・次の文章を読み、以下の問いに答えよ。
一日(6.02×10²³)の(6.02×10²³)乗時間勉強(一日10の14杼3153垓1708京7700兆乗時間勉強)によって無事東京大学理科七兆六千二百五十五億九千七百四十八万四千九百八十七類に合格できたグーゴル=グラハム=リヴァイアサン。彼は、宇宙が生まれては消えるサイクルを、想像を絶する回数繰り替えしても足りない時間だけ勉強し、ようやく東京大学理科七兆六千二百五十五億九千七百四十八万四千九百八十七類のスタートラインに立てたことに歓喜した。
……しかし、本当の地獄はここからであった。
東京大学理科七兆六千二百五十五億九千七百四十八万四千九百八十七類のキャンパスは東大の地下200mに存在するが、キャンパス全体が10台のETA-α、すなわちアインシュタイン時空間歪曲装置α)によって制御されており、外部と比べて10¹⁰⁰倍(1澗無量大数倍)だけ時間が延長されているのである。すなわち、外部で1秒経つごとに、東京大学理科七兆六千二百五十五億九千七百四十八万四千九百八十七類のキャンパスでは3.1709792×10⁹²年(3.1709792×1穣無量大数年)が経過していることになる。
東京大学理科七兆六千二百五十五億九千七百四十八万四千九百八十七類の学生は、入学から卒業までの(外部時間で)6年間を、地下300mにある学生寮で過ごすのである。原則として、外出は許されない(病院や店などの生活に必要な事物は、地下空間にある)。
しかも、学生は東大中央から、勉学時間の延長のため、カール=アウグスト永久時空間隔離断層(通称KAETSF, キーツフ、カエツフ)という個人用の時間延長装置を渡される。
KAETSFは、その名の通り、周囲の時空間を外部から完全に隔離し、時空間の「断層」を作ることで、相対的に時間を延長する装置である。機構上、理論的には、延長できる時間の長さに限界はない。KAETSFは、1グーゴルプレックスプレックス(10の10乗の10乗の100乗)世紀の使用でも全く機能に支障が出ないように設計・製造されており、使用が想定される範囲にて故障することはありえないし、もし故障しても、直ちに交換されるようになっている。
東大はKAETSFの使用を学生に強制してはいないが、これなしでの勉学は、人類に一人の、空前絶後の天才でない限りは不可能である。あまりにも授業とテストが多すぎる上、その一つ一つが極めて難解であるためである。ずばぬけて簡単な小テストである第一地理A小テスト(満点50点)であっても、1点を取るのに15年の勉強が必要である、といえば、難しさを解っていただけるだろうか(テストは一日につき平均125万6000回行われる。教科書は一ヶ月につき平均28万冊/人が消費される。)。
ゆえに、東京大学理科七兆六千二百五十五億九千七百四十八万四千九百八十七類の学生は、KAETSFを使用して尋常でなく時間を引き延ばさなければ日頃の講義を受けることすらままならない。グーゴル=グラハム=リヴァイアサンも、例にもれずKAETSFを使うことに決めた。
稀な天才がKAETSFを使う場合には、時間を1不可説乗倍(10⁴⁶⁵²²⁹⁷⁹⁸⁵²⁴⁷²⁰⁵⁵⁵⁵¹⁶³³²⁴⁷¹⁰⁹⁸¹²⁰⁶⁰¹⁶乗倍)引き延ばすのが定例である。しかしグーゴルはこれでは足りないことを悟っていた。下位の合格であったから、しっかり勉学に励まなければ、卒業どころか進級すらできない。
彼は延長時間を決めるにあたって、アボガドロ数(NA)にふたたび着目した。アボガドロ数は、概数で6.02×10²³(6020垓)となる、極めて大きな数である。受験の時は1日あたりアボガドロ数のアボガドロ数乗時間だけ勉強したが、こんな勉強時間では、間違いなく落第確定である。
であるから、グーゴルはアボガドロ数のアボガドロ数のアボガドロ数乗乗にあたる時間を、1日の勉強時間にすると決めた。もはや想像することすら決して許されないほどの長さになってしまったが、これだけ勉強すれば、上位で晴れて卒業できるだろう。
