運命は先天的にお兄ちゃん子 ―歴代最少の契約者たち 転生先にて恩送り 作:yyuuss
プロローグ
今日の夢も昨日の夢もやけに具体的に覚えている。どこか日本とは似つかわない場所で年の近そうな仲間らしい人々と歩いていた……。青髪碧眼の少女もいたし、凛としたシルバーグレーの髪色の少女、あとはその子たちの監督的立場なのか大人も一人居たような……。夢だから所々曖昧だ。
昨日の夢では仲間たちとたくさんの場所を回った。真っ白い街の街並みや穀物地帯で黄金色に揺れる収穫間近の作物、湖から昇ってくる太陽。夢の中だけど実に風光明媚で感動したものだ。あと炒飯も食べていた気もする。
今日の夢では昨日の夢とは一転して嵐の中と思うほどに暗い空の下を自分たちは励ましあいながら進んでいました。その中でも時々ポツン、ポツンと点在する村で何故かは分からないものの応援されたときには凄く心が温まったものだ。
しかし、急に目の前が真っ暗になったかと思うと走馬灯がよぎるかのように頭の中にたくさんの景色が流れ込んできます。そうして気がついたらまたベッドの上。
こんな夢が連続して起こるとは何かのフラグが立ったのでしょうか……。
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「あー、進展性のない生活だこと。面白いことでも何かないもんですかねー」
と呟いてみるも無論何も起こりもしなければ、今実際に問題が起こっている訳でもない。
「まぁ、それもそのはずこの家には自分一人しかいないんだからな」
何とも寂しい限りであるのだが、その一人芝居をする彼は鏑木深生(かぶらき みお)という。現在彼は大都市にある私立高校に通う17歳になったばかりの高校2年生である。彼はルックスではまぁイケてるのだが、それ以外は不器用さゆえになんとも残念である。こういう高校生はどこにもいるかもしれないが、彼もまたしがない高校生に過ぎない。
そしてその学生生活も今は夏休みという天国状態。将来設計をしっかりしている世の高校生ならば夏休み期間はまじめに勉強をしてうつつを抜かすことはないだろう。しかし、いつもの癖である面倒ごとは後回しスタイルを貫く深生は勉強にお構いなくまったりと過ごす予定だ。小遣い稼ぎのために仕方なく始めた夏休み限定のバイトと寝ること以外の時間は有り余っているというすなわち暇人、ということで深生は夏休みを満喫しているのである。
しかし、彼とて時間があるからって予定がないわけではない。今日は昼から友達である大学の同級生と会うことになっている。ただ、予定の時間まで暇なのだ。
家で特に何をするまでなく時間をつぶしたのち、自転車を漕いで二十数分、とある家のインターホンを鳴らすといつも通りの決まり文句が飛んでくる。
「よう、かぶらぎ。じゃなくて『かぶらき』だったか。ドアは開いてるから入っちゃって」
「柴田、お前相変わらず名前間違っているじゃないか。まぁ、上がらせてもらうぞ」
とインターホン越しに慣れた様子で柴田道士と話す。
柴田道士、少しだけ敬意を持って柴田君とでも呼ぼうか。その柴田君は深生と同じ高校の同級生である。去年学年初めの席順で隣であったことから仲良くなり、今年もなおクラスが一緒だったことから日常的によく話す機会が多い奴だ。
しかし、その柴田君というのもルックスがいい自分から見ても自分よりかっこいいはずなのだが、なにしろ「茨城」を「いばらぎ」と読むかの如く人の名前を言い間違えてくるのが問題どころだ。1年生の時になんともない名前の奴に対しても時々間違えているところを目撃して「こいつ単に名前を覚えてねえんだな」と驚きを通り越して呆れたこともある。実際に初めのうちは苗字だけでなく何故か名前も間違われていた分少しイラつく部分もあったが、下の名前を正確に覚えてもらった今はそれよりはましだ。柴田君いわく決してわざと間違えているわけではないらしいので、その付き合いも1年経てばその間違いが決まり文句としてもう慣れっこだし、むしろいつも通りで安心感がある。
「よお、深生。今日は俺より遅かったな、いぇーい」
「おう岩槻。今日はたまたまな、今日は。遅刻しないとは珍しいこともあるもんだ」
「おい鏑木っ、俺もいるんだ。気づいているよな? よなぁ……、」
「心配するな。気づいているさ湯霧。お前さんがそう聞くってことはどちらかには気づいてもらえなかったんだな……」
