神とを繋ぐ二つの宝珠(たま)を作りだした者、か……。或いは貴様(ディアンシー)を捕らえることが出来たのならば、我々の理想はすぐさま叶えられたのやもしれん)

 

 だが――

 

我々(にんげん)ディアンシー(貴様)なんぞの力に縋るつもりない。……大地(しぜん)を征するのは人の業。大地の化身(グラードン)を目覚めさせるのはあくまで我々(にんげん)の手でなければならない)

 

 マツブサははなからディアンシーの力など当てにはしていなかった。そもそも……

 

(我らの理想に貴様ら(自然)が賛同することなど有り得ない。我らの理想(文明)が行きつく先とは、即ち貴様ら(自然)の定めた秩序を破壊することも同義なのだから)

 

 故に(秩序を敷く者)の協力など得られよう筈がない。

 

(だからこその「紅い貴石」、だからこそのプロジェクト・AZOTH――貴様の手を借りずとも、我らは我らの手で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 座して見ていろ大自然。我らの科学(武器)は必ずや、お前の全て屈服させる。

 

(さあ、何処にある。プロジェクト・AZOTH最後の鍵……我らを超古代ポケモン(グラードン)へと誘う、導きの「紅い貴石(ルビー)」よ)

 

*1
無論、比喩的な意味である。吾輩に手は元々ない




祝え! 新たなる女王の誕生を!(預言者風)


はい、前回投稿より早2か月。BDSPが発売され、"キノコのほうし"がキノガッサの基本技に追加されたことに驚いております作者です。
ルビー・サファイアでの初登場より20年、とうとうキノガッサは造物主の軛より抜け出せたようです(めでたい)。

さて、当話を持ちまして地脈世界編は終了となります。
特にオリジナル要素多めの展開となりましたが、楽しんでいただけましたでしょうか。

次回は閑話という形で、主人公と別れた後のハルカの動向について書く予定です。
リアルが少々多忙ということもあり、また期間が空くかと思いますが、気長にお待ちいただければ。


以下、解説など。

・キノココ
 この物語の主人公。異世界からの転生者。"キノコのほうし"を目指して武者修行の旅を続ける一般通過風来きのこ。前世の記憶を持つ関係か、体内に人間の生体エネルギーを持っている……が本人はそのことに気が付いていない。
 彼自身は知りえないことであるが、人間の生体エネルギーを有することにより、実は共に戦うポケモンの成長速度を飛躍的に高める力がある。これはトレーナーに捕獲されたポケモンが、野生のそれと比べものにならない程早く成長するのと同様の原理。いわば歩く「しあわせたまご」のようなもの。
 しかし、上記の代償として彼自身の成長は通常のポケモンと比べて遅い上、さらに能力値が同レベルの個体と比較して劣っている。これは人間の生体エネルギーでは、ポケモンの持つ身体スペックを完全に発揮しきれないため。要は、エンジンに対して合わない燃料を使っている状態。
 彼が"キノコのほうし"を会得するまで、まだまだ時間はかかりそうだ。

・ディアンシー
 『大地の女王』。ホウエン神話断章において『蒼海の王子』、『星空の巫覡』と共にその名を讃えられる、煌びやかな地底の支配者。数多の結晶を操り、大地そのものを支配するとされる。
 彼女の持つ力、その正体は地脈操作。大地を流れる自然エネルギーにアクセスし、これを自由自在に操ることが出来る。彼女と敵対するということは即ち、ホウエンの大地全てを相手にするのと同義。因みにこの能力によって、彼女はトレーナーの介在なしでの任意のメガシンカが行える。
 まず間違いなく、『地脈世界』における最強の存在。陸に於いて比肩しうるのはそれこそ荒ぶる大地の化身(グラードン)ぐらいのものだろう。
 先代女王の時代はもっと地上に近い位置に居を構えており、人間とも交流があった。その際に彼らの頼みを受けて人と神と繋ぐ二色の宝珠を作り出したという。

