こういうウマ娘もいるだろうな、と。

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負け犬達の夜

 私はウマ娘である。名前はまだない。

 いや、あるにはあるけど、知名度という意味で、である。

 これでも一応、中央のトレセン学園に通う事が出来るくらいには実力はあるのではあるが。

 ただまあ、中央のトレセン学園は全国から有力なウマ娘ばかりが集まるので、その中で考えると芽が出てないというかなんというか。

 ぶっちゃけると、生徒会の皆さんやBNW、怪物等とあだ名される方々と比べるとどうしても一段二段、格が落ちるくらいの実力しかなかったのだ。

 更に言えば黄金世代とか呼ばれてるウマ娘達と同世代なので、お察しも良い所だったりする。

 メイクデビューもしてるし、何ならGⅢまでなら何度も入賞してるし、GⅡだって一度だけだが一着を取った事もある。

 でもGⅠは駄目だ。ゲーム風に言うならネームドのウマ娘達の誰かが確実にかっさらっていく。

 私と同じ世代だけで五人も格上がいる上に、一位を取れないまでもGⅠ常連というよく考えれば頭のおかしい連中達もそうだし、上下世代にだって有力なウマ娘達はいる。

 そんなGⅠ級ウマ娘達が何人も揃って競い合うのだ。

 今まで以上にURAは隆盛を極め、ファン達も盛り上がり、スター達は輝いていく。

 そして、だからこそ、

「元気でね」

「……うん」

 私はまた一人、共にトゥインクルシリーズを駆けたウマ娘を見送るのだ。

 時間帯としては既に放課後の練習時間は過ぎ、そろそろ寮の門限も近くなる頃合いだ。

 正門にて私は手荷物を持って遠ざかる、制服姿ではないウマ娘の背中を見つめていた。

 これで何度目だろうか。とうに片手の指の数は超えてはいる筈だ。

 なんてことはない、特に私の世代ではよくある光景の一つである。

 光あれば闇もあるように、輝くウマ娘がいればその陰で散っていくウマ娘も、当然いるのだ。

 特にこの世代は近年稀にみる程のスターウマ娘が多くいる世代。その分、人知れず去っていウマ娘も多かった。

 いつもそうだ。最後に見る彼女達の背中は、実際の背中よりも小さく見える。

 この世界は文字通り競争の世界である。追いつけないのであれば、結果を出せないのであれば、ターフを去るしかない。厳しいが、それが現実なのだ。

 果たして、今去っていった彼女は、泣いていただろうか。

 少なくとも私に涙は見せはしなかった。けれど、その肩が震えていたのは見逃さなかった。

 今まで見送ってきた彼女らもそうだ。実際に涙を流したかどうかに関わらず、胸の内では泣いていただろうと思う。

 悔しさをバネに立ち上がる、そしてどん底から結果を出せるウマ娘がどれだけいるだろうか。

 それは長く険しく駆け抜けるのが困難な道だ。そんな事が出来るウマ娘なんて、それこそ輝き続けるウマ娘よりも少ないだろう。

 そんな事は普通は出来ない。無理だ。だからこそ夢破れ、何も残らなかった彼女達は離れていくしかなかった。

 見続けた背中が風景に溶け込み見えなくなったところで、私は寮へと足を向けた。

 誰にも顔を合わせず、玄関を抜ける。

 談話室の方からは明るい話声が聞こえるが、今はその場に顔を出すような気分ではない。

 そのまま自分の部屋に辿り着き、鍵を閉める。

 そこで張っていた気が緩み、フラフラとした足取りとなってベッドにそのまま倒れこんだ。

「…………ハァ」

 レースを走り切ったのとはまた別の倦怠感が私を襲う。

 見慣れた光景、何度も体験した事、ではあるが、でもそれに慣れてしまう程、心が擦り切れてしまった訳でもない。

 だから胸が痛むし、視界が滲んだりもするのだ。

 同類相憐れむ、という言葉が合うような境遇の仲間が一人、また一人と消えていく現実。

 半身を起こして今日から一人部屋となってしまった室内を一瞥したら、また溜息が出た。

 先程去っていった娘も私とあまり変わらない成績ではあったが、それ故に心が折れた。

 私もあの子も、そしてもっと前にいなくなったウマ娘達にも、いくらでも逃げ道はあるのだ。

 地方のトレセンに転校しそこで走る。中央とはレベルの下がっているそこでなら、自己満足、承認欲求を満たせる成績で過ごす事も出来るだろう。

 はたまた走るのをやめて別の道を行くのも良いだろう。まだ学生の身の私たちだ。モラトリアムだってなくはない。

 彼女が選んだのは後者よりの選択だ。

 他にやりたい事が見つかった訳ではない。でも、少なくとも、もうここにはいられなかったのだ。

 そしてそれは大半の出ていく彼女達の選ぶ選択肢でもある。

 何をするにも、一度何かに諦めてしまった心を癒すのには時間がいるのだ。

 でも、それでもそれは次へ進むために必要な事なのだ。どんなに時間がかかろうが、大事な過程なのだ。

 翻って私はどうだろう。

 一番を目指してもそれが手に入る事はないと理解してしまっている。

 諦めるにしても、中途半端な実力に縋ってしまっている。

 どっちつかずの中途半端。どの道を選ぶにしろ、最初の一歩を歩むことが出来ない駄目ウマ娘。それが今の私だ。

 窓の外、仰ぐ夜空には、強く光る月がある。少しだが雲もある。それに僅かな数の――

「……ああ、星が遠い」

 未だ、私は星を掴むことが出来ない。




なお、談話室にいたのはスターの皆さん。
顔を出してたら心が壊れていた。寮長だとしてもアウト。


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