柴田の家におじゃまして彼の部屋に入ると、部屋の主である柴田の他に岩槻と湯霧の3人がえらく堂々とあぐらをかいてそこに居座っていた。岩槻と湯霧もまた深生や柴田と同じクラスであり、日頃からつるむことも多い。岩槻は運動系の部活に所属しており、根は本当にいい奴だが、なにしろ遅刻癖がひどい。見た目のゴツさから歩く体育系という二つ名を頂戴する奴だが、見た目と裏腹に気合や根性論とかは全く信じていないたちでありそのギャップから惚れる女子も多いとか聞く。
湯霧の方は比較的におとなしめで、頭が冴える。いかにもリーダー向きでは、と思うのだが、問題があり湯霧は影が薄く存在感がないらしいということだ。いまいちこの話が確証を持てないわけは普段から毎回深生には湯霧の存在が目に入り、一回も気づかなかったことはないからである。なので、深生は湯霧にことあるたびにちゃんと見えているか聞かれるが、その度に見つけてもらえないぐらい影が薄い奴ってこの世にいるんだな、と解釈することにしている。
その4人でわいわいがやがやと高校生ゆえのたわいのない話で盛り上がること数時間、岩槻も湯霧も予定があるとかないとかで帰ってしまい現在夕方前。深生と柴田の2人も解散しようというところ柴田に相談されるが、多分日程関係だろう。
「鏑木。明後日の昼にでもまた俺の家に来ないか?お前さんはどうする、来るか」
「もちろん行くぜ。昼は柴田が作ってくれるんだろう?それなら、なおのこと行くっきゃないだろう」
「来るか来ないか聞くまでもなかったか。じゃ準備もあることだ、11時ぐらいに来いよ。明日も教えてやる。」
彼、柴田はルックスがよいだけでなく、料理屋の一人息子であり料理の腕も確かだ。その上、将来の夢のために料理を作ってはただでふるまってくれる。その柴田の料理が食べられるのであれば断る理由など見当たらない。なんなら今日の昼もご馳走になりたかったぐらいだ。
一方で、残念な深生は料理もまた不得意であって、切る、焼く、茹でるといったなかでも簡単な工程しか自信を持って出来ない。料理スキルは月とすっぽんほど差があり、柴田の料理の能力はつくづく羨ましいレベルであった。負い目はあったが相談したところ気兼ねなく応じてくれたどころか、深生が1人で家に遊びに行くときに彼が直々に教えてくれることになった。つまりはいい奴だ。
「しかしよ、こうお前とこんな関係になるとはな。大事なものを共有できる仲間っていいよな」
「おい、ほかの奴にでもこんな関係とか聞かれたときにはおめぇ勘違いされる」
「俺らと違って確かにあいつらには転生もんの魅力は伝わらなかったが、勘違いはされてないだろ。それにほかの奴には言わねぇし」
「いやいや、勘違いって『こんな関係』とか『大事なものを共有』とかの言葉の方だ。高校生なんてまだガキなんだがら気を付けないと変な噂がすぐにでも立ってしまうぞ。まぁ、オタクに代表されるような秘密事なんぞ誰の間にも一つや二つあるだろうが」
深生の言う二人の間にある秘密事とは他ならぬ転生ものへの情熱、いうなれば愛である。そう、深生は転生ものの話が大好きであり、柴田もまた転生ものが好きなのだ。この共通点が単にいくつかの講義が同じであるだけの深生と柴田の2人の絆を育むには十分である。
また、理由はそれだけではない。この話にあるように以前深生と柴田の2人が転生ものの話の面白さ、素晴らしさを同級生に語ったことがある。しかし、努力むなしく転生ものの魅力は伝わることはなかった。ただ「オタクだからキモい」みたいに拒絶されるような理由ではなく、これは実際のところ、何ともまぁつまらない授業の直後でみんな正気じゃなかったからなのだが皮肉なことにこの事実を2人は知らない。とにかくこの一件以降二人は公衆の前で口には出せなくなってしまったが、代わりに今までよりもよく会う間柄に昇格したのは間違いない。
「昼飯がどんなんか気になるが、それよりもストーリーとやらはどんな感じなんだ?」
「それを言っちゃ面白味に欠けるだろう。一つ言うとすれば今回は精霊が出てきたり……とかな。本当のところ内容をよく知らんのよ」
柴田と二人きりで会うときは必ず映画やアニメや漫画を見るなり読むなりして楽しむことをモットーとして今日のような省略しがいのある無駄話はしないことにしている。ただ、ネタバレはつまらないとかで柴田は知っていてもどんな内容かは教えてくれない。ちなみに深生は話の内容を頭に入れて見たい派なのでネタバレ歓迎なのだが。こういう人もいるよね。