無機質なKAETSFに光る緑色のランプが、起動準備の完了を告げている。
茫漠たる不安と絶望が激しく渦巻く中、彼はひそかに決意を固めるのであった。
素粒子よりも小さな希望を、その胸中に抱いて。
問.グーゴル=グラハム=リヴァイアサンの一日当たりの勉強時間を、10の累乗で近似して求めよ。近似値に影響しない限りで、時間の単位は好きなものを使ってよい(プランク時間/マイクロ秒/ミリ秒/秒/分/時間/日/週間/ヶ月/年/世紀/千年紀/テラ秒/銀河年など)。log₁₀6.02=0.779596491、NA=6.02×10²³とする。
・解答
求める値は、(6.02×10²³)の(6.02×10²³)の(6.02×10²³)乗乗、すなわち6.02×10²³テトレーション3である。この数値は10¹⁰⁰とは比べ物にならないほど大きいことが自明であるから、SRAによる時間延長率である10¹⁰⁰(倍)は無視する。
以後、6.02×10²³をNAと表記する。また、aのb乗をa↑bと表記する。
NA↑NA↑NA=10↑log(NA↑NA↑NA)=10↑{(NA↑NA)×logNA}……①
ここで、問題文より、NA↑NA≒10↑{1.43153170877×(10↑25)}であるから、
①=10↑{(10↑1.43153170877×(10↑25))×logNA}……②
logNA≒23.779596491であるが、この数値はNA↑NAと比べると極めて小さいので、近似式を作る上では無視して構わない。
よって②=10↑{10↑1.43153170877×(10↑25)}
=10↑10↑1.43153170877×(10↑25)
以上から、求める勉強時間は、
10↑10↑1.43153170877×(10↑25) [プランク時間/マイクロ秒/ミリ秒/秒/分/時間/日/週間/ヶ月/年/世紀/千年紀/テラ秒/銀河年 など]。
カッコ内の単位のいずれか、もしくはその他近似式を成立させるのに影響しない時間の単位を付けていれば正解である。たとえば、「グラハム数秒」という時間の単位では、近似式が成立しなくなるため、不正解。
註:log1.43153170877≒0.155800972であるから、1.43153170877×(10↑25)≒10↑25.155800972としてよい。また、25.155800972≒10↑1.400638であるから、解答は10↑10↑10↑10↑1.400638(時間の単位)などとしてもよい。
註2:グラハム数は、G(1)=3↑↑↑↑3、G(k)=3↑(G(k-1)) 3 と定めるときのG(64)である。数学の証明に用いられた最も大きい数として、ギネス世界記録に登録されている。G(1)の時点で、本問で問うた数を遥かに超越している。
余談:NAをn回NA乗した数をN(n+1)Aと、10をn回10乗した数を10(n)と表記するとき、自然数nについて以下の近似式が成り立つ。
N(n+1)A≒10(n)*1.4315317×(10↑25)=10(n+2)↑1.400638
この近似式は、数学的帰納法によって証明できる。
余談2:本問で求めた値を指数表記や矢印表記を用いず、算用数字のみで書くとする。別宇宙から「紙」を持ってきて、1字を10個の原子で書くと仮定すると、この宇宙のコピーが1億個あっても書き切ることはできない。
この数は1の後におよそ10↑1.43153170877×(10↑25)個の0が並ぶ。観測可能な宇宙にある原子は10↑80個ほどであるから、一個の宇宙を使って書ける数の限界桁数は10↑79桁(1000億無量大数桁)である。これでは到底足りない。
たいへんお疲れさまでした。
キャンパスライフをじっくり、じっくりと、多元宇宙の全質量をひとつのブラックホールに押し詰め、そのブラックホールが蒸発し、それからポアンカレの回帰定理に従って新しいブラックホールができるまでの時間よりも遥かに長いあいだ、悠々とお楽しみくださいませ…………。