・ヨノワール
 「ほうせきの国」を襲った大敵。マグマ団が有する切り札の一つ。凄まじい実力で主人公とお転婆姫(即位前)を圧倒した。
 個体としての強さならば四天王の手持ちにも引けを取らない超級の実力者。マグマ団にとってもそう補充がきかない存在であるため、不測の事態に備えてディアンシー捕獲作戦においても当初は突入せず待機するよう命令されていた(これは当初ヤミラミたちだけでも作戦遂行が可能と判断されていたからでもあるが)。
 が、ディアンシーたちの奮闘の結果、想定外のスピードでヤミラミたちが壊滅し、また「ほうせきの国」周囲に満ちる自然エネルギーの影響で電波障害が発生したために新たな命令が届かず、結果作戦規定に従って突入するという、戦力の逐次投入のような形となってしまった。
 それでも当初はその圧倒的な実力で主人公とお転婆姫(即位前)を敗北寸前まで追い詰めたが、流石にお転婆姫(女王モード)(メガディアンシー)には敵わず敗北。ボコボコにされ取っ捕まった上に、侵略の罰として「ほうせきの国」への奉仕が強制される。
 ブラック企業(悪の組織的な意味で)からブラック企業(労働的な意味で)にスカウト(強制)された彼の明日はどっちだ。

・「ほうせきの国」
 ホウエン地下に広がる大空洞、通称・『地脈世界』に存在する「国」。なお便宜上「国」と呼称しているが、その実態は女王であるディアンシーを中心としたメレシーたちのコロニーであり、人類が想像する「国家」とは在り様が異なる。本編時点では主人公がディアンシーに案内された結晶空洞に居を置いている。
 本編においても語られるようにこの結晶空洞は「ほうせきの国」先代女王が地脈操作の力を用いて意図的に作りだしたもので、内部はメレシーたちにとって理想的な住環境となっている。『大地の女王』はこの"都"によって群れの安全を確保し、同時にその地を自然エネルギーの結節点として『地脈世界』の全てを支配するのである。
 また、結晶空洞には『地脈世界』を統べる都としての機能の他、もう一つの重要な役割がある。それは次代女王を保護・養育する揺籃としての役割である。
 この結晶空洞は地脈=大地を流れる自然エネルギーを塞き止めることで、内部を常に高密度の自然エネルギーが満ちる状態となっており、次代の女王たる個体(姫)は空洞内に満ちる自然エネルギーを吸収しながら成長し、やがて成体となって『大地の女王』の力を継承、新たなる女王となる。即ち、この結晶空洞はディアンシーにとっての、言わば子宮なのである。

・『大地の玉座』
 結晶洞窟中央に座する巨大な紅い結晶体。先代女王の遺志によって悪しき者を遠ざける「ほうせきの国」の護り。この結晶ある限り「ほうせきの国」は不滅だとされる。
 その正体は先代女王の遺骸が変じた、歴代女王に受け継がれる「力」の結晶。ディアンシーの半身とも言える「宝玉」――ディアンシナイトを核として形成され、内には先代を含む歴代女王の"記憶(けいけんち)"と莫大な生体エネルギーが存在している。
 結晶空洞を子宮と例えるならば、こちらは言わばへその緒にあたる存在。大地より自然エネルギーを汲み上げ、経路(パス)を通じて少しずつ流し込むことで次代の女王たるディアンシーを成体へと成長させる機能を持つ。そしてディアンシーが成体=力を受け継がせるのに相応しい器を得た時、自身に蓄えられた"記憶(けいけんち)"と生体エネルギーの全てをディアンシーへと継承し、砕け散る。
 『玉座』より力を継承したディアンシーは新たなる『大地の女王』(メガディアンシー)へと変生(成長)するが、その際に歴代女王の記憶から力の使い方や戦闘方法を学ぶため、継承時点で既にポケモンとしての実力はほぼ完成している。メレシーたちが姫たる個体にバトルなどの指導しないのもこれが理由。態々それほど戦いに優れた存在でもない自分たちが指導するよりも、女王の記憶を受け継ぐまで揺籃に留め置く方が効率が良いため。最も、当代の姫たるお転婆姫は未成熟の身で揺籃内を飛び出すというとんでもないことをやらかしたが。
 ……本編時点においてお転婆姫(当代のディアンシー)は、まだ力の継承に耐えられるだけの器を有していない文字通りの未熟な状態であった。
 しかし、(トレーナー)との特訓やハガネール、ヤミラミ、ヨノワールとの戦闘によってお転婆姫は急成長、一挙に成体へと近づく。それでも継承に至るには僅かに器が足りなかったが、たまたま手に入った人間の生体エネルギーを用い、メガシンカのメカニズムを踏むことによってお転婆姫の器を一時的に拡張、その間に力を流し込むことによって器の状態を固定させることで継承に耐えられるだけの器を作りだした。その結果、本来よりかなり早い段階での女王戴冠が叶ったのである。
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