私にはウマ娘の友人がいる。
その子は小さい頃から頭がよく、勉強もそうだがそれ以外にも、少しの助言で相談してきた相手の悩み(思い返せば他愛のない事ばかりだったが)を解決したりとか、そういうことが得意な子だった。
ウマ娘として脚の速さはどうだったかというと、絶対的な速さは無かったものの、子供ながらに上手いレースをして勝利を掴む、所謂技巧派と言うやつだ。
性格的に見ると理性的ではあるものの、他のウマ娘と同じくヒトと比べて負けん気の強い面がある。
そんな彼女と友達としてずっと一緒にいた日々は、とても楽しい思い出だ。
そしてそんな魅力的な彼女だからこそ、こう言い出すのもある意味必然だったのだと思う。
「私、中央のトレセンを受験しようと思うんだ」
特に何もない昼休みの教室で、なんでもない日の出来事だった。
「そ、そうなんだ。頑張ってね」
「うん? 反応が良くないなぁ」
「驚いてるだけだよ。急に言うからさ。応援してるって」
「ありがと」
そうやってはにかむ彼女に、私はちゃんと笑みを返せただろうか。
それまでに彼女の優秀さに嫉妬したことがないといえば嘘になるが、そんな事すぐに忘れてしまうくらい、私にとっては大事な友人だった。
だから、彼女が私の側を離れようとするのが辛かった。
勿論彼女のほうに、そういった考えは微塵もなかっただろう。
ずっと友達でいるつもりだろうし、私もそのつもりだったし、事実、大人になった今でも付き合いはある。
でもやっぱり、その当時は寂しかったのだ。
そんな私の感情を知ってか知らずか、後に彼女は見事にトレセン学園の入学試験に合格。お祝いパーティーなどしつつ、私のもとから旅立っていった。
私といえば、そのまま地元の学校に進み、いつか彼女の活躍を見るのを楽しみにしていた。
私達は時々連絡を取り合って、たまに顔を合わせてお互いの事について語り合った。
私にとって彼女の語ることは全てが別世界の話だった。
全国各地どころか、中には海外からもやってくる個性豊かなウマ娘達、それが二千人近くも集まれば一筋縄ではいかないのだそうだ。
それを彼女は会う度にいつも面白可笑しく語る。
実際楽しくはあるのだろう。学校としては何もかもが規格外のところだ。人が多ければそれだけイベントに事欠かない事だろう。いわんやウマ娘ともなれば。
特にメイクデビューを果たした時なんて、今までにないくらい二人ではしゃいだものだ。
しかし。
『また負けちゃった……』
その言葉を電話口で何度聞いたことだろう。
デビュー以来、彼女が一着を取ることはほぼ無かった。
彼女の実力が全然足りないという訳じゃ無い。
なんだかんだで何度も重賞に出走出来るだけの力はあるのだから。
しかし、運悪く枠番やレース展開に左右されたり、そうでなくても彼女以上に脚が速いウマ娘がいたりと、どうにも三女神様とやらに好かれていないのではと思う程、先頭を逃し続けていた。
それに、まともにトレーナーが付いていないとも言っていた。
最初の選抜レースの時に、それを新入生に言うことか? と思われることを不躾に言われたらしく、かなり憤っていたのをよく覚えている。
そのトレーナーとは、他の人とは縁がなかった(ここでも運の悪さが出ている)のもあってか、当てつけのように契約を交わしているので、それについては半分自業自得とも思わないでもないが。
それまで気付かなかったが、どうやら彼女は幸運というものに恵まれていないらしかった。
「なんというか、昔から幸運っていうのに縁がなくてさ」
本人は割りと幼い頃からその自覚はあったようで、だからこそ不運に負けないように、勉学や運動を頑張っていたそうだ。
「……そんな事、全く知らなかったな」
「うん、まあわざわざ言うことでもないからね」
「皆、あの子は才能がある! なんて言ってたなぁ」
「そんなことないよ。努力は、まあしてたけど。本当に才能を持った人達っていうのは、私なんかじゃ及びもつかないくらい凄いんだよ」
「………」
それはきっと、トレセン学園では吐き出せない弱音だったんだろう。
本来多かれ少なかれメンタルケアも担っているであろうトレーナーの不在。
同じトゥインクルシリーズを走る仲間にすら吐き出せない事だってある筈だ。
いや、そういった良きライバルすら蹴落とされ消えていくという現実。
そういう世界に押し潰されそうで必死に足掻いている彼女を見て私は、
「……頑張ろう、とも、諦めよう、とも、言わないよ私は」
ああ、私と変わらないんだな、と、近くにいて遠い憧れだった彼女に思うのだ。
「でも、ずっと側にいるよ。あなたが望む限りずっと。友達だもん、ね?」
私の言葉を受けた彼女は顔を伏せ、一言だけ感謝を述べた。
零れた涙は、見なかったことにした。
負け犬ちゃん、最後のレースを走るまでは無冠の帝王とか言われてたかもしれない。
友達ちゃんはヒトムスメ。