「ほぉう、精霊とは一体どんなやつか楽しみだ。ねぇ柴田さん、実際よくある話の展開みたいに転生とか本当に起こらないものですかね」
深生も当然転生というイベントが夢のまた夢であることは理解しているが、こういう話をする時は憧れの気持ちも大きい分、ごく自然に転生したいと常日頃からよく口に出している。
いつも通りならばすぐに無理だよなとため息交じりに苦笑いを浮かべる柴田であったが、今日はどういうわけか考え込んでから意を決したのか、長いこと付き合っている相棒の如く自身の考えを返す。
「俺が言うのもなんだが……、いや親友として言わせてもらう。深生、お前は少し夢を見すぎているようだな。確かに転生みたいなのが実際に体験できるのなら俺だって喜んで進み出るだろうけどよ……、現在進行形で時が巡って、俺もお前も……、……ほかの奴だっているこの世界の日本での生活も楽しいものじゃないか。深生もよ、こう……、そうだな……やっぱそういうのは妄想上にあるから……想像できていいんじゃないんかい。少し冷静になれよ」
柴田は決して人を馬鹿にするタイプでないのは付き合い上知ってはいても、急になだめられて冷静になれとでも言われてしまうと一時的でもやはり傷つくものである。しかもまさか柴田にそう言われるとは。ただ、どうも先程の柴田の発言が申し訳なさそうな歯切れの悪そうな言い方であったのは気になる。
「夢を持つのは構わないし、やりたいことがないと人生はつまらなく進んでしまう……。だがな、時には叶わぬ夢とは離別して現実的に考えて動くことも必要なんだ。分からなくともないけどよ、転生への過度な憧れについてはちょっと家に戻って落ち着け。とりあえず夜のうちにでも寝とくなりのんびりしておけば治るだろうよ、今日は帰りな」
「おい、そこまで怒ることもないだろう……。憧れは大きいけどよ――」
「深生。怒ってはないから帰って寝ろ。明日またうちに来い」
追い打ちをかけられショックを受けた深生は外に出た。こちらの街で一番の知り合いとも言っていい柴田との言い争いは端から見れば不毛だと罵られるかもしれないが、当人同士、特に深生にとっては相手も相手ゆえに不名誉ながら非常に重要な意味を持つのだ。
「はぁ~」
柴田の家からぼーっと自転車を漕いでいるうちにあっという間に自分の家に到着したと錯覚するほど深く悩みこみながら一つ溜息をつく。部屋の鍵を開けるなり手洗いの習慣をも忘れ、ベッドへ一直線に飛び込む。
「はぁ。柴田も何しろそこまで言う必要ないんじゃねーか。まぁ、確かに『芸能人になる』とか『定年退職して残りの人生のうちに世界一周旅行する』とか『宝くじ1等当選』みたいな可能性は明らかに低いけどゼロではない夢とは違って、転生なんてもんは叶いっこない願いなんだよなぁ。奴も真面目すぎるだろ」
帰ってきてそうそうにベッドに身を放り出してはまた溜息をつく。時間が経つにつれ冷静になる頭に現実を重くのしかかって余計にしょんぼりとうなだれる深生であったが、後悔しまくっても重く負担になるし、普通に後悔することさえも面倒とて切り捨てつつもそれでも転生できる見込みがないものかとあーでもない、こーでもない、とぐちぐち呟きながらお気楽モードの深生自身が考えるに行きついた結論。
「大概こういうのって普通に寝て、目が覚めて起きたら勝手に転生後の世界へ、みたいな……。あり得る。ああ、それを狙おう。まぁ、ワンチャンあるっしょ」
なんとも浅はかなことだが、深生は昔からお気楽な性格である意味慎ましいようだ。そして、そんな期待をする深生が次にとる行動は考えるまでもなくおのずと決まってくるのであって、つまり深生は夕暮れ時に愚かにも寝ようとするのである。
夜寝れなくなりそうとか、内心駄目かも……とか頭によぎってきたが、ネガティブ思考とはおさらばだ、と振り払うことにし、転生への希望を胸に深生は眠りにつく。
無論、夜更かし確定コースに進む深生を誰も止めることは出来なかった。
作品紹介にある「記憶の鮮明化」は都合上しばらくのうちはあまり表立っては出てきませんが、第2章の終わりごろから利用頻度が高まってきます。
これでプロローグは終わりです。次話からは異世界での話に入ります。
皆さんが読む分には一話あたりどれぐらいの文字数がいいですか? これからの参考にします。
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